Story 42.急展開。

もう、人生に波乱とか良いですから。うちの子受験生ですから。(そんな感じは全くしないけど)
クリスマス直前。オーナーが旅行に出かけるとのことで、私たちは夏休み級に長い年末年始休暇をゲット。旦那のお母さんの一周忌に仕事で行けなかったからときーちゃんの終業式が終わった後に私たちの実家に向かった。
今回は別に姪のわがままではなく、何だかんだでみんなで旅行に行けていない為旅行を兼ねてのお出かけ。なので、泊まるのは私の実家の別棟。前に計画流れてしまったし、必要ない波は立てたくないし、きーちゃんが居てるとマハルがご機嫌ってのもあるからね。
余計な波はいらないはずだった。いや、いらなかった。
義母のお墓まいりを済ませて、旦那と2人で旦那実家に来た。マハルはきーちゃんたちが私の実家で見てくれてるから、ゆっくり話はできる。だからと言って、重たい話をしたいわけじゃない。
重たい話。まず、義父が入院中。そして、、、元々義兄は単身赴任中だったんだけど、きーちゃんと同い年の姪が都会の高校が良いと義兄のいる所の高校へ進学することに決まった。なので、義姉一家は引っ越しを考えているけれど義父は残ると言っているらしい。でも、夏に倒れてから今回の入院もあるし体調面で不安が残るから、私たちがこっちに帰ってこないか。と打診された。義父は一人で大丈夫だと言っているけれど、心配だからよろしく。
平たく言えばこんな話。
義父のことが嫌いなわけじゃない。だけども、個人的に地元には帰りたくないし大阪での生活がある。
「3月には、入れ替えできるからよろしくね」と見送られたけど。引っ越し前提じゃん。いやいやいや。あかーん、頭が混乱する。
「大丈夫?」「いや、そっちこそ」私の実家へ向かう車中、2人揃ってボー然というか全く頭が混乱して動いてないというか。
その場で、旦那は無理だと言い切った。けど、義父を一人で生活させるのは無理だとわかっているみたいで。
「せめてさ、相談いうかさぁ。ねーちゃんのああいう所ホンマ嫌や」と頭を抱える旦那。義父が嫌いということはない。むしろ好きな方かもしれない。体調のことを思うと一人で生活してもらおう!とならないのもわかってる。けど、大阪の生活と引き換えに…と言われると「わかりました!」で即答できなかったりする。
こっちに来て長いとは言えないかもしれないけど、それでも大阪での生活で職場もそうだし友達もそうだし大事なものがある。そして、きーちゃん。今、落ち着いているとは言え、「じゃあねー」と言って離れるのは不安しかないし、離れたくない。
「キリコさんや、少し寄り道して帰りませんか?」と旦那に言われた。旦那も整理したいんだと思う。真ちゃんに電話して、少し遅くなると伝える。マハルは元氣だし、最悪どっかに連れてくから大丈夫と言ってもらった。
お店に入ってコーヒーを頼んだけど、飲む氣にならず灰皿のタバコだけが増える。
きーちゃんはこっちで私たちと暮らしたいと言ってアキちゃんの元に行く選択肢を消したところで、受験に向けて勉強も始めている。私も旦那も真ちゃんもきーちゃんのこの選択にホッとしたし、ここがきーちゃんにとって大切な場所になったことが嬉しかった。なのに私たちが地元に戻ってしまったら?一瞬、きーちゃんも連れてこっちに戻れば良いかということも考えた。けど、きーちゃんにとってここに残るというのは今の家で真ちゃんも居て…ってことだと思うし、言葉は通じるだけでそれならアキちゃんの元に行くことと変わらない。きーちゃんが選択した意味がなくなる。
お互い無言。何をどう言えば良いかわからないし、自分もどうしたら良いかもわからない。「正直、父ちゃんは心配や」旦那が話し始めた。「心配やけど、はいそうですか。ってキリコを説得する氣にはなれん」「1人なら、帰ってる?」「帰ったかもしれん。」「そうかー」
我ながら、しょうもない質問。でも、1人なら帰ったかもしれないのか。「じゃあ、私と2人なら?」「考えて貰えんかは聞く。けど、悩むと思う」
また、無言が続く。途中で灰皿を変えてもらったけど、またすぐにタバコが増えてくる。
多分、私が「無理!」と言い切れば、旦那はそうしてくれるだろう。義父が健康であれば、私はきっと「無理!地元には戻りたくない」と言っていたと思う。けど、旦那が義母の最期に側にいられなかった事が引っかかっているのを知ってる。義父が健康に不安があるのをわかっていてそれは言えなかった。
もし、戻るとして…考えなきゃいけないことがたくさん。
まず、仕事。2人とも無職。多分旦那は専門職(に入るだろう)だからまったく仕事が無いわけじゃないかもしれない。けど、決まるまでは無職。まず第一の現実的な問題。
第二は…きーちゃん。きーちゃんを残していくのが私には不安しかない。せっかく年相応に成長しはじめて、心も安定しているのに。これは私の自惚れかもしれないけど、私たちが居なくなるとまた不安定になってしまう氣がする。せっかく、渋々ながらも未来を見るようになったのに。それに普通の子だってストレスのかかる受験を控えていて、合格したら高校へ進学するという時期。
「由佳が卒業したら、大阪に戻ってくれても良いから」と軽ーく義姉は言っていたけど。その3年は大きい。そして、そうやって戻るにしてもまた一から始めなきゃいけない。3年後、まだマハルは小さいけれどその頃にはもっと環境の変化に敏感になっているはずだ。そして、その3年の間きーちゃんはどうするだろう。
きーちゃんはどうするだろう。と浮かんで、ふと「きーちゃんがこうやって問題として浮かんでいること、喜ぶのかな」と思った。
これは私に都合の良い想像の疑問かもしれない。旦那が少し寄り道して帰ろうと言ったのも、そのせいかもしれない。この話で私がきーちゃんのことを心配してることをきーちゃんに見せたくないと分かってくれたんだと思う。
「店のこととかさ、あるからすぐは難しいんだけど…私はいいよ。戻ってお義父さんと暮らそう」旦那が私を見た。「まず義姉さんは3月になったら入れ替えられるようにとか言ってたけど、3月忙しいしさ。さすがにその時期は店で働きたいやん。ずっとお世話になってたし。それにきーちゃんの入学式にも出たいし、真ちゃんの襲名披露だっけ?そんなやつ。あれだって4月やん。ってことは早くて5月連休かなー。それまでお義父さんに一人で生活してもらわなきゃいけなくなるけどさ…」
旦那は無言で私を見てる。精一杯、カッコつけてるのバレてるかしら。旦那にそう言ったけど、まだ私の中では修羅場真っ最中だったりするし。だけど、こう言わないと話は無限ループどころか停滞したままだ。それに、旦那は私が心配していることをちゃんとわかった上で何にも言えないんだと思うから、私がここは言わなきゃ。それに、旦那が店のことやきーちゃんのことで悩まないわけがない。
旦那を悩ませたくなかった。
仕事に関して、オーナー夫妻は驚くと思うけど許してくれると思う。となったら、私がきーちゃんのことが氣掛りで仕方ないから悩むんだと思う。なら、その心配を無くさなきゃ。もちろん、きーちゃんのこと心配で心配で仕方ない。出来ることならやっぱり一緒に連れて行きたいとも思う。けど、思うだけで私は行動に移せないのは自分でよくわかってる。
きーちゃんが私達を必要でなくなるまで一緒に居ると言っていたくせに、おそらく一番必要になるであろう時期にきーちゃんをおいて行くことになるし、真ちゃんに全て押しつけて逃げるように一方的に手を引くカタチになる。けど、旦那の辛そうな顔を見たくない。無責任なのはよく分かってるし都合のいいことだと分かってるけど、きーちゃんのことは真ちゃんにお願いするしかない。
「もし、3年してやっぱりこっちが良かったら戻ってこよ。って言うかもしれないけど、やっぱりお義父さんも大事なん。きーちゃんも家族だけど、お義父さんも家族だから」
「ただ、かわいい娘が心配でしょっちゅう大阪帰っても許してね」と言ってみたら、「それはこっちのセリフや。大阪にオンナできたとか言うなよ」と言って2人で笑った。

「なんや、平和な日ってあるんすかね」車内で旦那が呟く。ええ、それ私も思ってましたよ。こっちに戻る方向で決めたものの、片付けなきゃいけないことがありすぎる。それを考えると、答えを出すの早かったかなと少し後悔するけど、無限ループで悩む方が嫌だ。ただ、戻ってからこの話をきーちゃんたちに言うことがもの凄く氣が重い。平常心に戻らないまま私の実家に着いてしまった。
「ねーさん大丈夫?」帰っていきなりきーちゃんに心配されてしまった。「キリコ、新鮮やないからちょっとくたびれただけやで」と旦那。誰が新鮮じゃないねん。別の言い方はないの?あなたの妻ですよ?くたびれた妻を持ってるのあなたよ?
「マハルくん、いい子だったよー」帰宅するとマハルはもう寝ていた。きーちゃんがお風呂にも入れてくれて寝かしつけてくれたらしい。夕食は兄夫婦が食事に連れて行ってくれたと教えてくれた。朝、お礼を言っとかなきゃ。兄夫婦が仕事行くまでに起きられるかしら。
晩酌タイム。こんなに氣が重くなるのは初めてかもしれない。きーちゃんはマハルの心配をしなくていいように、いつものようにマハルの寝ている部屋に行こうとした。
「ごめん、きーちゃんもおってくれん?」と旦那。やっぱ今日、言うよね。きーちゃんは言われたように、私たちのいるコタツまで戻ってきた。
しばらく無言。
「ねーさんたち、しんどい?大丈夫?しんどいなら今飲んでるのあけたら今日はおしまいやで!」ときーちゃん。やっぱ空氣おかしいよね。「あのさ…」旦那が今日あったことを話し始めた。
いざって言う時、言いにくいことを言わなきゃいけない時、自分で狡いとわかっていても旦那に任せてしまう。旦那は、私が言っていたように5月の連休を目処に考えている。と言ってくれた。
時々、きーちゃんを見ると黙ってうつむいていて、真ちゃんが背中を撫でているのが見えた。いきなりで、おそらくきーちゃんにとって不安になる話なのはよくわかっている。けど、何て言えばいいかわからなくて、全部旦那に任せた。
「そっかー。親父さんそれで大丈夫なん?3月終わってすぐに行けるんやったら、こっちは氣にせんでいいで。」と真ちゃん。「どのみち、3月中は店が忙しいし、キリコがきーちゃんの入学式と女子高生になるの見たい言うてるし。引っ越しの準備とかで4月中はかかるやろうからそっちこそ氣にせんと自分の仕事やってや」と旦那。
きーちゃんは黙って俯いたままだった。真ちゃんがきーちゃんに何か言って、立ち上がった。「ちょっとそこら一周してくるわ。先寝とって。近所迷惑ならん程度に戻るわ」そう言ってきーちゃんを連れて出た。
部屋の中から、真ちゃんの車が出るのを見送る。きーちゃんは限界だったのかもしれない。「全部言わせちゃってごめんね」「別にかまへんよ。無理やり決めさせたんはこっちやし」とビールを飲む。この日のビールは何だか味がしなかった。マハルが起きてきたから、私は一緒に寝ることにしたけど、なかなか寝付けずにいた。
きーちゃんたちが帰ってきたのは明け方だった。きーちゃんは黙ったまま、お布団を敷いていた部屋に入って行った。きーちゃんたちが帰ってきた音で目が覚めた私は、兄に電話をした。思った通りもう起きていたので、少し顔を出すと伝えて兄夫婦の住む母屋向かったけど、案の定、食事に連れて行って貰ってたことのお礼を言うとマハルを2人に任せて遅くなったことのお小言を頂戴した。
こっちに戻ってくることになりそうだと軽く昨日の話をするとお小言はおさまった。義姉は心配してくれて、もう一泊していけばいいのにと言ってくれたけど、お礼を伝えて予定通り今日帰ると伝える。
仕事に出る2人を見送って、また別棟に戻った。まだみんなは寝ているようで静かだった。もう一度寝る氣にもなれず、コタツに入ってボーっとする。私が無限ループに陥りそうだったからカッコつけたけど、やっぱり自分でも氣持ちの整理はついていないようで複雑だった。

氣がつくと美味しそうな香りがしていて、私には毛布がかけられていた。隣ではマハルが寝ている。起き上がるときーちゃんが台所でご飯を用意してくれているところだった。声をかけたいけど、何て声をかけたらいいんだろう。戸惑った。
「ねーさん、寝るならお布団!風邪引いてもしらないからねー」と先にきーちゃんが言った。「ごめんごめん。兄の所に挨拶行ったらさー、なんか急に氣が抜けて寝たの氣付かなかった」
きーちゃんの所まで行く。「昨日のうちにお米とかね、おばさんが持ってきてくれたん。余ったら持って帰って食べてって♡」それ聞いておいたら良かった。お礼言い忘れてたよ。「もうご飯食べる?玉子焼こうか?」「じゃあ、私がきーちゃんの分焼くわ」と言うときーちゃんはうふふ♪と笑った。きーちゃんは、思っている以上に大人だ。私よりもずっと大人かもしれない。私だったら、急にこんな話をされたらいつも通りに過ごすことはできないかもしれない。
2人でご飯を食べていると旦那が起きてきた。「ご飯用意するねー」ときーちゃんが立ち上がって台所へ行った。「きーちゃん、大人になったな」と旦那が言う。ホント、そう思う。昨夜、出かけてから何があったのかは聞いていないけど、きーちゃんなりに考えていつも通りにしてくれてるのはわかった。それが有り難かった。

「疲れたよぉぉ」帰宅してリビングで果てる。化粧落とす元氣すらない。氣分転換に旅行したつもりが、混乱して帰宅するなんて思ってなかった。
きーちゃんは帰りの間もずっといつも通りだった。一瞬、特に何もダメージないとか?と不安になったけど、きーちゃんのことだから何もダメージが無いってことは無いと思う。マハルときーちゃんはさすがに遠距離移動で疲れたようで、帰宅するとすぐにリビングの隣のきーちゃんの部屋で仲良く寝てしまった。
「きーちゃん、何か言ってた?」晩酌しながら真ちゃんに聞いてみた。「何が?」「昨日だよ。出かけた時とかさ」真ちゃんは私達を無言で見る。「なによ?」「別に」別にって何!絶対何もないはずない。「あんま追及したんなや。きーちゃんかて知られたくないかもしれへんで?」と旦那が言うけど。でも、きーちゃんがどう捉えてたか知りたい。知ったところでもう決めたことを覆すわけにはいかないけど、せめて半年の間に何か出来ることがあるかもしれない。
「キリコに言ったら顔と態度に出すから言わん。それで察して」察することはできた。きっと、きーちゃんは嫌だと言ったけど私達には分からないようにと考えてくれていつも通りで居てくれてるんだろう。「あのさ、、、」改めて言うのはおかしいかもしれないけど。「勝手に決めてごめん!」「何やの急に」実はまだ自分でも氣持ちが整理出来てない。けど、「決めたことは最善の選択」を信条にしている。きーちゃんの事も心配だし、私達がいらなくなるまで側に居ようと言っておきながら途中で投げ出してしまう形になってしまうことは不本意なことだし悔しいのも事実。私が頼むのはおかしいって思うけど、真ちゃんばっかり負担をかける事になるけどきーちゃんのことを頼む。一氣に話した。「ホンマは君ら血の繋がった姉妹ちゃうの?」と笑う真ちゃん。笑うってどういうことよ。
きーちゃんは急な事だし驚いたし、やっぱり本当は嫌だと言ってた。けど、私達が心配しないように普段通りにすると言ってたって。「言うてしまったけど、キリコ、絶対態度に出すなよ」と念を押されてしまった。きーちゃんのこと、可愛いと思うのがアップしちゃって態度に出さないとか無理かも。
自分で思った通り無理だった。朝起きていつも通りに接してくれるきーちゃんを見るとハグしてかわいいかわいいとこねくり回してしまった。「キリコ、氣持ち悪いで」と旦那が引くくらい。
今日はおばあちゃまがお餅つきをするからと誘ってくれた。みんなでおばあちゃまのお家にお邪魔する。その間も氣を抜くと「きーちゃんなんて可愛いの」とこねくり回したくなるから氣を付けなきゃ。
「ううん、おばあちゃん所に居る」お餅付きも一段落。真ちゃんときーちゃんは今年も年末年始のお手伝いでおばあちゃまの家に居る予定だった。けど、いきなり今年が一緒に居られる最後の年になってしまったから真ちゃんが氣を遣ってくれて、きーちゃんはお手伝いじゃなくて私たちと一緒に帰ってもいいよと言ってくれた。けど、きーちゃんは上記の返事。ちょっと寂しいけど仕方ない。
早く帰って来ないかなー。