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Another story 68-2.月降ろし。
「金田一耕助来るかな…」
兄ちゃんが誘ってくれた場所に到着して車を降りると、大きなお屋敷だった。
犬神家の一族だとか、八墓村だとか…
きっと名探偵さんがくるんじゃないかっていう位のお屋敷。
「金田一来たらあかんやんw事件起きたらあかんww」
横で真ちゃんが笑うけど、これきっと居るよ、名探偵。
こんなに雰囲氣のあるお屋敷だって聞いてたら、おばあちゃんに前に誂えて貰った着物か私が着ても良いよって言ってもらった鏡子さんの着物を持って来たらよかった。
鏡子さんの着物のが時代的に合うかな。
「キリエさん、今絶対和服持って来たらよかったって思ってるやろw」とやっぱり笑う真ちゃん。
良く分かったね。
「浴衣は持って来とるでそれで我慢して」
浴衣持ってきてくれてたんだ!!
「絶対花火するやろ。そしたら浴衣着たかった!って言いそうやん」
花火するのかな?
でもするんだったら浴衣は着たいかも。
「きぃ!!」
お屋敷に見とれていたら、聞きなれた兄ちゃんの声がした。
声のする方に視線を移すと、兄ちゃんと魔法使いのおばあちゃん。
「おばあちゃん!!」
「元氣そうでよかった。私もきぃに会いたかったよ」
おばあちゃんはハグを返してくれる。
「あれ?日本語だー」
「アキにね、少し教わったよ。これできぃと二人きりでも話せるでしょ」とおばあちゃんは笑う。
兄ちゃんに教わったってバリバリの間違った関西弁だったらどうしよう。
っていうか、おばあちゃんは私と話すために日本語をお勉強してくれたんだ。
私もちゃんと勉強しておけば良かったかも。
こういう所が私のダメな所なんだろうな。
周りの人にすぐに甘えて自分は楽な方に流される。
「大丈夫、きぃ。あなたは他に、たくさん学ばなきゃ。私は新しく学べるものが増えて嬉しいの」
私の思っていることを読んだ??
おばあちゃんは優しい口調で言って頭を撫でてくれた。
「あ、そうだ!」
ねーさん達を紹介するの忘れてた。
「ねーさん!ねーさん!魔法使いのおばあちゃん!」
ねーさんに魔法使いのお城の話をしたら、おばあちゃんに会ってみたいと言っていた。
ハーブやアロマテラピーが大好きなねーさんは、本場の魔女であるおばあちゃんから色々教わってみたいんだって。
おばあちゃんも、美樹ちゃんもねーさんも外国語でお話ししてる。
ねーさんもお話しできるんだ。
かっこいいなぁ。
続いて紹介した真ちゃんも普通に外国語で話す。
あれ?もしかして、まったく話せないのは私だけ??
真ちゃんが「現役の学生さんなんやから…」って笑ってたから私も笑ってごまかしたけど、ちょっとマズイ?
「きぃ、どうしてん。車しんどかったか?」
いつものように話しかけてくれる兄ちゃん。
「私も、話せるようになった方がいいかなぁ」と答えると兄ちゃんは大笑いした。
だから、なんで大人は私の心配を笑うんだ。
「話せやんでももう通じてるからええやんか。それに俺の仕事がなくなる」
どういうこと?
「きぃの通訳係やからな。きぃが話せるようになったら困る」
なんのこっちゃ。
案内されたお部屋もとても素敵だった。
洋間と和室がつながっている奥の座敷。
けど、この広すぎるお部屋を私一人で使ってと兄ちゃんが言うから、一人で過ごすのはきっと寂しくなりそうだし、真ちゃんにって言われたお部屋は狭かったから一緒にしてもらった。
「たまには俺と一緒でもええやんかw」と兄ちゃんが言うけど、兄ちゃんのお部屋も真ちゃんにって言われたお部屋の倍くらいある広いお部屋だったでしょ。
一息ついた後、母屋の縁側に座った。
マハルくんはお庭でお兄さんたちと遊んでる。
言葉が通じないけど大丈夫なのかな?と心配していたけど、物怖じすることなく普通に遊んでいるし、何ならお兄さんに教えてもらいながら外国語を交えて話している。
このお兄さんは初めて兄ちゃんにサーウィンのパーティに連れて行ってもらった時にメイクをしてくれた人。
日本語も話せるって言ってたから、マハルくん担当に立候補してくれたって兄ちゃんが教えてくれた。
美樹ちゃんはみんなと普通に外国語で会話をしている上、仲良くなった夕食買い出しグループの人たちと一緒に買い物行ってくると出かけてしまった。
美樹ちゃんってなんでもできるし、初めての人とでもすぐに溶け込むしすごいなぁ。
人見知り仲間だと思ってたけど、違ったようだ。
「日本庭園ってのもええなぁ」と隣に座った真ちゃんが言った。
「うちも結構大きいお庭やん」
生まれた家にはお庭がないし、なんならほとんどマンションで暮らしていたから、今住んでるおうちみたいな大きな家に住むなんて考えたことなかったよ。
「うちも氣に入ってくれてますか?」
「私には贅沢なくらいですよ。大好き」
「それは良かった。キリエ、縁側好きやから入れたかったんやけど無理やったでな」
「でも母屋に行けば縁側あるし、母屋の縁側に居たら真ちゃんが帰ってきたのすぐわかるから問題ないよ」
おうちをリフォームする時、最後の最後まで真ちゃんは縁側を入れてくれようと頑張ったけど、そうすると他に入れたい所を削らなきゃいけなくなったりして縁側を削った。
お庭に面した母屋の縁側でのんびりしていると、真ちゃんが帰ってくるのが一番にわかるから夕方母屋の縁側でのんびりするのが好きだし、本当に氣になってなかった。
「きぃ、疲れてない?」
おばあちゃんが隣に座る。
真ちゃんは「ゆっくり話したらええで」と言って和室の方に移動してしまった。
きっと今のタイミングだ。
急いでカバンからノートを取り出した。
おばあちゃんにノートを見せながら、たどたどしい外国語でおばあちゃんに伝えようと言ったことを話した。
おばあちゃんは時々ノートを見たけど、私の顔を優しい表情で見つめて、そして時々頷いて聞いてくれた。
「本当に大きくなったね。安心したよ」
話が終わるとおばあちゃんはこう言ってくれた。
「きぃ、ちゃんと人生で一番尊い選択が出来た。もう安心だね」
おばあちゃんの笑顔を見るとホッとした。
「よく頑張ったね。ちゃんと大切なこと、きぃは分かっている」
「ありがと」
また会ったらおばあちゃんに聞いてほしいこと、聞きたいことがたくさんあったけど、言葉が出てこなかった。
きっと聞いてほしいこと、聞きたいことはちゃんと伝えることが出来たのかもしれない。
「食事が終わったら『月降ろし』するで」
夕食の為にテーブルに着くと兄ちゃんが言った。
『月降ろし』
魔法使いのお城にお呼ばれした時に参加させてもらった満月への感謝の儀式。
そうか、今夜は満月だったんだ。
夕食後、体を清めたあと兄ちゃんが用意してくれたワンピースに袖を通す。
薄手の白いワンピース。
真ちゃんと外に出てみるともう月降ろしに参加する人たちが揃っている。
「きぃ!」
同じようなワンピースに身を包んだお姉さん。
魔法使いのお城で兄ちゃんが離れなきゃいけない時に一緒に居て通訳をしてくれたお姉さん。
その時は一緒に居るとねーさんを思い出しちゃってホームシックになったのは内緒。
おねえさんに『月降ろし』で歌う歌を教えてもらう。
前も教えてもらったけど、うろ覚えだったから助かった。
真ちゃんも一緒に歌えばいいのに、「人前で歌うのは…」と言って全力で遠慮する。
ライブの時歌うよりも緊張しないのに。
「踊れん…」
あ、そっち?
踊るって言っても決まったフリがあるわけじゃないから難しくないよ。と言ってもかたくなに拒否される。
真ちゃんってそんなに照れ屋さんだっけ?
ライブの時も、加奈ちゃんのショ―の時もノリノリだから寧ろ目立つのが大好きだと思ってたよ。
手拍子とパーカッションの音がし始めて、お姉さんたちと火の周りで歌う。
ライブで歌うのも楽しいけど、こうやって外で火の周りをまわりながら歌うのも楽しい。
歌っている間、おばあちゃんが円を構築する。
とても静かだけど、繊細で激しい世界が作られる。
外の世界と中の世界。
外の世界の煩わしいものが円が組みあがると共にそぎ落とされて、歌うごとに私は軽くなる。
冠の花の香りが優しい。
体育のダンスの授業はとても難しくて上手にできなかったけど、これは授業じゃない。
思うままに、体が動くままに音に乗せる。
歌を歌うみんなで手を繋ぐと、私の見る世界はより鮮やかになる。
おばあちゃんの感謝と祈りの言葉は好き。
すべてが満たされるよう。
「『そしてこの地の司祭に』って。シンヤのことだよ。呼びに行ってあげて」とおねえさんに言われる。
真ちゃんって司祭なの?と普段のお仕事の真ちゃんを思い出す。
たしかに司祭さんみたいだし、間違ってないか。
真ちゃんを見ると苦笑いして必死に遠慮してる。
もう、照れ屋さんだなぁ。
でもね、みんなに『月降ろし』聞いてもらいたいな。
バンドで作ったオリジナルの曲にある月の神さまへ歌った曲も『月降ろし』
加奈ちゃんには「世界観ありすぎるからライブではやりづらいなぁ」なんて笑われたけど、お氣に入りの曲。
真ちゃんの所に言って「月降ろし、歌うのは今だよ!!」と言うと、苦笑いのまま立ち上がってくれた。
『月降ろし』
自分で言った言葉だけど、このために生まれた歌だったんだね。
歌声が夜空に溶けていくのを見ながら思った。
これからの満月の日に歌おうかなぁ。
真ちゃんの歌声と七色の光と、私の歌声と光と。
こうやって重なって混ざる。
月にいるシードラゴン。
私はここに居たいんだ。
だから、見ていてね。
ありがとう。
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