Story 68.リトリート。

オーナー宅滞在2日目。旦那は久しぶりにお店の手伝いをして楽しそうだ。「ヤバい!大変やで!」奥さんとお茶をしていると旦那が登場。血相を変えて言うものだから、またきーちゃんの具合が悪くなったのかと緊張が走る。「真弥から電話あってな」あの後、おばあちゃまがお仕事から戻ってすぐに報告をしたら、おばあちゃま達が反対するわけもなく話が一氣に進んだとのこと。明日会うけれどまず最初に私達に報告ということで連絡をくれたらしい。
秋に式を挙げると言うけど問題もあって、忘れがちだけど、きーちゃんにも家族があるわけで。その話をしたら、別にするなら構わないとだけ返事はあっだけど参列はないらしい。それを聞いて、きーちゃんの事が心配になって、きーちゃんに電話をしてみた。「やっぱりなーって感じ」とのんびりした口調で言う。「反対されてややこしくなるより全然オッケーかなって」結局、まだ学生だし正式な入籍は卒業後にして式だけ秋に挙げるという。「そっちが重要じゃないから」神さまの所できちんと挨拶して約束してくる方が大事。と言うけど、ふと中学校の卒業式のきーちゃんを思い出した。朝から待っていたけど、姿のなかった両親。きーちゃんはずっと小さい頃から両親の事を待っていたんじゃないか。

その頃、同級生の店でエステを自宅で経営をしてる人と知り合い、そこの手伝いをし始めたのがきっかけでヒーリングについてもかじり出していた。もちろん専門医ではないから詳しいことら知らないし診断ができるわけでもない。だけど、きーちゃんの記憶が不安定なこの状態は良い傾向とは思えない。仕事に出た時に、それとなくきーちゃんのことを話してみた。店長エミさん曰く、ストレスが過剰にかかると防衛本能なのか記憶障害が起きるらしい。
前に真ちゃんに普段のきーちゃんと小さいきーちゃんは多重人格みたいなものかと聞いた。それは、物語の中で読んだ『架空の設定』みたいなものだと思っていた。多重人格もまた、記憶障害の一部だそう。真ちゃんは「グレーなようなもの」と言った。それは『設定』じゃなかったんだ。
エミさんは想像でしかないと前置きしつつ、きーちゃんのような特別な感覚を持った子は社会に馴染むことは困難だろう、そうすれば嫌でもトラウマと言った精神的負荷は普通と言われる子よりも大きかったのではないかと言った。そして、負荷がかかり続ければ土台は崩れる。記憶障害はその負荷を減らすために自分自身の無意識のところで負荷を減らそうとしているのではないか。とも言った。あくまでエミさんの想像だと言うけど、納得した。負荷を減らすにはどうしたらいいかを尋ねると「専門家にかかるのが良いんじゃない?」と返答。専門家って受診するってことでしょ。先生は処方される薬できーちゃんの持ってるものは消えてしまうって言ってた。だから真ちゃんは病院ではなく連れて帰って来たわけで。先生は今までの感覚のバランスが崩れるって言ってたけど、きーちゃんは自分の力というか体質をどう思ってるんだろう。いや、だいぶ前におばあちゃまがきーちゃんの対処法をどうのって言ってたな。きーちゃんは真ちゃんたちの仕事を手伝って色々教えてもらってるって言ってる。それは対処法を学んで力を持っておきたいと思ってるから?それとも、真ちゃんたちの所にいる為?
ああ、混乱してきた。私が考えても仕方ないのはよく分かってるんだけどね。全て何が正解なのか全く見当がつかない。私は何をしてあげられるんだろう。

「それって、確定させなあかんわけ?」いつものように、飲みながら旦那が言った。エミさんの所で話をしてきたことや、きーちゃんがどう思っているんだろうと思ったこと、考え出したら全てにおいて分からなくなってしまったことを旦那に話した。「どれが正解か分からんやったら、どれでも正解違うん?それ決めるのきーちゃんやしな」あ、なんか良いこと言ってる氣がするこの酔っ払い。
きーちゃんは自分の記憶がまだあやふやになってしまうことがあって、自分自身も不安だしいつ自分が消えてしまうかも分からないと真ちゃんを心配させたくないからとも言っていた。でも、記憶が飛んでしまうから。という理由だったとしたら、きーちゃんは焦りすぎている氣がする。「真弥かて、きーちゃんが焦ってるからか本当に真弥と一緒に居りたいと思ってるか位分かっとるやろ」この酔っ払いとーさん、どうしちゃったの。「まあ、真弥に会ったら一発二発くらいボコすけどなw」ボコさないで。あなたが言うとシャレに聞こえない。
「こっちでアレコレと考えててもしゃーないやん」ごもっともです。「キリコが心配するのもわかりますけどね、これは決めたきーちゃんがどんな意味があろうが越えないといかんでしょ」全くもってその通りです。「なら、キリコは老婆心が捨てきれんやったらここぞの時に手を貸せばいいかと思いますけど。獅子は我が子を谷底へ投げるくらいですから。しばらくは荒波の中でどうするか、見ておきなさいな」ちょっと、お待ち。誰が老婆やねん、獅子やねん。
「正直な、最初キリコがなんでそこまできーちゃん、きーちゃん言うんか分からんかったわ」としみじみと言う旦那。「妹は欲しいってずっと言っとったけど、他人やんか。何でここまでするんやろって思っててんけどな、きーちゃん来てからキリコが変わったなぁと思ってな。その為にきーちゃんはうちらんとこ来たんやろうなーと」あら、私変わりました?「トゲトゲしいのが無くなった」私そんなに尖ってたかしら。「なんや、優しいなったわ。キリコはそんなに優しいんかって驚いた」と笑うけど、それまで私どんなんだったってのよ。「キリコ、凄いわって純粋思ったで」「その言葉は素直に受け取るわ」「その様子見て、ちゃんと先のこと考え出しましてん」それ、初耳かも。よし、飲みなさい。じっくり聞こうじゃないの。奥さんもとってもとっても氣になったみたいで私と奥さんと追及したけど、旦那はうまくはぐらかした。親の前だからって照れるなよ。笑今度改めて2人の時にじっくり聞き出してやる。

翌朝、オーナー宅を出て真ちゃん達の家に向かう。マハルは久しぶりにきーちゃんに会えると大はしゃぎだった。子供たちも大丈夫だと言ってくれたけど、本当に大丈夫なのかしら。車を止めるとおばあちゃまが顔を出してくれた。「もうすぐ帰ってくるやないかな?」きーちゃん達はお散歩に出ているとのこと。「じゃあ、お迎え行こうかな」「えー!マハルひいばあばと遊びたい!」独立心旺盛な長男よ…。ここは一緒に行く!じゃないのか。「ええよ、ひいばあばと遊んで待ってようね」とおばあちゃまはマハルとタマキを母屋に連れて行ってくれた。マハルはオーナーご夫婦をおじいちゃんおばあちゃんと呼び、おばあちゃまをひいばあばと呼んでとても懐いている。オーナーご夫婦もおばあちゃまもマハルがそう呼ぶことを嫌がらずに私達が訂正しようとすると「嬉しいから良いよ」と言って呼ばせてくれる。きーちゃんのこともそうだし、オーナーご夫婦、おばあちゃま達と居ると家族と言うのは決して血縁だけでは語らなくても良いんだと思う。それは、時々よぎる『常識』というものからくる不安を打ち消して『これで良いんだ』と自分の捉え方や選択を肯定してくれるようで心強く、そしてありがたいと思う。
「あ、やっぱりここだった」神社の石段を上がって参道を進むと、ベンチに座って並んで空を見上げている2人を見つけた。「あれ、何してん?」と旦那。「さあ、私に聞かないで」割と近くまで行ったのに氣付かない2人。大きく手を振ってみても無反応。私変な人みたいじゃない。「あ、、」目の前に立ってようやく真ちゃんが氣付く。「無用心やでw何してん?」「あーびっくりした。そんな時間経ってたんや」聞くともう30分ほどベンチに座っていたらしい。何してんの。きーちゃんはまだ空を見上げている。すぐ隣で会話をしているというのに全く私達に氣付いていない。この集中力よ。「きーちゃん!」と声をかけると全身で驚いている。ホンキで氣が付いてなかったのね。「何してたの?」「ぽけーっとしてた」何か実は意味のあることをしてたのかと期待したけどホンキで何もしてなかったようだ。きーちゃん曰く、真ちゃんと散歩する時はよくこうやってここでぽけーっとしているらしい。真ちゃん、本当にキャラ変わったね。こういうことをするタイプでは無かった氣がする。
家に戻るとマハルは大好きなきーちゃんを見てテンションが上がり大盛り上がり。私も旦那もきーちゃんに負担は無いかとヒヤヒヤけれど、きーちゃんは「大丈夫」とマハルと積み木をしたり粘土を出してきて遊んでくれた。「歳が近くなってホンキで一緒に遊んでるんやで」とそんな2人を見て笑う真ちゃん。まあ、当たってるんだろうけど、その言い方よ。
明け方にアキちゃん達との待ち合わせ場所に向かう。待ち合わせ場所は山の中のお屋敷。映画に出てきそうなくらいの雰囲氣がある。古民家だとか和風建築の建物が大好きなきーちゃんは言葉を忘れて見惚れている。「来たなー。おつかれー」とアキちゃんの声がした。アキちゃんとおばあちゃまくらいのお歳のご婦人が立っていた。「兄ちゃん、おばあちゃん!」2人を見るときーちゃんは走って行く。そしてきーちゃんをキャッチしようと待つアキちゃんではなくご婦人にハグするきーちゃん。それを見て旦那と真ちゃんは笑いが堪えられない様子。「おばあちゃん、元氣やった?遠かったでしょ?また会えて嬉しい!」ご婦人はきーちゃんに優しい眼差しを向けて抱きしめる。高校進学について助言をくれた方だろうと分かった。「ねーさん、おばあちゃん!でね、ねーさんと美樹ちゃんとマハルくん、タマキくん!」と紹介してくれるけど、真ちゃんを忘れてるよ。笑ご婦人は私達の前に立つと「きぃのパパとママね。会いたかった」と言ってくれた。外国語通じるか心配だったけど、何とか大丈夫そうで一安心。けど、何故旦那は普通に会話してるの。いつ覚えたのよ。「だって仕事で使うし。簡単な会話くらいは出来るで」と言うけど…そうなの?初耳よ?きーちゃんのパパとママですって。何だか嬉しいわぁ。「おばあちゃん、それでね、こっちが真ちゃん」ようやく真ちゃんを紹介するきーちゃん。「あなたが真弥ね。アキがあなたのことを邪魔者って言ってるよ」と笑うご婦人。アキちゃん、どんなことを言ってるのよ。
「美樹らはこの部屋、真弥はその隣な」と部屋を案内してくれるけど。「きーちゃんは?」てっきり真ちゃんと一緒だと思ってた。「きぃはこっちや」と更に奥へ。「おおー!すごーい」和モダンと言うのだろうか。洋間と和室が繋がった奥の座敷だった。「おい、エライ扱いが違うやないか」確かに真ちゃんの部屋にと言われたのは4.5畳のお部屋。しかもちょっと暗め。「そら主人と召使が同じランクなわけなかろうで」「誰が召使やねん」「じゃあなんや、奴隷か?」「ふざけんな」こらこら、こんな所で兄弟喧嘩始めないで。「ここ1人なん?」ときーちゃん。「こっち来ようか?」とアキちゃんが言うけど「真ちゃんと同じ部屋がいいよー。このお部屋立派過ぎるよ」ときーちゃんが間髪入れて答えるからまた笑いが堪えられない旦那と真ちゃん。「ざまーみろwww」なんて2人で笑ってるけど大人げないからよしなさい。「たまには俺と一緒でええやんか」「真ちゃんと同じがいい!」更に爆笑する旦那と真ちゃん。ホントあなた達大人げないわよ。
結局、きーちゃんの希望が通り真ちゃんときーちゃんは同じ部屋に。お部屋が立派過ぎるからと最初は真ちゃんが案内された部屋で良いと言っていたけど、アキちゃんの一存で奥の座敷になった。
荷物を置いて昼食まで休憩。昼食のときにきちんと紹介すると言われたけれど私達はきーちゃんの部屋に集まっているものだから、きーちゃんに会いに来た方々とご挨拶することになった。きーちゃんは全くと言って良いほど話すことは出来ないようだったけど、前に会った人ばかりだと言ってアキちゃんの通訳を通しながらも楽しげに話していた。
午後からのプログラムは何か特別なものがあると思ったら、今日はきーちゃんが慣れるためだとほぼ自由行動だとか。マハルは初めての場所や人でも物怖じしないタイプで普段はそれが逆に心配になるけれど、ここでは言葉が通じる方が必ず付いていてくれて庭で遊んでもらっている。旦那も旦那で普通に馴染んで楽しそうにしていて、タマキを連れて数人で晩ご飯の買い出しに行ってくると出かけた。きーちゃんはというと、出迎えに来てくれたご婦人と縁側で座っていた。積もる話をしているのかと思えば、ただ黙って外を見ている。その少し後ろに真ちゃんが座っている。私も縁側へ行って2人の横に座る。
ただ穏やかな時間。日常では味わえない贅沢ってヤツよね。
「キリコはハーバリストなんですって?」ふと『おばあちゃん』が言った。ハーバリストって薬草学の専門家のことよね。「私はそこまでまだ詳しくなくて、ただ好きで生活に取り入れているだけで…」きーちゃんから『おばあちゃん』の話を聞いて自分はだいぶ詳しいと思っていたけれど、まだまだ上は居るんだと当たり前だけど痛感して、もっと学びが必要だと思っているからとてもじゃないけど『ハーバリスト』であるとその本人を前に言えない。「謙遜しなくていいんだよ。きぃはあなたの知識と心で随分と救われたって。きぃのことを想って調合する。ハーバリストってみんなそこから始めるものだから、誇りを持って自分はハーバリストであると言ってご覧なさいな」おばあちゃんの言葉はとても不思議。ゆっくりと染み込んでくるような優しい言葉。「アキから、ここは普通でないことに寛容ではないと聞いた。どこでもそうかもしれないけどね。それでもあなたはきぃが伸ばした手を決して離さなかった。きぃに必要なだけ惜しみなく愛を与えた。楽な道じゃ無かったと思うけどその若さでとてもすごいこと。血が繋がっていたとしても出来ることじゃない。それでもあなたは成し遂げた。ありがとう、キリコ。あなたの優しさと強さはきぃにちゃんと受け継がれてる」自分がやりたいと言って自分の意思でやってきたことだけど、こんな思いがけない所で認めて貰えるとは思ってもみなくて泣けてくる。

夜はみんな揃っての食事。きーちゃんは大丈夫かと思ったけど落ち着いているようだ。マハルはと言うと、昼間遊んでもらったお兄さん達に懐いて離れない。絶妙なバイリンガルになっているから子どもの順応性には驚かされる。
「キリコらも来る?」夜、子供たちを寝かしつけた後にきーちゃんのお部屋に行こうと部屋を出るとアキちゃんが言った。「何するの?」「満月の宴」と言って笑うアキちゃん。何それ。怪しさ満点なんですけど。庭に出て外でお月見的なことをすると言う。私も行っても良いものかと確認すると来たい人なら歓迎すると言う。旦那は飲みたいから、家の中で息子達を見てくれると言うのでついて行くことにした。
外にはほぼ全員が揃って輪になって座っている。真ん中には篝火が焚かれ、その周りには大きく蝋燭が円形に沿って置かれていて幻想的。異世界に迷い込んだようで心細くてきーちゃんを探すけど姿がない。調子悪くなっちゃったのかな。てっきり来るものだと思ってたけど。「きーちゃんは来ないの?」アキちゃんに聞いてみる。「おるやんか」とアキちゃんが指差す方向を見ると白いワンピースを来て篝火の近くで中心の人たちと思われる方々と話していた。全く氣が付かなかった。白いワンピースに夏の草花の冠。かわいい。けどもだ。「これからどうすんの?」「まあ見ててみ」しばらくするとどこからともなく歌声と手拍子。篝火の近くにいた方々が歌っている。きーちゃんも一緒に篝火の周りを歌って踊る。その歌声をバックにおばあちゃんが何かを話している。遠くて良く聞き取れないけれど、この場を設けることが出来たこと、土地の神々、私たちを繋ぐ私たちの神々への感謝の言葉のように聞こえた。水の入った瓶を取り出す人、何かを空に掲げる人、それぞれが踊るように動く。これ、オカルト好きの血が騒ぐ私じゃなかったらドン引きするやつ。怪しすぎる!笑けど、篝火の周りで歌って踊るきーちゃんは楽しそうだ。真ちゃんはそのすぐ近くに座っていた。おばあちゃんは「この地の司祭にも」と言って真ちゃんを呼ぶ。真ちゃんは驚いた表情をして必死で遠慮するけど、ご機嫌なきーちゃんに手を引かれて篝火の前へ。二言三言きーちゃんと話すと真ちゃんは大きく深呼吸をすると歌を歌う。歌のような祝詞のような。これまた初めてみる光景で息を飲む。きーちゃんもそれに合わせて歌う。揺れる火と2人の歌声。まさに別世界の光景に見惚れた。
「あれはね、月の神さまへの歌よ」終わった後きーちゃんの部屋に行って、真ちゃんと2人で歌ってたのは何かを聞いた。アキちゃんが言っていたように満月をお祝いするお祭りをしていたらしい。「だから月の神さまへの歌を歌ったんだと思うよ」ときーちゃん。「真ちゃんって司祭なの?」「んー、ちょっと違うと思うー。けど、ニュアンスは間違ってないから良いんじゃないかな」と笑うきーちゃん。はぁーーー。ため息しか出ない。こんな場所に一般人が参加してて良かったのかしらね。「みんな普通の人だよー。みーんな一緒。みーんな特別♪」と言ってオレンジジュースを出してくれた。「これで元の世界に完全に帰ってくるの♪」さっきの集まりの時も飲んだけど、この一杯で完全に日常に戻すという。ああいったお祭りはサークルの中は別の世界になる。その別世界と日常は違うもの。でも私たちは日常を生きる。だからこの世界に戻る最後のスイッチ。ときーちゃんが言った。「そういや、きーちゃん外国語分かるの?」さっきからアキちゃん抜きで話してたよね。「んー全然。でも真ちゃんが通訳してくれたよ」と笑う。分からんのかーい。こらこら、現役女子高生よ。それじゃ別の意味であかんやないの。「だって英検二級だもーん」英検二級でも十分だと思うけど。「でもね、分かった!やっぱり本だけじゃ全然だね。実技試験もあるけどさ、全然さっぱりだわー」とのんびりさん。真ちゃんがお風呂から上がってきたので私は我が家に充てられた部屋に戻った。
にしても謎が多過ぎる。この団体は一体なに?そしてこのお屋敷よ。誰のもの?アキちゃん以外にも日本の人居たけども関係性が謎すぎる。けど、何だか追求してはいけない氣もする。部屋に戻ってこれらを旦那に話す。「変な集まりでは無さそうやからええんちゃうの?」昼間、買い出しに出た時にサラっと聞いたらしい。やっぱりある程度の信仰の元に集まっている人達らしいけれど、カルト集団みたいなのではないと判断したみたい。「まあ、秘密は余所者にペラペラとは喋らんやろうしなぁ。どうする?キリコが好きそうな生贄を捧げる儀式とか今頃しとったらwww」酔ってるでしょ。バカじゃない?
翌日は登山組と屋敷に残る組とに分かれる予定。登山と言ってもそこまで難易度の高い所ではないし、人手もある、何よりマハル本人が行きたいと言うので旦那はマハルとタマキを連れて登山組へ。元氣ね。ありがたいけどもタマキまで連れて大丈夫なのかしら。真ちゃんも登山組かと思ったけどきーちゃんの体力的にまだ心配だということでお留守番組。「日に当たると灰になるねん」とアキちゃんもお留守番組。どんな理由よ。
早朝、登山組を見送ったお留守番組は各々のんびりしてる。庭の木陰で瞑想する人、パッチワークみたいな手芸をする人、近所を散策する人、台所で何かを作る人。アキちゃんは少し寝ると言って部屋に入って行ったし、きーちゃんを探すけど見当たらない。きーちゃん達の部屋に行ってみる。ドアをノックすると真ちゃんが現れる。「きーちゃんは?」「ちょっと具合悪くてな」と言って部屋に招き入れてくれた。奥の和室で寝ている。「熱?発作?」「もう少し寝かせたらマシなると思うわ」きーちゃんの体調不良は明け方かららしい。登山組を見送ろうとしたけど目眩が酷くて立ち上がることが出来なかったそう。熱はそこまで上がっていないし、貧血だろうと寝かせていると言う。「やっぱり遠出だし疲れが出ちゃったのかな」「本格的な外出って久しぶりやしな」昨夜満月の宴に出たのはあるけど、こういう場に居ることでやっぱりきーちゃん自身色んな感情だとかが湧いて出てくるものだから処理に追いつかないんだろうとのこと。「この場に居るだけで?」「日常から離れることで内省の時間をとるとかリセットする意味合いやんか」「アキちゃんもそんな感じで言ってたね」「内省の時間を取るのがどっちに転ぶか分からんかったけど、一旦日常から離れる方がええかと思って参加してんけどな」今日の症状はきーちゃんが自分と向き合った結果だからこの旅行の意味はあるんだろう。多分、いくら私たちが手助けをしたいと思っていてもきーちゃん自身が立ち上がらないと成長出来ないんだろう。「きぃの調子どないよ」そんな話をしてたらアキちゃんがやってきた。寝るんじゃなかったの?「ばーちゃんが起きられるならちょっと身体を動かさんかって言うてるけど」
少し待つと真ちゃんと共にきーちゃんが部屋から出てくる。まだ少し顔色は良くないけど、動けるようで良かった。けど、真ちゃんが呼びに行くとは思わなかったわ。無理だって止めると思ってた。「多分『陰』に傾いた体調不良やから動かして陽を増やした方がええかと。付いてるから無茶せんように見てられるし」陰とか陽とか体調不良の性質的なものらしい。日差しを浴びて体を動かすことで陽の氣を入れるとかなんとか。だから普段散歩にも付き合ってたのか、納得。
おばあちゃん達と合流してお庭でヨガをすると言う。ヨガってかなりハードなイメージしか無かったけど、初心者でも出来そうなストレッチに近いものを私と同じ年頃の男性が教えてくれる。おばあちゃんは木陰に腰掛けて穏やかな表情でみんなを見ている。時々『〇〇と繋がる』と言うのがよく分からないものの、結構氣持ちがいい。地元戻ったらヨガ教室探そうかしら。きーちゃんはその大地だったり木々だったり空氣だったりと繋がるって分かるのかなー。後でコツ聞いてみよ。きーちゃんも時々身体を休めつつ、ついて来てる様子。
軽い昼食を取った後、お留守番組の何名かで歩いて行ける近くの神社へ参拝するとのこと。きーちゃんも行くと言うので私も行くことにした。森の中にある村のお社という表現がぴったり。「トトロ探そう!」ときーちゃん大はしゃぎ。たしかにトトロが出て来そうだけども。落ち着きなさい。拝殿でみんなで順におまいり。きーちゃんと真ちゃんは神社のお参りの仕方をみんなに教えている。私もちゃんと知らなかったからこっそり聞いたのは内緒。「あれ?こっちも居てはるよ?」ときーちゃん。誰が居てるの?きーちゃんは拝殿の隣にある細い小道を歩いていく。「ほらここ」きーちゃんが指さした先には小さな石が積まれていた。「大きいねーはじめまして」いや、石は小さいよ。「ありがとう。みんな呼ぶね」と言うと拝殿の前にいる数名を呼びに行く。あっちにいったり。こっちに行ったり忙しいわね。みんなが来ると更に獣道を進むきーちゃん。真ちゃんは急いできーちゃんの前に進んで獣道を歩きやすいように拓いていく。「ちょっと休憩。サンダル失敗ー」と笑うきーちゃん。だからサンダルじゃなくてスニーカーのがいいんじゃない?って言ったのに。「だってこんなに山の中入ると思わなかったんだもん」きーちゃん、真ちゃんに抱えられて再出発。真ちゃん、過保護すぎるわ。「その先!」少し歩くと開けた場所に大きな岩がある。「すごいねー。ありがとうー」木々の間から漏れる光と大きな岩。鳥の声と揺れる木々の音。神話の世界ってこんなのかもしれないと思った。きーちゃんについて来たメンバーもそれを感じているようで各々が祈りを捧げている。「んーとね、なんだろ白いまっくろくろすけみたいな子がねこっちだよって教えてくれてん」きーちゃんにこの場所を知っていたのかを尋ねるとこう返ってきた。また空中戦よ。慣れてきたとは言え…不思議な発言。1時間ほど各々その場を満喫して帰途につく。きーちゃんはどこからか取ってきた木の実を岩の前に置いていた。
お屋敷に戻る頃には日も暮れかけていて登山組も帰ってきていた。「いやー、タマキを抱いたままはキッツイ。歳やなー」と果てる旦那とまだまだ元氣が溢れているマハル。途中で昼寝して付いてくれてた子が帰り半分抱いてくれてたらしい。その男の子に謝ると「マハルに行こうと誘ったのは自分だしマハルにとって良い体験になるならこれぐらいどうってことないよ」と特上のスマイルをくれた。若い男の子の笑顔なんて久しぶりに見たからときめくわ。笑顔が眩しい。きーちゃんはというと、頑なにサンダルで行くと言い張って決行したおかげで靴擦れを起こし「痛ーい」と半泣き。だからスニーカーにしろと。帰り道も痛い痛いと言いつつも自分で頑張って歩く!と頑張ったのは偉いけど。まだまだ小さいきーちゃんが抜け切れていないようだ。
晩ご飯の時、数名の様子が違うのに氣が付いた。不穏なものではなく、きーちゃんに対して明らかに敬意を表しているような。なんて言うんだろう、きーちゃんがランクアップした感じ。席もおばあちゃんの隣に案内されるし、お食事前におばあちゃんが一言挨拶をするのだけど、その後に続いてきーちゃんもするように促すし(きーちゃんは驚いて「手を合わせましょ。ご一緒に、いただきます!」と保育園のような挨拶してた笑)きーちゃんが話すと手を止めてきーちゃんの言葉に耳を傾けるし、何よりその空氣が明らかに目上の者に対してのものだった。「あれどないしてん」と旦那も一変した様子に氣付いたようだ。「分かんない。昼までは普通だったよ」よく観察すると、一緒にお参りしたメンバーが多い。もしかしてあの空中戦が原因なのか?真ちゃんに聞いてみても真ちゃんも心当たりがないと言う。もう少し様子を見てみることにするか。