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After story02.Magic is everywhere.
食事が終わって、カラオケに行くことにした。あっちゃんと手を繋いで並んで歩くきーちゃんの表情は、変わらず可愛かった。だけど、きーちゃんに映っているのは真ちゃんでは無い人で、きーちゃんの中に真ちゃんのことも私のことも戻って居ないことに寂しさと苛立ちともどかしさを覚えた。
カラオケに行ってきーちゃんが最初に選んだのは真ちゃんがいつもきーちゃんに歌ってと言って勝手に選んでいた曲で、泣きそうになった。その後も、真ちゃんがきーちゃんに歌ってと言っていた曲を選ぶ。覚えていなくても無意識に選んでいるのか、習慣なのか心の何処かではその記憶が消えて居ないからなのか。
きーちゃんだけど、きーちゃんじゃない。けど、やっぱりきーちゃんだった。
2人と別れた私はとても複雑だった。ひとまずこの目で元氣な姿を見ることが出来たことは安心した。
大阪に向かう道中、旦那がきーちゃんが持っていた感覚は今は無いかもしれないと言っていた。その言葉通り、何処かいつも敏感に周りの空氣を探りながら過ごしていた姿はなかった。そこには普通のハタチ過ぎの女の子が居た。もう少し物事に対して鈍感になれば良い。誰かと付き合うにしても感情のままで動いてしまえたらいいのにと何度も思ってた。
きーちゃんは不思議な位に人間くさい感情や行動を見せない子だった。それは、真ちゃんが言っていたきーちゃんの元々持って生まれた魂のせいなのか、きーちゃんの持っている感覚がそうさせているのか、人間らしい感情や欲求を持つことが下手だったのかもしれない。真ちゃんと結婚生活を送っていたから、自分の感情に氣付いて居ただろうしそれなりに経験もあったはず。けど、そんな事を感じさせずそれを想像させない位に浮世離れした空氣を持っていた。
記憶と感覚を失って良い意味なのか悪い意味なのか分からないけれど、年相応の女の子になって居た。話し方もそんなには変わらないけれど、今の子のノリで話していた。
真ちゃんを失った後も想像もつかないような事があって病んでしまったのは分かっているけど、持っている感覚を捨てれば生きやすくなるだろうと思っていたきーちゃんになっていた。
「何処からスタートとして考えたらいいかわからないけど、少なくともこの子が辛い思いをしたりして病んでしまった期間と同じ位か、下手したら倍かかるかもしれないけど、完全に元氣に、プラマイゼロになるには時間がかかると思ってる。だからあんまり焦らないようにしてる」とあっちゃんが話してくれた。
あっちゃんは真ちゃんのことも知っていた。何度か会ったことも話したこともあると言うか、時々遊んでいたらしい。真ちゃんとのことを知った上で、今きーちゃんと一緒に居る。きーちゃんが、自分の経験として真ちゃんを思い出すことは近いうちに絶対あると思ってる。その時はあっちゃん自身よりも真ちゃんの存在の方が大きくなることも分かっているし、これからきーちゃんと生きていくことになっても、自分はきーちゃんの中で真ちゃんを超えることはないとは思ってる。それでもいいと思うし、真ちゃんがやって来たことを自分がしてあげられると思わないから真ちゃんを純粋に尊敬している。と迷いなくあっちゃんは言った。
あっちゃんは旦那から聞いたきーちゃんが真ちゃんとよく行っていた場所に連れて行ってみてるけど、まだきーちゃんの実感はわかないみたい。だけど、真ちゃんと過ごしたこと、私たちと過ごしたことをきーちゃんの中で無かったことにするのは何も良いことはないと思うから思い出すまで、思い出しても連れて行きたいと思う。と話してくれた。
口数が少なくて多くを話さなかったけど、これを聞いて純粋にあっちゃんを凄い人だと尊敬したし、きーちゃんと一緒に居てくれることがありがたいと思った。
私達が帰る日、もう一度きーちゃん達にあってランチをした。きーちゃんの警戒がとけたようで一昨日のような何処かにあった壁は随分と無くなっていて、普通に私の連絡先も教えて、回数は多くないけれど帰ってからもメールや電話をするようになった。
その後もきーちゃんの状態は一進一退で、あっちゃんの言った通り回復するまでにとても時間がかかっていた。きーちゃんが記憶を無くしていた間の体験や記憶が回復の邪魔をしていた。
旦那がまとまって休みが取れたのできーちゃんに会いに行くことにした。その時もオーナーが「久しぶりに孫に会わせてちょうだい」と言ってくれて、きーちゃんに会いに行く間子供たちを預かってくれた。
旦那が「きーちゃんが見つかったらいるだろう」と真ちゃん達の住んでいた所から持って帰ってうちに置いてあったモノやきーちゃんのお手紙に入っていた写真を貼ったアルバムを持っていくことにした。
「これ、私なんだー」家族写真として加奈子達が撮ってくれた写真集を見るきーちゃん。「何か別の人みたい。美樹ちゃんとねーさんは変わらないね」と笑うきーちゃん。7人で写ったページを見つめていた。「これが真ちゃん…」きーちゃんの表情は変わらない。ゆっくりページをめくる。婚礼衣装で写る2人のページで手が止まる。「この時ね、外で撮ったからね、観光客の人にも超写真撮られてたよ」「キリコなんか、外国からの観光客やから知らん思って自分のこと日本のトップモデルとか言うとってんで。ど厚かましいやろwww」旦那の言葉にケラケラ笑うきーちゃん。ページをめくって、私が一番好きな2人の写真。手を繋いで、向き合って笑う2人。婚礼衣装を着てるのにちょけて石段からジャンプして笑う2人。きーちゃんは黙ったまま、その写真を見ていた。ページをめくる。
「3分クッキングごっこ…」きーちゃんが呟く。ただ料理をしてる2人が映ってるだけの写真。「最初は黙々とするのって面白くないからって真ちゃんが始めたん。料理覚えやすいやろって」思い出した?旦那もきーちゃんの顔を見た。
きーちゃんはページをめくった。雑貨屋さんのスケッチブックを開いて、楽しそうに話してる2人の写真。「雑貨屋さん、置いてるものが怪しいからハーブティとかアロマとかで一般の人を引っ張って来ないと絶対儲けられへんで。でも、女の人って魔法だとか好きやからうまくいけばリピーターになるから上手いこと言ってそれを狙うか?って笑ってた…」
「あのさ、こっちにも写真あるよ」もう一冊を、アルバムを渡した。ちょうど、パパさんが撮ってくれていたきーちゃん達の挙式の日からのアルバム。「この美樹ちゃん達、コンビニの前で居たらそのコンビニ行くの諦めるー」と笑うきーちゃん。支度が済んだ和装の旦那と真ちゃんがタバコを吸って話している写真。確かに私もこんな2人が立ってるコンビニだったら行くの諦めるわ。
筥迫の儀、懐剣の儀、そして紅差しの儀の私たち。「七五三で焦るおかーさんみたいって美樹ちゃん達が言うし、ねーさんがもっとちゃんとハレの日っぽくしようって怒った」うん、言った。だって、みんなマイペース過ぎるもん。「綺麗…」遠くから撮った参進の儀と、お食事の時のお店で撮った2人。「お腹空いたって言ってたらお店の人が巻き寿司なら簡単に食べられるから持ってきますねって。食べようとしたら真ちゃんが袖袖!って。絶対着物の上に落とす。今日しか着ないからって落として染みになったら目も当てられへんからって。美樹ちゃんは自分で食べなさいって…」旦那はお寿司位1人で食べなさいって難しい顔してた。ページをめくると、お仕事で行った時の写真になる。「この宿場町。もしかしたら、昔美樹ちゃんと歩いてたかもしれへんなって」仕事で向かう先に宿場町があると必ず立ち寄っていたと言う。昔、お父さんだった旦那と歩いたかもしれない道を歩いてきーちゃんのカケラを拾っていたと言う。ゆっくりページをめくっていたきーちゃんの手が止まる。アルバムの上に涙が落ちた。
「ぼぼ達が居らんかったら、会えへんかったなって。一番最初、蹴ってしまってん。ごめんやでーって。呼んでくれてありがとうなって…」ぼぼちゃんと写る2人の写真の上にまた涙が落ちる。「おばあちゃんの願い、ちゃんと聞いてくれたなって。今度はちゃんとおばあちゃんに会いに行こうって言ってたのに…行けなかった…」そう言うと、きーちゃんは顔を伏せて泣きながら何度も「ごめんなさい」と言った。
多分、真ちゃんの事を思い出したんだ。思い出したら、きっときーちゃんは元氣になると思っていた。泣きながら何度も「ごめんなさい」と言うきーちゃんを見ていたら、思い出して欲しいと焦ってしまったことは間違いだったと後悔した。
忘れてしまったこと。これはきーちゃんの意志で忘れようとしたわけじゃない。いくら、仕方なかったと言ってもきーちゃんはそうなってしまった自分を許さない子だった。
真ちゃんに「よくきーちゃんの為にそんなにマメに動けるよね」と言った事があった。真ちゃんは「人の為って書いたらさ、『偽』になるの知っとった?キリエの為って言うたら嘘やねん。自分がやりたいからやってんねん」と笑っていた。
きーちゃんの為だと思い込んでいたけど、それは私が思い出して欲しくて、自分の為だったんだ。きーちゃんを追い詰めたかったわけじゃないのに、きーちゃんの為だと言って結果きーちゃんを追い詰めてしまった。真ちゃんを見て嬉しそうに幸せそうに笑っていたきーちゃんは居ない。ただ、真ちゃんを忘れてしまった自分を責めて泣いているきーちゃんしか居なかった。
「そっかー。でも、しゃーないんちゃいます?」あっちゃんが帰ってきて、今日の事を話して謝った。「自分の意思で無くても結果忘れた事は事実でそれを許さない性格やし。けど、思い出したんやったら希望ありますやん」とあっちゃん。「今こうやって生きてられたのは真ちゃんがおったからやし、今はしんどいかもしれんけど忘れたらあかんことやと思う。まだ1人の時にパーンっと思い出すよりも一緒に居て貰ってる時で良かったよな」と言ってきーちゃんの頭を撫でた。きーちゃんはあれから写真を見ることがなかった。
「娘はお母さんとこ泊まらせてもらう予定やったし、氣分転換のドライブ行って来ますわ」と笑うあっちゃん。せっかく安定して来たのにと怒られても仕方ないのに。
きーちゃんはまた会ってくれるんだろうか。自分を責める人だと思われたかもしれない。
夜中、きーちゃんからメールが届いた。『展望台に来たよ。猫がいっぱいいる。かわいいよ。今日はありがとう。それとごめんね。また来てね』あっちゃんに送るよう言われたからかもしれない。でも、またきーちゃんからメールが来たのが嬉しかった。
私があっちゃんと初めて会った時から1年半を過ぎて会った時、きーちゃんからあっちゃんと入籍すると聞いた。入籍の前の日、あっちゃんからきーちゃんを真ちゃんとよく行っていたと言う展望台に連れて行ったと聞いた。あっちゃんなりの真ちゃんへ挨拶をしてきたと言っていた。
まだ、きーちゃんの状態は変わらずだったけど真ちゃんという人が居たことを理解してそんなきーちゃんを支えてくれる人が居ることは本当にありがたかった。きーちゃんは少しずつ確実に記憶を取り戻しつつあったけれど、行方不明になっていた間の記憶や、自分が意図せずだったとしても失踪してしまったこと、おばあちゃまを裏切ってしまったことに悩まされていた。
あっちゃんは、子供ちゃんとも良い関係でナチュラルにこの子は自分の子だと言っているのを聞いて安心した。
きーちゃんからの手紙はメールに変わっていた。焦らせてしまったことを一度も責めなかった。次に会える時、もう一度アルバムを見せて欲しいとあった。入籍するタイミングで、親戚へ挨拶に行くからその時に家に寄らせて貰えないかと連絡が来た。
久しぶりにきーちゃんがうちに来る。緊張していた。庭に車が止まってきーちゃんは娘ちゃんの手を引いて歩いてくる。私がドアを開けると、笑顔を見せてくれた。初めて見る娘ちゃんはきーちゃんにそっくりで笑うと出来るえくぼまで一緒だった。初めて会う私や娘にもニコニコしていて可愛い。息子たちは、きーちゃんが来ると言っているのに照れて兄の家に行ってしまった。うちの娘は、お友達の影響なのかずっと妹が欲しいと言っていたので自分より小さい子が遊びに来てお姉ちゃんぶってきーちゃんの娘ちゃんと遊んでいる。あっちゃんの休暇の都合で泊まっていけないのが残念。
「写真、見せてもらっていい?」きーちゃんが恐る恐る言った。「いいよー。こっちにあるよ」と言って寝室に連れて行った。「ここ、変わってないね。美樹ちゃんが自分でするって言ったんだよね」寝室に入って、周りを見回すきーちゃん。きーちゃんも一緒にリフォームしてくれたね。「知ってた?ベッドの下、実は傷あるねんで。美樹ちゃんが金槌落としてね、ちょっと凹んだん。ベッドで隠せ!って美樹ちゃんと真ちゃんがベッド来るまで工具箱置いて隠しててん。だからベッドがお部屋の真ん中にあるねんで」と笑う。それは知らなかった。「真ん中に壁あるでしょ?これ本当は無い予定やってんけど壁をつけたらベッドが真ん中にあっても違和感無いはずってね、付けたんやで」それも知らなかった。そんな話が隠れてたなんて。
アルバムを見ながら「ここはどこへ行った時はね」とその場所での話をするその表情はとても穏やかだった。
少しずつ思い出していると言ってもすぐに回復するわけではなく、元々ご実家との関係が複雑だったこと、何より真ちゃんを忘れたことやおばあちゃまに対する罪の意識も依然として残っていてきーちゃんの回復を妨げているようだった。
解離の症状も悪化して働くことが出来なくなってしまってし、何度も救急搬送されて一度は本当に命が危ないほどの状態にもなったらしい。それでもあっちゃんは根氣強くきーちゃんを支えていた。
きーちゃんから2人目を妊娠して、大阪から離れてのどかな所へ引っ越すと聞いた。
新しいおうちは、山に囲まれて穏やかでとっても好きだとも言っていた。けれど最初のうちは、私と同じようにホームシックにかかったのと、産後すぐに引っ越しの為に動いたせいなのか産後うつまで併発して状態も戻りかけたけど、日にち薬なのか落ち着いて来ている氣がすると言っていた。
自然が沢山あるのどかな土地なのが良いのか、きーちゃんが消えていた記憶が戻ると同時に少しずつ持っていた感覚も戻りつつあるようだった。だけど、それはきーちゃんにとって良かったと言い切れるものではないらしく話を聞いて心配した。真ちゃんやおばあちゃま、アキちゃんが揃ってきーちゃんは普通の生活は出来ない子だと言っていた。あの頃は普通だと言われる生活をしなくても生きていけたけれど、今のきーちゃんの環境ではそれは難しく、多数に混ざって生きていくしかない。けど、周りの人がとっても良い人ばかりだし、大人になってこんなに心が許せる友達が増えるとは思わなかったと嬉しそうに話す姿を見て嬉しくなった。
もうあの家には誰も居ないけれど、真ちゃんの実家の近くのきーちゃん達が式を挙げた神社へ詣でたと聞いた。断片的に思い出してからもあっちゃんは、真ちゃんが連れて行ってた場所へ連れて行って全てを思い出せるように連れ出していた。けれど、思い出して何年経っても真ちゃんの実家近くだけはどうしても行けなかったらしい。真ちゃんが居なくなって10年が経とうとしていた。
感覚を取り戻しながら、きーちゃんは自分の感覚と日常の社会生活とをバランスを取る方法を探していた。
「私ね、魔女になるねん」きーちゃんから聞いた時は、正直何を言っているのかと思った。魔女というイメージは、空を飛んだり魔法の杖で変身したりというものだったから。
その頃は、第一次スピリチュアルブームも過ぎて世間にもスピリチュアルだとか言った概念は浸透していたけれど、きーちゃんが好んで傾倒していたのはスピリチュアルと言ったキラキラなイメージなものではなく、むしろ、黒魔術のようなロックでオカルトな分野な氣がしていたから、変にライトワーカーになると言われるよりも魔女だと言われてしっくり来たのも事実。
自分の持つ能力と、それを絵空事として捉えられる日常の中でバランスが取れる道が魔女だったのだろう。
偏った魔女のイメージを持つ私に、きーちゃんは魔女と言うものはどんなのかを説明してくれたり、分かりやすく解説しているサイトを教えてくれたりして、魔女というのは自然崇拝が基になっている信仰であること。そして、その信仰をしながら自然の流れに抗うことなく自然と寄り添って生きて、自分の世界を創造する生き方をしている人を言うことを教えてくれた。それは、真ちゃんやおばあちゃまがきーちゃんに教えていたことと同じだった。と言うのを聞いて、魔女という道を見つけたのはきーちゃんにとって必然だったと納得した。
魔女には、カヴンという集団に属して先人の元で学んで経験を積んでいく方法と、最近はソロ魔女と言って集団に属さずに自ら学び経験を積む方法があって、きーちゃんはソロ魔女の道を選んだ。アキちゃんが所属している団体はこのカヴンに近いのかなと思った。やはり先人の元で学ぶのが一番なのかもしれないけど、その集団によって教義や考え方というものが存在するらしく「私のすべての基本になるのは真ちゃんやおばあちゃんが教えてくれたことで、その基本は変えられないから」と言った。
いずれは真ちゃんたちに教わったことを基本にした自分なりの信仰を作り上げたいと思う。その最初の一歩で、魔女になる儀式を行うと言うきーちゃん。その最初の儀式を行うのは8月6日にすると聞いて、きーちゃんの中の強い意思と成長を感じた。お日柄的にとても良かったというのと、何よりその日は真ちゃんの誕生日だった。
最初の儀式は、今までの自分の死を経て、魔女という新たな自分に生まれ変わる為の儀式。その儀式を真ちゃんの誕生日と同じ日に行う。
きーちゃんは言わなかったから、私の想像でしかないけれど。真ちゃんをただ恋しがってその頃に囚われるのではなくて、真ちゃんと一緒に歳を重ねて残された時間を歩いて行こうとしてるのではないかと思った。
「魔女」になることに関してあっちゃんにオープンにしていて、あっちゃん自身も何も言わないということに驚いた。あっちゃんは、「自分は見えたり感じたりする事は全くないけど、そういったものがあると認めないと色々説明がつかないし辻褄が合わない」と言って笑っていた。あっちゃんのその柔軟さに素直に凄いと思った。
「んーやっぱりあの時はいい生活してたよなーって自分が自分で羨ましい」きーちゃんに会いに行った時、やっぱり普通の生活を送ることが大変そうで大丈夫か、昔のようにある程度社会と距離をおきたいと思うかと聞くときーちゃんはこう答えて笑った。普通の生活をしていたら、擦りもしないような世界が日常である家の人間として生きていたきーちゃん。誰が悪いわけではないけれど、きーちゃんが自然で居られる世界とは真逆の世界で生きていかなければいけなくなった。アキちゃんやおばあちゃまが言っていたように、きーちゃんが多数の人と同じように暮らすと言うことはきーちゃんの本当の力を消していくことなんだとこの目で見ると助けられない力のなさにもどかしさを覚える。きーちゃんは何でも出来る子になっていた。多分、普通の世界でも有能であると評されるだろうと思う。きーちゃんが出来ることが増えただけ、自分でトライ&エラーを繰り返してこの世界に順応しようとした証拠で素直にすごいと思う。多分、ある一定のレベルで何でもこなせるのはきーちゃんの与えられたギフトの賜物かもしれない。人によっては羨ましいとさえ思うこのギフト。私もこれまできーちゃんと過ごしていなければ羨ましいだとか妬ましいという感情が湧いてしまったかもしれないと思う。ただそのギフトゆえに、日常と非日常を擦り合わせてバランスを取ろうと試みているものの、普通に生きることだけで消耗して本来の力を使う所まで行けないというのが実情だろう。
けれど、魔女という道を見つけたきーちゃんは、確実に自分なりの信仰を作り実践しているように思う。記憶が消えてしまって普通の感覚を覚えたことで、昔の浮世離れした感覚だけのきーちゃんではなく、もっと強く優しくなったと思う。記憶と一緒に無くなってしまったきーちゃんの感覚は、ここに来て一氣に戻ってきているんじゃないかと感じることがある。でも、昔のように自分の力をコントロール出来ずに持て余すのではなく、必要なものを必要な時に使っている。まだまだ訓練は必要みたいだけれど。
それでも、まだきーちゃんは全部を思い出していない。人の記憶というのは、上書きされていくものだし全て思い出さなきゃいけないというわけでも無いと思う。忘れていたって良いのかもしれないと思うけど、自分のタイムラインを繋げたいときーちゃんは言う。そして、真ちゃんやおばあちゃまから教わったものをきちんと全て思い出して使いたいと。
真ちゃんはきーちゃんの持つ力と、日常とのバランスを取って生きることを望んでいた。きーちゃんは自力でそれを為そうと試行錯誤を続けている。まだ、その力のせいで苦労しながらも新しい世界を切り拓いている。現人神とならなくても、人としてでもきーちゃんのギフトは活かせると信じている。きーちゃんのことを崇拝しているとアキちゃんを見て思ったけれど、多分、私も崇拝まではいかずとも誰よりもきーちゃんに惹かれているファンなんだろうなと思う。きーちゃんよりもずっと長いこと生きてきたけれど、未だにきーちゃんの言葉に新しい発見をすることがある。何氣なく聞いていると、見落としそうなくらいの自然な言葉でこれからの世界を歩く為に必要なことを話す。それを一番近い場所で聞けるのは役得だろう。
この思い出話を書いたのは、紹介記事といいながらきーちゃんのタイムラインを繋げるキッカケになればなー。と始めていたり。思った通り、きーちゃんは思い出して「うわぁぁぁ」と頭を抱えることも多々あったけど、だいぶ繋がったと言ってくれている。ここには書けなかったこともまだまだあるから、それはコッソリと本人に教えようと思ってる。「うわぁぁぁ」と悶絶するきーちゃんは、変わらず可愛くて、つい見たくてわざわざそうなりそうな話をしたくなるのは秘密。
昔、話した雑貨屋さん。かつて居場所がなくて自分の存在に自信のなかったきーちゃんを受け入れた場所。そこの店主になる人に成長していると思う。そして、毎日アップデートされていっている。いつか、全ての記憶が繋がった日、きーちゃんはどんな人になるんだろう。
100歳になって、一緒にお茶を飲みながら店番が出来る日も来ると信じてる。
そして、今世の縁は途切れることなく、来世へも繋がっていく。次こそ、2人の約束が果たせたらなーと思ってる。
-Magic is everywhere.-これは、きーちゃんのスケッチブックの、お店の看板に書いてあった言葉。2人で自然と出てきた言葉なんだって。この世界は魔法で溢れている。手を伸ばせばその奇跡は手にすることができる。という意味が込められているそう。
いつか、真ちゃんが描いたお店で大正浪漫なお着物を着たきーちゃんが迎えてくれるお店の扉を開ける日が来ることを楽しみにしている。
その日まで、きーちゃんはきっと大切なことを全て思い出してパワーアップしていると思う。その日が来ても、常にアップデートしていくだろう。
「キリコが思ってるより、キリエは強いで。だから何も心配してへん。キリエは大丈夫やで」不安定になって熱を出して寝込むきーちゃんを心配する私に真ちゃんが良く言っていた。
最近、本当にそう思う。初めて会った時は不安で泣きそうになっていた女の子は、強くて優しい大人になった。時々見せる笑顔は、いくつになっても可愛いあの頃のままで。
一度は、途切れてしまったと思った縁も途切れていなかった。ずっとずっと、昔、幸せであるように。と願いながら手放してしまったけれど、またこうやって出会えた。
旦那に先立たれたら、お茶を飲みながら一緒に店番をするんだ。起こったいろんな事件を笑って話して、時々一緒に出かけていろんな景色を見るのも良い。
その頃は、どんな魔法のような世界が描かれているんだろう。私たちの可愛いお姫さまの魔女は、きっとおばあちゃんになっても可愛いお姫さまの魔女のままだと思う。
今世を味わいつくしたら、今度はあの世で、きーちゃんもあっちゃんも仲間入りしてみんなで晩酌タイムしようね。そして、また家族写真を撮ろう。
そう言ったら、やっぱりきーちゃんはうふふと笑った。
長ーい、長ーい、思い出話はおしまい。
これからどんな思い出話が描かれるのかとっても楽しみ。読んでいただきありがとうございました。