-
- Jujuの書庫
- Story & Another story
- Story 14.幼さ。
- Another story 14-1.サーウィンの秘密。
Another story 14-1.サーウィンの秘密。
「きーちゃん、電話やで」
夕食後、ソファーでのんびりしていると美樹ちゃんがリビングに来て美樹ちゃんの携帯を渡してくれた。
「だれ?」
「アキラ」
兄ちゃんから電話って何だか珍しい。と思いながら出てみる。
「きい、今週末予定あるか?」
急いで当番表確認。
「晩ご飯のお当番」
「オッケー、無いな。ちょっとパーティ行かんか?」
晩ご飯のお当番だって言ったのに!
パーティって何?
晩ご飯のお当番だと伝えたのにスルーしたことの抗議とパーティについて聞いてみる。
お仕事関係の人にパーティに誘われたから連れて行ってくれるとのこと。お当番の件はねーさん達には奢るから何か食べに行けと伝えて。と言われた。
パーティってどんなだろう。
「楽しいで。迎えに行くから学校で待ってて。着替えもこっちで用意するから心配すんな」と兄ちゃんは私の返事を待たず迎えに来てくれるという時間を言うとすぐに電話を切ってしまった。
仕方ないからそのままねーさんに伝える。
「ホントマイペースにも程があるなー、美樹かけ直して詳細聞いて!」とねーさん。
美樹ちゃんがかけ直して聞いてくれて、ねーさんにオッケーを貰った。
週末、約束の場所に向かうともう兄ちゃんは到着していた。
車を1時間ほど走らせて、市街地を抜けた大きなお家が並ぶ住宅地の一軒の前に止まった。
テレビや本でしか見たことのないようなお家。
「すっごーい」
「すっごいやろ。あの家よりこっちの家売ってくれたら良かったのにな」と笑う兄ちゃん。
みんなで住む家を買わないかと言った人のお家なんだとか。
おうちから出てきた人に車の鍵を渡すと兄ちゃんは私を連れて家に入る。
お家の中も初めて見るようなお家でキョロキョロしているとご夫婦であろう2人が出迎えてくれた。
緊張してしまって上手くご挨拶が出来たのか不安だけど、兄ちゃんは挨拶をして少し会話すると慣れた感じで2階へ連れて行ってくれた。
「ちゃんとご挨拶出来てた?大丈夫?」
こんな別世界はもちろん初めてで不安になる。
「さっきみたいにしてたら大丈夫」と言ってもらってホッとした。
けど緊張は続く。連れて行ってもらった部屋に入るとこれまた別世界。
兄ちゃんは部屋に居た人に「言うてた『きぃ』な。よろしく」と言うと部屋を出ようとする。
「待って待って、兄ちゃん行っちゃうの?」
急いで引き止める。知らない人と2人とか無理だ。しかもどう見ても外国の人。氣まずいにも程がある。
「大丈夫、日本語喋れるから。全部任せてたら可愛く変身出来るで」
「えーーー」
不安を感じてくれたのか兄ちゃんは少し笑うと「分かった分かった。終わるまでおったるわ」と部屋にあるソファーに座ってくれた。
渡された服に着替えて、ヘアメイクをしてもらう。
時々、ねーさんがやってくれるけど、大きな鏡の前で何に使うのかと悩むほどのたくさんの道具にまた緊張しながらも浮かれ始めていた。
私が着替えている間に兄ちゃんも着替えていて、普段の兄ちゃんと違った雰囲氣がして浮かれた氣分が行方不明になりだした。
「最高。世界一かわいい」と兄ちゃんは誉めてくれた。
「12時なったら元に戻るかも」
多分、フェアリーゴッドマザーの魔法で変身したシンデレラはこんな氣持ちだったのかも。
「灰かぶり?」
「うん。シンデレラ魔法が解けたらみすぼらしい姿に戻るけど、私は…透明人間かな」
魔法がかかる前の姿を考えてみると、ねーさん達と過ごす今はちゃんとみんなに見えてるけど、それまでは透明人間だった。
家族の前では透明人間だけど、透明人間になっていたい学校では違うし、魔法が解けたら私は何に戻っちゃうんだろう。
「これって何のパーティなん?」
兄ちゃんに連れられて一階に行くとたくさんの人が居てやっぱり別世界。
「今日はサーウィンのパーティ」
「サーウィン?」
「なんや、えっとハロウィン?」
ハロウィンなら知ってる。
でも、ジャックオーランタンもコウモリも魔女もゾンビも居ない。
変わりにテーブルにはたくさんの果物や料理が並んでるし、参加してる人は仮装ではなくてどっちかっていうと正装に近い感じがする。
「元々はな、今年の豊穣とご先祖さんに感謝を捧げる祭りやねん」
「お盆みたいな感じ?お彼岸?」
「きぃは物知りやな。そう。そんな感じ。ここに集まってるのはある意味みんな家族でな、こうやって集まることが出来るきっかけを作ってくれた縁に感謝するパーティやねん」
ちょっとややこしいぞ。
何人もの人が兄ちゃんに話しかけて、兄ちゃんも慣れた感じで返す。日本語だったり外国語だったり。
普段の兄ちゃんとは違う兄ちゃんみたいで変な感じ。
一度にたくさんの人の中に居たせいか、多分始まってもないのに目眩がしてきた。
「疲れた?ちょっと座るかー」
フラフラしてきたのに氣がついてすぐにソファーに連れて行ってくれたけど、兄ちゃんは話をしてる途中だった。
「兄ちゃん、ごめんな…」
「プリンセスは謝らんの。かわいいプリンセスが最高の状態で居られるようにセッティングしてエスコートするのが喜びなんやで」
兄ちゃんって時々とっても不思議なこと言うね。と言ってみると大笑い。
「挨拶終わったら演奏も始まるしもうちょっと氣楽に居れるで」
「さっきのさ、透明人間言うてたやん」
管弦楽のコンサートが始まってしばらくすると兄ちゃんが話しかけてきた。
「コンサートやから喋ったらあかんの違う?」
「大丈夫やで。あっちでは普通に話してるやん」とテーブルの方を指す。
「BGMみたいな感じやから大丈夫やで」
そんなもんなん?
「それよりもやん、さっき魔法が解けたら透明人間って言うてたやんか。きぃは透明人間なん?」
少し前なら間髪入れずにそうだって答えたけど、今はどうなのか分からないな。
難しい。
「おとーさんとかおかーさん達の家では透明人間だけど、学校では透明人間なりたいのにならないし」
兄ちゃんは「なんやそれ」とちょっと笑って「どういうこと?」と続けたから、そのままを話した。
家族の中では、私が居ないこと。
学校では反対に居ないことになりたいのに、痛い言葉と空氣が襲ってくること。
それの原因は、つい見えないはずの子達と話してしまったこと。
私は何度失敗しても、学習出来なくて繰り返してしまうから。
「見えないはずの子ってどんなん?」
そうやって返ってくることなんて無かったから驚いた。
けど嬉しかった。
小さい頃に一緒に留守番していたさるぼぼみたいな『ぼぼちゃん』のこと、風船のこと、公園の木のこと、この間バーベキューに連れて行って貰った時に会ったチュウさんや羽根さんのこと。
「そのチュウさんは何て言ってきたん?」
「チュウさんと羽根さんは川から葉っぱのお船で降りてきてね…」
最初は私に氣が付かなかったみたいで石を積み始めた。
チュウさんたちは小さくて河原の石を運ぶのが大変そうだったから思わず石を取って手伝ってしまった。
チュウさん達は驚いたみたいだけど「仲間が出かける為の門を作ってくれないか」と私に言った。
チュウさん達に教えて貰って門を完成させると、チュウさん羽根さんにそっくりな子たちが現れて「ありがとう」とその門をくぐって消えて行った。
「きぃはその門を作れたん?」
「多分、作れたんだと思う。次の日にチュウさんに会った時『無事に渡せたよ。ありがとう』って言ってくれたから」
それを聞くと兄ちゃんは黙ってしまった。
やってしまったかもしれない。
聞いてくれて嬉しいからと調子に乗って話しちゃダメだったのかも。
後悔とネガティブが襲ってきた。
こんな変なことを言い出す氣味の悪い人間を家に置いておけない、出て行けと言われたらどうしよう。
自分でやっと居ても良いと言って貰った場所を消してしまったかもしれない。
後悔しているうちに、管弦楽の演奏は終わってピアノとバイオリンの演奏に変わっていた。
その音はとっても優しくて穏やかだったけど、後悔とネガティブが演奏に浸ることを邪魔してくる。
「きぃ」
続くであろう「もう家に帰れ」の言葉が降ってくる事に構えた。
「大丈夫や、そんな怖がらんでいいで。今、これを言ってしまったからまた透明人間に戻ってしまうとか思ったんやろ」と笑った。
違うの?
「頑張ったな。偉かった。魔法が解けても透明人間にはならんで」
思っていたことの真逆の言葉が降ってきて驚いた。
「ゆっくり話しよかー。ちょっと待ってて」と言って兄ちゃんは立ち上がって、演奏が始まる前に挨拶をしていた人の所へ言って何かを話していた。
ゆっくり話ってなんだろう。やっぱり出て行けって言われるのかな。でもさっきは頑張ったって。魔法が解けても透明人間にはならないって言ってた。
ネガティブな考えと、兄ちゃんが言ってくれてた言葉とが一氣にやってきて混乱する。
「上の部屋行こかー」と戻ってきた兄ちゃんに連れられてさっき支度をした部屋とは別の部屋に入った。
少しすると、お家の人が飲み物と食事を持ってきてくれた。
その人達が部屋から出たのを確認すると、兄ちゃんは一口お酒を飲んで「さっきの続きな」と言った。
混乱はネガティブな思考が勝って「出て行け」と言われることを覚悟した。
そんな私を見て兄ちゃんは「だから大丈夫。魔法は解けへん」と笑った。
「サーウィンにピッタリやなー」と言って笑うと「きぃは透明人間とかバンパイヤ、魔女とか鬼とか信じる?」と言った。
私は知らないうちに透明人間になってしまってたし、バンパイヤや魔女に会ったことはないけど居るような氣がする。
だって、チュウさんや羽根さん、ぼぼちゃん達、狛犬さんだって居る。
外国に行ったことがないから会ったことがないだけだと思う。
と答えた。
「きぃは透明人間だったって言ったやんか。俺もな、元透明人間やってん。今は違うんやけどなー」
兄ちゃんが元々暮らしてた所からこっちに来た時、長い間透明人間だったと言った。
「真弥はあんなんやろ、だから見えてるみたいやったけどなー」と笑った。
消えて居たい所で、何故か透明にはなれずに痛い言葉や空氣に襲われてしまうこともよく知ってると言った。
「どれがきっかけなのか分からずにまたいきなり透明人間になってしまうか怖いやろ」
ずっと前から私の中に居座っていることをサラッと言われて返事が出来なかった。
ねーさんと会って私がみんなと過ごしているのを見ていて、見えないはずの子たちを見て話しているんじゃないかと思ってた。
今日透明人間の話を聞いて分かった。
「アイツらは大丈夫やと思うけどな、それでもどうしようって怖いのは仕方ない。だから、約束する。もしアイツらにも見えんようになったとしても俺にはちゃんと見えるからそんなん怖がらんでええで。」
ねーさん達から消えてしまっても…。
「きぃに会った時は『きぃはちゃんとここに居る』って言ったる。絶対。だから一緒にいる時はそんな不安にならんでいいで」
ずっと言って欲しかった言葉と、わかってもらいたかった事と思い。
全部が一氣に降ってきて、時間が止まった。
「だからな、きぃも言って。約束して。帰った時『おかえり』って」
昔、自分はいつ透明人間に戻ってしまうか怖い。とその時に仲の良かった子に言った。
その子は「そんなはずはない。透明人間なんて居ない」と笑ったけど、次の日からその子の前から私は消えてしまった。
その代わりに転校するまで痛い苦しい言葉が刺さるようになった。
だから、この怖いということを内緒にしてた。
誰にも言わず、怖い思いが消えるのを待ってた。
これを言わなくても理解してくれて、それが消える言葉をくれるなんて思ってもなかった。
「本当はずっと一緒に居て毎日言えたらええけどな。もう少し待っとって。絶対この世界から助けたるからな」
兄ちゃんは何度もわたしはここに居る。と何度も言ってくれた。
私はサーウィンの魔法にかかったのかもしれない。
兄ちゃんと話を終えて1階に戻ると、パーティはもう終わってしまっていた。
「面白いもん見せたかったけど、しゃーないか。またみせたるな」と兄ちゃんが言う。
少し残念な氣がしたけど、それよりも夢のような出来事にまだ魔法は解ける氣配はなかった。
「アイツらは大丈夫や。そんな簡単にアイツらの前から消えへんからな」
帰りはパーティをしたお家の人が送ってくれた。
車から降りる時に兄ちゃんが言った。
「あと、今日話したことは絶対に内緒やで。大丈夫なヤツらでもどこからバレるかも分からへん。きぃを迎えに行く時までキリコにも言うたらあかんで」
繋いでくれてた手を離すと魔法が解けてしまう氣がして怖かったけど、私が開けるドアはねーさん達のいるおうち。
「魔法は解けへんで。大丈夫。おやすみ。良い子にしとくねんで」
兄ちゃんがそう言うと、車は走り出してしまった。
■関連Story