Story 04.確信。

 
真ちゃんがシェア生活に同意したと同時に新生活への段取りが始まる。
新しいお家は中古なものの、同居生活を送るために使えるいろんな伝手を使い、リフォームが完了して入居する頃は梅雨になっていた。
 
 
この家で暮らすのは、家主であるアキちゃん。
私たち夫婦(くどいようですが当時はまだ未入籍)そして、家事全般が得意ということで最後まで引っ越して来ないと言い続けたけど兄に泣き落しで頼み込まれた弟(真ちゃん)の4人。
きーちゃんはまだ義務教育真っ只中だったから正式にこのお家で暮らすのは卒業してから。
でも、来たい時連絡をくれたらいつでも誰かがお迎えにあがる。というお約束に。
 
まぁ、そんなことを言ってもいつものメンバーがひとつの家にいる。
となると、学校が終わると連絡が来て誰かが迎えに行く。休日前はお泊まりする。というそんな生活が増えていった。 
新生活のスタートとほぼ同時期であったせいか、きーちゃんがうちに居ることになんの違和感も無く、すでにメンバーの一員となって馴染んでいた。
 
 
真ちゃんからきーちゃんはとても繊細であると聞いて、きーちゃんの様子を注意深く観察するようになった。
そして、時々何か違和感を感じた。
その違和感はこれだと言い切れず、なんだかモヤモヤする。
真ちゃんに詳しく聞こうとするけど、はぐらかされて募るモヤモヤ。
氣にしすぎなのかと、氣が付かないフリをしようと思ったけどどう考えても違和感はそこに存在した。
きーちゃんは独り言が多かった。
私たちが同じ部屋に居る時はそんなそぶりは見せないけれど、仮できーちゃんの部屋にしているリビングの隣の部屋に入ると話し声がするから独り言だろう。
1人で何か話している時は私たちと話している時よりも楽しそうにしているかもしれない。
小さな子はごっこ遊びだとかで独り言を話すイメージがあるけど、それはもっと小さい子だろう。
きーちゃんがバトミントンがしてみたいと言い出して近くにある公園へ行った時、きーちゃんは木に向かって何かを話していた。
そして、とても不思議な絵をよく描いていた。絵のような文字のようなものをカラフルに。
メモ書きをするのかと思うタイミングでもその不思議な絵を描く。
感受性が豊かだと言えばそうなのかもしれない。
 
もう一つの違和感。
話の流れで小さい頃の話をすると「真ちゃんとこんなことした」ということは話してくれるけど、それ以外のことを聞くと途端に表情が強張り話をはぐらかして話題を変えてしまう。
自分のことを話したくないのかと思うけど、あまりにも不自然だった。
けど、それ以外では楽しそうに笑って話す姿は素直でかわいくて、この笑顔をみせてくれるのなら、無理に昔の話を聞き出さなくてもいいかと思ったりもした。
 
 
「きーちゃん、9時やで」
一緒に買い物をして晩御飯を食べて一緒にゲームをしていると時計を見た真ちゃんが言った。
「あ、、、ホンマや。お邪魔しました」
きーちゃんはゲームを片付けて荷物をまとめる。
それに合わせて私も送っていく準備をするけどきーちゃんは「電車で帰るよ」と遠慮する。
「毎回言うけど、もう遅くなるから送ってくよ」
ほんと毎回、きーちゃんは私たちが送ることを遠慮する。そして、毎回同じように答えて家まで送る。
「でも、ねーさん達明日もお仕事だし…」
「きーちゃん、明日みんな休みやし大丈夫やで。雨も降ってるから送ってく。それにな、この時間まで引き止めとるんやで送るくらいせんかったら信用してもらえなくなるからな」と旦那も用意しながらきーちゃんに言う。
いつもは私が単独できーちゃんを送って行くけど、明日は珍しく旦那も真ちゃんも休み。
だから2人も引っ張り出してやった。
 
真ちゃんの車で出発。
道中の15分くらいの間、きーちゃんは楽しそうに笑って話していた。
けど、やっぱり家のある住宅地の入り口に着くと泣きそうな表情を一瞬見せた。
傘を貸すと言ったけど、降りてダッシュで帰るから大丈夫だと断られてしまった。
「ねーさん、美樹ちゃん、真ちゃん、ありがとう。おやすみなさい」
車を停める。
きーちゃんはまたいつものようにニコニコして「ありがとう」と言ってくれた。
きーちゃんは車を降りると走り出す私たちが見えなくなるまで見送ってくれる。
ダッシュで帰らなきゃ濡れるのに。
 
信号が変わってすぐに運転してる真ちゃんの携帯がなった。
一旦停止して電話。
仕事のできる男は違いますなー。
手帳を開いて電話する真ちゃんを見ながらそんなことを思いつつ、さっき見せたきーちゃんの泣きそうな表情がふと思い出された。
やっぱり、泣きそうになってたよね。
 
電話が終わり、氣を取り直して出発。
信号待ちをしている時、ふと外を見ると少し前方に見慣れた後ろ姿を見つけた。
暗いから似た格好をした子かもしれない。
けど、私があげたパーカーとショートパンツにそっくり。
「ちょっと、あれきーちゃん?」
急いで前に居る2人に聞いてみる。
「え?今帰ったやん」と旦那。
「さっきまで横通らんかったから違うんちゃうの?」と真ちゃんも言う。
確かにきーちゃんを下ろして、交差点曲がってすぐに車を止めた。
その間私たちを追い抜く人は居なかった。
見間違いなのかな。
なんで私は黒い服しか持ってなかったんだ。夜道だと分かりにくい。
信号が青に変わってゆっくり走り出す。
氣になったから注意深くきーちゃんらしき子を追い抜きざまに確認する。
「きーちゃんだって!」
雨が降ってるのに傘をさしていない。
パーカーのフードを被っていたから顔は良く見えなかったけど、間違いなく私のあげた服とスニーカーを履いていた。
「きーちゃん!」
窓を開けて声をかけた。
すぐに車停めてくれたから出ようとすると「雨降ってるで待ってて」と言って真ちゃんがきーちゃんの所に代わりに走ってくれた。
「やっさしー。アイツがモテるの、こういうところやろか」と旦那はのん氣なことを言いつつ「なんできーちゃんここを歩いてるんや?横通った?」と言っている。
真ちゃんの電話で車をとめていた間、確かに人は歩いて来なかったし、何よりきーちゃんが横を通ったらすぐ分かる。
ホント謎。
いつ私たちを追い抜いた?
 
少しして真ちゃんが戻って来た。
やっぱりきーちゃんだった。
俯いて少しバツが悪そうな表情で真ちゃんに促されて車に乗り込んで来るきーちゃん。
「めっちゃ濡れてるやん」
パーカーを脱がせて持っていたハンカチでひとまず拭く。
「キリコ、後ろにタオルあるから貸したって」
真ちゃんに言われて後ろからバスタオルを取ってきーちゃんに渡す。
きーちゃんは小さな声で「ごめんなさい」と言うと黙ってしまった。
「きーちゃんどないしたん?」
旦那も尋ねるけどきーちゃんは「ごめんなさい」とだけ言って黙ってしまった。
 
 
近くのファミレスに入る。
どこに行こうとしてたのか尋ねるけど、車に乗ってからきーちゃんは「ごめんなさい」と言うだけで何も言わなかった。
「きーちゃん、怒らんし何も謝ることないからどこ行くつもりやったか言うてみ」
コーヒーを飲みながら旦那が言うとようやく「本屋さん…」ときーちゃんが小さな声で答えた。
確かにこの先に遅くまでやってる本屋さんがある。
「何か買いたいのあるんやったら言うたら寄ってから送ったのに…」
真ちゃんの言葉に首を振るきーちゃん。
どういうこと?
買うもの無いけど本屋さんに行こうとしてたの?
どうやって私たちの乗った車を追い越さずに先を歩いていたのかを尋ねると、歩行者だけが通れる地元の道を使っていたからだと言った。
きーちゃんは氣まずいのか、俯いたままだった。
 
色々と聞いてようやく普段から私と別れた後その本屋さんに行って閉店まで時間を潰していること。
その後、家に帰って家族が起きているようだったら公園で時間を潰していることを話してくれた。
しかも公園でそのまま寝てしまって朝になることもあると分かった。
「何してんの。公園で寝るとか…電話してくれたら迎えに行くやん」
旦那が怒らないと言っていたのに思わず言ってしまった。
 
そんなに家に帰りたくないの?
家族が起きてるようなら寝るのを見計らってって、娘が帰宅してなくても先に寝るの?
このままで居てもきーちゃんは話さないしラチがあかないので一旦連れて帰ることにした。
きーちゃんは嫌がったけど、家の前まで車で行って泊まってくることを家の人に伝えるように言った。
きーちゃんの家の前に着くと電氣は消えていた。
重い足取りで家に入るきーちゃん。
「もう寝てるのかな?きーちゃん帰ってないのに」
「まあ、いろんな家庭があるでな」
旦那達はのん氣。
 
少ししてきーちゃんが出てきたけど足取りは重たく、車に乗ると「お待たせしました。ごめんなさい」と言ってまた黙ってしまった。
 
 
引っ越し前に家にきーちゃんを誘って泊まりに来てもらったことがあった。その時、旦那に一度挨拶しておいた方がいいと言われてきーちゃんの家まで行って、きーちゃんのお母さんと初めて会った。
印象は中学生のお母さんにしては若い感じ。
普通に挨拶をした感じは変わった所は見られなかったけど、きーちゃんが「ねーさんところに泊めてもらう」と言うと「ああ、そう」の一言だけで、私には「ご迷惑じゃないですか?」と聞いてくれたんだけども。
中学生の頃には、私も両親と話をするのが煩わしく感じたりして遊び歩いていたけれど、それとは違うような。他人行儀?
親子という見えない絆のようなそんな当たり前にあるであろう関係が感じられなかったのが印象的だった。
そんな感じだから、きーちゃんがお泊りしたところで何ともないのかな。
 
帰宅してすぐきーちゃんにお風呂に入るように言った。
「キリコ、この間何か氣付いたことなかったん?」
晩酌しながら旦那が言った。
この間って挨拶した時だよね。
その時は連絡先を教えてうちに泊まってもらうとお母さんに伝えた。とだけ旦那に言ったけど、今日はこの間感じた親子の雰囲氣が感じられないという違和感を話した。
「ホンマ、色んな家庭があるなー。キリコみたいになっとったら分かりやすく非行に走ってるの分かって帰って来ないやろって想像つくけど、きーちゃんはそう見えんのにな。まあ本人から聞かないと分からんけどな」
私みたいになってたらってどういうことよ。
「…胸に手を当てて自らの過去の行いを思い出しなさい」
ホント、痛いところ付くよね。
私と旦那は幼稚園からご近所さんで、もちろん私がきーちゃん位の頃のことも知っている。
そして、その頃やんちゃして家に戻らなかったことも知られている。
おそらくそのことを言ってるんだろうけど。
 
「お先でした」
きーちゃんがお風呂から上がってきて驚いた。
ショートパンツとキャミソール一枚。
旦那も真ちゃんも居るんだから、ショートパンツは良いとしてキャミソール一枚はよしなさい。
「パーカー、濡れちゃったから…」
注意するとこう一言だけ言ってきーちゃんは黙ってしまった。
よく見なくてもショートパンツもキャミソールもさっきまで着ていたものだし、着替えを持って無かったか。
家に戻った時に着替え持ってくるように言えば良かった。
 
2階に連れて行って私の服を貸すと「ありがとー」とようやく笑うきーちゃん。
そういえば、最近きーちゃんは私があげた服、何枚かを無理矢理ローテーションしてるか制服姿しか見たことがない。
平日うちに来るとすぐに制服を脱いでシャツと靴下を洗濯機に入れていいか真っ先に聞いて洗濯機を回している。
夜に帰るから洗濯できないのかな?と思って特に氣にしていなかったけど、夜に帰ったとしても朝は家に居るから洗い替えを着れば良いだけだし。
泊まりの時は私がパジャマを貸してる。
 
何よりさっきパーカーを脱がせた時に氣が付いた違和感。
今もそうだけど、パーカーの下はキャミソール一枚だけで下着を着けていなかった。
小学校高学年くらいになると発育の良い子は先生や母親から言われてブラを着けだしてるはず。
きーちゃんも小柄ではあるけどもう着けていてもおかしくない体つきをし始めてる。
家では窮屈だから着けなくても、さすがに学校に行ったり外に出たりすると友達だったり周りの大人が注意するはず。今日は学校からうちに来た。
「きーちゃんの着替え、うちに置いとかなきゃダメだね」
 
ちょっと探りを入れてみることにした。
私があげて今の時期に着られるものは、パーカーともう一枚のカットソー。後は真冬に着るもの。
そのカットソーは今日洗濯しとくからと預かっている。
きーちゃんは首を振った。
「何で?着替え置いてたらいつでも泊まれるじゃん」
家に帰りたくないなら、いつでも泊まれるって言葉は魅力的なはず。
「明日私休みだし、一緒に取りに行こう。もっかいお母さんにうちにいるって挨拶しといたら良くない?」
きーちゃんはまた首を振って小さな声で言った。
「家に、着替えないから…」
家に着替えがない?
どういうこと?
「何かあるでしょ。それに下着の替えはさすがに貸せないよ?」
きーちゃんはまた首を振る。
嫌な予感。
「きーちゃん、普段の下着の替えどうしてる?家で制服脱いだ後何着てる?」
 
昔、自分がきーちゃん位の頃に仲の良かった子を思い出した。
その子は家で虐げられていて、本当に着替えを持っていなかった。
中学生になって、それなりに成長したその子は自分を商品として売って日々の生活に必要なものを賄っていた。
「ねーさんがくれたの着てる」
「真冬の服だよ?」
「キツイのより全然楽だから」
季節は梅雨に入ろうとしていた。
蒸し暑いのに真冬の服を着てるの?
「去年は?」
「去年は、夏休みにお婆ちゃんち行った時お爺ちゃんたちが買ってくれたの着てた」
「その服は?」
「今年着ようと思ったけど、入らなくて。ねーさんが服くれたから処分しちゃった」
「下着は?」
「下着はまだ入るのあるからそれ着てる」
「替えは?」
 
きーちゃんの話を聞いて目眩がしそうだった。
初めて会った日や私のライブに初めて来てくれた日。
まだ夜は肌寒いのに薄着をしていたのは着る服がなかったから。
下着の替え、というか手持ちの入る下着は数枚だけでお風呂で洗って夜の間乾かしていると言う。
「ちょっと見せて」
「え?」
「大丈夫、美樹は真ちゃんと飲んでてまだ上がってこないから。私だけだからちょっと見せて」
我ながらどんなお願いよ。変質者っぽいじゃない。
最近ではずっと一緒に居てるからまだきーちゃんは自分を商品にするってことはしてないはず。
それに話すことを聞いていたらまだそこまでの知恵は働かないはず。
そんなことしなくても良い。
けど、このままだとそうなりかねない。
 
当たり前だけど頑なに拒否されるけど押し切る。
確認。
女の子なのに。
これくらいの年頃だとお洒落だって興味が出てくるはずなのに、お洒落どころか最低限の着替えすら持ってない。
今着けている明らかに年齢と体に不釣り合いな下着もキャミソールも、さっきお風呂で洗ってドライヤーで乾かしたと言った。
「明日、揃えに行こう」
想像出来たことだけど、きーちゃんは買い物には行かなくても良いという。理由を聞くともうお小遣いはほとんど残っていないと言った。
「そんなの氣にしないで良いって言ってるやん」
「でも…」
「でもじゃないの!私はきーちゃんのおねーちゃんなんだから妹の着替え揃えるのは当たり前なの!」
「ねーさん、ごめんね」
きーちゃんがすぐ謝る癖があることも何だか繋がった氣がした。
ちゃんとは聞けなくて推測ではあるものの、色々と繋がった。
旦那は色んな家庭があるからなと言ってた。
私だって多少は分かってるつもりだ。
きーちゃんが家で必要とされてなくても、私がこの家できーちゃんを必要だと思ってる。
つい何ヶ月か前に知り合った子、ずっと欲しいと思ってた妹が出来たみたいで自分でも浮かれてるとは思う。
けど、今からしなくても良い苦労をすると想像出来る子をほっとけない。
 
 
翌日、学校帰りのきーちゃんのお迎え当番だった私はきーちゃんを迎えに行った。
きーちゃんは私を見つけると笑顔で走ってくる。
これが本当にかわいい。
中学生ってこんなに純真無垢だったかしら。
「え?」
車に乗ったきーちゃん。
「お買い物行くよ!」と言うと固まってしまって、そして「いい!大丈夫よ!」と頑なに言う。
「大丈夫じゃないよ。うちに泊まる時の着替えは私が用意するから」
「でも…」
「でもじゃないの。言ったでしょ、おねーちゃんが妹の着替えを用意するのは当たり前!うちではきーちゃんは私の妹!」
言い切ってみたけどきーちゃんは浮かない顔。
「ねーさん、ごめんね」
小さい声で言った。
「また謝るー。こういう時は『ありがとう』だからね」
ほっぺをグニグニしてやるとようやく笑顔が見えるきーちゃん。
「きーちゃんサイズいくつ?」
「140はちょっとキツくなってたから150かなぁ」
まさかの子供服サイズが返ってきてびっくり。
けど、考えたらそうだよね。
不憫になってきた。
ひとまず1週間くらいなら凌げそうな着替えを買う。
「大人の服屋さんで服買うの初めて」
試着室からきーちゃんが顔を出す。
水色のワンピースがかわいい。
「かわいい!よし!購入!」
140だか150だかと言っていたけど、普通にMサイズで行けそう。
きーちゃんが試着室に入ってる間に他の服を選ぶ。
自分と違うテイストの服を選ぶのもなかなか楽しい。
個人的な好みできーちゃんには女の子っぽい可憐なものを選んでしまうな。(私は年中黒だから)
「どれがいいかなー」
試着室から出たきーちゃんに見せると目移りしている様子。
目をキラキラさせて本当にかわいい。
けど…
「どれがいいって全部だよ」
「え!!!!」
1週間分って言ったじゃないの。
「ねーさん、ありがとう」
買った服を抱えてニコニコなきーちゃん。
「帰って着ていい?」
「いいよ」
ホントかわいい。
 
 
帰宅してきーちゃん早速ファッションショーを開催してる。
ニコニコして鏡の前で何度も回ってかわいい。
「これまたようけ買ってきたな」
仕事から帰宅した旦那と真ちゃんはきーちゃんのファッションショーを見て呟いた。
「ねーさんがね、選んでくれてん♪」とやっぱりきーちゃんニコニコ。
そんなきーちゃんを見ると本当に嬉しくなる。
ふと視線を感じて辿ると旦那が何とも言えない表情で私を見ていた。
「何よ?」
「別に」
煮え切らないなぁ。なんなのよ。
「これは私のボーナスで買ったの!」
「何も言うてへんやんか」と笑ったけど、何かいつもと違う。
 
 
「あ、かわいい!」
お風呂から上がるときーちゃんの髪がさっぱりしていた。
前髪が伸びていたのが氣になっていた真ちゃんがカットしてあげたらしい。
確かに目が隠れてて暗い感じだった。
切ってあげると言っても頑なに拒否されていた。
「どうやって説得したんよ」
「せっかくキリコにかわいい服買ってもらったんやったらサッパリした方がもっと似合うで。って」
前髪も後ろも綺麗に揃えられてお人形さん度がアップしてる。
今日買ったパジャマも似合ってる。
真ちゃん、手先器用なのね。何でも卒なくこなして腹立つ子だわ。