Story 38.変化。

お盆休み、おばあちゃまが「今度はゆっくり泊まりでおいで」と誘ってくれて、お泊まりすることになった。多分、8月入ってすぐに会いに行った日の帰り、きーちゃんが見るからに寂しそうにしてくれてたからなんじゃないかなーと思う。寂しそうなきーちゃんを見て、私はちょっと嬉しかったのは内緒なんだけど。
この間から、また10日。「マハルくん、また大きくなった?」マハルを抱っこしてきーちゃんもマハルも嬉しそう。
言うかな、言うかなー。とワクワクしてマハルを見るけど言わないなー。よくおしゃべりするようになって「マンマ」と私とご飯とごっちゃに呼んでくれるようになったマハル。何日か前から、帰宅していつものようにリビングを徘徊して「いーちゃ」と叫ぶように。で、真ちゃんの部屋の前に突進して「いーーーーちゃー」と締めのシャウト。これ、絶対「きーちゃん」って言ってるよね。
だからきーちゃんの前で言ってくれないかなー。と思ってたんだけども。言わないね。言わないけど大好きなきーちゃんに会えて嬉しいマハルは、着いてからきーちゃんの後ろをハイハイでついてまわってる。息子よ。しつこいオトコは嫌われるよ。と言いたいほど付いて回ってる。後追い?
しっかりして来たとは言え、まだまだ幼いイメージだったけれど武者修行?のせいか、夏休み前から本当に成長を見せてびっくり。逆にしっかりし過ぎて心配になってきた。
「ちょっと行ってくるねー」夕方の陽射しがゆるくなりだした頃、きーちゃんはおばあちゃまのリハビリを兼ねたお散歩に行くと言うので、私たちもついて行くことに。旦那と真ちゃんも誘ったら、結局、大名行列かのようなお散歩に。「かわいいーー♡靴!靴履いてる♡」きーちゃんは実際にマハルが靴履いてる所見たことないのか。保育園以外でもデビューしたんだよー。
近くの神社の石段もサクサク登るおばあちゃま。リハビリ?油断はダメだとは分かってるけど、二学期になっても1人で過ごすのが不安ならリハビリの病院へ。って言ってたけど、大丈夫じゃないかと思うくらいに本当にサクサク歩く姿にびっくり。きーちゃんはすぐに助けられるようにすぐ隣で歩いて、おばあちゃまが一息入れるタイミングもバッチリ。慣れた感じを見ると、ちゃんと当初の目的を果たしてるんだなー。と感心。
「毎日、付き合ってくれるの。今日はこの辺りまでにしとこうねとか、ちゃーんと私の体調見ながら考えてくれるし」神社で休憩中、おばあちゃまが嬉しそうに教えてくれた。「おかげでもう大丈夫だわ。まだ、雨の後は『危ないから階段ある所はダメ』って言うんやけどね」おばあちゃま、本当嬉しそう。境内で会ったご近所さんと話していたきーちゃんは「おばあちゃん、お野菜採れたから取りにおいでって言ってもらったよ。帰りに貰いに行ってきていい?」とニコニコしてる。きーちゃんって基本、年上キラーだよね。
おばあちゃま、階段の下りも余裕。後ろに居るマハル(と私)に降りながら話しかけるから、私のがヒヤヒヤしたり。きーちゃんに「前見て降りて!」って怒られてたけど、「はいはい」って嬉しそう。
「ちょっとーいつ戻ってきたん?」家の門をくぐった時少し離れた所で騒がしい声が。真ちゃんと女子2人組が楽しげに話している。きーちゃんと目が合うと「結構多いよ。3歩歩くと友だちに当たってる氣がする」とそのままおばあちゃまと家に入っていった。あれ?いつもなら、真ちゃんが女の子と親しげに喋ってると超ご機嫌ナナメになって拗ねるのに。大人になったねー。とホッとしたのは氣のせいだった。

「別にいつも行ってるから大丈夫やし」真ちゃんが家に入ると超ご機嫌ナナメ。真ちゃんが帰ってきた時、きーちゃんは晩御飯のお買い物しに行く準備中。もちろん真ちゃんが連れていこうとするんだけども、きーちゃんは1人で行ってくると譲らない。
おーい、おばあちゃまも居てるんだけどなー。チラッとおばあちゃまを見るとそんな2人をニコニコして見てる。もしかして、意外とよく目の前でやらかしてる感じ?「いつもこんな感じ?」とおばあちゃまに聞いてみる。「真弥がめったに居ないからいつもってことは無いなぁ。きいちゃん、いい子過ぎるからちょっと機嫌悪くなるのも新鮮やなぁと思って。」
なるほど。いい子過ぎるからご機嫌ななめが新鮮かぁ。そういう捉え方もあるのね。でも、これどっちか折れないと(というより、真ちゃんが上手いこときーちゃんをなだめないと)終わらないけど。
「どーせ、また『今からご飯食べに行こー』とか言われたんやろ。行ってきたらいいやん。今日も真ちゃんの分用意せーへんから」きーちゃん、地獄耳。確かにさっき言われてた。それは聞いた。けど、その時きーちゃんもう家に入ってなかったっけ?てか、今日「も」?いつも真ちゃんご飯家で食べてないの?これ、収拾つけた方が良い?それとも放置?きーちゃん達の言い合いに参加してるつもりなのか、きーちゃんの足元でマハルも何か言ってるのが面白いけど。「あれ、絶対きーちゃんに加勢してるよな」と旦那。やっぱりそう見えるよね。
「きいちゃん、きいちゃん。」おばあちゃまが立ち上がったか?「今日は何か頼んだらええよ。」続けておばあちゃまがきーちゃんに何か言うと、きーちゃんは2階にあがって行った。え?なに?「きいちゃん、30分位かなぁ…したら戻ってくるわ」とおばあちゃま。なに?何事?「お買い物で家あけるんやったら、その時間お習字しておいでって言うたん」お習字?「こっち来てやる事ないからお習字始めたの。あのままにしてても良かったんやけどね。この時間から買い物行ったら心配やし、1人になりたいだけなら家に居ってくれた方が安心やからね」と笑うおばあちゃま。

おばあちゃまの言う通り、30分位できーちゃんが降りてきた。「ねーさん、おばあちゃん、ごめんね」あ、やっぱり謝った。「氣にせんでええよ。今日はどうやった?」「やっぱり、バサバサやった。いくら書いてもまとまらへんくて」「今は?」「綺麗になったよ」バサバサ?まとまらへん?「ちょっとお部屋行ってくる!」それが何か聞く前にきーちゃんは離れに向かってしまった。「習字いうても、筆跡で自分の状態を見る練習してるの。機嫌悪くなるのは別にかまへんの。けど、それに飲まれたらあかんでしょ。氣分を害すことがあっても自分で平に戻すことが出来るって体感するええ機会やと思ってね」とおばあちゃまが教えてくれた。これ、私も教えて貰った方がいいかもしれない。
少しして、おばあちゃまが頼んでくれたお寿司が届いた。「呼んできまーす」と離れに向かう前に、縁側からきーちゃんと真ちゃんが歩いてくるのが見えた。仲直りしたね。この場合、仲直りでいいのかしら。
最近、きーちゃんはよく拗ねる。私は特に実害がないから、感情を表現するひとつで自分の氣持ちを飲み込まずに済んでるのはいい事だとは思うけど、それをいつもダイレクトに受け止めて対処してる真ちゃんは大変だろうし、大丈夫だとは思うけど限界が来てしまうと色々と話がややこしくなりそうだよなと思って不安だったり。だから、おばあちゃまの言っていた「氣分を害すことがあっても自分で平らに出来る」ことを覚えたら、必要以外の摩擦は起きないんじゃないかと思うと少し不安材料が減って楽になる。
とは、思ったけれども。今更な凄くシンプルなこと。2人の関係が分からない。そんな続柄的なものを超越した関係。と言えばいいのかもしれないけど、それは私の想像であって正味どうなんだろう。当たり前かのように、私、きーちゃんのことは真ちゃんに任せていたらいいのかなという感じだったんだけども。そもそも、任せて良いんだろうか。とこんな疑問が浮かんだのは、久しぶりに夕食の時から飲みすぎな位飲んでいるからだろうか。

夕食が終わった後、おばあちゃまはお弟子さんとお仕事をするからと言っていたので邪魔しないよう離れの真ちゃんのお部屋に移動した。おばあちゃまが、私たちの為にビールやらたくさんアルコールを用意してくれてるものだから…飲むよね。笑
真ちゃんは、飲んで酔うときーちゃんにセクハラオヤジ級に絡む。酔った分、日頃セーブしてるのが甘くなるのかなと思うくらい聞いてるだけでも「うわぁ」ってくらい甘いこと言うし色々直球を投げるし、いちいち絡むんだけど、慣れなのかきーちゃんは、拾う所は拾うけど基本上手くあしらう。慣れたキャバ嬢とその嬢に入れあげてるお客さん。みたいな図に見えなくもない時があったり。その度に旦那が睨みを効かせるけど、まあ酔っ払いには効かない。これはこれでちょっと面倒くさい。まあ、旦那の面倒な親バカはひとまず、ここではおいておこう。
中学卒業後の進路含めてきーちゃんのことを見るつもりでいるのも知っている。それどころか、進路の問題が出てきてこの話の方向が決まってから真ちゃんは生活費をきーちゃんの分まで入れるようになった。月末、各自決まった額を生活費として出してそこから家にかかる支出を捻出するシステムで、今まではもちろん頭数にきーちゃんを入れず、あの話から生活を始めた当初より一人当たりを増額して生活していた。私としては、日々の予算が1人分増えたから全然問題なくむしろありがたいのだけど。そこまでするのは「ただ小さい頃を知ってるから」ってだけではないだろうと思うし、真ちゃんの日頃の態度なんかでもよくわかる。
そして、きーちゃん。こっちが、もう一段と難しくて。きーちゃんにとって、初めて自分の感覚を信用して理解した人間が真ちゃんなのは間違いなく、だからこそ、私たちとはまた違うレベルで真ちゃんのことを信用しているし、一番の存在であるのはわかる。真ちゃんが嫌がらず受け止めるからってのもあるけど、小さい子が両親や保育園の先生に甘えているようなレベルでくっついていたりもする。ただ、私たちにも同じ。言い方悪いかもしれないけど、わんこが飼い主一家に甘えるようなイメージ。
信頼してる人間と、そうでない人間。これで、判断しているように思う。
最近、真ちゃんが女子と話すのをよく思っていないのも見てわかる。これは、「自分のおもちゃを横取りされる、もしくは横取りされそうで怒っている」のか、恋愛感情からのヤキモチなのか。2人に恋愛感情があれば、これからのことまだ話は簡単かもしれない。恋愛感情だって確かなものではないし絶対続くとは言えないけど、まだ、未来はある。「きーちゃんの人生を縛ることになる」と真ちゃんは言っていた。真ちゃんは、これからのこと考えた上で決めたんだと思う。
きーちゃんは?真ちゃんはこれをきーちゃんにとって大きなデメリットと言ってた。たしかにそうかもしれない。春、きーちゃんが泣いて嫌がったとしてもきちんと整理しておけば良かったんじゃないかと時々思うことがある。もし、高校生になったきーちゃんが私たちのいる所よりも行きたい場所が出来た時、恋愛感情として誰かと一緒に居たいと思った時、「真ちゃんは別に行ってもいいって言った」と言って氣に病まない子だったら傷は浅いかもしれない。そうじゃないから、きーちゃんの良いところだし、私たちがかわいいと大事に思ってたりする。そうなれば、無駄に2人は傷つくことになるよね。
私が考えてどうこう言う話では、もう、無くなっているのもよくわかっている。単に、私が安心していたいから答えを知りたいって言うのが大きいのも自分でわかってる。でも、きーちゃんたちがこうやって笑っていて欲しいと思っているのも本当。
なんだか、ドツボにはまってきたかも。1人でモヤモヤ考えてもどうしようもない。
きーちゃんたちが夏休み入ってこっちに帰ってるのもあって、今どんな状態になってるのかわからないし。
きーちゃんにとってのデメリット。多分きーちゃんは分かっていると思ったけど、きちんときーちゃんの口から聞いたわけじゃない。せめて、それを確認してみようかな。今なら、まだ傷が浅くて済むかもしれない。確認したところで話がややこしくなるのも困るし。
「ねーさん、大丈夫?」私が飲みながら悶々としていたもんだから、きーちゃんが心配そうにしていた。「大丈夫よー。あれ?マハルは?」「マハルくんねんねしたよー」旦那がマハルは任せて飲んでいいよーって言ってくれてたからつい任せすぎてた。ってか、どれだけ集中してたの、私!
旦那を見ると、いつものように飲んだくれてるし…これ、マハル見てくれてたのって「きーちゃんがねんねさせてくれたの?」「遊んでたらね、いきなり寝たの。可愛かったよ♡あとね…」ん?ちょっと何かためらってる?「なに?」「マハルくんね、私が母屋におかわり取りに行っとこうって部屋出ようとするでしょ?そしたらついてきて『いーちゃーー』って。これ、『きーちゃん』かなぁ」あ、言ったのね。そうだよ。「きーちゃん」だよ。
おかわり取りに行くって、こら酔っ払い、おかわり位自分で取りに行かんか。マハルがドアの前まで付いてくるから一緒に取りに行ってくれたんだって。
きーちゃんに、留守中の帰宅してからのマハルの習慣を教える。「えーー、そうなのーー?」と言いながら、きーちゃんはうふふ♪と笑う。「せやで、しょっちゅう「きーちゃん」言うてハイハイで突撃しまくってるで」と旦那。「あかーん、今マハルくんぎゅーってしたーい!でも起きるー!」と悶絶するきーちゃんがかわいい。「起きるとあかんから真ちゃんでいいや」と隣の真ちゃんをハグして「マハルくんかわいすぎるー。ホントたからものー!」と悶絶するきーちゃん。「マハルのかわりっすか?」「起きちゃうもんーー。マハルくんのがぷくぷくでかわいいけど起きるまで我慢ーー」なにそれ。
2人に任せておいて、何かあったら助ける。にしておいた方がいいというのは、私の逃げでズルさなのか。
あ、そう言えば…。ふと、さっきの2人のやりとり思い出した。「さっきさ、きーちゃん今日『も』真ちゃんのご飯は用意しないって言ってたやん。真ちゃん家でご飯食べてないの?」ちょっと氣になったから聞いてみたけど、やらかしてしまった。さっきまでニコニコしていたきーちゃんの表情が一瞬曇ってしまった。
「いつも真ちゃんお仕事で遅いから、食べて帰ってくるよ」そう答えた時はまたいつものトーンに戻っていたけど、確かに一瞬表情が暗くなった。「もしかして、きーちゃん、1人でご飯食べてるの?」「ご飯はおばあちゃんとおっちゃんと食べるから大丈夫、1人じゃないよ」と笑う。けど、やっぱり何だか表情が暗い。聞かない方が良かった?「仕事で遅いっておまえ何の為に一緒に帰ってきてん。居らんかったら意味ないやんか」私達の話を聞いてたらしい旦那が言った。真ちゃん、もしかして仕事で遅いわけじゃ無いんじゃないの?旦那に追及されてる様子を見て何となくそう思った。
夕方、女の子らに話しかけられてた時きーちゃんは友達に話しかけられてるのが結構多い。と言ってた。さっきも友達から電話がかかってきてた。別に遊びに行くな。とは言わないけど。きーちゃんが自分からおばあちゃまのお世話をするって言い出したことだけど、もし、友達と会ったりして帰りが遅いなら、旦那の言う通り何の為に真ちゃんは一緒に来たのか分からないじゃない。
旦那もさっきの電話が友達からのお誘いだと氣付いていたみたいで追及している。
「大丈夫よ、だって元々は私1人でおばあちゃんちに来るつもりやったから」と真ちゃんの助け船を出すきーちゃん。だけど、その言い方だとあまり助け船になってない氣がする。「そうやとしてもな、わざわざ一緒に行くって期待させといて結局ばーさんの世話はきーちゃんがしてるっておかしないか?しかも自分のばーさんやねんで」と旦那はきーちゃんに言うけど。「私が勝手におばあちゃんに頼んでお手伝いさせてって決めたし、おばあちゃんもう元氣やから私もあんまりお手伝いないし、おばあちゃんもおっちゃんも優しいから寂しくない…」と言って黙ってしまった。
あ、やっぱり。唇を噛んで泣くの堪えてる。ホラ、やっぱり寂しいんじゃない。だって、いくら優しいおばあちゃまのお家でも慣れた家じゃないもん。きーちゃんはずっと氣を張ってるはず。元々は自分で言い出したことだからってきーちゃんの言うことは分かるし、1人で来てたとしたら寂しいって言っちゃいけないって言えるかもしれないけど、きーちゃんと一緒に来るって言ったのは真ちゃんだ。きーちゃんがずっと氣を張って落ち着かないだろうことも知ってるはず。なのに、実家に帰って来たからって地元の友達と遊び歩くのはどうかと思う。一緒に来るって言ったら、きーちゃんも無意識のうちに安心して氣が緩んじゃうじゃない。1人で来るか真ちゃんが居ると思って過ごすかできーちゃんの心の張り方が変わってくる。だから期待させといてって旦那はその辺りを言ってるんだと思う。
その辺りが真ちゃんもまだまだ子供というか、若いよね。考えが足りないというか。遊びたくなる氣持ちも分からなくもないし、誘いが多くなるの知ってるから仕方ない氣もするんだけどね。
この場合、どうしたらいいもんかなー。けど、寂しいって言わないように頑張ってたんだね。と思うと、年頃から考えたらとっても幼いんだろうけど、何だかいじらしくて泣くのを堪えてるきーちゃんがとても可愛く思えた。