Another story 09-2.おばあちゃん。

私にとって、自分が見えている様子を誰かに話す。ということはとても勇氣がいることで、小さい頃から何度も繰り返すうちに「それは信用されず、むしろ排除されるもの」だから、これは話してはいけない。という学習もきちんとしていた。
いざ、ねーさんに「ここ最近見えている、感じているもの」を話そうとすると、信用できる出来ないとは関係なく勇氣が必要だった。
 
何度目か稲光が見えたタイミングで「今の真ちゃんはあんな感じ」と言ってみた。
今思えば、言葉足らずにも程があるけれど、ねーさんは「詳しく教えて」と理解を示してくれた。
途中のファストフード店に入って、ここ最近の自分の不調が真ちゃんの不調と関係あるかもしれないこと。
その時に感じるもの見えるものを話した。
それはとても拙くて、ねーさんはそれでも何度も何度も質問して理解しようとしてくれた。
 
それでも、自分の説明が拙いのか上手く伝わっていないようで、こんな訳の分からない話を理解してくれようとしているのに上手く言えない自分の語弊の少なさと表現の乏しさに自分が先にうんざりし始めた時「この話、おばあちゃまに話せる?」とねーさんが言った。
「おばあちゃま?」
「真ちゃんのおばあちゃま。真ちゃんのお師匠さんでしょ?ごめんね、私だときーちゃんの見えるモノも感じてるモノも想像もつかないねん。でも、おばあちゃまだったら、ちゃんと全部わかってくれると思うねん」
 
その言葉に一瞬怯んだ。
ねーさんに全く伝わっていなかったことではなく、ねーさんに話すことでも清水の舞台から飛び降りる思いだったのに、まだ一度しか会っていない真ちゃんのおばあちゃんに話すなんて目眩がしそう。
 
真ちゃんは、初めて会った時から自分の話を聞いて信じてくれた。
多分、ねーさんの言う通りおばあちゃんが真ちゃんのお師匠さんで、目に見えないモノを扱うことをおばあちゃんから教わってたから。
もしかしたら、真ちゃんと同じように信じてくれるかもしれない。
ねーさんがおばあちゃんに話せるか?と聞いたのは、だからだと思う。
けど、まだそんなに会ったこともない人に話すのは怖い。
 
もしも、信じて貰えなかったら。
もしも、こんないい加減なことを言うような人間と居るなんて。と言われたら。
もしも、おかしい奴だと言われたら。
せっかく居られるようになったここに居られなくなったら。
もし、もし、もし…
最悪の選択肢が並んで、それが自分の居場所を消してしまうかもしれない。という恐怖と、私が心細かった時一緒に居てくれた真ちゃんが辛いのに自分のことを真っ先に心配している自分自身が嫌になる氣持ちと。
話してみて、真ちゃんの現状がなんとかなるのかもしれない。という希望と。
 
「キリコも俺も美樹もきーちゃんの味方やからな、あっちに行かんとここにおったらええん」
「実は、俺なー魔法使いやねん。内緒やで。それで、この飴な、魔法使いの飴やねん。これ食べると、魔法使いを呼ぶことが出来るねん。ただ、魔法使いは透明になるマントを羽織ってるからきーちゃんには見えないねんけど、魔法使いはちゃんと来てきーちゃんの怖いもの全部消してくれるねん。だから、怖くなったら食べて魔法使い呼んでみ。」
 
真ちゃんの今日の言葉と、初めて魔法の飴をくれた時の言葉がふと聞こえた氣がした。
鞄に入れてた魔法の飴を食べて、魔法使いを呼ぶ。
私の弱い氣持ちを消して下さい。
おばあちゃんに、話す勇氣をください。
大丈夫、話したって、なんともない。
 
薄荷の味が通るころ、魔法使いはやってきて私の中のたくさんの「もし」を消して行ってくれた。
 
「おばあちゃんに話しても大丈夫かなぁ」
少し落ち着いて、ねーさんに聞いてみた。
「私が聞くより全然なんとかなる!言ってみていい?」
私の返事を待って、ねーさんはおばあちゃんに電話をかける。
「明日ね、おばあちゃまがうちに来てくれるって。その時、さっきのこと言ってね」
はやっ!
明日とか、はやっ!
話の流れの速さに驚き。
 


結局ほとんど眠れないまま朝を迎えてしまった。
一旦、大丈夫だと思ったけれど、やっぱり、最悪の選択肢が何度も何度も浮かんできて大丈夫だと言ってしまったことを後悔したり、
でも、役に立てるかもしれないというわずかな望みとが行ったり来たりして、結局夜明けを迎えてしまった。
 
リビングからコーヒーの香りがしてる。
たぶん、真ちゃん。
起きてリビングへ行ってしまったら、これから自分が見えるモノをおばあちゃんに言うけど、自分で大丈夫だと思ったのにものすごく怖い。
と弱音を吐いてしまいそうで起きたことを氣付かれないようにそのまま横になっていた。
 
弱音を吐くことで、この怖いと思う氣持ちがはねーさんに思い切って話したけど、自分がきちんと伝えることができなかったことを棚に上げてねーさんのせいにしてしまってる氣がしたのと、自分は何もできない役立たずなくせに一人前に傷ついてることをアピールしているようで、これ以上自分を惨めに思いたく無いという氣持ちと、いろんな感情がまた湧いてくる。
 
そのいろんな感情が、またいろんな色の水になって上から落ちてくるように感じる。
その水と一緒にいつもの黒いモヤモヤの雲がやってきて、またあの痛みを連れてくる。
足下から締め上げられながら体がひび割れるような痛み。
落ちる水滴の音は、感情の水なのか、自分の血なのか。
この水滴の音が止まったら、どうなるんだろう。
 
ボーッとそんなことを考えていると、足元に何かが触れた。
少しすると、傘に雨が当たるような音がすぐ隣でした。
 
音の方に視線を向けると、葉っぱの傘を持った小さなさるぼぼちゃんが立っていた。
昔、遊んでたなー。とボーッと見ていると、さるぼぼちゃんは葉っぱの傘を力一杯振って、その後ドアの方にぴょんぴょん跳ねていく。
 
えー、今はリビング行くの、ちょっとやだなぁ。
それでもさるぼぼちゃんは、ドアの前でずっとぴょんぴょん。
 
仕方ないなぁ。
ゆっくり起き上がって、リビングへ向かうドアを開けるとさるぼぼちゃんの姿は消えてしまった。
 
どこに行ったのか探しに台所へ行くとあの黒い雲がうごめいていて、その中で真ちゃんがうずくまっているようにも見えた。
雲からは明らかな悪意のようなものが感じられて怖い。
うずくまる真ちゃんの姿を見た瞬間、下から何かが勢いよく上がってくるような、電氣が走ったような、体中の毛が逆立つような感覚が走る。
 
下から上がってきた何かは、大きな水になってその場一帯の空氣を飲み込んだ。
 
ほんの一瞬。
文字通り水を打ったように静かになって。
大きな水は消えてしまった。
 
「今のきーちゃん?」という真ちゃんの声で我にかえる。
声を出そうとするけど、喉が貼りついてしまって声が出ない。首を横に振る。
私じゃないはず。
 
「ありがとう、助かったー」
真ちゃんはうずくまってた場所のままで座り込む。
「今のなに?真ちゃん大丈夫?ぼぼちゃんは?今の波なに?見えなくなるくらい雲が来てた」
 
聞きたいことだらけ。
何で今までは薄く透けるくらいだった雲があんなに濃く重たくなってたのか。
いきなり湧いた波はなんだったのか。
波が雲を消したのか。
ずっと前に居なくなっていたぼぼちゃんが何でまた姿を現したのか。
 
聞きたいことがありすぎるのに、返事を聞く前に急に腰が抜けて、耳の中がこもって何も聞こえなくなってしまった。
 
真ちゃんに手を貸してもらってソファーに移動するとねーさんたちが降りてきた。
真ちゃんはそのまま部屋に戻ってしまった。
ねーさん達には、さっきの一連の不思議な出来事には氣付いて無くて。
やっぱりあの水は、自分だけしか見えないのかー。と少し落ち込む。
 
約束の時間まで後1時間。
 
 
約束の時間になって、真ちゃんのおばーちゃんと先生が家に来た。
「早い時間にごめんなぁ。どうしたん、疲れてるやないの」と私の顔を見て言った。
おばーちゃんの表情はとても優しい。
 
「嬢ちゃん、もう少し待っとってな。先、真弥と少し話してくるな」
そう言って真ちゃんの部屋に入って行った。
 
もうおばーちゃん達は来てしまったから、今更やめますとは言えないけれど、ネガティブな想像がまた浮かんで来て怖氣付く。
「私たち上に居てるから、なんかあれば呼んでね」とねーさん。
一緒に居てくれるんじゃないの?
急に心細くなって、怖くなった。
 
「お待たせしてもうてごめんね」
私が寝ているお部屋で話す。
テーブルを挟んでおばーちゃんと先生が座る。
 
緊張しすぎて、呼吸が浅くなる。
心臓がバクバクして、本当に口から出てくるんじゃないかと思うくらい。
 
本当に言ってしまっていいんだろうか。
光の柱が割れる。
とっても縁起よくない氣がするし、それは真ちゃんかもしれない。
そんな縁起の良くないことを、真ちゃんのおばあちゃんに言っても大丈夫なんだろうか。
せっかく、来てくれたのに氣を悪くしてしまうんじゃないだろうか。
なんで、信じてもらえてる前提でいるんだろう。
信じてもらえないかもしれないのに。
 
「きいちゃんやったね、あんたの見えたもののお話ししてもらってもいい?大丈夫。誰にも言わへんよ」
おばあちゃんはお茶を飲むと、話をすることに思いっきり怖氣づいてしまっている私に優しい口調で言ってくれた。
 
それでも、いざ話そうとすると喉の奥が張り付いたように声が出ない。
「きいちゃんのええ時に言うてくれてええよ。大丈夫」
おばあちゃんの言葉に意を決して話そうとした時、またいつもの黒い雲の空氣がして耳鳴りが始まる。
 
いつもよりも強く痛みが体を走って座っているのも辛い。
「わかるんやね。これはかわいそうやわ。ホンマにあほやわ真弥は」
おばあちゃんは、そういうと窓を開ける。
「大丈夫やからね。小津、真弥連れてきて」
「大丈夫や。怖いことあらへんで。頑張ったなぁ。」
先生が真ちゃんを連れてくるまでの間、ゆっくりと私の背中を撫でてくれた。
おばあちゃんの手に撫でられたところから痛みが消えていくようだった。
 
真ちゃんが部屋に来ると、「あんたも座りなさい」と言う。
「ほんまに世話やける孫やわ」
と言うと大きく息を吸って、一度手を叩く。
その音で、黒い雲の氣配も体中の痛みも嘘のように消えてしまった。
おばあちゃんは、一度大きく息を吐くとまたさっきいた場所に座った。
 
「ほんと、だらしない。なあ、真弥」と言って笑う。
真ちゃんを見ると「何も言うことはございません。その通りです」とバツが悪そうに言った。今まで、完璧な大人だと思っていたので新鮮に見えた。
「きいちゃん、あれがわかるんやね。きいちゃんが見えたり感じたりするそのままを話してもらえへんかな?」
 
真ちゃんがいるのに?
本人の前で言ってもいいんですかね?
早く言ってしまえばよかったと後悔した。
いい意味ではないとわかっていることを本人の前でするのは、確実ハードルがもう一段上がってる。
 
「今のでだいたいわかったんやけどね、同じ物でも人によって見えたり感じたりするのが違うことがあるんよ。だからきいちゃんが見えたり感じたりするそのまんまを教えてくれた方が、もっとはっきりとわかると思うの」
窓から風が入ってくる風が、心地よく焦りを流していってくれるように思えた。
 
「初めておかしくなったのは、梅雨くらいの時で」
昨夜、ねーさんに話をしたけれど多分出てくる勢いのまま話をしたから、伝わらなかったのかもしれない。
なるべく、勢いのまま話さないように。
 
 
夕方になると、頭が痛くなったり氣持ち悪くなったりして、そうなると、黒い氷みたいな、水が落ちてくる。
真ちゃんが飴をくれたから、それを食べると楽になるんだけど、ここ(眉間)と首の後ろが急に痛くなって。
痛いっていうか、中で何かがはじけたみたいな。
なんだろうって思ってると、真ちゃんのいるところに大きい光の柱が見えて、また弾けたみたいに痛くなったら、その光の柱が裂けたみたいになって。
 
しばらくは、飴を食べたら痛いのもマシになってたから大丈夫だったんだけど、やっぱり一日何回も痛い時があって、そのたびに光の柱がちょっとづつバラバラになっていった。
それくらいから、痛くはないんだけど、黒い雲も見えるようになってきた。
 
最初眉間と首の後ろが痛いだけだったんだけど、足元からしびれたり、締め上げられるように痛くなるようになってきて。
光の柱がバラバラになったら、真ちゃんが居なくなるような氣がして、ねーさんたちに相談しようと思ったけど、言ってしまうのは縁起悪いことで、誰ももそんな事聞きたくないかもしれないし、言ったらダメなことかもしれないし、
もし、信じてもらえなくて、ここに居られなくなるのも嫌で怖くて言えなかった。
もっと早くにねーさんたちに相談してたら、真ちゃんは今朝みたいにならんかった?
今朝は立てないくらいやった。
 
おばあちゃん、あの光の柱は真ちゃんなん?黒い雲がくると真ちゃんはバラバラになるん?もっと続いたら、光の柱が全部崩れたらどうなるん?真ちゃん、居なくなるん?
痛いのも、怖いのも、我慢したら、
光の柱が壊れるの、止められる?
 
 
ここまで一氣に言うと、呼吸が乱れだしているのに自分で氣がついた。
多分、このままだとまた過呼吸になる。
そう氣付いて、少しゆっくり目に呼吸をするようにした。
それでも、手がしびれ始めて頭が重くなり始める。
真ちゃんがゆっくりと背中を撫でてくれるので、それに合わせて呼吸をするようにする。
 
「ありがとう。長い事、一人でよう頑張ったなあ」
「きいちゃんが、痛いいうのも、怖いいうのも、何も我慢することあらへんよ。この痛いのも、怖いのも、きいちゃんのモノやないねんから。これはな、真弥が自分で何とかせなあかんモノやの。なのにこんな小さい子に…」
そう言っておばあちゃんは煙草に火をつけた。
私は、ふうっと吐き出される煙がゆっくりと上るのを目で追いかけた。
 
 
我慢しても何にもならないんだろうか。
私は、魔法使いになれないんだろうか。
学校が怖くて、どこにも行けなかった時に
助けてくれた魔法使いを助けられない?


やっぱり、私は、役にたたない。


ねーさんに、おばあちゃんにこの話をして。
と言われた時、ずっと長い間助けてくれていた真ちゃんの役に立てるかもしれないと期待した。
転校した後、飴がなくなっても、呼んだら透明になるマントをかぶって魔法使いは怖いものを消しに来てくれた。
ぼぼちゃんたちが完全に居なくなって、一人で怖いとき、姿の見えない魔法使いはやってきてくれて、怖くなくなるまで居てくれてたんだ。
大きくなって、姿の見えない魔法使いなんて居ないかもしれないと思った時、また私の世界は音と光と刺激ばかりの、一人の世界に戻ってしまった。
とても耐えられなかった。
音と光と刺激を操っている人たちがいることを知ってその場所に行ってみたくて、あの日のライブへ行ってみた。
もし、そんな人たちが本当にいたら、自分もそうなれるかもしれない。
もし、それが居ないのなら音も光もない世界へ行こうと思った。
 
あの日のライブで、音と光と刺激を怖いものではなく、楽しいもの、幸せにするモノに変えて行く姿を初めて見て、魔法使いは存在するのかもしれない。って思ったら、真ちゃんがまた私の前に現れてくれた。
また、やっぱり私の怖いものを消してくれる。
だから、まだ、怖いものも痛いものもたくさんあるけど、今は楽しいことがたくさんになったし、もう、光も音もない世界に行きたくなることも減った。
 
魔法使いは真ちゃん一人じゃなかったから、
私も魔法使いになりたい。
私の怖いものを消してくれた魔法使いが
今痛くてと苦しいんだったら、私がその痛みと苦しいのを消す魔法使いになりたい。
でも、どうしたらいいのかわからない。
だから、私が魔法使いになれる方法があるんだったら、怖いのも、痛いのも我慢するから教えて下さい。
 
 
誰にも言ってなかったことを一氣に言ってしまって、それがとても陳腐で滑稽なことを言っているのもわかって恥ずかしいし、消えてしまいたくなった。
恥ずかしさで上を向けず、右手に力が入った。
今すぐ、時間を戻すか消して下さい。と何度も心の中で神さまにお願いするけれど、その願いは聞いてもらえず、氣まずいまま時計の針の音を聞いていた。
 
真ちゃんが私の右手に自分の手をのせて、
「魔法使いの話、覚えててくれてんなぁ。ありがとう」と言った。
自分の右手を見ると力を入れすぎていたのか、爪の当たるところが赤くなっていた。
 
「ホンマに世話の焼ける孫でごめんなぁ。頼りない魔法使いやでホンマ」とおばあちゃんが笑う。
「きいちゃんが見た光はな、あれは真弥の魂やと思うわ。魂っていうのは見える時と見えへん時とあるけど、その黒い雲を払うために力を出した時にきいちゃんに見えたんや思うの」
「うちの家は魂やら氣やら、ほとんどの人には見えへんモノを見て、感じて、人様のお役に立てるように動くことを生業にしてる家やの」
おばあちゃんは、私のとてもとても滑稽な話を受け取ってくれて、ひとつづつ私の疑問を話してくれた。
見えないけれど、そこにあるモノがあること。
こういうモノがとても近い所にあるお仕事を最近真ちゃんが始めたこと。
 
「こういう仕事してると見えないモノが害をなしてくることがあって、だからいつも氣ぃ付けてないとあかんの。」
「きぃちゃんが言うように、光の柱が割れる言うのは魂が割れるということ。それが縁起悪いことって、教わらんでもわかったんやね。」
「自分がここに居られなくなるかもしれないと思うくらい、言いにくいことを言ってくれてありがとう。」
結局、私は何も出来ていないのにおばあちゃんは「ありがとう」と言ってくれた。
私の妄想かもしれないような話を信じてくれたのが、嬉しかった。
 
「で、あんた決まったか?」と、真ちゃんの方に視線を移す。
真ちゃんは、私の頭を撫でて「大丈夫、やる。1週間で片付ける」と言った。
何を1週間で片付けるのか、よくわからなかったけど声を聞いたら大丈夫な氣がしてきた。
「きーちゃん、ありがとうな」
そう言って真ちゃんは部屋に戻った。
 
おばあちゃんと先生と私。
また時計の針の音が大きく響いた。
先生のZippoの蓋を閉める音がする。
「きいちゃんが魔法使いになってくれる言うてくれたやろ。きいちゃんはどの魔法を使ったら真弥のアレが消える思う?」とおばあちゃん。
「分からないけど、私は飴を食べると楽になるから私も飴に魔法かけたらいいんじゃないかって思う」
「そうかそうか。なら、魔法の飴仕入れなあかんね。婆とお買い物に行かへんか?」とおばあちゃんは優しく微笑んだ。
用意をしている間、おばあちゃんはまた真ちゃんの部屋に行った。
 
おばあちゃんに「美樹さんらには婆とお買い物行くとだけ言うといて」と言ったので2人にそう伝えて家を出た。
家を出ると、車にもう1人おじさんが居た。
車の中で暑くなかったんやろか。
「この人はな、うちで色々してくれるんよ。見た目怖いけどホンマは優しいおっさんやから怖ないよ」とおばあちゃんは笑う。
 
おじさんが運転して、先生は助手席。
私とおばあちゃんが後ろに座った。
「ホンマはな、これは全部真弥一人でせなあかんことやの。真弥がこれからこれを生業として行こうと思うならな。けど、助けがあった方が早い。小さいけどとっても頼もしい魔法使いがおるんやもん。もう大丈夫よ。ありがとうね」
自分は何が出来るのかはわからなかったけど、おばあちゃんにそう言って貰えた事がすごか嬉しい。
「かわいい魔法使いさんがもう一段強くなるために魔法使いのおばばが教えるわな。」
「もう一つ強くなるにはな、きいちゃんが自分のことを強く確信すること。きいちゃんは誰でもない、きいちゃんなん。きいちゃんだけの力があって、きいちゃんだけしか出来ないことがある。誰が何と言おうが、きいちゃんの力は本当やの。それを疑ったらあかん」
「もう一つは、バリア言うんかな。自分を守ること。今回、きいちゃんが痛い思いしたんはあれはきいちゃんが実際に受けてる傷やないの。あれは真弥が受けたものを、きいちゃんが拾ってしまったん。よそのもんを受けて自分が傷つかんように。これは簡単。きいちゃんの周りに光を思うの。光がきいちゃんを守ってる。これを思い浮かべてみたらええよ。痛いのが来たら、光がそれを消してしまうんよ。これを強めるのは、やっぱりきいちゃんが自分を確信することなん。」
 
車は、和菓子やさんに着いた。
お店の中には、色とりどりのお菓子が並んでいて目移りしてしまう。
「この子の言うように作ってくれへんやろか」とおばあちゃんはお店の人がに言った。
「きいちゃん、どれがええやろか。真弥がこれやったら食べた時に魔法がかかると思うもん選んだって」と言って一緒に見て回ってくれる。
 
やっぱり、七色の飴と、、、
金平糖が目に入った。
金平糖って、星みたい。
おばあちゃんのさっきの光が守ってくれる。という言葉を思い出した。
キラキラ光る星。
「あと、これがいい」
金平糖も一緒に入れてもらうことにした。
 
何個も何十個もあったけれど、お店の人は1セットづつ包んでくれると言ってくれた。
それを待っている間、近くのお店を見て回ることにした。
お土産屋さんの前を通った時、なんだか楽しそうな音がした。
「ガラスかな?」
「それは水晶やな、どうしたん?」
「この子たちがね、楽しそう」
「そうなん。一度見てみようか」
お店に入ると、水晶の他にもたくさん石があってみんな楽しそうな音を出していた。
ちょっとうるさいくらい。
「石にもな、力がひとつひとつあるんよ。 同じ力じゃなくて、みんな得意分野がありますの」とおばあちゃんが教えてくれる。
お店の人がお念珠にもできますよ。と教えてくれて、石を並べてみてくれる。
よく見るとビーズみたいになってる。
これでブレスレットって楽しそう。
作ってみたいな。自分で作るの難しいのかな。
念珠は厄除けや心願成就のお守りにも使われるねんよ。とおばあちゃん。
「自分で作るの難しいですか?」
「テグスでつなげるので、ご自分で作る方もいらっしゃいますよ」
もうすぐ真ちゃんの誕生日だし、作ってプレゼントしたらお守りになるかな。と思って。
「並べてみてもいいですか?」
「長さ測りましょうか」とメジャーをだしてくれる。
「私じゃなくて…」
真ちゃんってどれくらいなんだろ。
私よりも大きいだろうけど…。
ビーズになってるならお念珠でなくても首から下げるアクセサリーにもできそう。
ピアスもできそう。
ちょっと目移りしてきたけど、全部は多分お小遣い足りない。
悩んでるとおばあちゃんが「決まりました?」とこっちに来る。
「ごめんなさい。色々欲しくってまだ決まってない」
お念珠にして誕生日プレゼントにしたいなと思ったけど、アクセサリーにもなりそうだなって思ったら選べなくなっちゃった。
と言うと、おばあちゃんは笑う。
「魔法使いになるお祝いに婆がプレゼントするから好きなだけ選んでええよ」
と言ってくれるけど、欲しいだけ選んだらびっくりするくらい高価なものになっちゃう。
遠慮していると「そのかわり、ひとつお念珠を婆にも作ってくれたら嬉しいわ」と言ってくれた。
おばあちゃんにもプレゼントする約束をして、プレゼントしてもらうことにした。
 
おばあちゃんと、真ちゃんと。
不思議なのは、おばあちゃんに…真ちゃんに…と思うと石が返事するみたいな音がする。
これが石が持ってる力なのかな。
 
お店の人がお念珠作る時に使ってね。とテグスもつけてくれた。
おばあちゃんが作るのにあるといい道具を売ってるお店を聞いてくれて。
教えてもらったお店で道具もプレゼントしてもらった。
 
「おばあちゃん、ありがとう」
「どういたしまして。孫と買い物してるみたいで楽しいわ。あれら全然一緒に行ってくれんからね」
あれらって多分兄ちゃんと真ちゃんだな。
大人になると一緒におでかけしないのかー。
せっかくおばあちゃんとすぐ会えるのに。
 
その後、4人でお食事に行って和菓子やさんに戻るとかわいく包んでくれていた。
私の魔法の飴。
嬉しくなって、おばあちゃんと先生と運転のおじさんとひとつづつプレゼント。
帰りの車の中でも、おばあちゃんは私が今まで見たり感じたりしたものの話を聞いてくれた。
 
「おばあちゃん、ありがとう」
車から降りてお礼を言うと、おばあちゃんも降りて「きいちゃん、あんたはホンマええ顔してる。声もええ。これはきいちゃんだけの力やからね。自信持ってええよ。真弥のこと頼むね」と頭を撫でてくれた。
「私もそうやし、真弥もやけど。美樹さんやキリコさんもみーんなきいちゃんの言うことを嘘やとは言わへん。だから安心したらええよ」
そう言ってくれた。
車を見送りながら、おばあちゃんも兄ちゃん抜けてたと思い出して、ちょっとおもしろくなって笑った。

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