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Another story 29.幸せのカタチ。
「どうしたん?しんどい?」
病院からの帰り、ボーッと自分が生まれた時はみんなどうだったんだろうと考えていたら真ちゃんが言った。
「大丈夫!ちょっと疲れただけ!」
「今日頑張ったもんな」
「もうね、5年くらい慣れない所に電話かけるのはいいやー」と言うと「1件1年計算か。4年でええやん」と真ちゃんが笑う。
今日から5日、ねーさんと美樹ちゃんは病院に泊まる。
本当にこのままこの家に居ても良いのかな。
今の間にどこかに帰っておいた方が良いのかもしれない。
夜中、お腹が痛くて目が覚めた。
トイレに行くけどお腹は壊してない。
時間を見ると午前1時。
痛くて寝られそうもないからリビングに行く。
食べすぎたわけでも、お腹すいたわけでもないのにお腹痛い。
ソファーに横になるけど痛い。
「痛いー」
目を開けると、昔見た風景。
ああ、またタイムスリップだ。
引っ越しする前、お腹痛くなって入院した病院だ。
古い病院の誰もいない待合室。
同じ体勢で寝転んでた。
休みの日の待合室は人が居ないからそこでおかーさんを待ってるけど、おかーさんは来ない。
引っ越しの準備があるから。
引っ越しの準備で忙しいのに入院して、またおかーさんを追い詰めた。
おかーさんを苦しめたかったわけじゃない。
ごめんなさい。
でも、早く来て。
とっても寂しい。
ここに1人は怖い。
おかーさん、おかーさん。
「大丈夫か?」
目を開けると真ちゃんが居た。
「熱、は無いな。お腹痛い?」
声を出す元氣がなくて頷いて目を閉じた。
「こんな冷える所居たら余計しんどいで」
そんな声がして体が浮いた。
お布団まで連れて行ってくれる。
「大丈夫。大丈夫。ゆっくり寝てたら治るからな」
『おねーちゃん、嘘の病氣なん?』
嘘じゃない。本当に痛いんだ。
「先生、呼ぶからな、ちょっと待ってて」
真ちゃんが部屋を出てしまう。
『なんで忙しい時いっつもお腹痛なるん。お母さん大変やん』
妹の声がする。
ここに、居ないはずなのに。
それとも、真ちゃんやねーさん達が居ないのかな。
また場所は古い病院に戻った。
待合室のテレビで夕方のアニメが始まった。
おかーさんはまだ来ない。
また、夜が来る。
暗くなる。
怖い。
おかーさん、早く来て。
「キリエ」
真ちゃんの声が聞こえる。
「先生すぐ来るからな。大丈夫やからな」
今、私はどっちに居るのかな。
病院で1人でおかーさんを待つのが嫌で見てる夢なのかな。
だって、真ちゃんは私のこと心配してくれてる。
私を心配してくれる人なんて、居なかった。
「大丈夫。大丈夫」
真ちゃんもお布団に入って、背中をゆっくり撫でてくれる。
すぐ隣に居てくれる氣配が心地よくて、こっちに居たいと思った。
「お腹はこわしてへんねんな。今どこが痛い?」
先生が来てくれて、診察して貰ったけど、やっぱり原因は分からない。
「今落ち着いてるようやし、朝になっても痛いんやったらちゃんと検査した方がええやろな」
多分、病院行っても何にもない。
夜中なのに先生を無駄足させちゃった。
ごめんなさい。
先生を見送った真ちゃんが部屋に戻ってきてくれた。
「真ちゃんごめんね」
明日、朝早くに美樹ちゃんを一度迎えに行く約束してるのに、全然寝られてない。
「また謝る。いつもキリコに言われてるやんか」
でも、お腹痛くなったせいで真ちゃん寝られなかった。
「まだ2時間も寝れるから大丈夫やで。また痛くなったら言うんやで」
そう言って一緒のお布団に寝てくれる。
何で真ちゃんもねーさんも美樹ちゃんも、しんどくなっても優しいんだろ。
やっぱり、こっちがいいなぁ。
「美樹ちゃんのお迎え、いいなー」
私もねーさんとマハルくんに会いたい。
「何でや?おっさん迎えに行くだけやで羨ましいか?かわいいマハルには会えんで」
「そうなん?」
「面会時間なったら連れてったげるから寝とき」
美樹ちゃんを迎えに行く時間。
真ちゃんは起きて用意する。
私も行きたいけど、またお腹痛くなったらダメだから留守番って言われてしまった。
「美樹迎えに行ってすぐ帰るから」
言った通り、30分くらいして帰ってきた。
美樹ちゃんはまた、アイスとチョコと烏龍茶の大好きセットを買ってきてくれた。
2人はお仕事行く準備。
「今日、やっぱり休むで?」
仕事に出かけるまで何度も真ちゃんが言ってくれるけど、仕事休ませてしまうなんて申し訳無さすぎる。
「昼には帰るから無理せんと寝ときや」
どさくさ紛れて学校休んじゃった。
ねーさんが今週一杯休むって連絡してくれたからいいか。
2人が出かけて、少し寝て起きたらお昼になっていた。
真ちゃんは夜中お腹痛くなった所だから、アイスは夜まで食べちゃダメって言ったけど。
せっかく美樹ちゃんが買ってきてくれたから、一個だけ食べちゃえ。
冷凍庫から一個取り出してソファーに戻る。
「いただきます♪」
蓋をあけようとした時、玄関の鍵の開く音がした。
美樹ちゃんも真ちゃんもまだ仕事だし、兄ちゃんが帰って来るとも聞いてない。
固まる空氣。
怖い。
どうしよう。
怖いのに半分タイムスリップ。
今度はとってもとっても小さい時。
お留守番してる時だ。
どんどん陽が落ちてきて、おかーさんを待ってるけど帰ってこない。
部屋はどんどん暗くなってくる。
この時もとっても怖かった。
こっちに帰らなきゃ。
こっちは、まだお昼。
暗い所より怖くない。
早く帰らなきゃ。
「きーちゃん、起きてるか?」
リビングのドアが開いて美樹ちゃんが現れた。
良かった。
「あ、真弥にアイスは夜まであかん言われたのに食っとるやん」と笑う。
「腹はもう大丈夫なん?」
うん、もう全然大丈夫。
「じゃあ食ってまえwww証拠隠滅忘れずにな。ゴミ箱の一番下に捨てたらバレへんからな」
美樹ちゃんは今日はお昼までお仕事して、ねーさんの所に行く準備があるから早く帰ってきたと言った。
そして、私のお弁当も買ってきてくれた。
私のことも氣にしてくれてるのが嬉しい。
「昨日はホンマありがとうなー」と言ってくれる。これもすごく嬉しい。
初めて役に立てたかな?
美樹ちゃんはねーさんの所に行く準備があるのに一緒にお弁当を食べてくれて、その間ねーさんとマハルくんの様子を教えてくれた。
「ずっと熱々の餃子と天津飯食べたかったって言うねんで」
「昨日ねーさん、ずっと餃子病だったね」
「餃子病www」
餃子病が面白かったのかご飯食べられないくらい笑う美樹ちゃん。
爆笑する美樹ちゃんって珍しい。
「真弥、早めに帰るって言うてたから。ちゃんと戸締り確認して待っとってな」と言って美樹ちゃんはねーさんの所に出かけた。
真ちゃんが帰ってきたらねーさんの所に連れて行ってくれるって。
早く会いたいなー。
マハルくん、可愛かった。
赤ちゃんのベッドも小さくて。
………。
ベッド?
あれ?
ベッドって病院から貰えるの?
前、ねーさん「ベッドとかはギリギリでいいかー」って言ったけど、無いよね?
実は用意してる?
オムツとかお布団もギリギリでいいやーって言ったけど、買いに行ってた?
ベッド、私はもう兄ちゃんの部屋使ってるからリビングの横の部屋に置かせてねーって言ってたけど無いよね?
オムツとかもベッドの所置くよね?
無いね。
どうするんだろう。
悩んでいたら真ちゃんが帰ってきた。
てっきり夕方に帰ってくるのかと思ったら、面会時間に間に合うように帰って来てくれたって。
なんか、嬉しい。
「買ってへんのちゃうか?買ってたら絶対キリコ見せびらかしてくるで」
ねーさんの所に向かう時に真ちゃんにベッドの事を聞いてみた。
「一回キリコに聞いてみ。忘れとったら帰って来るまでに用意しといたらええやろ」
ねーさんに聞くとやっぱり忘れてたらしい。
代わりに買いに行っていいかと聞くと「頼んだ!」と言ってくれた。
マハルくんとねーさんの為の重要ミッション開始だ。
病院からの帰り、真ちゃんとベビーベッドを買いに行った。
赤ちゃんグッズの売り場って、かわいい。
幸せな空氣がいっぱいで、そこに居るだけでワクワクした。
ベッドの売り場にこれから赤ちゃん生まれる人たちがいて、楽しそうに選んでる。
おとーさんとおかーさんも、選んでた時は時楽しかったのかな。
生まれて来たのが私でガッカリしたのかな。
「キリエ?どないした?やっぱまだしんどい?」
「大丈夫!」
心配してくれたけど、大丈夫で押し切って重大ミッションはクリアしたけど家に帰って熱が上がって来てしまった。
「ベッド組み立てるのはキリコら帰るまででええから寝とかな」
先生に来てもらった後、私も一緒に組み立てたくてリビングに行くと真ちゃんに言われてしまった。
「でも風邪じゃないって。人多い所に行ったから疲れただけって」
「じゃあひとつだけ組み立てよか。でもしんどくなったら途中でも寝ないとあかんで」
ベッドとお布団は一階と二階にひとつづつ。
マハルくんの生まれた日のような青空のラグもふたつ。
かわいい洋服ダンスひとつ。
幸せがカタチになった赤ちゃんを迎える家具。
出来上がって行くたびワクワクする。
せめて私が生まれ前だけでも、おとーさんもおかーさんもワクワクして幸せだったらいいな。
生まれたら、ガッカリさせちゃうから。
「やっぱりまだしんどいんちゃうの?」
二階のベッドを組み立てていると真ちゃんが言った。
「しんどくないよ!大丈夫!」
私が生まれた時はどうだったんだろ。って考えちゃうけど、考えたらダメだ。
きっと変な顔してるんだ。
「昨日からやん。どうしたん」
「大丈夫!」
「絶対大丈夫違う!どうしたん?言わんと明日キリコに言うで」
ねーさんには言わないで。
2日も連続して先生呼んだって言ったら、ねーさん絶対心配してくれる。
マハルくんが生まれて幸せな氣持ちを邪魔しちゃう。
「キリコらの前で言うかここで言うかどっち選ぶ?」
「ホント何にもない!」
もう、真ちゃんは嫌な氣持ちなってるよね。
赤ちゃんは幸せのカタチなのに。
せっかくマハルくんが幸せ連れてきたのに。
「ごめん、真ちゃん、もっかい全部組み立て直して」
「は?なんで?」
幸せのものを私が触っちゃダメだった。
「昨日からおかしいで?どうしたん?」
泣くな、泣くな。
ここで泣くなんて「私が生まれた時だって、みんな幸せだったんだよ」「居てもいいんだよ」って言って欲しいみたいじゃないか。
その場の氣休めでそんな嘘を言わせたって誰が嬉しいんだ。
私が触ったものは、どんなにキラキラしていても灰に変わって汚していく。
幸せを触っちゃいけない。
海ですぐに帰ると言わなくてごめんなさい。
迎えに来てくれたら次は迷いなくすぐに帰るから、シードラゴンたち、迎えに来て下さい。
ねーさんも美樹ちゃんも、真ちゃんも。
みんな幸せになってほしいから、
わがまま言わないで自分の世界に戻るから。
もう一度、はやく迎えに来て下さい。
兄ちゃんの部屋に行ってベッドに入る。
今日も月が見える。
今日は満月かな?
大きくて綺麗。
きっと大きいから海に繋がってる所も大きくなってる。
シードラゴン。
お願いします。
早く来て下さい。
それとも、海に行かなきゃシードラゴンに会えないのかな。
それとも、私が早く来てと思ったら来てくれないのかな。おかーさんみたいに。
急に寂しくなった。
会いたい。
誰に?分かんない。
おかーさんに?
シードラゴン達に?
誰でもいいから、一緒に居て。
水が落ちる音がした。
雨じゃない。
水は天蓋にあたってる。
雨が傘に落ちるみたいな音がしてる。
ベッドから出て床に座る。
何で氣が付かなかったんだろう。
水じゃないか。
シードラゴンは水の中に居た。
何で怖がってたんだろう。
きっとこの水が溜まれば、シードラゴンに会える。
水が落ちてくるのは、シードラゴンが私を迎えに来てくれてたからだ。
なのに水を怖がったから、なかなか行けなかったんだ。
海の中はあんなに心地良かったのに。
だから、この水の中もきっと心地良いはず。
早く、水、溜まれ。
もうすぐシードラゴン達に会える。
もうすぐ、私の居てもいい世界へ行ける。
水が落ちてくるのが待ち遠しいのは初めてだ。
見上げると天窓から満月が見えた。
かぐや姫になったみたいな氣分。
きっともうすぐ水が溜まって、月からシードラゴン達が迎えに来てくれる。
私が見えたもの、聞こえたものは空想だと言われてた。
この世界の最後に、とっても都合の良い空想をしよう。
私なんかがかぐや姫だと言ったら、きっと嘲り笑われるだろうけど、この世界の最後だから。
私はかぐや姫みたいに月からシードラゴン達が迎えに来てくれて帰るんだ。
そして、シードラゴン達と一緒に私の居ていい世界で幸せに暮らすんだ。
このおうち、真ちゃん、ねーさん、美樹ちゃん、
この世界の楽しい氣持ちを教えてくれてありがとう。
このおうちの時間はとっても楽しかった。
初めて幸せだった。
このおうちから帰れるの嬉しい。
心地いい水音を聞きながら満月を見上げる。
溜まり出した水に満月の光が映って綺麗。
シードラゴンのキラキラが見えた氣がした。
シードラゴン、私はここに居るよ。
もう迷いません。
帰ります。
早く帰りたい。
早く溜まってほしくて、早く帰りたくて待ちきれないけど、とっても幸せな氣分だった。
もうすぐ、帰れる。
もうすぐ、会える。
ドアを叩く音がして開いた。
開いた所から水が流れ出てしまったように、一瞬で水が消えてしまった。
シードラゴン達のキラキラも一瞬で消えちゃった。
すぐそこまで迎えに来てくれてたのに。
もう少しで帰れる所だったのに。
ショックだった。
ずっと迎えを怖がっていた罰なんだろうか。
何でこのタイミングで真ちゃんが2階に来るんだろう。
滅多に2階に上がって来ないのに。
この世界で幸せをくれた人だったけど、
もしかしたら、
此岸の仲間なのかもしれない。
いつもそうだ。
来世に行けそうな時、いつも現れる。
そして、私を此岸に引き留める。
「もうせんって約束したやんか」
真ちゃんが言う。
約束?来世にいこうとすること?
だってシードラゴンが私一人でも迎えに来てくれてたから。
「私一人でも迎えに来てくれてたもん!」
「何で一人で行こうとすんねんな」
「今来てた!シードラゴンが来てたのに!」
また真ちゃんが来たから、シードラゴンたち居なくなった。
シードラゴンたちは、私一人を連れて行ってくれるって言ってたのに。なんでいつも邪魔するん。
「あかん!絶対あかん!シードラゴンでもあかん!」
何でよ。
シードラゴン達は私を歓迎してくれるのに。
「行きたかった。私が生まれたの喜んでくれるとこ行きたかった!生まれてガッカリさせたなかった!私だって生まれて嬉しいって言って貰いたかったもん、幸せのカタチになりたいもん!」
今更こんなこと言っても、仕方ないのはわかってる。
けど、私を見て幸せだって思って欲しかった。
来て欲しかった。
呼んでも誰も来てくれない所より、
私を待ってくれてる所が良い。
「何であかんねん。また会えて嬉しかったじゃあかんか?何処も行かんでって頼むのじゃあかんか?ここに居って欲しいじゃあかんか?」
だって、もう私は幸せのカタチじゃないって知ってるもん。
もう、みんな幸せじゃなくなってるから。
「キリエはここ居ったら幸せちゃうん?居りたい言ってたやん。キリエが居って嬉しいって思うのはおとんとおかんじゃなきゃあかんの?」
「生まれて10年やそこらで何でこの世界には自分が居たらあかんって思うねん。ここ居るやんか。キリエの名前呼ぶのも、居って嬉しいってまた会えたって思ってるのもそれじゃあかんの?」
「それでも行きたいんやったら、もう少し居って。そしたら邪魔せんと一緒に来世でも何処でも行くから。」
違う、真ちゃんを道連れにしたいわけじゃないんだ。
来世に行くのは私だけでいい。
「それまでこの世界を見せたるから。おとんとおかん以外にもキリエが居なあかんって言う人間居るの教えたるから。それでもここはキリエが居る所じゃないって言うなら行くから。1人で寂しいって言うなら一緒に居るからまだ決めんで」
真ちゃんは此岸の仲間なのか、
それとも、
本当に私が居ても良いと言ってくれてるのかな。