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Another story 20.ぼぼちゃんのお役目。
「きーちゃん!これ持って行って!何かあったら直ぐに電話するんだよ。吹雪いてようが飛んでいくからね」
ねーさんが携帯電話を渡してくれた。
「これどうしたん?」
「今日契約してきた!きーちゃんのヘルプコール用。使い方わかるね?」
わざわざ私が使うために用意してくたんだ。
嬉しくて泣きそう。
ねーさんは、三学期に入ってからずっと体調を心配してくれていて「無理しなくていいから!」と見てくれていた。
ねーさんのその言葉もあったから、頑張れた氣がする。
やっぱりねーさん、大好き。
「いってきます」
スキー学習だからって、集合時間をめちゃくちゃ早くにするのはやめて欲しい。
時間が早いから、今日は真ちゃんが車で送ってくれる。
ねーさんも美樹ちゃんも朝早かったのに起きて見送ってくれた。
なんか、嬉しいな。2泊3日、頑張れそう。
「帰ったらまずどこ行く?」
学校に向う車中では、帰ってから連れて行って貰う行き先を考えた。
来世へ行く為の場所を探す為に、色んな場所へ行ってみよう。と言っていたけど、その為でなくても楽しみに思えた。
結局、決まらないまま学校に着いてしまったから、最初の場所は真ちゃんのオススメの場所に連れていってもらうことに決めた。
スキー場到着。
スキー講習の後、夕方宿舎に戻る。
幸いよく話す友達と同じ部屋だけど、7人部屋は雑多な空氣がして息苦しい。
いろんな色が混ざっているような、そんな感じ。
「何か落ちたでー」
食事に行く時に、数少ない仲の良い友達が拾ってくれたのはぼぼちゃん。
この間、一緒に山に向かったから傷んじゃったのかな。
見ると、貰った時に付け替えた根付部分がまた切れている。
帰ったらつけ直さなきゃ。
食事中から、何だか氣分が悪くなってきてほとんどいただくことが出来なかった。
めまいがする。
たくさんの人が集まってるからかな。
座っているのも辛くなって、保健の先生に助けを求めた。
保健室代わりの部屋に連れていってもらって横になった。
「熱は無いねー。少し様子みてみようか」
熱が上がり出すと、病院行きだからそれはなんとしてでも阻止しなきゃ。
今夜はこの部屋で寝ることになった。
保健の先生も居てるけど、大部屋よりは体調は悪いものの過ごしやすい。
何度も寝たり起きたり。
何度も夢を見る。
最初は、前も見た青い布。
布だと思っていたけど、マントだったんだ。
青いマントを被った人は空を指さす。
星が綺麗。
顔を見る前に目が覚めてしまった。
次に見た夢。
時代劇のような街並み。
細工のある2階の手すりから外を見ていた。
下の通りはとても賑やかで、隣に座っている人がまた、星空を指さす。
一面に広がる星空にワクワクした。
また、顔は見えない。
次の夢はさっきの続きだと分かった。
とても綺麗な女の人が舞っている。
それがとても綺麗で、瞬きを忘れる位みとれた。
場面が変わって、その女の人の荷物を持って、後ろを歩く。
女の人は振り返って、私の持っている荷物を持って手をひいて歩きだす。
少し冷たい手だったけど、嬉しくて、誇らしかった。
また場面が変わった。
さっきの女の人が私に綺麗な髪飾りを手渡す。
もっと一緒に居たいのに私は誰かに手を引かれて歩き出した。何度も何度もその人が見えなくなっても振り返った。
また場面は変わって、私の目線が変わった。
小高い山の上。
下に見える景色が新鮮で心が踊った。
私を抱き上げてくれる人が指さす方向を見ると道が続いていて、早く進もうと私が言った。
この道の先の風景が見たくて仕方なかった。
体調が優れないからなのか、断片的な夢を何度も何度も見た。
あまり寝た氣がしないまま、朝になった。
先生が熱はそこまで上がっていないから、病院に行かなくても大丈夫だと思うけどどうする?と聞いた。
病院へ行くよりも寝ていたいから、スキー講習は休んで横になっていた。
みんなが講習に出ていった宿舎は静かで、落ち着く。
耳元でぼぼちゃんに付けていた鈴の音がした。
ぼぼちゃんをポケットに入れたままだったことを思い出して、ポケットを探すけど見つからない。
部屋を出て、昨夜ぼぼちゃんが落ちた場所まで戻って歩いた順に探すけど見当たらない。
宿舎の人に会ったから、ぼぼちゃんのことを言うと掃除の時も見ていないそう。
見つかったら連絡するからね。と言ってくれたので連絡先を伝えた。
ぼぼちゃん、どこに行ったんだろう。
横になっていると、またあの鈴の音がした。
周りを見渡すけどぼぼちゃんは居ない。
けれど、また眠ってしまうまで鈴の音は続いていた。
次に目を覚ますと、友達が居た。
「生理痛酷いって言ってこっち来たー」と笑う。
この子は、学校で一番一緒にいる子。
この子と居ても嫌な色も音もしなくて、心地良かった。
一緒に最後まで「スキーに行きたくない」と言い続けていた仲間でもあった。
他愛もない話をした。
この子は、私が家に帰ってないこと、帰りたくないことを理解してくれていた。
ちょっと髪を茶色く染めて、スカートも短くて先生にもよく注意される子だったけど、誰よりも優しかった。
年末のことで知らない子に「そんな所行くとかありえないし」といきなり言われた時も、「うちも行くけど?」と私以上に言い返してくれて追い払ってくれて、「氣にすんなー。絶対羨ましいねんで」と笑ってくれた。
その日の夜は、保健の先生、友達の3人で寝る。
友達が居て安心したのか、昨夜よりは寝ることが出来た。
最終日午前中の講習はさすがに出ろと言われて、参加する。
昨日一日参加しなかったから周りについていけず、同じくついていけない組に入って講習を受けた。
その後ヘトヘトになって、帰途のバスではほとんど寝ていて氣が着いたら学校に到着する直前だった。
バスが学校の前の道に入る時、真ちゃんの車が見えた。
早く会いたかった。
何度も途切れ途切れに見た夢の話を聞いて欲しくて、解散前の終礼がもどかしかった。
終礼が終わって解散すると、ダッシュで車に向かった。
真ちゃんだと思っていたら運転席には美樹ちゃんがいた。
「ただいまー」
半分以上、向こうでは寝ていただけだったけど疲れた。
ねーさんと美樹ちゃんの顔を見ると、疲れが飛んで行った氣がした。
私が後ろの席に座ると、ねーさんも1度降りて後ろの席に来て隣に座ってくれた。
なんか嬉しい。
「あのさ、真弥入院してんやん」
車が出て少しすると、急に美樹ちゃんが言った。
は?何言ってるのか分からないんですが。
なんで?
「ちょっと怪我してん。今から病院行こうと思ってんねんけど、行けるか?疲れてるんやったら明日にしよう」
「行く!疲れてない!」
入院する位の怪我って何だろう。
仕事行く時にバイクで行くことがあるから事故?
「なんで怪我したん?いつ?」
ねーさんに聞くけど、ねーさんの表情が固い。そんなに酷い怪我?コケて骨を折りました。ではないような感じ。
「ちょっと怪我がひどくてな、まだちゃんと話せんから何でか分からんねん。でもな、きーちゃんは?って自分の心配より先にきーちゃんの心配出来るくらいやから大丈夫やわ。ただミイラ男になってるから見てびっくりするかもしれんから先言うとくわ」
美樹ちゃんが教えてくれた時、昨日のぼぼちゃんの鈴の音を思い出して、もうぼぼちゃんは帰ってこない氣がした。
「さるぼぼってな、お守りさまやねん。ぼぼたちはお役目を果たしたんやで。」
真ちゃんが言っていた言葉を思い出した。
前にぼぼちゃん達が居なくなった時は、私を守ってくれた時だった。
真ちゃんが連れてきたぼぼちゃん。
その子が帰って来ない氣がする。ってことは、そういう事?
真ちゃの代わりにぼぼちゃんはお役目を果たしてくれたからきっと大丈夫。
お役目を果たす位に大変ってこと?
頭が混乱していた。
到着したのは、大きな病院だった。
ねーさんたちについて、病室に向う。
ナースステーションの目の前のお部屋。ナースステーションの近くは重篤な人が入るって聞いたことがある。
入院したばっかりだからだよね。
深呼吸すると、またぼぼちゃんの鈴の音がした。
大丈夫。
ぼぼちゃんがそう言ってくれてる氣がした。
意を決して病室に入ろうとしたけど、ベッドの上の真ちゃんを見たら足が動かなくなった。
怖かった。
思っていたよりもずっと酷い怪我なのは、すぐに分かった。
真ちゃんが居ると、いつも真ちゃんの色がしているけど、その色はとても薄くて瞬きをした瞬間に消えてしまいそうだし、光のカタチもイビツだった。
ベッドの横に居るねーさんが手招きをするけど、足が動かない。
また、ぼぼちゃんの鈴の音がした。
「大丈夫だよ」とぼぼちゃんが言ってくれた氣がしたから、いつも通りに「ただいまー」と言えた。
点滴のせいなのか、真ちゃんはうつらうつらして、時々「スキー、どうやった?」とか「行く所考えたで」とほとんど声がなく口を動かすけど、すぐに眠ってしまう。
目眩がして倒れこみたくなるたび、ぼぼちゃんの鈴の音がして何とか立っていることができた。
目が覚めたタイミングで「明日また来るね」と言うと、真ちゃんは少し笑って頷いた。
ねーさんたちにお願いして、連れて帰ってもらうことにした。
ぼぼちゃんの鈴の音がする度に、その音は少しずつ遠くになっているようだった。
ぼぼちゃんは姿が見えなくなるくらい力を使って真ちゃんを守ってくれたんだ。
鈴の音だけになっても、まだ最後までお役目を果たすのに力を使ってくれている氣がした。
私は、姿を現すことも出来ないくらいのぼぼちゃんにお願いするしか出来なくて自分が情けなかった。
来世へは一緒に行くって言っていたのに、その為の相応しい場所を見つけるために色んな所へ行こうと言っていたのに、先に来世へ行ってしまうかもしれない。
ぼぼちゃんが居なくなるかもしれない。と分かっているのに、ぼぼちゃんに真ちゃんを助けてと頼んでしまう自分が嫌だった。
その夜、1人で寝るのが怖くて、ねーさんたちに一緒に寝ていい?と聞いてみた。
「上、来るか?」と美樹ちゃんが言ってくれた。
「きーちゃん真ん中ねー」とねーさんがベッドに呼んでくれた。
安心する。
大好きな人が両方に居ると、どっちを向いたらいいか悩むんだね。
「はいねんねー」と言って美樹ちゃんがトントンしてくれるけど、
「私、赤ちゃんじゃないですけどー」
「そら失礼ー。子守り歌ったろか?」と笑う美樹ちゃん。
「聞いたら下手すぎて石になっちゃうから布団被らなきゃ!」とねーさん。
何だか、嬉しい氣持ちと怖い氣持ちと。
色んな感情がごっちゃ混ぜになってるけど、お布団の中は安心できた。