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Another story 06.誘い。
シェア生活を始めてから、最初のうちは学校が終わると迎えに来てもらったり電車で向かったりして、シェアしていたおうちへ向かう→夜、自宅に帰る。という生活をしていたけど、どんなに夜遅くなっても咎められないのを良いことに氣付いたら私もその家に住みついていた。
自分の家に行って家族と顔を合わせても何も言われなかったし自分の居心地の良い方に入り浸るのは人間の性とでも申しますか。
「きーちゃん、おうち帰らなくて大丈夫?」
居心地のいいこの家で過ごすのが当たり前になってきた頃、ねーさんが言った。
勘違いしてしまってた。
ここは、私の家じゃなかった。
ここは、よそのおうち。
私はこの家の家族じゃないのに、家族が出来たような錯覚に陥ってた。
ごめんなさい。
「うちは…大丈夫だけど…明日は学校終わったらそのまま帰るね。ごめんね」
ここで泣いちゃダメだ。
ここで泣いてしまったら、ねーさんが悪いみたいじゃないか。
何週間も優しい場所で過ごさせてくれたのに。
急いでおやすみを言ってお布団に入った。
みんな、大人だから、私がこうやって図々しく居座っても何も言わない。
私はそれを良いことに私を見てくれる家族が出来たと勘違いして居座った。
みんな優しいからって、迷惑かけてしまった。
いつもそうだ。
小さい頃から「調子に乗るな」って何回も何十回もずっと言われ続けていたのに。
何で私は学習出来ないんだろう。
調子に乗り続けてしまったから私の家のおとーさんやおかーさん、兄弟たちの前から消えてしまったのに。
また同じことをしてしまう所だった。
ねーさんはやっぱり優しい。
大好きなねーさん達の前から私が見えなくなる前に教えてくれたのに、何でこんなに悲しいんだろう。
地面が急に無くなって水の中に突き落とされた。
息が出来ない。
息が出来ないのに無駄に生き永らえてしまう。
何回も何十回もそれは変わらない。
息が出来ないのならこのまま朽ちて仕舞えばいいのに、醜く図々しく何度でもこの世界に帰ってきてしまう。
ごめんなさい。
苦しくて苦しくて仕方ないのに、このまま意識もこの命も止まって仕舞えば何度も苦しい思いはしなくていいのに、私は勝手に息をしようと悪あがきしてしまうんだろう。
息をしようとするのをやめたら、水が消えるのと共に消えることが出来るんだろうか。
それすら考えるの、しんどくなってきた。
心臓の音がうるさい。
ねーさんが私の名前を呼んでる氣がする。
返事をしようと声を出そうとするけど、水が邪魔する。
ねーさん、ごめんなさい。今までありがとう。って謝りたいのにやっぱり水が邪魔する。
「まだ夜やで。もうちょい寝とき」
今度は真ちゃんの声。
水、消えた。
また、苦しいだけで私は消えずに残った。
何で水と一緒に消えられないんだろう。
明日、帰ると言ってしまった。
家、帰りたくないなぁ。
真ちゃん居るなら真ちゃんにも謝らなきゃ。
「明日、学校…」
学校行って帰るね。って言いたいのに、声が詰まる。
「学校?送ったるから心配せんと寝たらええで」
違う。送ってもらうなんて手間掛けさせるわけにいかない。
でも声が詰まる。
「おやすみ」
真ちゃんの声は優しかった。
朝陽が入って来て目が覚めた。
6時過ぎ。
制服に着替えて、鞄からノートを取り出す。
私は肝心な時にちゃんと出来ないから、お手紙書こう。
今までありがとう。って書くだけなのに、右手が動かない。
声だけじゃなくて、右手まで思うように動かせないのかな。
何とかお手紙を書き終えて、鞄をチェック。
忘れ物をしないように。
ねーさんがくれた服、持って行ってもいいかな。
あ、お小遣い。学校までの切符買えそうもない。
いいか。学校、行きたくないし。
このおうちから出るのが目的だし、学校も家も、もう辛すぎて行きたくない。
私が居ても良い場所を探す旅に出よう。
「きーちゃん、学校行くときこんなに早いの?」
玄関で靴を履いてるとねーさんが降りてきた。
「電車だとぐるって大回りなん」
いつもと変わらないように。
最後まで泣いて迷惑かけたくない。
「すごい荷物だねー。重そう」
貰った服、全部いれたから。
「今日は体育もクラブもあるから」
「そっかー。行ってらっしゃい」
「ありがとう。お邪魔しました」
ねーさんにありがとう。ってちゃんと言えて良かった。
家を出て、公園に向かう。
この公園で遊ぶの好きだった。
みんなでオヤツ持って来て、バトミントンしたり。
家に帰っても、私は消えたまま。
居ても居なくても同じなら、居なくてもいいよね。
太陽が眩しい。
太陽を見上げる。
「何をしてるの?今日は歌わないの?」
声がした。
けど、周りには誰も居ない。
「この中見てごらん。良いもの見られるよ」
また声がした。
中?
「あなたの隣」
私の隣。
木?
ねーさん達と遊びに来た時にいつもこの木の根元に荷物を置かせてもらってた。
「やっと氣付いた」
さっきの声もこの木だったのかな。
「ウロの中」
言われた通り木のウロを覗くとツバメの雛が居た。
「かわいい」
おかーさんが来たと勘違いしたのかピーピー鳴いてる。
「ありがと」
「どういたしまして。今日は1人なんだね」
「1人だよ。私を知ってるの?」
「知ってるよ。帰るとき私に『ありがとう』って言うヒトはあなたくらいだから」
そうなんだ。
「今日は歌わないの?いつも楽しそうに歌ってるじゃない」
「今日は、歌えない」
「それは残念。今日は悲しいの?」
悲しいのかな。分からない。
「どうしようか迷ってる?どこに行こうか」
迷ってる、うん、迷ってる。
「もしも、また歌を聴かせてくれるなら雛たちと私の中に居ればいいよ」
ウロの中?入れるの?
「入れるよ。ただ、その体は使えなくなるけど」
そんなこと出来るんだ。
「雛達が旅立つとまた寂しくなる。あなたが一緒に居て歌ってくれるなら寂しくならない」
「木…さんも寂しくなる?」
「そうね、ここにはたくさんのヒトが来るけど誰も話しかけない。あなたはここに来て話しかけてくれた。いつも楽しそうに。けど、今日は悲しそう」
「うん、悲しい。居たい所は本当は居たらいけなかったんだ。けど、私氣が付かなくて。どこに居ればいいか分からないねん。私、木さんの所に居ていい?歌、知ってるの全部歌うよ」
「いいよ。あなたの声を聞くとね、伸びるようなの。大きく大きく伸びて、いろんなものが見えるようになるから。私は動けないから大きくなるしか違う景色は見られないからね」
木が笑った氣がした。
「どうしたら一緒に居られる?」
「体が無くなってもいい?」
「体なんて要らない。窮屈だもん。」
「体が窮屈。確かにそうだね」
「どうしたらいい?」
「出来るはずよ?前にしてたでしょ?私になるって」
前にみんなで遊びに来た時、木の氣持ちを知りたくて木になる遊びをした。
それのこと?
目を閉じて、木の存在を探す。
それだけ。
そんな簡単なことで木と一緒になれるんだ。
早くしとけばよかった。
ツバメの雛の鳴き声が大きくなった氣がする。
「木さんが大きくなったら私もいろんなものが見えるかな?」
「見えるよ。この辺りで一番大きくなって、たくさんの物を一緒に見よう。ずっと一緒に居よう」
「それ素敵」
そういえば、捨てた体はどうなるんだろ。とふと思った時「きーちゃん!」と真ちゃんの声がして、ツバメの雛の鳴き声はまた聞こえなくなった。
「今日は連れてったるって言ったやん。駅、反対やで」
風が吹いて、葉っぱがなる。
「お迎えが来たね。また歌いに来てね」
木が言った。
お迎え、なのかな。
「キリコが心配しとったで」
「心配?」
「きーちゃんを追い出したかったんじゃないって。もう会えなかったらどうしようって」
私、邪魔してるのに。
「きーちゃん、何か勘違いしとるで」
「うん…」
ここに私も居ていいって思い上がってた。
心配してもらったのをいいことに、戻ったらまた調子に乗ってしまう。
「えー天氣やなぁ…今日、学校サボっとく?どっか行こか」と言って真ちゃんが笑った。
「学校行って、帰らないとあかんから」
学校は行きたくないし、帰るのも嫌。
けど、またねーさん達に迷惑かけるなら私がちょっと我慢すればいい。
我慢じゃないな。私が消えてしまえばいい。が正解だ。
「ホンマに?学校行かずに違う所にいこうとしてたんちゃうん?」
返事が出来なかった。
何で分かっちゃったんだろ。
「今はどこ行こうとしてたん?」
「ここ。木さんがね、歌を聴かせる代わりに一緒に居てもいいって」
「木?」
「うん。歌を聴くと大きくなるって。だからね、私は歌を歌ってこの辺りで一番大きくなって一緒にいろんなものを見るねん。そしたらね、私も木さんも寂しくないから」
ここまで言ってやらかしてしまった事に氣が付いた。
木だけじゃなくて、ヒト以外のモノが喋るって話しちゃいけないんだった。
それは頭がおかしいから。
何度やらかしたら、私は学習するんだろ。
真ちゃんは私の話を信用してくれる貴重な人なのに、やっぱりおかしい奴だって思われたら。
「木と一緒にならんでも、ここに来て歌ってあげたらええんちゃうの?」
信じてくれた?
「私がね、木さんと居たいねん。ここにおいでって言ってくれたから。きっとね、木さんと一緒に居たらね、誰の邪魔もしなくて済むから」
「邪魔になるん?」
「うん、だから、家で私は消えちゃったって分かった。もう少しでねーさん達まで邪魔しちゃう所だった」
そう答えたら真ちゃんはまた笑った。
「絶対キリコは邪魔なんて思わんわ。もう来てくれなかったらどうしようって半泣きになってたで」
「そうなん?」
「キリコ、きーちゃんが大好きやもん」
そうなのかな。
それなら嬉しいけど、尚更邪魔になる前に離れなきゃ。
「一回帰って、着替えて出直しやな。制服ではサボれへん」
帰るってねーさんの所?
私は帰っちゃダメだ。
もう、出られなくなってしまう。
「出られんくなったら、出やんでええやん」
そう言ってくれたけど、これ以上迷惑をかけちゃいけない。
少しの間だけでも、楽しい時間を過ごせただけで充分じゃないか。
私は意志が弱くて、楽な方にいってしまう。
だから、ホイホイと優しさに甘えて車に乗せて貰ってしまったけど。
「到着。着替えてどこ行こか」
「真ちゃん、ごめんね。やっぱりうちに帰る」
「うち着いたでwww」
そうでなくて。
「心配すんな、誰も怒らんから」
怒られるのが怖いわけではなくて、本当に邪魔者になりたくないんだ。
「きーちゃんはこの家嫌いか?」
「嫌いじゃない」
「なら問題ないやん」
そうなん?
それを真に受けて、また調子に乗ってここでも消えたりしないかな。
車の窓ガラスがノックされて扉が開いた。
「おかえり。あんな手紙置いてたら心配するでしょ。おうち入ろ」
ねーさんに手を引かれて家に入る。
また戻ってきてしまってごめんなさい。
「きーちゃん、ちょっと一緒に買い物行かんか?」
美樹ちゃんがリビングに来て誘ってくれた。
リビングは申し訳ない氣持ちで居た堪れなかったから、美樹ちゃんと余り話したことなくて緊張するけど着いて行くことにした。
しばらく車を走らせて喫茶店の駐車場に入った。
「きーちゃん、パンケーキ食える?ここ美味いらしいねん」と言ってお店に入ってく。
「甘いの好きやねんけどな、食ってるやん、そしたらキリコが『似合わん』言うていつも笑うから落ち着いて食えんくてな」と笑った。
チョコレートのソースとアイスの乗ったパンケーキが運ばれてきた。
「おっちゃんの奢りやから食べやー」
「美樹ちゃん、おっちゃん違うー」
「兄ちゃんでええん?」
「お兄さんやと思うよ」
「よし、クレープも奢ったろ」
「美樹ちゃん、ごめんなさい」
「何が?そこはな、いただきますとご馳走さまやで」
パンケーキとクレープもそうだけどね、ずっと邪魔してたこと。
「中学生はなぁ、ヤンチャしたなるからな。多少やらかすもんやろ」
「そうなん?」
「せやで。キリコなんて中学生ん時髪は黄色いは、スカートは長いわ、家に帰らんわでヤンチャし過ぎやってんで」と笑った。
ねーさんが中学生の頃って想像出来ない。
美樹ちゃんとねーさんは、家が近くて小さい頃からずっと一緒に居たと教えてくれた。
「うちにな、弟おったんやけどな中学生なってやっぱりヤンチャしたんやわ」
弟おった?
今は?
「家に帰らんとヤンチャし過ぎてな、今は生きてるか死んでるか分からんくてなぁ」と言った。
「そんなんやから最初は親は心配してたんやけどな帰ってくるたびに親と喧嘩するわ、それで両親も仲悪くなるわで家が荒れたりしてな。キリコはそれを知とったやろ。だからきーちゃん所もそうならんかってお節介で言うてしまっただけやと思うで」
きっと昨夜のことだ。
「ここに泊まりたいんやったらいくらでも居っていいから、一度家帰って親御さんにここに居てるからってだけ知らせといて。一人で帰りづらいんやったらキリコ連れてけばええし。アイツ謎の社交性で大概の人間丸め込めるから」
「ごめんなさい」
「それはキリコに言うたって。おっちゃんが仲直りのケーキ買ったるから一緒に食べや」
「おっちゃんじゃないー」
「そうやった」と言って笑った。
「ケーキ買って帰る前にここでも食べとこや。家で落ち着いて食えん」と言ってチョコレートケーキを頼んでくれる。
「あ、ちゃんと晩飯食ってや。キリコ、晩飯食わんのやったらオヤツ無し!とか言うからな」
「ねーさん、言いそう」
仲直りのケーキを買ってもらって、家に着いた時に美樹ちゃんが言う。
「あ、きーちゃん。ケーキ食いに行ったん内緒やで。絶対アイツら似合わんって笑うから。時々内緒で行こうや。1人やとちょっと行きづらくてな…」
「行っていいの?」
「ケーキタイム付き合ってくれたら助かるわ」
「行きたい!」
「商談成立やな。でも内緒な」
内緒を何度も言うからちょっとおかしくて笑った。
「次、どこ行くかなぁ。行きたいとこ結構あって悩むわ」
「そんなに行けんの?」
「向こう3年くらいの当番の日に行っても余裕なくらいあるわ」
「当番の日、増やしたくなるね」
「それもええな」と言ってまた笑った。
美樹ちゃん、勝手に怖い人って思ってごめんなさい。
とっても楽しい。
「キリコはな、念願の妹ができて浮かれてるから鬱陶しい時あるやろうけどちょっと我慢したってや」
「鬱陶しくない!おねーちゃん欲しかったもん」
「なら、良かった」
私はここに居させて貰ってもいいのかな?
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