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Story 18.紫の上。
クリスマス翌日、きーちゃんへの遅いクリスマスプレゼントを買いに手芸屋さんへ。
「うわー天国ーー♡」少し遠出して専門店へ。お店に入ってからきーちゃんのテンション上がりっぱなし。熱出すかもしれないから警戒しておこう。「このボタンかわいい♡向こうビーズ売ってる!」落ち着いて。さっきからずっと興奮しっぱなし。ミシンを見に来たんでしょ。
あっちこっち目移りしているきーちゃんをミシン売り場に連れていく。初心者向け?それとも長いこと使えそうなやつ?そもそもその違い分からない。ミシンなんて家庭科の授業以来触ってないし。
色々と見ていると、真ちゃんが店員さんを連れてきた。あかん、真ちゃんに任せると店員さんに言われるまま買ってしまう。スーパーの試食ですら、渡された試食の商品を絶対買うから。店員さんは色々と相談にのってくれて、ミシンは決定。ミシンだけあってもダメじゃん。ということで、私たちからのクリスマスプレゼントはきーちゃんが好きそうな布地があったので、それと「洋裁の基本」なる本をプレゼントすることにした。
きーちゃんは、ミシンと本と布地を大事に抱える。結構な荷物よ。と言っても自分で持ちたいと言って聞かない。氣に入ってくれるのは嬉しいけど危なっかしい。
年の瀬の日曜日。人はもちろん多いわけで。ついでに年末年始の買い物も。と思ったのが失敗だった。
38度2分きーちゃん。ではなく私。
帰宅して寒氣がすると思って熱を測ったらしっかり上がってた。「もう寝てー」ご飯当番だったから作ろうとすると、きーちゃんにベッドまで連行されてしまった。「いい?いい子に寝てるねんで!」とベッド脇にポカリを置いてくれるきーちゃん。いつもと逆転。私がいつも言ってる通りに言う。「ごめんねー、早く治すね」「謝らないで寝て!」ここまで一緒。よく観察してらっしゃる。
寝ていると、まわりの音がよく聞こえる。私の寝ている部屋はちょうどリビングの真上で、リビングの音がよく聞こえる。なんか笑ってる。楽しそう。きーちゃんのうふふ♪って笑う声好きだなー。やっぱきーちゃんの声って透るね。とか思いながらぼーっとする。隣の部屋では、旦那がTV見てるみたい。下に居てもいいのに。
ポカリを飲み干していたので、飲み物を取りに出ると隣のリビングではやっぱり旦那がTVを見ていた。「なんか飲もうと思って」と言うと、旦那が座ったままきーちゃんを呼ぶ。ちょっとズボラすぎやしませんか?「きーちゃん呼ばなくても大丈夫。飲み物くらい自分で用意できるってば」と止めると、「きーちゃん、さっきからずっと何かと用事作ってキリコの様子見に行こうとして真弥に怒られとってんwww」だから、オフィシャルに用事言うたらこっち来れるやろ。って。かわいいなぁ、もう。旦那も「ねーさんが一人で寝て寂しくなるとあかんから早く上行って!ご飯も上で食べて!」と言われて下のリビングを追い出されたんだって。
しばらくして、きーちゃんが飲み物を持って来てくれた。「先生呼ぼうか?って聞いてたよ」「タオル持ってこようか?」「寒くない?」「もうちょっとでご飯できるから持ってくるね」たくさんお世話してくれるきーちゃん。小さい頃、自分の母親が寝込んだ時私も張り切ってお世話したなぁ。と思い出した。
「何してたの?」と帰ってから何してたかを聞くと、買ってもらったミシンを出して本を見ながら服を作ろうとしていたみたいで。「本についていた型紙ね、一枚の紙にいくつも書いてあるから作りたいやつの線をなぞって写してたんだけどね、途中で隣の線をなぞっちゃってへんてこになってん。そしたらね、真ちゃんがやってみるって言ったんだけど、やっぱり違う線なぞって変な形になっちゃってん」とうふふ♪と笑いながら話してくれる。だからあんなに楽しそうに笑ってたのね。
早速使ってくれるのね。嬉しい。「何作るの?」「スカート!めっちゃかわいいのあって…」と話していると真ちゃんがきーちゃんを強制送還していった。もうちょっと話してても大丈夫なのに。
また、リビングから声が聞こえてくる。まだ型紙取るのに手間取ってるんだろうか。
「おやすみー」という旦那の声で目が覚める。時間は23時前。雑炊を作ってくれてたんだけど私はしっかりと寝てしまっていて、新しいのを作り直してくれたものを持って来てくれたみたい。でも、冷めちゃった方どうするんだろ。と思いながら食べていると下から「すごーーい!」というきーちゃんの声が聞こえる。何がすごい?氣になる。ので、雑炊の入ってた土鍋をもって降りることにした。「取りにいくのに!」とやっぱり怒られた。笑
「何がすごいの?」「これ!雑炊が焼き飯になった!!」あ、ホントだ。真ちゃん、いい奥さんになれそうね。うちの嫁に来て。笑
「これ食べたらね…」と言いかけたところで真ちゃんに止められてまた「うふふ」と笑うきーちゃん。「なに?」「秘密♪早く寝なさーい♪」早く、早くと急かされながらソファーに目をやるとコートが置かれている。
「夜遊び?冬休みだからって夜出歩いちゃだめだからね!」というと「ほらな。キリコは怒るやろw」何がほらな。だ。人が熱出してるのをいいことに、うちの可愛い子を連れ回さないで欲しいわ。
翌朝、しっかり寝たおかげで熱は下がっていたので出勤準備をして下におりる。リビングに入ると何かを作ってる途中のミシンと、テーブルにうつ伏せになって寝てるきーちゃん。その横で撃沈してる真ちゃん。「ちょっと!仕事は?」叩き起こすとノンキにおはよー。だって。寝ぼけすぎ。「今日から年末年始休暇ですけど?」と真ちゃん。今日から…って、木曜日から何やかんやで休んでるやん。「先週の休みは有給です」夏で使い切ったんじゃなかったの?
やだ、ずるい。とちょっと拗ねながら出勤するものの年末年始は意外と暇で。昨日寝込んだことを聞いたオーナーが一段落したら帰っていいよー。って。仕事した氣がしない。笑しかも私も明日から休みだし、今夜バンドのメンバーと忘年会だからちょっと罪悪感。
帰宅すると、誰も居ない。でも車はある。また買い物かなーと思ってると、きーちゃんと真ちゃん帰宅。きーちゃんは見たことないスカートを履いてる。スカート作るの早くない?スカートが仕上がったから2人で散歩に行ってたらしい。なんだろうこの牧歌的な雰囲氣。牧歌的というか、隠居的?真ちゃんはどちらかというと、今で言うパリピなタイプだったから、子煩悩(?)な姿は去年末から想像つかない。
夕方、忘年会に行くために準備に取り掛かる。…。良いこと考えた♡「きーちゃーーーん」お昼間にきーちゃんが履いてたスカート。赤のターンチェックのスカート。「かーしーてー♡」借りた♡妹と服の貸し借りしてる話、聞いていて羨ましかったのよね。「きーちゃん、貸してもうたらきっと返ってこんで」と旦那。返すってば。
待ち合わせのお店まで真ちゃんに送ってもらう。その後きーちゃんと出かけるんだって。旦那を誘ってたけど「寒いから」と断られてた。
きーちゃんたちと別れて忘年会へ。バンドの練習でも最近は急いで帰るから久しぶりに外で飲みに行くからちょっと楽しみ。メンバーとはパーティー以来だわ。って10日くらいしか経ってないけど。ここ最近の生活に全然後悔はしてないんだけど、同世代の女子と話すと楽。どうしてもね、普段はお世話モード入っちゃうからね。
酔いもまわり始めた二軒目。残ったメンバーは、私と加奈子と優希。「ホント、繋いでくれるだけでいいから!」「うーーーん」二軒目に入って、優希と私のこのループ。人の色恋話に花が咲くのは世の常ですが…。まさか優希が真ちゃんを狙ってたとは。今日は真ちゃんが迎えに来てくれる。という話から優希が「実は真ちゃんいいと思ってたんだよねー紹介して♡」と。
優希は良い子だとは思う。けど、なんか氣が進まなくて。紹介してっていう相手が真ちゃんでなかったら多分普通に紹介できる。私が氣が進まなくても、真ちゃんが良いといえば有りは有りなんだろうけども。なんか氣が進まない。ちょっと色々複雑過ぎて迂闊に紹介とかしづらいよね。まあ、真ちゃんは今でこそおじいちゃんみたいになってるけど、それまでは常に彼女は居たし何よりモテてる。だからこそ兄弟揃って女癖が悪いとかいう悪評で有名だったりするわけで。友達(ってかもうほぼ家族)としてはいい奴なんだけども、彼氏にしたいかっていうとあまりオススメは出来ないよね。
「ダメ!アリスを守る任務があるんだから他の女に行ってる暇ないって」いきなり飲み過ぎて戦線離脱してた加奈子が前線復帰。「見たやろ?あのアリスとトランプ兵の世界。あの世界観だしたいわぁ。次はアリスにしようかな」加奈子、もう一度離脱なさい。アリスとトランプ兵の世界だったら、敵対してるやないの。トランプ兵がアリスを捕らえようとしてて話がややこしくなるわ。のらりくらりでかわす作戦で行くか。めんどくさいし。
加奈子も戦線離脱するくらい飲んでるし、帰ろう!迎えは旦那に来てもらうことにしよう。そっちのが良さそう。と旦那に電話する。『え、無理』一言で終了。もう飲んでしまったらしい。結局、当初予定通り真ちゃんが迎えに来てくれることに。タクシーで帰っても良かったんだけど、加奈子が心配だから送ってもらおうかと。まあ、そうなると優希も来るよね。きーちゃんは優希とはあんまり会ったことないし、優希は相手がどう取るか考えず結構キツイことをズバッというタイプでとりあえずきーちゃんとは合わないような氣もする。そこが心配だったり。
真ちゃんに迎えを頼む連絡をすると割と近くに居てたらしく20分もしないうちに来てくれた。助手席に座ってたきーちゃんは、私のほかに加奈子と優希がいるのに氣付いたのか挨拶をさっとして三列目に座って毛布を掛けて寝る体勢に入ってしまった。加奈子を2列目に座らせてる間に優希がさっさと助手席に座る。
なんだ、モヤモヤする。道中、酔いもあってか優希は攻めの姿勢。真ちゃんに色々話しかけるし、どっか行こうと誘うし。しまいにはストレートに付き合わない?とか言ってるし。真ちゃんは上手にあしらうけど。
「旦那が来るのは分かるけど、なんでキリコの妹まで行くことなってんの?」優希がみんなで初詣に行こうといいだしたので、きーちゃんに振袖着せたいなー。と返したら、優希はなんのためらいもなく言った。「普通妹連れてこないでしょ。妹も結構大きいしそこまで過保護になることないって。そんなんやったらいつまでもあんた子供も作れないやん。複雑な家庭かもしれないけどさ、新婚生活も妹連れてさ、妹の為に人生捨てる氣なん?引き取ってからずっと子育てやん。旦那さんかわいそうやん」
ストップ。言い過ぎ。
「私が良いって言ってたらいいの」やっぱタクシーにすれば良かった。後悔先に立たず。後ろを見ると、きーちゃんは寝ているようだった。「優希が口出すことじゃないって。結婚したのだって引き取ってからだし、キリコの旦那だってわかって結婚してんだよ」いきなり加奈子が前線復帰して援護してくれる。さっき離脱しろとか思って超ごめん。優希も悪氣ないのはよーーく分かってるんだけどね。
「加奈、今日のキリコの話の半分以上妹の話やったん氣ぃつかなかった?それだけ時間取られてるってことでしょ。今我慢できても絶対しんどくなるって」ホント、お黙り。言ってることは充分わかるけど、黙って。
「やっぱ、キリコ過保護過ぎ?」とそれまで黙って運転してた真ちゃんが話に入ってきた。何を言い出す氣?「過保護だって。中学生でしょ?お互い距離必要だって。妹だって姉離れしなきゃこれからどうすんの。キリコが四六時中見張ってたら彼氏も作れないやん」と力説する優希。いや、きーちゃんまだ中学生だから。彼氏とかやめて。うちの可愛い妹はまだ汚れを知らないままで居て欲しいわ。「だって。じゃあもうちょっと連れ回してもええやんな、おねえさんwww」何を言ってるのか理解出来ずにポカーンとしてしまった。「キリコ、妹大好き過ぎてめっちゃ厳しくてさー。どこにでもついてくるし、夜2人で出かけるなとか何時までに帰って来いとかどこ行くんやとか」何を言い出すのかな、この人。「こないだも時間あったら2人はどこ行った?って聞いてたよねー」と加奈子。「せやん、せっかく2人になったと思ったらおねえさんが邪魔してくるんすわー。今、結構特殊な環境やけどさ…」たしかに特殊な環境だわ。この2人には前住んでいた所から出なきゃ行けなくなって、アキちゃんの買った家でみんなで暮らしてることはそのまま話してる。「同じ家に可愛い子おるのにおねえさんのガード厳しくて参ってるねん。もっと言うたってや」ん?どう言うことやねん。「え?てことは、もしかしてー♪」と加奈子のテンションが上がりだす。「2年は待てるで。光源氏みたいやろ」「若紫?いい!!私、応援するって!若紫の話めっちゃ好き。昔憧れたわぁ。羨ましすぎ!でも2年は短いってば!もっと待たないと」更にテンション上げてくる加奈子。
何の話よ。私も優希もポカーン。加奈子がざっくりとあらすじを教えてくれて、ヒカルの君が紫の上という女の子を寵愛のもと育ててそして奥さんにしたと理解した。この作戦、優希に対して牽制してるけど加奈子がこれだけ食いつかなかったら不発に終わってたけど?私たち、学なんてないですから!パッと源氏物語でてきませんから!加奈子が知ってたことが奇跡なんだから。←失礼
「マジで?中学生やん」と優希がドン引きしてる。まあ、いい歳したオトコが13歳の女の子を狙ってるとか、普通の感覚ならそうよね。「4年もしたら年齢氣にならなくなるし全然待つで」と普通に返す真ちゃん。さっき2年って言ってたよ。ツメが甘いなぁ。(後から加奈子から詳しく聞いたら、光の君が紫の上を引き取ってから4、5年して結婚したんだって。だから4年って言い出したのねと後で納得。)
「絶対4年も待つとか無理だって。おかしいおかしい。中学生やで?ちょっとキリコ、止めないと」引き続きドン引きな優希。「何で?4年は何もせぇへんやんか。ただ可愛いって見てるだけやねんからおかしくないで?」とまじめに返す真ちゃん。「見てるだけって…それって、今もしキリコのガードが薄くなれば、あわよくばってオンナとして見てるってことやろ?子供やで?ヤバいって!真ちゃん、今まで歳上としか付き合ってなかったやん!いつからそんな子供が好きになったんよ」優希、更に困惑。「まあ、今までは歳上多かったけど…別にロリコンちゃうしな」「いや、立派にロリコンやろ。いつから真ちゃんそんな変態なったん!マジで言うてる?」上手いこと話を逸らそうとしてくれた真ちゃん、ロリコンの変態認定されてしまった。何だか申し訳ない。「誰でも彼でも可愛い言って愛でてたらロリコンやけど、この子だけやしな」「その子が子供やったら立派に変態やわ」「だから大人になるまでまだ待つ言うとるやんかw」変態認定という不名誉な認定をされてもちゃんと返す真ちゃん、なかなかの大物だわね。
「えー、高校生なってその辺の同級生に手ぇ出されるより真ちゃんが相手ならよっぽど安心だわ」話に乗っておこう。上手に返してても、この不名誉な認定はかわいそうになってきた。女癖が悪いロリコンとか悪評もいいところだ。優希はちょっとやり過ぎたかなーってくらい引いてるけど、さっき言い過ぎな位言ってたからいいや。
優希、加奈子の順で送って一息。なんだかすっっごく疲れた。今日の大失敗はタクシーで帰らなかったことかも。「やっちゃったぁ。優希は多分悪氣まったくないんだけどさ…きーちゃん、あれは優希が勝手に言ってるだけだからね!私がきーちゃんと居たいんだからね。ごめんね」後ろのシートのきーちゃんを見ると、毛布にくるまって微動だにしない。でも、きっと起きててさっきの話も聞いてる。だって、カバンから時々飴をこっそり取ってたから。
コンビニが見えるとその駐車場に車を停めた。真ちゃんが車から降りて、後ろに乗り込む。毛布にくるまってるきーちゃんに何か言う。きーちゃんは毛布にくるまったまま首を振って拒否してる様子。何を言ってるのか聞こえない。何度かそんなやり取りをすると、きーちゃんはうふふ♪と笑ってようやく顔を見せた。毛布にくるまってたせいで髪がボサボサになっていたから髪を整えてあげるとまたうふふ♪と笑った。
「さっき何言ったの?」コンビニで車を停めたついでに一服。きーちゃんはコーヒーを買いに行ってくれる。「別に」と真ちゃん。「別に何も言ってないならきーちゃんいきなり機嫌直らないでしょ」「キリコを送ったら、ちょっとドライブいかがですか?って誘っただけですよ。」と笑う。「夜連れまわすなって言ってるでしょー」と腕を小突いてやった。「ホラ、おねえさんやっぱガード厳しすぎるでwww」
家まで私を送ってくれると、2人はまた出かけていった。一息つく頃、きーちゃんを心配した加奈子から電話があった。起きて聞いてたら絶対傷つくと心配してくれての電話だった。大丈夫。と言っておいた。その後、もう一段詳しく源氏物語の若紫一連のあらすじを聞いた。加奈子、実は昔文学少女だったらしくきーちゃんくらいの頃に読んで紫の上に憧れてた。と熱く語ってくれた。
そういうものなのかー。たしかに何か絵を描いたり散歩したり本を読んだり勉強教えたり、きーちゃんからしたらお父さんかお兄さんみたいよね。と最近の真ちゃんの様子を思い浮かべる。あ、しかも一緒に寝てるわ。布団は違うけど。それに、きーちゃんを小さい頃から知ってるし、おそらくその頃からきーちゃんにとっては唯一の理解者だろうし。確かに共通点がありすぎるわ。
「優希を牽制するためでなくて、あれホンキの話だったらどうしよーー!」いきなり心配になってきた。私が本氣で心配してるのに加奈子は「ホンキでもいいやん」と笑う。うん、いいんですけどね。多分、これが普通の中学生の女の子なら「あー、若いなー」で終わ…らないか。それはそれで問題出てくるけど、きーちゃんの場合もう一段ややこしくなる氣がする。いや、むしろきーちゃんには真ちゃんがちょうどいいのかもしれない。きーちゃんの不思議な感覚を理解できる人ってそうそう居ないだろうし。きーちゃんがこの先1人で生きてくことを考えたら何かと捗るかもしれない。でもこればっかりは、ホンキで私があれこれお節介やく話でもないし。
どうしたらいいのーーー!加奈子との電話を切ってからも、私がどうこう考えても仕方ないとわかっていながらなんだかモヤモヤとしながら…寝てしまった。
翌朝、休みに入ったのを良いことに思いっきり寝坊してしまった。「真弥ら朝からどこ行ってん?」と旦那。昨夜、私が帰った時には既に寝ていた旦那。「何にも聞いてないけどいないの?」旦那がいつも通りの時間に起きたらもう居なかったらしい。ベランダに出て車を確認するけど、確かにない。「まさか帰ってきてないとか?電話して!電話!」
旦那に携帯を渡す。「もしもしー?」電話越しにきーちゃんの声が聞こえる。「きーちゃん?真弥は?」「まだ寝てるー。かわりに出てって言われたよ」「今どこおるん?」「おばあちゃんのおうちー。遅くなっちゃったからね、朝かけようねって言ってたけどさっきまで寝てたー。お電話ごめんね」「オッケーオッケー」「あ、今日ね、おばあちゃんがお餅つきするって!だからねーさんたちもおいでって言ってたよ」「そうなんや。キリコに言うてみるわ。何時に行けばええんかな」「んーーーと。わかんない。真ちゃん起きたら聞くね♪」
お泊り!昨日の今日でお泊り!蘇る寝る前の無限ループ。「美樹、行こう!今すぐ行こう!」と支度を急かして、15分もせずに家を出た。なんだか、早くきーちゃんに会わないといけない氣がした。
道中、旦那に昨日あった一連の話をした。が、「ふーん」で終わった。ふーん。じゃないやん!「逆に何でそんなに大騒ぎするんすかね」あ、なんか急に冷静になったかも。「きーちゃんが何か助けがいりそうなら話聞いてやるくらいでええと思いますけど」「そんなもの?」「自分があれくらいの歳の頃考えてみなさいな。いくら大好きなお姉さんでも煩わしく思うんじゃないんすかね。難しい年頃だって自分で言うてたやん」
思い出す中学生の頃。たしかにきーちゃんくらいの時は大人の言葉って結構煩わしくなり始めてた。自分はもう大人の仲間入りしたように思ったり。旦那に近づく同級生が鬱陶しく思ったり。「かわいかったよね、わたし」「いきなり自分で自分を褒めないで下さる?」
到着して車から降りると真ちゃんが出迎えてくれる。相変わらず立派なおうちね。実はええとこの子なのよね、真ちゃんアキちゃん。(複雑な家庭だけど)うちにあがると、きーちゃんが白の割烹着を着て顔をだす。あらかわいい。「おばーちゃんに借りてん。今ねお餅のお米炊いてるよ。あとね、2人朝ごはん食べてきた?」そういえば食べてないわ。「まだやねん。キリコが食わせてくれんかった」と旦那。人聞き悪いわね。事実だけど。「用意するね♪」とまた奥に行ってしまった。
客間に通される。このお宅にお邪魔するの何回目かだけど、いつも緊張する。うちの実家も旦那の実家も田舎にある農家って感じの日本家屋なんだけど、このお宅、同じ日本家屋なのになんだろ何か違う。何で旦那は寛いで真ちゃんと普通に話せるんかしらね、緊張感全く感じられない。おばあちゃまが部屋にきて夏のことをこれでもかと丁寧に謝られて感謝された。結局、私たち何もしてないんだけどね。さすがにおばあちゃまの前だと旦那もかしこまってよそ行きモードに入るから面白い。きーちゃんがご飯を持って来てくれて「お味噌汁とね玉子焼き、私が作ってん。おばーちゃんが教えてくれてん」うふふと笑う。なんだか安心。きーちゃんのことだから、私たちがどれだけ言っても優希の言葉にショックを受けて寝込んだりしかねない。と心配だったけど。昨夜、真ちゃん何を言ってたんだろ。
氣になりつつも朝食をいただく。お餅つきは、ほんとに杵と臼使ってつくやつで小さい頃を思い出した。小学生上がった位から、餅つき機が導入されたっけ。それこそきーちゃん位になったら、家族でお餅つきとかするのが煩わしくなって友達と約束して出かけてやらなくなって。中学卒業して、旦那と大阪出ちゃったから結局家族とお餅つきをすることなかったなぁ。実家では今でもやってるんだろうか。お正月に随分と帰ってない氣がする。
きーちゃんはお餅つきは初めてなのかな?と思ったら、ずっと小さい頃に田舎でやったことある。また行けるかな。と呟いた。田舎のおばあちゃんの所に行くって言ってた同級生に聞くと「田舎のおばあちゃんって特別な存在。」って感じで、おばあちゃんと同居だった私はちょっと羨ましかったり。どんな理由があるのか、まだ聞いたことないけどまた行けたらいいね。と思った。つきあがったお餅を丸にしたり、中に餡子をつめたり。懐かしい。けど、すんごい量。これは人数いるわ。お正月はいろんな人が年始の挨拶に来るからたくさん用意しとかないとあかんの。とおばあちゃま。
お餅つきが終わって、豪華なお昼をご馳走になる。おばあちゃま、聞いていたイメージだとものすごく厳しいのかな。と思っていたけど、全然そんなことはなく、むしろ話しやすい。自分のおばあちゃんとはまたタイプは違うんだけどね。
夕方たくさんのお土産をもらって帰宅。晩御飯もそのまま食べられるようにってお弁当まで用意してもらったから、今日の食事当番に当たっててラッキーとか思ったり。帰宅して、きーちゃんの様子を伺う。いつもよりも、むしろ上機嫌で旦那と真ちゃんとコタツに入って話してる。やっぱり、昨日は寝ていて聞いてなかったんだろうか。それならそれで全然いいんだけど。
「明日から年明けまで空けるわ。やっぱ婆が帰ってこいだって」電話で席を外してた真ちゃんが戻ってきて言った。「きーちゃん、一緒来る?」と真ちゃん。一瞬昨日の話を思い出してドキッとする。別に私がドキッとする必要はまったく無いんだけどね。しかもあれは本氣で言ったのか優希を牽制するためだったのかすら確認してないし。きーちゃんは、どうするか悩んでるようで。「寝る時まで考えてもいい?」と言ってお風呂に行った。「跡取りも大変ですなぁ」と旦那はノン氣。何度考えても、私がドキッとしたりギクシャクしたりしなくてもいいんだけど。旦那に私は何もしないでいいんじゃない?って言われた手前、昨日の言葉について聞くのもちょっと氣まずい。
確かにね、美樹が言う通りきーちゃんが何かヘルプ出してきたら相談に乗ったらいい。とは思うけど、この半年全くもってこの2人が恋愛に関してどうこうなるとか思ったこともなくていきなり疑惑と言えそんな話がでると、過保護を自認してる私としては心配だったり。いや、でもきーちゃんを見てると相手が真ちゃんに限らず恋愛感情ってのはまだ先な氣もする。恋愛みたいにスイートでハニーなレベルでなくて、そもそも他人に対して信頼するかどうかのレベルすら至っていないかもしれないと思う。だからこそ数少ないきーちゃんが信頼してる人間の真ちゃんがオトコに変わってしまったら加奈子から聞いた紫の上じゃないけど、きーちゃんはショックを受けて完全に人間不振に陥りかねないよね。他人に対して信頼するかどうかのレベルだったなら、多分恋愛のドロドロとした人間くさい感情は耐えがたい嫌悪を持つのではないかと思う。せっかくうふふ♪って笑うくらい柔らかくなってきたのに。また生きることに絶望させてしまうことは絶対に避けたいと思うわけで。昨日の話が本氣だったとして、2年だったか4年だったか待つって言ってたからそれを信用したらいい?今まででこれでもかって傷ついたり悩んだりしてきたであろうから、これから必要以上に悩んだり傷ついたりして欲しくない、私が出来ることはフォローしてあげたいけど、結局のところ私がどう立ち回ればいいかがわからない。夏、美樹に「覚悟してる」的なことを言ったけど、私はしょせんこの程度なのかー。ああ、力不足。これ、1人で考えていても答えが出ない氣がする。やっぱりきーちゃんがどう思ってるか聞かなきゃダメだよね。でも聞いてそれが変な刺激になってしまうのも怖い。
「真ちゃんのお部屋で寝ていい?」お風呂から上がったきーちゃんの目が少し二重になっていた。「その前に髪乾かさないと風邪ひくよ」ドライヤーをとってきて、リビングできーちゃんの髪を乾かす。「ジャンケンしないでも真ちゃんのベッド入ったらいいから早く布団入りな」ドライヤーを片付けるついでにきーちゃんを連れて真ちゃんの部屋に連れて行く。ベッドに入るときーちゃんがうふふと笑う。「なに?」「今日はねーさん真ちゃんのとこで寝ちゃダメって言わないね」「ダメって言っても寝るんでしょ。なら早くあったかくしなきゃ熱だすよ」「ねーさん、ごめんなさい」この「ごめんなさい」はどれに対して言っているのか。「熱出す前に謝らなくていいから」おやすみ。と言って電氣を消す。やっぱり昨日の優希の言葉聞いていたんだろうな。と思った。
優希は、私のことを思って言ってくれたんだと思う。今までも何度かあった。誰かの為を思って言った言葉でも、その言葉を向けられた人がどれだけ傷つくのか。優希はそれを知らなきゃいけないよね。これから何度きーちゃんと優希が会うかわからないけど、きーちゃんにはもう向けさせたくない。
リビングに戻ると珍しいモノを見る目で「どないしたん、いつもは一緒に寝るなとか言うのに。明日雨ちゃうか?」と言う旦那。「雨は今朝降りましたー。きーちゃん目が二重になってたからごちゃごちゃ言う前に布団入れなきゃと思って。今日だけだからね!」と真ちゃんを見ると、「2年は待つ言うたやろー」と言って部屋に戻って行った。
は?やっぱり昨日の本氣だったの???蘇る不安。旦那は、普通にテレビを見ていた。しばらく旦那とテレビを見ていると、真ちゃんの部屋からきーちゃんの笑い声が聞こえてきた。
「早く寝なさいって言ったでしょーー」真ちゃんの部屋まで行くと、2人は人生ゲームをしていた。「ほら、聞こえたやんwww」と真ちゃん。「さっさと寝ないなら自分の部屋で寝かせるよ!」なんか、イラっとした。「ゴールしたら寝るから!お願いお願い!」なぜか必死なきーちゃんがかわいくて、イラッとはすぐに消える。きーちゃんの隣に座る。「私も入るからもう一回スタートから!」「えーーーせっかく私勝ってたのにー」「ほら、私みどりね!」私がお邪魔虫になってやる。「なんでミイラ取りがミイラになってるんすかね」様子を見に来た旦那が冷静に言った。