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Another story 28.赤ちゃん。
毎晩外に出てシードラゴンに「もう一度、私を迎えに来てください」とお願いするようになった。
海で出会ったから、本当は海に行ってお願いする方が良いかもしれないけど、海へ行けないから月にお願いすることにした。
海と月は繋がっていると聞いたことがあったから。
兄ちゃんは外国に私が居ても良い場所があると言っていたけど、やっぱり怖くて、行きたい氣持ちと怖い氣持ちで複雑だった。
「きーちゃん」
習慣になってたシードラゴンにお願いしているとねーさんがリビングから顔をだした。
10月に入って、だいぶ涼しくなってきたからねーさんも赤ちゃんも風邪ひいちゃう。
どうしよう、まだシードラゴンにお願いが終わってない。
けど、このままねーさんが外に出ちゃったら風邪ひいちゃうし。
「ここに居て!」
ねーさんが言った。
「え?」
シードラゴンにお願いしてること、兄ちゃんが言った魔法使いのお城に行きたい氣持ちもあること。誰にも言ってないのになんで分かったん?
「どこにも行ったらダメだからね!きーちゃんはここの子でしょ」
なんで、ねーさんはシードラゴンに迎えにきて下さいってお願いしてること知ってるんだろ。
「絶対、絶対ここに居て。どこにも行っちゃダメ」
本当はまだここに居たいけど。
ねーさんも、美樹ちゃんも。
真ちゃんも兄ちゃんも。
みんな大好きだけど。
初めて楽しい場所をくれたけど。
でも、私は家族じゃないから。
「なんで?家族だよ。きーちゃんは私の妹だよ。ずっとずっと欲しかった妹なんだよ。やっと会えたのに何でどっか行こうとすんの」
「おねーちゃんが嫌だったら、ママでもいい。家族が欲しいなら私と美樹がきーちゃんのママとパパになるから。」
赤ちゃんの大事な、パパとママを私が取っちゃダメだよ。
赤ちゃんが寂しくなる。
「頼りないし、すぐ怒るし、勉強だって教えられないし。真ちゃんみたいに掃除したり料理したりも出来ないけど。でもきーちゃんのこと一番可愛いって、一番大事って思ってるの真ちゃんだけじゃないねんで。なんでいつも真ちゃんなん?おねーちゃん!って頼ってくれへんの。何でいっつも1人で泣いてんの?」
「きーちゃんは家族だって。美樹がいて、真ちゃんがいて、赤ちゃんも生まれる。なのにきーちゃんが居なきゃ揃わないのに」
私が家族でいても、いいのかな。
ここに居ていいのかな。
私の居てもいい世界はどこですか。
ねーさんは私を家族だって言ってくれた。
嬉しかった。
ねーさんはその日から一緒に寝てくれるようになって、眠たくなるまでたくさん話をした。
事あるごとに「きーちゃんは私の可愛い妹♡」と言ってたくさんハグしてくれて、ちょっとくすぐったいけど、嬉しい。
このお家が私のおうち。
私のことをちゃんと居る。って見てくれる家族。
私もこのお家の家族になれたような氣がして嬉しい。
ねーさんと一緒に兄ちゃんの部屋のベッドに入ったけど、なかなか寝られなかった。
リビングに降りてお茶を入れて、ソファーに座った。
「きーちゃん、起きとったんかいな」
美樹ちゃんが顔出した。
「1人でおらんとこっち来たらええやんか」
真ちゃんのお部屋に呼んでくれた。
「いらっしゃい」
真ちゃんもお部屋に迎えてくれた。
テーブルの上に本が置いてある。
「美樹、勉強中やで」と真ちゃんが笑う。
「赤ちゃんの本?見ていい?」
「かわいいー」
ページをめくるとたくさん赤ちゃんがのってる。
見てるだけで幸せになるくらいかわいい赤ちゃんがいっぱい。
「きーちゃんも読んどってや。手伝ってもらわなあかんし」と美樹ちゃんが言ってくれる。
「手伝っていいん?」
「手伝ってくれへんの?」
メモが挟んである。
「これは?」
「生まれる時のメモ。どのタイミングで病院行くのかとかな、店のおばちゃんらがよく覚えとけって」
読んでみるけど、なんか難しい。
なんだろう、メモがすっごく賑やか。
「救急車呼ばないこと。でも危険なら呼ぶ?」
呼ばないって言ったり呼ぶって言ったり。どっち?
「やぶ…れる水?」
「はすい」
水が破れる…いつも落ちてくる水を想像する。
なんか怖い。
「キリエ、今絶対違うの想像しとる。大丈夫。それと違う」と真ちゃん。
「これ、私も写していい?」
「ええで。きーちゃんのが生まれる時一緒に居る確率高いし助かるわ」
真ちゃんと美樹ちゃんがメモに書いてあるのを読んでくれて、それを手帳に写す。
「病院に電話…番号知っとる?」
「知らない」
「あかんやん。美樹に聞いとき」
「美樹ちゃんのお店も同じところに書いてた方がいい?お知らせしなきゃあかんから」
「せやな。番号言うわ」
最初病院に電話するのは一緒だけど、赤ちゃん生まれる時っていろんなパターンがあるんだねー。
「キリコ、絶対わけわからんようなるから頼むで」と美樹ちゃん。
お願いされちゃった。なんか、嬉しい。
一通りの事を教えてくれると美樹ちゃんは寝に行ってしまった。
今日、ここで寝ちゃダメかな。
また、話しながら寝たいなぁ。
まだ、お仕事、忙しいのかな。
「今日こっちで寝ていい?」
清水の舞台から飛び降りた。
真ちゃんは私の顔を見て、しばらく黙ってしまった。
あ、あかんやつ。
聞くんじゃなかった。
そうやんな。うん。せっかく1人でゆっくり寝られるようになったのが邪魔されちゃうもんね。
嫌だよね。
「ごめん、やっぱウソ!おやすみ!」
何て厚かましい奴!って思われちゃったかな。
ねーさんがここに居ていいって言ってくれたからって調子乗り過ぎちゃったんだ。
「ごめん、もうちょっとだけ待って。キリコが入院までに何とかするから」
「ごめんなさい。ねーさん入院してる時も大丈夫。おやすみ!」
「違うねん。待って」
真ちゃんに呼び止められて。
この間、美樹ちゃんが言った話覚えてるかと聞かれた。
どの話?
「アレと一緒に寝たら食われるでってやつ」
兄ちゃんの部屋にお姫さまのベッドが来た時の話かー。うん、覚えてるよ。
「今、それやねんな。兄弟やから偶にそうなる時あってな」
びっくり発言だ!
「キリエをまだ食べたらあかんやろ」
「真ちゃん、ダイエット中?好き嫌い激しいの?」
だからそんなに細いんだよ。
たくさん食べろーってねーさんにいつも言われてるのに。
真ちゃんは人間食べるのは好きじゃないのかな。
あ、でも多分私を食べたとしてもきっと美味しくない。
性格も結構逆だと思ってたけど、兄ちゃんと食べ物の好みまで逆なんだね。
「ダイエットはしてへんけどな」と笑った。
「キリコが入院するまで1人で寝れる?」
「入院してる時も大丈夫!ずっと寝られるから!わがまま言ってごめんね!おやすみ!」
ダッシュで2階の兄ちゃんの部屋に行った。
兄ちゃんが居なくてもお姫さまのベッドで寝ていいと兄ちゃんが言ってくれて、1人で寝るようになってから兄ちゃんのベッドを借りてる。
兄ちゃんの部屋のベッドの横の窓から月が見えるから。
最近はねーさんが一緒に寝てくれることが増えて嬉しいけど、今日は1人。
ねーさんが寝てしまって寝られない時や1人で寝る時は月に向かって海のシードラゴンに話しかけている。
「もう一度迎えに来て下さい」
ねーさんはここに居ていいと言ってくれたけど。
ねーさん達を見てたら、私も本当の家族に会ってみたくなったから。
それに、やっぱりこの家から出ると私はこの世界に居てはいけないと痛感するから。
この家はとっても好きで居心地はいいけど、外に出るのが嫌になってしまうから。
そのまま楽な方に逃げて、学校に行かなくなってみんなが悪い人にされてしまったらダメだから。
楽な方に逃げて迷惑をかける前に、やっぱり帰りたいんだ。
兄ちゃんが言ってくれた魔法使いのお城。本当にそこが私のいて良い場所なんだろうか。
魔法使いのお城へ行くことは楽な方に逃げてしまうことじゃないのか。
考えれば考えるほど分からなくなってきた。
ねーさんの検診の日、待っている間手帳を開いていたら看護師さんが来た。
「もうちょっとかかるかなー。今の子、手帳にいっぱい書くよね」
ちょうどいい、聞いてもいいかな?
「美樹ちゃん…お兄ちゃんに聞いたけどあと他に覚えとくことありますか?」
看護師さんが手帳に書いたものをチェックしてくれる。
「すごい、ほぼ完璧!」と褒めてくれた。
「このね、救急車を呼んでいいとかダメとかがわからなくて」
「本当に命にかかわる時は救急車ね。その前に悩んだら病院に連絡してくれたら救急車が良いのか、それとも自分で来たら良いか教えるよ」
「赤ちゃんが来てからのおうちのお手伝いってこの他にありますか?」
本には無理しない。みたいなことしか書いてなくてよく分からなかった。
看護師さんは、赤ちゃんを産んだ後のママの体はどんな状態かを教えてくれた。
聞いてたら思っていたよりもボロボロになってしまうみたいで怖くなる。
「無理しない」って書かれているのがよく分かった。
「後はね、私の時は温かいご飯が食べたかったなー」と看護師さん。
どうしても、赤ちゃんの面倒を見ながらだったりするからご飯を食べ終わったパパが交代したとしてもなかなか温かいご飯がゆっくり食べられなかったって。
なるほど、なるほど。
「これだけカラダがしんどいなら、全部おねーちゃんを一番にしてもいい?どの本も赤ちゃんが一番なん。でも、すっごく大変なの頑張ってきたおねーちゃんを一番にしたい」
最初は2週間寝たきりで、その後元氣になったけど「貧血だー」と倒れこんだり、歩けないくらいに「腰が痛いー」と唸ることが多い。
赤ちゃんを産んだ後も、大変そう。
「もちろん。どうしてもね、みんな赤ちゃんの方に氣を取られちゃうからね。1人でもそう言ってくれる人が居たらとっても嬉しいと思うよ」
シードラゴンへのお願いを毎日しているのに、シードラゴンにはなかなか会えなかった。
少し寒く感じるけど、とても良いお天氣の日。
赤ちゃんがもうすぐ生まれるから散歩したら良いよ。とお医者さんに言われたねーさんが「ちょっと散歩しない?」と誘ってくれた。
「餃子、天津飯と来たらやっぱり杏仁豆腐だよねー」とねーさん。
朝のテレビで餃子特集を見て餃子が食べたくなっちゃったらしい。
美樹ちゃんに頼み込んで、今日食べに行く計画中。
外で食事するの久しぶりな氣がする。
楽しみ。
空もとっても綺麗で毎日お願いしているのに、まだこの世界で居たいと思った。
「きーちゃん、破水したかもー。ヤバイー」
散歩から帰って、靴を脱ごうとしていたねーさんが玄関で言った。
破水?
もう生まれるってこと?
何だっけ?
大丈夫、2人の時に生まれそうな時どうすればいいかちゃんと聞いてる。
久しぶりの魔法の飴。ひとつ食べる。
大丈夫。これで魔法使いは一緒に居る。
「全然、痛いとかないけど、大丈夫かなー。えー、産まれるの?まだ餃子食べてないー」
看護師さん、産まれる時は混乱しちゃうから落ち着いてもらうのも大事って言ってたな。
ねーさんにも飴をひとつあげる。
一番効果絶大のいちご味だよ♪
手帳を確認。
『破水した時。病院にすぐ電話。』
オッケー。大丈夫。出来る。
ねーさんをリビングに連れて行って、病院に電話する。
ねーさんに聞いた今の状態を伝えるとタクシーを呼んですぐ向かうように言われた。
「きーちゃん、もし私に何かあったら餃子が食べたかったー!って美樹に言ってー」
ねーさん、どれだけ餃子食べたいの?
タクシーもお願いした。
次は美樹ちゃん…あ、でも今日は真ちゃんが美樹ちゃんを迎えに行かなきゃ行けないんだよね。
なら、先に真ちゃんか。
美樹ちゃんのお店のおばちゃんやったら話したことあるから電話するのも緊張しないけど…真ちゃんの会社に電話したことないから緊張する。
でもねーさんも赤ちゃんもしんどくなるのダメ。頑張れ私!
意を決して、真ちゃんの会社と美樹ちゃんのお店に電話して今から病院行くことを伝えた。
電話ってすごく緊張するしすごく疲れるからあんまりしたくないけど、今日はたくさんかけた。
もう5年くらい電話したくない。
っていうか、絶対5年は電話しないでおこう。
病院に着いて、ねーさんは検査すると言われて私は待合室。
なんか疲れた…。
病院に着いたらホッとしたのか、寝てしまってたようで看護師さんの声で目が覚めた。
危ない危ない。
電話が鳴って取ると真ちゃんだった。
美樹ちゃんのお仕事がなかなか終わらなくて今から向かうらしい。
時計を見たら30分以上寝ていたみたいだった。
自分でびっくりした。
ねーさんのいる部屋を教えてもらって、行くとねーさんはベッドに横になっている。
美樹ちゃんたちが向かっていることを伝えると泣き出してしまった。
どうしよう。
「先生呼ぶ?しんどい?」
美樹ちゃん、早く来てー!
「大丈夫、ありがとねー」と笑うけど、美樹ちゃん早くー!今すぐワープしてきて。
「餃子、食べ損ねちゃったね…」
ねーさん…やっぱり餃子?
「今死んだら王将に出没しそうなくらい餃子食べてたいー」
そんなに餃子食べたいの?
ここから一番近いお店ってどこだっけ?
でももう赤ちゃん生まれる?
「買ってこようか?」
「行ける?ちょっと遠いよ?」
そんな話をしていたら美樹ちゃんたち到着。
ねーさんはちょっと安心したみたいで嬉しい。
けどすぐに「痛い、無理、ギブ!」と言い出す。
最初入院した時もどうしたらいいか分からなくて怖くなったけど、今もどうしたらいいか分からなくて怖い。
「美樹ー、餃子ーーー」と時々言う。
やっぱり餃子なんだ。
「餃子と天津飯!お持ち帰りしてきてー」
看護師さんが来て「生まれるのはまだ先かな?」と言ったのを聞いて美樹ちゃんに言うねーさん。
何がそんなにねーさんを餃子モードにしてるんだろう。
「帰ってきてからでいいんちゃうん?」と美樹ちゃんが言うけど、ねーさんは唸りながらも「餃子ー。餃子食べないと頑張れない」と言う。
お昼ご飯食べてないからお腹空いてるかもしれない。
でも、美樹ちゃん赤ちゃん生まれる時一緒に居なきゃって言ってたし…そうだ!
「真ちゃん。ねーさんお昼ご飯食べてへんねん。餃子と天津飯買いに連れていって」と頼んでみる。
「食べてへんの?キリコだけ?きーちゃんは?」
「私、魔法の飴食べたから大丈夫!」
「あかん、そんなんご飯ならん」
そうなん?結構バリバリ言わせて食べたよ。
「キリコと同じのんでええ?」
ねーさんは仕方ないけど、私まで病院で餃子ってあかんくない?
「唐揚げがいい」
「オッケー、行ってくるわ」
「ありがと。って私も行っていい?」
別に真ちゃん1人にお願いしなくても私も行けばいいやんか。
「きーちゃんここ居ってや。行ってくるわ」と美樹ちゃんまで立ち上がってしまった。
「一服がてら行ってくるわ」
ああ、そっか煙草かぁ。ここじゃダメだもんね。
「もうちょっとだから、もう一息頑張ろうかー」と看護師さん。
ねーさん、とっても辛そうだよ。
「もう頑張れないー。餃子食べないと頑張れない」
だから、何がそんなにねーさんを餃子モードにしてるの?早く帰ってきてー!餃子早く来て!飛んできて。
ねーさんに聞いて腰を押してみたり、腕をマッサージしてみたり。
「絶対、美樹、餃子食べて帰ってくるつもりやん?私より先に餃子食べてるってば」
だから何がそんなに…。
ねーさん、そんなに餃子好きだっけ?
美樹ちゃんに電話かけるけど出ない。
真ちゃんは運転してるかな。かけてもいいかな?
運転してたらごめん!と思いながら真ちゃんにかけたらすぐに出た。
「どした?もう生まれる?」
「うん!大変!どれくらいかかる?」
「もう車乗ったとこやで10分以内に戻れるで」
良かった。もう直ぐ帰ってくる。
けど、生まれる?って聞かれてうんって言っちゃった…いっか。
車乗った所って言ってたけど、後ろガヤガヤしてる氣が。お店混んでるのかな。
「私より先に餃子食べてたら美樹を捨てる!きーちゃん、2人でこの子を強く育てようね!」
食べ物の恨みは怖いって言うけど…。
私もねーさんの仲間に入ってるのは嬉しいけど、餃子の何がそこまでねーさんの心を掴んで離さないんだろ。
真ちゃんの言った通り10分もしないうちにねーさんの念願の餃子が到着。
「おーそーいーーー」
地獄の底から聞こえるような声のねーさん。
「まだやん」と美樹ちゃん。
ごめん、それ私がノリと勢いで「うん」って言っちゃっただけなの。
「美樹!飲んできたやろ!しかも先餃子たべたー!」
真ちゃんに電話した時、まだお店の中っぽいからそうじゃないかなーって思ったんだけど、ねーさんも氣付いちゃった。
「もうこの子はきーちゃんと育てるんだー。真ちゃんも共犯だからね!食べ物の恨みは怖いんだからねー!」
とねーさんが言うけど、美樹ちゃんは笑っていてあんまり動じてないみたいだ。
これがお父さんの威厳なのかなー。
ねーさんは、「痛い!もう無理!」と言い、楽になった瞬間餃子を食べるを繰り返すこと数回。
「きーちゃん、行くよー」
もう生まれるからお部屋を移動するらしいけど美樹ちゃんは?
「ビールと餃子のゴールデンコンビを先楽しんだやつなんて知らない!もう頼れるのはきーちゃんだけだからねー。2人でこの子を立派に育てようね。3人で強く生きてくよ!頼んだよきーちゃん」
ねーさん、そんな息絶え絶えに言わなくていいよ。どれだけ餃子好きなん。
「もうすぐ生まれるからね」
お部屋を移動したはいいけど、私、居ても良いのかな。
ねーさんはそれどころじゃなさそうだし、看護師さんもお医者さんも忙しそう。
すみっこに立っていたら看護師さんが声をかけてくれた。
「お姉さんが特別に妹ちゃんも一緒に居させてって。赤ちゃんの先輩だからねー。大きくなったら、ママや妹ちゃん、みんな頑張って生まれてくるの待ってたんだよ、って教えてあげてね」と言ってねーさんのとなりに連れて行ってくれた。
「そうやでー。美樹は先に餃子食べたけどきーちゃんはめっちゃ頑張ってくれたもん。きーちゃん居なかったら生まれて来れなかったんだよーってまだ出ないー早く出てーギブー!!」
ねーさん、餃子どれだけ…(以下略。
しんどいなら無理して話さなくてもいいよ。
「きーちゃん、あのね、私もギブしたいくらいなんだけどさ」ねーさんが私の手を取る。
「赤ちゃんもさ、生まれてくるまで結構大変なん。てか、生まれる時が人生で一番ガッツがいるくらい試練なんだよ」
「でも、それでもね生まれたいって人生で一番のガッツみせて生まれてくるんだよ。きっときーちゃんが生まれる時だって頑張ってこの世界を見たいって思って頑張ったんだよ」
「だからね、この子生まれたらね、一緒にいろんなことしよ。きーちゃんにもこの子にも、色んなこともっと教えてあげるからね。楽しいこと多いんだよ」
ちっちゃい泣き声が聞こえた。
「男の子だねー」と先生。
「出たー。出たらスッキリするねー」とねーさん。
なんか、便秘解消みたいな感想でびっくりした。
けど、赤ちゃんを抱っこしてるねーさんを見たらもしかして私が生まれた時もこうやっておかーさんが抱っこしてくれたのかな。と思うと少し寂しい氣持ちになった。
赤ちゃんは少し離れたベッドに寝かされて、体重を測ったり。
小さなオムツがとっても大きくてかわいい。
ねーさんが私にも赤ちゃんを抱っこさせてもいいか聞いてくれると看護師さんが連れてきてくれた。
でも、美樹ちゃんが最初に抱っこするんだー!って言ってたから抱っこしていいのかな?
「いいよ。抱っこしてあげてよー」とねーさん。
抱っこさせてもらうと軽いのにでも重たい。
不思議。
こんなに小さいのに、人生で一番頑張って来たのかー。
私も、覚えてないけど、生まれたいって頑張って生まれたのかな。
「あれ?」
ねーさんが部屋に戻れるのはもうしばらくしてからだったから、先に1人で部屋に行く。
ねーさんの部屋だけど、待ってるはずの真ちゃんも美樹ちゃんも居ない。
念のため廊下にでて、部屋のプレートを確認。
ねーさんの部屋だ。
煙草吸いに行ったんかなぁ。
ソファーに座って、赤ちゃんを抱っこしていたねーさんを思い出した。
とってもとっても優しい顔で、嬉しそうで。
赤ちゃんもママに会えて嬉しそうだった。
私もおかーさんに会えて嬉しかったのかな。
おかーさんは、嬉しかったのかな。
なんだろう、頭の中が言葉にならない物がたくさんあるような氣がする。
胸がモヤモヤする。
少しすると2人が帰ってきた。
「生まれた?」と美樹ちゃん。
「うん、かわいかったー」と言うと、美樹ちゃんも嬉しそう。
おとーさんも、喜んでくれたのかな。
「きーちゃん、今日ありがとな」と美樹ちゃんが頭を撫でてくれて、袋をくれた。
「うわぁ♡」
私の好きなアイスとチョコと烏龍茶が入ってる。
「きーちゃんも疲れたやろ。疲れた時は甘いもんやで」
待ってる間、買いに行ってくれたんだ。
やっぱり美樹ちゃんってかっこよくて優しいお父さんだなー。
買ってもらったアイスを食べて、赤ちゃんの名前どれがいいかなーとか話しているとねーさんが戻ってきた。
「お疲れさん」と美樹ちゃんが言うけど、ねーさんは「餃子の恨みは忘れてないんだからねー」と笑う。
どれだけ餃子好きなんだ。
「マハルが成人するまで言ってやる」とねーさん。
マハル?
赤ちゃんの名前?
「うん、まはる。真ちゃんの真に晴れでまはる。字が被っちゃうんだけど、さっき思いついたの」とねーさん。
マハルくん、かっこいい名前!
お昼に散歩した時の空を思い出した。
とっても青くて、高い綺麗な空。
ぴったり。
私たちは帰らなきゃいけないから特別に。と看護師さんがマハルくんを連れてきてくれて。
私が先に抱っこしちゃったから美樹ちゃんはショックを受けていた。
ホントにごめんね。
美樹ちゃんがマハルくんを抱っこ。
美樹ちゃんも嬉しそう。
2人を見るねーさんがとっても綺麗で、見惚れてしまった。
お母さんってこんなに綺麗なんだね。
それに、マハルくんが部屋に来た瞬間から部屋が幸せの色に変わった。
赤ちゃんって、すごいなぁ。
私が生まれた時も、そうだったのかな。