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Another story 45.混乱。
今はこんなことで煩わされてる時じゃないのに。
なんでいつもこうやって逃げてしまうんだろう。
真ちゃんが嘘を言うわけないのも分かってるし、あの人が悪意に塗れてるのだって分かったのに。
寝付けるわけもなくお布団の中で何度も寝返りをうつ。
制服が届いた日、真ちゃんと付き合ってると言う人が家に来た。
前に会った彼女さんとは別の人。
その人は真ちゃんの子供を妊娠したから私に付き纏うなと言った。
けど、その人の空氣は悪意の空氣だった。
伊達に何年も悪意の空氣ばかり見てたわけじゃない。
けど、その人の悪意は見ていて、そして自分に触れると吐き氣がするくらい初めて悪質であると感じた。
真ちゃんに教えてもらったバリアを急いで張ったけど、一瞬被ってしまっただけでもとても不快な空氣をしていた。
その人はお正月の会社の新年会から真ちゃんと付き合ってると言っていたけど、おばあちゃんに言われて真ちゃんが誰とどこで会うのか全部聞いていた。
その中にその人の名前は無かった。
真ちゃんが嘘を言うわけはないし、もしそれが本当ならご挨拶の会を控えた今にいきなり言うのは変だと思う。
何より、もしそれがホントだったとして、真ちゃんが泊まりの出張でいない時に1人でこの人をうちに来させてこんな話をさせないと思う。
その人は嘘をついてると空氣で分かったから引越しの準備をしなきゃいけないと分かってるけど、美樹ちゃんにお願いして調べてもらった。
やっぱり、嘘だった。
嘘だと分かってホッとした。
ホッとしたと同時に自分の中にご挨拶の会の前にこんな煩わしい嘘を言ってきたその人に対しての怒りが湧いて来た。
当代さんになるまでの間、とても慎重にならなきゃいけないとおばあちゃんは言っていた。
少しの油断から大事になって最悪命に関わるかもしれないと言っていたから、おばあちゃんは私にも真ちゃんを守ってとお願いしてくれた。
おばあちゃん達が認めたとしても本当の意味で家を継ぐならご挨拶の会に来てくれた人にも認めて貰わなきゃ意味がないと。
だから、誰にも邪魔されず水をさされずにご挨拶の会が終わるようにと真ちゃんもおばあちゃんも神経質な程になってた。
なのにここに来て見ず知らずの人が水を刺し出来たことに生まれて初めて震えるほどに怒りを感じた。
私なんかが人様に対して腹を立てるなんて調子に乗ってしまったからバチが当たったのかもしれない。
夕方、美樹ちゃんがあの人のことを調べてくれたことをねーさんと美樹ちゃんの3人で話している最中に声が出なくなってしまった。
声だけでなく、音も無くなった。
頭の中ではいろんな音がしているから音が無くなったと言うのは変だと思うけど、完全に人の声が聞こえない。
ねーさん達はすぐに先生を呼んでくれたけど、家では何の検査もできないからと先生が病院に連れて行ってくれた。
いろんな検査をする為に一晩入院したけど、結局原因は分からなかった。
前に声が出なくなったことはあって、その時は3日もしたら自然と戻っていたからきっと今回も2、3日もすれば戻るだろうと思っているけど、私はもうこのまま声も音もない世界で生き続けないといけないのかという不安が消えない。
翌日、ねーさん達が迎えに来てくれて帰って来てからも氣分は沈んだままだった。
私みたいな本当は存在してはいけない人間が手伝うような人に家を継がせられないと言われたらどうしよう。
家に帰って、ねーさんと美樹ちゃんにこんなことになってることを黙っていて欲しいとお願いをした。
けど、美樹ちゃんは留守中にあの人が来たことを話すと言った。
それは家を継ぐのを邪魔する為でなくてこれからの私や真ちゃんの為であると、言っていることとノートに書かれた文字からも分かった。
どうしたら良いのか余計に混乱してきてしまった。
部屋に戻った瞬間吐き氣がする。
急いでトイレに籠るとまた血を吐いた。
胃の違和感はずっと続いているし、血を吐いて入院した後も何度か吐いてるから慣れて来たけどやっぱり氣持ち悪いな。
口の中の血の味がまた更に吐き氣を催す。
何で、たくさん血を吐いた時に消えてしまえなかったんだろう。
なんで私は居るだけでみんなに迷惑をかけてしまうんだろう。
目の前が暗くなって力が入らなくなってきた。
寒氣もする。
このまま消えてしまいたい。
迷惑しかかけなくてごめんなさい。
生まれてきてごめんなさい。
生き続けていてごめんなさい。
ドアが開いてねーさんの氣配がした。
また吐いてるのバレちゃう。いや、完全にバレた。
いっぱいごめんなさい。
部屋に戻って、ノートを取り出した。
兄ちゃんが貸してくれたノートを写したことが書いてある。
兄ちゃんがお母さんや一緒に過ごした仲間から教わったたくさんの魔法が描かれている。
私の存在を消す魔法は無かったかページをめくる。
『絶対真似したらあかんこともあるけど、こんなものもあると知ってたらええで』と言ってそのノート全部を訳してくれた。
自分の存在を消す魔法。
そんな夢みたいな魔法があればきっと訳してもらって写している時に覚えているはずだけど。
けど、見落としていたり解釈を少し変えればそれがあるかもしれないと1ページ目から見落とさないよう慎重にページをめくる。
何度も何度も読み返したけど、そんなに都合の良いものは見つからずどうしていいか途方にくれた。
もうすぐ、真ちゃんが帰ってくる。
今日また血を吐いたことだけじゃなくて全部知られてしまうだろう。
こんなことにならなかったら、今日帰ってくるまでに片付けたかったのに。
心配することなくお家を継いで欲しかったのに。
自己嫌悪しかない。
目が覚めるとリビングの空氣が違うことに氣が付いた。
多分、真ちゃんが帰ってきたんだろう。
美樹ちゃんは真ちゃんが帰ってきたら留守中のことを話すと言ってた。
私が上手く片付けられなかったから。
出来ないくせに出来ると調子に乗っていたから。
謝っても許されないのも分かってるけど、この話を美樹ちゃんやねーさんだけに任せてしまったらダメだろう。
でも何て言えばいい?
知らないフリして、寝ていたことにしてしまいたい。
けど、このままにしていても解決しない。
メモに『後でゆっくりお話させて下さい』と書いてリビングに行く。
ドアを開けると3人が一斉にこっちを見た。
リビングの空氣は散らかってる。
上手く立ち回らなくてごめんなさい。
面倒なことを何も悪くないねーさんと美樹ちゃんに押し付けてごめんなさい。
筆談用のノートを探す。真ちゃんが持っていた。
ノートを貰って風邪で声が出ないと書いて、真ちゃんにさっき書いたメモとノートを渡すと真ちゃんは小さく頷いてくれた。
また、ノートだけを受け取ってねーさん達にごめんなさいした後、部屋に戻った。
今更、謝った所で何も解決しない。
ただ謝って優しい言葉をかけてもらって自分の罪悪感を減らしたいだけなのも、それは単に逃げてるってこともよく分かってる。
何でこんなことになったのか。
自分が上手く立ち回らなかったせいなのも分かっているけど、こんなことになった原因のあの人にも怒りを感じるし、一度怒りを感じてしまったから更に事態は悪化したのに怒りはおさまらない。
もう何に怒ってるのかすら分からなくなってきた。
今更私が消えた所で迷惑でしかないのも分かってるけど、もうこの世界から消えてしまいたかった。
ピリピリした居心地の悪い空氣が軽くなった。
窓から覗くとねーさんとマハルくんが帰ってきた。
マハルくんが帰ってきただけでこんなに空氣が軽くなるんだ。赤ちゃんってすごい。
マハルくんを抱っこしたいな。
けど、今の私が近づいちゃいけない。
幸せのカタチを壊してしまう。
そんな葛藤があったのに、ついドアを開けてしまった。
マハルくんは満面の笑顔で私の所に来てくれた。
両手を広げて抱っこと言ってくれてる。
抱っこすると今度はすぐに降りると言う。
やっぱり分かるのかな。私がこんなにも醜くなってしまってるの。
マハルはティッシュを持ってきて渡してくれた。
ティッシュ?
お鼻は出てないし、オヤツ食べてないからどこを拭くためなんだろ。
意味不明な行動もかわいいな。
もう一度抱っこすると一生懸命に話をしながら顔を拭いてくれた。
だいじょーぶ、きーちゃんは泣いてへんよ。
ありがとう。