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Story 24.私の妹。
真ちゃんの捨て身な作戦が効いたのか、きーちゃんの傷も真ちゃんのピアスも増えることがなかった。その数日の間もきーちゃんへの悪意は変わらないようで表情も暗かった。なんでもっときーちゃんに向き合って、そして学校でのことやきーちゃんの抱えるものをきちんと受け止めておかなかったんだと後悔してしまう。それと同時に、私が氣付いてしまって旦那や真ちゃんの前で糾弾したようなカタチになったこと。そのことできーちゃんを追い詰めてしまってないかと心配にもなった。
「ねーさん♪真ちゃんが明日ケーキ焼いてくれるって!今日買っておいでって♪イチゴとチョコとどっちがいいかな」今日のお迎えと夕食当番は私。スーパーで食材を選んでいるときーちゃんが楽しそうに言った。きーちゃんが「ねーさん♪」と呼んでくれると一日の疲れが消えるようで心地がいい。その明るい声が曇ることがなくなるのはいつなんだろう。どうすれば良いんだろう。
「いきなりケーキ焼くとか真ちゃんどうしたの」イメージ的に真ちゃんがケーキを作る姿は似合わない。笑「昨日の夜ね、テレビ見てたらケーキ出てきて食べたい!って言ったら作ってくれるって♪」たしかに料理上手だし、家事も完璧だし、いい嫁さんになりそうだよね真ちゃん。うちの嫁に来てくれないかしら。
食材を買って帰宅すると、アキちゃんの車が止まっていた。「兄ちゃん帰ってきてる!」テンション上がるきーちゃん。ホント、きーちゃんはアキちゃんが好きだよね。滅多に姿を現さないからレアキャラ扱いなのかしら。「おかえりー」リビングへ行くとアキちゃんがソファーで寛いでいた。「兄ちゃんもおかえりー」と言ってアキちゃんにダイブするきーちゃん。こらこらこら。前に旦那が言ったこと(色々とおかしかったけど)を理解したんじゃないのか。「ただいま。きぃは相変わらずかわいいなー。ええ子にしとった?」と言ってそのままきーちゃんをハグするアキちゃん。こらこら。アキちゃんもアキちゃんよ。旦那がまだ帰って無くて良かった。絶対うるさいよ。ボコボコにされるわよ。
「なあ、これ何」真ちゃんも帰宅して珍しいメンバーでの夕食。旦那が居れば完璧だったのに今日に限って遅番とか。部屋で勉強していたきーちゃんがテーブルにつくとアキちゃんが言った。「これ何って今日のご飯よ」私が作った食事は食べられないっていうのかしら。と一瞬カチンと来て言い返したけど、どうやら『これ』は食事のことでは無かったらしい。「何でこんなことなってん」アキちゃんが言っていたのは、きーちゃんの腕だった。アキちゃんがお土産に買ってきた七分袖のワンピース。七分袖ではきーちゃんの傷は隠しきれず、まだ痛々しさが残るものがいくつか見えている。「後で言う。今はメシや」とこの間のやり取りを知っている真ちゃんが話を逸らそうとするけど、アキちゃんはきーちゃんの腕をとって手を離さない。「早よ離せや。食べれんやろ」と真ちゃんが言うとアキちゃんは立ち上がる。「きぃ、行くで」まだ事態を飲み込めていないであろう表情のきーちゃんの手を引くアキちゃん。「行くってどこに!意味わかんないんだけど!」私の問いに答えずにアキちゃんはきーちゃんを隣の部屋に連れて行く。一瞬呆氣に取られたけど、すぐに2人を追った真ちゃんを見て後を追う。アキちゃんはきーちゃんの服を鞄に詰めて、そしてきーちゃんは呆然とそのアキちゃんを見ていた。「何してんねん」真ちゃんがアキちゃんに詰め寄るけど、アキちゃんの手は止まらない。「おまえらに任せたったら大丈夫やろうと思ってたけど間違いやったわ」と確かにアキちゃんが呟いた。「は?」私も真ちゃんもアキちゃんの言っている意味が分からなかった。「まだ早い思ってたけど、もう待てん」もう待てないってなに?何が早いの?「きぃ、行くで」アキちゃんの意図は分からないでも、この空氣が自分の腕の傷が原因であることは理解しただろうきーちゃんは俯いて何も言えないようだった。「何勝手なこと言うてん。きーちゃんどこに連れてくつもりやねん」きーちゃんの肩を抱いて部屋を出ようとするアキちゃんを止める真ちゃん。「やかましい。叫ぶな。きぃを安全な所に連れてくだけや」「それが意味分からんって言うとるねん。何やねん安全な所って」「ここやったらまだ大丈夫やと思ってたんやけどな。やっぱ家族ごっこは家族ごっこでしかないねんな」
まただ。家族ごっこ。先生にも言われた。それがずっと引っかかっていて、言い返せない。
「ふざけんなし。きーちゃん、アキラと行くんか?」真ちゃんの言葉にきーちゃんの視線が動いた。沈黙。多分、みんなきーちゃんの言葉を待ってる。けど、きーちゃんはこの空氣が自分のせいだと責めているんじゃないか。何をどう言えばいいのか分からない。本当の家族なら、ここで適切な言葉をかけられるんだろうか。きーちゃんがゆっくり歩いて私に抱きつく。これは、アキちゃんと行くってこと?それともここに居たいという意思表示?「ねーさんと居たい…。けど、私が居たら…」3学期に入った頃、きーちゃんが学校で誘拐だと通報することが出来ると言われたと真ちゃんから聞いた。その言葉を氣にしてあんなに嫌がっていたスキーにも行ったし、今も辛くても学校へ行ってる。私にしがみついて、声を出さないように泣くのを堪える小さな女の子。初めて会った時も、目に涙を浮かべながら泣くのを堪えてすみっこでうずくまってた。多分、この子は今までもこうやって夜中に、寒い日も、声を殺してすみっこでうずくまって1人で耐えていたんだろう。泣いても誰にも声は届かなかったから。私たちと出会ってからはたくさんの傷を付けてでもこの世界に居たいと、私たちと居たいと耐えていたんだろう。今までこうやって誰かにしがみついて「ここに居たい」と言えたことはあったんだろうか。「ごめんなさい」ときーちゃんの小さな声がした。
薄々と氣付いていたきーちゃんの「自分が居てごめんなさい」の氣持ち。それを払拭させたかった。けど、それは出来ていないことも分かってる。咄嗟にきーちゃんを抱きしめていた。抱きしめるとまだ小さい。まだまだ子供だ。こんなに小さな子が自分の存在を否定して、ごめんなさいと謝り続けてる。「行かせないから!きーちゃんは渡さない」こうやって私が声を荒げることも、きーちゃんは「自分が居るから」だと責めるだろう。「渡さないってそんなん関係ない。きぃの意思も聞いてられん。そんなことしてたからこうなったんやないか」アキちゃんの言葉に反論が出来ず、ただきーちゃんを抱きしめるしか出来なかった。「きぃ行くで。おいで」私の背中にあるきーちゃんの手の力が少し強くなった。「きーちゃん、ごめんね。後から熱出してもしんどくなってもいいからちょっとだけ我慢してね。おねーちゃん頑張るから。アキちゃんには絶対渡さないから一緒に居ようね」ときーちゃんにだけ聞こえるように言うと、きーちゃんは小さく頷いてまた手の力が強くなった。「アキちゃんや先生が家族ごっこって言うなら好きに言って!けど、きーちゃんは私の妹だから!きーちゃんがここから離れた方がいいなら私が連れて出る!アキちゃんはきーちゃんに触らないで!」喧嘩っ早い性格なのは自覚してる。こんな時は旦那みたいに冷静に対応するのが正しいことだとも理解してる。けど、私は旦那みたいに冷静に状況を判断して適切な言葉を選ぶことはできない。家族ごっこかもしれないし、大きなことを言ってるくせに何ひとつきーちゃんを守れていない私の自己満足でしかないのかもしれない。けど、私と居たいと言ってくれる小さな妹を黙って渡すなんてできない。やっときーちゃんは自分の希望を言えるようになった。その希望まで打ち壊すなんて出来ない。
「キリコが連れて出ても変わらん。何が出来るねん。きぃを離せや」私たちに手を伸ばすアキちゃんを止める真ちゃん。「きーちゃんはここに居る言うてるやろ。キリコと居りたい言うとるやんか。なんでおまえが勝手に決めてんねん」「きぃがここに居たいって言って様子見てたけど、変わらんどころか追い詰められてるやないか。何でこんなひどい傷が増えとるねん。何もなかったらこんな腕にはならん。きぃを守ってるつもりかもしれんけど、結果何も守れてへんやないか。家族ごっこしてるつもりになって満足しとるだけやんか」言い返せない。「家族ごっこやろうが、きーちゃんはここに居る言うてるやろ。おまえが勝手に決める話ちゃうわ」「真弥は黙ってろ。おまえが一番関係無いわ」アキちゃんの言葉に明らかにキレた真ちゃん。けど、きーちゃんのことをよく分かっているんだろう、これ以上言葉を荒げることはしなかった。渡す渡さないの押問答の膠着状態。早くこの状態からきーちゃんを解放してあげたいのに何一つ解決の糸口が見当たらない。
「何騒いでんねん」旦那が帰ってきた。きーちゃんの部屋をのぞいて、当たり前のことだけど事態が飲み込めていない様子だった。「何できぃの腕がこんなことなってん。きぃを安全な所に連れてく言うとるのにおまえの嫁がきぃを離さん。それだけや」アキちゃんの言葉を聞いて旦那が部屋に入ってきた。「意味分からん。じっくり聞くからこっち来い」と言って私の前に立つ旦那。「キリコ、よくやった。きーちゃん連れて上行って休みな。きーちゃんもしんどいやろ」旦那の言葉に力が抜ける。けどここで氣を抜いてる場合じゃない。「きーちゃん。一緒に上行こう。今日は美樹と3人で寝よう」きーちゃんにだけ聞こえるように言うときーちゃんは小さく頷いてくれた。旦那は私たちの肩を抱いてアキちゃんたちから離して廊下に連れて出てくれた。旦那は「きーちゃん、しんどかったやろ。キリコと上でゆっくりしとき」と言うと、私には黙って頷いてくれた。
私たちの部屋に行く。ハーブティーを入れるときーちゃんは小さな声で「ねーさん、ごめんなさい」と言った。「そこはありがとうといただきますだからね」と答えると頷いてくれた。しばらくの沈黙。きーちゃんを渡さないと大見得切ったくせにどう声をかけたら良いか分からずにいた。「ねーさん、わがまま言ってごめんなさい」沈黙を破ったのはきーちゃんだった。「わがまま違う。やっときーちゃんは私の妹になってくれたって嬉しかったんだよ」ようやく顔を上げてくれた。「これは責めてるわけじゃない。けど、この間きーちゃんの腕を見て私はきーちゃんが大事だ妹だと言ってるのに何も出来てないって思った。まだきーちゃんは私に遠慮してるのかと寂しかった。さっきの、きーちゃんは怖かったかもしれないけど、私はアキちゃんがこうやって言い出してくれて良かったと思ってる。きーちゃんが氣を遣ってるわけでなくて私と居たいってホントに思ってくれてるって分かった」ようやく顔を上げてくれたきーちゃんの目にはたくさんの涙がうかんでいる。「きーちゃんは私と美樹の可愛い妹なん。可愛い妹は誰にも渡さない。だからきーちゃんも私たちに氣を遣わなくてもいい。妹はもっとわがまま言ってお兄ちゃんお姉ちゃんを困らせたらいいんだよ」
側から見れば自己満足の家族ごっこかもしれない。頼りなくて辛い思いも我慢もさせるかもしれない。けど、血が繋がってなくても大事な妹。
しばらくして旦那が上がってきた。「大丈夫か?」私たちを見る表情は柔らかくて少しホッとした。「キリコ、よくやった。話はついたから安心しな」話がついたってどういうこと?「きーちゃんも大丈夫か?腹減らんか?飯食べよう」そうだった。夕食はまだだった。「兄ちゃんは?」「アキラも大丈夫や。もうちょいしたらまた出るって言うてたわ」旦那の言葉にきーちゃんの表情が変わる。「どうしよう、兄ちゃんは私のことを思って言ってくれたのに失礼なことしてる…」「うん、きーちゃんがそれを分かってたら大丈夫や。何も失礼なことはしてへん。それぞれがきーちゃんのことが大事やねん。ただ大事や思う方向が違ってたからこうなってん。誰も悪くないのわかってくれるか?」旦那が言うときーちゃんは頷く。「アキラがあんなことを言い出したのもきーちゃんのことが大事でこれ以上傷ついて欲しくないし、傷つけて欲しくないからや。それは俺らも同じや。キリコも俺らもきーちゃんを守る。だからきーちゃんは心配せんでええねん」旦那の言葉にきーちゃんの瞳からまた涙が溢れてくる。「きーちゃんは俺らの大事な家族や。子供は心配せんと育ったらええねん。この家はすごいで。とーさんが3人も居るからな。なんも心配せんでええで」「ねーさん、美樹ちゃん、ありがと…けど、美樹ちゃんはお父さんほどおじさんじゃないと思うー」泣きながらきーちゃんは笑った。「お兄さんでええか。嬉しいから今度お菓子買ったるからなー」と旦那は少し笑ってきーちゃんの頭を撫でた、
どこまで守れるか分からないし、できるか分からない。決意しても、結局同じようにきーちゃんは傷ついてしまうかもしれない。けど、旦那からの言葉を聞けて大丈夫だと確信した。
一階に降りようと部屋を出るときーちゃんはそのまま向かいのドアの前に立った。アキちゃんに声をかけたいんだろう。ここは手助けをするのが良いんだろうか。氣配に氣付いたのかドアが開いてアキちゃんが顔を出す。アキちゃんは何も言わずにきーちゃんの頭を撫でた。「兄ちゃん、ごめんなさい。兄ちゃんがせっかく思ってくれたけど、私、ここに居りたいねん。みんなと、この家がいいねん…」「きぃ、泣かんで。きぃを泣かせたかったわけちゃうねん。きぃがこの家でちゃんと見えてるならこの家に居たらええから。それやったらこの家買った意味もちゃんとある」きーちゃんに視線を合わせたアキちゃんは、次々と溢れるきーちゃんの涙を拭う。こんな時になんだけど、アキちゃんもきーちゃんも絵になるよね。この光景、映画かなんかのポスターみたい。ずるいわぁ。にしても、アキちゃんが言った『きぃがこの家でちゃんと見えてる』ってどう言うことだろう。「兄ちゃん、もう行くん?わがまま言ったから?かえってくる?もう約束なくなる?」アキちゃんが涙を拭うけど、きーちゃんの涙は止まらない。「絶対帰ってくる。きぃが見えるようなって、もう必要やなくなっても帰ってくる。約束したやん。だから泣かんで」きーちゃんがアキちゃんに抱きつくとアキちゃんは少し照れ臭そうに笑った。この子、こんな顔もするのね。いつも女の子を振り回して平氣な顔してるけどかわいいところあるじゃない。けど、約束?きーちゃんが見える?2人の間に何かあったんだろうか。そこまで聞いてみてもいい話なんだろうか。