-
- Jujuの書庫
- Story & Another story
- Story 44.きーちゃんの入院。
Story 44.きーちゃんの入院。
家に着いて、マハルはすぐに寝てしまった。ケーキを囲んで晩酌タイムでお祝いし直し。なんてテンションにはならず、微妙な空氣。真ちゃんが謝るけど、真ちゃんは何も悪くない。貰い事故みたいなものだ。きーちゃんは「食べすぎちゃったのかなー」と言いながら何度もトイレへ行く。何度目かのトイレへ行ったきーちゃん、なかなか戻ってこない。「先生呼ぶ?」なんて話していると真ちゃんに「キリコ、ちょっと見てきたってや」と頼まれた。
「きーちゃん、大丈夫?」ドアをノックして声をかけるけど返事がない。「きーちゃん、お腹痛いの?先生呼ぶ?」やっぱり返事がない。しばらく様子を伺うけど相変わらず返答がない。鍵はかかってないけど、開けていいかな?悩んでいると真ちゃんも様子を見に来た。「鍵あいてるんだけど、開けていいと思う?」「キリエ、大丈夫か?開けてええ?」真ちゃんも声をかけるけど返答なし。と思ったら水を流す音がした後、すごい音がしてドアが揺れる。「キリエ、開けんぞ」ドアを開けるとドアにもたれていたようできーちゃんが倒れこんできた。
「美樹!救急車!吐血しとる!」真ちゃんがリビングに向かって叫ぶ。きーちゃんの口元や指先、服に赤黒い血がたくさん付いている。「キリエ、救急車呼んだから。大丈夫やからな」真ちゃんがきーちゃんを抱きおこす時またきーちゃんは咳き込んで血を吐く。「いたーい…ごめんなさいー、せっかく連れてってくれたのに吐いちゃったー。真ちゃんの服汚れたー」とても弱い声できーちゃんが言う。こんな時にそんなこと謝らなくて良いから。
救急車を待ってる間も吐血する。人が吐血する所なんて初めてで、怖いという感情しか出て来ない。
「きーちゃん大丈夫だよね?」何度も血を吐いて持ってきたタオルが鮮血と赤黒い色とが混ざった異様な色になって、タオルで受けきれない血が真ちゃんのシャツにもつく。「大丈夫やから。部屋から鞄取ってきて」真ちゃんに言われたように部屋から鞄を取ってくる。真ちゃんはきーちゃんを抱き抱えて救急車が来るのを待つ。「氣持ちわるーい。これで来世行くんちょっと嫌やなぁ」ときーちゃんが力無く言う。「アホか。こんなんで来世行けんわ」「もうちょっと綺麗な方がいいなー。吐きながらとかカッコ悪いー」
救急車が来て、搬送された病院で検査と処置を受ける。その間に旦那が呼んでくれた先生も来てくれた。「ここ、知り合いやから聞いてくるわ」と先生。いつから調子悪かった?ここ何日か「胃が痛い」と言ってたけど比喩だと思ってた。
胃潰瘍にプラスして食道と胃の間からの出血。胃の中に血が溜まっていて潰瘍自体は小さいしすぐに治るだろうけど、相当我慢してたんじゃないかと言われた。そして、吐血し続けていたのは食道と胃の間が吐いた拍子なのかで裂けてしまっていたからだと聞いた。赤黒い血は胃に溜まっていたもの、鮮血は吐いた拍子に避けたもの。止血の処置をして入院の計画を聞く頃には日付はとうに変わっていた。ひとまず3日間、絶飲食の絶対安静。止血されたことが完全に確認出来ないと退院は出来ないそう。
きーちゃんにそのまま伝えるけど、きーちゃんは帰りたいと言う。「嫌だ、帰りたい」小さな子のように泣くきーちゃん。「まず3日の辛抱やから」真ちゃんがなだめて落ち着かそうとするけど帰りたいと珍しく聞かない。「明日また来るから」「嫌だ、行かないで、真ちゃんが帰るんやったら一緒に帰る!今から帰る!もう治った!行かないで。置いてかないで」泣きながら真ちゃんにしがみついて離れない。きーちゃんがここまで言うのは本当珍しい。あんなに血を吐くなんて怖かったんだろうな。
「お願い!置いてかないで」きーちゃんが泣いているのを見るのは初めてではないけど、ここまで取り乱して泣く姿は初めて見た。「大丈夫やから。朝また来るから寝て起きたらもう居るで」と言うけど聞かずに咳き込む程泣く。「咳したらまた出血するで、落ち着いて。大丈夫やから」きーちゃんをなだめる真ちゃん。
「付き添い出来んのか?」と見兼ねた先生。出来ない事ないだろうけど、真ちゃん明日仕事だよね。「真ちゃん帰らないと明日仕事だから。私明日1日居られるから。ね、病院いてたら大丈夫だから」と声をかけるも「真ちゃん居らな大丈夫じゃない!真ちゃんがいい」とやっぱり泣く。あ、きーちゃんにフラれちゃった。「付き添い出来んか聞いてくるから」と真ちゃんが立とうとするけど離れないきーちゃん。「聞かな居られんやんか」って言うけど、真ちゃん、顔にやけてるよ。
結局、先生が病院の先生に付き添えないか交渉してくれて真ちゃんと私が付き添って明日もう一度検査して止血が確認出来たら退院。家で絶飲食の絶対安静にして先生が往診してくれると病院の先生に交渉してくれた。運ばれたのが先生の知ってる所で良かったと言うべきか。本当は入院してしっかり治してくれた方が安心なんだけど。
「ホンマは完全に止血確認出来て経過観察やら食事療法やら終わらないと帰られへんからな」と笑う先生。真ちゃんが付き添うと聞いてきーちゃんはようやく落ち着くけど、真ちゃんから離れないのは変わらず大人しく寝てないから手の甲に点滴の場所を変えてもらった。「きーちゃんがここまでワガママ言うの珍しいよね」真ちゃんに抱かれてようやく寝たきーちゃん。「仕方ない。小児科ですから」真ちゃん、やっぱり顔、だらしないよ。
中学生でも小児科なんだね。初めて知った。空きがなくて病棟は内科だけど。便宜上なんだろうけど、中学生は小児科なんだって。あと何日か後だと内科に変わるとか何か面倒ね。マハルが15歳になってイカツくなったとしても小児科で「マハルくーん」とか呼ばれるかと思うと想像したら笑える。
「で、真ちゃん一晩そのままで居るつもり?」ソファーに座ってきーちゃんを抱いたまま一晩はいくら若くても大変だろうから起こしてでもベッドで寝かせた方が良いと思う。「どうやろなぁ。さすがに病院のベッドで2人はよう寝んしなぁ」と笑う。出来るとしても病院で一緒に寝ようとしないで。
でも何でいきなりこんなに真ちゃん真ちゃん言い出したんだろ。元カノ再襲来で取られる!って思ったのかしら。帰りのタクシーで何かあった?やだー。私もそっち乗れば良かった。
「また1人になっちゃうかと思った。わがまま言ってごめんね」看護師さんが用意してくれた簡易ベットで寝ていたらすぐ隣にあるソファーからきーちゃん達の声がした。「自分がこんなに大変なことになってるのにまた謝ってる」と思いながら2人の会話を聞いていた。
「もうすぐねーさん達引っ越しやん。ねーさんが居ないのに真ちゃんが彼女さんの所に行ったらどうしようって」きーちゃんの言葉に「何でそんな心配出てくんねんな」と真ちゃんが笑う。「だってお食事会の準備でね、私ずっと真ちゃんにアレしておいてコレしておいてって言い続けてるし、 これはしないでねってたくさんお願いしてるし…うるさいの病院で居ないからって彼女さんとこ行っちゃおーって真ちゃん居なくなったらって…真ちゃんがあの人とねーさんと美樹ちゃんみたいに話してるの考えたらめっちゃ嫌やってん。けど、もっとワガママ言っちゃったからもう嫌なった?」きーちゃんの声が涙交じりになる。やだ、きーちゃん、かわいいなー。もう。起き上がってぎゅーってしたいけど、面白そうだからもう少し寝たふりしておこう。
「ありえへんありえへん。そんなワケわからん心配してるから胃に穴あくねんで」と真ちゃん。それは、同意だわ。「そんな心配せんでええから。早よ治してや。キリエがまた先に来世行ってしまうんちゃうかってめっちゃびびってんからな」真ちゃんの言葉にきーちゃんはうふふと笑った。「行かなくて良かったー。今度は一緒だもんね」「せやで。来世行く時じゃなくても一緒おるから」よろしいなー。若いなー。私も付き添いしたけど、めっちゃお邪魔虫じゃないの。でも面白いからいいか。
きーちゃんはまた、ソファーの真ちゃんのところでそのまま寝てしまった。入院患者だよね。ベッドで安静って言われたよね?
夜、見回りに来た看護師さんはたまにお母さんから離れない子が居てるし、ひとまず大人しく寝てるならこのままでいいって言ってくれたけど、それって小さい子に対してだよね。小児科扱いだからオッケーなの?
翌日夕方、完全に出血していないことが確認出来て退院。退院したからといって絶飲食は変わらないし、3日後また検査。先生が退院にも付き添って家に戻るとすぐ点滴。「特別出張費もらおうかしら」なんて先生が冗談を言う程点滴は続くらしい。
「そんなに急いで食べなくていいじゃん」きーちゃんが絶飲食だからと真ちゃんはきーちゃんが寝てる間にご飯を掻き込み、仕事休んで起きてる間はきーちゃんに付き添ってる。よくやるわ。胃潰瘍になる原因はおそらくストレスだろうと聞いて、真ちゃんは責任を感じているみたいだった。
普通の子でも多少なりともストレスのかかる入試が続き、それにプラスして真ちゃんの家の準備に追われていたきーちゃん。そこに元カノ再襲来。今回は特筆すべきことをやらかしたわけじゃ無いけど、大人げなくきーちゃんに敵意を向けていたわけで、それも相当ストレスかかって、トドメの一撃になったんじゃないかと言う。「病院であれだけ一緒じゃないと嫌だって言ってくれるとは思わんかった」とちょっと嬉しそうでもあった。きーちゃんにかかるストレス。真ちゃんは言わなかったけど、そこに私たちの転居も入っているだろうと思う。ただでさえ、きーちゃんは弱い。けど、誰にもそれを言わずに1人で耐える。それが体に影響出たんだろう。きーちゃんの面倒を見ると言ってるくせに、何一つきーちゃんのことを見てない。真ちゃんだけが責任を感じることない。
「4月入ったらすぐ帰れんくなるし」4月入ってすぐから真ちゃんはしばらく家の仕事関係で家を留守にする予定。だから家にいる間はついててあげたいんだって。それまでに治ったらいいんだけどな。に、しても本当に心配になってきた。
今更、転居を白紙になんて出来ない。けど、きーちゃんを残して行くことも不安。どうしたらいいんだろう。4月の間は、まだ一緒にいる。その間に何かしてあげられることはあるんだろうか。
そして、私たちは3月末で退職する。長いことお世話になっていた所だし出来ることならイレギュラーな休みを入れたくなかったから、正直真ちゃんが休みを取ってきーちゃんに付いていてくれるのはありがたかった。
最後の出勤日、オーナー夫妻は食事に連れて行ってくれた。「今まで本当にありがとう。いつでも顔だしてね」と言われて、また涙腺にくる。本当に尊敬したし、憧れだったオーナー夫妻。別れが惜しかった。思い出を話していると、容赦なく涙腺が刺激された。本当にここで働けて良かった。大阪の両親だと思っていたし、「私たちの子たちだから」と言ってもらった。
きーちゃんは順調に回復して、4月に入る頃には無事に通常食に戻り少しずつ日常生活にも戻って行った。真ちゃんはその間付きっきりだったせいか、きーちゃんは今まで以上に真ちゃんから離れなくなってちょっとつまらない。
4月に入って待望の制服が届いた。「早速着てよー」と急かして制服を着てもらう。真ちゃん今日に限って泊まり出張でいないなんてかわいそう。(優越感)「可愛い♡うちの子可愛いって」紺色のブレザーが似合う。女子高生って感じ。「ええやん、写真撮っておこうや」と旦那も珍しく浮かれるもんだから照れるきーちゃん。それもかわいい。マハルもニッコニコだけど、新しい制服を汚さないでね。「やっぱりローファーのがかわいいって!お祝いに買ったげるから買いに行こう!」きーちゃんは持っている靴で良いと言うけど、やっぱり女子高生はローファーじゃない?真ちゃんが出張で留守にしてる間に、色々準備してたら良いじゃない。「ね、制服で行こうよ。合わせられるよ」「えー、私、嬉しがりみたいやんー」ここは制服のきーちゃんを見せびらかしたいじゃない。(誰に?と言われると困るけど)きーちゃんのお祝いを買いに行く準備をしていると、珍しく来客があった。
「はい?」春は浮かれるのか、頭がちょっと心配になる人が増える。来客もそうだった。真ちゃんの知り合いと言う女の子は、真ちゃんは不在と言うも大切な話があると上がり込んだ。
言葉を失う。マハルがその大切な話の邪魔をしないように旦那が隣の部屋に連れて行ってくれたけど、私じゃこの人の言ってることが理解できず思わず呼びに行った。
「だから、付きまとわないでもらえます?」マイコと名乗るお客さんがにこやかに言う。つきまとうって誰が誰を?
お正月に会社の人に紹介してもらって、付き合いだして妊娠したからきーちゃんは真ちゃんに付きまとわないで欲しい。と仰るのですが、誰と誰が付き合って妊娠したのよ。この人、来る家間違えてない?
「高校生に手を出したとか会社で噂になっても困るし。付きまとわれると困るんですよねー。」ちょっと待って。次々と話をするんじゃないわよ。混乱して何が何だか。女子高生って誰?誰が手を出したの?「私、『女子高生』なんで今すぐ理解してお返事出来ないです。…少しお時間いただけます?」女子高生を強調するきーちゃん。女子高生ってきーちゃんか。と妙に納得した。いやいやいや。「ちょっと何を言ってるの…」ようやく頭の混乱が落ち着いて来たら怒りがわいてきて言い返そうとしたらきーちゃんに遮られた。「ごめんなさい。『女子高生』なんで理解悪くて。『必ず』連絡しますね。せっかく来ていただいたんで、愛想なしで申し訳ないですが、お茶でも飲んでゆっくりしていって下さい」と妙な迫力でにっこりするきーちゃんは、今まで見たことが無い。きーちゃんの迫力に負けたのか、マイコはすぐに帰って行った。それを見て、きーちゃんは物置から箒を取り出して玄関に逆さに立てかけた。
ちょっと整理しよう。今、来たマイコの供述によると…真ちゃんの会社の人に紹介されて、お正月に真ちゃんと付き合いだして妊娠した。だから、きーちゃんに付きまとうなと迫りにうちに来た。
誰が誰に付きまとってるって?むしろ真ちゃんの方がきーちゃんに付きまとってるけど?妊娠!?あかん、もう一回混乱してきた。誰が?マイコがだよね。誰の子供?真ちゃん?嘘でしょ。待って待って待って。いくらきーちゃんにまだ手を出せないからって闇雲に手を出すようなヤツ…ではなくなったはず。それにそんな馬鹿なことになるようなヘマはしないはずだし、マイコって真ちゃんの傾向とは外れるんだよね。好みじゃないはず。「春になると変なヤツ、増えるな。なんやってん、アレ」旦那もボー然としている。そうなるよね。
きーちゃんだ!多分ほっといたらきーちゃん間に受ける!ボケーっとしてきーちゃん置いてリビング戻ってきちゃった。急いで玄関に戻るときーちゃんが家の中に入ってきたところだった。「ねーさん、今日ローファーじゃなくてお塩買わなきゃあかんわー。全部使っちゃった」とお塩の入ってたカップを見せてくれる。塩撒いたの?さっきは逆さ箒にしてたし、おばあちゃまの家に行くのが増えたせいか、古風な知恵がついたね。変なお客さん来たけど、氣を取り直してきーちゃんのお祝いを買いに行こう!玄関のお塩は帰ったら片付けよう。
「美樹ちゃん、ちょっとお願いしていいー?」車に乗ってから、ずっと黙っていたきーちゃんが呟いた。「どうした?」きーちゃんからお願いってとても珍しい。旦那も驚いている。「引っ越しの準備あるのわかってるんだけどね、ワガママ言っていい?」「言ったらええが。言うたやん、いつでも言ってええって」きーちゃんは隣のベビーシートに乗ってるマハルを見た。マハルはぐっすり寝てる。「多分汚い言葉いうから、着いたらねーさん一瞬マハルくん連れて離れててー。マハルくんに聞かせてたくないー」「大丈夫だよ。マハルは汚い言葉聞くより大好きなきーちゃんがしんどい顔してる方が嫌がるよ」マハルの前で汚い言葉を聞かせたくないと、マハルの事を思ってくれるきーちゃんはしんどい顔してる。そりゃ、そうだろう。よく分からない因縁をつけられたんだから。
私たちですら混乱した。それが、私たちには分からないアンテナを持つきーちゃんなら尚更キツかったと思う。「汚い言葉言ったらごめんね」と前置きする。「さっきの人のこと、調べられる?ちょっと調べて欲しいんだ」あれ?汚い言葉は?
旦那は顔が広い。老若男女問わず、いろんな人とつながっていていざという時は頼って来いと言ってもらっていた。だから、多分、マイコのことも調べようと思えば調べられる。
「あの人、嘘がいっぱいあってん。」むしろ、嘘しかないでしょ。「これはね、あの人に何か見えたわけじゃないけど分かる。でも嫌な音と色がしてた。」あ、見えてた訳じゃないのね。てっきり、シックスセンス的な何かで分かったのかと思った。でも嫌な音と色ってそっちか。
きーちゃんは一つづつ、嘘だと思った所を話した。まず、一番の嘘は、真ちゃんの子供を妊娠した。ということ。もし、それが本当なら、真ちゃんはこの場に居るはずだ。自分の出張中に私たちに一人で言わせるなんてしない。
次の嘘。お正月から付き合ったってこと。お正月、真ちゃんはおばあちゃまのおうちに年始のご挨拶に来たお客さんの対応で忙しくて誰かに逢いに行く暇なんかなかった。1月中だと考えても、どこに行くのか聞いて4月の食事会の準備の為におばあちゃまに言われて会った人を全部把握している。それに誰かの所に行くとか誰か別の人が良くなるなんてことは絶対ない。って言ってたから、今はマイコって人の所に行くなんてない。「いっぱいって2つだったね」と言うけど、そこはいい。置いとこう。そこを氣にしてる場合じゃない。
「今ね、お食事会の準備してるでしょ?」と話し出す。真ちゃんのお家ね、家を継ぐって生まれた順に継げる訳じゃないんだって。その為にはね、家を継ぐって決めて、いっぱい経験を積んで家長の2人が「いいよ」って言わないとあかんねんて。おばあちゃんの代になる時ね、本当はおうちが無くなるかもしれなかったんだって。でもね、おばあちゃんが頑張って頑張って必死でおばあちゃんのお父さんたちに泣いて家を継がせて下さい。ってお願いしたんだって。このお家を途絶えさせたくないって。この家を必要とする人はたくさんいるからって。だけどね、継いでからも大変なことばっかりだったから、おばあちゃんは誰かに家を継いで欲しいけど、それはよう言えへんかったって。だからね、真ちゃんが継ぎたいって言った時は本当に嬉しかったって。そのきっかけがね、私を高校に行かせてくれる為だったんだけど、おばあちゃんは私にありがとうって。諦めてたけど叶うんだって。私は真ちゃんに甘えただけやねんけど、ありがとうって何度も言ってくれるねん。それ位、おばあちゃんは待ち望んでるねん。おじいちゃんも、あんまり帰ってこないしそんなに話はしないんだけどね、お正月帰って来た時、待ち遠しいってすごく嬉しそうやってん。年始のご挨拶にきた人も、みんな「おめでとう。良かった」って喜んでるねん。それは本当におめでとうの色がしてたから、本当のおめでとうなんだ。良かったって。
ただのお食事会かもしれないけど、それだけみんなが嬉しいねん。真ちゃんもおうち継ぐ為に色々決めて、いっぱい頑張ったお食事会やねん。もし、あの人が、本当に真ちゃんと付き合っていて妊娠してるならそれはそれでいい。本当ならね。でも、今、この時期に言うっておかしいって思うねん。これだけ大事なことが控えてること、ホンマやったら真ちゃんがあの人に言わないわけ無い。だから知ってて、こんな騒ぎになりかねないことを今この時期に言うて来たわけやん。あの人がホンマのこと言ってたら。
それがね、すっごく許せないねん。みんなの氣持ちを無視してるのが、許せへんねん。
嘘だって、わかってるけど、もし、この話が本当だったら、真ちゃんに「高校だけ行かせて下さい」ってお願いして、1人でバイトしながらちゃんと高校卒業しようと思うねん。だけど、このお食事会はね、見たいんだ。
おばあちゃんがね、お手伝い私じゃなきゃお願い出来なかった。きいちゃんが居てくれ本当良かった。ありがとうって何度も言ってくれるねん。何も役に立てないのに私じゃなきゃダメだったって。だから最後まで誰にも邪魔させないでお手伝いしたいんだ。
「だから、美樹ちゃんが忙しいのもわかってるけどお願い。あの人のこと調べて。本当ならさっき言ったみたいにする。嘘なら、みんなの嬉しいのに水さしたこと、反省してもらう」
泣いて拗ねてたきーちゃんじゃなかった。私よりもずっと若いのに、ずっと大人になったきーちゃんだった。