Another story 47-2.強くなりたい。

昨日は夜お食事に部屋から出たけどそれ以外はお布団の中に居たから、今日はちゃんと服を着て外に出る。
散策中も真ちゃんはほぼ手を離してくれないし、なんなら兄ちゃんと変わらないくらいくっついてくる。
歩きにくくないのかな。
そんな感じだから人力車のお兄さんに「仲良くて羨ましい」って言われたけど、これは羨ましいものなんだろうか。
私がシードラゴンの所へ行くのを失敗したからこうなってるだけなんだけどな。
空氣が変わったからと真ちゃんが様子を見に来たからシードラゴンの所へ行けなかったんだろうか。
失敗の原因が分からない。
今までと違ってシードラゴンの元に行けるって確信があったのにな。おかしいな。
「どうしたん?疲れた?」
「だいじょーぶよー」
と言ったものの、少し疲れたかも。
休憩ポイントを見つけてちょっと休憩。


自分で思ってたよりも疲れていたのかもしれない。
座った瞬間に暴力的な睡魔に襲われる。
「ちょっと寝て良いで」と言って貰ったから少し寝ることにする。
目を瞑るといろんな空氣の音がする。
この道はどれくらい前からあって、どれだけの人が歩いたんだろう。
時々強く吹く風は冷たく感じるけど、とても穏やかな空氣。


「あ、起きた?おはよう」
目を開けると真ちゃんが本を読んでた。
ちょっと休憩のつもりが外で思いっきり寝てしまった。やらかしだ。
「って30分も寝てへんで」と笑うけど、普通外で休憩して昼寝とかありえない。
「空氣と同調してたんやろ?そら眠くなるわ」
同調ってなんだ?
「いつもキリエが言うてるやんか。厩戸はここを歩いたのかとかあの山を見たのかな?とか」
うん、言ってる。ずっと昔に前に居た厩戸皇子と同じ景色を見ているかもしれないと思うとワクワクするもん。
「なんていえばいいかな。多分な、それってずっとダッシュしてるくらいの力を使ってるようなものやから、そら疲れるわな」
「そうなん?単に私が体力ないせいだと思ってた」
「現実世界的には体力がないように思うかもしれへんけど、多分キリエはずっと全力ダッシュし続けてるようなもんやねん。だから常に体は疲れてるねん」
「運動してなくても?」
「見た目ではしてなくても、なんやろ、エネルギーは使い続けてるからすぐバテるように見えてるねん」
「それって改善できる?」
「そうやなー、無駄な消費をしないようにとか、後はそもそものエネルギーを増やすとか方法はいくらでもあるで」
その為には自分がどうエネルギーを使っているかの傾向を知ること、様子を見ながら使うエネルギーを調節する意識を持つことだと教えてくれた。
「制作の時おばあちゃんが言ってたみたいな感じ?」
「そう。何かを作る時だけじゃなくてな」
常に観察って難しいな。
「真ちゃんの虹色の光あるやん。それと重なると何かがスーッと通るみたいやねんな。それを繰り返して私も虹色になったら出来るようになる?」
ふと浮かんだ疑問。
何かが通って、満たされていくような感覚がある。
「そうかもしれへんなー。虹色に重なるってのを言うてるのはキリエしか知らんからなんとも言えんけど。またそれも観察するのもええなー」
なるほど、なるほど。
また観察してみよう。


「キリエがシードラゴンの所に行こうとした原因やろうと分かってるねんけどな」
続けて、全部話すまで何も言わないでと言った。
「やっぱりキリコらの近くに行こう。引越しのタイミングで一緒には多分間に合わないから、少し我慢してもらわないとあかんけど」
おばあちゃんは?お家継ぐのどうするん?と言いかけたけど、頑張って耐えた。
「家を継ぐことを心配してくれるなら、家の仕事はこっちと行き来したらええし、キリエの学校は転校することになるし、またそれはそれでキリエに頑張って貰わないとあかんようになるけど」
私がわがまま言ってるからだ。
お仕事で行き来するなんて絶対に無茶だ。出来たとしてもおばあちゃんは心配する。
「キリエは高校生なったらバイトするって言ってたけど、多分バイトは行けへんようなるしせっかく合格した学校も下手したら1学期しか行けないかもしれん。もっと早く決めてたらよかった。ごめんな」
真ちゃんが謝ることは一つもなくて、もっと早く上手にシードラゴンの所に行けてたらこんなこと考えなくてすんだのに。
「キリエは何も悪くない。誰も悪くない」
どうしたらいいんだろう。
私が真ちゃんの言ってくれてるように『絶対にここに居る』と言いきって、もしこれからシードラゴンが迎えに来てくれたとしても断ればいいと分かってる。
真ちゃんが言ってくれたことは絶対に無茶なのも分かるのに、言い切れない。
「自分が悪いとか、もうシードラゴンの所に行かなきゃいけないとか、何も思わないでいい。これからもシードラゴンの所に行きたいと思っても実際に行ってしまわんかったらそれでいい。アキラんとこにもシードラゴンのとこにも行かんと一緒に居って」


ねーさん達の近くに行けば寂しくならない?
でも、今までもずっとシードラゴンの所に帰りたいと思い続けてる。
だから、きっとねーさん達の近くに行ったとしても同じことだと思う。


頭の中でどうしたらいいのかぐるぐるしてる。
「疲れた?」
お宿に戻ってもいい方法が思いつかない。
「食事まで寝てていいで。時間になったら起こしたるから」
お言葉に甘えてまたお布団へ。
私、これだけ考えて貰っていてもまだ甘えようとしてる。
疲れて寝てしまいそうなのにあと一歩の所で思考が邪魔して寝られない。
「真ちゃん…」
すぐ隣に座って本を読み出した真ちゃんに思ってることを全部素直に伝えてみる。


多分、ねーさん達の近くに行ったとしても、私はきっとシードラゴンの所に行きたいと泣き言を言うだろう。
ねーさん達の近くからおばあちゃんの所まで仕事で行き来するのはとても大変だし無茶を言わせてるのも理解してる。
おばあちゃんを悲しませてまで、ねーさん達の近くに行かなくていい。こっちでお家を継いでお仕事して。
多分、またシードラゴンの所に行きたいと言うと思うけど、こっちで学校も頑張る。
だから、時々真ちゃんの光を分けて。
自分でも嫌になるくらい、わがままで自分勝手なことを言ってるのも分かってる。
こうやって何とか私の希望を聞いて何とかしようとしてくれてるのは本当に嬉しい。
シードラゴンの所にも兄ちゃんの所にも逃げたくならないように強くなりたいとも思うんだ。
だから、真ちゃんは会いたい時に会えて名前を呼べる所に居て。


一氣に話して途中から自分でも何を言ってるか分からなくなってきちゃったけど。
真ちゃんは黙って私を見て聴いてくれた。
「ワタシや婆のこと考えてくれてありがとう。シードラゴンの所に行きたいと思うのは仕方ないことやと思ってるねん。けど、あと13年ここに居ってって頼んでる。その13年の間にそれも思い出させないようにするから。光くらいいくらでも分けるで。キリエの光がずっと同じようになるまで一緒に居る」


自分でも何秒か前まで思ってたことがすぐ覆ってしまうのが嫌になるけど、こうやって真ちゃんの光を分けて貰ってたらいつか強くなる氣がする。
怖いことの方が多いけど、頑張る。
「強くなろうとせんでいいで。頑張らんでもいい。こうやってここに居てくれるだけでいい。手を伸ばしたら触れるところに居って」
そう真ちゃんが言った後、重なった光は強くなる。
何度も名前を呼んで、何度も名前を呼んでくれた。


翌朝、セットしてた目覚ましがなる前に朝陽の光で目が覚めた。
真ちゃんはまだ寝てる。
そっと起き上がって庭に出てみようとした瞬間、真ちゃんが起きた。
真ちゃんって相当眠りが浅いよね。私が動くといつもすぐ起きる。
朝食前にお庭に出てみる。
太陽の光がキラキラして氣持ちいい。
「食事前に露天風呂ってのもええと思いません?」との真ちゃんの誘いに乗る。
「ここのお風呂って不思議」
「どう言ったところが?」
「最初はシードラゴンが来たやん。その時はなんだろう、やっぱり寂しい空氣がして、昨日と今は明るい。1人ぼっちでない氣がする」
「帰っても一緒に居るからなー、どこ行っても1人ちゃうから」


別世界に居たような厩戸皇子ツアー。
帰る時になると名残惜しさが募る。
帰ったら、すぐに入学式もあるし真ちゃんの会も控えていて、その後はねーさん達の引っ越し。
それを考えたら不安が取れないのも事実。
「大丈夫。もう絶対寂しい想いさせんから。だからもっと一緒に居って」
帰りの車の中で、やっぱり残る不安を話すと真ちゃんはこう言ってくれた。
途中でお食事に寄ったりしてツアーを満喫。
本当は声が出るようになった時におばあちゃんに報告した方が良かったのに、別世界を満喫し過ぎて連絡するのを忘れてたことに氣付いた。
急いで電話して、今から帰ること、声が出るようになったこと、素敵なお宿を用意してくれてありがとうと伝えた。
おばあちゃんは「元氣なって良かった」と言ってくれた。
そして、「会のこともよろしくね」と言ってくれた。






「ねーさん達、帰ってきてる!」
ガレージに見慣れた車。
まだ帰ってないかもね。なんて話をしてたけど、やっぱり今日だったんだ。
車から降りた瞬間緊張してきた。
「なんでやwww」
真ちゃんが笑うけど。
だって、出かける直前に私もついて行きたいってわがまま言ったし、何て言えばいいかわからないし。
「大丈夫やって」と言って手を繋いでくれる。
けどやっぱり緊張して靴が上手く脱げない。
「なんでやねんwww先に行ったるから行くで。ここ居ってもしゃーないwww」と真ちゃんは進む。
急いでついて行って様子を伺う。
「なんだー、真ちゃんやんー」
ねーさんの声が聞こえて来た。
なんだろう、恥ずかしい氣持ちと嬉しい氣持ちとホッとする氣持ちが入り混じってくすぐったい。
「美樹ちゃん、ねーさん、おかえりー」
自然と言ったけど、よく考えたら帰って来たのは私たちだよね。だったら、『ただいま』の方が正解?
「きーちゃんおかえりー!!」
ねーさんがダッシュで来てぎゅーっとしてくれる。
ねーさんの甘い香りがする。


「でね、厩戸皇子がねここ歩いたのかなーって思うと凄くない?」
「それは考えたこと無かったけど、そう思って歩くと楽しいかも」
ねーさんがツアーの話を聞かせてって言ってくれたから、聞いてもらう。美樹ちゃんも隣でビールを飲みながら聞いてくれる。
いつもの風景。とっても嬉しい。
「次の日はね、博物館行ってみようって言ってたんだけど…」と言いかけた瞬間真ちゃんが「なーーー!!」と叫ぶ。
なに?
真ちゃんの顔を見ると「内緒」とジェスチャー。
ねーさん達に1日お宿でゴロゴロしてたって言っても怒らないと思うけど、内緒なら内緒にしようか。
「真ちゃんさっきから何?うるさいよ」とねーさん。
うん、さっきから「なーー!!」とか「えー!!」とか「わー!!」とかよく叫んでる。
「博物館行かずにゆっくりしたよ」
内緒にしたよ!とドヤ顔して真ちゃんの顔を見ると何度も頷いてる。
多分、ねーさん達だったら「たまにはそう言う贅沢大事!」って言ってくれると思うんだけどなー。


その後ねーさんと夜遊びドライブに行って一緒にお風呂に入って。
もうすぐこうやって出来なくなるから貴重だ。


「なんや、帰ってからのが疲れた…」
お風呂から上がってきた真ちゃんがソファーにダイブする。
「どうしたん?」
「…」
無言で見てくる。なに?変なこと言っちゃった?
「キリエは女優ですなー」
女優ってなに?何も演技してないよ?と返事すると大笑い。なんなんだ。
氣を取り直して、厩戸皇子の着ていた(と思われる)服の製作に取り掛かる。
真ちゃんは型紙製作を手伝ってくれる。
何か忘れてる氣がするんだよなー。


「あっっ!!」
「なに??」
「宿題!!春休みの宿題やってない!」
お風呂の時は覚えてて夜やろうと思ったのにすっかり忘れてた。
「あとどれだけあんの?」
部屋にプリントを取りに行って真ちゃんに見せる。
「意外と少なかった…フルで残ってる思った」とホッとしてるけど、4月入ってからなんだかんだでやってないから予定よりずっと残ってる。
「しゃーない。厩戸服は宿題終わってからやな」
だよねー。残念。
次の厩戸皇子ツアーの時着ようと思ったけど間に合うかな。
それよりも宿題を入学式までに間に合わさなきゃ。
急に現実に戻ってきた氣がする。
けど、なんだろう、とっても幸せだと思う。


次の日のお昼に何とか宿題完成。
これ、きっと真ちゃんが居なかったら悲惨なことになってた。
3月中は1人でやってたせいか全然捗らなかったのに。
「きーちゃん、終わったん?」
ちょうど終わった時に美樹ちゃんが2階から降りてきた。
「終わったよー!」
「夕飯の買い出し行くで一緒に行こうや」
やったね!頭を使った時は甘いものだ!
美樹ちゃんの夕飯の買い出し=オヤツタイム。
ねーさんや真ちゃんに内緒にしていろんなお店のケーキを食べに行く。
そうだ、私、こうやって美樹ちゃんにオヤツタイムに連れて行って貰うのも好きだった。
ねーさんとドライブ行ったり、お風呂に一緒に入るのもマハルくんの夜中のミルクタイムにするお茶会も。
なんで、忘れてこの世界から逃げたくなっちゃうんだろ。


「あと7回」
お店に着いて美樹ちゃんが言った。
「夕飯当番な。だから次からの6回分どこがええか考えてや」
美樹ちゃんがご飯当番の日ってそれだけしか無いんだ。急に寂しくなる。
出かける前、真ちゃんが「昨日帰ってきて疲れたらあかんからついて行くのやめとき」とか言って止めたけど、やっぱりついて行って良かった。
「後はうち来たりそっち帰った時やなー」
「じゃあお休みごとに行く!」
「当番より多くなりそうやなw」
もう1ヶ月しか無いんだと思うと、このオヤツタイムも私にとって大事な時間だったと感じる。


「ものすごいデリカシー無いとは思うんやけどな」
「なに?」
「それ」と言ってパーカーを指差す。
昨日も着てたのバレたかな?昨日家に帰る時車に乗ってる間は着てなかったから今日も来て大丈夫だと思ったんだけど。
「違う違うww」
美樹ちゃん、笑いすぎて撃沈。
お酒飲む時もそうだし、ケーキ食べてもよく笑うよね。
「大丈夫やと信じてるし、俺らが口出すのもおかしいと思うけど、真弥が何かやらかしたとしたらキリコでええから言っといでや。1人で何とかせんようにな」
パーカーと真ちゃんとどう関係があるんだろう。
けど…
「大丈夫、ありがと!」
こうやって心配してくれる人が居るのに、どうして心はすぐに揺れてしまうんだろう。
すぐに揺れないように、強くなりたいのに。