Story 14.幼さ。

随分と涼しくなって来た頃、夏以来何だかんだと帰って来なかったアキちゃんが帰宅。
「何、この荷物」
帰宅とほぼ同時に届く荷物に絶句。
2、3箱ではきかない。何個あるのよ。
「どれやっけかな」と次々とリビングで箱を開けるアキちゃん。
「真ちゃんが帰るまでに片付けないと怒り狂うよ、これ」と言ってる間に真ちゃんが帰宅。
「怒り狂わへんけどな…これ絶対自分で片付けろや…」
既に血圧上がり出してるやんか。
顔、引きつってるよ。
「何で出かける度に倍になって荷物増えるん?」
真ちゃん、それ私に聞かないで。

「これが…美樹やな。こっちは真弥で…」とようやく目的の物が見つかったらしく、袋を旦那と真ちゃんに投げる。
「キリコがこれやな」
私が袋を受け取るとアキちゃんは箱を閉めてしまった。
「きーちゃんの無いの?」
聞いてみた。
きーちゃんは「私のはいいよ!」と言うけど、アキちゃん、感じ悪いよ。
「きいのはな、あるある。ちょっと待ってや…」とまた次々と別の箱を開けるアキちゃん。
「これや!ホラ」と手招きしてる。
きーちゃんと一緒に行ってみる。
「どれ?」
何やらたくさん入っていて、きーちゃんも悩んでる。
「これ」
これって分かんないから聞いてるんでしょ。
「これってこの箱全部がきーちゃんの?」
「え!!!」
なんできーちゃんがそんなに驚いてるの。
「そう。見てみー」と言って中を出すけど…。
「何これ…」
アンティークな雰囲氣の本?や燭台、小さな箱がたくさん。1つ開けると綺麗な羽根ペンと黒と金色のインクが入ってる。
「兄ちゃん、この箱なに?」
装飾の入った箱に興味を示すきーちゃん。
「それはなぁ、何やっけ。開けてええで」
忘れたんかい!
「開けていいの?」
「これ全部きいのやから好きなの開けや」と笑うアキちゃん。

「兄ちゃん、これ何?」
「それタロットカードや。占いするねん。そうや、こんなんもあるで」とまた箱から小さい箱を出す。
「じゃーん」
「綺麗ーー」
きーちゃんは目をキラキラさせる。
「占い師セット?」
アキちゃんが取り出したのは水晶玉。
「スクライングすんねん。きいサイズやけどな」とアキちゃんが笑う。たしかにイメージより小さめ。
「タロットカード?これ開けていい?」
きーちゃんタロットカードに興味深々。
木箱の中にはまた箱。タロットカードは新品のようだ。
箱からカードを取り出したきーちゃんは真剣な表情で1枚づつ見てる。
「じゃあ、疲れたから寝るわー。きい、この箱全部きいのやつだから。おやすみー」とサッと自室に行ってしまった。
「って、片付けろやー!!」
アキちゃん撤収のあまりの速さにボー然としていた真ちゃんが我に返って叫ぶ。 ホント騒がしい兄弟だ。
「私、やる!」
真ちゃんの声に、カードに夢中になってたきーちゃんも我に返って真ちゃんに言う。
「きーちゃんは自分の箱だけ片付けたらええで」
「でもお土産こんなに貰ったから兄ちゃんの荷物片付けやる」
きーちゃん、なんていい子なの。


結局みんなで広げた箱を片付け、アキちゃんの荷物はアキちゃんの部屋に持っていく。
アキちゃんは爆睡中。普通起きるでしょ。どれだけマイペースなの。

「きーちゃん、他のも何あるか見てみようよー」リビングに戻ってきーちゃんに声をかけるけど、きーちゃんは「ねーさん開けていいよ」と言ってまたタロットカードを眺めてる。
エラい氣に入ってるね。
きーちゃんへのお土産はその他にもアンティークなデザインのボトルが数本や何故かシルバーのカラトリーやペーパーナイフ。そして装飾のついたカップやおそらく置き物であろうと思われるものが数点。
これまたアンティークなデザインのカバン。
小さい木箱にはいろんな種類の石が入ってる。
「アイツ蚤の市でも行ってきたんか?」と一緒に覗き込んだ旦那も言っている。
「一番下になんかある」
箱の底から紙袋。
出してみると「アンティークなワンピース?」雰囲氣あってかわいい。
「きーちゃん、これ可愛いよ」
「うんー」
タロットカードを眺めてるきーちゃん上の空。
そんなに氣に入ったの?


お風呂から上がってリビングに行くと、きーちゃんはまだソファーに座ってタロットカードを見ていて真ちゃんと何やら楽しそうに話している。
「なに?どうしたのー?」
テーブルに何枚かカードが置かれてる。
「これがね、ねーさんっぽくて好き♪」と見せてくれる。
女の人が椅子に座ってる絵。
私、普段全身黒だからこんなに華やかじゃないけど似てる?のかしら。
「音とね、空氣がねーさんと一緒♪」
空氣はなんかわかるけど、音?
「なんだろ、ふあっとしてるんだけど、真ん中はね響くの」
うーーん。分からない。
でも、なんか嬉しい。
「こっちはね、真ちゃんでしょ、美樹ちゃんもいる。兄ちゃんはね、これ」と1枚ずつ見せてくれた。
「カードでもみんな居るよー」とニコニコ。
「でも、これってどう使うの?」
「分かんない」
真ちゃんを見る。
「何でこっち見るねん」
「いや、何だか知ってそうだし…」
「どんなイメージやねん。でも、これは分からんなぁ」
ダメじゃん。
「明日アキラに聞けばいいやん」と旦那。
そうするしかなさそうだけど、アキちゃん、氣が乗った時じゃないと教えてくれなさそうなんだよね。

「教えたいけど、もう出ないとあかんねんな。次帰ってきた時ゆっくり教えたるからな。それまで箱に説明書入ってるはずやからそれ読んどき」

翌日、昼過ぎまで寝ていたアキちゃん。
起きてきたからきーちゃんが「教えて」と頼んだらこの返答。
なんて不親切。
「兄ちゃん、もう行くん?」
「せやねん、荷物届くから一旦帰って来ただけやから」
「そうなんー?次いつ帰ってくるん?」
「今度はそんなに長ないでー」
「そっかー」
きーちゃん、残念そう。
「そうだ、きい、映画観る?カバン入れたままやった。部屋持ってくの面倒やで観ていいで」とビデオをきーちゃんに渡すアキちゃん。
「何の映画?」
「怖いやつらしいで」
らしいって何なのよ。観てないんかい。
「観る!」
きーちゃん、人見知りちゃんだけど余り姿を見せないアキちゃんとはわりと喋りやすそうなんだよね。アキちゃんのキャラかしら。
てか、きーちゃんドラマはあんまり好きじゃないって言ってたけど、映画観るの?
あ、金田一耕助シリーズは氣に入ってたね。
あと江戸川乱歩だっけ?あんなのは観るから独特な世界があるのは別なのかしら。
そんなことを考えてる間にきーちゃんに「いい子にしとくんやで」と言って去っていくアキちゃん。
私たちもきーちゃんを小さい子扱いしてるかもと思うんだけど、アキちゃんもかなり小さい子扱いしてるよね。

「ホント、大丈夫?」
アキちゃんがまた出かけて行った日の夕方。
「だいじょーぶ♪」
今日は私はバンドの練習。
真ちゃんは復帰早々出張でいつもより帰宅は遅いと言うし、本当は旦那が早番の予定が急にシフトが変更になって遅番になってしまい、きーちゃんは1人お留守番。
夏休み中は真ちゃんが居たというのもあって、遅番であろうとも安心してお留守番頼めたけど、完全に1人と言うのは初めて。
「やっぱり一緒に行く?」
「大丈夫だよー、ついて行ったらお邪魔になっちゃうよ。真ちゃんダッシュで帰って来てくれるって言ってたし大丈夫!」
「私も早く帰るからね」
「ありがとー!行ってらっしゃい♪」

とは言っても心配は心配。
2時間の練習を終えてダッシュで帰る。
真ちゃんは帰宅しているようで少しホッとしつつ家に入ると真ちゃんが「ほら、キリコも帰ってきたで大丈夫や」とか言ってるし、きーちゃん明らかに号泣した後みたいだし。
「どうしたん!?」
「あれや、あれ」
真ちゃんの視線を辿る。
「テレビ?」
リモコンを取って電源を入れようとすると、きーちゃんは「いやだーーー!」と叫んで隣の和室にダッシュ。と思ったら、「暗いー」と帰ってきて真ちゃんに付着して「テレビつけないで!!」
何事?騒がしいな。まあ、この謎行動もかわいいんだけど。
「きーちゃん、ひとまずお風呂入っといでよ。まだ入ってないでしょ」
きーちゃんがお風呂中に真ちゃんに聞こうと思ったけど頑なに入浴拒否。
「なんでよ。このまま寝たらかわいいちゃん台無しよー」と言ってみるけど「やだ!絶対やだ!」と断固拒否。
珍しいな。
「ほらシャワーだけでいいから」
「やだー!それならねーさんか真ちゃんと入るー!」
なんでやねん。私はともかく真ちゃんと入ったらあかんでしょ。
埒があかない為、私が食後一緒に入ることにした。

「いやいやいや、大丈夫だから、ビデオやん」食事中、きーちゃんの謎行動の真相を真ちゃんから聞いた。
お留守番だったきーちゃん。
夕食をとったあと、アキちゃんが置いていったビデオを観ようとつけたら思いのほか怖くてリビングから逃走して洗面所に避難。
玄関だとテレビから映画の音が聞こえてきて洗面所になったらしい。
そのタイミングで真ちゃんがもうすぐ家に着くと電話をかけたら号泣してたから猛ダッシュで真ちゃん帰宅。そして程なくして私が帰ってきた。ということらしい。
何してんの。
しかも、テレビを消せばいいと言われたけど、「怖くてリビングに戻れない」というきーちゃんの言葉に真ちゃんは「1回ブレーカーを落としてみな」とアドバイスをして無理やり強制終了させてビデオを止めたらしい。
壊れたらどうすんの。どんなアドバイスしてるのよ。

仕事から帰宅した旦那も顛末を聞いて爆笑。
シラフの時に爆笑するとか珍しいわね。
よっぽど怖かったらしく、きーちゃんは真ちゃんに付着したまま離れない。
これ、夜中トイレの時起こされるパターンだわ。てか、この様子だと1人で寝られるのかしら。

想像通り。
「ねーさん、おトイレ行きたいねん。一緒にきて」
入浴後、まったりしているときーちゃんがこっそり話しかけてきた。
「そんなに怖かったの?」
「思い出すだけで怖いー」
中学生にもなったら、怖くても映画は映画だと割り切ってトイレなんか1人でいきそうなものだけど。
むしろ、一緒に行ってと頼んで冷やかされる方を嫌がりそうなのにね。

「お願いお願い。みんなで寝よー。一緒に寝て!」
私たち、きーちゃんに甘いよね。自分でも思う。
1人で寝るのは怖いからみんなで寝たいときーちゃん。
きーちゃんの寝てる部屋に4人。旦那、私、きーちゃん、真ちゃんで並ぶ。
端っこで寝るのは怖いから、端は旦那と真ちゃんが守ってて欲しいんだって。かわいい。けどちょっと狭いよ。
「何かね、きゅーってしてね、きゃーってなる」ときーちゃんは嬉しそうだけど、何それ。早く寝なよ。
「早よ寝なピエロ来るで」と旦那が笑いながら言うと「おやすみなさいっ。もう寝たからピエロ来ないで!」とダッシュで布団を被る。
やっぱりきーちゃんちょっと幼いなー。かわいいから良いか。

どれだけアキちゃんが置いていった映画怖かったんだろ。
ピエロの出てくる映画だったらしい。
きーちゃん寝た後に観たらだめかしら。
「きーちゃん、離してもらえませんかね。シャツ伸びる…」
「無理!だって寝たら真ちゃん部屋戻る氣やん?そっちのドアから入ってきたらどうするん?」
あ、さっき狭いからきーちゃんが寝たら部屋戻ろうと言ってたのしっかり聞いてたのね。
寝たんじゃなかったの?
「大丈夫、ピエロが来てもキリコが目からビーム出して一撃で倒すから」
ちょい待ち。目からビームって何よ。
「そうそう。そこらのピエロよりキリコのが強いで早よ寝な」
旦那までどういうことよ。
「2人ともピエロより先に倒してあげようか?早く寝なさい!」
まったく、きーちゃんもケラケラ笑うんじゃないの。
しばらくの間、楽しそうに話していたきーちゃんはいつの間にか真ちゃんにしがみついたまま寝てしまった。
「これ何とかなりませんか?」と真ちゃん困惑中。
普通に兄妹だとしても、そろそろこのお年頃でこれだけくっついて寝たら問題よね。
どうしたものか。
感受性が豊かだからなのか、まだまだ子供だからなのか。
きーちゃんの幼さを年相応にまで引き上げようとするべきなのか、それとも自然と成長するまで見守るべきなのか。
まだ決めかねていた。
「諦めてここで寝たらええやんか。けど、手ぇ出すなよ」と笑う旦那。
「アホちゃうか。子供には手ぇ出さんわ。アキラじゃあるまいし」と真ちゃんは言うけど、お宅ら兄弟の女癖の悪さ有名よ?
あっちこっちから声かかるし、彼女居たって他の女の子から声かけられるし。
あ、でもこの生活始めて夏の間は外に出られなかったのもあるけど、真ちゃんが女の子と遊ぶ姿をほとんど見てないな。
きーちゃんが居るから私たちもだけど、健全に遊んでいるというか、夜遊びもしないし女の子と一緒に居るの見ないな。
親心ってのが真ちゃんにも芽生え出したのか?


きーちゃんも随分と留守番を安心してお願いが出来るようになってきて、私も休日の出勤をするようになった。


土曜日の夕方。
珍しく旦那とシフトが同じで一緒に帰宅するとリビングできーちゃんが泣いて真ちゃんがなだめていた。
「どうしたの!?」急いできーちゃんの所に走る。
きーちゃんは私を見ると号泣。
「真弥何してん」とビールを開けながら旦那。
帰ってきて速攻飲むんかい。
「いや、何もしてへんねんけど…」
真ちゃんの言葉にきーちゃんは何か言ってるけど号泣し過ぎて何を言ってるか聞き取れない。泣きすぎて訳分からなくなってる?

きーちゃんの隣にはお氣に入りのバスタオルがある。
「きーちゃん、何でタオルがこんな所にあるの?」と聞いたの失敗。
少し落ち着いて来たようだったきーちゃん再び号泣。
「ほら、きーちゃん、キリコも帰ってきたでちょっと落ち着きな。大丈夫やから。ただ泣いてるだけやったらどういうことか分からんで心配やから。どっか痛いんか?」
見かねた旦那はきーちゃんを抱き上げてソファーに移動すると膝の上に乗せるとハグして頭と背中を撫でた。
しばらくそうしているときーちゃんはちょっと落ち着いた様子。
私はというと、やっぱり普段よその女が旦那に近づこうものならものすごくイラッとするのに、2人の姿を微笑ましく見ていて自分でもびっくりした。
やっぱりこの2人の姿はどう見てもパパが泣いてる娘をなだめてるようにしか見えないから?
けど、旦那よ、きーちゃんを赤ちゃん扱いしすぎじゃない?でも落ち着いたからいいか。

「おまえなぁ…アホやろ」
ようやく落ち着いたきーちゃんを膝の上に座らせたまま旦那が呆れてる。
あの後、ようやくきーちゃんから泣いてる理由を聞き出せた。

真ちゃんは、何と女の子を連れ込んでた。
親心が芽生えたのかしら?なんてホッコリした氣分返せ!
きーちゃんはお手伝いをしてくれた後、リビングの隣のきーちゃんの部屋で昼寝をしていた。
起きた時にはもう連れ込んでた子は帰った後だったらしいんだけど、問題はその後。
お風呂に入ろうとしたきーちゃんはお氣に入りのバスタオルがないことに氣付く。
昨日は使ってないから今日はあるはずだと探すと洗濯機の中で発見。


きーちゃんは普段はニコニコしてるし、みんなのことを真っ先に氣遣ってくれて温厚なんだけど、ある一定のものに強いこだわりがあるようだった。
何にこだわりを持つかまだ完全には理解しきれてなかったけど、そのこだわりの一つがこのバスタオル。
このバスタオルだけは、自分が使うと言って洗濯も当番でないのに絶対に自分で洗うし、誰であろうと触らせるのが嫌なようで畳むのも自分でやってるからきーちゃんのバスタオル用のスペースを確保したくらい。
新しいライナスの毛布なのかと思って、私を始め滅多に帰らないアキちゃんですら買ってから触ってもないし使っていない。
きーちゃんの専用バスタオルだと暗黙の了解となっていた。のに、きーちゃんの知らないうちに使われて洗濯機にあった。

使ってたのはどう考えても今日来てた子。
そら、旦那も呆れるよ。
きーちゃん居てるのに何してんの。
しかも結果こんなに泣かせてるし。


「オンナ連れ込むなし…何考えてんねん。きーちゃん居るねんぞ」と旦那。
ホントその通り。バカじゃない?
「お友達来るのはええの!でもタオル使ったー!私のタオルー。もういらん!私のやったのにーー!!」
思い出してきーちゃんは再び泣き始める。


連れ込んでどうこうではなく、きーちゃんの怒りどころは自分のタオルを使わせたこと。
さすがに真ちゃん謝りっぱなし。
ん?
あ、もしかしてきーちゃんタオルを何で使うことになったかは分かってない?


中学生。中学生…。
まだ早いけど分かっててもおかしくない。いや、この様子だと分かってないっぽい。
前もそうだった。
真ちゃんに何かされそうになったら電話しといでって言ったけど分かってなかったし、普通にみんなで寝ようって言うし、その時は真ちゃんにくっついてた。
さっき旦那が抱き上げた時も驚いた様子も嫌がる様子も無かった。


私が心配し過ぎなのか考え過ぎなのか。
でもやっぱりきーちゃんは年齢よりもずっと幼い。
幼いままでも良いと思っている。けど、この幼さが多感な年頃の子たちが集まる学校でどう作用するか。
ただでさえ辛い場所であるようなのに、これがもっときーちゃんを追い詰めるものになってないか。やっぱり心配だった。