Story 22.むすめ。

そんなアキちゃんが帰ってきた。
「真弥、大変やったらしいやんwww」と超他人事。
弟の一大事だったっていうのにマイペースナンバーワンだわ、この人。
「せやん、もうちょいしたらおもろいの届くで」とアキちゃん。


その日の夕方、何かがたくさん届けられる。
業者さんが入って何だか大事。
しばらくすると、「きい、来てみ」とアキちゃんに呼ばれてアキちゃんの部屋に行く。


「すごーーい!いいなーー!」と目をキラキラさせてるきーちゃんの目線の先には大きな天蓋付きのベッド。
えーっと、この部屋だけラブホかなんかかしら?と思ったのは私だけでなく、旦那と真ちゃんも思ってるはずで何とも言えない表情をしている。


「ええやろー」と得意げなアキちゃん。
「めっちゃいいなー」と相変わらずベッドを見てうっとりしてるきーちゃん。
そうよね、天蓋付きベッドは女の子の憧れだからね。


「兄ちゃんがくれたドレス着てここで寝たい!お姫さまになってみたーい」
アキちゃんの今回のお土産できーちゃんは薄手のアンティークのナイトウェアをもらっていた。多分そのことだと思う。
「きぃ姫もここで寝るか?」
「あかん、絶対あかん!!」
「寝るー♪」のきーちゃんが答えるよりも先に、私も旦那も真ちゃんも揃って止める。
「えーー何でー」と2人が不満そう。
「何で」じゃない。
今の真ちゃんならまだしも、アキちゃんのオンナ癖を考えたら2人で寝たらいいやん。なんてとても言えない。
信用出来ない。平氣で手を出してしまいそうで恐ろしい。
「別にええやんな。一緒に寝て」と言うアキちゃんの頭を真っ先にはたく旦那。
そこは真ちゃん違うんかーい!と思わず旦那の素早い動きに二度見してしまう。
「真ちゃんと寝るのは良くて兄ちゃんと寝るのはあかんの?ドレス着てお姫さまになってベッドで寝たい」と言うきーちゃん。


きーちゃん、女の子としての危機感ってのが無さすぎるよね。
別に幼くてもいいかと思っていたけど、世の中のオトコが真ちゃんや旦那みたいなのだけじゃないって教えなきゃいけないかもしれない。
今年になって出かけるとちょいちょいと色んな所で声掛けられてることが増えたし、ここ最近ぐっと成長して雰囲氣も身体も子供っぽさが随分と抜けてきた。元々雰囲氣のある子だったけど、時々びっくりするくらい女性的な色氣も見えたりして。
だからこそ、幼さとのアンバランスさが顕著になってるというか。そこも心配だったりする。


どうやってこんなことを改めて教えたらいいのよ。
いや、きーちゃんの場合「知らない人がおやつくれるって言ってもついてっちゃダメ」で良さそう。
あ、だめだ。前に「真ちゃん知らない人じゃないもん」って言ってたから知ってる人にはついて行ってしまう可能性が……。
だからこそ、普段真ちゃんと寝るのと変わらないノリでアキちゃんと一緒に寝たいとか言い出してるんだった。
ああ、娘を育てるって大変。
まさに母の苦悩。と考えるきっかけがアキちゃんってどうなの。
アキちゃんがその辺の信用が全くないのが問題だからそこは考えないでおこう。


「えー真ちゃん嫌、兄ちゃんがいいー」
相変わらずアキちゃんのベッドで寝たいというきーちゃん。真ちゃんがいつも通り一緒に寝ようと誘うけどやっぱり天蓋付きベッドで寝たいきーちゃんとその言葉だけでショックを受けている真ちゃん。いや、寝具の差だから。
日常と非日常の差だから。
そこまで落ち込まないで。面倒だから。
さてどうしたものか。
きーちゃんって、変なところは頑固だしなぁ。


「これは私のベッドです」とアキちゃん。
なんでそんな中学生英語の訳みたいなの。
「私は自分のベッドで寝ます」
だからなんで、(以下略。
「きぃはここで寝たいと言っています。」
もうツッコんであげない。
「一緒に寝たらみんなHappy(・∀・)」
「おまえの信用がないからや!」
また一番に旦那がツッコむ。


「なんで兄ちゃん信用ないん?」
きーちゃん、その方向から撃ってくるわけね。
なんて説明すべきか。困ったな。
オンナ癖が悪いからって言っても「オンナ癖って?」と返ってきそう。


「きーちゃん、アキラはな、夜中にものすごーーく悪質な変身すんねん。獣に変身して若い子食ってまうねん。赤ずきんやったら食われても狩人が腹かっさばいて助かったけどな、ここは現実やろ。1回食われてるから、アキラの腹かっさばいてきーちゃん助けたとしても、血まみれどころか胃液まみれやし下手したら半分うんこやで。きーちゃん半分うんこなってもええんか?」と旦那が真剣な顔してきーちゃんに言う。
「え?」
ツッコみどころしかないけど、きーちゃんは信じている様子。
「よく考えてみ。食われてすぐ誰かが氣ぃついて助けたとしてもな絶対食道は通過しとるで。ってことは胃に入るやん。その時点で胃液まみれやし、腹かっさばいてる時点で血の海やで。しかもここは日本や。猟銃なんて誰でもが持ってるもん違うで。てことは、その人呼んできてってなったら胃も通過してるかもしれんなぁ。」
「やだー」
「な、アレと寝たら悲劇やろ」旦那の言葉にきーちゃんは何度も頷く。
「アキラに『若い子好きなん?』って聞いてみ」
既にベッド話に飽きて違うことをし始めたアキちゃんの所へ行くきーちゃん。
「兄ちゃん、若い子好きなん?」
「若くなくてもいけるで」
アキちゃんの言葉に猛ダッシュで帰ってくるきーちゃん。
「若くなくてもいけるって」
「若くなくてもってことはよ、『若い方が良いけど』若くなくてもいけるってことちゃう?」
ものすごく、こじつけてない?
「この中で一番若いの、きーちゃんやんな」
きーちゃんは真剣な顔で頷く。
えーっと、中学生だったよね?何で信じているの。
「きーちゃんが一番新鮮ってことやろ?野菜も新鮮なん選ぶのと一緒や、キリコには言わんやろ」
この時点できーちゃん結構ホンキでビビりだす。
悪かったわね、新鮮でなくて。


「それでもアレと寝るか?今日なんかみんな飲んでるから夜中めっちゃ寝てるで。起きへんで。みんな飲んでるのにアレは飲んでへんってことは…完全犯罪狙ってるからやと思わんか?」
もう、何か話が色々カオスになってるんですけど?
「だから、みんな起きてる間に食われへんように止めとったんやけどな、きーちゃんがそんなにアキラと寝たいというなら仕方ないわ。食われてもなるべく早く氣付いて起きるようにするわな。それまで胃から先に行かんように頑張っとくんやで」
きーちゃんの顔が引きつり出してる。だから何で信じてるの。
「それとな今日は真弥から寝よう言うたんはな、アイツら兄弟やろ。一番変身したアキラを止めることが出来るねん。兄弟が一番対等に獣になったのを止められるねん。一番安全な所に置いて守ろうとしたのに、可哀想にきーちゃんに嫌って言われたからめっちゃショック受けて部屋戻ってもーたで。せっかく可愛い大事なおひーさん守ろうとしたのに。アイツはサムライやから今頃おひーさん守れへん責任取って切腹してるかもしれんなぁ。ええサムライやったのにホンマ残念や」
もうツッコミどころしかなくて、所々吹き出しそう。
これ以上重ねないで。と私は必死に笑いをこらえてるけど、きーちゃんは信用したみたいで「真ちゃん一緒に寝るから切腹だめーーー!」とダッシュで下に降りてった。


「はい、完了。」と飄々とドヤ顔で言う旦那。
色々上手いこと言ったとは思うけど、倍以上ツッコミたいところだらけでしたよ?
まあ、今日は何とかなったね。うん。


「あれ、きぃは?」
「もう寝に行ったわ。ホントアキちゃん余計な火種をまかないで」
「まいてへんって。じゃあ1人で寝るわー」
このツッコミ所しかない話を同じ部屋でしてたというのに何一つ聞いてなかったアキちゃん、ある意味怖いわ。


一段落したので、下へ降りて飲み直そうと階段を降りる。
「ちょー、美樹!きーちゃんに何言うてん」と真ちゃんの部屋から声がした。
「別に、赤ずきんの話しただけや」と言って旦那はリビングへ行ってしまった。
まあ、間違ってないよね。赤ずきんの話で。
部屋をのぞくと、きーちゃんが真ちゃんの背中に引っ付いていて真ちゃんは動けない模様。「切腹しないって言えば離してくれるよー」とだけ言って私もリビングへ向かった。


さて、新たにきーちゃんについて考えなきゃいけないことが浮かんで来たわけだけど。
惚れた腫れただとか、やるやらないとか、
友達と話すなら盛り上がる話で、むしろ好物だけども。笑
これは色んな前提を知ってるから盛り上がるのね。改まってどう話せばいいんだろ。世の中の娘を持つお母さんってどう教えてるの?
私の時は…自然に覚えたよね。友達と誰が好きとか話して。
あれ?きーちゃん学校はしんどいけど友達も居るからって言ってたけど、そんな話しないのかな?と、ビールを飲みながら考えてると真ちゃんが背中にきーちゃんを付着させてリビングに来た。
「美樹、きーちゃん外して」
何してんの。
「絶対離さないー」
真ちゃん良かったやん。絶対離さないんだって。
「良かったやん。離れないじゃなくて離さないやってwww」と同じこと考えてた旦那。
「何教えてん。風呂入りたいねんけど」
「あかんー。それなら一緒に入る!真ちゃん1人になっちゃダメー!」
あかんあかん。それはさすがにあかん。


「何で俺やねん」と飲み始めた旦那はちょっと面倒くさそうに言うけど…
それは、きーちゃんに変なこと吹き込んだからだと思うよ。
「きーちゃん、きーちゃん。切腹するんは守れへんかった責任やからきーちゃんが食われへんかったら切腹せーへんで」という旦那の言葉を聞いて一旦離れるきーちゃん。
「食べられへんから切腹したあかんで?切腹しないでね?」
今度は前に移動してくっついてる。
うん、ちょっとひっつきすぎ。
これが保育園児なら微笑ましいんだけど、これ外で真ちゃん以外の違う人にしたら問題よね。


「きーちゃん、ちょっとちょっと」と旦那がきーちゃんを呼んだすきに真ちゃんが「何の話してんの?」と聞いてくる。
さっきの旦那の言ってた話をする。
「アホちゃうかwwwなんやねん半分うんこってwww」
さすが男子。そこに反応するのか。
ツッコミどころ、そこだけじゃないでしょ。


「真ちゃん、ちゃんと守ってね」
旦那と何か話をしてきたらしいきーちゃんが戻って来ると、また真ちゃんに引っ付いて言う。
「お、おう」
いきなり過ぎて困惑する真ちゃん。
そこは「任せろ」のがカッコイイけど?
てか、何話したの?


真ちゃんの後、ようやくきーちゃんもお風呂に入って就寝。なんだ、疲れたわ。
「さっきの話といいさ、最近ホントお父さんみたいだよねー」と旦那に言ってみた。
旦那は私の顔を無言で見る。そしてビールを飲む。
何よー。お父さんじゃ不満?
「キリコに言うたら笑うから言わん」
それ、聞いてこいってことだよね?
そんなに聞いてほしいなら聞いてあげるじゃない。
どんなことを言い出すのかと思ったら、すごく興味深い話だった。
きーちゃんが本当の娘だった夢をみて、それから何か妙に氣になるんだって。
恋愛感情とかでは全くなくて、やることなすこと心配になるし、どこ行ったかとかどうしてるとか。
「そんな話大好物!前世でお父さんだったんじゃない?お母さんはわたし?」
「いや、違ったな。」
そこは嘘でも「そうやで」って言いなさいよ。


親として本当に可愛くて大切に育ててた。
その娘ちゃんは評判になるくらい可愛いから言い寄って来る若いのを見てヒヤヒヤしてたんだけど、年頃になって好青年と結婚が決まって安心してたのに病氣にかかって「花嫁姿見たかったなぁ。見れないやろなぁ」と思いながら床に臥してる所で目が覚めたんだって。


「めっちゃリアルでなぁ。」としみじみ言いながらビールを飲む旦那。
「それいつ見たの?」
「それがな、今年の初夢!よー出来とるやろ。キリコがおかんになってるから影響受けてしまったやん」と笑うけど、本当にお父さんだったんじゃないの?
真ちゃんの入院の時もきーちゃんにショックを受けにくいように、でもちゃんと伝えてくれたし。
今回も結構ツッコミどころはあったものの、オトコの毒牙から守ってたしね。


いいなぁ。ずるいー。
私もそんな繋がり欲しいー。笑


「ってなるとさ、キリコのオヤジさん良く許してくれたよなーと思うわけですよ」
あ、酔っ払ってきたな。
「2年後、きーちゃんがオトコと東京行くなんて言うたら許さんかもしれんwww」
私たちが大阪出てきたのが中学卒業した時で当時健在だった両親は最初絶句したものの、割とすぐ許してくれたっけ。
旦那は今の店のオーナーの所で下宿してたし、私も学校の寮に入ってたし。
まあ、私が一年後学校辞めて寮から出て同棲始めたわけですが。
旦那は中三の夏休みからちょくちょくこっちに出て、自力で就職先探して今のオーナーと出会ったのが秋。
オーナー夫妻がとってもいい人たちで、就職先だけでなく、家を借りたら給料無くなるでって下宿させてもらえることになったんだっけな。
子供がいないからってとっても可愛がってもらって。
私のこともとっても氣にかけてくれて、大阪の両親みたいな人達なんだよね。


「それが真ちゃんでも?」
「そうなったら、とりあえず何発か殴っておきましょうかwww」
「真ちゃんでも殴るんや。笑」
本当に殴らなきゃいけなくなる時まで、まだしばらくかかりそうだけどね。
「じゃあ、実は今、真ちゃんがきーちゃんのことかわいいかわいいって言ってるのも複雑な父親の心境?」
「それはこれでもかと釘刺しとるんで大丈夫です」
いつの間にそんな釘刺してたのよ。
そんな話をしていると、「連休取ってさ、オヤジさんの墓参り行こうで」と言い出した。
酔ってるな。これ、明日の出勤まで覚えてるんだろうか。
「真弥はともかく、きーちゃんやな。あれは娘やなくても心配やで」と旦那が言い出した。
その件に関しては私も心配であると答えた。
一緒に過ごし出した頃、自分が生きていくために自分自身を商品としてしまうのではないかと心配した。
その心配はこの数ヶ月で無くなったけれど、自傷行為のことも年齢よりもずっと幼いせいで女の子としての危機感を持っていないことも新たな心配が出てきてしまった。
「女子ってそこらへんマセてるんちゃうん」
「人によりけり?」
「キリコはどないやってん」
そこ聞く?やめてよ。
「まあ、人並みよ」
「人並みって何やねん」
「何?私の昔のオトコが氣になるの?」
「アホちゃう?」と言ってまたビールを開ける旦那。ちょっとは氣にしなさいよ。
「ちょっと教えといてあげて下さいよ」
「そこはね、私も考えてる。けど、きーちゃんの理解が追いつくかどうか。多分ね、今中学生だけど、その辺りはもっともっと幼いと思うんだよね」
その件から、きーちゃんの幼さについて話をした。
私も旦那も、中学生ではあるものの本当のきーちゃんは小学生かそれよりも幼いくらいの感覚ではないのかと感じていた。
それは、きーちゃんの今まで過ごしてきた環境のせいなのか生まれつきのものなのかは判断出来かねるものの、今私たちが出来るのは、なるべくきーちゃんの負担にならない程度に生きていくための知恵をきーちゃんがここではない場所で生きることになっても大丈夫なように教えていくしかないんじゃないか。
そして、どこまで出来るか分からないけど、きーちゃんが今まで受け取ることが出来なかったものを、小さい子扱いしているのかもしれないけど、私たちが出来る限り渡せたらいいな。という話をした。
正直、旦那がそこまで考えてくれてると思ってなかった。
「乗りかかった舟です。それに出来ることを考えてこうやって言うたやんか」
うん、言ってたね。ちゃんと考えてくれてたんだね。


翌日、酔っ払いの戯言だと思っていたら旦那はちゃんと覚えていて、出勤したらオーナーに連休を取れないかと聞いていた。
夢の話なんかの詳しいことはもちろん話さなかったんだけど、ちょっと改めて私の父親のお墓参りをしたくなって。と正直に話したらオーナーの奥さんの方が「今はそんなに忙しくないからゆっくり行ってきて。お父さんも喜ばはるよ」と1週間も休みをくれた。


「ねぇきーちゃんたち連れてかない?」
帰りにふと思った。
「は?」
「ほら、スキー行くって言ってたけど無理やったやん。旅行代わりにならないかな?私たちも一緒やから美樹も安心でしょ?」
我ながら名案。
もうお父さん扱いしてやる。
私もお母さんな氣でいるもん。
さすがに旦那の実家に2人も連れて急に泊まると言うのは氣がひけたので、実家の兄に頼んでみることにした。
兄の奥さんに悪いかなと思ったんだけど、うちの実家は両親が生きていた頃は兄夫婦と敷地内別居してたから、その1軒空いてるはず。
そこに泊めてもらえないかと兄に聞くと、義姉である奥さんの方が喜んでくれた。


まだ真ちゃんも休みだし、行きやすいじゃない。
そして、車で行くなら真ちゃんの車の方が大きいから楽だし。笑
話をすると、きーちゃんはとっても楽しみにしてくれて話はサクッとまとまった。
急遽、春休みの旅行が決定した。