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歌に乗せる想い。
歌に乗せるのも良いけど、伝わりづらい

「百人一首って知ってる?」
晩御飯でみんなが揃うときーちゃんが言った。
冬休み明けに授業でカルタ大会するから覚えなきゃいけないんだって。
「どうやって覚えたらいいー」ときーちゃんは半べそかいてるけど、私、百人一首って言ったら「坊主めくり」しかしたことないわ。
「その問い、百人一首というカルタを知ってるってことなのか、百人一首の歌を全部知っとるかってことなのかを言うた方がええで。キリコは絶対坊主めくりしか知らんでwww」と笑う旦那。
失礼ね。まあ、坊主めくりのツールくらいの認識だけども。
そういうあなたは知ってるっていうのかしら。
「かくとだにえやは伊吹のさしも草 さしも知らじな燃ゆる思ひを」
みんな一斉に真ちゃんを見たよね。
だっていきなり呟くんだもん。
「真ちゃんそれなに?」
思いっきり周りにハテナを飛ばす私ときーちゃん。
「百人一首」と飄々と答えるけど、百人一首ってそんなにサラッと出るものなの?
新しい真ちゃんを見た氣がする。
着付けもできるし十三参りも知ってたし、百人一首とか源氏物語とか…そんなの詳しいように見えない男子みたいなのに意外だわぁ。
真ちゃんも学がなさそうなのにね。←失礼。
「真ちゃん、全部覚えてるん?100個やで??」とテンション上がるきーちゃん。
「パッと出ない歌もあるけどなー」と笑って返してるけど、凄くない?
「私も1個覚えてるで!『夜をこめて 鳥のそらねは はかるとも よに逢坂の関はゆるさじ』」
どやさっ!と効果音が付いてそうなドヤ顔のきーちゃんの言葉を聞いてビールを噴きそうになってる旦那。
どうしたのよ、やめてよね。
「他には?他には?」
「君がため をしからざりし 命さへ ながくもがなと 思ひけるかな」
きーちゃんの「他には?」攻撃にいとも簡単に答える真ちゃん。
マジすごくない?
「真ちゃん、これじゃ読めへんから覚えられへん…」
食後の晩酌タイム。
百人一首をひとつでも覚えようってことで、真ちゃんはカードに歌を書いていくけど、達筆な草書。
うん、私も読めない。
「あ、そうか」と言って書き直す真ちゃん。
確かに普段書く文字も綺麗に書く子だけど、ホント何者?
付き合い自体も長いし、一緒に暮らしはじめて1年以上経つけど、時々真ちゃんは何者なのかと思うわ。
「なんで2枚なん?」
「読み札と取り札やな」
「????」
「下の句だけ書いてるのが取り札やな」
毎日いくつかだけ覚えて最終的にカルタとして使えるように。だって。
「真ちゃん百人一首持ってそうなのにね」
食後、「ちょっと待ってて」って部屋に行った時持ってくると思ったわ。
「さすがにここにはないわ。実家やったらあるんちゃう?」
実家にはあるのね。
「なぁ、なぁ、すてふって誰?」
真ちゃんの書いた読み札を指さすきーちゃん。
ステフ?
きーちゃんの言葉でフルハウス(アメリカのドラマ)の女の子が浮かぶ。
なんで外人さんの女の子が百人一首に出てくるのよ。
きーちゃんの指さすカード。
春過ぎて 夏来にけらし 白たへの 衣ほすてふ 天の香具山
何処にステフが居るの?
「ステファニーやなくてやなwww」
真ちゃん、なにが面白いのか謎だけども。
「干す『ちょう』って読むねん」
「蝶々?昔は蝶々ステフって名前やったん?」
大人組爆笑。
確かに派手派手しい蝶々は外人さんみたいな華やかなイメージあるけど。きーちゃんの想像力、豊か過ぎない?
「ちゃうちゃう。これは『夏が来たぜ!山の緑が綺麗やし洗濯モンがよく乾くでサイコー!』って意味でな…」
笑いながら解説する真ちゃん。
百人一首って恋の歌集めたものって聞いた氣がするけど違うのね。
「なんかワクワクしてくる歌だねー♪私も洗濯ものがよく乾くから夏好き!!」
きーちゃんは氣に入ったみたいで、その歌の書かれたカードを大事に見つめて何度も復唱していて可愛い。
今日は3つ覚えてきーちゃんはお風呂へ。
新学期まで1日3つで間に合うの?と思いつつ、まあ授業のカルタ大会だしある程度でいいのか。
「真ちゃんってホント何者なの?」
マハルにミルクをあげながら、旦那とビールを飲んでる真ちゃんに言ってみた。
「何者ってどういうことやねん」と笑って返されるけど。
「百人一首とか普通すぐに出てくる?」
「一般教養的なもんですよ」
私に一般的な教養無いみたいじゃないの。
「まあ、普通真っ先にあの歌は出さんわな」と苦笑いの旦那。
あの歌ってどれよ。
「たまたまや」と笑って真ちゃんは寝ると言って部屋に戻ってしまう。
何なのよ。
ってことで旦那に追及。
「一番初めのやつ」
初めのやつってどんなだっけ?
「『かくとだにえやは伊吹のさしも草 さしも知らじな燃ゆる思ひを』やな」
よく覚えてたね。
「それが真っ先に出たら変なの?」
「まあ、聞き手によってはなぁ」と意味深な苦笑いをする旦那。
なんなのよ。
「R指定かかっちゃう歌なの?」
「なんでやねんwwwそしたら授業で百人一首出来へんやろwww」
ああ、そうか。
「じゃあなんでよ」
「『こんなにもお慕いしていることをあなたに言えようか。いや言えるはずもない。だからあなたは私の本当の想いをご存知ないだろうね』かな」
ん??
ちょっと待って。
「シレッと告白しちゃってる系やん」
「まあ、そうやな」
真ちゃんがきーちゃんの問いにこの歌を返した。
確かに意味深だわ。
「きーちゃんの覚えてるって言ったやつでなんでビール噴いたのよ」
「あれ誰の歌か知ってる?」
知ってるわけないじゃない!はじめて聞いたっての。きーちゃんがひとつでも覚えてるのがびっくりだったよ。
「あれは清少納言」
「枕草子の?」
「そうそう。真弥のよんだのが藤原のなんちゃら朝臣でな」
なんちゃって部分が意外と肝心なんじゃないの?いい加減ね。
「なんか関係あるの?」
「その歌そのものを清少納言に送ったんじゃ無かったと思うけど、その藤原のなんちゃら朝臣は宮廷のモテ男で清少納言との恋で有名やったとか違ったかな」
あら!そうなの?
「けどきーちゃんが言うてたのは『私、そんなに軽くないんで!』って牽制しとるのやったから上手いことなっとると思ってなwww」
きーちゃんが意図的に清少納言を出してきたわけじゃなさそうだけど、確かに上手いことなってるね。
「お父さん的には複雑なんじゃない?」
多分、私ニヤニヤしちゃってるわ。
『お父さん』の前で堂々と告白しちゃってる系な歌をよまれたらねぇ。
最近お父さんな旦那からしたら、内心穏やかじゃないんじゃないかしら。なんて思ったけど「全然」と返ってきた。
あら、つまらない。
『ウチの可愛い娘に手を出すな』ってぶん殴るベタな展開を期待したいのに。
「だってきーちゃん全くその意図に氣ぃついてへんかったやんか。空回りしとるwww」
確かに空回りだわ。
想いを伝えようとしたのかは定かじゃないけど、もしそうならちょっと素敵じゃない。
まったく通じてなかったけど。
なんだか、真ちゃんをホンキで応援したくなって来ちゃったわ。
って、きーちゃんはまだ中学生だし、もう少し大人になるまでお預けしてもらうけどね。
ちなみに旦那がなんでそんなに詳しいのかを聞いてみたら、義父(旦那のおとうさん)の影響らしい。
義父は書を嗜んでいて色んな句だったり歌を書いていて、小さい頃から書いたものの背景だとか意味を教えて貰ってたから覚えてたんだって。
我が旦那ながら、意外だったわ。


「君がため をしからざりし 命さへ ながくもがなと 思ひけるかな」
今思うと、この歌を「他には?」ときーちゃんに聞かれて藤原実方朝臣の歌の次に出てきたのは、当時真ちゃん本人がこの数年後のことを想定もしてなかったとは思うけど、切なくなってしまいます。
と同時に、きーちゃん達のエピソードひとつひとつが絵になるというか素敵だなーと思います。
私達夫婦のエピソードって、どっちかといえば笑いの方に行ってしまってロマンチックとは程遠いからなー。女子的にはちょっと羨ましい。笑