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Story 05.十三まいり。
きっかけはバスの吊り広告。
「十三詣り」という文字が目にとまった。
私の地元ではそんな習慣はなかったけど、こっちに来てからは毎年目にしていたから何のことなんだろうと氣になっていた。
「真ちゃん、十三詣りって何?」
ライブの後、みんなで揃ってご飯を食べに行く時、ふとバスを見て思い出したから聞いてみた。
実家から出ているものの、真ちゃんはずっとこの辺りで暮らしてるから知っているかと。
「大人の仲間入りの儀式で虚空蔵さんにお詣りする行事。七五三の延長的な?」
「ふーん。それっていつするん?」
「旧暦の3月の…いつやったかな。忘れたけどだいたい5月半ばくらいやったと思うけど」
意外と詳しくて驚いた。
「七五三の延長なら13歳が行くの?」
「数えでな。だから12歳か」
「真ちゃんはした?」
「十三詣って形はせんかったけど、似たようなんはしたな」
12歳ってことは…。
「きーちゃん今何歳?」
「12歳だよ?」
十三詣りやんか!ドンピシャ。
「きーちゃん十三詣りした?」
「……」
きーちゃんは黙り込んでしまった。
「来週の休みに行こう!」
「は??」
みんな一斉にこっち見んな。
「どこに?」と旦那。
この流れなら十三詣りでしょ。って場所のことか。
「え?分かんない。十三詣りってどこにお詣りするの?」
真ちゃんを見る。
「虚空蔵さんの居る寺?」
「この辺ある?」
「あるけど…」
「じゃあ、そこ!」
「はい?」
だからみんな一斉にこっち見んな。
きーちゃんを見ると何だか不安げ。
家族で行く予定があったのかな?と思ったけど、多分今までの様子を見てたら多分無さそうなんだけどな。
「きーちゃん嫌?」と聞くと首を横に振る。
「遠足だよ。遠足」
「人生の通過儀礼を遠足呼ばわり…」
なに?真ちゃん不満げね。
遠足くらいライトに捉えてたらきーちゃんも行きやすいかと思ったんだけど。
「遠足?」
ようやくきーちゃんが顔を上げてくれた。
「そう、改まってお出かけしたことなかったやん。だからきーちゃんの大人の仲間入りお祝いを兼ねた遠足」
「遠足、楽しそう」
「でしょ」
「でもね、大人の仲間入りって何するの?」ときーちゃん。
あ、それ私も知らない。
「何するの?」
真ちゃんを見る。
「女の子は大人の着物着せてもらうんやなかったかな…」
着物!
着物って高いよね?さすがに買えない。
私も浴衣しか持ってない。
「浴衣じゃあかんよね?」
再び真ちゃんに聞いてみる。
「問題外ですな」
問題外って何よ。と思っていると、浴衣は今では夏祭りだとかのお出かけ着として位置してるけど基本はリラックス着みたいなものと教えてくれた。
「きーちゃん着物着たい?」と真ちゃん。
「持ってないからいい!!」
いや、そこは着たいのかそうでないかを聞いてるんだと思うけど。
けど、着たくても買えないよ?
「実家にあるんちゃうか?」と言って電話をかける真ちゃん。
話を聞いてると実家にかけてる様子。
けど、真ちゃんにお姉さんとか妹居たっけ?
「古いのやったらあるって。着る?」
電話を切った真ちゃんはきーちゃんを見るけど、きーちゃんは戸惑ってる様子。
「借りよう!」
半ば押し切って決定。だって、お着物姿のきーちゃんは絶対かわいいから私が見たい。
翌日、きーちゃんを連れて真ちゃんの実家へ行く。
きーちゃんが借りる着物を見せてくれるらしい。
真ちゃんの実家って立派で過去何度かお邪魔したけど何だか緊張する。
真ちゃんも一緒に来て貰えば良かったかもしれない。
おばあちゃまが迎えてくれた。
きーちゃん初めて会うからかなり緊張していてかわいい。
けど、きちんとご挨拶していて感心した。
「かわいいーー」
おばあちゃまが出してくれた着物を見てきーちゃんの緊張は飛んで行ったらしい。
キラキラした眼差しを向けてる。
「若い子のんは昔着てたのしかないから古くさくてごめんね」とおばあちゃまが言うけど、レトロなデザインが逆にオシャレだと思う。
「着るもん居らんけど、手入れはしてるから着られると思うけど。一回着てみる?どれがええ?」
きーちゃんが選んだのは青紫色の着物。
「これやったら十三詣行けそうやね」とニコニコしながらおばあちゃまが言った。
おばあちゃまに着付けをしてもらったきーちゃん。まさにお人形さん。
嬉しそうに笑う姿がとってもかわいらしい。
カメラを持ってきたら良かった。
「ずっと男ばっかやったからこうやって娘さんの着付け出来るの嬉しいわ」とおばあちゃま。
肩上げの仕方どころかその存在すら知らなかったので、肩上げはおばあちゃまがしてくれることになった。
何て優しいおばあちゃまなの。とちょっと感動。
「着物借りるんはええけどさ、キリコ着付け出来るん?」
帰宅後、仕事から帰った旦那に報告すると冷静な返事が返ってきた。
「あ…浴衣の帯とは違うの?」
浴衣なら着れるから余裕だと思ってたけど、どうしよう。美容院に予約したらいい?
「婆さんに頼まんかったんかいな」
「すっかり忘れてた…」
「アホですな」
「うん、アホやった…」
「その日は泊まりやからなぁ。ごめんね。着付けやったら真弥が出来るけどきいちゃんは嫌やろうなぁ」
数日後、肩上げしてもらった着物を仕事帰りに取りに行ったついでにおばあちゃまに頼んでみるとこう返ってきた。
「真ちゃん着付け出来るんですか?」
驚き。
真ちゃん、若いのに何者?
「出来るけど…それ有りなん?」
夕食の時に真ちゃんに言ってみると何だか氣が乗らなさそう。
「有りってなにさ」
そういや、おばあちゃまも真ちゃんが着付けするのはきーちゃんが嫌がるかもって言ってたな。
「一応、着替えですけど…」
そこか!そこを氣にしてたのか。
この間一度着せてもらった時も全部脱ぐんじゃなくてキャミソール着てオーバーパンツ履いてたし大丈夫じゃない?
「きーちゃん、真ちゃんに着せてもらうの嫌?」
「うーーん。真ちゃんが大変でしょ?普通の服で行くよ」
これは遠慮だよね。
「大変では無いけど…」と真ちゃんが言ったので、帯を締めるのだけ頼むことにした。
後は多分私が出来るはず。
と思ってたけど…
「あれ?なんかもっとシュッとしてたよね」
当日朝。さっそく着付けを開始。
なんだろう、そもそも長襦袢からもたついてる氣がする。
「ねーさんここちょっと痛い…。ゆるくしたらあかん?」
思ったより難航中。
最初から真ちゃんに頼みたくなってきた。
「きーちゃん、真ちゃんに頼んでいい?」
ギブアップ。
「いいよー。でも面倒じゃない?普通の服で行くよ?」
「面倒じゃないって言ってたし、頼もう!」
真ちゃん召喚。
「久しぶりやで知らんで」と言いつつもサクサク仕上げる真ちゃん。
本当、何者?
なんで着付けなんて出来るの。
「うち、家が古いから…」と言うけど、そんなもの?
道中、お人形さんみたいにかわいく変身したきーちゃんはいつもよりも嬉しそうに笑っていて、その姿を見ると遠足もとい十三詣りを決行して大正解と自画自賛。
「きーちゃん、橋渡りきるまで何があっても振り返ったらあかんで」
お詣りを済ませると、真ちゃんが言った。
「振り返ったらどうなるん?」
怖がりながらきーちゃんが言う。
「振り返ったらな、さっき授けてもらった知恵が全部虚空蔵さんの所に返ってしまうねん」
「お馬鹿になるってこと?」
「そう」
「絶対振り返らないーー!!」
決意するきーちゃんかわいいけど、そうなるとちょっとイタズラしたくなっちゃうよね。
「きーちゃん♪」
後ろから呼んでみる。
「なーにー?」
知恵をきちんと授かったようだ。
振り返らずに返事をしてる。
「何やっとんねん…アホやろ」
呆れる旦那。
「きーちゃん、ちょっとちょっと」
今度はどうかしら。
きーちゃんは隣を歩く真ちゃんに何かを言った後、前を向いたままバックしてくる。
「これなら振り返ってないやろ♪」
うん。ちゃんと知恵を授かったようだ。
と思ったら躓いてこけそうになってる。が真ちゃんがナイスキャッチ。
「ほら、ふざけるから。コケたら授かったどころか元の知恵まで飛んでくで」と真ちゃんに笑われる。
これはきーちゃんと2人揃って「ごめんなさい」
「キリコ、時々大人げないよな」
「でも楽しかったよ♪」
きーちゃんが楽しかったって言ってくれたからいいか。
お詣りの後にランチ。お店に入るとお隣の席にいた奥さま方に「可愛らしいね」と言われてきーちゃんは少し照れつつも嬉しそう。
「きーちゃん、落としたら大変やでこれ着ておき」と真ちゃんが着ていたパーカーを着せてる姿は、世話焼きなお母さんみたいでなんだかウケる。
元々、真ちゃんの面倒見がいいことは知っていたけど、ここ最近きーちゃんには一段と世話をやいてるし、もっと頻繁に友達と遊びに行ってるイメージだったけど今の家に引っ越してからすぐに帰ってくるし休みも私たちと過ごすことが増えてる。
私たちに氣を遣ってくれているんだろうか。
「きーちゃんおいで」
帰宅して着物を脱いで寛ぐきーちゃんを呼ぶ真ちゃん。
何事?きーちゃんの後に続いてみる。
「ここをな、切るねん」と言って着物を見せる。
「それは何すんの?」
氣になるから聞いてみる。
「肩上げした糸を切るねん。これな」
きーちゃんは真剣な顔をして糸切り鋏を握る。
「糸切ってどうすんの?」
「子供が大きく成長するようにって大きめな着物を誂えるやろ。肩上げしたり腰上げしたりしてサイズ変えるやん」
そうなの?
「で、十三詣りして大人の仲間入りしたから肩上げする子供から大人になりました。って意味で肩上げの糸を切るねん」
「真ちゃん、なんでそんな事知ってんの?」
「一般常識です」
私、全然知らなかったんですけど。
「今日、ありがとう。嬉しかった」
きーちゃんが嬉しそうに言ってくれた。
お誕生日もお正月も、もっともっと後だけど成人式も。いっぱいきーちゃんのお祝いしようね。