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Story 26.妊娠発覚。
修了式までの数日、きーちゃんは休まずに登校した。私たちがきーちゃんを育てることを改めて確認して、各自できることをやっていくと決めても、きーちゃんを取り巻く環境はすぐに変わらずきーちゃんにとっては負担でしかなく、帰宅するとご飯も食べずに寝込むことが増えた。「大丈夫やで。寝て回復ってホンマやし。多少食事抜いたとしても問題ないと思うで」と真ちゃんは言うけど心配だった。
今までは高熱を出すとすぐに先生を呼んでいたけど、連日解熱剤を使うことに抵抗もあって先生と相談しながら薬を使うことを減らすことにした。「キリコ、ハーブとかお香とか好きなんやったらそっち使おうや」と真ちゃんが言った。「どう言うこと?」「アロマやら香やら焚いて『これはねー、もっときーちゃんがかわいくなる香りよー』ってきーちゃんに言うてるやん」「言うてる。あ、もしかして信用してない?ちゃんと書いてたんだから!」アキちゃんがきーちゃんへと持って帰ってきたお土産にあった古い本にハーブについての記述があった。その本はもちろん外国語で書かれていてきーちゃんは「オシャレで可愛いけど読まれへん」と本棚のインテリアにしていた。たしかに日本語ですら苦戦しているきーちゃんにはハードルが高いだろうと何も言わなかったけど、チラッと見せてもらった時にハーブの項目があるのに氣付いてきーちゃんに借りている。私も堪能なわけじゃないから、翻訳しながら少しずつ読んで覚えていた。さすが本場の本と言うべきなのか、アキちゃんのその本は専門家までは行かないけれど詳しく書かれていて参考になった。「そうか。薬になるものを使えばいいのか。ってこれ法律的にオッケーなの?」「薬を作らんでも、お茶にしてみるとかマッサージで使うとかすれば問題ないやんか。キリコ風呂でやったってるんやろ」「やってるよ」「民間療法みたいなもんやん。熱出したらネギ巻いとけみたいな」真ちゃん、言いたいことは分かるけどその例え、雑よ。「多分やけど、きーちゃんには特にキリコが触れてマッサージするっての大事やと思うねん」「どういうこと?」「あれですわ。痛いの痛いのとんでけ」意味わかんない。「キリコがおばちゃんいう意味ちゃうから怒らんでや」と笑いながら前置きした後、きーちゃんには母親の存在が必要でそれは私しか出来ないことだと言った。「やっぱなー、性別の壁は超えれんってことやろな」いつか、成長してきーちゃんにとって大切な存在が出来れば変わってくるけど、特にきーちゃんのような子はまだ無条件に自分を愛して守る母親のような存在が一番であると思うと言った。「じゃあ親が居ない子はどうなるねんみたいな話を出すなよ。今はきーちゃんの話やからな」分かってるわよ。話の本題を逸らすような馬鹿じゃないわ。「この間さ、美樹がきーちゃんを抱いて話してたやん。あの時、きーちゃんの表情が違ったん氣ぃ付いた?」アキちゃんが帰ってきた時だよね。確かに安心したみたいだったし、その後もちゃんと眠れてた。「もう中学生やからとか言う変な常識みたいなんは一旦置いといて、きーちゃんに必要なことをしよう言うてたやんか」うん、話したね。それは前から旦那と話してた。「それが今は何より母親やと思うねん。きーちゃんが手を伸ばした時にそれを受け入れてホントの意味で安心させられるのはキリコだけやと思う。そう言ったらキリコ1人に負担かけるようやけど、これは俺らにはどうしようもないから」そう言う真ちゃんは少し寂しそうだった。「大丈夫よ。そのかわり私の食事当番の時は2人が代わってくれたら問題ない」「上手いこと当番から逃げようとすんなしwww」元々、興味があってかじってたこと。そして、私がきーちゃんに分かりやすいカタチでしてあげられること。正直、きーちゃんに具体的には何をどうしてあげればいいか分からずに焦っていたから、こうやって言ってもらえて糸口が見えた氣がした。
旅行を兼ねた私の実家へ行く日の早朝。連休前だからと昨夜飲み過ぎたのか、全身がだるいし氣分も悪い。「お願い、付けてー。ねーさん!美樹ちゃん!」きーちゃんが真ちゃんの部屋で叫んでる。すごく必死だから何事かと走る。出かける日くらい、落ち着けないのかしら。夜中にも騒いでたよね。はしゃぎすぎ。「美樹ちゃん!真ちゃんが付けへんって言うん。言うたって!」うーーん、何でそこは旦那なのかしらね。見に来たの私だってば。きーちゃん、困った時は旦那の方に言うよね。ここ最近の旦那のお父さんっぷりが伝わってるのかしら。
真ちゃんが着替えていたんだけど、何だかすっきり。「髪くくってるやん。いいじゃーん」元から長めだったけど、入院して髪を切ってなかった真ちゃんの髪はもう一段と長めになっていて氣になってたんだよね。「違うでしょ!コルセット付けてかないって言うねん」とプリプリ怒るきーちゃんも可愛い。
よく見るとコルセット付けてないね。痛くないの?と聞くと痛くない。と答える。「痛くないならいいんじゃない?」「あーかーん。だって車にずっと乗るねんで。もし痛くなっても持っていかへんかったらどうするの?付けなくて痛くなるのも嫌」ちゃんと考えてたのね。確かに予定では休憩入れて半日近くかかる。「だからちゃんと付けてって言ってるのに」旦那が降りてきて「付けてけ」の一言で終了。時々、旦那の発言力に驚くわ。なんだろ、親父の威厳かしら。笑「最近、美樹が怖いことあるんやけど」と真ちゃん。「そりゃ、かわいい娘を狙うオトコだもん。お父さんは厳しくなるよ」「なんやねんそれ。」
できるだけ休憩を多めに取ることにして道中約半日。きーちゃん、大丈夫かな?と心配だったけど楽しんでいる。反対に珍しく私が車に酔い、しかも変な貧血と生理痛が重なってしまってヘロヘロ。
「お水買ってくるね」サービスエリアに着いて休憩。きーちゃんはお水を買いに行ってくれた。「昨日飲みすぎなんと違うの?www」と旦那。返す言葉がございません。休憩がてら朝ごはんを食べることにしたけど、あんまり食欲がわかない。旦那の言う通り二日酔いかも。実家に帰るからって珍しく浮かれちゃったのかしら。
「美樹ちゃん、今日どうしても行かなきゃダメ?」レストランできーちゃんが言う。「どうした?」「帰れるなら帰ろ。」きーちゃん、心配してくれてるのね。大丈夫よ、二日酔いだし。けど、旦那よ。嫁を捕まえて「きーちゃんは二日酔いで死にそうになる大人になったらあかんで」と言うのはどうなの。「もう少し休んだら大丈夫よー」と言って食事の後外で風にあたる。まだお腹痛いけど、氣分は楽になったかも。うそ、立ち上がると目眩までしてきた。
「真ちゃん、ちょっと来てー」ときーちゃんが真ちゃんを連れていく。そうだよね、退屈だよね。ごめんね。アイスでも買ってもらって。
しばらくして、真ちゃんが戻ってきて旦那に何か言う。「キリコ、行けるか?今日は一度帰ろう」私、そんなに酷いことになってる?でも、これからは飲むの控えます。と反省してしまうくらい目眩がしていたので、帰ってゆっくり出来ると思ったら氣が楽になった。道中で兄に電話して、体調不良だから今日はいけないと連絡する。怒られるかと思ったけど、驚くほど心配された。そんなに酷い声?
まだ全然進んでなかったおかげで、2時間もしないうちに帰宅した。休憩無しで帰ってきたから、きーちゃんたち大丈夫だったかな。きーちゃん、楽しみにしてくれてたのに申し訳なかったなー。ごめんよー。すぐ復活するから春休み中にどこかに行こうね。
「ちょっと行ってくるわ。きーちゃん、キリコよろしくな。なんかあったらすぐ電話して」出かけるつもりだったから、冷蔵庫の中は空っぽだったので旦那と真ちゃんは買い物に行ってくれた。きーちゃんは心配だからと一緒に留守番してくれて、2階のリビングで何かを描いている。トイレに行こうとしたら、明らかに大出血の予感。やっちゃったー。と思いつつ行こうとしたら、今までに無いくらいの目眩がして立てず途中で座り込んでしまった。それに氣付いたきーちゃんが私の所に来て、ベッドに連れていってくれた。私、トイレ行きたいんだけどー。きーちゃんがすぐに旦那に電話してくれて、15分もしないうちに帰ってきてくれた。ホントお騒がせして申し訳ございません。コソッと旦那に言うけど、今までそんなこと無かったからと病院へ連れていかれてしまった。
病院に行って絶句し過ぎて「なんで妊娠したんですかね」と先生に聞き返してしまったけど、私はなんという質問をしたのか。過去に戻ってツッコミたい。「そりゃやる事やってたら妊娠するよ」とおばあちゃん先生。冷静な返答ありがとう!
「ちょっと出血多いから入院ね。大丈夫、流産したわけじゃないからね」入院!無理無理無理!全力で入院を拒否。きーちゃん置いて入院なんて出来るわけない。「上にお子さんいたっけ?」「いませんけど…妹を置いて入院はちょっとー」「何年生?」「もうすぐ中2ですけど…」「思ったより大きいね。そんなこと言うからもっと小さいと思ったわ。御両親は?」「居ないです。ちょっと複雑で…」「中学生なら大丈夫でしょ。旦那さん来てはるのね、1回話しましょ」しまった。ここは4歳です。とか言っておけば良かったかしら。
ベテランの技なのか、私の入院拒否は「状態が落ち着いて家でも安静できるなら帰れる」とあっさり却下されてしまった。旦那も先生の話を聞いてあっさり入院を承諾。「きーちゃんなら大丈夫やって。荷物取ってくるから」と帰ってしまった。
ベッドでは寝たきり。トイレすら歩いちゃダメって。つまらない。
まさかの話で全然実感はなく。それより急な入院できーちゃんのことが氣になる。出かける時、心配そうにずっと見送ってくれてた。この間は真ちゃんが入院して、帰ってきたと思ったら今度は私だし。
妊娠ってことは子供が生まれるんだよね。これからどうしたらいいんだろう。
子供が欲しいと待ち望んでいたわけでもなく、今の生活を事件は起こるものの結構楽しんでいたので、正直言うと数ヶ月したらこの生活が変わってしまうことの不安の方が大きかった。まだ見たことのない、実感もない子供よりもきーちゃんが心配だった。(ちなみに、この話を息子が成人した時に話すと「ひっでぇwww」と笑われた。笑ってくれる息子で良かった。笑)
暇だろうから。と看護師さんが何冊か雑誌と本を持ってきてくれてその中にあった先生が書いたというプリントの「上の子の赤ちゃん返り」的な話を読んでしまって不安しか残らなかった。
「きーちゃん、赤ちゃん返りしたりするかな」荷物を持ってきてくれた旦那に言ってみる。「はあ?」ざっくりとさっき読んだプリントを見せる。「へえー」プリントを読んで旦那は感心してる。「でもこれ多分上の子は大きくても幼稚園とかその辺想定して言ってるような氣がしますけど?」「きーちゃんだよ?多分そんなに大きくないよ。いってて小学3年生とか…高学年にもなってないかも。それこそここに書いてあるくらいの年齢かもしれない」
きーちゃんはその時の調子によってすごくムラがあるものの、年相応かそれ以上に大人っぽい時も見せるけど基本はもっともっと幼い子みたいで。あれから私たちは過保護だと言うレベルできーちゃんの様子を見ながら接するようにしている。「お父さんとお母さんを取られたように感じてしまいます」という文章が氣になった。プリントには対処法も載っていたけれども、まずそう感じさせてしまうことが心配だった。まだ自傷が治ったという確信もない。今のきっかけは学校で向けられる悪意かもしれない。けど、きーちゃんはあまりにも不安定だ。
「また1人になったって思わないかな」「いや、大丈夫やろ」私の不安とは正反対な答えの旦那。「なんで言い切るのよ」「わからんけど。今言っても仕方ないやん。それにアキラはともかく真弥も居るんやし取られたと思っても『1人』になったとは思わんのとちゃうか?」「そうかな」「まず安静しててくださいよ。キリコが居らんと寂しいって言うてたで」あら、嬉しい。「きーちゃんどうしてた?」帰宅した時の様子を聞いてみた。「真弥とゲームしてたけど?」あれ?心配してくれないの?なんか、ちょっとショック。「あのなー」
「今朝、きーちゃんが帰ろって言うてたやろ」と、今朝の話をしてくれた。ちょうどサービスエリアで車から降りた時に、きーちゃんは私から金粉みたいなものがいくつも落ちるのが見えたらしい。氣のせいかと思っていたけど私が歩くたびに金粉ほどの大きさだったのが、小さなウロコのような大きさになって落ちていくから不安になってレストランで「帰ろう」と旦那に言ってくれた。私が大丈夫と言うけど、やっぱり不安だからって真ちゃんに相談したんだって。それで真ちゃんが旦那に何か言ってたんだね。「あのまま行ってたらどうなってたんだろ。お礼言わなきゃねー」下手したら流産どころか命を落としかねないんだから絶対安静とおばあちゃん先生に言われたところだったから、ある意味きーちゃんは命の恩人だわ。
入院して2週間。暇だ。笑基本何かしら動いていたい性格の私には絶対安静の生活はストレスしかなく、それとホルモンバランスの影響と合わさって思考もネガティブに走ってしまう。旦那は仕事上がりに毎日寄ってくれるから、その度に何度も弱音と愚痴を聞いてもらった。入院中どれだけ時間が経とうとも、診察や検査があっても自分が妊娠したという実感が湧いてくることがなく、ただただこれからどうすればいいか悩んだ。ようやくみんなが揃って家族になろうとしてる。ここで子供が産まれるなんて環境が変わりすぎることの不安。入院した日に読んだ『赤ちゃん返り』のこと。全てが不安材料となった。旦那はそれを否定することなく、私の氣が済むまで黙って話を聞いてくれたのがありがたかった。ひとしきり話終えると「全ての選択は最善なんやろ。起こることは必然なんやろ。だったら大丈夫や。上手くいく」と言ってくれた。
入院生活3週間が見え出した頃、安静を条件に退院決定。本当は旦那と両親以外の面会はダメだったんだけど、きーちゃんは両親の居ない私の唯一の妹なので(笑)旦那の変わりに必要なものを持ってきてくれたり、話し相手に面会を許可してもらえて、退屈な入院生活を乗り切れた。「ねーさん、帰ってもお風呂入れない?」「どうしたん?」「兄ちゃんがね、お土産で外国のお風呂になるのをくれたからねお風呂に入りたいねん」え?外国のお風呂になるのってなに?「泡あわーってなるんだってー。けどね、それするのに何分もお風呂につからなきゃいけないからまだ入れてないねん。だから真ちゃんに一緒に入ろうってお願いしても『イヤやー』って。『風呂はゆっくり1人で入るもんですー』って一緒に入ってくれへんねん。美樹ちゃんに言ってもいつも『呑んでしまったから風呂入れんわ』って」と頬を膨らませるけど、おいおいおい。そうだった。自傷行為に氣を取られすぎて忘れてた。きーちゃん、その辺りもまだまだ幼いんだった。旦那はともかく、真ちゃんよく頑張りました。そのあたりはちょっと見直した。まあ、旦那の居るところで「よし、入るか!」なんて言ったものなら、かなり殴られるだろうし。笑
きーちゃんは子供が生まれることを本当に楽しみにしてくれて、退院しても色々と世話をやいてくれた。ちょっと歩こうものなら「赤ちゃんが可哀想!」って怒るし、私の当番は全てきーちゃんに書き換えられていて、前にふと浮かんだ赤ちゃん返りは心配なさそう。旦那が居る時は真ちゃんと出かけて、入院中何があったか知らないけどまた一段と親密度がアップしてて、私が真ちゃんにヤキモチやいてしまいそう。とはいえ、きーちゃんは相変わらずな感じで真ちゃんの好意ってのは伝わっていない様子。真ちゃんも一歩間違えたら中学生に想いを寄せる怪しい人なのは変わらないので、氣の毒を通り越して応援したくなってきた。
きーちゃんは中学2年生になった。学校では相変わらずだけど、友達も少し増えたよ。と笑っていた。氣の合う子が居たらしい。良かった。けど、きーちゃん自身に向けられる悪意は少なくなっても学校という世界は得体の知れないエネルギーに溢れていて居心地は良くないらしく。「その訳わかんないのって、私くらいの年頃の子は仕方ないんだって。自分の中からたくさんエネルギーが湧いてくるんだけどそれを自分でコントロール出来ないから、悪意として他人を攻撃しちゃうことがあるんだってー。って真ちゃんが言ってた。」そんなものなのねー。
「だからね、去年はすっごくしんどかったんだけど、それ聞いてね、嗚呼、彼等はどうしようもないんだ。それだけの力があるのに氣付いてないんだなーって思うとね、ちょっとでも感じるのってラッキーなのかなって。まだちゃんと出来ないけど、真ちゃんやばーちゃんがどうしたら良いかとか教えてくれて、私いまバラバラになり始めてるなーとかわかるから何とか出来るもん」きーちゃん、成長したね。と感心するも、あれ?真ちゃんやおばあちゃまが教えてくれるっていうことは、前に言ってたあの話やる事にしたってことなのかな。春休み中もきーちゃん単独でおばあちゃまにお呼ばれしてお出かけしてたのはそのせいかな。
「何か妊婦さんっぽいー」連休も明けて、ここに引っ越してきて1年が経とうとする頃ようやく完全に自由を得たわたし。長かったよーー。ちょっとお腹も目立ってきた?と言うことで、戌の日でもないのですが安産祈願なるものへ行くことにした。なんか、氣恥ずかしいから行くつもりなかったんだけども、オーナーの奥さんが「2人ともお休みあげるから行ってらっしゃい」と休みをくれたものだから行かざるを得なかったというか。
妊娠前の服は着られなくなってきたものの、旦那のワークパンツなら入ったのでそれでしのいでいたけれどさすがに辛くなってきて、ようやく妊婦用の服を見に行く。が、なんですかね、このスイートでハニーな雰囲氣。「やばい、わたし溶ける!パステルカラーにやられるー」「アホちゃう?」(旦那、真ちゃん)「ねーさん、氣に入ったのない?」どうしても、抵抗しかなくマタニティ服売り場を離脱。大きいサイズの売り場でズドーンとしたワンピースを買う。着てみると、なんか妊婦さんっぽい。
新しい服を着て、いざ安産祈願。「真ちゃん、真ちゃん、ここすごいねー。かっこいーーー」山門でそびえ立つ仁王像にうっとりするきーちゃん。中に入っても、「こっち良い匂いするよー。こっちは何かピシッとした香りー」と途中のお堂を行ったり来たり。迷子にならないように真ちゃんが追いかけるけど…絶対迷子になるよ、これ。と思ったら、きーちゃんがいきなり立ち止まった。「ねーさん、ここ!ここ通らないで!」と行く手を阻む。きーちゃんを迂回して進むけど…何?と思って振り向くと、きーちゃんの立ってた場所を指差しながら真ちゃんと何か話して笑ってる。おねーちゃん、拗ねるよ!後で「何かあったの?」と聞くと「内緒ー♪」と言ってうふふ♪と笑う。本当に拗ねてやろうかしら。
祈願も終わって帰ろうとした時。わたしたちの少し前方で向かいから歩いてくるご家族の赤ちゃんの帽子が落ちた。きーちゃんが氣がついて、帽子を取って来た道をダッシュで渡しに行く。若いってフットワーク軽いよね。私なら拾っても、声かけて取りに来てもらうわ。と思っていたら、コケた。
大人になってコケたの、飲み過ぎた時くらいだわ。超恥ずかしい。と思ったのは私だけ。旦那も真ちゃんも、きーちゃんに至っては渡しに行った所からダッシュで寄って来た。「超恥ずかしい。尾てい骨打ったー」「ねーさん大丈夫?ここやった」きーちゃんがコケた訳じゃないのに泣きそうになってる。「大丈夫、尾てい骨が痛いだけだから」と勢いよく立ち上がったけど、尾てい骨痛い…。やらかしー。旦那も珍しくうろたえてる。心配かけて本当に申し訳ございません。
立ち上がると同時に真ちゃんがきーちゃんを少し離れた所に連れて行って、話をしている。きーちゃんは何度かうなづいて涙を拭きながら真ちゃんの話を聞いている。真ちゃんが珍しく厳しい顔してるから、自分がコケたせいなのを棚に上げて、追い討ちをかけてきーちゃんを泣かせてることにイラっとする。こっちに戻って来る時にはもうニコニコしながら何か話してるから、追及するのはやめた。
遅いランチをして、帰宅途中。きーちゃんはぐっすり寝ている。旦那曰く、自分が運転してたらきーちゃん寝るねん。とドヤ顔。「それだけ運転うまいってことやろwww」らしい。いや、きーちゃん、睡魔が来るといきなり寝ますから。「さっきさ、何言ってたの?」と真ちゃんに聞いた。追及するのやめようと思ったけどやっぱり氣になる。「さっきって?」「コケた時!きーちゃん連れてって泣かしてたでしょ!」「それ、キリコが派手にコケてびっくりしたんちゃうん?」と旦那。ちょっと黙ってて。「せやで」とシラを切る真ちゃん。「いや、追い討ちをかけてた!何泣かせてくれてんの!」私の言葉に旦那が静かに反応したのを見逃さなかったよ。「別に」あくまでもシラを切り通すつもり?「きーちゃんに言わないから教えてよー」と頼み込んでもはぐらかされてしまった。
「あれはね、泣かされてない!ねーさんがコケた所ね、行くとき、ぴーちゃんが居ててここダメって教えてくれたから通らないでって言ったとこやったの。てっきりね、行きの時だけだと思ってたんだけど…帰りもやってん。」確かに「ここだったー」って言ってたね。って、ぴーちゃんって何?「だからね、真ちゃんはコケた後で「ここだった」って言ったらあかんって。言うならそれはコケる前に言わなあかんことやったって。それに…」ちょっと歯切れが悪くなるきーちゃん。「どしたん?言ってよ」「これは私のせいじゃないって。ぴーちゃんが居た行く時は通っちゃダメって言ったから、私の役目はそこで終わりだからって。帰りはぴーちゃん居なかったから。なんでもかんでも自分のせいだと思うのは『傲り』だって」帰宅して、2人でご飯を作りながらきーちゃん本人から聞き出した。「うん、きーちゃんのせいじゃないよ。私がボサッと歩いてただけやし」なんだろ、やっぱりきーちゃんに色々と教えることにしたんだろうか。今までなら、夜の晩酌タイムに聞き出すんだけども妊娠発覚してから晩酌タイムの場所はリビングから真ちゃんの部屋に変わってしまった。しかも2人とも煙草吸うから私は立ち入り禁止を言い渡されてしまって、ちょっとさみしい。きーちゃんが寝てる横で煙草吸って飲むのはどうかと思うけど。
その後はとても平和に過ごして、きーちゃんと知り合って2回目の夏が来た。この1年できーちゃんは背も伸びたし、子供っぽさが随分と抜けてきた。
真ちゃんのコルセットは取れて日常生活に支障はそんなにないものの、まだ両手の握力は完全に戻らず左足も少し引きずっていた。車の運転も、とっさに踏ん張りがきかないとダメだから。と言って通勤や必要最小限以外では乗っていない。きーちゃんに休日ドライブに連れてってと頼まれても、危ない目にあわせたくないからって断っていた。
仕事は現場に出られないのでリハビリとして週2回事務職で復帰していたけれど、梅雨に入った頃、通勤で乗っていたバイクを「これ以上置いとくだけより必要な人が乗った方がいい」と売っていたから、思っていたよりも回復していないのかもしれない。
この1年でいろんな事がありすぎて、5年くらい過ごした氣がする。