Story 28.マハル。

「きーちゃんおいで」きーちゃんを連れて真ちゃんの部屋へ行った。
「邪魔するよ」とドアを開ける。旦那と真ちゃんは晩酌中。「ちょ、待って窓開ける!」2人は急いで窓を開けてくれるけど、タバコ吸い過ぎ。部屋煙だらけで白いやん。「上行くから、入ってくんな」と旦那。心配してくれるのは嬉しいけど、もう生まれる直前だから大丈夫!(多分)うちの乙姫さまが海に帰っちゃうかもしれないと心配しながら出産の方が身体に毒だわ。
「きーちゃん、ちゃんと聞きなさい。そうじゃないときーちゃんが心配過ぎて赤ちゃん産むのに病院行けない」きーちゃんを真ちゃんの前に座らせる。2人は黙って向き合っている。真ちゃんもなぜか正座に座り直す。なんで?笑
「どないしてん」と旦那。「うちの乙姫さまが海に帰らないようにね。竹取のおばあさんのお節介」「いくつか話が混ざってカオスになってるで」
「真ちゃん、我慢してる?だから嫌いになっちゃった?まだ嫌いじゃなかったらね、嫌いになる前にちゃんと早く帰るから嫌いにならないで」乙姫さま、違います。嫌いになる前に帰るからじゃないでしょ。さっき話してくれたみたいに、話さなきゃ。
「何の話?」と当たり前だけど急に言われて話が飲み込めない真ちゃんは私を見る。ここは旦那を連れて部屋を出て2人で話をしてもらった方が良いんだけど、ちょっと氣になるし。というか見ていたいから少し離れて見てることにしよう。だって、なんだか微笑ましいじゃない。というよりキュンキュンするじゃない。(話の展開によっては)妊娠中の娯楽は少ないからね。おねぇさんは娯楽に飢えているのよ。キュンキュンしたいのよ。
きーちゃんは、さっき話してくれたことをひとつづつ話してる。「アホやなぁ、きーちゃん」きーちゃんの話を聞いて真ちゃんが言う。「誰が我慢してるん。誰がきーちゃんのこと嫌いって言うてん。きーちゃんは今まで通りここにおるんやろ。海なんか帰らんでええって。きーちゃんちは此処やんか」そうそう。うちの乙姫ちゃん、勝手に悪い方に想像しちゃうんだから。めでたしめでたし。で、私も安心して産みに行けるわ。
「て、ことなんでお母さん、お父さんと上に行ってもらえます?」と真ちゃん。「ここは空氣よんでさぁ、普通上行かね?せめて部屋から出ません?2人にさせてやろうとか思わん?空氣読もうや。怖いおとんが見てたら何にも出来ませんけど。」は?それとこれとは別だから!かわいい娘は渡さないんだからね。父さんも何か言ってくださいな。と旦那を見ると、寝てるし!
「怖いおとんと一緒に寝てちょうだいね。きーちゃん、上行こ」きーちゃんは立ち上がって私の方に来る。「真ちゃんおやすみー」モヤモヤを吐き出してスッキリしたみたいで、ニコニコしながら真ちゃんに手を振る。まあ、かわいい。うちの子、ホントかわいいわ。←親バカ。「きーちゃん、明後日は休みやからさずっと延期になっとったしどっか行こうや。車出して」と真ちゃん。きーちゃんは少し考えて「ダメ!お出かけしてるうちに赤ちゃん産まれたら大変だもん。」と笑う。
昨日の検診で2,3日のうちで産まれるかもねって言われたの覚えてくれてたのね。真ちゃん、断られてガッカリしてるけどうちのかわいい娘に手を出そうとするバツだわ。「産まれたら連れてってね」と真ちゃんの前まで戻ってニッコリ。「どこ行くか考えといてや」と真ちゃん嬉しそう。やだ、うちの子結構男を転がす系?これ多分、ナチュラルにやってるから成長したら魔性のオンナになるかも。なんて想像したら楽しみになっちゃって、真ちゃんじゃないけど、早く大人にならないかしら。もっと振り回される真ちゃんを見てみたいわ。

「今日ご飯食べに行こ!餃子が食べたい!」朝からテレビで餃子の話をしていたもんだから、どうしても食べたくなっちゃって。「えー。家で作りゃええやん」と旦那。「お店の餃子がいいの。天津飯と食べたい!ねぇ、よく考えて。私がお産でなんかあってさ、『あー餃子が食べたい。天津飯と食べたかったなー』って思い残したらどうする?美樹は一生『餃子ぐらい食べに連れて行けばよかった』って後悔しながら父1人子1人で生きてくのよ?それでもいいの?」「アホちゃうの?」呆れる旦那。
これが、我が家に未だに語り継がれる「餃子事件」のはじまり。
「今日、遅番やしなぁ」と明らかにめんどくさそうな旦那。「じゃあさ、真ちゃん帰ってくるでしょ?迎えに行くから、そのまま食べに行こ!」というと、旦那を迎えに行く、イコール、行きも送らなきゃいけない。私の提案にめんどくさそうに「えー、昼餃子にしたら?」という真ちゃん。いいじゃん。私はお店の餃子と天津飯が食べたいの。「真ちゃん、ダメ?今日ねーさんに餃子食べて欲しい」と上目遣いきーちゃん。やるな。これ絶対いけるやつ。「しゃーないなぁ。美樹、10分早く出るで」と旦那に言う真ちゃん。きーちゃんナイス!「真弥さー、きーちゃんに甘すぎるわ」いいのよ、甘くて。甘やかしなさい。
10分いつもより早く出た2人を見送る。きーちゃんは「今週だけ!あと3日だから」と1人の時に産氣づいたら心配。と学校を休んだ。学校で友達同士で揉めたらしく、きーちゃん自身は当事者ではないもののそこにいるのがしんどいから。と言っていたけど、多分私の心配しての方が大きいと思う。友達とのこともあるだろうけど。私も1人よりも安心だからつい学校に休みの電話入れちゃった。きーちゃんは「私やるから!」と家事をほとんどやってくれる。ちょっと動いた方がいいらしいんだけど。そのあと、2人で散歩。またうふふ♪と笑いながら、いろいろ話をしてくれるようになって嬉しい。
帰宅して靴をぬいで立ち上がった時。「きーちゃん、破水したかもー」陣痛は違和感くらいしかないけれど、先に破水してしまった。明らかにいつもとは違う。きーちゃんに言うんじゃなくて病院に電話するのが正解だったんだけど、動転してしまったらしい。
どうしよう、本当に生まれちゃう。やっと前みたいに平和になったのに。その氣持ちが大きくて。
「え!!」ときーちゃんは驚いたけど、深呼吸するとカバンから『魔法の飴』を出しすとひとつ食べて、私にもひとつくれた。いちごの甘い味がした。「大丈夫だからね」と言って自分の手帳を取り出した。「あ、あげたやつー」「うん、この手帳大好き」職場で私と旦那にと配られたシステム手帳。旦那が使わないからって私にくれたんだけど2冊あっても使わないからきーちゃんに「おそろい」とあげた手帳を使ってくれていた。黒の手帳でかわいくもなんともない手帳は、黒のレースやビーズでかわいくデコレーションされていた。手帳を見たあと、きーちゃんは私をリビングに連れて行ってくれた。
「どの位お腹痛い?お腹張ってる?大丈夫だからね」と言われて答えると、携帯を取り出して電話をかけている。電話のやりとりを聞いていると病院にかけてくれてるよう。「今から行きます。よろしくお願いします」
その後、きーちゃんはテキパキと職場と取引があるタクシー会社に電話をして手配してくれる。これはオーナーの奥さんがアドバイスくれて、1人の時に陣痛来たら話が早い方がいいとタクシー会社に話をしてくれていた。「ねーさん、大丈夫?あと15分くらいでくるって」電話が終わると私のところに来て氣遣ってくれる。
「もうちょっと大丈夫だねー」と言うとまた電話をかける。「あのね、ねーさん破水したから来てくださいって言われたからね、美樹ちゃんお迎えいける?」真ちゃんに連絡してくれてる様子。先に真ちゃんに連絡して旦那を迎えに行ってもらった方が時間のロスが少ないと思ってのこの順番みたい。その後すぐにまた電話をかける。多分、店にかけるんだ。仕事中、旦那は携帯持ってないし。オーナーの奥さんが出たみたいで、それでもちゃんと話をしてる。
旦那は今出られないのか用件を伝えて「お願いします」と言って電話を切った。「カバン用意してるのだよね。母子手帳持ってるー?忘れちゃダメだよ」と言って自分の手帳を確認してカバンを取りに行ってくれた。
テーブルに置かれた手帳を見ると、『陣痛が来たとき。』『破水が先だったとき。』『救急車を呼んで病院に行かなきゃいけないとき。』『生まれてから氣をつけること。』『病院に持っていくもの。』『赤ちゃんのお世話でお手伝いできること。』がそれぞれの順番で何ページも書かれていた。電話する順番と電話番号も書いてある。「いつの間にこんなの書いたのー」きーちゃんはちゃんとここに居る。と言ってくれてるみたいで、まだまだ幼いと思ってたのにちゃんと私のことを考えてくれてるのがわかって嬉しかった。
「見ちゃいやー!」とカバンを持ってきてくれたきーちゃんが急いで手帳を自分のカバンにいれた。「ありがとね」というと、きーちゃんはうふふ♪と笑った。「もうタクシーが来るからね外で見てくるね」とカバンを持って外に出て行くきーちゃん。私も外に向かう。ちょうど出たらタクシーが到着した。

「この間の検診の時だったかな」検査している時に、「妹さんしっかりしてるね」と褒められたので、きーちゃんが手帳に色々と準備を調べてくれていたことを看護師さんに言った。
ついこの間に検診に行った時。きーちゃんも一緒についてきてくれたんだけど、検査で長いこと待たせちゃって。その間、私が最後だったからと看護師さんたちがきーちゃんと話をして付き合ってくれていた。その時に「お兄ちゃんに聞いて書いたけど、他に大事なことありますか?」と手帳を見せてくれたそう。
「旦那さんもすごいね、ほぼ満点だったって。なかなか居ないよー」と言われてちょっと照れる。どのタイミングでタクシーでなく救急車を呼ぶのか。とか、陣痛やお腹の張りのことは流石にわからなかったみたいでその辺りや、退院後のこと、出来るお手伝いなんかを教えてくれたそうで。「みんなでいいご家族ねーって話してたから職員みんな知ってるよー」と看護師さん。なんか、すごく嬉しくて。「おねえちゃんが一番大事でもいい?赤ちゃんその次でいい?って。うちの娘が中学生の頃は生意氣だったから羨ましいわー」と看護師さんが笑う。「ご両親が居なくても、その分妹さんを大事にしてたからだろうねー。」「待って、超泣きそうなんですけど。」情緒不安定が涙腺にきた。「いいよー、本格的にお産が始まったら泣いてられないんだから。今のうちだけよー」と看護師さんが笑う。
「まだもうちょっとかかるね。あんまり陣痛来なかったら薬を入れるかな。まだ使わないからね」とおばあちゃん先生が言って部屋を出て行った。入れ替わりできーちゃんが入ってきた。「美樹ちゃんがお仕事なかなか終わらなくて、今お店でたって真ちゃんから電話あったよ。もうちょっとで来るからね。パパ来るまでまだ出ちゃダメだからねー」とお腹に向かって言うきーちゃんを見たらまた泣けてきて。「痛い?しんどい?先生呼ぶ?」ときーちゃんを焦らせてしまった。「大丈夫。痛くない。きーちゃん、ホントありがと。ぜーんぶやってくれたから全然大丈夫」きーちゃんはまたうふふ♪と笑う。
「お腹すいてきちゃった。餃子食べそこなっちゃった」と言うと、「ホントだねー」と少し残念そう。そんな話をしてると旦那と真ちゃんが到着。「なんや、まだか」と旦那。おい、コラ。どういうことやねん。「きーちゃんが全然やってくれてんで」と言うと「奥さんから聞いたわ。めっちゃ褒めてたで」と旦那はきーちゃんの頭を撫でる。「おばちゃんに電話する時は大丈夫やってんけどね、真ちゃんの会社電話するのちょっと緊張した。真ちゃんが出てくれて良かった♪」と嬉しそう。
しばらく、ノンキに話をしていたけどいきなり進む陣痛。マジ痛い。ヤバイ、早々とギブアップしそう。あ、大丈夫かも。が行ったり来たり。看護師さんはもうちょっとかかりそう。と言うし。「あかん、お腹すいた。餃子!餃子と天津飯お持ち帰りしてきて!」と旦那にリクエスト。「は?もう生まれるんちゃうん?退院してからでええやん」「今食べたいのー。早く!生まれるまでに食べたいー。来たー、痛いの来たー」
それでも行こうとしない旦那。「真ちゃん、お願い、餃子と天津飯買ってきて。ねーさん、お昼ご飯も食べてないん。」きーちゃんが、必殺上目遣いで真ちゃんに言う。きーちゃん、えらい!やるな、将来の魔性のオンナ。「きーちゃんは?きーちゃんも食べてへんの?」と真ちゃん。「大丈夫。私魔法の飴食べたから!」「そんなんご飯にならん。行ってくるからちょっと待ってな。キリコと同じのでいい?」と真ちゃん。「ここで餃子はちょっと…わたし唐揚げ♪」「オッケー」と真ちゃんが立ち上がると旦那も一緒に行こうとする。「美樹ちゃんも行くの?」ときーちゃん。「まだかかるんやろ?一服がてら行ってくるわ」「早く帰ってきてね」「早く戻るわ。それまでもうちょいよろしくな」きーちゃんの必殺上目遣いが旦那にも通用した。まあ、お父さんだもんね。今日のきーちゃん、good job過ぎる。と感心しているとまたやってくる陣痛。
看護師さんから聞いたと腰を押したり、ダルくなり出した場所をマッサージしてくれるきーちゃん。ホントgood job過ぎる。成長したね。そんなやりとりを数回繰り返すけど、旦那は戻ってこない。
もうそろそろ…という時に2人が帰ってきた。「おーそーいーーー」しかも、食べてきたな。旦那1人呑んできたな。真ちゃん居るんだし、一人で飲むってどうよ。どうせ、待ってる間に一杯だけとか言ったでしょ。真ちゃんも飲ませないでよ。許さん!怒りながら、陣痛の合間に念願の餃子をつまむ。天津飯は食べる氣にならなかったから、産後食べることにする。

分娩室に向かう。立会いを希望していたので旦那も行こうとするけど、「妹だけ立会います!」ときーちゃんだけ連れて分娩室へ向かう。本当は、旦那しか立ち会えないんだけど、きーちゃんが精神的にとても不安定であること。生きるのが辛いと泣くこと。だから、生まれる時赤ちゃんは生まれたいって頑張って生まれてくることを見せたい。自分も生まれたいって頑張って生まれてきたんだよ、って見せたいんです。と先生に頼み込んだ。個人医院の良いところだよね。最初はダメだって言われていたんだけど、今日行ったらこの間のきーちゃんの話を看護師さんから聞いたみたいで。おばあちゃん先生は感動しちゃったからいいよ。でも他の人には内緒よ。と許可してくれた。私の食べたかった餃子を先に、しかもビールを飲みながら食べた旦那は許さん。立ち会わせてやらない。食べ物の恨みは恐ろしいんだから。

分娩室に入ると、あっさり生まれた。もっと感動的なシーンになるかと思っていたから拍子抜け。でも、初めて抱くとなんとも言えない氣持ちになる。「妹にも先に抱っこさせてもらえないですか?」と頼む。「元氣そうだからいいよ」と先生が言ってくれたので看護師さんはきーちゃんに抱っこさせる。「ちっちゃーい。かわいいー。よろしくねー」抱っこしながらきーちゃんが言う姿はとても綺麗で、ふとアキちゃんがきーちゃんのことを『高貴な存在』だと言っていたのが分かった氣がした。そして、息子ときーちゃんの姿を見てなんだか泣きそうになった。
「お部屋戻ります」ときーちゃん。「8時くらいかなー。それ位に戻るからねー」と看護師さん。「ありがとうございました」と礼儀正しくお辞儀してお礼を言って分娩室を出るきーちゃん。「あんなに素直な子にどうやって育てられるのー」と看護師さんが褒めてくれる。きーちゃんの魔性のオンナ力は年上に有効なのかもしれない。きーちゃんは、出産後しばらくの間は安静にする為病室にはすぐ戻れない。とちゃんと聞いていたみたいで、私の方が戻れないの?天津飯…と残念がってしまった。
あー、生まれたー。隣の部屋から赤ちゃんの泣き声がして、「これ、息子やろかー」と考えたり、「名前、何にしよう。絶対美樹には付けさせてやらないんだから」と固く誓ったり。食べ物の恨みは本当に恐ろしいんだから。「もっときーちゃんと散歩したら良かったなー」とふと思った。晴れた空が綺麗で、陽射しが氣持ちよくて。きーちゃんも楽しそうで。
とっても晴れた日に生まれたから「真晴(まはる)」っていいかも。ちょっと字が真ちゃんと被っちゃうけど、この字が浮かんでそれ以外考えられなくなっちゃった。うん、そうしよう。

看護師さんが言っていた20時過ぎに病室に戻る。「おつかれ」と旦那はいたわってくれるけど、先にビールと餃子を堪能したのは許さない。「真晴が成人するまで言ってやるからね」と言っておいた。(まあ、長男の真晴が成人するどころか成人後何年もたっている今もちょいちょいネタにしている件。)
「まはる?」「うん、まはる。真ちゃんの真に晴れでまはる。さっき思いついたの。真ちゃんと字が被るけど一番しっくりくるんだよね」「まはるくん?かっこいーー♡」ときーちゃん。「でしょ?」「えーー、挙げてた名前は?」「先に餃子とビールしたから無し!絶対マハルがいい!だって浮かんだんだもん。ピンと来たんだもん」旦那はガッカリしてるけど、食べ物の恨みは怖いんだから仕方ない。
しばらくして、看護師さんが「少しだけですが赤ちゃん連れてきましょうか」と言ってくれた。「消灯時間も近いから妹さんたちは帰らないといけないし。先生も少しならいいって」と言ってもらったので連れてきてもらうことに。
旦那はじめての抱っこ。これまた何とも言えない氣持ちになる。ぎこちないけど、意外に上手。「弟と年、離れとるでねー」そういやそうだわ。一番下の弟くんとは8歳違ったわ。だからなのね。「めーっちゃかわいー」ときーちゃんはメロメロ。「抱っこしてみる?」と旦那に抱かれる息子を遠巻きに見る真ちゃんに言ってみた。「いや、いい、ホンマいい。赤児抱いたことないから」「いいやん、慣れだって」と言うけど、頑なに拒否される。うちの息子抱っこできないっていうの?「ほら、まだ腕のチカラ戻っとらんから」と真ちゃん。ちゃんと考えてくれてるのね。許す。でも、今が一番小さいんだからそれなら小さいうちに抱っこしてくれたらいいのに。私たちがすぐついてるし。と思っていたら、旦那が息子を連れて真ちゃんの座るソファーに行く。
「ほら」と半ば無理やり抱っこさせる。超ぎこちなくて、何だか微笑ましくて笑える。「ちっちぇー」「かわいーねー」「あ、そうそう。きーちゃんが私の次に真晴抱っこしたから」「え!!」「ごめんなさい…」一番最初に抱っこすんねん!と張り切っていた旦那は少し残念そうだったけど、「今日、ホンマに頑張ってくれたもんな。ええよ!ありがとうな」と言った。そうよ、きーちゃん一番頑張ってくれたもんね。
「ねーさん、明日も来るね。まはるくん、明日も来るからねーまた会ってね」まさに名残惜しいという言葉がぴったりな様子できーちゃんは真ちゃんに連れられて帰って行った。
旦那は今日からここに泊まる。先生の方針みたいで、泊まりを希望する旦那さんは泊まれると聞いて泊まりの希望を出した。母子半分同室で夜は預かって貰えるから夜中の大変さは分からないけど、日中のお世話の様子やお母さんの大変さを見てもらおう。というものらしい。聞いてみたら、上の子がいるご家庭はあまり泊まらないけど、第一子のご家庭は半々位で泊まっていくらしい。けど、ご飯は出るけど基本部屋から出ないでね。お風呂はおうちで入ってね。だから出産後1泊か2泊で帰っちゃう旦那さんが多いとか。さて、うちの旦那は何泊するかな?
きーちゃん達が帰ると、マハルを迎えに看護師さんが来てくれる。「妹さんは今日からどうするの?旦那さん宿泊希望だよね」「弟に任せました」きーちゃん→私の妹。両親が居ないため私たちと同居。真ちゃん→旦那の弟。敷地内で別居。話がややこしくなるので、こんな家族関係で言ってる。「あら、年頃だし若い男の子と2人きりなんて大丈夫?」と笑う看護師さん。この看護師さんは、さっき、きーちゃんの手帳の話をした看護師さんでノリもいいし、冗談言える看護師さんだから私は大好きだった。これも、もちろん冗談なのはわかるから「やっぱり妹危険かしら?うちの妹かわいいもんねー」と笑って返す。「素直だし、かわいいし、おねーちゃんは心配よねー」「いや、自分も心配なんですよ?妹の方がかわいいんで」と旦那。「パパは弟くんを信用してあげなきゃ。せっかく留守頼まれてくれたのに弟さんかわいそうやわ」とまた笑う。
めっちゃ、楽しい。ややこしい家庭ってことになってるから、厄介な患者って思われたらどうしようかと思ったけど大丈夫そう。