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Another story 21-2.みっつの光。
ご飯が終わった後、ねーさんと美樹ちゃんは必要なものを買い足さないと。と言ってお買い物に行った。
私は病院でお留守番。
並んでソファーに座って話をする。
「またおまじないしてくれる?」
「痛いん?氣にしないでベッドで寝て!」
一緒について行ったら良かったかな。
私がお留守番で残ったから無理させてるのかな。
私が真ちゃんと話したいと思ってお留守番するって言っちゃった。
考えなしに言っちゃうのってどうしたら直せるんだろう。
「痛いのはほとんどないで。早く帰れるようにして欲しいだけやでー」と言って私の髪を触る真ちゃん。
「髪、伸びてきたなぁ。このまま伸ばしたらええのに」
髪が長いのって可愛い子じゃないと似合わないからなー。
早く切ろうと思うけど、その元氣がなくてそのままにしてしまってた。
「長い方がかわいいしキリエに似合うと思うけどなぁ。 絶対似合うで」と笑う真ちゃん。
「痛かったやろ」と言って頬と額をまた撫でてくれた。
「会えへん間、1人でまた来世行こうとしてへんか心配しとったけど、良かった」と言う。
来世じゃなくても、居なくなりたかった。
けど、良い方法が思いつかなかった。
どうしたら良いのか分からなかった。
本当は、早く消えてしまえば良いのに、真ちゃんともねーさんとも美樹ちゃんとも会えなくなるのは嫌だった。
「キリエは何にも悪くない」と言って頭を撫でてくれた。
おまじないをする。
前よりも色は戻ってきたけど、早く戻るように。
早く治って、帰ってきてくれますように。
暖かくなりだした頃、真ちゃんは退院できた。
まだ首のコルセットは外さないように言われてるし、左足はまだ引きずってる。
退院の日は、ちょうどねーさんのライブの日で、真ちゃんは久しぶりに出かけたいとねーさんの反対を押し切って来てしまった。
「絶対飲ませないようにしてね」と言ってねーさんは楽屋に戻ったけど、ねーさんの出番の間に美樹ちゃんが「一杯だけやったらええやろ」とビールを渡してしまった。
ねーさんもステージから発見したみたいで、ほっぺたを膨らませて「後で覚えてなさい!」というジェスチャーをしてた。
「絶対ねーさんにバレたよー」
「ええやん。運転すんの俺やし。一杯二杯問題無いわ」と余裕な美樹ちゃん。
「酔って倒れたりせんで大丈夫やで」と真ちゃんも笑う。
でも、もう3杯目だよ。
「飲んだ量の問題じゃないでしょー!」
出番が終わってねーさんがダッシュで戻ってきた。
「ごめんね」
「謝るのはきーちゃんじゃなくて、美樹でしょ!何おかわりまで取りに行ってる…の…」
ねーさんが真正面を見て固まった。
私達もねーさんの向く方を見た。
真ちゃんの彼女さんだった。
楽しくて、周りの空氣も音も氣が付かなかった。
「退院したら教えてよね。誕生日過ぎちゃったけど許してあげるから」と真ちゃんの腕に手を伸ばした。
それと同時に、黒い雲はまたやってきてせっかく色の戻った真ちゃんの光にまとわりつく。
少しずつ、少しずつ真ちゃんの光を侵食していく。
嫌だ。
真ちゃんの光を消さないで。
「この子何とかして。うっとおしい。氣持ち悪い」
氣持ち悪くても良い。
私はすぐ消えるから真ちゃんの光を消さないで。
その人は私を見て笑う。
それは、とても怖くて、そして、勝ち誇ったような。
その間も黒い雲は真ちゃんの光に広がっている。
それを止めたいと思うのに、前みたいに怖くて動けない。
私が居なくなれば、雲は消える。
私がいなかったら、そもそもこの雲は現れなかった。
きっとこの怖くて不快な雲は、この人ではなくて私が連れてきてしまったんだろう。
ねーさんのライブの日なのに。
真ちゃんが帰ってきたから、帰ったらゆっくり飲もうやって美樹ちゃんだって嬉しそうだった。
それを台無しにしてるのは、多分私だ。
『この厄病神、似てへん?』
本を持ってきた子が言う。
『ホンマや!近づくと不幸になるって!出てけや』
教室から押し出されて、ドアを閉められる。
目の前の風景が変わる。
『外に出てなさい!』
おかーさんの声がして勢いよくドアが閉まって鍵のかかる音がした。
私は中に居てはいけないんだ。
なのに、私が居たいからって大好きな人達と中に居たから今、みんなが嫌な思いをしている。
そうか、私が居なかったら真ちゃんだってあんな事にならなかった。
あんなに助けてくれたのに。
ごめんなさい。
テーブルの上にカッターナイフが置いてあるのが見えた。
ああ、あの人が切ってたね。
でもね、そんなんじゃ来世へ行けないんだよ。
何度も腕を切りつけた。
今までも切りつけた事があったけど、失敗してた。
だから、もっと深く。
私の血が全部流れてしまうくらい。
温かい感覚はあるのにすぐに冷たくなって血は止まってしまう。
まだ、足りない。
一人前に自分の希望通りに来世に行こうとするから失敗してたんだ。
今度こそ消えるから。
こんなに醜く、人を不幸にしてしまう私なんて血まみれになって醜く消えていけばいい。
そうしたら、黒い雲が現れることは無くなるから。
ごめんなさい。
「キリエ!」
真ちゃんの声が聞こえた。
腕を見るとすぐに血は止まってしまって、私は消えることも来世に行くこともやっぱり出来なかった。
「これだけやっても来世なんていけないの!それだけ行きたいなら私が連れてってあげるわ!」
そうしよう。一緒に行くのがあの人って嫌だけど、あの人も消えてしまえば真ちゃんの光を侵食されることはない。
どうせ私が何をしても苦しむだけなら、道連れにしても一緒。
真ちゃんの光を汚させてたまるか。
氣が付いたら、車に乗っていた。
隣に真ちゃんが座っていて、私の左腕を押さえている。
「痛ーい」
車が揺れると腕がピリピリと地味に痛い。
「帰ってきたな。もう持ってかれたらあかんで」
真ちゃんがそう言って背中を撫でてくれた。
息苦しくて、目が回る。
指先から凍るみたいに寒氣がする。
「大丈夫。ちょっと寝てな。ここ居るから」
真ちゃんがハグしてくれると、落ち着く。
けど、また消えられなくてごめんなさい。
「ホンマに、あんたらは次から次へと飽きへんなぁ」と処置の準備をしながら先生が言った。
足に力が入らなくて真ちゃんが抱えてくれて診察室に入る。
注射で麻酔を打たれる。
「いたーい」
「痛いのは当たり前。もうちょいやから頑張り」と真ちゃんに容赦なくホールドされる。
「切ってる間は覚えてへんかった?」と先生。
「うん。氣付いたら車乗ってた」
「今までにこんな事は?」
先生は色々と質問しながら、傷を縫ってくれる。
「今日は熱出るかもしれんけど、まあ大丈夫やろ」
何針も縫われてしまった。怪我人みたい。
お薬をもらって家に帰るとねーさんが真ちゃんの部屋に連れて行ってくれた。
「どうせダメって言っても寝るんでしょ。最初から大人しくここで寝なさいね」
ねーさんは寝るまで一緒に居てくれた。
息苦しくて目が覚めた。
頭がボーッとして、腕もなんだか熱い。
また、帰ってきちゃった。
『この子何とかして。うっとおしい。氣持ち悪い』
さっきの飛んできた言葉がまたやってきた。
タイムスリップだ。
そうだよね、氣持ち悪いよね。
うっとおしいよね。
迷惑ばっかかけて。
今度こそ消えるから。
ごめんなさい。
もう、来世に行きたいなんて贅沢は言わないから。
この部屋の窓が掃き出し窓で良かった。
乗り越える元氣なんてない。
外の空氣は、少し冷たくて、氣持ちいい。
満月の明かりで、周りが明るく見えた。
どこに行ったらいいのかな。
どうしたら、私は消えるのかな。
ヒトも月みたいに少しずつ欠けていけばいいのに。
何で今呼吸してるんだろう。
何で心臓は止まらないんだろう。
何ですぐに血は止まってしまうんだろう。
私の中で何かが溶けてるみたい。
一緒に私も溶けていかないかな。
歩くたび、息が苦しくて、胸が締められるように痛いのに私の体はまだ動こうとしてる。
こんなに苦しいのに、まだ動ける。
しばらく歩いて、公園に来た。
初めてスカートを作った時、ここまでお散歩したなぁ。
あ、あのスカート、ねーさんに貸したままだ。
時々履いてくれてるし、まあ、いっか。
腕が痛いなぁ。
ちょっと目も回る。
ベンチに座って空を見る。
夜、少し雨が降ってたからか、満月の周りの雲が虹色になってる。
「かぐや姫は良いよなぁ」
満月の夜、自分のいる世界へお迎えが来る。
お姫さまでなくていいから、私のいる世界まで迎えに来て欲しい。
腕が熱くて痛い。
きっと包帯がきついんだと思って包帯を外した。
ガーゼも氣になるから外した。
フランケンシュタインの怪物みたいな腕。醜い私にピッタリな腕だ。
私はかぐや姫じゃないから、お迎えはない。
だから、自分で行かなきゃ。
もう少し歩くと、池がある。
ちょうど、満月が映って絵みたい。
池の水が揺れて、何かが動いた。
それは私の足元までやってきた。
水の中でキラキラしたものが3つ揺れてる。
池の水に流れは無いはずなのに、くるくるとその場で回る。
「綺麗」
手を伸ばしてみるけど、やっぱり届かない。
柵が邪魔だなあ。
もう少し腕を伸ばしてみる。
縫ったとこがピリピリする。
あのキラキラを掴めたら、きっと来世じゃないけど私が居ていい所に行ける氣がする。
それが正しいように、キラキラ光るものは私に近づいた。
もう少し。
左腕がいたい。
でも、もうちょっとでキラキラの光を掴める。
そうしたら、色んなことが煩わしいこの世界から消えて私が居てもいい世界へ行けると根拠はないけど分かった。
「キリエ!」
真ちゃんの声が聞こえて、3つのキラキラは消えてしまった。
「あ…消えちゃった」
また私の居ていい世界は遠ざかった。
「部屋に居らんからびっくりしたやん」
何で真ちゃんは私がもう少しで行けそうな時現れるんだろう。
「また1人で行こうとしたやろ。あかん言うたやん」と言って笑った。
真ちゃんの言う通り、1人で行こうとしたらダメなのかな。
「何でいつも1人で行こうとすんねんな。一緒に行く言うたやろ」
家に帰って、リビングへ行くとねーさんがソファーで寝ていた。
真ちゃんはダイニングテーブルにお茶を淹れて置いて椅子に座る。
「今度はどうしたん?ライブのこと?」
「ホンマごめん。もっと氣ぃつけておけば良かった」
さっきのことは関係なくて、むしろそのおかげでやっぱり私は居たらいけないのがわかって。
真ちゃんは何も謝ること、してない。
「ちょっとこっちおいで」
優しい声で腕を伸ばしす真ちゃんの言われるままに膝の上に座ってしまった。
「来世はコンビニちゃうって言ったやんか。どうしても行きたいんやったら一緒に行くって」
「絶対約束して。キリエが先行ってしまうと、また来世で生まれるタイミングズレてしまうねん」
「ホンマ、約束して。1人で行かんで。こうやって自分を痛めつけんで」
真ちゃんの声が優しくて、ごめんなさい。としか言えなかった。