Story 41.進路のお悩み。

学校から帰宅したきーちゃんは疲れ果てていた。マハルがそんなことお構い無しにきーちゃんに突進する。「私のかわいい栄養ちゃんー!元氣回復ー!」抱っこでギューってされてマハルは嬉しそう。
「これまた預かったけど、渡してもいいのかな」きーちゃんが封筒を出す。「何それ」「先生がまた来てくださいって。懇談の日じゃないねんで」まあ、きーちゃんのケースはイレギュラーが重なった超イレギュラーだからね。「いつ?」「見てない。出張から帰らないと渡せないって言ったんだけどね」真ちゃんは今日から土曜日夜まで帰らない。「渡せないのは仕方ないんじゃない?」「そうだけどーー」
「それはきーちゃんが決めること違う」夕食中もまだ渡しても良いものか悩んでるきーちゃんの話を聞いてハッキリ言い切る旦那。「(´・ω・`)」「大丈夫やから少しは信用したりぃな。どうするかは真弥が決めることやろ」旦那の言うことはわりかし素直に聞くんだよねー。普段の口数の差かな?
土曜日、きーちゃんは渋々ながら真ちゃんに手紙を渡していた。「懇談の日程やったで。長くなるだろうから最終日の最後。先に言うといてくれただけ」「なんだーーー」きーちゃん脱力。マハルその上に乗る。赤ん坊ながら心配しているのか。
「ねーさん、ねーさんの事が好きって言うのと兄ちゃんが言う好きって違うん?」2人で洗濯物を畳んでると急にきーちゃんが言った。「どういうこと?」唐突にも程がある。「夕方、兄ちゃんから電話あって、その時兄ちゃんがね『俺のこと好きになってや』って言ったん」驚き過ぎて思わず鼻水出そうになったわ。アキちゃん何を言っている。「けど、私、兄ちゃんのこと好きやからもう好きやでって返事したら、ねーさん達と同じ好きやろ。そっちで無い方って。そっちで無いってどっちなん?って思って」と肩を竦めるきーちゃん。そうか、その辺りはやっぱりきーちゃんだ。脱力ー。てかホントアキちゃん何を言い出すんだ。きーちゃんはまだ中学生だってば。こう言って行動に起こすあたり、真ちゃんとは真逆だわ。周りに好意がモロにバレてるもののきーちゃんのペースに合わせてる真ちゃんが人格者のように思えてきたわ。
「きーちゃんの事、私も美樹も真ちゃんもとっても大事だし大好きなのは知ってる?」と聞くときーちゃんは嬉しそうに頷いてくれた。「アキちゃんが言ってるのは多分違う好きのことだと思うよ」きーちゃん、ピンとこない様子。「アキちゃんが言ってる『好き』は1人だけ。きーちゃんの『好き』は私たちみんな並んで同じくらい大事って思ってくれてるってことでしょ?」やはりピンと来てないか。難しいな。「私もきーちゃんの事が好き。大事。それは真ちゃんやアキちゃんも同じで2人のこと好きだし大事だって思ってる。けど、美樹への好きはまた別の好きなん」「んーー」「私のアキちゃんが言った『好き』な人が美樹でね、その1人ってのはもっと大事な人。この人だってのがね、自然と分かる。それは今選ばなくていいよ」きーちゃんの表情は固い。やっぱり言葉だと伝え辛いな。こればっかりは自分が経験しなきゃ感覚だし。「アキちゃんがその特別な1人?」路線変更。こっちから攻めてみよう。「んーー、ねーさん達と同じかなー」「アキちゃんにとってその特別な1人は今はきーちゃんなん。だからきーちゃんにもそうなって欲しいからきーちゃんに言ったんだと思うよ。でも言われたからきーちゃんもアキちゃんのことをその1人にしなきゃいけないわけじゃないからね。その時が来ればきーちゃんにもその1人だって分かるから焦らなくてもいいよ」頷くきーちゃん。「そっかー。ありがと!」と言うときーちゃんの表情は急に明るくなる。多分、ほとんど理解は進んでない。もっと急がないといけないのかもしれないけど、これ以上はきーちゃんが追いつかないだろう。過保護かもしれないけど、もう中学生だからこれくらいは分かるだろうと言う常識にはめるんじゃなくてきーちゃんの成長に合わせるしかない。今までのきーちゃんを取り巻く全てが普通では無かったことが原因だと思う。だからきーちゃんの成長は歪なものになってこんなにも難儀してる。けど、それに氣がついた私がいることが救いだと思いたい。それが面倒だと言うつもりもない。きーちゃんを一番に理解して考えられるのは私だ。だから、一緒に色々と考えて覚えて行こう。「だからね、内緒だけは絶対にしないでね」
きーちゃんの氣が重たい懇談がある。学校での生活は「みんな自分のことで忙しいみたい」と少し楽になってるみたい。きーちゃんが学校で負担に思うのは直接きーちゃんに向かってくる悪意よりも、同級生の自分でコントロールどころか意識していない強いエネルギーだそう。中学3年生になって、各自の進路に向けてエネルギーを使うようになったからだいぶマシ。人に構ってらんないんだろうねー。と飄々と言うようになっていた。
それでも、きーちゃんの負担はそれだけでないから夜ウッドデッキに出て空を見ながら考え込んでいる。きーちゃんを追いかけたマハルに鍵を閉められて危うく締め出されてしまう所だったこともあるけど。真ちゃんときちんと相談出来ているのかといえば、真ちゃんが出張が続いたり帰宅が遅かったりで多分話は出来ていないようで、それもまたきーちゃんの夜のウッドデッキの時間を占めているみたいだった。
学校では、一緒に居て色々と話をする友達も何人か出来たようで話を聞くんだけど、「なんかね、羨ましいって言われるねん。お父さんやお母さんたちが聞いてくれる方がよっぽど羨ましいのに」と泣きそうになりながら呟いていた。「両親ってあんまりわかんない。最近、実感が余計に無くなってきた。」と笑うけど、やっぱりお父さんお母さんという存在は大きいのは当たり前かもしれない。
失礼を承知だけど、聞いているときーちゃんの言うようにちょっと変わっている。自分の親がどちらかというと田舎の保守的な人だったからかもしれないけど、普通とは変わった感覚をお持ちなのではないかと思う。「前よりはね、ちょっと変わったよ」ときーちゃん。2学期になってから、休日に電話がかかってきてご飯に誘われたー。と言って出かけたこともある。「私より真ちゃんと話したいのかもしれへん」と言っていたけど、音信不通では無くなっただけ良かったのかな。
「お父さんとお母さんってなに?家族って何?」おっと、何だか哲学的な質問ぶつけて来たね、きーちゃん。珍しくみんな揃っての食事。「家族?同じ家に住んで生活を共にするもの。或いは血縁の者。または配偶者」真ちゃん、その辞書みたいな解説なに?「じゃあ親って?」「産んだもの。または子供を養い育てる者」だからその辞書みたいな解説なに?「お父さんは?」「男性の親」「お母さんは?」「女性の親」「家族は?」「同じ家に住んで生活を共にする者」何の禅問答よ。「きーちゃん、どないしてん」旦那も疑問に思ってるようだけど、私も分かんない。「お父さんお母さんと家族と別ってことある?」「あるで」即答だけど、そうなの?にしても、何?このやりとり。

「ただいまー」問題の懇談。今回こそ進路確定させるようで。きーちゃん曰く、今回の懇談でお友達は志望校を決めてそれに向けての最終調整の懇談だそうで。今日は真ちゃんのが疲れてない?「強情なのは誰に似たんすかね」「だってー」
高校を受験することにしたきーちゃん。お友達から色々聞いて公立高校を希望したんだけど、先生は私立も受けた方がいいと。「どのみち高校受けるの変わりないんだから受けたらいいやん。両方受かれば選べるでしょ?」「ねーさん!ちょっと本屋さん連れてって!」急でびっくりした。「美樹ちゃん!マハルくんお願い!」どうしたの?まあ、いいか。と連れ出してみた。
やっぱり本屋さんはカモフラージュ。それは分かった。だから、近所のスーパーのフードコート。
「仲良い子にね、お兄ちゃんおるの」言うてたね。「そのお兄ちゃんが私立の学校行ってるんだけど、ものすごーーーく学費高いんだって。だから公立しか受けられへんって言っててん」学費ネックで悩んでるの?それともお友達と同じ学校に行きたいから悩んでるの?
「なんかね、合格通知くるでしょ?それから公立の結果分かるまでにね時間あるのに、落ちた時入りたいんやったらお金払っとかないとあかんねんて!公立受かってても返ってこないやつ!」ほうほう。そんなものなのか。
「しかもね、私立の方に入学するのでもね、10日くらいの間に何万円も払わないとあかんとか」なんか、それ聞いたことあるわ。学生時代、同級生のママがボヤいてるの聞いたことある。「そんなん、無理ーーー」いやいやいや。「真ちゃんは?」「両方受けといて行きたい方選べばいいって」かっこいーー!「でもね、やっぱり公立だけのが無駄にかからないでしょ?」まあ、そうだね。「公立だけだと難しいの?」「これからの授業全部教室で受けて、ちゃんとテストも受けたら行けるところあるって」あ、なんかハードル高そう。笑
「うーー」難しい顔して考え込む。「あのね、これからちゃんと授業もテストも受けるから公立だけにさせて。って言っちゃダメかな?学費のこと言ったけど、ホンマはね、私立もって言ったら私立の学校も決めなきゃあかんでしょ。そこまで考えられないーー」なるほど。そこも素直に話したらいいと思うよ。「せっかく真ちゃん早く帰って来るのに話すのがこんな話なの嫌だなぁ…」とボヤくきーちゃん。それも言ってさしあげなさい。

「なんで誕生日なのに王将なん」マハル1歳の誕生日。きーちゃんはマハルが好きなたまご蒸しパンでケーキを作ってくれた。料理は用意してくれると旦那が言うので任せたら…大量の餃子と天津飯と焼き飯その他、我が家が王将に変わっている。
これ、多分去年の反省?去年、私が食べたいと言ってたのに先に餃子とビールしたから。「唐揚げもあるー♡」唐揚げ娘、きーちゃんは大喜び。
まさか、息子人生初のお誕生日会が餃子だとは思わなかったけど、この反省エピソード含め嬉しいからいいか。
「みんな居るから嬉しいねー♡」と言ってきーちゃん嬉しそう。最近は滅多に揃わないもんね。
1歳になったマハルはご飯より先、ロウソクを消す前にきーちゃんの作ったたまご蒸しパンを一足先に食べるとぐっすりと寝てしまった。きーちゃん曰く「それもまたかわいーー!!」

主役が就寝中ですが、お誕生日会。「1年、おつかれさまでしたーー」と言ったら「そこはおめでとうちゃうん?」と総ツッコミされてしまった。まあ、私たぶん周りの1歳児の母より随分と楽させてもらってるけどね。
「1歳おめでとーーー!」ときーちゃんがプレゼントをくれる。さっきマハルにくれたよ?「ちがーう!ねーさんに!ねーさんもママ1歳だから」なるほどーー!ママ1歳かぁ。ってことは「私に?」嬉しいーーー。
今日のプレゼントは『ママのねーさんがお誕生日だからちょっとママっぽいの』だそうで、開けると、アイマスクとクッション。「最近ホットタオルやってるでしょ?」だからアイマスクかーー。最近目が悪くなってきた氣がするからよくやってたんだけど、そこまで見てたのか。
なんか、嬉しいなぁ。てことで、飲む!笑「真ちゃん、1本貰うねー」とウッドデッキに出て、1歳になるまで我慢していたタバコ復活!1年半?もっとぶりの一服。クラっとくるわぁ。本数、一氣に戻るかも。今日はウッドデッキは私が占領してやる。笑

「ねーさん♪」あ、ウッドデッキの主が来た。「あのね、、、」と言ってきーちゃんのおやつボックスを出す。「こっちでもパーティーしたいなーって」可愛いーー。「女子チームでパーティーだ!」と言うときーちゃんはうふふ♪と笑う。暖かい格好をして、暖かいお茶を淹れて。「こっちのオヤツも良くない?」真ちゃんのおやつボックスから拝借したお菓子も出す。「真ちゃん怒らない?」「大丈夫、だってもう1週間入れっぱなしだから早く食べないと賞味期限くるよ」時々、夜中に起きて2人でお茶会。マハルの授乳タイムにきーちゃんが付き合ってくれたのが始まり。「けど、ちょっと寒いね」氣を取り直してリビングでお茶会。最近、冷えるのよね。歳なのかしら。
「あのね、真ちゃんに私立の話したよ」なんて?「そっかーって。ホントは私立も受けた方が安心な氣はするけどなって。だからね、どうしても無理なら仕方ないけど、一緒に考えてくれるって」と言うきーちゃんはちょっと嬉しそうだった。「それまでにね、少し考えておきたいなって。ねーさん相談乗ってくれる?」「もちろん」あんまりアテにならない氣もするけど。でも、現役当時は一応進路考えたし。まあ、進学して一年未満で退学して、改めてこっちの定時制高校に入り直したからやっぱりアテにならないな…。「私立の学校決めるの、ねーさんならどれで決める?」基準かぁ。何かしたいことがあればそれに合わせて決めたらいいと思うけど、きーちゃんの場合そうじゃないんだよね。なら…「制服?」「そんなのでいいの?」「だって、何かやりたいことある?」聞き返すときーちゃんは頭を抱えてしまった。ごめんね、なんかややこいこと聞いたかも。「やりたいことで決めていいの?」と言うと、何故か周りを見渡したあと小さい声で話し出すきーちゃん。「…あのね、家政科っていうの?そういう学科があるって聞いたんだけどね、そこだと加奈ちゃんみたいにお洋服とか作れるようになるって」家政科と来たか!でもきーちゃん、何かと作るの好きだもんね。良いじゃん。「けどね、そういう学校になるとね、専門学校になって専門学校行きながら単位制の高校で単位取るんだって」あら、私が一瞬行ってた学校と同じシステムね。意外とちゃんと調べてたのね。「ってことはね、専門学校の学費がプラスになるでしょ?」「そうなるね」「さすがにそれは頼みづらい…」難しい顔のきーちゃん。「他の私立の学校は?」「正直、どれでもいい。なんていうのかな、どうせわざわざ私立の学校行くとするでしょ?とってもとっても学費がいるのに」「うん」「それなのにできる勉強は公立の学校と同じって行く意味分からへんねんな」なるほどね。「わざわざ私立の学校行かせてもらう。ってなら、何かその学校でしか出来ない専門的なお勉強も出来た方がいいかな?って思うねん。普通科の学校でも、少しずつ特色?あるみたいだけど、そうじゃなくて、それ考えたら家政科の学校がいいんだけどね、、、」「学費がヤバいと…」頷くきーちゃん。「安心した」「え?」「ちゃんときーちゃん考えてるんだもん。それね、真ちゃんにそのまま伝えたらいいと思うよ。その学費がどれだけかかるか分からないからいいって言うか分からないけどね、そう考えて家政科の学校がいいって。それこそ相談だよ」と言うものの、浮かないきーちゃん。「学費をかけたくないって思うなら公立受かって公立行けばいいやん。家政科の勉強したいなら公立高校卒業した後専門学校行けばいい話でしょ?それこそ高校の間にうんと勉強しておいて成績優秀なら学費免除とかの特待生制度使えばいいやん。それだけ家政科の勉強したいと思うんやったらね。今の私立を決めるのは、真ちゃん達を安心させるようなものだから、本命は公立って思って今から出来る限りの勉強しておいたら?」真ちゃんやったら、私立受かっても公立受かっても自分がやりたい方に行きなさいって言うと思うけど。それこそ修学旅行の時に真ちゃんが言ってた嘘も方便。きーちゃんが今負担無い方がいい氣がする。「そんなのでいいかな?」「全然いいと思うよ。正直、きーちゃんがそうやって考えて私立の学校を決めてるってのびっくりしてるよ。スポンサー様を納得させる為にただの滑り止めで選んでるわけじゃないの」
そんな話をしてたらスポンサー様登場。「ホラ、ちょうど良いから相談だけしてみなよ。ヤバい学費にあかんかったら、ちゃんとあかんって言うと思うし」意を決して真ちゃんにそのまま伝えるきーちゃん。一生懸命、行きたいって挙げた理由を話してるの可愛い。「ええよ。私立は家政科の学校にするって早めに先生に言うときや」と何だか嬉しそうな真ちゃん。あ、あっさり。ちょっとあっさりし過ぎてきーちゃんもポカーンとしてるけど、ホッとしたのか軽い足取りでお風呂に行った。「あっさりだけど大丈夫?」あっさり過ぎて私が心配になってきた。「意外と大丈夫やで。そこまでキリエが考えてたんやって正直驚きを隠せません」「そこはね、私もびっくりしてる」
普通で考えたらとてもゆっくりかもしれない。年相応にはまだまだ届いて居ないかもしれないけど、確実に自分で考えて成長してる事に嬉しくなる。

「そうなん?スケジュール的にハードじゃないの?」翌朝、今日からまた泊まりの出張だと聞いていた真ちゃんが泊まりをやめたと言った。「そこまでキツくないかな。泊まりのが楽なだけやから」「じゃあ泊まりにしたらいいやん」私の言葉に真ちゃんは意味ありげな表情を作る。何かあるな。「帰って来とこうかなと思って」何よそれ。何を含んでるの。これは追求しろってフリだよね。じゃあ追求して差し上げようじゃないの。やっぱりフリだった。笑あっさり、きーちゃんに「もうちょっと話が出来る時間あればいいのにな」と言われたと白状した。
たしかに泊まりの出張だったり、泊まりでなくても帰りは遅かったりで最近は前ほど家に居ない。帰ってきても、時期的に仕方ないけどどうしても進路の話になる。きーちゃんは進路の話よりももっと違うことを真ちゃんとお喋りしたい。けど、進路の話もしなきゃ真ちゃんに迷惑かけるのとわかってる。だからもうちょっと話が出来る時間があれば良いのにな。という発言らしい。「そんなん言うてくれるのなんや、嬉しいやんか」と嬉しそうな真ちゃん。
まだそんな感情は追いつかないと思ってたけど、きーちゃんもきーちゃんでそっちも成長してるのかしら。きーちゃんの一番が私で無くなるのはちょっと寂しいけどね。まだ私が一番みたいだからいいか。その辺りの心境の変化も話してくれるだろう。おねーちゃんの強みだよね。役得。