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Another story 15-1.私の部屋。
12月になって、長かった2学期ももうすぐ終わる。
相変わらず学校では居心地悪いし体調も悪くなってしまうけど、少し前まで続いていた持ち物が行方不明になることは無くなって少し氣楽で居ることが出来た。
テスト期間中は昼までで帰れるから足取りも軽い。
時々寝過ごして知らない駅に行ってしまうこともあるけど、電車で帰るのも随分と慣れた。
家に到着すると真ちゃんの車がガレージに止まっている。
「今日、早いって言ってたっけ?」
家に入るとやっぱり真ちゃんが家に居る。
「おかえりー」
ソファーで本を読みながらコーヒーを飲んでた。
着替えてリビングへ。
本を読んでいると思ったけど、ソファーには姿がない。
お休みでゆっくり出来るはずなのに早く帰って来たから邪魔しちゃったかな。
学校から帰ってすぐだと、いとも簡単に広がるネガティブ。
何かしらの理由を考えて邪魔しないように公園にでも行こうかとパーカーを取りに戻る。
美樹ちゃんも兄ちゃんもみんな私の味方だと言ってくれた。
それが嬉しくて心強くて、また1ヶ月居座り続けた。
けど、よく考えなくてもみんなにとって私が居るってことは負担になってる。
世話をしなくてもいいはずの人間の世話をしている。
やっぱり、今日中に決めなきゃ。
明日は誕生日。
誕生日が来るたび、また1年周りに迷惑かけて生き続けたと毎年悲しくなる。
誕生日が楽しみだと言う子も居るけど、どうしても楽しみにはならない。
幼稚園の頃は、お誕生日会があったから楽しみだった。
けど、小学生になってからはもちろんそんな物はない。お友達のお誕生日会にお呼ばれしたことは何度かあって、楽しそうなお友達を見てお誕生日会に憧れた。
けど、存在するというだけで迷惑かけて、何より家族の中に消えてしまった私がお誕生日会に憧れることすらおこがましいということは、子供ながらにちゃんと理解してた。
だから、毎年毎年お誕生日が来る前に本当にどこかに消えてしまおう。と決めるのだけど、いざ決行しようとすると怖氣付いて現在に至る。
明日で13歳。
春にねーさん達が大人の仲間入りと言って十三まいりに連れて行ってくれたけど、干支は完全に一周した。
もう充分じゃないか。
これ以上、このお家のみんなに迷惑をかけ続けるのも嫌だ。
私が居なくなれば、みんな好きなことが出来る。
前に話しかけてくれた木。
あれから何度も真ちゃんが一緒に行ってくれて、木の前で歌ったけど、あの時みたいに声が聞こえることはなかった。
歌を歌って今度は私から「一緒に居させてください」と頼んだら返事をしてくれるだろうか。
部屋を見回すと、私の物がいつの間にか増えていて全部持って出るのは難しそうだった。
それに、あの時木さんは体が無くなっても良いかと聞いてた。きっと物を持って行っても体と同じように持っていることは出来ないだろう。
改めて部屋の中を見回した。
私の好きなものが増えた数ヶ月。
ちゃんと存在した数ヶ月。
穏やかで嬉しい夢のような時間だった。
けど、本当は居ない私。
きっと、最後の数ヶ月は神さまがくれたプレゼントだったんだ。
次の誕生日には、ちゃんと存在も命も消せる勇氣がだせるようにくれたプレゼントだったんだ。
ありがとう。
一番のお氣に入りのパーカーを着る。
ワンピースもちょうど一番のお氣に入りだ。
もう一度、部屋を見回して、深呼吸。
ありがとう。大好きなおうち。
廊下側の襖を開けて玄関へ行く。
どの靴にしようかな。
学校に履いてく靴は嫌だな。
ねーさんが買ってくれた赤い靴にしようとシューズクロークへ行って箱を取り出す。
この靴を履いたらもう、このお家には戻れない。
毎年毎年、同じ繰り返し。
今年こそ終わらせるんだ。
とっても幸せなまま終わるんだから幸せじゃないか。
怖がるな。
楽になれるんだ。みんなに迷惑をかけなくて良くなるんだ。
ようやく氣に病むことが無くなるというのに、何でこんなに胸がぎゅっとしてくるんだろう。
「あれ?どっか行くん?」
意を決して靴を履いた瞬間、後ろのドアが開いて真ちゃんの声がした。
何て答えれば良いか分からず、黙っていると「ご飯出来たでー。後で連れてったるからまずご飯ー」と言われてリビングに連れて行かれてしまった。
「どこ行こか?」
ご飯を食べていると真ちゃんが急に言った。
「どこ?」
「そう。明日誕生日やろ」と言って笑う真ちゃん。
もしかして、ずっと前に話してた誕生日覚えてくれてた?
「キリエの誕生日、めっちゃ覚えやすいやんか」
そうなのかな?
「誕生日プレゼント買いに行こうや」
誕生日プレゼント…。
私が貰っても良いんだろうか。
「けど、いつもいっぱい色々貰ってるから…」
「そうやっけ?」
うん、私が寝る部屋、私の部屋みたいにたくさん貰ったもの並んでる。
「部屋言うたら…キリエの部屋ちゃんと作らないとあかんな」
「ちゃんと作る?」
「せやん、ひとまずここで寝なって言うて隣にしてそのままやんか」
そう言えば、中学校を卒業して正式にここに住むようになったら改めてお部屋用意してくれるって言って、しばらくはリビングの隣ね。ってなってた。
けど、リビングの隣の部屋は明るいし、みんな寝る時まで何だかんだでリビングに居ることが多いからこの部屋のままがいいな。
「そうなん?一番狭いし半分物置やんか」
狭いかなぁ。
「けど、みんながリビング居るの分かるから一番いい部屋やで」と言うと真ちゃんは黙る。
またいらないこと、言っちゃったかな。
「そんな泣きそうな顔せんでええで。思いついてんけどな、ご飯食べたら部屋改造しようか」
「改造?」
「キリエの部屋にしてしまおう」
え?もう実質私のお部屋なってるよ?
お昼ご飯を食べた後、真ちゃんが言った通りお部屋の改造に取り掛かる。
「まず、部屋に置いときたいのどれ?」
置いておきたいもの。
洋服が増えて来たからこのタンス使いたいけど、よく考えたらこれ、ねーさんのなんだよな。このまま使ってていいのかな。
「ええんちゃう?キリコ、こっち来る時派手に家具揃えてたし」
「じゃあ、後はこれ本棚にしたい」
「本棚にしてもええけど、テイスト違いすぎるで」
「テイスト大事?」
「大事!」
真ちゃんは言い切るけど、物が入ったらそれでいい氣がするんだけど。
「タンスと本棚が欲しいねんな。オッケー、出かけるで」と言って真ちゃんはさっさと出かける準備をする。
どこ行くん?
「ええ所〜♪」
着いたのは家具屋さん。
「今あるのとは関係なく、キリエどんな家具が好き?」
「関係なく?」
「そう!」
売り場を見渡すと目移りする。
けど、何かワクワクしてきた。
色々回って、目に付いたのはお姫さまみたいな白いチェスト。
「かわいいー」
「これ?」
「うん」
真ちゃんはメジャーを取り出して、手帳に計った数字を書くと「よし、次!」と言って歩きだす。
「さっきのんやったら、この本棚とか合うと思うねんけどいかがですかな?」
同じく白の猫足の棚。
「かわいい!かわいい!!」
そしてまたサイズを測ってさっきの売り場へ戻る真ちゃん。忙しい。
「ベッドは?」
「移動するの大変だから、ベッドよりお布団がいいなぁ…」と言うと何故か大笑いする真ちゃん。
そして「オッケー」と言って今度は寝具売り場へ行く。
「この辺りちゃうか?」とお布団のシーツを見せてくれる。
かわいい!!
「これかわいい!」
「え?ピンク?」
「うん!めっちゃかわいい!!」
「そしたら…」
ブツブツ言いながら真ちゃん、再び移動。私、ついて行くの必死。
「カーテンはこんな感じはいかがですか?」
「かわいいーー」
「キリエのお好み揃ってました?」
「うん!こんなお部屋憧れる!」
「よし、決定!思ったより早よ決まって良かった」
ん?どう言うこと?
真ちゃんはカーテンとシーツを取ると再び家具売り場へ移動してお店の人と話を始める。
これってまさか。
思った通り、お会計。
「あかん、あかん!お小遣いそんなに残ってへん!」
真ちゃんを止める。
「小遣い?」
そう!
何だか前にも同じようなことがあった氣がするぞ。
けど、そんなこと言ってる場合じゃない。止めなきゃ。
「氣にしやんでええで。誕生日プレゼントやから」
「いやいや、誕生日プレゼントって何年分ですか!」
「明日の分やで」
「プレゼントって一個ちゃうん?」
「だから部屋一つ分」
「絶対おかしい!」
「じゃあ…」と言って指を折って何かを数えてるけど何?
「プラス6年」
はい?
「1年生の時からの6年分」
「今1年生ですよ?」
「ちゃうちゃう。小学1年」
はい?
「小1から知ってるけど、誕生日祝い出来へんかったやん。その分からカウントして7つ。チェスト2つ、シーツ、カーテン、テーブル、ドレッサー、ハンガーラックで7点。バッチリ!」
いや、どう考えてもアウトでしょ。
「キリエはこんなんいらん?」
「いらんくない!」
「なら決定〜♪」
決定して良いの?
「よし、まずこの棚とタンスどけるから手伝ってや」
帰宅して再びリビングの隣のお部屋へ。
真ちゃんに言われた通りに、棚やタンスにある私の物を一旦リビングに移動させる。
どけるのを手伝ってと言われたけど、私が荷物を移動してる間に真ちゃんは一人でサクサク空いてるお部屋に移動させてしまった。
「真ちゃん、力持ち…」
「細いからモヤシやと思ってたやろ」と笑う。
うん、ごめんね、タンス持ち上げたらバキッて骨折れちゃうんじゃないかちょっと心配してた。
これを言うとチェストを組み立てながら大笑いする真ちゃん。
チェストとハンガーラックが組み立て終わった18時前、見慣れない車が家の前に止まった。
「真ちゃん、誰か来たで」
「そうなん?」と一緒に窓から覗くと、車から女の人が降りてきた。
「加奈やん。キリコ何か言うとった?」と真ちゃん。
ねーさんから何も言われて無いけど…。
荷物をたくさん持っていたからダッシュで玄関を開けると、私に氣付いてくれた。
「ありがとーー!助かったー。えーっと、そう、きーちゃんだ。」
「まだねーさん帰ってなくて…」
「そうなん?待たせて貰っていい?」
「加奈子でいいよー。よろしくねー」
加奈子と呼び捨てにしづらいから『加奈ちゃん』でいいか聞くと「呼び捨て無理とかかわいー!オッケー!」と笑ってくれた。
加奈ちゃんって、ねーさんみたいに明るい空氣だ。
かわいいって何だか嬉しい。
ねーさんのパーティーのドレスを届けにきたんだって。
「で、この部屋どうしたん」
リビングの隣のお部屋の惨状を見て加奈ちゃん。
「今きーちゃんの部屋改造しとってん。ええやろ」
「かわいいけど、まだ段ボール入ってるのあるやん」
「これはそのまま出せばええヤツ。加奈、手伝ってや」
「客人に厳しいなー」
様子を見ていると真ちゃんと加奈ちゃんは顔見知りらしい。
加奈ちゃんにも手伝って貰ってサクサクと家具が設置されていって、その度にワクワクする。
「何で布団よwww」
加奈ちゃんのベッドは?と言う質問に真ちゃんが「布団やから無い」と答えると爆笑する加奈ちゃん。
「布団がええんやって」
「絶対ベッドのが部屋に合うのにー。美樹とキリコ買ってくれなかったん?ケチだなー」
違う、違う!ねーさんも美樹ちゃんもケチじゃない。訂正しなきゃ。
急いでこれらは真ちゃんが買ってくれたと訂正。
「わお、真ちゃん御大尽ね」
「そろそろちゃんと部屋あった方がええかと思って」
「そら必要だよね。キリコのことだから追々揃えようって言って忘れてたんちゃうの?」と笑う加奈ちゃん。
加奈ちゃんたちには、私は複雑な家庭の事情で最近ねーさん達に引き取られた妹ってねーさんが説明したけど、これは上手に訂正しなきゃ。ねーさんが悪くなっちゃう。
「それもあるし、きーちゃんが遠慮して全然揃えさせてへんかってん」
真ちゃん、うまく訂正してくれた?
「誕生日祝いやったらってようやく揃えたんやわ」
「もー、きーちゃん遠慮しぃやなー。大丈夫やで、美樹も真ちゃんもアキもムカつく位超お金持ちやからバンバン欲しいもん言えばええよ」と笑う加奈ちゃん。
そんな話をしながら作業完了。
寒くなってきたから。とねーさんが買ってくれた毛足の長いラグにも似合うかわいいお部屋が完成。
「嬉しい、私のお部屋みたい!!」
「きーちゃんの部屋やがなwww」
真ちゃんと加奈ちゃん大笑い。
何だか楽しい。
そんな楽しい時間を過ごしているとねーさんが帰宅。
「加奈子、遅いからドレスのこと忘れたかと思ったー」と笑いながらねーさん達はハグ。何かカッコいいな。
「きーちゃん、部屋貸してねー」とドレスを持ってねーさんがお部屋に入ったかと思うとすぐに戻ってきた。
「部屋!どうしたの!?」
「真ちゃんからのプレゼントだって」と加奈ちゃん。
「この手のテイストやったこと無かったからイメージだけで揃えたけど変?」と何故か不安げな真ちゃん。
「全然!かわいい!きーちゃんにぴったり!!これ真ちゃんが選んだん?」
「きーちゃんに好きなテイスト聞いて一緒に選んだ」
え!?私、ほとんど付着してただけやけど。
「やだー!超かわいー!後でちゃんと見せてねー」と言うとねーさんはドレスの試着をしに部屋に行く。
「荷物にビーズとかめっちゃあったけど、作るの好きなん?」と加奈ちゃん。
夏に真ちゃんのおばあちゃんがたくさんのビーズやアクセサリーを作る道具を揃えてくれた話をすると、加奈ちゃんはニコニコしながら聞いてくれた。
「今度服作ってみるー?アクセとトータルで作ったら楽しいよ」と加奈ちゃん。
「服って作れるの?」
「作るの好きならオススメ」
加奈ちゃんがどうやって服をデザインして作っているのか教えてくれていると着替えたねーさんが登場。
黒の細身のドレスでカッコいい。
「それ、ウェディングドレス?葬式用?」
ねーさんが着替えて居る間に帰ってきた美樹ちゃんが呟く。
けど、お葬式ってドレスで行けるの?ってかパーティー用だって加奈ちゃん言ってたやん。
「これまた部屋もすごい変身してへんか?」と今度はお部屋を見て呟く美樹ちゃん。
「真ちゃんがね、揃えてくれてん」
「へぇー。この部屋落ち着くか?」
「え?落ち着かへん?かわいいで」
「いやぁ…これは…今度みんなで寝るならリビングで雑魚寝やな」
何で引いてるの。かわいいのにな。
加奈ちゃんもご飯一緒に食べられると浮かれていたら急にめまいがしてきた。
浮かれすぎたかな。
こうやってすぐ調子に乗るのどうしたら治るんだろう。
何とか食事はこなしたけど、加奈ちゃん居てる間にお布団行くの嫌だな。ねーさんもパーティーの打ち合わせするって楽しそうだし水を差したくない。
「きーちゃん、ちょっと出かけようやー」と真ちゃん。出かけるってことは車だよね。ちょっと寝かせて貰おう。
車の鍵を開けると真ちゃんは助手席をマックスに倒して、後ろの席から毛布を取ってくれた。
寝たいの何でバレちゃったんだろ。
「しんどいんやろ。先生んとこ行くで」と言って毛布だけでなくクッションまで用意してくれた。
「寒ない?エアコン効くまでもうちょい待ってや」
「真ちゃん、ごめんね」と謝ると「こういう時は『ありがとう』のが嬉しいなー」と言って笑ってくれた。
「38.7℃。点滴してもええし、せんでもええくらいやけどどうする?」熱を測ってくれた先生に尋ねられる。
どっちがいいんだろう。
でも目が回って氣持ち悪いから点滴して貰った方が楽になるかな。
結局、点滴をしてもらう。その間、真ちゃんは隣に居てくれる。
「しんどいのに連れまわし過ぎたな。ごめんな」と謝ってくれるけど、真ちゃんは何も悪くない。
「ここ居るからちょっと寝てたらええで」
みんな何で具合悪くなっても優しいんだろ。迷惑ばっかりかけてるのに。
帰宅すると加奈ちゃんが帰る所だったみたい。今日はありがとうってお礼が言えて良かった。
一安心してホッとしたのか、しばらくしたらまた目眩がしてきた。
先生に貰った目眩止め無かったかな。
台所の引き出しを探してると「今貰ってきたのあるから待ってて」と真ちゃん。
「寒くない?真ちゃんがお布団敷いてくれるまでこっちおいで」とねーさんが呼んでくれてストールをかけてくれる。
熱出てるの分かってるけど、もうちょっとみんなと居たい。
お布団に入ってしまったら、この世界は夢で起きたら元の世界に戻ってしまってそう。
もし、元の世界に戻ってたら今度の誕生日は決行しようと決めているけど、もうちょっと夢を見てたい。
「誕生日を布団で過ごすのは嫌やろ。ケーキ食えんで」と真ちゃんが言うけど、私の誕生日なんてお祝いじゃないから。
結局、ねーさんにお部屋に連れて行かれてしまった。
浅い睡眠を数分ずつ繰り返す。
時々ねーさん達の声が聞こえて、まだ夢の中だと安心する。
襖の開く音で目が覚めた。
相変わらず目が回ってる。
顔に冷たいものが当たった。
「ごめん、起こしたな」真ちゃんだった。
「まだ下がらんなー。ホンマしんどかったのにごめんな」
真ちゃんは悪くない。私が調子に乗ってただけだ。
なのにこんなに心配してくれて、優しい言葉をくれる。嬉しい。目が覚めたくない。まだここに居たい。
「ゆっくり寝てたら朝には熱下がるからなー」
そう言って立ち上がろうとする真ちゃんの服の裾を思わず掴んでしまった。
「どしたー?ここに居るから心配せんと寝な」と言って一緒にお布団に入ってくれた。
真ちゃんと寝るの、何だか安心するから好き。
頭を撫でて貰って居るうちにまた、睡魔がやって来てしまった。
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