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Anothe story 47-1.なないろの光。
車を降りると別世界で1日歩き回った疲れはどこかに行ってしまった。
「婆、いつもこんな所泊まってるん?今度からついてこうかwww」
昨日、おばあちゃんとお食事に行った時に厩戸皇子ツアーに行くと真ちゃんが言ったら、周るのにぴったりなところがあるから泊まりで行ったらいいよ。と教えてくれたお宿。
「遠いやん言うたけど、許そう!」
車で向かってる間、周るところから遠いやんかとブツクサ言ってた真ちゃんも氣に入ったみたい。
直前だから本当はお部屋を押さえるなんて出来ないはずなのに「療養はな、ゆっくりした方がええからね」とおばあちゃんが言って手配してくれた。直接連絡してくれて押さえてもらった。
お昼のお食事をしたお店もおばあちゃんのお氣に入りのお店でゆっくりとした座敷を用意してもらえた。
「部屋もすげぇな」
案内してもらった部屋にこれまた言葉を失う。
「療養に選んでいただいて光栄です。どうぞごゆっくり」とお宿の人が言ってくれた。
おばあちゃんがお部屋を押さえてくれる時、私の療養の為にここしかないとお願いしてくれたって。
お食事をした後、お庭に出てみる。
風が木を揺らす音が聞こえる。
遠くで鹿も鳴いてる。
穏やかな空氣がまだ頭に響く音をゆっくり消して行ってくれるようだった。
「冷えへん?」
真ちゃんが後ろからハグしてくれるけど、やっぱりここ2、3日ハグしてくれるの多くない?
何か嬉しいからいいか。
まだ声が出ないことも、ご挨拶の会のことも、もうすぐねーさん達が引越してしまうことも、学校のことも本当はそんな事が無いように感じる。
『真ちゃん』
声が出るんじゃないかと思ったけど、やっぱり出ない。
名前、呼びたかったんだけどな。
「なあ、アキラんとこ行きたいん?」
兄ちゃんのところ。
ねーさん達が引越ししたら真ちゃんも引越ししようかなって言ってた。
だから兄ちゃんに私1人でもこの家に居てもいいかを聞いて、ダメだったら向こうに行っていいかを聞こうと思ったりもする。
けど、学校も家も嫌だからって兄ちゃんの所へ行くのはただの現実逃避な氣もするし、外国で住むのもまだ怖い。
どうしたらいいんだろう。
「まだ13年あるで。キリエが28になるまで一緒に居ってって言うたやん。アキラんとこ行かんで」
28歳まで。
それまで声が出ないままなのかな。
真ちゃんがすぐ近くに居てくれてももう名前は呼べないのかな。
『けどもう名前よべない』
真ちゃんの左手に書いた。
『おしゃべりもできない』
歌だって歌えないし、お花を見つけても呼べないし、厩戸皇子が見た景色かなって話も出来ない。
「キリエの手が届くところに絶対居るから。声だって出るようになる。公園行って歌うことだってすぐに出来るようになる。言うたやんか。まだ魔法は完全じゃないって」
『まほう、どうしたら完全になるん?』
天使が通る。
「そうやなー、キリエ次第かなー」
私次第?
「焦らんでいいで。信じて。だから、アキラんとこ行かんで」
お部屋に戻る。
ノートを使っておしゃべり。
真ちゃんは会の前で忙しくてこんなにゆっくりと話をするのは久しぶりかもしれない。
『まだ私がお手伝いしてもいい?』
ふとねーさんがちゃんと真ちゃんに聞かなきゃダメだって言ってたのを思い出した。
いつまでも後回しにしていてもモヤモヤは残り続ける。
「何で聞くん?もう一緒にやってくれへんの?」
『だって』
だって…。私は何て続きを書きたいんだろう。
自分でも分からずに勢いで書いてしまった。
「ごめんな、負担やんな」と真ちゃんが言った。
負担なんかじゃない。お手伝いをしているつもりになって思いっきり足を引っ張ってしまってる。
とても慎重になりなさいっておばあちゃんに言われたのに。
「ごめんな。配慮が足らんかった。爺も婆も心配し過ぎやねんって油断してた」と言うと真ちゃんは黙ってしまった。
しばらくの沈黙。
私はどうしたらいいのか、このままお手伝いを続けたいと言ってしまってもいいのか悩んだ。
「うちの勝手なしきたりのせいで負担かけた。ホンマごめんな」
負担なんかかかってない。
真ちゃんはノートをめくってねーさんに話を聞いて貰った時のページを開いた。
「これ読んだ時、ホンマに行ってしまうんちゃうかと思った。ワタシのことでキリエにいらん負担かけてるの分かってて行かしたくないと思った。まだアキラんとこ行きたい?」
兄ちゃんに連れて行って貰って、魔法使いのお城では自分が居ることに疑問も申し訳ないと思うこともなかった。楽しかったし、ここに過ごせたらいいと思った。
ねーさん達が引越ししてみんなでいられないことも分かってるから、向こうに行けたらどんなにいいかと思う時もまだ正直ある。
多分、ここでこのまま高校生になったとしてもやっぱり魔法使いのお城に行きたいと思うことも出てくると思う。
でも、本当は今の家でみんなで居られるのが一番良い。
頭の中がまだゴチャゴチャで、考えれば考えるほどどうしたいのか分からなくなる。
正直に書いた。
「キリコ達と一緒に住めるかどうかは分からんけど、キリコらが近くに居たらアキラんとこ行きたくならん?」
どういうこと?
「キリコらが引越した後、ワタシらも向こうに家探そうか」
『ねーさん達の近く?おばあちゃんは?ねーさん達の近く行っておうち継ぐって出来るん?』
「そうなったら家を継ぐのはやめる。キリエが向こうに行かへんならそれでもいい」
いや、それはダメでしょ。
おばあちゃん達悲しむよ。いっぱい準備してきてみんなにもおめでとうって言って貰ったのに。
「学校へ行って苦しくなるなら学校も行かんでいいし、キリコにすぐ会える所も探す。だからアキラんとこは行かんって言って。ここに居って」
真ちゃんがここまで言ってくれるのに、私は何ですぐに兄ちゃんの所には行かないって言い切れないんだろう。
露天風呂に入ると月が見えた。
真ちゃんが言ってくれたようにねーさん達の近くに行けて、学校へも行かなくて良いならどんなに良いだろうと思う。
けど、そんなことをしたらおばあちゃんはきっと悲しむ。
最後の夢が叶ったって嬉しそうだったのに。
私のわがままでそんなことをしちゃいけない。
「何でそう思うの?」
聞き覚えのある声がした。
「全てを捨てればようやく約束が果たせるのに」
お湯の中にみっつの光が見えた。
シードラゴンだ。
「昔のようにまた申し出を断って約束を先延ばし?」
約束って何?
誰とした約束?
「思い出せないんだね。あのヒトも報われないね」
「いつの時代もあのヒトは全て捨てる覚悟をしてるのにね」
シードラゴンが笑う。
あのヒトって真ちゃんのこと?いつの時代もってなに?
どこに居ても今世で生き続ける限り私はずっとここに居るのが間違いだと思い続ける。
おばあちゃんを悲しませたくない。
「じゃあ、私たちと一緒に帰る?」
シードラゴンは迎えに来てくれた?私1人でも来世に行ける?
「長いこと待っているんだよ」
最後の最後に逃げることになるのかもしれない。
真ちゃんはあんなにここに居てと言ってくれたけど、それに甘えたら今以上に取り返しのつかないことになるかもしれない。
それなら、私が居てもいい世界に行こう。
ようやく、夢が叶う。
お湯の中の光に手を伸ばす。
「あのヒトと会えなくなるかもしれなくても、それでも私たちと行くんだね」
うん、もう会えないのは悲しいけど、
私のことが見えなくなるよりいい。
おとーさんとおかーさんみたいに、目の前から私が消えちゃうよりもずっといい。
そうか、分かった。
声が無くなったのは、消えちゃう前だったからだ。
消えちゃうから、私の声はみんなに聞こえなくなったんだ。
最後に名前呼んで欲しかったな。
名前、呼びたかったな。
水が大きく動く音がして、遠くにみっつ、そして私の周りに光が見えた。
水の音がもう一段と大きくなって、光は消えた。
「キリエ!息して!キリエ!」
シードラゴンは真ちゃんとはもう会えないって言ったのに、何で声が聞こえるんだろう。
息してってなに?
『かわいそうな子。それじゃあまりにも報われないね。だからあなたの想いの雨を降らせてあげよう』
『それが彼らの望みでもあるから心を痛めなくても良いよ』
『誕生日はスペシャルよー。特に女の子はお姫さまの日なんだから。これからのお誕生日も、たくさんお祝いしようね』
『この家はすごいで。とーさんが3人も居るからな。なんも心配せんでええで』
『キリエって名前には神さまに声が届く魔法がかけてあるから、泣きたくなったら自分でも呼んでみたらいいで。神さまにも魔法使いにも声が届くから1人じゃないで』
走馬灯ってやつかな。
この世界は悲しいことしかないって思ってたけど、大好きがいっぱいあったな。
真ちゃんの魔法、効果抜群だったね。だって、魔法の名前で居られた間、幸せだった。
山の間から陽が登る。
眩しくて目を閉じてもその光は明るくて、心が踊った。
手を繋いでくれたのは誰だったんだろう。
光が目の前に広がった瞬間、肺の中に一氣に空氣が流れ込んで咳き込む。
呼吸をするたびに氣管と肺が痛くて、不規則になる。
一旦治りだしていた耳鳴りがけたたましく鳴ってる。
「キリエ!」
あ、真ちゃんだ。
なんで泣いてるん?
真ちゃんは今までで一番強く私をぎゅーっとして何度も私の名前を呼んだ。
『真ちゃん、泣かないで』
そう言いたかったのに声が出ない。
そうだ、声は出なくなったんだった。
消える前だから。
あれ?でも、私、シードラゴンと一緒に水の中の来世に行ったはず。
シードラゴンは真ちゃんに会えないって言ってたから幻なのかな。
手を伸ばす。真ちゃんの顔に触れる。
ちゃんと触れられる。幻じゃない。
「キリエ、分かる?見える?」
見えてるよ。
「良かった、間に合った」
間に合った?
泣かないで。
真ちゃん、いつもは虹色の光なのにそんなにバラバラになってるの?どうしたら戻る?
光が落ちちゃうから、泣かないで。
「真ちゃんはきれーな虹なん。泣いたら、光がバラバラになる」
「キリエ、もう一回」
もう一回?何を?
「呼んで。もう一回呼んで」
呼ぶ?
もしかして、名前、呼べたのかな?
最後に名前、呼びたいって思ったから神さまが叶えてくれたのかな?
だったら、神さま、真ちゃんの光を戻して下さい。
「真ちゃんの虹色…」
光を戻して下さい。
真ちゃんがたくさん名前を呼んでくれたから、神さまに私の声が届いたのかな。
私の光も混ざって大きくなって、虹色を取り戻す。
やっぱり綺麗。
私の光が大きくなって、虹色を映す。
名前を呼ぶと、目が合って、名前を呼んでくれる。
今まで見えてなかったけど、私もちゃんと光があって何度も虹色の光と混ざって虹色になる。
とっても綺麗。
ずっと見てたい。
目が覚める。
シードラゴンと一緒に行くと決めたはずなのに、おばあちゃんが手配してくれたお部屋にいて、窓から光が射している。
隣にはシードラゴンにもう会えないと言われた真ちゃんがいる。
これは来世で見ている夢なのか、それともシードラゴンに会ったのが夢なのか。
昨日見た私の虹色の光はもう見えなかった。もう、虹じゃなくなってる。
シードラゴンに会えたのは夢だったのか確かめに行こうと起き上がろうとすると、繋いでいた真ちゃんの手に力が入った。
あ、真ちゃん起きちゃった。
「どこ、行くん?」
まだ半分眠ってるのかもしれない声で真ちゃんが言う。
露天風呂に確かめに行くと何だか言えなかった。
繋いでいた方の腕を引っ張られた。
「キリエおはよう」
「おはよう」
あ、声が出た。
「声!出た!」
「昨夜から出てたやん」
笑われた。
昨夜。名前を呼んだのは夢じゃなかったんだ。
「もっかい」
もう一回?
「名前、呼んで」
声が戻ってきたから、たくさん呼ぶ。
名前を呼ぶと、返事がする。
名前を呼ばれて、返事をする。
こんなに嬉しいことだったなんて。
「真ちゃん、あのねー」
「どうしたー」
「もう夜だよ…」
窓の外がまた、暗くなりだしていた。
「あー、ホンマやなー」
あーホンマやなー。じゃない。
今日は博物館行こうって言っていたけど、熱も出してないのに2人で1日中お布団にいて寝たり起きたり。
とってももったいないことをした氣分。
「博物館、行きたかった?」
「ちょっとだけ…」
「ホンマに?」
「いや、結構行きたかった…」
「ごめん、ごめん」と言って真ちゃんはまた私をお布団に引き摺り込むけど、ホントごめんって思ってる?笑ってるから全然反省が見えないんですけど!
「なんでわざわざ隣座るん…」
あの後、お食事は部屋でするかどうかの問い合わせが来て、せめてお食事だけはちゃんとしようとレストランの方に来たけど。
「あかん?」
だって、テーブル席なのに並ぶの変よ?お店の人だってびっくりしてたやんか。
真ちゃんの謎行動はこれだけではなかった。
「真ちゃん…いつもご飯はちゃんといただきなさいって言ってるの真ちゃんやで?」
「いただいてるじゃないの」
いただいてるけど、何で手を繋いだままなん。
しかも右利きなのに左手でお箸持つの大変じゃないの?
…と思ったけど、私より上手に持ってた。びっくり。
「左手使えないとそれはそれで食べにくい…」
「じゃあ、慣れて」
慣れてって何それ?
ご飯の時だけでなくてお部屋に戻る時もずっと手を繋いだままだし、お部屋に戻っても真後ろに座ってるか離れても半径50センチ以内に居る氣がする。
「だってキリエのこと好きやもん」
何故こうなのかを聞いて絶句。意味分からない。
「信用してへん?」
信用するとかしないとかじゃなくて。
「昨日決めた。シードラゴンに連れてかれるくらいなら四六時中離さへんかったらええやんって」
昨日…。
シードラゴンが迎えに来たと言ってないのに何でわかったんだろう。
昨日、いつもは20分もあればお風呂から上がって来るのに30分以上経っても上がって来ないし、空氣が変わったから様子を見に行くと私が浮かんでいたらしい。
心臓は動いていたけど、呼吸は止まっているし呼びかけても反応が無いから間に合わないかもしれないと思ったと言った。
「空氣が変わる?」
「キリエがシードラゴンと話す時は空氣が変わる。シードラゴンが近くに居る時って言うたらええかな?」
「だからいつも分かるん?」
「分かる。シードラゴンが何者なのかは分からん。けど明らかに空氣が変わるねん。悪いものでは無いとは思うけど明らかに違う」
「私が話してなくてもシードラゴン近くに居るん?」
「…居ることもある。キリエが話しかけたら大概近くに居てる」
返事がないと思っていても、実は近くに居たのかな。
何で呼びかけたのに話が出来なかったんだろう。迎えに来てくれる時とそうでない時の違いは何?
「だから、いつシードラゴンがキリエを連れて行こうとするか怖い。今まではキリエと話するだけで終わってたけど…」
真ちゃんは何で私がシードラゴンの所へ帰るのは嫌なんだろう。
わざわざ一緒に行かなくても、私1人で来世へ行けるのに。
「嫌や。何回来たとしても追い返す」
「私の本当の帰る所でも?」
「キリエが帰る所はシードラゴンの所じゃない」
けど、私が居ることがおかしいからこんなにも辛い場所なんじゃないのかな。
私がこの世界にそぐわないから。
「違う。お願いやからまだ居って。この世界は辛い場所じゃないって証明するから」
この世界が、私の居ても良い場所になることはあるのかな。
何回も期待して、何回も思い違いだとわかって。
真ちゃんの言うように辛い場所じゃないって思えるようになるのかな。
「光が虹色って言うてたやんか。キリエの光は分かるん?」
「私の光はほとんど見えないよ。けど昨日から見えることが増えた」
「どういうこと?」
「真ちゃんの光と重なるとね、反射する!」
「反射?」
「なんだろう、サンキャッチャーだっけ?兄ちゃんのお土産。あれ、壁に光が映るやん。私の光が壁でサンキャッチャーの光が真ちゃんの光として、壁に当たると虹色が広がるねん」
「……分かるような分からんような」
上手く伝わらないなぁ。どう言ったら良いんだろ。
「真ちゃんの光と重なると虹色がハッキリして全部に広がってくねん」
虹色が重なって広がった後は、身体の真ん中が通る氣がする。
光が広がる間は私がここに居ても良いのかどうか頭を悩ませることはなかった。
名前を呼んでくれる。私も名前を呼ぶ。
真ちゃんが呼んでくれる名前が私の名前。
名前を呼ぶと目が合う。
虹色の光が何度も何度も混ざって、私の光も虹色になる。
ずっと虹色の光で居られるようになったら、私もここに居ても良くなるのかな。