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Story 07.ライナスの毛布。
「そうなの?意外ー!」
猫のぬいぐるみの名前はラッキーちゃん。
真ちゃんと遊んでいた頃、真ちゃんのお家に遊びに行った時に真ちゃんがくれたらしい。
「それから一緒に寝てたんだけどね…連れてくのおかしいかなって思ってお留守番してもらってたん」
もう、いちいちかわいい!
小学校の高学年になってお友達にぬいぐるみと寝てるのはおかしいって言われたらしく、ぬいぐるみと寝てることは誰にも言わなかったんだって。
だから、うちに泊まりに来る時も連れてこようかと思ったけどおかしいと言われるかもしれないし、それをラッキーちゃんに聞かせたくなかったんだって。
けど、割り切って(?)長い外泊を決めたからどうしても連れて行きたかったと言った。
「ラッキーちゃんはきーちゃんの大事なお友達なんだねー」と言うと頷くきーちゃん。
ホント、かわいい。
「でも、みんなには内緒にしててね」
この歳でぬいぐるみを持ち歩くことをおかしいと自分が言われるのが嫌ではなく、ラッキーちゃんが聞いてしまうのが嫌だともう一度言った。
これは照れ隠しで言ってるわけではなくて、本当にラッキーちゃんに聞かせたくないと思ってるように聞こえた。
「大丈夫だよ。真ちゃんなんか喜ぶと思うよ。自分があげた猫ちゃんを何年も大事にしてくれてるんだから」
「本当に?」
「大丈夫だって。そんな小さいカバンに入れてたらラッキーちゃんだって苦しいよ」と言うときーちゃんは嬉しそうにラッキーちゃんを抱きしめた。
家に帰ると出勤だった旦那と真ちゃんが帰宅していた。
さて、真ちゃんはラッキーちゃんに氣が付くかなーとちょっと観察。
「どないやった?」
旦那は一応氣になってたらしいので、無事お母さんに会って挨拶をして連絡先を渡したことを報告。
ソファーに座るきーちゃんが抱くラッキーちゃんにも氣付いたらしく説明すると「ライナスの毛布?」と言った。
何それ?
スヌーピーの漫画に出てくる毛布を抱いた男の子ライナス君から来た言葉で、不安だったりした時に自分を落ち着かせる為に常に何かその子にとって特別なものを持ち歩くんだって。これが無いと精神的に落ち着かなかったりするという子はわりと居るらしい。
旦那が言う通り、ラッキーちゃんを連れてきてからのきーちゃんの表情はいつもよりも柔らかだった。
「あれ?」
ご飯を食べに来た真ちゃんがきーちゃんを見て何かに氣が付いたようで、ソファーの方に行った。
ラッキーちゃんに氣付いたかな。
「ラッキー、あれ?ハッピー?いや、ラッキー?」
真ちゃん、ラッキーって言ったりハッピーって言ったり何かおめでたいヤツになってるよ。
「ラッキーちゃん」
ラッキーちゃんに氣付いたのが嬉しいのかきーちゃんはラッキーちゃんを抱きしめながら嬉しそうに言った。
やだ、ホントかわいい。
真ちゃんはラッキーちゃんの事を覚えていた。夜の晩酌タイムに詳しく話を聞けた。
小学1年生のきーちゃんは夏休みに入るとおばあちゃんの家に行くと言っていたけれど、おばあちゃんの都合で予定がズレてしまったらしい。
おばあちゃんの家に行くまでの間、いつも割と早い時間から真ちゃんの住むハイツの裏にある公園で1人で遊んでいたきーちゃん。
土曜日で学校が半日の時もそうだったんだけど、お昼ご飯を食べてる様子がなかった。
毎日朝から公園や神社で過ごして夕方暗くなる直前に帰るまで何も飲んで無いし食べてないのが氣になって、声をかけられる日は声をかけてジュースを買ってあげたりパンをあげたりしてたらしいけど、その日はたまたま何も持ってなかったからお家で遊ぼうと誘った真ちゃん。
「やだ、聞き方によったらすんごい犯罪の香りがするー」
「アホちゃうの?」
声をかけたのが真ちゃんで変質者じゃなくて良かったよね。
当時まだまだ小さかったとは言え、付いて行ったきーちゃんの事が心配になってしまった。
その時に飾ってたラッキーちゃんを見つけたきーちゃんはとっても氣に入ったようで、家に居る間ずっと抱いてるもんだからあげたんだって。
「なんでぬいぐるみなんて飾ってたの?」
「そこ、触れる?やだわぁ」
当時付き合ってた彼女にプレゼントするつもりで用意してたものの猫のぬいぐるみなんて要らないと言われた上にフラれたけど、捨てるのが忍びなくて飾ってたとか。
ドンマイ中学生。笑
そんな曰《いわ》く付きの猫のぬいぐるみだったけど、きーちゃんには毎日一緒に寝て落ち着かせてくれる大事なライナスの毛布となったわけだ。
なるほどなるほど。
「名前って誰が付けたの?きーちゃん?」
「名前付けないとって話をして…確か一緒に考えたんと違ったかな」
「でもまだ持ってたんやなー」と真ちゃんが言うから、昼間大事だから連れて行きたかったと言ってた話をすると何だか嬉しそうだった。
リビングから、ラッキーちゃんと寝るきーちゃんが見えた。
高学年になって、お友達にぬいぐるみを抱いて寝るのはおかしいと言われたことを氣にしていたきーちゃん。
それをラッキーちゃんに聞かせたくないと言ってた。
お人形遊びで擬人化することはあるかもしれないけど、きーちゃんの口ぶりではごっこ遊びには思えない。
食事の時も膝の上に置いていて「やっと一緒にご飯食べられるね」と話かけていた。
時々感じていたけど、きーちゃんは年齢よりもずっと幼い氣がする。
きーちゃんはラッキーちゃんをいつも抱いて過ごすようになった。
そのおかげか、今まで私にも作っていた壁というかどこか他人行儀な素振りも見せなくなってライナスの毛布の威力を知った。
魔法使いの飴を覚えていたこともそうだし、ラッキーちゃんをずっと大事にしているのを知ったせいか真ちゃんはきーちゃんのことをとっても可愛がって面倒を見るようになっていた。
真ちゃんもずっと妹が欲しかったらしく、2人で「妹、最高!」と言っていたのを見て旦那に冷めた視線を送られたりもしたけど、妹が可愛いのは仕方ない。
「居ない!」
休日、天氣が良かったのでみんなでアスレチックのある公園に行った日。
アスレチックで遊び終わったきーちゃんが戻ってくるなり言った。
「ラッキーちゃん居ない!」
遊びに行くからお弁当を入れたカバンや上着と一緒にシートの上に置いていたラッキーちゃんが戻ると居なくなっていた。
確かにお弁当を食べる時まできーちゃんの膝の上に乗ってたラッキーちゃん。
アスレチックに行くのにも連れて行こうとしたけど、真ちゃんに「途中で落として汚したりしたらかわいそうやで」と言われてお弁当のカバンの上に置いていたのも見た。
それから、きーちゃんと真ちゃんはアスレチックへ。
私達はほとんどシートの近くに居てた。
「探してくる」と言ってきーちゃんは走り出す。
私達も荷物をひっくり返して探すけどどこにも見当たらない。
平坦な場所だから転がって行くとも限らないけど念のため周りを探したけど見つからなかった。
ずっとシートのすぐ横でバトミントンしたり本を読んだりしてたしなぁ。誰かが持ってくとは考えられないよね…。
あ、一回トイレに行く時、弁当の入ったカバンと上着だけだし大丈夫だろうと言って離れたわ。
旦那も同じタイミングでタバコを吸いにいくと離れた。
その時に誰か持って行った?
ぬいぐるみだけ?
でも、他に無くなってるものは無い。
「どうしよう。大丈夫だと思ってたのに」
きーちゃんの大事なの分かってたのに。
「それは仕方ないやんか。誰も古いぬいぐるみなんて持ってくって思わんし」と真ちゃんが言ってくれるけど見つからなかったらどうしよう。
結局探し回ったけど見つからず閉園の時間になってしまった。
旦那が管理事務所へ行って紛失物の届けを出しに行ってくれたけど、ラッキーちゃんが見つからないきーちゃんは見てるだけでも悲しんでるのが分かった。
「きーちゃんごめんね。一緒に連れてけば良かった」と謝るけど、きーちゃんは「私が連れて行かへんかったからねーさんのせいじゃないよ。謝らないで」と言った。
駐車場に向かう間もきーちゃんはラッキーちゃんを探す。
「あ!!」
駐車場近くのゴミ箱の中に白いものが見えた。
きーちゃんは走ってゴミ箱まで行こうとするけど2、3歩進んで止まってしまった。
「どうしたん?」
「怖い。ゴミ箱の周り変!でもきっとラッキーちゃんだと思う」
ゴミ箱の周りを見るけど、変わった事は無い。
「何かドロドロがある。なんだろ、毒の沼みたいなやつ」
もちろんゴミ箱の周りはアスファルトで。
「見てくるわ」と真ちゃんが歩き出すときーちゃんも後を追うけど、まっすぐに歩けば良いのに時々水溜まりを避けるようにジャンプしたり横に避けたりして進んでいた。
私達もきーちゃんが見つけたゴミ箱に向かう。ゴミ箱の前で2人が立っていた。
「あった?」
声をかけると、真ちゃんが振り返って頷くけど何だか様子がおかしかった。
「何これ、酷い」
ゴミ箱の中でゴミと一緒に捨てられていたラッキーちゃんだったモノ。
縫って直せるとは思えないくらいにバラバラで踏みつけられたのか靴の跡もある。
ラッキーちゃんの中綿だと思うものが周りに飛んでいた。
無くなった場所から離れているし間違って持って行かれたとしてもこんなにバラバラになる訳がなく、明らかに切り刻まれた痕。
ラッキーちゃんが見つかったこと、こんな悪質なことがあったのを知らせるために旦那が管理事務所に向かってくれた。
きーちゃんはゴミ箱の前で何も言わずに立っていた。泣かないようにしているのか唇を強く噛んでいるけど、目からは大粒の涙がたくさん溢れている。
すぐに管理事務所の人も来て様子を説明するとこの連休で他に何件かおもちゃが壊されて捨てられていたという報告があったと教えてくれた。
真ちゃんが拾ってもいいか事務所の人に確認した後ラッキーちゃんを全部拾う。
きーちゃんは真ちゃんからラッキーちゃんを受け取ると着ていたパーカーに包んで「ありがとうございました」と管理事務所の人に言って車の方に歩き出した。
帰り、車の中の空氣はとても重たくて、時々きーちゃんの鼻をすする音だけが聞こえていた。
誰がこんな悪質なイタズラをしたんだろうと思うと怒りがわいてくる。
家に戻るときーちゃんと真ちゃんはお風呂場にラッキーちゃんを洗いに行った。
小さく切られてしまった布地を一枚ずつ洗っていた。
その間もきーちゃんは黙ったままで、時々鼻をすすりながら涙を拭いて洗っていた。
「ねーさん、何か小さい箱ある?」
きーちゃんがリビングに来て言った。
ちょうどアキちゃんが一度帰ってきた時にお土産にくれたお菓子の可愛い箱があったからそれを渡すと「ありがと」と笑顔を見せた。
きーちゃんは箱にラッキーちゃんを入れると庭に出た。
庭には先に真ちゃんが出ていて端の方で穴を掘っていた。
そうか、ラッキーちゃんを埋めてあげるのか。
知らない人からしたらただのぬいぐるみかもしれない。
けど、きーちゃんには大事な大事なお友達だった。
「きーちゃん、きーちゃん。ちょっと待って!」
きーちゃんを呼び止める。
「ちょっと待っててね、まだラッキーちゃん埋めないでね」
2階の自分たちの部屋に行ってクローゼットからきーちゃんの好きなピンク色のスカーフと、サテンのリボン、小さいクマのぬいぐるみのキーホルダーを取りに行く。
箱に入れるだけよりも良いかと思って。
きーちゃんに渡すと「これねーさんの大事じゃないの?」と言ってくれる。
「クマちゃん居たらラッキーちゃんも寂しく無いでしょ」
箱にキーホルダーを入れてスカーフで包んでリボンを結ぶ。
きーちゃんは小さな声で「ありがと」と言ってくれた。
箱を埋める。
「今までありがとう」
きーちゃんが小さな声で言った。
きーちゃんの頭をなでるときーちゃんは涙をこぼしながら少し笑った。
家に入るとさっきまでリビングに居てた旦那が居ない。
2階に上がったのかと思って見に行くけど居ない。
どこ行ったんや。まったく。
と少しイラッとしたがら階段を降りると旦那がどこかから帰ってきたところだった。
「タバコ買いに行っててん」
この人は…どこまでマイペースなのよ。イラッとを通り越してため息が出るわ。
「きーちゃんは?」
リビングに入った旦那が真ちゃんに聞く。
ホントだ。リビングに居るものだと思ってたけど居ない。
「ちょっと寝るって部屋行ったで」
また過呼吸起こしたりしてないかな。と不安になっている間に旦那がきーちゃんの寝ている部屋のドアを叩く。
少しするとドアが開いてきーちゃんが顔を出した。
泣いてたみたいで目が赤い。
仕方ないよね。
「きーちゃん、オヤツ食べへん?買ってきたで」とコンビニの袋を見せる旦那。
タバコにしては袋が大きいと思ったら。
「どっちにしようー」
テーブルに並んだたくさんのアイスとチョコを見て悩んでるきーちゃん。
タバコ買いに行ったって言ってたけどこっちがメインだったんじゃないの?
ひやかしてやろうかと思ったけど、私たちの分も買って来てくれてたからひやかすのはやめた。
「両方行ってまえ。今日は特別やで」と旦那。
「ありがと♪」
きーちゃんは、ありがとうと言って欲しい所でもまず「ごめんなさい」と言う。
けど、今日は「ありがとう」と言った。
ようやくきーちゃんは何でもかんでもごめんなさいを言わなくて良いんだよと分かってくれたのかな?と思ったものの、逆に心配になった。
ご飯の後、大きいお風呂でスッキリ出来たら良いかと思ってお風呂屋さんに連れ出してみた。
「真ちゃんがね、連れて帰って綺麗にして埋めてあげよって」
ゴミ箱に捨てられたラッキーちゃんを見つけてショックを受けてるきーちゃんに言ったそう。
「このままやったらゴミと一緒に処分されちゃうからって」
「大事なラッキーちゃんはゴミじゃないもんね」
それにしても…悪質すぎる。
「あのゴミ箱の周りにね、何だろ。悲しいのと悔しいのと怒ってるのがいっぱい落ちてた」
ん?何それ。
「近くに行くまで分からなかったんだけど、飛び越えたやん。その時に分かった。悲しいのと、悔しいのと怒ってるって」
確かに水溜りを避けるようにゴミ箱に向かってたね。
きーちゃんには、怒りだったりが落ちてるように見えてそれを避けて歩いてたってこと?
怒りだとか、悲しみだとか悔しいだとか。
それって感情だと思うんだけど、それがカタチになって落ちてたの?
分からない。
「稀に視覚で分かるって人おるで」
お風呂屋さんから帰って、晩酌タイムに真ちゃんにきーちゃんが言ってた話をしてみた。
そうなんだ。
まさに「あなたの知らない世界」だわ。
「きーちゃんも霊能者とかになれたりすんの?」
真ちゃんが霊能者なのかどうかは知らないんだけど。
「どないやろな。霊だったりが見えるのとはまた違うし。きーちゃんやったら見ようと思えば見えるんやろうけど」
見ようとしたり、見ないってしたり出来るものなの?
「なんやろ、テレビやラジオに近いかもしれん」
そう言うものはテレビやラジオみたいに受信する感じらしい。
見たい番組にチャンネルを合わせるように自分が見ようとするものに合わせる。
これはある程度自分の力をコントロール出来る人の話。
普段幽霊が見えないのに見えるとかいう怖い番組であるのは、たまたまその幽霊のいるチャンネルに自分のチャンネルが合っちゃったから。的な感じらしい。
きーちゃんの場合、オバケにはあまりチャンネルが合わずに人の感情やその残りにチャンネルが合ってしまうから、そういったものが今日も見えたのではないか。というのが真ちゃんの見解だった。
「私も合えば見えるってこと?」
これは個人的な興味。
「合わせられるなら。そんなんに合わせられてもええことないでー」と笑う真ちゃん。
怖い話とか大好物なんだけどなー。