Another story 30.誕生日の計画。

ねーさんとマハルくんが帰って来て、家は賑やかになったし、家の中はとっても幸せな空氣になっていた。
赤ちゃんって本当にすごい。
居てるだけで家を幸せの空氣にしてくれる。
赤ちゃんの近くに居てたら、私も少しは幸せのカタチになれるかと思ってマハルくんのお世話を手伝わせてもらう。
少しは近づいてるかな。


それでも夜、シードラゴンに迎えに来てとお願いするのは変わらない。
毎日欠かさずお願いしているのに、あの日から水が落ちてくることはなかった。


真ちゃんは、一緒に来世へ行ってくれる味方なのか、それとも私を此岸に引き留めるための此岸の差し金なのか。
それも分からないままだけど、色んな所に遊びに連れて行ってくれるし、調子が悪くなったらすぐに真っ先に氣が付いて心配してくれるから私はどうしたらいいのか分からなくなっていた。




「ごめん、めーっちゃ寝てもうた」
プラネタリウムの上映が終わると、直前まで寝ていた真ちゃんは即起きて帰る用意を始める。


起きてすぐに動けるとか、大人ってすごいなぁ。
起きてすぐ動くの無理だな。
出かけた先で寝てしまうのはプラネタリウムっていうのもあるけど、疲れてるんだろうな。
連れて行ってくれるって言ったのを、真に受けてしまって失敗したかも。


「斑鳩にも行けなかった上にホンマごめん」と謝ってくれるけど、やっぱり家でゆっくりしてたら良かった。
最初の約束では斑鳩を回る厩戸皇子ツアーに行こうと言ってたけど、昨日、真ちゃんはお友達と行った山登りが意外とハードだったみたいで朝もなんだかしんどそうだったから厩戸皇子ツアーで歩きまわるのはやめておこう。と言った。


真ちゃんは前から約束してたからと言って、厩戸皇子ツアーでなくてプラネタリウムに連れてきてくれた。
けど、出かける自体無理させたかも。


「誕生日さ、本物見に行かへん?」
「厩戸皇子?」
「いやいやいや。厩戸皇子の本物はなかなか会えんなwww」
斑鳩の話してたから厩戸皇子かと思った。
「今日はホンマに想定外にバテとった。厩戸ツアーしたかったやんな。ホンマごめん」
「大丈夫!厩戸皇子はいつでも待っててくれるから!」


誕生日に見に行く本物は星だった。
金曜日の夜出かけて、星を見て車で寝る。その後厩戸皇子ツアーと平城京でお弁当を食べてまた夜、2回目、車でお泊まり。
車って秘密基地みたいだから一回寝てみたいと言ってたのを覚えていてくれて嬉しい。


「誕生日って、家に帰るまで誕生日やから今年のキリエの誕生日は何と3日間!すごくね?」
スペシャル過ぎる!
誕生日のケーキも夜暗くなってからランタンをつけて食べる素敵計画。
「山の上から日の出も見る!どう?」
山から日の出が見てみたいと言ってたのも覚えてくれてた。
「ホンマ?秘密基地みたい!」
「秘密基地なあ、秘密基地感出すとしたら…後何やろ」
「ランタン点けてケーキ食べて…夜の探検は?」
「夜の探検なぁ、さすがに冬やから厳し過ぎ?冬眠から目覚めた熊が出たらどうすんねんwww」
「そうかぁ。じゃあドラム缶で露天風呂!」
「秘密基地じゃなくなっとるwww」
そうか、秘密基地の中にはお風呂無いか。
「ケーキ食べるとき、熱いお茶飲むのは?何か外でお湯沸かすの見たことある!」
外でお湯沸かしてコーヒーを飲んでるのをテレビで見たことがあって、やってみたかった。
プラネタリウムで星座盤を買ってもらって、実際に星座を探すことにした。


「何で冬なのに見える星座って初夏生まれの人の星座なん?私、射手座やで?」
よく見たら初夏生まれの人の星座の名前ばっかり。
「何でかちゃんと知らんけど、確か誕生日の星座って生まれた時の太陽の位置やった氣がするから、星が見えるのは逆の季節になるんちゃうの?」
何で聞いたの全部答えられるんだろ。
すごいなぁ。


「今からランタンとか準備見に行こうや」と言ってくれて帰る前に寄り道。
車で寝る為の毛布やランタン、お外で使える食器。
その準備だけでも楽しい。


誕生日が待ち遠しい。




誕生日前日、いつもは学校に行くのも過ごすのも辛いと感じるけど帰ってからの楽しみが大きくて苦にならなかった。
学校が終わるともちろんダッシュで帰る。
真ちゃんが仕事から帰って来るまでの間に、準備したものの最終確認と湯冷めしないようにしっかりお風呂に入っておくのがミッション。


お風呂から上がったタイミングで真ちゃんと美樹ちゃんが帰ってきた。
「準備、全て完了です!」
隊長に報告してミッション完了!
「出発は夕食後!」
「らじゃー!楽しみ過ぎるー♪」
フライング誕生日はもうすぐ。




ご飯を食べていると、美樹ちゃんの携帯がなる。
最初はリビングで話していたけど、外に出てしまった。
ねーさんを見ると何だか不安そうな顔をしている。
美樹ちゃんが戻って来て「母さん、あかんだわ」とだけ言って黙ってご飯を食べだした。
あかんだ。って何?


去年、中学校に入ってすぐの事を思い出した。
おとーさんも「親父、あかんだ」と言ってた。
そしてその後、おじいさんのお葬式に行った。
美樹ちゃんのお母さんもそういうこと?


「飯食ったら行ってくるわ。キリコはマハル居るし残り」と美樹ちゃんが言うと、リビングの空氣が鳴り始めた。
細い細い音。
何かに弾かれると切れてしまいそうな、音。
「何で?私も行くってば」
ねーさんが言うと、音の代わりに色んな色が飛び交う。


「マハルにはまだ遠いやろ」
と言って食事が終えた美樹ちゃんが立ち上がった。
「大丈夫だって!まだ会わせてない!マハルに会う約束してた!」
この色はねーさんだ。色んな色が点滅しながら散らばり出して、色同士が当たる度に金属がぶつかるような尖った音がする。


「家に居るみたいに手伝えんし、マハルの世話して葬儀出てやったらキリコもしんどいやろ」
また、細い音がする。
この音は美樹ちゃんの音だ。
音が切れないように耐えているんだ。
どうしたら、ねーさんの散らばる色と美樹ちゃんの細い音が元に戻るんだろう。
音と色の刺激で目眩がしてくる。
2つに氣が付いたタイミングでマハルくんが泣き出した。
ねーさんは美樹ちゃんと話をしているから代わりにミルクをあげる。




マハルくん、おばあちゃんに会えなくなるってことだよね。
ふと、自分の田舎のおばあちゃんの顔が浮かんだ。
おじいちゃんとおばあちゃんは、私もちゃんと居るって見てくれるから大好き。
小学生の時、長い休みの時は家に呼んでくれてその間は『居てもいい子』でいられた。


真ちゃんのおばあちゃんも、私を『居てもいい子』で居させてくれる。
田舎のおばあちゃんみたいに料理が上手でいろんなことを教えてくれる。
真ちゃんのおばあちゃんも田舎のおばあちゃんと同じくらい好き。


私の中ではおばあちゃんは特別だった。
いきなりもう会えなくなるかもしれないと思うと想像しただけで泣きたくなるくらいに悲しくなる。


きっとマハルくんもおばあちゃんに会いたいよね。


「向こうではゆっくり出来んし、キリコもマハルも負担でかいから」と美樹ちゃんが言うけどねーさんは一緒に行くと譲らない。
ねーさんの色が本当に行きたいと言ってる。
美樹ちゃんの音はねーさんを心配しているのと、中々進まない話にイラつき出してる。


閃いた。
「真ちゃん、ちょっと来て」
まだ真ちゃんはご飯を食べてたけど、真ちゃんの部屋まで来てもらう。
「あのね、、、」
閃いたことを真ちゃんに話す。
ねーさんはマハルくんとおばあちゃんを会わせたい。ねーさん自身も会いたいと色をしてること。
美樹ちゃんはねーさんを心配しているし早く帰りたいと思ってる音がしてること。
マハルくんが美樹ちゃんのおうちに行くまでしんどいかもしれないけど、私たちが一緒に行って、夜は車に泊まって通夜とお葬式の間はマハルくんと遊んでおけないか。


「でも、ずっと運転しなきゃいけないから真ちゃんがしんどくなかったらなんだけど…」
一氣に話すと真ちゃんは黙ってしまう。
ダメかなぁ。


「おばあちゃんって特別やん、マハルくんにもおばあちゃんに会って欲しいねん」
「葬儀中マハルを見てるのはできるけど、急にホテルとれるか分からんから、ホンマに最悪夜は車中泊になるで?」
「星見に行く準備で毛布もあるし、星見に行く時も車でお泊りやで?」
「向こうまで遠いで?」
「だからね、マハルくんも真ちゃんもしんどいかも知れへんから、勝手にねーさんに聞く前に真ちゃんに聞いた方が良いかなーって」
「マハルはなぁ…キリコか美樹に聞かな分からんわ」
「美樹ちゃんに聞いてくれへん?多分真ちゃんが聞いてくれた方がいい氣がする」


真ちゃんはまた黙ってしまう。
無理かなぁ。
マハルくんとおばあちゃん、会って欲しいんだけどな。


「キリエ、飴あといくつ残ってる?」
鞄を確認する。
「あと5個ある」
「そしたら、美樹らを送ってく時と通夜と葬儀終わってマハルを連れてく時は1個ずつ忘れずに食べるねんで。厩戸ツアーはまた今度になるし、通夜の後マハルを返した後に星見ることになるけどええか?」
「大丈夫!マハルくんとおばあちゃん、会える?」
「2人に聞かな分からんけど、美樹に言うてくるから心配すんな」と言って頭を撫でてくれた。


真ちゃんが美樹ちゃんに聞いてくれる間、私が寝ていたリビングの隣の部屋でマハルくんと遊んで待ってることにした。
「おばあちゃんに会えたらいいねー」
マハルくんも会いたいのかニコニコしてる。
とってもかわいい。
抱っこはしてもらえないけど、おばあちゃんもこんなにかわいいマハルくんと会えないのきっと悲しいと思う。
美樹ちゃんとねーさんが「いいよ」って言ってくれますように。




「きーちゃん、真ちゃんたちどうしたの?」
ねーさんが部屋に来た。ねーさんの周りの色はまだ散らばってる。
まだ美樹ちゃんに聞いて貰ってる所だけど言ってもいいかな。


真ちゃんに言ったことをねーさんに話してみた。
よく考えたら家族でもないのに着いて行くとか厚かましいかな。でもマハルくん見てる以外は別の所に行くし大丈夫かな。


「でも今からきーちゃん達、星を見に行くんでしょ?誕生日だよ?」
ねーさんは悲しいのに私のことを心配してくれる。
「マハルくんにおばあちゃんと会って欲しいなーって。星はね、ずっとあるから。でもマハルくんがおばあちゃんに直接会えるの今だけやろ?」
散らばってるねーさんの色が弱くなってくる。
「きーちゃん達がマハルを見てくれるなら助かるし嬉しいけど…」
あ、また散らばり出しちゃった。
迷惑なこと言っちゃったかな。


「キリコ、ちょっと」
美樹ちゃんも部屋に来てねーさんを連れて行く。
早く行かなきゃいけないのに迷惑なこと言っちゃったかな。
どうしよう。また、思いつきでいらないことしちゃったかな。
マハルくんを見るとニコニコしながら足をたくさん動かしていて「だいじょーぶ!」と言ってくれてるみたい。
「ありがとー」と撫でるとご機嫌さんな声を出してくれた。
ネガティブが飛んで行った。
マハルくんってホントすごいなぁ。
ほっぺスリスリしとこ。


「キリエ、用意しとき」廊下の方のドアが開いて真ちゃんが呼びに来た。
「美樹ちゃん良いって?」
「キリコに話してみるって。キリコが良い言うたらすぐ出られるようにだけしとき」
ねーさんは「助かる」って言ってくれたから、きっと大丈夫。
マハルくんはご機嫌だからちょっと転がって貰って準備することにした。
あれ?準備って何したらいいの?
「何持って行ったらいいの?」
「持ってくのは星見に行くヤツでええから、後は一応制服だけ用意しとき。マハル預かりに行く時とかはそっちのがええわ」
「真ちゃんって物知りだね」
聞いたらいつもちゃんと教えてくれる。
「なんやねん、いきなりwww」
「真ちゃんってすごいなぁと思って」
美樹ちゃんにもちゃんと話をしてくれてオッケー言って貰えたし。
「恐れ入ります」と言って真ちゃんは自分の部屋に準備をしに行った。


ねーさんが戻ってきて、「きーちゃん、ホントありがとね」と言ってぎゅーっとハグしてくれる。
良かった。色もいつものねーさんのキラキラだし、やっぱりねーさんもオッケーだった。
「誕生日なのにごめんね」
「大丈夫!今年の誕生日は3日間だから!」
と言って大事なことを思い出した。


マハルくんとおばあちゃんに会って欲しい、ねーさんにも会って欲しい。
それだけ考えてたけど。


せっかく真ちゃんが誕生日だからってスペシャルを考えてくれたのに、それよりもって言っちゃった!
すごく失礼だよね。
どうしよう。


「真ちゃん…」
真ちゃんの部屋に行って声をかける。
「どしたー?準備できた?」
「星、せっかく見に連れて行ってくれるって言ってくれたのにごめんね」
せっかくスペシャルにお祝いしてくれるって言ったのに、それを考えずにねーさん達に着いていきたいって言っちゃった。
真ちゃんは黙ったままこっちを見てる。
やっぱり今さら謝っても感じ悪いよね。
考えなしに言っちゃうの、どうしたらいいかな。


「なんで謝るねんな。キリエはキリコとマハルに会ってほしいって思ったんやろ。自分の楽しみよりも2人のことを想えたの嬉しいで。氣にすんな。また行こうや。星は逃げへんて」
許してくれたのかな?
「ありがとーー!」


良かった。なんだかホッした。






慣れない所だと寝られなくて、お布団の中でぼーっとしていた。


美樹ちゃんの生まれたおうちに今朝着いて、結局おうちに泊めてもらうことになって。
そこまで考えてなかった。
みんな悲しくて大変なのに、絶対迷惑だったよね。
美樹ちゃんに謝ったけど、「マハル見ててくれてるだけですごい助かってるから何も謝らんでいいで」と言ってくれた。
けど、自分の考えのなさに本当にウンザリする。
どうして、閃いてそのまま言っちゃうんだろ。
いい加減、学習したらいいのに。




時計を見ると23時45分。
「誕生日終わっちゃう…」
大変!忘れてた。
真ちゃんを起こさないように、そーっとお布団から出て玄関に向かう。


お仏壇のお部屋の電氣がついている。
けど、廊下が暗いままだからそっと行けば通っても氣付かれないはず。
そっと通って、そっと玄関のドアを開けて外に出る。


「月、どっちだろ」
知らない所だと月の方向を探すのも一苦労。
「あった」
ろうそくの火は吹き消せないけど。


シードラゴン、迎えに来て下さい。
シードラゴンの居る世界への行き方を教えて下さい。
私が居ていい世界に行かせて下さい。
私の本当の家族に会わせて下さい。


誕生日のお願いごとだから、もうすぐ消えそうに細い月だけど、きっといつもよりもお願いは天に通じるはず。


周りはとても静かで、冬の匂いがする。
目を閉じると、溶けていくんじゃないかと錯覚する。
月が欠けていくように、私が欠けていくのも良いかもしれない。
新月になると、私の体はこの世界から消えてシードラゴンの世界に行く。
新月まで…あと、2日か3日?
ちょうど大阪に帰った後だったら何とかなるかな。


吐いた白い息が消えるみたいにフッと消える方が良いのかな。
どっちもいいな。


右の方から水が跳ねる音がした。
庭に池があったのを思い出した。
池…もしかしたら誕生日のお願いがもう届いたのかもしれない。
池の前に行く。
まっくら。
時々水が跳ねる音がする。
水に意識を合わせて水の動きを探す。
水がシードラゴンの迎えに来る合図だと氣付いてから、お風呂や台所で水に意識を合わせて動きを探す練習を続けていた。
だいぶ掴めるようになって来たから、練習していてよかった。


シードラゴン、私はここよ。


右手奥、水が渦巻きになる感覚。
早く、早く、はやく。
焦る氣持ちを抑えながら水に意識を集中させる。
見えた。
シードラゴンのキラキラの影。
もう少しハッキリと見えるまで。
ここで目を開けてしまうと消えてしまいそう。
もう少し。
もう少し。




「誕生日おめでとうー。でもこんな所で何してん?」
声が聞こえて、急に暖かくなる。
「ここはな、コレ渡すのがカッコええねんけどな寒いから一緒に入るので許して」と真ちゃん。
目を開けてしまった。
暖かくなったのは真ちゃんが着てるパーカーの中に入ってたからだった。
パーカーから顔を出して、池を確認する。
池は真っ暗なままだった。


「23時58分。ホンマギリギリセーフ」
真ちゃんが腕時計を見せてくれた。
「でも、車の中でも言ってくれたで」
ここに向かう途中、午前0時になってすぐに「お誕生日おめでとう」と言ってくれてた。
「誕生日中は何回言うてもええねん。誕生日やねんから。あと、誕生日ありがとう」
「何でありがとうなん?」
「居って言うたからここ居ってくれてるやん」
今、ものすごいその言葉を無視しようとしてたからちょっと胸が痛む。
これが罪悪感というものなのか。


「で、何しとったん?」
「何もしてない」
「こんな寒いのに外でぼーっとしてただけ?しかも池の前で」
やっぱりこの人は此岸側の人なのかもしれない。
もう少しでシードラゴンに会えそうだったのに。
「ひとまず寒いで中入るでー。二人羽織で行くから転けなや」


家の中に戻って、またそーっとお布団を敷いてもらってる部屋に行く。
「足、冷たっ!風邪ひきなやー」
久しぶりに一緒のお布団入ったけど…やっぱり別のが良いかも。
「どこ行くねんて。そっちの布団冷たいでー」
阻まれた。
目が合う。
「シードラゴンもそうやし、布団もそう!ここ居ったらええねん」
なんだそれ。
意味わかんない。