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Story 23.傷跡。
きーちゃんは春休みの旅行計画を楽しみにしていてくれてるようで、修了式まであと何日と毎日カウントダウンしていた。学校では相変わらずツライようだったけど、帰ってくると表情は穏やかになって安心していた。
「なにこれ?」休日の洗濯当番で洗濯を干している時だった。きーちゃんの制服のブラウスの左の袖だけが薄く変色しているのに氣がついた。最初は何かの色移りしてしまったのか、漂白剤使うか。なんて思っていたけど、制服のセーターを手に取って色移りなんかじゃないと確信した。セーターも左の袖だけがよく見ると所々変色していた。
急いでリビングに入ると、さっきまで居たきーちゃんの姿がない。「きーちゃんは?」旦那に聞く。「おつかい頼んだ」とノンキな返事が返ってきた。「もう、なんでおつかい頼むの!!」「何やねんな」
ずっと残っていた不安。けど、比較的落ち着いているようだったから考えないようにしてた。けど、それを目の当たりにして混乱していた。
「自販機やからすぐ帰るんちゃうの?行ったらあかんかったん?」と真ちゃん。
冷静にならなきゃいけないはずだったのに、全く冷静になれていなかった。多分、私たちに隠れて自傷行為をしてる。
血のついたブラウスやセーターを見られないよう、いつも当番と関係なく洗濯をしてくれてたのはその為なのかもしれない。ここしばらく落ち着いているようだったからと安心していた。私たちと居ればきーちゃんは落ち着くことが出来るんだなんて能天氣にも程がある。勘違いもいいところだ。きーちゃんは落ち着くなんて無かったんだ。よく考えてみたら、私たちの前で初めて自傷行為をしてから3週間も経ってない。
ショックだった。私たちと会う前にやっていたであろう自傷行為をまたしていること、私たちに隠れてやってること、それに氣付かずにいた自分自身に。
「ただいまー」きーちゃんの明るい声がして、ジュースを持ったきーちゃんが顔を出した。冷静になれていないまま、私はきーちゃんの左腕を取ってパーカーの袖をあげる。よっぽど酷い顔をしていたんだろう。きーちゃんは驚いて顔を強張らせたまま硬直していた。旦那も真ちゃんも驚いて私たちの所に飛んできた。
やっぱり、想像した通りだった。前に縫われた傷よりも新しい傷がいくつも白い腕に引かれていた。本当は縫わなきゃいけないんじゃないかと思うような傷もあった。よく見ると、今まで氣が付かなかった古い傷跡もあった。
「何でよ、何でこんなに傷が増えてるの!」ここで声を荒げてきーちゃんを責めたって仕方ないのも、旦那や真ちゃんが一緒に居るのも分かっていたけど止まらなかった。「いつやったの?あれから何回切ったの!何で黙ってたの?どこでやったの?何でこんなに増えてるの!答えて!」きーちゃんは硬直したままで何も答えなかった。
「キリコ、落ち着け。そんないきなり怒鳴りつけたらきーちゃんも驚くやろ。何があってん」旦那がきーちゃんから私を離してソファーに連れて行ってくれると、少し落ち着いた。きーちゃんは驚いた表情のままリビングのドアの前で立っていたけど、真ちゃんがソファーまで連れてきてくれた。
「聞きたいことだらけやけどな、まずキリコは落ち着け」真ちゃんがきーちゃんの買ってきてくれたジュースをテーブルに置いてくれたけど、旦那に肩を抱かれながら、頭を抱えるしか出来なかった。
「いきなりどうしてん」上手く説明が出来そうになかったから、干そうとして手に持っていたセーターとブラウスを旦那に見せた。「制服?」旦那の言葉にきーちゃんは驚いた表情をして、テーブルに広げたブラウスとセーターを取る。「きーちゃん、貸して。それがどうしたんか知りたい」と旦那が言うけどきーちゃんは首を振ってブラウスとセーターを死守する。真ちゃんがきーちゃんに何かを言うときーちゃんは諦めたのか旦那に渡した。
「で、キリコ。これがどうしてん」「袖。血の跡がついてた。」これだけしか言えなかった。「きーちゃん、これは血の跡なんか?」きーちゃんは俯いたままだった。「きーちゃん、キリコが怒ってるように見えるかもしれんけどな、怒ってるんやなくてきーちゃんを心配しとるねんな」と旦那が言うときーちゃんは小さく頷く。「こんな人数居ったら言いにくいか?キリコだけにしとくか?」旦那の言葉に真ちゃんが立ち上がろうとすると、きーちゃんは真ちゃんの腕を掴んで首を横に振った。真ちゃんがもう一度きーちゃんの隣に座って、また何かを言っている。
きーちゃんはしばらく唇を噛み締めた後、小さな声で「ごめんなさい」と言った。そして、抜糸をした後からまた腕を切っていると言った。
「何でこんなに自分を痛めつけるの?言ったやん、きーちゃんが痛めつけられるのはおかしいって。他人だけじゃなくて、きーちゃん自身も自分を痛めつけるのはおかしいんだよ、」きーちゃんは時々唇を噛み締めて泣くのを堪えながら、学校で悪意を向けられると自分が居なくなりそうになる。だけど、トイレで腕を切るとまたこっちの世界に戻って来れる。だから、その度に腕を切っていたと話した。
「きーちゃんのバカー。そんなんする位なら学校なんて行かなくていい…」何故誰もきーちゃんに手を差し伸べていなかったのか怒ったことがあった。自分は違うと思っていた。けど、だから私たちに心配かけないようきーちゃんは隠れて自分を傷付けて平氣な顔をして笑っていた。きーちゃんが悪いわけではなくて、きーちゃんの優しさだっていうのも分かってるけど、この年頃の子が不安定なのも、一度してしまった自傷行為はエスカレートして自分でも止められなくなるであろう事も想像ついた。
きーちゃんを責めたい訳じゃないけど、どう言えばいいのか分からない。この怒りは、きーちゃんに向けてではなく自分に感じる不甲斐なさときーちゃんに向けられる悪意への怒りだとも分かってるけど冷静で居られなかった。
「きーちゃん、これはなキリコの言う通りや。きーちゃんが学校に行かないことでどうなるか心配しとるのも知ってる。けど、そこまで追い詰める位なら行かんでええ」と旦那が静かに言った。きーちゃんはまた小さな声で「ごめんなさい」とだけ言って黙る。
「きーちゃん、学校のカバン持って来て」と旦那が言う。学校のカバン?どうするの?訳がわからず旦那を見た。きーちゃんも同じようで旦那を見ている。「真弥でもええわ。きーちゃんのカバン持って来て」と言われて真ちゃんが立ち上がるときーちゃんも真ちゃんについて部屋に行く。
きーちゃんは黙ってカバンを旦那に渡すとソファーに座る。真ちゃんはブレザーも持ってきてまたきーちゃんの隣に座った。「きーちゃん、暴力的に思うかもしれんけど、何しようとしてるか分かってくれるか?」という旦那の言葉にきーちゃんは頷く。旦那はきーちゃんのカバンの中を真ちゃんはブレザーとスカートを調べ始める。何してる?
真ちゃんがスカートのポケットから剃刀を出した。安全剃刀2本とノーマルな剃刀が1本。剃刀には乾いた血がついたままで思わず目を逸らした。旦那も筆箱からカッターナイフとハサミ、ポーチからガーゼとテープを取り出す。「もう一つは?」と真ちゃんの言葉にきーちゃんはまた部屋に戻ってサブバッグを取ってきて真ちゃんに渡した。
真ちゃんがサブバッグを調べるとまた剃刀が2本出てきた。これにも血痕がついていた。「これだけか?」旦那の言葉にきーちゃんは頷く。
「剃刀はどこで揃えたん?」「お小遣い…」真ちゃんの問いに答えるきーちゃん。電車で登下校する日もあるからと最低限のお小遣いを渡していた。「けど、渡した分だけでこんなに買えないんちゃうの?」嫌な予感がしたけど、それは嬉しいことに外れていた。何駅か歩いて電車代を浮かして、浮いた分で購入したと言った。
「きーちゃん、これはな、嫌がらせしたい訳でもないねんな。ただ、きーちゃんがまたこうやって腕を切って欲しくない。腕を切る位ならキリコの言う通り学校には行かんでいいし、うちらに氣を使って黙ってなくてええ。正直、どうしたらええか分からん。だからしばらくこれは預かる。ええか?」きーちゃんは頷くと小さな声で「ごめんなさい」と言った。真ちゃんがきーちゃんに何かを言うときーちゃんの目から次々と涙が落ちる。「キリコ、ひとまずこれでええか?俺らが出来るんはこれだけや。後はキリコが自分で考えてくれ」泣いて真ちゃんになだめられるきーちゃんを見ながら頷いた。
「キリコ変わるわ」真ちゃんの部屋のベッドで眠るきーちゃんを眺めていると旦那が部屋に来た。良い悪い関係なくきーちゃんにとってショックだったんだろう。あの後きーちゃんは過呼吸の発作を起こして倒れ、久しぶりに熱が上がってきてしまった。過呼吸だけだったら寝かせるだけで良いかと思ったけど、熱が高く先生を呼んで点滴をしてもらった。私たちの意図は汲んでくれていて、もうしないであろうと思ったけれど、心配で順についておくことにした。
まだ13歳。どれだけの傷を持っているんだろう。思春期の特有の不安定さだけで片付けられない危うさ。過保護かもしれない。傍から見たら他人かもしれない。常識ではおかしいのかもしれない。私に出来ることはないかもしれないし、結果もっと傷をつけてしまうかもしれない。けど、目の前で眠るこの子をほっておきたくない。どうすれば腕に付けた傷よりももっと深い傷を癒してあげられるんだろう。
リビングに行くと真ちゃんがコーヒーを淹れてくれた。「まだ続けるつもりですか?」先生が言った。「続ける?」「あの子は君らが思ってるよりずっと根が深いかもしれへん。正直、自分らも消耗してくで。ホンマの家族だって投げ出すこともある。それでもまだ家族ごっこしてくつもり?」
家族ごっこ。
どこかで思っていた言葉を投げられてショックだった。ただ可愛いと言うだけで済むことじゃないと分かってる。「俺は続けるで。美樹やキリコが付き合いきれんって言うても手放さん」先に答えたのは真ちゃんだった。「子供が何言うてはるん。あんたもまだまだ子供やで。子供同士でおままごとか?」「子供かもしれんけど、大人よりよっぽど頭が柔らかいしエネルギー有り余っとるわ」「次期当代さんの自信とプライドか?」「何とでも言ったらええわ」どういうこと?次期当代さんって何?「で、あんたらはどないするん?今手を引いても誰も非難せんで」真ちゃんは迷いなくすぐに答えてた。私もそのつもりだったけど、何故か返事が出来ない。
「おたくの旦那さんはまだしばらく続ける言うとったけどな。けど、おたくらはまだ若いし結婚したところや。おたくらの人生やってのをちゃんと留めとったらええんちゃうか」先生はそう言うときーちゃんの点滴の処置をしに真ちゃんの部屋へ行ってしまった。
旦那はまだしばらく続けると言っていたんだ。不思議な夢を見たと言っていたけれど、正直もうダメだと言いださないか不安だった。それが晴れて、自分の中の迷いも消えていくようだった。
しばらく沈黙が続く。そういえば。「さっきのさ、私たちが付き合いきれなくても真ちゃんは手放さないって言ってたやん」「え?あーー、ねぇ」なんではぐらかすのよ。「前に加奈子に2、3年待つって言ってたやん。それと同じ?本氣だってこと?きーちゃんまだ13歳だよ?」「さあね、3年もしたら分かるんちゃうー?」コーヒーを飲み干すと真ちゃんもリビングから出て行ってしまった。はぐらかされてしまったけど、加奈子に言ってたのはきっと本心だったんだろうと思った。
テーブルに置かれたままの剃刀が目に入った。多分、初めは安全剃刀だったんだろう。そこからエスカレートして普通の剃刀で切るようになったんだ。「いったー」剃刀を封筒に入れようとして指先を切ってしまった。血が流れてその度に酷く痛む。とっさに口に指を当てると血の味がして、やっぱり痛む。
旦那が戻ってきて、指を切ってしまったのに氣付いてくれて絆創膏を取ってくれる。「すっごく痛い」「でしょうな。氣を付けて片付けな」「泣きそう。すっごい痛い。きーちゃんの腕、こんなのじゃなかった。痛くて泣かなかったのかな、それよりももっと心が痛くて泣けなかったんかな」ほんの少し切っただけで、酷く痛む。それよりももっと深い傷だった。
トイレに籠って1人で自分を切り刻んでこっちの世界に戻って来るように。
夏、見えないお友達にこの世界が悲しいなら一緒にいようと誘われる。誘われると見えないお友達のいる世界に行ってしまいそうになると言ってた。見えないお友達の世界でなくこっちの世界に留まりたいと思ったってことなのかな。それは私たちがいるから?
「美樹がね、もうダメだって言ってもやっぱりきーちゃんを分かりましたって言って手放せない。それが原因で離婚だって言われてもきーちゃんが1人で生きていけるようになるまで私はきーちゃんと居たい」「なんやの、誰が離婚や言うてん。正直、あの腕見て目を背けたくなったし、そんな子をどこまで助けられるか分からん。キリコがそこまで考えてるのも分かったから、もうしばらく出来ることやってみようや」
私もどこまで出来るか分からない。けど、楽しそうにお喋りして笑う声をもっと聞きたいと思うんだ。血は繋がってないけど、きーちゃんは間違いなく私の大事な妹なんだ。私たちは家族なんだ。
夕方になる頃、真ちゃんに連れられてきーちゃんがリビングに顔を出した。真ちゃんの後ろに隠れて恐々と様子を伺っている。「もう起きられる?ごめんね、びっくりさせたよね」きーちゃんの所まで行って、今度はゆっくりきーちゃんの左腕を取った。
まだ赤い傷もたくさんあった。腫れている。熱を出したのは私たちにバレたショックではなく、この傷たちのせいかもしれない。「ごめんなさい…」小さな声がした。「けどね、腕がこんなになるまで我慢して欲しくない。頼りなくてもきーちゃんが辛かったり悲しかったりした時一緒に居るからもうこれ以上痛い思いしないで。きーちゃんの痛いの増やさないで」またきーちゃんの瞳からたくさん涙が落ちた。
「でもね、こっちに戻ってこようとしてくれたのは嬉しい。だから一緒にいよう。ツラいならもう学校に行かなくていいから」ぎゅーっと抱きしめると、まだとても小さい。自分を守る方法が自分を傷付けるしか見つけられなくて。
きーちゃんは泣き虫だ。けどようやく泣き虫になった。私たちの前では自分でも感情に蓋をすることなく表せるようになってきた。ここで手放す事なんてしたくなかった。
「あれ?真ちゃんいつのまにピアス増やしたんよ」それから数日。行かなくても良いと止めたけどきーちゃんはあと少しで3学期が終わるからと出来る限り登校していた。私たちが悪く言われないように。ときーちゃんなりに考えてくれてるんだろう。もっとキツく止めておけばよかったと後悔することになった。
今日のきーちゃんお迎えと食事当番は旦那。これが重なる日、旦那はきーちゃんを連れ回してるのかいつもより帰宅が遅い。「お腹すいたなー」なんて思ってお菓子を食べている時、ソファーで本を読む真ちゃんのピアスが目に止まった。「え?増やしてへんけど」と言いながら視線を外された。「何で嘘言うの。子供じゃあるまいし開けたところで怒らないってば」
誕生日にきーちゃんからピアスをもらってあけてたのは知ってるけど、その時は左に1箇所だった。けど、よく見たら左には3つ、右に2つ開いてる。「嘘言ってへんわ。風呂!風呂入ってくる!」と言ってリビングから出るからついて行く。いきなり増えた理由が氣になった。「何で隠すのさ」「隠してへんわ」
玄関でそんなやり取りをしていると、ドアが開いて旦那ときーちゃんが帰宅。「キリコ…何で追い剥ぎみたいになっとんねん。何や若い男を襲うくらい欲求不満か?」と事態を飲み込めてない旦那は真ちゃんのシャツを引っ張ってお風呂へ行こうとするのを止めてる私を見て言った。帰ってきたら「ただいま」でしょ。若い男を襲うほど欲求不満になってないわ。失礼ね。「ただいま。何で真ちゃん半分服脱がされてるの?」きーちゃん合格。でも脱がされてるってきーちゃんまで聞こえ悪いわね。真ちゃんが私の追及から逃れようと次々と脱ぎ出すからこの格好なのよ。
ちょっと待った。「やだ、こっちも開けたの?」季節柄薄着になることなかったから氣が付かなかったけど、おへそまでピアスしてる。細いわりにちゃんと鍛えてあるせいかオシャレで似合ってるね。私もあけたくなってきた。って違う、違う。
「何や真弥まで自傷行為か?」旦那の言葉にきーちゃんの表情が強張ったのを私は見逃さなかった。「きーちゃん、久しぶりに一緒にお風呂入ろ。トリートメントしてあげる!」「いや、俺が風呂入ろうとしてたんやけど…」と真ちゃんが言うけど無視してきーちゃんを部屋に連れて行って着替えを取りに行く。
渋々服を脱ぐきーちゃんの左腕を見るとやっぱりあれからも切ってるらしい新しい傷があった。あれで「じゃあもうやめる」とすぐに止まる訳はないと思ってた。けど、やっぱりきーちゃんは自分を傷付けないと保てなかったんだと思うと自分の無力さを痛感する。
髪を洗ってあげて約束通りトリートメント。きーちゃんの左腕を取って改めて見る。一瞬、抵抗したけどすぐに力は弱まった。そこまで酷い傷は見られなかったけど、私がこの間確認してから新しく6箇所切られた跡。
6箇所?偶然?真ちゃんの増えたピアスの数と一緒。
「きーちゃん、真ちゃんがピアス増やしたの知ってた?」少しの間の沈黙の後、きーちゃんは頷く。「最初はね、耳に2つあけたって…」「うん、それっていつ?」「先週の火曜日って…」先週の火曜日ってことは、きーちゃんがまた腕を切ったと分かった日の2日後か。
「後のピアスは?」「先週の金曜日…」火曜日と金曜日。両方とも真ちゃんがきーちゃんのお迎えに行った日だな。金曜日は寄り道して帰ってくるのが遅かった。
「これは怒ってるんじゃないからね、ちょっと教えてくれる?」小さく頷くきーちゃん。「新しい傷と真ちゃんのピアスと関係ある?」と聞くと驚いた顔を見せた後小さく頷いた。「お風呂上がったらさ、ちょっと上に行って聞かせてくれる?」
そこまで深くないとは言え、新しい傷が増えてるから長くお風呂に入るのはまずいかと思って早めに上がってきーちゃんを2階の私たちの部屋に連れて行った。きーちゃんは、烏龍茶を飲みながら少しずつ話してくれた。
「金曜日にね、お迎え来てくれた時ちょっと寄りたい所あるって…」その時に寄ったのはアキちゃんと真ちゃん共通の友達の所でそこでお臍と耳のピアスを開けたらしい。「この間もあけた所やのにホンマはやめといた方が良いって言ってはってんけどね、あけてって」「何でそんなに無茶したんだろ」「…」「…私がね、切ってたから…」ときーちゃんが小さな声で言った。
火曜日のお迎えの時、真ちゃんはきーちゃんが左腕を庇ってるのに氣付いて傷を見つけた。その日の夜にその日きーちゃんが切った2箇所と同じ数を自分で開けたらしい。
金曜日のお迎えの時、車に乗ってすぐに腕を確認されて、真ちゃんはすぐに友達に電話をかけて予約を入れた。その帰りにきーちゃんは処置した子が「普通そんな短期間でいくつもあけない」と言ってたのを思い出して何でか聞いたら、きーちゃんが切った数だけあけると答えた真ちゃん。「切るのやめられんやったら、1人だけ痛い思いせんでいいって。腕を同じだけ切ろうかと思ったけど、仕事復帰して傷があるのはまずいからピアスにするって…」と言うきーちゃんは涙目になっていた。「私がね、我慢出来ないから真ちゃんの体を傷つけちゃった…」
全く、何をしてるのかしら。ちょっと理解不能。それからもきーちゃんの話を聞いてみると、金曜日にそれを聞いてから今日までは切ってないらしい。学校でやっぱり辛くて切ろうとするんだけど、真ちゃんがそう言ってたのを思い出してしまって切れなかったと言った。捨て身で止めにかかってるとしたら、作戦成功だな。にしても、無茶苦茶だわ。根本解決になってないんじゃないかしら。
「無茶苦茶かぁ?結果今のところやってへんから成功やんか」きーちゃんが寝た後、リビングで旦那と呑んでる真ちゃんに言ってみた。「無茶やろ、それでもやり続けたらどないするつもりやねん」と旦那も言う。「え?同じだけやるで?」「あけるところ無くなるで」「まだ耳行けるし、耳にあけれんくなったら、、、顔面行こうかwww」って笑うけど、顔面とかやめて頂戴。怖いわ。
ピアスならオシャレの一環で済むけど、明らかに真ちゃんの理由はオシャレじゃないし。こんな理由、真ちゃんが新しく彼女できたりしたら喧嘩の元になるよ、ぜったい。今はどんな心境なのか分からないものの、きーちゃんの事が氣に入ってるみたいだけどさ。
けど、わざわざまた新しく剃刀を用意してまで切ろうとする。真ちゃんの捨て身な作戦でこの何日かは止まってるものの、根本解決じゃない。どうしたら良いんだろう。