-
- Jujuの書庫
- Story & Another story
- Story 69.人として生きる。
Story 69.人として生きる。
夕食の後、引き続き広間で寛ぐ。何人かは個室に戻ったようだけど、半数以上は広間に残った。きーちゃんは楽しそうに小物を作っている。夕食の片付けを手伝った後、きーちゃんは一旦部屋に戻ったのだけど、例の態度が変わった方々が部屋を訪ねて来てさすがに狭くてみんなゆっくり出来ないから。と広間にやってきた。今は御守りを作っているらしい。「これはお願いごとが叶いますっていう意味でね…」と御守り袋に結ぶ紐のカタチを説明している。旦那は登山組のメンバーと「ジャパニーズスタイル!」などとおバカな事を言いつつ食卓にビールなんかのアルコールを並べて飲みはじめている。真ちゃんがお酒のアテを作るものだから更に盛り上がっているようだ。
アキちゃんも旦那と同じ卓で飲んでいるので、何人かがきーちゃんへの態度が変わったと言ってみた。「きぃの凄さに氣が付いたんやろ。ひれ伏せばええねん」と笑う。この酔っ払いが。言った私がバカだったわ。「だって夕方目の当たりにしたんやろ?」あの探検のこと?「自然崇拝してたとしても、きぃほどダイレクトに精霊の声を聞けるわけでも見えるわけでもないわけよ」白いまっくろくろすけって精霊なの?「やっぱりそう言った者の声を降ろせる人間は崇められると思わん?」まあ、そうなんだろうけどさ。「ばーちゃんは言ってみたら長老的なポジションや。経験と知識を惜しみなく与える姿にみんなは憧れ敬う。きぃは経験も知識も乏しいかもしれんが天性の物を使ってみなに分け与えてる。きぃ自身は分け与えてるって意識は無いかもしれんけどなwww」大いなる存在からのギフトを独り占めすることなく分け与えると言うことはそれだけで敬われるべき存在だと言う。今日の探検もきーちゃんはただ白いまっくろくろすけが教えてくれたから行ってみよう!と遊びの延長だったのかもしれないけれど、メンバーからすればそれは尊い行いだったのだろうと言った。それを特別なこととして捉えず、当たり前にみんなとシェア出来るということがまず素晴らしい行いであるし、それを自然と出来るきーちゃんは素晴らしいと力説するアキちゃん。まあ、言っている意味は分からなくも無いけどさ。「国によっては、現代でもシャーマンがとてつもないチカラを持ってるわけよ」それは何か聞いたことがある。「生まれる場所が違ったらきぃもそんな人間やったってことや」意味わかんない。やっぱり空中戦だわ。「未だにここに留まって『普通』に女子高生してるのには納得行ってへんで。そんなことしてる人間ちゃうやろ!ってめっちゃ言いたい」と言ってアキちゃんはきーちゃんを見た。「けど、強要は出来へんねん。強要してそれなりの地位に座らせたとしてきぃが課題って言われる物をできるかって言ったらそうじゃないからな」いくら近しい人間が言ったとしても、本人の意思で選択しなければ今世持って生まれたお役目(課題)を果たせるかどうか分からないと言う。「めっちゃもどかしい。それこそ世が世なら…ってヤツや。俗世から離れて相応しい世界に居てきぃの力は発揮される。なのに俗世に居たいと本人は言う」アキちゃんはきーちゃんが力を発揮して欲しいのかと聞いてみた。「そらそうやん。力を発揮するってさ、別に疲労困憊になるわけ違うねん。自然な姿で居ることやねん。それって別にきぃだけとちゃうで」どういうこと?「全人類そういうことやと思うで」全人類ときたか。いきなりスケールがデカくなったわね。「どうしてもな、生活してたら制限も出てくる。理不尽もあるし、耐えなあかんことのが多い。それってしんどない?」まあ、そうなんだけども。「このしんどい事を減らすために何が出来るかをうちらは研究してるわけよ」なんだ、分かるような分からないような。「それは何十年何百年も人類が探究してることでもあるねんけどな」哲学的なことかしら。「いきなり全世界全人類を一氣になんて無理やん。じゃあどこから変化を起こすかって言えば、まず自分、そして家族だったりの大事な所からやと思わん?」ふんわりとは分かる。「普通の人間はな、自分自身の変化を起こすだけでも苦労するねん。けど、きぃのような人間はな、普通の人間よりもずっと多くの人間に変化を起こせるねん。だから崇められ敬われるべき存在なわけよ」余計混乱してきたわ。「その為にはきぃがそれ程の人間であると周りが理解して相応しい扱いをすることが必要やねん。でないとその力は発揮されんし、いくら近くに居たとしても変化は起こらん」言ってることは何となく理解できる。「自然な姿で幸福を感じて生きる方法なんてな、どんなんでもええねん。非科学的な目に見えないものを探究しようが、科学的に裏づけされたものを探究しようがそれは各自自由やんか。各自がお互いのフィールドで居たらええわけやん。うちらのフィールドが目に見えないものなだけでな」酔ってるでしょ。シンプルそうだけど結構難しいこと言い出してるよ、アキちゃん。「うちらのフィールドにはきぃのような存在が必要なわけや。だから、それに相応しい扱いをされて更にその力の純度をあげて欲しいと思ってるわけよ」何か理解できたと思ったらまた空中戦。頑張れ、私の理解力。「普通の生活をしてたらきーちゃんの力の純度は上がらないってこと?」「上がらん!」言い切るわね。「なんや、白い布に絵具が付いたらどうなるよ。それか白い布を色水で洗うでもいいや」「染まるよね」「そういうことや」意味わかんないっての。「良くも悪くも色で溢れかえってるのがこの世界としてな、きぃは白い布に近ければ近いほどその力が発揮出来る。けど社会は色が溢れかえってる。ってことは白いままでは居らんわけや」その例え、分かりやすいんだかそうでないんだか。「色を極限にまで抑えた場所、もしくは染まったとしてもすぐ抜ける場所、それが呼ぼうとしてたうちなわけ」ニュアンスは伝わってるんだけどね、分かりづらいよ。「もちろん、うちらの中には一般の生活を送ってる人間もおるしそっちのが多い。俺もそうやしな。そうでないと現代では生きて行けんから」まあ、そうだろうね。「けど、うちらのコミュニティに居て下界の色に混ざるのが最小限にするようにできるわけよ」それがよく分からないけど、このまま聞いておこう。「前に言うたやん、きぃが望めば忠誠を誓って一生を捧げるって」それは聞いたけどどう繋がるのか分かんない。「完全に近い形で社会から離してゴミに染まらないように守り切る」何それ。完全に酔ってるでしょ。「監禁する氣?」「人聞き悪いな」アキちゃんが言うとそうとしか捉えられないわ。「別に外に出さん言うてへんやん。けどゴミに塗れないようにして、きぃの価値のわかる人間の元で暮らさせる」ゴミって…あんたはムスカか。「そうしたらきーちゃんはどうなるの」「どうなるやろな。現人神になるやろな。うん、そうや。巫女とかシャーマンとかに近いと思ってたけど現人神がしっくり来たわ!」なんだそれ。それがきーちゃんにとって幸せかどうかなんて分かんないじゃないの。「そこやねん!そこ!」どこよ。「それをきぃが望まないのがもどかしい」普通の感覚なら望まないんじゃないの?てか、あの時きーちゃんがこっちに残る選択をして良かったとつくづく思う。そうでなかったらアキちゃんに影響されかねない所だったわ。「まあ、俺の理想は置いといてやな…」そんな理想、一生出せない場所に保管してて頂戴。「きぃはそれだけ人に変化を促す力を持ってるってことやねん」それは分かった。「だからそれを遠慮なく使って欲しいわけよ。だからこれに氣付いた人間が増えて俺は嬉しい!」分かった、分かった。この酔っ払いが。
アキちゃんの言ってることは何となく理解出来たけど、その現人神ってのはやっぱり永遠に分からないだろうな。きーちゃんが辛い思いをすることなく幸せになって欲しいとは思うけど、現人神としてではなく人間としてが良い。これもアキちゃんと同じく私の理想ではあるけど。それにそんな話しをやっぱり理解出来ないのは多分私が人間なんだからだろう。それこそお互いのフィールドで居たらいい話なんだろう。アキちゃんは人を超えた存在であって欲しい。私は人として幸せになって欲しい。お互いのフィールドできーちゃんの幸せを願ってるんだろう。どのフィールドでいるのが幸せなのかを決めるのはきーちゃん自身でしかない。だから私に出来ることと言えば、きーちゃんが伸ばした手を離さないでおくことだろう。
にしても、アキちゃんと話すと異次元すぎてちょっと疲れるわ。笑一般人にはレベル高すぎる。
「キリコ、先キリエを部屋連れてくわ」真ちゃんに声をかけられて我に帰る。どうやらきーちゃんは急にスイッチが切れて寝てしまったらしい。真ちゃんがきーちゃんを部屋に運んでいる間に、きーちゃんのクラフト用バッグにさっきまで作っていたものを片付ける。相変わらず集中するとすごいスピードで作るらしく、食後のこの数時間の間にお守りが2つ、ブレスレットがひとつ出来上がっていた。これは何かの混乱を鎮めるための集中ではないことを祈った。
しばらくして真ちゃんが戻ってきた。きーちゃんに付いておかなくても良いのか聞くと「多分朝まで起きないから大丈夫」とのこと。「きーちゃん、いきなりスイッチ切れたのって何か混乱してたから?」「どうやろな。見てたらそうではなさそうやけど」純粋に楽しくて夢中になったんじゃないかという真ちゃんの言葉にホッとした。
その夜は(特に登山組)遅くまで飲んでいて片付け終わったのは明け方近かったけど、きーちゃんが起きてくることは無かった。にしても旦那よ、リトリートに来て日常以上に飲むってどうよ。リトリートのイメージは、非日常の中で健康的に過ごして日常を送るためのエネルギーを蓄えるものだから明け方近くまで飲むとかどうかと思うの。
私は飲みすぎたわけでもないのに、早朝に目が覚めた。水を飲みに起きると、きーちゃんの声がした。「ねーさん、おはよ。昨日道具ごめんね、ありがと!」私が片付けたと真ちゃんから聞いたらしい。ニコニコしながら言うきーちゃんを見ると安心した。ここ最近で一番自然なきーちゃんに近い氣がする。「あのね、今からラジオ体操するの。ねーさんもどう?」ラジオ体操か。懐かしい。「よし、やる!」小学校時代から朝が弱くてあんまり参加した覚えはないけど。笑ラジオ体操をすると意氣込んだものの、肝心のラジオが見当たらずがっかりするきーちゃんもかわいい。「どんなんやっけ」と真ちゃんがおもむろに縁側に置かれたピアノの前に座る。あ、そういや真ちゃん鍵盤も行けるっぽいこと加奈子が言ってたな。旦那とマハルが起きてきて、庭に出てラジオ体操合流。真ちゃんが「こんなんやっけ?」とラジオ体操の曲を弾く。いきなりノスタルジー。小学校の頃を思い出した。旦那が毎朝呼びに来て一緒に公園に行ってたな。(私がちゃんと起きた日は)その頃は当たり前だけど旦那と結婚するなんて思っても無かったわ。なんて思うと1人で氣恥ずかしくなりながらも、庭で楽しそうにラジオ体操をするかわいい我が子達と若干筋肉痛で動きがぎこちない旦那を見て幸せで満ち足りた氣持ちになった。
リトリート3日目。私の偏ったイメージのせいか、毎日何かしらのプログラムが組まれていると思ってた。そんなものはなく、各々が好きなのことをしている。マハルは今日は虫取りに行くらしい。元氣なのは良いけど取った虫は連れて帰って来ないでよと祈りながら送り出す。わたしもついて行った方が良いかと思ったけど、どうしても虫は勘弁なので旦那に丸投げした。きーちゃんはラジオ体操をした後、また寝てしまった。昔、寝ることで回復と真ちゃんは言っていたけど、リトリートに来てからのきーちゃんの睡眠時間は短時間づつではあるものの、ちょくちょく寝ているようだからこれは意外と本当の話かもしれない。アキちゃんもアキちゃんでマイペースで日が昇っている間ほとんど姿を見せずホント、バンパイヤ状態。だからこれは健康的な生活を送るものじゃないのか。まあ、マハル(と旦那、タマキ)は超健康的な生活を送っているから良しとするか。とは言え、何かしら動いていたい私は結構暇なのできーちゃんの部屋に行ってみた。「まだ寝てるで」と思った通り真ちゃんの言葉。「だろうねーとは思ったんだけどさー」いやー、ちょっと氣になったことが…。「真ちゃんさ、アキちゃんに挙式の話したの?」これは興味本位です。単なる好奇心です。「あー、言うてへんな。もう日取り確定してからでええわ」何かそんな氣がしてた。ようやく落ち着いたのに一悶着なんてことは勘弁願いたい。「あ、忘れてたけど、おめでとう」これはホント。言おう言おうと思って忘れてた。真ちゃんは「何それ」と言いながらも、ありがとう。と受け取ってくれた。「美樹に一発くらいぶん殴られると思って実はヒヤヒヤしとる」と笑う。うん、ぶん殴るって言ってたよ。油断したらやられるわよ。聞きたいことが色々あるからどれから聞くか悩むよね。「日取りは決めたの?」「日取りは決まってるけど場所おさえられるかはまだ分からん」どんな特別な場所でやるのよ。「おばあちゃま反対もなく?」「おかげさんで反対どころかやっとかと言われました」あ、おばあちゃまらしい。「きーちゃんに何て言ったの?」これは超個人的興味。むしろこれが一番聞きたい。「何それ?」何それじゃない。はぐらかさないで!「だってさー、きーちゃん元のきーちゃんでもまだまだ可愛いお子ちゃまよ?結婚するなんて意識無さそうじゃなーい」「…。」なによ、照れんなよ。吐いちゃいなよ。「じゃあ、プロポーズの言葉とどうやってきーちゃんを最初に落としたのかときーちゃんをキリエって呼び始めたきっかけならどれを吐く?」「なんやねんそれwww」だって可愛い妹が大人の階段を登るステップを知りたいじゃない。「そんなん、知らんでいい!プライバシーの侵害やwww」「えー。照れんなよー」
吐くまで追及しようと思ったのにその前にマハル達が帰ってきて、屋敷に私の絶叫が轟く方が早かった。連れて帰ってくるなとあれほど言ったのに。「マハル、虫たちも仲間の所に帰したらなかわいそうやからな」と真ちゃんが上手いこと言って虫かごから出される前に自然へお帰り願えたけども。ハーブ園もどきを家でもしているけど、ホント虫はダメ。葉の裏や土から姿を出す度に悲鳴をあげてるもん。「ねーさん、どうしたんー」と寝ぼけ眼のきーちゃんが登場。「きーちゃん、ホラ!マハルがゲットした!」とマハルが捕まえたセミの抜け殻をきーちゃんに見せる。「おー、でっかいねー」きーちゃん、セミの抜け殻は大丈夫なんだ。私、抜け殻もご遠慮したい。あ、きーちゃんって昔から悪名高き黒いアイツが出た時1人で果敢に退治してくれたな。虫は大丈夫なのかしら。私は勿論、旦那も真ちゃんも黒いアイツはダメなんだけど、ヤツが出た時悲鳴をあげたりフリーズする大人組を尻目に殺虫剤片手に華麗に退治してトイレに水葬までを請け負ってくれたことを思い出した。あの時のきーちゃんは後光が差して見えたね。「んー結構怖いよ。足が4本までならかわいーって触れるけどそれ以上は無理ー」と笑うきーちゃん。足が4本って。犬猫とかその類だと思うけどその言い方よ。「虫とかと喋れたりしないの?」精霊と話せるならいけそうだけど。「したことないなー。ヤモさんに話しかけてもあんまり返事来ないし、小さ過ぎると意思疎通って難しいのかも」なるほどね。なんか納得。
お昼からも各自思うままに過ごす。私はマハルと一緒におばあちゃん直伝のハーブを使ったクラフト。きーちゃんは昨日お参りに行ったメンバーと楽しそうに話をしている。明日で終わりかと思うと名残惜しい。きーちゃんのリハビリにと参加したけれど、私自身にも良い時間となっていた。
夜、ゆっくり話をしようと思っていたけれど、きーちゃんはやはり昨日のメンバーに囲まれていてなかなか2人で話はできなくて残念。まあ、会おうと思えば私はわりとすぐに会えるから良いと言えば良いんだけど正直つまらない。おばあちゃんの部屋に行ってみると快く迎え入れてくれた。おばあちゃんはお茶を淹れてくれて、私の前に座る。何を話すかは決めていなかったけれど、自然と言葉が出るから不思議。きーちゃんのこと。初めて出会って、一緒に暮らした話。このままきーちゃんが大人になるまで、そばにいて育てるつもりだった。きーちゃんが必要無くなるまで母親代わりになろうと思っていたけど、仕方ないと義父を理由にそれを勝手にやめて、真ちゃんに全てを任せてしまったことの後悔と後ろめたさ。先生は関係のないことまで遡って自分を責めるんじゃないと言っていたけれど、きーちゃんが伏せっていた原因の大元は自分たちがあの家を出る選択をしたからじゃないかと思うと、ただ一方的に手を離しただけではないそれよりももっと酷い仕打ちをしてしまったのではないかと思うこと。自分はどちらかと言うとポジティブで、ネガティブな事が起きたとしてもそれを糧にポジティブへ変換してしまえば良いと思っていたけど、話しているとこんなにネガティブな思いを抱えていたんだと驚いた。それを会って間もないおばあちゃんにぶつけてしまっている。「何も詫びることはないよ、キリコ。それだけあなた1人で今まで頑張ってきたということ。本当にあなたは素晴らしい。よく頑張ったね」とひとしきり話すとおばあちゃんは静かに言った。きっとおばあちゃんなら、こう言ってくれる。私の後ろめたさを肯定してくれると分かってるからわざわざこんな話をしたのかもしれない。「きぃが初めて私達の所へ来た時、あなた達の話をしてくれたの。あなた達はとても優しくて厳しくて自分の欲しかったものを一番に与えてくれていると言った。本当の両親ならどれだけ良かったろうと何度も言ってた。きぃのような生い立ちの子は、自分の存在を申し訳なく思い生まれたことを悔やんで絶望する。たくさんのそんな子を見てきた。自分の生い立ちを恨み、助けてくれない社会を恨み、自分を憐んで拗ねて自ら歩むことを放棄した子達もいた。けど、きぃは泣きながらも自分で歩もうとしている。これはね、あなた達が居たから。キリコが愛を与えたから」おばあちゃんは私にも理解出来るように、一言一言ゆっくりと話してくれる。「再会した日の夜、きぃは真弥の元へ嫁ぐと教えてくれたの。アキが私達の元へと呼んだけれどきぃは真弥の元が良いと自分で決めたと言っていたよ。アキのことも私達の事も大好きで側にいる事ができればきっとそれも幸せだけど、それよりも真弥の元で過ごしたいと。それはきいにとって真弥が特別な1人だから。多分、キリコに出会わずそれを教わらなければ自分は一生特別な1人を見つけることは出来なかったって。全てキリコが導いてくれたからと」私と出会わなくても、どこかで2人は再会していたと思う。それでもきーちゃんはそう捉えてくれていたんだ。「あなたは途中で手を離したと言っていたけれど、すぐ近くに居ていつも一緒にいるだけが育てることじゃない。きぃが選んだ愛する人の元へ行くという人生で最も大切で尊い選択が出来るようあなたはきちんときぃを育てて導いた。きちんと大人になるまで育てあげたの」おばあちゃんの言葉の途中から、涙が止まらなくなってきた。「ここに居る間、真弥を見てた。あの子は若いけれど司祭を務めるだけの器の人ね。とても、大きい。何よりもきいを大切に思ってるのが良く伝わってくる。少し過剰に愛し過ぎているからもう少し冷静になった方がいいんじゃないかしら?と思うけど」と言うとおばあちゃんは茶目っけたっぷりに笑った。あ、やっぱり他の方から見てもそう見えます?「けれど、きいにはそれ位きいのことを愛する人の方が良いと思うわ」私もそう思っていると言うとおばあちゃんは笑う。「きぃが今のきぃで居るのはあなたが居たから。自信を持って。あなたは素晴らしい女性よ」
翌朝、私達はみんなよりも一足先に立つ。きーちゃんはおばあちゃんと名残惜しそうに話していた。「兄ちゃん、ありがとう」アキちゃんの前に立つとゆっくりと言った。アキちゃんはいつものように飄々とした表情できーちゃんの頭を撫でて「きぃが元氣になったんやったら問題ない」と言った。おそらくこれからきーちゃんがアキちゃんの元へ行くと言う選択をすることはないだろう。そして、アキちゃん自身それを感じているかのようにきーちゃんの頭から手を離す時の表情は寂しげだった。
不思議な時間を過ごした数日。おばあちゃんから貰った言葉は、長い間私の中で燻っていた後悔と後ろめたさを消してくれた。これからどんなことが起きようと、私はきーちゃんの母であり姉であろう。人として生きることを決めたきーちゃんが幸せであるように、いつも見守っていようと決めることができた時間だった。