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Another story 32.お願いごと。
作戦失敗。
美樹ちゃんのおかあさんの法要で、みんなは美樹ちゃんの実家に行くと言ってた。
ご葬儀のお礼も兼ねて真ちゃんも来て欲しいとお呼ばれしていたから、1人で留守番のチャンスだと思ったのに。
誕生日のお願い事。
シードラゴンの世界へ行くために迎えに来て下さい。と言った。
上手く行きそうだったのに、やっぱりもう一息の所で真ちゃんが来てシードラゴンは消えてしまった。
真ちゃんは此岸の仲間なのか、本当に私がこの世界に居ても良いと言ってくれているのか。
ねーさんも美樹ちゃんも相変わらず優しいし、マハルくんもかわいい。
この世界は、みんなの居るお家に居る時は、驚くくらい穏やかな氣もする。
だから、ここに居ても良いと錯覚する。
その錯覚はお家を出ると途端に消えて、やっぱり痛くて苦しい世界になってしまう。
結局、私が居ても良い世界はどこなのか。
本当に私はここに居て良いのか。
混乱していたから、1人になって整理したかった。
だから、みんながお出かけしている間実家に帰るという事にして、穏やかなこのお家の中でゆっくり考えたかった。
考えるはずだった。
「そんなんあかんで。何でええよって言うと思ったんな」
みんながお出かけの間実家に戻ると言うと美樹ちゃんが真っ先に言った。
ねーさんはもしかしたら反対するんじゃないかな?と思ってたけど、まさか美樹ちゃんが真っ先にダメだって言うとは思わなくてビックリした。
「きーちゃん、ちょっとアレ行かんかー?」
お仕事から帰って来た美樹ちゃんが言った。
アレというのは、内緒のオヤツタイム。
美樹ちゃんが夕食当番の日、お買い物の帰りに近くのアイス屋さんに行って生クリームたっぷりのクレープを食べる。
美樹ちゃんが食べてるとねーさんが冷やかして落ち着いて食べられないからと、たまに内緒で連れて行ってくれる。
「まだ用意してへんかったやろ」
イチゴのクレープを食べながら美樹ちゃんが言った。
お出かけの支度だけして、最後は体調不良のフリして留守番に持ち込む計画だった。だから準備してなかったけどバレてたみたい。
「あかんで。連れてくからなー」
置いて行ってもらっても大丈夫ですよー。なんて言えるはずもなく、帰宅すると準備をせざるを得ないだろうな。
「きーちゃんは面白くもなんもないやろうから悪いとは思うねんけどな、一緒に来て欲しいねん」
と言って2枚目のチョコバナナのクレープを一口くれた。
「普段、実家なんて言葉出さへんのに偶々この機会に…ってワケじゃなさそうやし、今度はどこに野宿しようって思ってんの?」
あー、おしい!今回は野宿でなくてお家に居るつもりなんだよなー。
とも言えるはずもなく…。
結局、一緒に連れて行って貰うことになってしまった。
1人になって色々と整理したかったんだけどな。
法要に全くの赤の他人が行くなんて邪魔モノでしかないし、とっても氣が重たい。
「えー、何で妹もおるん?」
ホラね。やっぱり邪魔モノじゃないか。
でもね、美樹ちゃんの姪っ子ちゃんくらい分かりやすく排除してくれた方が氣が楽。
勘違いしなくてすむから。
「きーちゃん、あの子の言うこと氣にしないでいいからね」
マハルくんのお昼寝タイム。
一緒に休憩しようとねーさんに誘われて別室へ。
並んで横になってるとねーさんが心配そうに言ってくれた。
あの子って姪っ子ちゃんだよね。
何か言ってたっけ。
「何がー?」
「いや、ホラ、何できーちゃんも一緒なのとかさ、いらんこと言ってくるやん」
心配してくれるんだね。嬉しい。
けどね…
「大丈夫、ありがとー」
あの子は本当の事しか言わないし、それに外の世界と変わらないから。
でも、歓迎されない所に居るって居心地悪いのは悪いんだけどねー。
何だろ、美樹ちゃんの生まれたおうちっていつもの家と外の世界と入り混じった不思議な場所。って感じ。
「ホントに兄妹?何か変じゃない?」
夕食準備中。
ねーさんと一緒にお手伝いしてると姪っ子ちゃんがねーさんに言ってる。
この間初めてお邪魔した時に、ねーさんが「色々ややこしくなるからきーちゃんは真ちゃんの妹ね!オッケー?」と言って兄妹ってことにしたけど…
すごいね、やっぱり兄妹じゃないって分かるんだ。
ねーさんは上手いこと話を脱線させようとしたり、はぐらかそうとしてるけど姪っ子ちゃんは氣になるらしく、ねーさんに追及してる。
ねーさんが押されてるって珍しい。けど、何だろ。ちょっとヤな感じ。
「お互い名前で呼んでるしー、仲良かったとしても普通兄貴の旅行付いてくる?」
うん、ホントは付いていかないで留守番したかった。
なんだろう、頭が痛いなぁ。
私のこと、好きじゃないんだろうな。
言葉がチクチク刺さってくる。
ちょっと黙ってくれないかな。
話、終わらせよ。
「うち、親に捨てられたりして結構複雑なんで」
これは間違ったこと言ってないし。
「え!捨てられた?」
あ、おばさんをびっくりさせちゃった。
捨てられたとかパワーワードすぎたかな。
「しばらく離れてたんですが、最近になって兄がお世話してくれるようになりました」
真ちゃんが兄ってこと以外は間違ったことじゃないからいいかー。
「きーちゃん、女優だねー」
マハルくんのおムツ換えタイム。
ねーさんにくっついて別室に行くとねーさんが笑いながら言った。
「基本、間違ったこと言ってないし、あの子も黙ったし。いやーすごいわぁwww」
褒めてくれてるのかな?
夕食が終わる頃、姪っ子ちゃんのお友だちが来た。今日お泊まり会するんだって。
何だろ、一氣に空氣が学校っぽい。
やっぱり頭が痛いなぁ。
喉が乾く。喉じゃないな。口の中とか、胸とか。
全身が干からびてくみたいな感じ。
慣れない所だからかな。
それとも、純粋にストーブ焚いてるから乾燥してるだけなのかな。
息苦しさもある。
「久しぶりにちょっと地元まわってみない?」
ねーさんが美樹ちゃんを誘う。
そうだ、ねーさんの地元も近くって言ってたもんね。
でも、マハルくんもうねんねの時間だよ?
「マハルくん、もう寝そうだから見とくよ」
そうしたらお布団の部屋でゆっくりできるし、ようやく1人になれるし。
「え?きーちゃんも行くんだよ」
マジか!
1人になりたいんだよー。
「マハルくん起きちゃダメだし」
お願い、お留守番させて。
留守番にもって行こうと頑張ってみたら、なんとおばさんがマハルくんをみててくれるって。
まさかの刺客…。
多分みんなでお出かけ出来るように言ってくれたんだろうけど、私、1人になりたいんだよーー。
マハルくんがねんねした後、車に乗り込む。
姪っ子ちゃん達も一緒に行くって言ったけど、ねーさんが「全員乗れるわけないでしょ?子供はさっさと寝なさい」と一言言って終わり。
やっぱりねーさん、すごい。
さっきもそうだけど、多分ねーさんは私が一息つけるように外出に誘ってくれてるから、私も子供なんでお留守番でも全然いいよ。なんてことは言えるはずもなかった。
美樹ちゃんが運転して、しばらく走る。
着いたのは海だった。
海!
シードラゴンに会える?
私も行くことが決まってからテンションは低いままだったけど、海を見て少しテンションが上がってきた。
初めてシードラゴンとあったのは海。
違う海だけど、会えるかもしれない。
急いで月を探す。
下弦の月を見つけた。
ねーさん達は一服中。
今のうち。
そーっと海の方に出る。
シードラゴンの影を見つけるまでは、みんなの見える所。見つけたら一氣に海に走れば大丈夫。
完璧。
波の音って、結構大きいんだね。
月を見上げながら水に手をつける。
シードラゴン、迎えに来てください。
色々と考えたかったけどこのタイミングで海に来れるってことは、きっと私が居るのはシードラゴンの所なんだ。
波の音を聞きながらシードラゴンを探す。
シードラゴンはまだ来ない。
どれくらいシードラゴンを待ったのか分からないけど、足が痺れてきた。
シードラゴンが来たら海に帰るんだ。
スカートに砂が付いても構わないか。
座り込んで目を閉じる。
波の音と、遠くの車の音。
彼岸と此岸の真ん中みたい。
砂の不思議な感覚。
すぐ横で水が湧いて来たような音がした。
来た。
シードラゴン、私はここよ。
私の本当の家族。
砂の中に引き込まれる感覚。
時々波があたる。
シードラゴンのキラキラが見える。
砂に手を伸ばす。もうちょっと。
ようやく、会える。
もうすぐ行ける。
「あかんで」
手を掴まれて此岸に戻された。
やっぱり、真ちゃんは此岸の差し金だ。
シードラゴンは行ってしまった。
足に触れる砂は、さっきの不思議な感じはなくて普通の砂の感触だった。
「シードラゴン、行っちゃった…」
「うん」
何でいつもシードラゴンが来るタイミングで来るんだろ。
どうしたら真ちゃんの声に惑わされずにシードラゴンに手を伸ばせるようになるんだろう。
「シードラゴン待ってたん?」
「うん」
でも、行っちゃった。
「もう、シードラゴン会えないのかな」
「キリエの、家族やから?」
「うん」
私の本当の家族に会いたい。
きっと、本当の家族の元なら私は自分が居てもいいのか悩まなくていいから。
「家族が近くに居るってどんな感じかな」
「どうやろなぁ。キリエは家族がいて欲しいん?」
「いて欲しい」
家族もいて欲しいけど、自分は居ても良いかってことすら悩むことなく過ごしてみたい。
「私もね、きーちゃんと同じ位の時、学校が大っ嫌いでね…」
海から帰ってきて、ねーさんとお風呂。
湯船に浸かってるとねーさんが話をしてくれた。
ねーさんが私と同じ位の年の頃。
ねーさんも学校には居場所がなくて、学校出なくて外の世界に自分の世界を作ったねーさん。
ねーさんも学校の子たちの視線が嫌だったって。
でも、ねーさんは自分で自分の居場所を作った。
卒業したら美樹ちゃんが大阪に出るって聞いて、一緒に新しい場所に行くと決めて。
その新しい場所でも自分の場所を作った。
私もねーさんみたいに自分の場所を作って、誰かに優しくできるようになれるのかな。
この世界でも、私の場所を作ってもいいのかな。
夜になって、美樹ちゃんと真ちゃんがマハルくんと寝るからねーさんと2人で寝て良いよ。って言ってくれた。
時計を見ると1時過ぎ。
熱が出てきた氣がする。
お水、飲みたいなぁ。
さっき出かけた時に私も飲み物買っとけば良かったなぁ。
自分の呼吸と心臓の音がうるさい。
止まらないかなぁ。
あ、マハルくん起きた。
抱っこしに行きたいけど、熱が風邪の熱だったらダメだしなぁ。
マハルくんは泣いてるけど、美樹ちゃんも真ちゃんも起きないみたい。
マハルくん呼んでるよー。早く抱っこしてあげて。
まだ起きない。大人組飲み過ぎだよー。
マスクが無いからタオルでマスク代わりにしてマハルくんの元へそーっと行く。
顔を隠してるからマハルくんびっくりするかな?と少し心配だったけど、抱っこすると喜んでくれた。でもお腹すいたのかな?哺乳瓶探してる。
かわいい。
「びっくりしたー」
あ、真ちゃん起きた。
「マハルくん、泣いてたよ」
「何でそんなタオル巻いてるん」
えっと、これは…
それよりも、
「マハルくんミルクだよ」
話を脱線させようとした時美樹ちゃんも起きた。
「何でそんな強盗みたいになってん」
やっぱり氣になりますか?
それより、マハルくんミルクだよー。
美樹ちゃんがミルクを作りに行ってくれた。
「やっぱ熱上がってきてるやんか。海にずっと手ぇつけてるから冷えたんやで」
真ちゃんがそう言いながら、先生が渡してくれてた薬をくれた。
「咳もないし、頭痛もないし、ただ疲れただけだよ」
うそ、ちょっと頭は痛い。
けど、それは夕方からだもん。
美樹ちゃんが戻ってくる前に薬を飲んでおかなきゃ。
って、水がない。
水無しで薬飲んじゃダメかな。
なんて悩んでたら美樹ちゃんがマハルくんのミルクと水を持ってきてくれた。
「やっぱり熱だしてるやろ」
真ちゃんも美樹ちゃんも何で分かるん。
大人ってそういうもの?
でも、水、飲みたかったから嬉しい。
「ねーさんには言わないで」
ねーさん絶対心配してくれるもん。
美樹ちゃんの生まれたお家だけど、絶対ねーさん疲れてるからいらない心配させたくない。
「朝になっても熱下がってへんかったら知らんで。真弥の所でええから早く寝な」と美樹ちゃん。
お布団に入ると美樹ちゃんが「マハルに氣ぃついてくれてありがとなー」と言ってくれた。
「ちょっと上がって来たか?明日、マハルの事は氣にせんでええから寝といたらええからな」
おでこと首筋にあたる真ちゃんの手が冷たくて氣持ちいい。
おまじないしてくれてるんだ。
今、私の光ってどうなってるんだろ。
マハルくんの声が聞こえた。
今度はすぐに電氣がついた。
美樹ちゃんか真ちゃんがすぐ氣付いてくれたんだ。
今はちょっと起き上がるのしんどいから、良かった。
またおでこに少し冷たい感触。
目を開けると、さっきと同じように真ちゃんがおまじないをしててくれた。
冷たいけど、ふわっと何かが動く感じが氣持ちいい。
次に目が覚めると6時過ぎ。
体は随分楽になってる。多分、熱も下がった。
良かった。
安心してると、マハルくんが泣きだした。
すぐに抱っこする。
ミルクだねー。
ちょっと前にもマハルくん泣いてたし、美樹ちゃん起こすのかわいそうだなー。
マハルくんを赤ちゃん用毛布でぐるぐる巻きにして抱っこして部屋を出る。
「あら、おはよう。まーくんミルク?」
リビングからおばさんが顔を出した。
「美樹は寝てるの?ごめんねー。おばちゃんがミルク作ってくるからリビングで待っててね。ストーブついてるからあったかいよ」
ご挨拶すると、こう言ってミルクを作りに行ってくれた。
リビングはあったかい。
マハルくんをぐるぐる毛布から解放。
身軽になって嬉しそう。でも哺乳瓶探しててかわいい。
おばちゃんがミルクを持って来てくれると一心不乱に飲んでてまたかわいい。
「美樹ってばまだ起きてこないの?」と言ってまた「まーくんのお世話ばっかりさせられてない?ごめんねー」と言ってくれた。
「大人組、みんな運転してたから」と言うと笑って「ありがとね」と言ってくれてなんだか嬉しい。
「キリコちゃんねー、ちっちゃい頃から私も妹欲しい!って言っててねー。幼稚園くらいの頃、おままごとするでしょ?美樹はずっとキリコちゃんの妹役してたの」
ミルクを飲み終わってご機嫌マハルくんと遊びながらおばちゃんと色々話す。
美樹ちゃんとねーさんって昔から仲良しだった?と聞いたらこんな事を教えてくれた。
美樹ちゃんが妹役!びっくり!想像出来なさすぎて笑える。
「キリコちゃんとキリエちゃんって名前も似ててホントの姉妹みたいねー」
嬉しい。
本当のお姉ちゃんみたいに色々世話をしてくれると言うと
「キリエちゃんと知り合って、念願の妹が出来たみたいで嬉しいんだと思うよ。美樹もね同じなんじゃないかな?」
と言ってくれて、すごく嬉しくなった。
美樹ちゃんも妹みたいって思ってくれてるのかな。
私のお兄ちゃんお姉ちゃんって思っても良いかなー?