Story 02.魔法使いの飴。

 
数日間、恋心にも似た感情を持ちながら過ごして居たけれど、やはり電話がかかってくることなくチケットを渡したライブ当日になってしまった。
自分でもよく分からないけれど、出会った小さな女の子のことが氣になって何度も思い出したし、旦那にきーちゃんの話を何度もして「エライ氣に入ってるやんか」と呆れられてしまった。
 
 
「いい?来たら速攻で教えてね!楽屋入れるように言ってるから連れてきてよ!」
チケットを渡したライブの日、真ちゃんを召喚してオープン前からライブハウスに待機させることにした。
「いくら沿線だからって、中学生がライブハウスに来るか?」という旦那の言葉に傷つきながらも、一縷の望みにかけるわたし。
ホントにどうかしてるってくらい、会いたかったっていうか氣になって仕方がなかった。
 
 
「きーちゃんってさ、どんな小学生だったん?」
ライブ前に真ちゃんと腹ごしらえ中、ふと思って聞いてみた。
「ついこの間まで小学生やないの」と笑うけどそう言う意味じゃない。
「前、遊んでたんでしょ!その頃だよ」
ホント、この人抜けてるわ。
「この間と変わらん感じ」
何それ。全然欲しい答えじゃない。
 
「基本変わってないってこと?じゃあ、何して遊んでたの?」
当時中学生とは言え、ヤンチャしてる男の子が小学生女子とどんな遊びしてたか氣になる。
「石飛びとかあやとりとか…お手玉?あとゴム跳びとか。折り紙も好きやったみたいやな」
古風な遊びしてたのね。
てか、真ちゃんがあやとりとか想像出来ない。ウケる。
 
「後、夏休みとか土曜日はラーメン食べに行ったな」
何それ。おうちでご飯食べないの?
「今日はお留守番だからご飯食べないって言うからさ」
その頃から面倒見良かったのね。(真ちゃんの面倒見の良さには定評があって、友達が多い)
 
「友達と遊んだりしてなかったの?」
「友達………」と言って考え込む真ちゃん。
そんなに悩むこと?
「友達?とも遊んだこともあるよ」
低学年女子と遊ぶヤンチャ男子中学生の図がカオス過ぎる。
 
「きーちゃんってさ、何か不思議な雰囲氣だよね」
「………。」
なんで黙って見つめてくんのよ。
なんか変なこと言った?
「なんだろ、最初市松さんみたいだなーって。なんだろ、小学生っぽくないよね」
「4月なったから中学生な」
そうじゃないでしょ。そういうこと言いたいんじゃないんだってば。
「何で遊ばなくなったの?」
「夏休みの終わりくらいかなぁ。最後に会ったん。2学期入って全然会わないし、何か家が複雑そうだし最悪の事態を想像してた」
あ、だからこの間「生きてた」とか言ってたんだ。
それにしても最悪の事態って…。
この間話した時もご家庭は複雑そうな感じは見受けられたけど。
 
まあ、そうじゃないと中学生なってすぐの子が夜フラフラと出歩けたりはしないよね。
けど、普通なら心配しそうなものだけど。
電話が無かったのは実は親御さんに怒られたとかじゃないのかな。
じゃあ今日会えないかもしれないよね。いや、来るかもしれないしやっぱり真ちゃんを待機させておこう。
 
 
私のバンドは4バンド中3つ目。
リハが終わって、会場行くと真ちゃんが居ない。
まだ開演でないものの、ちゃんと居て!って言ったのに!と怒る私。
人もチラホラと入りだした頃に、会場に姿を見せる真ちゃん。
「会場に居てって言うたやん」と怒りながら真ちゃんの所へ行くと、きーちゃんが後ろに隠れてた。
 
ブラウスに紺色のジャンパースカートという出で立ち。
春とは言え寒くないのかしら。
この間もそんなに変わらない格好だったから寒さに強いのかしら。私、まだ薄手のコート着てるけど。
「多分、迷うから駅で待ってた」と真ちゃん。
エラい!真ちゃん、出来る子!
真ちゃんの想像通り、きーちゃん場所がわからなくて一旦駅に戻ったんだって。
会場をキョロキョロしながら見回してるきーちゃんはやっぱりかわいい。
 
楽屋に連れて行って「私の妹♡」とメンバーに紹介するときーちゃんは照れて私の後ろに隠れてしまってこれまたかわいい。
やっぱり人見知りちゃんなのね。でも私には警戒がとけてるみたいで可愛さ倍増だわ。
 
 
きーちゃんはやっぱり1人でご飯を食べて帰ると言うので打ち上げをパスして、また前回の4人でご飯へ。(アキちゃんは仕事で不在)
やっぱり男子チームにはまだ警戒してるみたいで私にピッタリくっついてくるのがかわいい。
 
入学式を済ませて晴れて中学生になってたきーちゃん。
学校のことを聞くと何だか浮かない様子。
小学校の時も馴染めなかったって真ちゃんが言ってたのを思い出し話を変えようと頑張った。けど、頑張って話題を作ろうとすると不発に終わるのが世の常。
 
超、氣まずい。
 
もっと色々と聞きたいんだけども、何を聞けば良いか悩んでた時、真ちゃんがカバンから袋を出してきーちゃんに渡すと場の空氣が少し和らいだ。
ホント、真ちゃん出来る子!
渡した袋に入っていたのは、和風な七色の飴。
「魔法使いの飴?」
きーちゃんは袋から飴を取り出すと嬉しそうに「ありがとう」と言う。
やっぱりかわいい。
オヤツでそんなに喜ぶならおねーさんがいくらでも買ってあげる。
 
真ちゃんによると、人の中に行くと調子が悪くなっていた低学年当時のきーちゃんに魔法使いの飴を食べると大丈夫で居られる「おまじない」と言って飴をあげたことがあったんですって。
この「人の中に行くと調子を崩す」というのは感受性が豊かな子に多くて、きーちゃんは小さい頃人一倍感覚が鋭かったらしい。
成長と共に、その感覚はさらに敏感になるか、感覚をシャットアウトしてしまうのかどちらからしいんだけど、この間の会った時の様子を見ていたら感覚はそのままになってるようだったので買ってきた。とのこと。
きーちゃんにとってそのおまじないは効果絶大だったようで、この時からきーちゃんは「魔法使いの飴」をいつも持ち歩くようになった。
 
この頃はスピリチュアルな話に疎かったので、漠然と真ちゃんたちのお家がそういう家系。ということだけは知っていたものの、その話聞いて真ちゃんってほんとにそういう人だったのね。とちょっと驚いた。
 
 
このライブの日からきーちゃんと会うことが増えて、その感覚やモノの受け取り方は今まで過ごしてきた世界では知り得なかったもので、見えないモノに関して知らなかった私。
きーちゃんが試行錯誤しながら、毎日を過ごす様子を見て、そんなきーちゃんに『見えないモノや力』の世界や概念を真ちゃんが教える。
私も横で聞いている。
そんなことをしていたら、自然とそういったモノとつながっていくんでしょうね。この頃に、今も大好きで続けているアロマテラピーだとかハーブだとかを知って見えないものの概念を含めて身近になっていった。
 
 
きーちゃんは、それから私のバンドのライブに来てくれるようになったり、天氣の良い日に出かけたりと一緒に過ごすことが増えて行った。
私はずっと欲しかった妹が出来たみたいで事あるごとにきーちゃんを連れ回す。
きーちゃんと私たちはちょっと年齢が離れていて、それが念願の妹ができたようで嬉しかったんだけれども、言葉の端々できーちゃんがそれを氣にしていることが見受けられた。
それに私がそれにひっぱられちゃって。
 
「ちょいちょいと誘ってるけど、実は断れなくて付き合ってくれてるだけ?」とか、「実はめちゃくちゃ氣を使って全然楽しくないんじゃないかしら?」って。
でも、一緒に過ごしていてすごく楽しそうにしたり、その年齢らしい無邪氣な姿を見たりするとやっぱり誘って良かったー。と思ったり。
この一喜一憂はホント、もう恋心よね。
 
楽しいし、念願の妹が出来て夢が叶ったようで私は嬉しかったんだけども、別れた後にふとそんな不安がよぎるのは嫌だったので…意を決して2人の時に、聞いてみた。
単に「自分に話を合わせてくれようとしてたら申し訳ないな」ときーちゃんはきーちゃんで感じていたことが判明。
私の杞憂にすぎなかった。
直接聞いてみる。って大事だよねー。
空氣を読む。とか、間を大事にする。とかあるけど、時にはやっぱりその人に聞く。って大切。
「私ね、ずっと妹が欲しかったん。妹が出来たみたいで嬉しいねんで」と言うと、きーちゃんはうふふ♪と笑う。
本当にかわいい。
 
 
きーちゃんを家の近くまで送っていくたび、きーちゃんはいつも見えなくなるまで見送ってくれるんだけど、車を降りる時にふと見せる寂しそうな表情に氣付いた。
けど、車から降りると笑顔で手を振ってくれていた。
 
「きーちゃんさ、車降りる時いつも泣きそうになってんだー」
家に帰ってから、きーちゃんの泣きそうな表情が氣になって旦那に言ってみた。
「キリコと別れるのが嫌とか?」
「分かんないけど」
私と一緒に居たいと思ってくれるなら嬉しいんだけど、にしても泣きそうになるほどなものかしら。
あの表情が氣になって仕方なかった。
「エライ懐かれたな」なんて旦那は笑うけど、額面通りに受け取って喜んでいいんだろうか。