Story 11.葛藤。

2人が初めて会ったのは(真ちゃんが)中学生の時で、きーちゃんは小学校に入ったばっかり。

連休に入る前、下校途中にある神社の近くを歩いていると神社から小さい『何か』が3つ出てきたのが見えた。
最初は猫か何かだと思って氣にせず進行方向神社の方に向かって歩いていたら何かを蹴飛ばしてしまった真ちゃん。
下を見ると「さるぼぼ」らしきものがひっくり返った亀みたいにジタバタ。

そこは動いてる!と驚くところだけど、そう言った耐性がある真ちゃんは妖怪か式神か?と思って害はなさそうだから元に戻してあげたそう。

「妖怪にしてはなんか存在が薄くて…式神にしても不完全でさぁ」と言うけど、
そんなん、わからないから!
「さるぼぼ」はしばらく真ちゃんを見つめた後、仲間を呼んで増えたそう。
(なにそのドラ◯エ)
そいつらは、全身を使って真ちゃんを神社の中へ呼んでいるようで真ちゃんは後をついて神社の中へ。

「神社ってやっぱ空氣かわるやん?」
いや、そんなんわからないから!

空氣が変わったんだけど普通の神社のような空氣でなくてさ、なんていうか、すごい拒絶感。
「なんじゃこれ!」って一瞬怯んで戦闘態勢に入って様子を伺ったら、奥にデッカい蛇みたいな龍みたいなのがいてそれがガンガンアウェイ感を出してて。
「これは無理!龍って神さんやん!」って思って下がろうとしたら、ぼぼ達がまた姿を現したんだって。
そしたら、その龍(蛇?)の拒否する氣は消えて、狛犬の方を向いた。
ぼぼ達も狛犬の方に向かいながら「ついて来い」とするし、龍(蛇?)もしきりに「こっちだ」ってしているように見えて。
付いて行こうかと思ったんだけど、神隠しとかになったら怖いなー。と思って様子を見ていたらぼぼ達が戻ってきて明らかに自分を呼んでたんだって。
龍も、自分の背中を押す仕草をするから狛犬の方へ行くと…
狛犬の後ろで女の子が寝ていた。
その子がちびっ子きーちゃん。
まさか神社で女の子が寝てると思わないし、なんでぼぼ達がその子の所へ連れてこうとしたのか分からなくなってちょっとパニックになったそう。

「小学生のフリした物の怪かもしれんやん?」って同意を求められても…だから知らないってば!

でもどう見ても人間の女の子で、ぼぼ達がペシペシその子を起こしてるけど、不審者で通報されても困るし小さい子の扱いなれてないし…で悩んでたら、その子が起きてぼぼ達と遊び始めたんだって。
どないしたものか。と悩んでしばらく見てたら、その子が真ちゃんに氣付いて急いで立ち上がると膝に乗ってたぼぼ達が絵に描いたように転がったのを見て思わず吹いちゃった真ちゃん。
しかも足元に転がって来たから、摘んできーちゃんに返すときーちゃんぽかーん。
「それ、ともだち?」って聞いたら、うん。って。
「見えるんですか?」ってすごく怖がりながら聞くから「見えるで。コイツらに呼ばれてんけど、なんでか聞いてくれる?」と怖い雰囲氣を頑張って消しながら言ってみた真ちゃん。
ちびっ子きーちゃん曰く「来てくれると思ったから」と言っていたらしい。
ぼぼ達の名前を聞いてみたら「名前はわからない」って言うから「名前を付けて呼んであげたらもっと仲良くなれるよ」と教えたらすごく嬉しそうに「考えます」と答えたちびっこきーちゃん。

その後ちょっと話をして別れた2人。
後で神社に入ってすぐに見た龍(蛇?)のことを聞けば良かったー。と後悔したそう。

それが氣になって翌日もその神社に寄ったけれど、きーちゃんもぼぼ達も龍も居なくて。
次に会えたのは1週間以上経った後。
登校中、1人で歩いているきーちゃんを発見。
下を向いてトボトボ歩いていてぼぼ達もその後ろをついて歩いていて、きーちゃんだとわかったそう。
声をかけてみたら泣いていたからめっちゃ焦ったそう。
聞いてみると「学校に行きたくない」

学校が怖い。
たくさんの怖い色があって、あと、尖った音もする。
その中に行くと、とっても痛いから。
お家の人に学校へ行きたくないと言ってみても「行きなさい」としか言われなくて。
でも家でも、怖くて。
自分が居ると、両親がトゲトゲしたり溶けたり。
呼んでも私は家族の中に居ない。
だから、家も怖いんだけど学校はもっとそれが大きいからもっと怖い。変なものも見える。
授業であんまり好きじゃないなー嫌だなーって思うものがあると、怖い色はドロドロの水になって上から襲ってくる。その水をかぶると、ぼぼ達とうまく遊べなくなる。

学校までの間そんな話を聞きながら門まで送った真ちゃん。
学校が見えた時、ポケットに飴が入ってるのに氣付いて「これを食べたら水が襲ってくることない魔法の飴だから食べて行ってみ」って渡して別れた。
自分も学校へ向かおうとした時にまたあの龍のことを聞くのを忘れてたのを思い出した。というオチ。


「で?」と旦那も意外と話に食いついてた。
こういうの、信じない人だと思ってたのに。


また数日経って、次にあったのは土曜日のお昼の公園。
またぼぼ達と遊んでたんだって。
よく見たらランドセルが置いてあって給食ないはずなのにご飯どうしたんだろうって。
ちょうど自分のお昼に買ってたパンがたくさんあったからあげようと声をかけようとしたら、ぼぼ達が先に氣付いてきーちゃんに教えたんだって。
きーちゃんは「飴、ありがとう」って。
言われた通り、食べてみたら本当に水も色も無くてびっくりしたって。
一緒にパンを食べながらまたきーちゃんの見えるもの感じるもののことを聞いていたそう。

途中で神社にいた龍のことを思い出してその話をしたらきーちゃんはその龍は見たことがない。という返事。
きーちゃんは知らないと言うけど、あの時きーちゃんのことを守るように境内に入るとめっちゃ拒絶されてたんだけどなぁ。と思っているとぼぼ達がどうも行ってみようと言っている氣がする。
きーちゃんに聞くと、そうみたい。と言うのでまたあの神社へ向かうことに。
神社への道中、ぼぼ達のことについて聞く。
氣付いたら一緒にいて、最初は少ししか姿を見せなかったけど1人で留守番していると出て来るようになった。
誰とも喋らなくても、ぼぼ達がいるから寂しくない。
神社について、鳥居の前に立っただけで前の拒絶感とは違う空氣を感じた。
物語だと、鳥居をくぐるとあの龍が待ってる。なんて展開だけどもその姿はなかった。
けど、ぼぼ達ときーちゃんが楽しそうに遊んでいるからこの件は置いておくことにしたそう。

その後、会う回数が増えて、その度にきーちゃんの氣が弱くなったりしているのに氣付いて回復させてたんだけど、二学期になると姿を見ることが無くなってしまったんだって。
最後に会った時、ぼぼ達の姿がなくて氣になってたけどまさかそのまま会えなくなるとは思ってなかった。
もしかしたら、もうこの世からいなくなってしまったのかもしれない。と思っていたんだけど、まさかまた会えるとは思わなかったって。
感謝されちゃったわ。
だから、再会した後に「生きてた」と安堵してたんだね。
「で、ぼぼ達は今も居るん?」と旦那。
めっちゃ食いついてるやん。
「ぼぼ達は、見てない。」
きーちゃんに聞いてもいいんだけど、もし何かがあって姿を消したとしたらそれを思い出させてしまうかもしれないから聞いてないと言う。
きーちゃん達が昔に会ったことがあるとは聞いていたけど、そんな話があったとは。
「事実は小説より奇なり。」ってこの事をいうのかしら。

「ごめん、で、ばーさんの話とどう繋がるん?」
旦那、空氣読めよー。
てか、今までの話から想像力膨らませて!
これだからオトコって。
「あ、そうか。そうやわ」と真ちゃんが話を続ける。

姿を見なくなって、もしかしたらもうこの世に居ないかもしれない。と思った時に「また守れなかった」ってものすごい後悔の念にかられて。
でも「また」ってなんだろう。って。
自分が思ったことなのに何故「また」と浮かんだのかはわからない。
前世でも何かしら縁があったのかと思ったけど、そんな小説みたいな話あるかい!って。
でも、その後驚く位に輪廻転生とか前世とかそう言った話が周りであって。
今で言うシンクロだよね。
だから、きっとあの子は過去にも縁があって護らないといけない人だったのかもしれない。
でも、何かの理由で護れずに生涯を終えてしまって後悔しているんじゃないかって思うようになって。
「そしたら、また次へ持ち越しだよなー」って思いつつも実はこの事をつい最近まで綺麗に忘れていたけど、私が初めてきーちゃんに会ったあのライブの1週間くらい前からほぼ達の夢をみてたんだって。
だから、あの日にきーちゃんに会ってすぐにわかったんだって。
「次へ持ち越しだと思っていたけど、これで果たせるかもしれない」
そう思ってこのシェア生活を自分はしないつもりだったけど、私がよくきーちゃんを連れ回してたからもしかしたらきーちゃんはここによく居るようになるんじゃないか。って思ってここに越してくることに決めた。
「だから、婆が言ったことをするのは自分の過去の思いを昇華できるかもしれないから、やってみたいとすぐに思った」
「けど、それがきーちゃんの為になるのかわからんから悩んでると」と続ける旦那。
「でもさ、何にもしないとこのままだと危ないんでしょ?」
何で悩んでるのかわかんない。
このまま苦しい思いをすることがわかっているのに、助けられなかったことを後悔してるなら、何で「きーちゃんの為になるのかわからない」って悩んでるのさ。
「やればいいじゃない」と言ってみた。

『今度こそ』っていう自分の思いだけだから。
きーちゃんが対処することを望んでいるのかもわからない。
婆が言っていることを教えるとなると、婆が『自分の寿命を迎えるまでに教えきれないかもしれない』というくらい時間がかかるかもしれない。
きーちゃんを今から10年も20年も自分と過ごさせることになる。
今はこうやってここで過ごしてるけど、高校生になったら、大学に行ったら?同じようにここで過ごしているか。
他に行きたい場所を見つけるかもしれない。
そうしたら、止めることはできない。
けど、中途半端で終わるほど危険なことはない。
そんな危険なことをさせるくらいなら、始めない方がいいと思う。

あー、なんか似たようなこと旦那も言ってたよねー。
似たもの同士か。
「じゃあ、きーちゃんに聞かなきゃ何にも始まらないじゃん」
もう空は明るくなりだしていた。
朝、きーちゃんが起きて話せるタイミングでこの話をしよう。私も話したいことあるし。と言って(ちょっと眠くなりだしてたし)話をしめた。

「で、プレゼントもらったのー?」と聞くと…
「なんか用意してくれてたらしいんだけど、忘れてきたって言うてたわ。笑」
ああ、きーちゃんってば。
そこがかわいいんだけど、忘れたらダメじゃん。

自分の結婚を決めたと同時に浮上してきたきーちゃんに対する不安。
自分の考えの浅さと、プライドと、きーちゃんを大切に思う氣持ちとの葛藤が始まった。

夜更かししていたせいか私も旦那も昼前に起床したけど、きーちゃんと真ちゃんはもう起きていて2人で洗濯を干していた。
きーちゃんがこの数日で家の事だいぶ出来るようになって感心。
きーちゃんと話している真ちゃんを見ながら昨日の話を思い出した。なんだかものすごく不思議な…ドラマでも見てるみたいな不思議な話。
ぼぼちゃんたちはおいといて(これも氣になるけど)前世とか長い縁とか。 やっぱりそんなものあるのかなー。
大好きだけどね、そんな話。
なんかロマンあるよね。
真ちゃんは「思い違いならめっちゃ恥ずかしい思い込みだからきーちゃん達には言わないで」って言ってたけど。

これからきーちゃんにこれからの対処方法を教えたいと思うなら、言った方が話が早いと思うんだけどなー。と思いながら2人をボケーっと見ていたら…
あら?あら、あら。
真ちゃんの腕と首にきーちゃんが作ってたアクセが。
ようやく渡せたのねー。と和んでいたら、きーちゃんが見慣れないTシャツを着ていることに氣づいた。
「真ちゃんにもらってんー」とニコニコ。
「お風呂掃除したらベッタベタなっちゃって」
私があげた服真夏にはちょっと暑いもんね。やっぱり下着だけでなくてもっと夏服も買えば良かった。
あれから買い物誘っても頑なに遠慮して買わせてくれないのよね。
「よし、おねぇさんが無理やりにでも買ってあげよう」と大きめなモールに向かうことにした。

大事なこと言うの忘れてた。
入籍の件。
ついでに役所に寄ってもらって婚姻届貰いに行ったらいいや。って思うまで忘れてた。笑
なので「17日に私ら入籍することにしたから。」 と車の中で行ってみた。
「お嫁さんになるのー?すごーい!!嬉しいーー!おめでとー!!」
きーちゃんの反応、嬉しい。
「お婿さんは?美樹ちゃん?真ちゃん?兄ちゃん?」
その問いが来るとは思ってなくてぶったまげた。
「誰やと思う?」と完全に旦那は楽しんでるし、きーちゃん悩んでるし。
悩まないで…。
「欲張りは1人に絞らんと全取りで何人ともするもんやねんでwww」と笑いながら言う旦那。
何を教えとる!嘘教えるな。

「美樹と結婚するんだよ」
「なーんだ。3人と結婚するのかと思った」
なんでよ…出来ないでしょ。普通。
氣を取り直して役場に婚姻届を貰いに行って、モールでお買い物。
 きーちゃんに服買ってあげるというと、「この間いっぱいもらったから」とやっぱり死ぬほど遠慮された。
誕生日プレゼントのお返しやったらいい?と真ちゃんも援護射撃してくれたんだけど、それも「さっきシャツくれたから」と全力で遠慮。
もーー。 ちびっ子は遠慮しない方が可愛いのにー。
頑なに遠慮するきーちゃんvs.何としても服を買ってあげたい私と真ちゃん。
「きーちゃん連れてどっか行ってくるからお前らで買うて来なさいな」と旦那。空氣読める子。

旦那のフォローのおかげで私も真ちゃんも各自でお店を回ってきーちゃんの服ゲット♡
時々おかんになった氣がするんだけど、おかんを越えておばあちゃんになってる氣がする。

帰宅後見せたら言葉を失う位に喜んでくれて、おばーちゃんもとい、おねーちゃんはとっても嬉しい♡
久しぶりにあれこれ服を買うとストレス発散出来るわ。と癖になりそうなのは内緒。
真ちゃんは、ワンピースと帽子とサンダルと鞄のセットを買っていて、お店のトルソーに飾ってあった全部を選んだそう。
「色違いが出てくるとか反則や…」
お店の人が「お色違いありますよー」って出してきたから悩んだらしい。笑
お店の人と相談しているうちに、サンダルと鞄も追加したみたいで「いいカモになってるやん」と旦那に言われてた。


翌日出勤した私たちはオーナーに入籍の報告をして、長めのお盆休みと婚姻届の保証人ゲット。
これでいつでも届けを出せる。
なんだか現実味が出てきて浮かれてきた。
が、連休後の仕事はハードで残業。
帰宅は随分と遅い時間になってしまった。

帰宅すると2人が居ない。
年頃の女の子を夜遅くまで連れ回して!とプリプリ怒りながら当番の仕事を終わらせてお風呂から上がると、旦那の電話に連絡があったそう。

私たちが帰る少し前に具合が悪くなったきーちゃんを実家の主治医の先生の所に連れて行ったとのこと。
熱が高いから点滴して帰るそうで。
最近は元氣だったから心配。

日付が変わる頃に顔面蒼白なきーちゃんが帰宅。
かなり具合が悪そうで、すぐに寝かせた。
昼前アクセサリー作りをすると言ってたけど、眠いから昼寝をすると布団に入ったものの夜になっても回復どころか熱が上がってきたから先生の所へ。
診察を受けたけど熱の原因は分からず、熱が高いから点滴して帰ってきたらしい。
「ずっと謝ってんねん」
具合が悪くなったこと、病院に行かなきゃいけなくなるまでになってしまったこと。寝ても治らなかったこと。手間をかけさせたこと。
それを聞いて先生は「ストレスかもしれんな」と言ったらしい。偶にそんな子が居てるらしい。
「昨日いっぱい服を買ってもらって嬉しかっただけ!」と言い張ってたきーちゃん。
先生は多分何か別の要因があるように思うけど、それを探るのは熱を下げてからにしようと言われたので一旦帰宅したそう。
前に先生の所に連れて行った時も謝ってた。
回復してからも、病院に行った時の話が出ると謝る。
「そんな時はね、謝るならありがとうって言ってくれると嬉しいな」とは言ったけど…。

所々、会話の端々で見える「自分がいてごめんなさい」
きーちゃんが抱えてるのは不思議な感覚だけでないのかもしれない。
まだついこの間まで小学生だった子がどんなものを抱えて耐えてるのか見当もつかず、年相応の喜怒哀楽を感じることが出来るようになるにはどうしたらいいのかも分からなくて漠然とした不安が改めて出てき始めていたのも事実。

旦那が言っていた『覚悟』ってこういうことだったのかもしれない。
だからって、これからきーちゃんが私たちが必要じゃなくなるまで一緒にいて出来ることをしてあげたいと思うのは変わらなくて。
年齢よりも大人びた所もあるけれど、時々びっくりするくらいに幼い。
私が過ごしてきた人生だけで計るには足りないけれど、ここまでアンバランスな子は居なかった。
きーちゃんの持っている感覚がそうさせているのかもしれないと漠然と感じながらも、どうしたら良いのかわからないもどかしさ。

この事は、しばらくの間私を悩ませ続けた。


お盆に入る直前、出張と言ってしばらく帰宅していなかったアキちゃんが帰ってきた。
入籍することに決めた事を言うと、「今更結婚すんの?」と微妙な反応。
「結婚式すんの?」とアキちゃん。
結婚式ねぇ。いる?
旦那を見ると「まだ決めてない」と。
「美樹さんや、そこはバシッと決めないと。女の子の憧れですよ」とアキちゃんの言葉に旦那は私を見る。
こっち見んな。
だって、店で先人たちに聞くと目が飛び出るくらいの出費があるっていうし 、ウェディングドレスも、そこまでの憧れはない。
目が飛び出るくらいの出費をするなら、別のもの買いたい。

「ライブハウスは?」ときーちゃん。
「?」
きーちゃんの方を見る一同。
「ねーさん、お誕生日パーティーをいつものお店でやってみたいって言ってたで」
あら、やだ。ポロッと言うたこと覚えてくれてたの?
おねえちゃん、ちょっと感動。
でも、ウェディングパーティーをライブハウスでするっていいかも♪
ワンマンは無理だから、仲のいいバンド呼んでさ。ちょっと良い衣装用意して... (そしたら今後も着られるし)
「やだ、それ最高!」想像したらつい声に出しちゃった。
「よし、そうしよう。」とリビングを出たアキちゃんはしばらくして戻ってきて、よく使うライブハウスの1つをおさえられたと言う。
おさえたって貸切?費用どうすんのよ。
かかる費用を一瞬ではじき出して現実に戻る。
「無理!」
「さっき最高って言うたやん」(アキちゃん)
「氣が乗りませんか?」(旦那)
費用のことを考えなきゃノリ氣ですよ。
でも、引越しでアレコレ買い直したりして貯金ないってばと言うと、「費用の事なら心配すんな」と旦那。
「母さんにこっちへ出る時になんかの時の為にヘソクリ貯めとけって言われてたからあるんですわ」
ナン…ダト!?
こっち出る時って何年前?5年?違う6年?もっとか。
「かーちゃんに言われたこと守ってたんや!」とアキちゃんに冷やかされる旦那。
ちょっと、どれだけヘソクリしてたのよ。
「ここぞって今やろ?」と笑うけど、びっくり。
誕生日パーティーでなくて、ウェディングパーティーが出来ることになっちゃった。
その後、急にウェディングパーティーの計画が進んで、私が言ってたライブ形式で出来ることに。

普通、結婚式って余裕もって準備するんだよね?
式は私の誕生日。12月真ん中。
3ヶ月強。そんなもの?
あと3ヶ月で出来るのかしら?と不安もありながらも、少し浮かれてたのも事実。
ここ2,3日で私の人生激変し過ぎじゃない?
もっとこう、穏やかに進むものじゃないのかしら。と思いながらも内心はかなりニヤけてたと思う。
きーちゃんたちもすごく楽しそうに一緒にプランを考えてくれるものだから、余計たのしくなっちゃった。


入籍前日、帰宅すると見慣れない車が家のガレージに停めてあった。家に入ると真ちゃんの実家の先生が来ていた。
きーちゃんが夕方倒れたらしく往診を頼んだみたい。泣いて錯乱状態だったのが点滴で落ち着いたきーちゃんは寝ていたんだけど、やっぱり顔色は悪い。
「どう見ても精神的なもんじゃないん?点滴って言っても何も薬剤入れてへんやん」とアキちゃん。
そうなの?
「適切な処置ですよ」と先生。だって、身体的には何も原因がないから。と続けた。
きちんと処置してるから大丈夫と本人が信じると、お薬が入っていない点滴でも落ち着くことがあるんだって。
そんなことあるんだ。知らなかった。と感心しつつ、何がきーちゃんをそこまで追い詰めたのか全く見当が付かずもどかしさを覚えた。

夕方、何があったのかアキちゃんと真ちゃんに聞く。
チケットの案を考えて色々作ってくれていたんだけど、急に「字が怖い」と言い出したきーちゃん。真ちゃんがお守りの飴をあげたんだけど、字がいっぱい溶けてる。空氣も溶けてる。と言った後錯乱状態に。
先生を待ってる間、錯乱しながらも謝るきーちゃん。
「普通やったらここまで謝らんし」とそこできーちゃんの倒れる原因が精神的なものじゃないかとアキちゃんは思ったそう。
「溶けたのは字だって言ったけどきーちゃん自身の氣なんだと思う」と真ちゃん。
話を聞いてたら想像はついてきた。
この間倒れた時もきーちゃんの氣が乱れてた。氣が乱れると倒れるみたいで、きーちゃんには自分の氣が乱れるのがわかってそれが溶けるように見えていて、乱れが治ると落ち着く。的な話をしてた。
今回、外から何かきーちゃんにとっての刺激を受けたわけではなさそうだから、何かしらの理由で自分自身が毒を作り出してしまって傷つけてる説が有力。

言うてるらしいことはわかったけど、わからん!笑

「どうしたらいいの?」と先生に聞いてみた。
「こうなったら専門外やわ。こうやって落ち着かせることは出来ても氣が溶けてるかどうかはわからんし、そんなん治す薬なんか無いしな。そこは真弥が詳しいんちゃうか?」
よくわかんないけど、真ちゃんの専門分野なのね。
「錯乱した時、事故にならんかが心配やわな。衝動的に舌を噛み切ったり飛び降りたり。無いとは言えん」と続ける先生。
「そうならんように安定剤を出したりするのは出来るけど、この歳からそう言うのを飲ませるのはどうかと個人的には思う。自分の娘なら出さんな」
先生の言葉で、急に怖くなった。
私、軽くきーちゃんにいつも「大丈夫」とか「頼ったらいいのよ」って言ってたけど、今日も留守番させてこうなってたわけで。
理由はわからないしどうしたらいいかもわからないし、全然面倒見られてない。
きーちゃんが私たちを必要ではなくなるまで。
その時は来るのか。その時まできーちゃんはちゃんと生きてられるのか、面倒見られるのか。

正直、面倒見ると覚悟していたはずなのにかなり揺らいでいた。可愛いだけで済まないプレッシャーや、中途半端に手を出すのが一番危険だと真ちゃんが言っていたことをようやく理解した怖さと後悔もあって目眩がしそうだった。

点滴が終わると先生は帰ったけど、私はまだ動揺したままで、真ちゃんたちに先に寝ていいと言われたけれど寝られそうになかった。
「明日さ、届けは出すけど実家帰るのやめとこうかな」と旦那に言ってみた。
きーちゃん、置いて2泊も家をあけるのが心配だった。
「明日は真弥に任せて行った方がいいと思うけどな」と返ってくる。
「それがいいと思うけど?俺、また明日からしばらくおらんけど」
アキちゃん、それ全然説得力ない…。
旦那もアキちゃんも心配じゃないわけ?と嚙みつこうとした時「予定通りで大丈夫」と真ちゃん。
「きーちゃんの『ごめんなさい』を増やしたくないから行ってきて」と真ちゃん。
私、よっぽど納得いかない顔をしてたのかもしれない。すごく冷静な真ちゃんの言葉に衝撃が走った。
けど、全部説明されなくてもきーちゃんが考えそうなことは想像がついた。
私だって『ごめんなさい』を増やしたくない。
けど、私はきーちゃんが心配だからついていたい。
ここでも葛藤。
この葛藤していることすらきーちゃんにとっては『ごめんなさい』なのも想像できて、複雑なまま布団に入った。
「朝になって熱が下がってたら予定通り。熱が下がってなかったら届けは出して実家帰るのは1日ずらそう」と旦那。
多分、私のモヤモヤを汲んで折り合いのつくところを見つけてくれたんだろう。
なんだか急に旦那が心強く思えて、この人と一緒になれることがとても嬉しくなった。