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Another story 01.奇跡のはじまり。
ライブ初参戦。
ドキドキしながら前売りチケットを購入して会場までの交通機関も調べたし、準備万端で少し大人になった氣分で出かけたものの、そこは最寄りの私鉄しか乗ったことがないお子さまだった。
地下鉄降りたら、どの出口から出れば目的のホールに行けるのか分からなくなって迷ってしまった。
帰宅ラッシュにかかってしまって、人の多さに目眩もしてきた。
一旦駅に戻って駅員さんに会場の場所を聞いてみようと駅に引き返し出した時、チラホラとライブに行くであろう人がいる事に氣付いた。
シレッとライブに行きそうな人に付いていけば行けるんじゃないか。
いや、都会やし自分が行く所だけとは違うんじゃないか?
しばらく葛藤しているうちに完全に人に酔ってきた。
頭は痛いし氣持ち悪いし、お腹まで痛くなるし。すぐしんどくなるの、やだ…。
「どうしたん?大丈夫?ママは?1人?」
半泣きになっている私に見知らぬおねえさんが声をかけてくれた。
地上に降りたマリア様!
後光が射して見えるその姿を見たらどう見てもライブ行く人。(めっちゃ派手。)
人と話をするのはとても緊張するけど思い切ってチケットを見せて「会場へ向かいたいけど、迷いました」と言ってみたら、おねえさんは私のチケットを見ると「私もやでー。よし、一緒に行こっか」と素敵な笑顔を向けてくれた。
計画通り。
そのおねえさんはとっても優しくて、道中いろんな話をした。
その中で同じ沿線に住んでいることが判明して、現地で彼氏さんたちと合流することや「ライブ後ご飯食べて帰るから1人でどこかで食べてくなら一緒に行かない?」と誘ってくれて、私の大人になった氣分アップ。
帰る時間を氣にしてくれたんだけど、なんだかもう少し一緒に居たかったから甘えることにした。
家に帰るのは、何時でも大丈夫だから。
「ギリギリなんのー?マジで?」
彼氏さん達はまだ到着していないみたいで、会場に着くと同時におねえさんの携帯が鳴った。
まだそんなに携帯電話が普及していない時代。大人でも持っている人をあまり見かけないから、慣れた感じで携帯電話を使う姿に一瞬で憧れる。
「来るのギリギリみたいだから、一緒にグッズ見に行かない?」
ツアーグッズを買ったり開演時間の直前まで一緒に居てくれてとても心強くて、お姉ちゃんがいたらこんな感じなのかなー♡と淡い夢を見た。
おねえさんの名前は『キリコ』さんで、私が『キリエ』
名前が似てて姉妹みたいだよね。
こっそり姉妹ごっこ。
高いヒールに黒いコート、長いまつ毛と赤味がかって腰まである髪。
雑誌で見るような人がすぐ隣に居て話しかけてくれる。
嬉しくて夢見心地。
さすがに席は離れて居たから開演時間前に「終わったら階段を降りた所で待ち合わせ」の約束をして各自の席へ。
次第に増える客席の人。
みんな、始まるのを楽しみにしているのが分かった。
その空氣に圧倒されて、また目眩がしそうだったから買ったツアーパンフを読んで開演を待つことにした。
初めてのライブ参戦。
初めてだという以外にも、私の中では大きな意味があった。
私は、極端に音と光が苦手だった。
音と光の刺激は私をこの世界から隔離してしまって、ずっと光と音は私を追い詰めて1人にするものだった。
けど、少し前にテレビで偶然見たこのバンドの人たちはとても楽しそうで光と音を操っていた。
本当に光と音を操ることが出来るんだろうか。
本当に光と音を操ることが出来るなら、私も操ることが出来るかもしれないと思った。
それを確かめたかった。
ランドセルを卒業すると同時に、光や音に、人や空氣も、私を1人にしてしまうモノたちに立ち向かって、もしくは操って怖がることを卒業したかった。
そして、自分が存在しない家から早く出る力が欲しかった。中学生になったら、自分が居ても良い場所を探す旅に出ようと決めていた。
ステージも客席も暗転すると、一氣に会場の空氣が変わった。
圧倒された。
まさに光と音の魔法使いだった。
普段、私を追い詰める光と音は私を別世界に連れて行ってくれた。
演奏するアーティストがそこに居るだけで、その音ひとつで、変わる空氣とオーラ。
多分、2時間くらい。
圧倒されっぱなしで夢中になった。
夢心地の終演後、約束していた待ち合わせ場所に向かった。
嬉しくて、自然とニヤニヤしてしまったのは人生初のライブだったからだけじゃない。
普段だったら、持ち前のネガティブが炸裂して「一緒に行こうって言ってくれたけど、邪魔では?もしかして忘れたりしてるかもしれない」と思ってしまうところなのに、ライブの魔法はすごい。
どれだけすごかったか、どれだけ楽しかったか。
これを共有できる人が現れるというわくわくが勝って、待ち合わせ場所の一角で座って待つことにした。
会場から続々と出てくる人を見ていたら、また人に酔ってきた。
まだ夜は寒くて自分が持ってる服の中で一番暖かそうな長袖の服を選んだけどやっぱり寒い。
頭痛と吐き氣と腹痛がネガティブまで連れてきてしまって、
「やっぱり来ないかもしれない」
「あんな大人の人が私なんかを相手にするわけないんじゃないか」
「そもそも実はさっき会えたと思っていたけど、それは私の妄想だったんじゃない?」
「でも、今帰るとしてこの人混みへ突撃はヤバイ。」
「じゃあ、人か収まるまで待ってそれまでに来はらなかったら帰ろう」
誰かに言うわけではないけど、もしもおねえさんが来なかった時、自分が「傷つかないための保険」の言い訳を自分に何度も言いつつ、モヤモヤしながらネガティブたちを凌ぐ。
おねえさんが階段から降りてくるのを見つけた。
おねえさんはさっき会ったところだからその姿を見てホッとしたけど、もしも約束のことを忘れてしまって何事も無かったように通り過ぎてしまったら…と考えてしまってとても緊張した。
けど、おねえさんは私を見つけると手を振ってそして一緒に居る人達に私のいる方向を指差した。
よく見ると引き連れてる人たち、こわい…。
言うても私は小学校卒業したて。
お子さまです。
身近な大人は両親や学校の先生。成人男性3名も居たらビビります。しかも、ねーさん含めみんななんかデカイし。
音楽雑誌に載ってそうな感じだし。
まさに別世界の人たちだった。
得意技の人見知り、発動。
発動した人見知りに氣付いてくれたのか、おねえさんの後ろにいた一人が何やらおねえさんに耳打ちして、おねえさん以外の人を連れて歩いて行ってしまった。
3人を見送ったおねえさんは「あの人たち、先にお店向かうから私たちも行こっか♪」とタクシーを拾う。
「えっとねー、一番目つき悪くてメガネかけてたのが彼氏で美樹《みき》っていうの。目つき悪いだけで怖くないよ♪人見知りなん。でね、さっき2人を連れてったのが真ちゃん。もう1人の一番派手派手しいアキちゃんと似てないけど兄弟。アキちゃんがお兄ちゃんで真ちゃんが弟ね。弟のがしっかりしてるんだけどねー。アキちゃん、ぱっと見外人さんみたいだけどちゃんと言葉通じるしあの顔でバリバリの関西弁やねん。ウケるやろー。みんな怖くないからね。大丈夫♪」
タクシーに乗ると、ねーさんがさっきの人たちについて教えてくれた。
覚えられるかな。
人の顔と名前を覚えるのが本当に苦手で、よく話す学校の子でも転校してから覚えるまでに何ヶ月もかかってしまってた。
やっぱり名前を間違えるなんて失礼だからと思って誰かに話しかけるのも怖かった。
真ちゃんが仕事後そのまま車で来ていたから車でどこかに寄ってご飯食べて帰宅。の予定だったけど、いきなり知らない人の車だと怖いだろうからねーさんはタクシーで店まで私と一緒においで。と言ってくれたとおねえさんが教えてくれた。
人酔いしてたので、タクシー移動は正直助かったものの、タクシー代を持っているか内心ヒヤヒヤする。
「私ねー、昔っから妹欲しかったんだー。きーちゃん、今日は私の妹ね♪」とおねえさん。
「私もおねーちゃん欲しかったから嬉しい」と言うと、おねえさんは思いっきりハグしてくれた。
甘い香りがして、それが幸せな香りのような氣がした。
「じゃあ、おねーちゃんって呼んでね♪」と言ってくれたけど何だか氣恥ずかしくて「ねーさん」と呼ぶことにした。
今思えば、自分でも違いが分からないんだけど。
タクシーで30分弱。いつも乗る沿線の駅近くのお店の前に到着。
タクシーを降りる時、タクシー代を出そうとしたら「妹はこういうのは考えないの♡おねーちゃんに任せなさい」と言ったねーさんに惚れそうになった。笑
ファストフード以外のお店でご飯を食べるのが珍しくて、それも大人になったような氣分で嬉しい。
ねーさんは「これ、美味しいよー」とか「こっちもおススメ」と言ってたくさん注文してくれてちょっとドキドキする。
ツアーグッズを買う為に、お爺ちゃん達から貰ったお年玉を全部下ろしてきたけど足りるのかな。と違う緊張もあった。
「きーちゃん、食べんのかいな。デカくなれんで。それか食べられるの無いか?」
お小遣いが心配で、お小遣いで足りそうなポテトとサラダを食べていたら彼氏さんが言った。
「全部好きです!」
「美樹かアキちゃんが奢ってくれるから心配せず、食べたいの全部注文しちゃえ♪」とねーさん。
遠慮なく食べても良いのかと悩んでいたら、彼氏さんが「これも食べ。デカくならんで」と言って私のお皿にアレコレと乗せてくれた。
ねーさんの言う通り怖くないかも。むしろ、めっちゃ優しい。
見た感じで判断しちゃってごめんなさい。
色々お喋りしながら食べるご飯っていつぶりかな。
とっても楽しい。
ねーさんとお喋りをしていると視線を感じた。
視線の元を辿ると真ちゃんと目が合った。
何か氣まずい。
よく分からないから笑っとけ。
「何?真ちゃん、私の可愛い妹に一目惚れでもした?」とねーさん。
可愛い妹だって。
嬉しい。
そしたら「きーちゃんやんな?」と真ちゃんに聞かれた。
いかにもきーちゃんですが?
さっきねーさんが言うてましたやん。と言いたいけど、そんな事をサラッと言えるはずもなく…
どう答えて良いか悩んでいると、「○○小学校行っとったきーちゃんやんな?」と言われてびっくり。
○○小学校というのは先日卒業した小学校ではなく、最初に入学した学校。
(父は準転勤族。小学校は数回転校していた。)
「覚えてへんかな?近くの公園で宿題したりしたの」と続ける真ちゃん。
巻き戻す記憶。
居た!
小学校低学年の時に公園で宿題教えてくれたり一緒に遊んでくれたちょっと怖い感じの近所に住んでたお兄ちゃんが居た。
もとい、めちゃ優しい中学生のおにいさん居てた。
小学校に入学してしょっぱなから登校拒否していた私。
いつも怒ってる先生も怖かったというのもあるけれど、何よりそれまでの人生の中で一番人の多いところへ掘り出された私はとにかく得体の知れない何かが怖くて親に必死で「行きたくない、怖い!」と毎日訴えるものの、それも時代。
嫌だと言っても家から締め出されてた。
学校も怖いけれど家にもいろんな事情で帰りたくなくて、学校が終わって暗くなるまで公園や神社で時間を潰して遊んでいた。
時間を潰している間、宿題をしたりするものの文字の刺激というか文字を見続けていると目眩がしたり耳鳴りがしたりして混乱して泣きそうになってた私の宿題を見てくれたり、色々と遊んでくれたり、ご飯が食べられない時はパンを買ってくれたりラーメン屋さんに連れて行ってくれたそのおにいさん。
初めて会ったのは入学してすぐで、その年の9月に転校するまで、放課後の暗くなるまでの間宿題を教えてくれたり、なんだかんだで構ってくれて、なんだかよく分からないけれど「学校が怖い」ということも、人がたくさんいる所に行くとお腹が痛くなることも怒らずに聞いてくれた唯一の人だった。
(当時から体調を崩すと家では怒られてた)
夏休み中は、ちょこちょこ会えたけれど2学期に入ると会えなくなって、会えないまま私は転校してしまった。
初めて私の話を否定せず怒らずに私のことをきちんと存在する1人として見てくれる唯一の味方と会えなくなってしまって、転校した後ということもあってとても会いたかったのに、いつの間にか顔を忘れてしまっていたことに自分でも驚いた。
必死に記憶を頼りに名前を思い出す。
「しんちゃん!」
「あたり!おっきなったなー」
そうだよ、名前、ねーさんが真ちゃんって言ってた。
名前、あのおにいさんと同じだ。
わたし、名前すら忘れてしまってたんだ。
「生きとってんなぁ。よかった」としみじみする真ちゃん。
子供の思考からしても、出来すぎた再会に呆然としてしまった。
けど、自分の言うことに怒ることなく、氣を付けながら話さなくても良い初めての大人と(当時は中学生も大人に見えていた)また会えたことが嬉しくて。
でも、前ほど氣楽に話すことが氣恥ずかしくてそこまで話は盛り上がらず、帰途についた。
家の近くまで車で送ってもらった帰り際、ねーさんが名刺と自分のやっているバンドのフライヤーとライブのチケットをくれた。
「待ってるよ。また遊ぼうね」とねーさんが言ってくれた。
貰ったチケットのライブに行くとまたねーさんたちに会える。
ちょっと大人になったような、そして不思議と居心地の良い空氣の場所にいける。
そんな期待に心を躍らせて、中学校入学への不安も少し薄れた氣がした。