Story 15.初めての誕生日。

しばらく平和な日が続いた。
と言っても、きーちゃんは相変わらず私たちとは違う何かを感じているようだし、学校で向けられる悪意は一時よりは少しマシになったと言っているけどまだまだ落ち着きそうもないようだった。
数ヶ月も一緒に過ごしていれば大体の接し方にも慣れてきて、ここは苦手だろうな。とかこの後熱出して寝込むから用意しといた方がいいな。とか先に準備できるようになってきて、我ながら適応能力の高さに惚れ惚れしたり。
きーちゃんはとても繊細なタイプであると私たちが一緒にいるようになった頃真ちゃんから聞いたけど、メンタルな部分以外、身体も弱くよく寝込んでいた。
こんなに弱い子がよく今まで無事でいたと思うと、最初に出会ったライブの日に声をかけてみて正解だったともつくづく感じる。




12月に入って、いよいよ私たちの結婚式という名のライブもカウントダウンに入る。
ただ心配なのは、インディーズブランドを立ち上げている私のバンドのメンバーがドレスを作ってくれる予定になってたけど、4日前になっても届かない。
ヤキモキしながら仕事から帰宅すると、見慣れない靴が玄関に。
「もしかして♪」とウキウキしながらリビングの扉を開けると、メンバーの加奈子がきーちゃんと話をしていました。
「お待たせしましたー」と加奈子がテーブルの横にある大きめの箱を並べた。
開けてみると、さすがこっちに来てすぐに仲良くなった友。私のドンピシャ好みの真っ黒のドレスを作ってくれた。カタチもめっちゃ好き。
「めっちゃいい!超最高ー!」
早速、きーちゃんの寝てる部屋(リビングの隣)へ行って着替えてみる。
ピンクと白がメインの可愛らしい部屋に変身している。
少し前、旦那と真ちゃんと飲んでる時にそろそろきーちゃんのお部屋としてちゃんと揃えてあげたいよね。って話をしてたから真ちゃんが決行したのかしら。
って、今朝何も言ってなかったから驚くわ。
これだけ家具を揃えたら結構な出費よ?
私、一応主婦だから家計にシビアよ。それだけ生活費残ってるかしら。(我が家は各自決まった額を共同の生活費として入れるシステム)
そんなことを考えつつ着替えてる最中に旦那の帰宅した声も聞こえた。
ちょうどいいじゃないの。
化粧は仕事から帰ったままだけど、良しとしよう。
「どおーー?」と扉を開けると、「かーーーっこいーー♡」ときーちゃんは目をキラキラさせながら褒めてくれる。
旦那と真ちゃんは、ポカーンとしてて。
私の美しさにみとれたな。と思ってたら
「ウェディングドレス?葬式用でなくて?」と旦那。
はぁ?こんな派手な格好でお葬式行くかってーの!
「ウェディングドレス言うから白やと思ってたわ」と男子2人がヒソヒソ。
グレるぞ。


「どんな感じー?キツかったり逆にデカいとこある?」と加奈子は私の周りをグルグルまわって様子を見てる。
きーちゃんもそのもう一歩二歩後ろで同じようにグルグル。かわいい。笑


姿見でドレスを着た自分を見て、なんだか一段と現実味が出てきた。
入籍してしばらくは手続きとかで新婚氣分を味わったんだけど、テンション間伸びしてたのよね。
つい何度も鏡を見てしまう。
結婚式は興味ないって思ってたけど、私も女子だったのかもしれない。


加奈子は当日のヘアメイクもしてくれるので、打ち合わせがてらご飯を食べていく。
きーちゃんはあまり知らない人と食事をするのが好きでないみたいだけど、加奈子に服の作り方やデザインについて色々教えてもらっていて楽しそう。
けど、これ、きーちゃん夜中熱出すやつかも。先生から貰った解熱剤残ってるかチェックしとこう。


食事が済んで、打ち合わせに入る。
「きーちゃん、ちょっと出かけようやー」と真ちゃんに誘われて出かける2人。別に氣にしなくてもいいのに。


2人が帰宅したのは打ち合わせが終わって加奈子が帰るところだった。
「かなちゃん、また来てねー!」
「オッケー。今度は練習用の布持ってくるからね」と加奈子ときーちゃん、いつの間にか仲良し。
ちょっと安心。けど絶対熱を出す氣がする!
加奈子を見送って、一息。きーちゃんがゴソゴソと台所で何かしてる。
「そっちにはもう無いで」と真ちゃんが台所へ。
何が?
「持ってくるから、キリコの所で座ってな」ときーちゃんを連行して真ちゃんは部屋に。
きーちゃんを見ると、目が完全に二重になってる。
きーちゃんは熱が出ると目が二重になるから分かりやすい。
思った通り。(これは嬉しく無いけど)
真ちゃんは先生の出してくれた薬袋を持ってくる。
熱出す氣がしたからさっき先生に貰いに行ってくれたらしい。
さすが。お父さん越えてお爺ちゃんばりの可愛がり方してるだけあるわ。笑


薬のお水を取りに行って、その足できーちゃんの部屋にお布団を敷きに行く真ちゃん。
「おかんかお婆ちゃんだよな。」そんな真ちゃんの姿を見てボソッと呟く旦那。
奇遇ですな。似たような事思ってたよ。
「薬飲んで寝なさいな。布団敷いたから」ときーちゃんを布団へ連れて行こうとするも、珍しくきーちゃん拒否。反抗期?
「誕生日を布団で過ごすのは嫌やろ?ケーキも食えんで」と真ちゃん。


誕生日?誰の?きーちゃんの?
「きーちゃん明日誕生日?」と先に拾った旦那。
私、ドレスで浮かれてたのか?先に言いたかった。
「せやで。言うてへんかった?」ときーちゃんの代わりに真ちゃん。
「聞いてないってー!ホラ、早く寝て熱下げなきゃ。明日は誕生日パーティーしなきゃ!」とお布団に連れて行こうとするけど、きーちゃんは「もうすぐパーティーあるから…明日はいい」と言う。
そんな訳にいかないでしょー。誕生日だよ!ときーちゃんを布団へ連れて行く。
拒否されるかと思ったけど、大人しく布団へ向かうきーちゃん。
勝った( ̄▽ ̄)真ちゃんに勝ったわ。




翌朝、きーちゃんの熱は下がったけど、大事を取って学校は休ませた。親からの電話でなくても休ませられるのね。
欠席の連絡したけどいとも簡単に終わって拍子抜け。
お昼を用意して出勤。心配だけど、今日に限って誰もいない。
まあ、熱は下がっていたし随分と楽なようだし。
というわけで、私は昼で早退してきーちゃんの誕生日プレゼントを買いに行ってから帰宅することに。


お昼過ぎ、仕事を終えて帰ろうとすると旦那が通用口わきでタバコを吸っていたので、先に帰ることを伝えると、きーちゃんの誕生日、何も用意してなかったし、(どうせ私もプレゼント買いに行くだろうから)って早退したらしい。
やだ、過保護ねー。


誕生日プレゼントは、冬のコートにした。
「真ちゃん、ケーキ用意してるかなー」
「してるんちゃう?一応聞いてみる?」と旦那が電話して確認。
ケーキは今日の夕方、出張から帰ってくるアキちゃんが手配することになってるらしい。
ちょっと不安。
ちゃんと買ってくるのかしら。てか、ちゃんと夕方帰ってくるかしら。


心配もよそに、アキちゃんはちゃんとケーキを買って帰宅していた。
ケーキだけでなく、プレゼントとパーティーのお料理と部屋の飾り付けまでパーフェクト。
きーちゃんにはパーティーまで見せないよう「真弥の部屋に掘り込んだ」とドヤ顔アキちゃん。
堀り込んだって荷物じゃないんだから。と呆れていると、インターホンの音。
開けるとお花屋さんが大量のお花を届けてくれた。
「やっぱ誕生日やったらいるやろ」と再びドヤ顔アキちゃん。
いや、ホステスの誕生日じゃないってば。
アキちゃんが用意してくれたおかげで(飾り付けはお昼から仕事先の人に手伝ってもらったらしい)可愛く飾り付けされてるけど…
なんだろ、隠しきれない夜の空氣。
これ、シャンパンとかあれば夜のお店っぽいんですけど。と思ってたら、しっかり冷やしてるそうで。
大人組にはシャンパン、きーちゃんには大量のソフトドリンク。


アキちゃん、基本、パーティー好きよね。
誰の誕生日でも、今度の私たちのパーティーも率先して企画と手配してくれる。
おかげで、今度のパーティーで私が指示したのは呼びたい子たちと、ドレスくらいで済んだんだけど。
タイムテーブルみたらひとつシークレットなバンドがあるのが氣になるけど、それは楽しみにしてる。




飾り付けが完全に終わった頃、真ちゃんが帰宅。
真っ先に帰ってきてそうなのに、この着順は意外。
きーちゃんの誕生日プレゼントを買いに行ってたんだって。
まだ用意してなかったんかい!
にしても、プレゼント多くない?といくつもある紙袋を指差すと、ひとつはおばあちゃまからだって。なるほど。
おばあちゃま、優しいなー。


準備が完了して、きーちゃんを呼びに行く。
きーちゃんは、アキちゃんに言われた通り大人しく真ちゃんの部屋で待ってて、真ちゃんの部屋にはたくさんのきーちゃん作品が並んでた。
かわいいアクセがあるのを目ざとく発見しちゃった。
後で、売ってくれないか聞こう♪


夏、きーちゃんはおばあちゃまが真ちゃんの誕生日プレゼントを作るために道具を揃えてくれたから。とアクセを作ることが増えた。
それが私の好みで、ちょくちょく良さそうなものが出来たら売ってもらってた。
きーちゃんは思った通り「あげる」と言ってくれたんだけど「素材を用意することや作るのにお金も手間もかかってるんだから、いつでもタダにしちゃダメ」と口酸っぱく教育してるおかげで最近は売ってくれるようになった。
それでも、原価に限りなく近いけど。
きーちゃんのアクセは、私のバンドとか仲良しの間でも好評でちょくちょく買う子も居てる。
これで少しでも、きーちゃん自分に自信持つきっかけになってくれたらいいんだけどなー。と思ったり。




リビングに入ると、きーちゃんは声をあげることを忘れるくらいにびっくりしてる。
そら、そうだよね。夜の香りがプンプンしてるし。
ケーキと夕食はアキちゃんの知り合いのシェフが作ってくれたんだって。
アキちゃん、顔広すぎでしょ。
プロが作ってくれただけあって華やかだし美味しい。
家のリビングなのに、なんだかお店みたい。


ケーキのろうそくに火をつけると、本当に別世界。
「消す前に願い事やで」とアキちゃん。
そうなの?知らなかった。
「お願いごとひとつ?ふたつ?」ときーちゃん。
「ふたつでいいやん」とアキちゃん。
「みんながもっと幸せでありますように。もう一個は内緒!」と言ってろうそくを吹き消すきーちゃん。
誕生日のお願い、みんなのことをお願いするなんて。なんていい子!←親(?)バカ。
もう一個は何か氣になるけど。


プレゼントを渡すと更に言葉を無くすきーちゃん。
「こんなに貰っていいの?」と言ってる。
こんなにって1人ひとつづつだけど?笑
「開けたらええやん」とアキちゃん。
「開けるのもったいないー」とプレゼントを両手で持つきーちゃん。
なんか微笑ましい。
促されて目をキラキラさせるきーちゃん。


私のあげたコート、やっぱ似合ってる。
私、センスいいわぁ。と自画自賛。
旦那のプレゼントは…針金とかビーズとかの手芸セット。
きーちゃんの好きそうなビーズがたくさん。
やるな!
アキちゃんはお化粧道具一式。
私よりいいヤツやし!
やっぱ、モテるヤツはチョイスが違うわ。嫌味ー。笑
真ちゃんのプレゼントは、見覚えのある箱。
「加奈子のとこの?」
厳密には加奈子が作品を置いてもらってるお店のものだけど。
加奈子にドレスをオーダーに行った時に、一緒にオーダーできるか聞いたらしてくれると言ったみたいで。
加奈子、そんなこと言ってなかったわ。
やだ、仲間はずれじゃない!とプリプリ怒ろうかと思ったけど、ワンピースがとっても似合ってて怒りもふっとんだ。
あげたコートともバッチリ。


デザインは加奈子がきーちゃんのイメージで考えてくれたから真ちゃんは初めて見たらしいんだけど、「めっちゃ似合ってない?」と目を細めてる。
孫が可愛すぎるお爺ちゃんなってるよー。笑


「おーい、早よ食おうやー」
テーブルでアキちゃんが何度も言うくらい、きーちゃんは鏡の前で着てみたワンピースとコートを何度も確かめてる。
氣に入ってくれたの嬉しいけど、コート着てたら暑くないのかしら。
「このまま食べていい?」
いや、コートは脱ごうか。他のプレゼントはテーブルからおろそうか。
真ちゃんがきーちゃんに耳打ちすると、きーちゃんはダッシュで着替えに行った。
「何言ったの?」
「明々後日着たらいいやん。ってのと、もし今日汚してもーたら着て行けんでって」
なるほど。
やっぱりお爺ちゃん係任命だわ。




「ねーさん、ありがと。」
食事が終わってコーヒーを飲んでいると、きーちゃんが横に座ってコソっという。
やだー。かわいいーー。
「こんなに楽しいのと嬉しいの、初めて♡誕生日ってスペシャルなんだねー♡」
きーちゃんの顔を見ると本当に嬉しそう。
なんだか、こっちまで嬉しくなる。
「そうだよ。誕生日はスペシャルよー。特に女の子はお姫さまの日なんだから」と言うと「うふふ」って。
やだー。かわいいーー。
「誕生日がスペシャルなんだねー」って、なんだか裏に隠れてそうな言葉だけど、それを探っても仕方ないし、「これからの誕生日もスペシャルにしようね」ってこれは直接言うのはなんだか照れてしまったから、私の心の中だけで言ってみた。




「全部いる!」
「いらーん、閉店したら開店までに処分するもんや」
お風呂も入って寝るまで2階のリビングでまったりしていると、下からアキちゃんときーちゃんの声が聞こえてきた。
上まで聞こえるってどんだけ騒いでるの。


様子を見にいくと、飾りつけてあったバルーンやお花やリボンを背にきーちゃん。
ゴミ袋片手にアキちゃん。
「兄ちゃんがー」
私の顔を見てヘルプを送ってくるきーちゃん。
片付けしようとするアキちゃんと片付けたくないきーちゃん。と言う構図は簡単に想像できた。
「店ちゃうもん、閉店せーへんし!だから処分せんくていいー」
たしかに店みたいだったけど、ここは店じゃない。
「アホか。これ明日まで置いててみーや。真弥が発狂して出てくで!」
これも一理ありそう。


昔、兄弟2人で暮らしていたけど、ひとつも家のことをしない上に散らかすし自由すぎるアキちゃんに真ちゃんがブチ切れて同居解消してたな。
でもアキちゃんが片付けろとか明日嵐が来そう。(一番片付けないオトコ)


「それもいや!真ちゃん出てくのいや!」
「なら処分しよう!」
「いーやーやぁぁ」
「あかーん」
この兄弟喧嘩みたいなん、いつまで見とけばいいのかしらね。
おもしろいけど。


「全部捨てるのいやー」
「なんでやねん。花にまみれたリビングなんて落ち着かんわ」
花にまみれさせたん、アキちゃんあんたや。
まあ、毎日こんなにお花を飾りまくってたら落ち着かないけど。
「何騒いでん?」
真ちゃん登場。
「兄ちゃんがーー」と私の時と同じくヘルプを送るきーちゃん。
「片付けたいアキちゃんと片付けたくないきーちゃんの争い。おもしろいよ?」と言うと、「なんでアキが片付けるとか言うてん?どないしてん」と一言。
いや、今の問題そこじゃない。
「お願いお願い。朝起きたら片付けるから捨てないでー」
「朝にやるん面倒やん。寝る前にスッキリしようや」
「いーやーやぁぁ」
これ、ホントどうしようか。


「アキが珍しく片付け始めようとしてるのはよくわかった。きーちゃんもこれが氣に入ってんのもよくわかった」
お、真ちゃんのターンか?
「きーちゃん、ここはリビングやからずっとこれは出来へんのわかるな?」
頷くきーちゃん。


「この中で氣に入ってる風船をふたつ選んでこれはきーちゃんの部屋に持っていき。で、リボンはちゃんと巻いてしまっておくんやったら残してええと思うねん。できる?」


「あと、花は…玄関とトイレ、リビングとダイニングに飾れるように小さな束に分けれる?場所によってサイズ変えるねんで」


「よし、じゃあまず風船どれにする?」
「こっちと…」
言われた通り風船を選び始めるきーちゃん。


「2つだけ?」
「2つだけ。後はきーちゃんが一個づつ『ありがとう』って言うて空氣抜いてみ。ちゃんと風船にきーちゃんが嬉しいのも、風船を全部残したいって思うくらい氣に入ったのも伝わるから。見えんくなっても、きーちゃんが嬉しいと思ったのもかわいいって氣に入ったの氣持ちもなくならんから。ずっとここに置いてて誰かに『邪魔やなー』って言われる方が風船は嬉しいと思う?」
「嬉しくない。」
「せやろ。嬉しい氣持ちとありがとうの氣持ちが残ったままお役目が終わる方が風船も花も嬉しいんちゃうかな?」
そう言われて頷くと、ひとつづつ「ありがと」と風船に言いながら空氣を抜くきーちゃん。


ちょっとすごいじゃない。
感心。
片付けない子供をもつママ向け子育て相談室開設できるんちゃうの?


結局、片付けは日付が変わるまでかかって完了。
片付け係はアキちゃんだったのに最後まで付き合っちゃったわ。
きーちゃんが残したバルーンと自分の部屋用の花束をかわいく飾ってるのを見られたからいいか。