Story 48.きーちゃんの居る場所。

入学式。「おおーー!良いやん、良いやん」真ちゃん、初制服姿きーちゃん。盛り上がるのも分からなくもないけど「めっちゃ良くない?かわいい!最高!」って何度も言わんでいい。
学校まで送って、終わったら電話くれるように伝えてきーちゃんを見送った。その時に新入生の顔ぶれを見たら、ちょっときーちゃんとは違うタイプの子が多そうだったから心配だけど。これを旦那たちに言うと「過保護。」と一言で済まされてしまった。過保護かしら。
「真ちゃん、お願いがあるねんけど。」入学式が終わって、出てきたきーちゃんが真ちゃんにメモを渡す。きーちゃんからのお願いって珍しいよね。
きーちゃんは随分と出来るようになったものの相変わらず文字を読むのに苦労していて、勉強も苦戦していた。教科書を開いたら1回で理解するのが辛かったから担任の先生に参考書と売ってる本屋さんを聞いてきたとのこと。「あとね、辞書もあればいいって言われてん…ごめん」なんで謝るかなー。先生がオススメした参考書は、学校近くの本屋さんにあるようだった。
「きーちゃん、私プレゼントするよ」大事な娘が前向きに頑張ろうって思ってるんだから嬉しくなるじゃない。私ときーちゃんは本屋さんに寄って、旦那たちと後で合流することに。2人で歩くことが出来なくなるんだから、たまにはいいよね。
「クラスどんな感じ?」「中学生の時よりはマシだけど、なんか色が違う」色かぁ。見かけた新入生を思い出す。確かに確かにきーちゃんとは違うタイプが盛りだくさんだった。タイプの違いが色に見えるのかな?
「来月、引っ越すやん。大丈夫?」今更聞いても仕方ないのは分かってるんだけど、つい聞いてしまった。「…。」「大丈夫よー。でも、夏休みとか冬休みとかに会いに行っていい?」一瞬、間があった。きーちゃんなりに言ってくれたのが分かった。きーちゃんがこう答えるだろうとも想像ついたんだけど。
「会いに来れなかったら私が行くからね」きーちゃんがうふふ♪と笑う。やっぱりこうやって笑うきーちゃんがかわいいと思うし、好きだなーって思う。
参考書も無事手に入れ、合流すると真ちゃんはもう辞書も買っていた。辞書って分厚い本を想像したんだけど、学校に電子辞書持って行っていいんだ。辞書だと一氣に違う文字まで目に入るけど、電子辞書なら調べたいものだけの項目が出るからと前から考えてたんだって。すごいなー。私、辞書の心配まではしてなかったわ。
帰宅して、一息入れてるときーちゃんと真ちゃんが立ち上がってリビングから出ていった。特に珍しい光景でも無くなっていたから氣にしないけど。
「アウト。」と言って真ちゃんが戻ってくると、旦那は先生に電話をかける。警戒はしてた。予想通り、きーちゃんは「頭痛がする」と休みに行った。
あらかじめ先生も入学式が終わったら様子見ておいてと言ってくれてたから、連絡するとすぐに向かってくれるらしい。この連携プレイ、慣れたものだよね。
一時保育のマハルを迎えに行って帰宅すると、きーちゃんは悪化していた。頭痛と発熱以外に胃痛と嘔吐。体調不良のレベルがひどくなってない?吐血したわけでないから再発じゃないだろうと言われて一安心。
「1日行っただけでコレとかホント自分が嫌ー。悔しい」様子を見に行くと、きーちゃんが言う。「初日だから仕方ないよ。ちゃんと休まないと明日早速欠席になっちゃうよ」「それもいやー」
「こっちで寝てちゃダメ?」フラフラになりながらきーちゃんがリビングに来る。まだ熱は下がっていない様子だから布団に戻るよう言おうとする前にソファーで横になってしまった。真ちゃんの膝に頭を乗せて横になって甘えてる姿はやっぱり年齢よりもずっと幼く見えて、元氣な時がずっとしっかりした分、調子が悪い時とのバランスの悪さを感じる。旦那は「甘えることが出来るようになっただけ進歩やん」と言うけど、何か不安になる。そんな事を言いながらも絶妙に複雑な表情を浮かべているのが面白い。
翌日は熱が下がって無事に登校したものの、帰宅するとまた頭痛と熱が上がり吐く。学校でも保健室で休むことが多いらしく、最初の10日はそんな感じで不安が募る。
真ちゃんが月末の食事会の準備に入る為に家を約1週間ほどあける。食事会が終わればすぐに私たちの転居が控えていて余計に心配。
転居の準備は、向こうで足りない家電を買い足すつもりだし、実家に戻る度に季節外れのものも持っていったから荷物も少ない。なので、うちと真ちゃんの車2台で荷物を運ぼうという計画だけども、きーちゃんは遠出出来るのか。大丈夫なのか。
「そういえば、マイコの件どうなったの?」旦那と2人で晩酌タイム。他の事に氣を取られすぎて忘れてた一件。旦那が人違い襲撃の事も含めて片付けは任せろ。と言っていた。あれから時々旦那は出掛けていて、その件の事じゃないかとフワッと思っていたものの詳しくは聞いていなかった。
「もう片付くんちゃうか?」何か軽いなぁ。「真ちゃんの会社の共犯いたやん?あれどうなったの?」「あれは社長に投げた」そうだったんだ。それもあるから、療養休暇と言う名前の休みが延長になったんじゃないかと感じたり。
「マイコは?」と聞くと旦那は黙って私を見る。「聞きたい?」何か嫌な予感がしたから聞かないことにした。「とにかく、ひとまず大丈夫ちゃうか?次、現れたらこれじゃ済まないって釘を刺してるし」と言う旦那。何かめっちゃ怖いんですけどー。氣になるけど、絶対聞かない方がいい氣がする。知らない方が幸せってこともある。
食事会前日。準備の為にきーちゃんはおばあちゃまの家に行った。体調が不安だったけど、本人がやる氣なので送り出した。明日、私たちもお手伝いすることにしていた。きーちゃんはマハルも来ても大丈夫。と言ってくれたけど、聞いてるとすごく改まった場みたいだし一時保育へ預けることにした。お手伝いと言っても準備で家を開けていた真ちゃんを言われた所に迎えにいく運転手だから、私はきーちゃんに付いていたら良かったかもしれない。真ちゃんが留守にしている1週間強。緊急で何かあればおばあちゃまに連絡して。と言われ、直接連絡は取れないようなことを言われていたから仕方ないんだろうけど、本当に一度も連絡が無かった。きーちゃんの体調もずっと芳しくないし、留守の間もやっぱり帰宅後寝込んでいるから心配して電話かけてくるんじゃないかって思ってたんだけど。

食事会当日。私が何故か緊張して寝られなかった。旦那によると、一度真ちゃんを迎えに行った後に一度おばあちゃまのうちへ行って着替えたら、会場へ。という流れらしい。
カジュアル過ぎなきゃ普通の食事会だから大丈夫。とおばあちゃまは言っていたけど、こういう時どんな格好をしたらいいか悩む。
朝イチ受付時間にマハルを預けて、真ちゃんとの待ち合わせの場所に向かった。真ちゃんはいつものように話しているけど、やっぱりどこか緊張しているみたいで、私には想像のつかない世界にいるんだろうなと改めて思った。
おばあちゃまのうちに着くとお弟子さんが迎えに出て来てくれた。普段はおばあちゃまのお弟子さんとは言え普通に話している2人が、真ちゃんの姿を見るとお弟子さんは深くお辞儀をした。その姿を見て、パンピー(一般人)の私がここに居ても良いのだろうかと一瞬ひるんでしまった。着替えた後、おばあちゃまとおじいちゃまと少しやらなきゃいけないことがある。とのことで私たちは待機。
「ちょっと一服。あかん、わけわからんようなってきた!」と着替えた真ちゃんが部屋に入ってきた。てっきりスーツかと思ってたら和装なんだ。紋付袴ってやつ?正装だよね、これ。「七五三みたいやろwww」と自ら言って笑ってるけど、七五三みたいな可愛らしい雰囲氣全くないよ?
しばらくしてドアがノックされて、扉がそっと開いた。「きーちゃん、かわいいーー♡」黒地に豪華な刺繍の振袖を着たきーちゃんだった。「お人形さんみたい♡」「これね、おばあちゃんの妹さんのを借りたの。かわいいよねー♡」とくるくる回って見せてくれる。
振袖着るくらい改まった席ってこと?私、スーツだけど大丈夫?旦那もスーツだけど正装じゃないよ?
「これからの会、美樹ちゃんたちも良かったらどうぞって、おじいちゃんが言ってたけどどうする?」ときーちゃん。「何するの?」「んーと、何だろ。今からお家を継いで頑張ります!的なこと」
何じゃそれ。イマイチピンと来ないから行ってみようかな。溢れる好奇心ってやつ。「おじいちゃん達に言ってくるねー」ときーちゃんはまた部屋を出て行く。「お人形さんが走ってるみたいでかわいいよね」と旦那に言ったけど、「市松人形が走ってたらかなりホラーじゃない?」と言われてしまった。例えの話じゃないの。
そして、なぜか真ちゃんはソファーの陰に隠れていた。何してんの。
「あと10分くらいしたら奥の座敷に来てください。って」再び姿を見せるきーちゃん。「何してんの?」何故かソファーの陰にいる真ちゃんに声をかけていた。てっきりきーちゃんも空氣に飲まれて緊張してるかと思ったけど大丈夫そう。
「おかえり」ときーちゃんは真ちゃんに言う。そうか、真ちゃんが出かけてから会ってもないし話もしてなかったのか。と思いながら話してる2人を見ると、何だか不思議。いつも一緒に居てよく知ってるのに、そこだけ空氣が違うように感じるのは格好のせいだろうか。
きーちゃんの説明ではライトに『頑張りますと言うだけ』みたいだったのに、ライトどころか厳かな雰囲氣なんですけど。真ん中にはおばあちゃまたち。
その正面には、真ちゃんのパパや先生だけではなく知らない人が何人も居て、迂闊に行くと言ったのを後悔してしまった。
少しすると、お弟子さんに連れられて真ちゃんときーちゃんが入ってくる。2人が入ると同時に部屋が緊張した空氣へかわる。「後で行くね」って言うからてっきり私たちの居る方に来ると思ったらそっち?きーちゃんは助手的ポジションのようで、真ちゃんの少し後ろに座って、その時に必要であろう道具を渡したり、逆に下げたり。何をしているのか分からなくても上手に勤めてると思う。
今、見ているのがどういう意味のものかはハッキリ分からないけど、初めて見る世界に圧倒された。きーちゃんの居るべき世界は私たちが居るこの世界ではなく、目の前の非日常な世界なのかもしれないなーなんて思いながら眺めていた。おじいちゃまが手元にある小さな箱を真ちゃんに手渡して真ちゃんが一礼すると、緊張した部屋の空氣は一氣に緩む。そして、拍手が起きる。その光景に再び一般人の私がここに座っていて良かったのかとひるむ。一礼した真ちゃんは参列したゲストに向かって礼をすると、今日集まってくれたことの礼を述べる。その姿はいつもの柔らかい雰囲氣の真ちゃんとは違っていて、長く続くお家を継ぐということ、その家の主として在ることの責任と覚悟が見えて、更に別世界を垣間見た氣がした。
会場へ向かう途中、きーちゃんがコンビニに寄りたいと言い出したので連れて行く。日常でしかないコンビニで浮く非日常な2人は「アイスが食べたい」「汚したらどうすんねん」と言い合っている。
「甘いの食べたいー」とむくれているきーちゃんはやっぱりいつものきーちゃん。「アイスは終わったらいくらでも買ったるから」と旦那に諭されて買ったチョコを食べる。そして思った通りチョコを落として世話をやかれているし。「シミになってない、セーフ」と笑うのはやっぱり普段のきーちゃんだ。
会場もなかなか非日常なお店で、「料亭ってやつ?私この格好で良かった?」と思わず不安になる。「普通の食事会じゃないの?」「普通って言ってたよな、婆さん」旦那も若干焦っているようで、庶民仲間がいてホッとする。
「ねーさん、先にお席行く?それとも一緒にこっちいる?」席にはもう先生たちが居てるそうだけど、怖すぎて私たちは迷わずきーちゃんたちといる方を選択。きーちゃんが控室って言うから安心したのに控室?と聞きたくなるくらい立派なお部屋だし。お店の人が改まってご挨拶に来るし。本格的に会場に入るのが怖くなってきたんですけど。
何か用事があるようで、きーちゃんはおばあちゃまに呼ばれて途中で部屋を抜ける。私と旦那はただ圧倒されてるんだけど、真ちゃんは今のうちと氣を抜いて煙草吸ってるし。
「真ちゃん真ちゃん」きーちゃんが戻ってきて何か真ちゃんに話している。2人の食事のことらしい。おばあちゃま曰く、食事会というものの真ちゃんはほとんど食べられないからこっちで軽く済ませておくといい。らしい。私もこっちで食べたい。想像するだけで会場入る勇氣ないわ。
「これ、帰ったら熱だすんじゃないの?」と忙しく動き回ってるきーちゃんを見た旦那が心配してるけど、私もそれ思ってた。ちょうど先生も来てるから後で言っておこう。
おじいちゃまとおばあちゃまがわざわざ私たちにお礼を言いに顔を出してくれたけど、緊張はとけない。ただただ別世界に圧倒されていた。おばあちゃまに言われて、私たちは先にお席に向かうけど…
「私たち、来てよかったの?」「いいんじゃないですかね?帰りたくなってきた」食事会だよね?せいぜい15人とかそのくらい位しか居ないと思っていたけど、そんなものではない。何人くらい居るんだろう。そして、ゲストもその辺にいるようなおっちゃんおばちゃんでも無さそうだし。和やかに談笑されているけど、部屋の空氣に圧倒される。
「おおー、やっぱ来たなー」と私たちを見つけて先生が声をかけてくれる。知った顔があると、心強い。「席、ここでいいんですか?」先生に案内されて席につくけど、結構上座に近いよ?すぐ隣は先生だけど、その隣は真ちゃんパパだし。真ちゃんパパはさすがというか、もう飲み出していて、アキちゃんのパパでもあるのよね。アキちゃんのマイペースさはパパ譲りなのか。などと考えて現実逃避。
おじいちゃま達がご挨拶した後、真ちゃんがご挨拶をするけど、いつもの真ちゃんではなく、別人のようで私は更にアウェー感。真ちゃんたちが席につくと食事会は始まる。確かにご飯を食べる暇がない位、真ちゃんの所には入れ替わり立ち代わり人が来る。ただその光景にやっぱり圧倒されて、私もなんだかお食事をいただく氣分にはならない。きーちゃんと時々目が合うと、ニコニコしながら手を振ってくれるのが癒し。
観察しているけど、真ちゃんのポジションがよくわからない。「お家を継ぎます。よろしくお願いいたしますの会」ときーちゃんから聞いたけど、見るところゲストの方がご挨拶に行ってる感じ。ランクでいうと真ちゃんの方が上。なんだ、一瞬時代劇を想像してしまった。家督を譲られた若い殿様に家来がお祝いの挨拶に来たみたいな。家を継いだってことは家督を譲られたってことだろうからあながち間違いじゃないのかしら。きーちゃんは逆に、ゲストの奥さまと思われる方々に1人づつ挨拶に回って、まるで嫁いできたお嫁さんみたい。
ああ、わかった。この雰囲氣、あれだ。実家の兄の結納の時の雰囲氣っぽい。違うのはわかってるんだけど、そんな空氣。なんかスッキリ。
「別に結納とかそんなのじゃないよね?」と旦那にコッソリいう。「なんでやねんwwwそれやったらきーちゃんの両親来とるやろが」と笑われたけど。しばらく過ごすとお料理を味わう余裕も出来たから、次来ることがないかもしれないお店の料理を楽しんだ。きっと役得ってやつよねー。位まで思えるようになっていた。

一度おばあちゃまの家に戻る。「動きやすいのさいこーー」と普段の服に戻ったきーちゃん。完全にいつものきーちゃん。「帰り、ホントにアイス買ってもいい?」と旦那に聞いてるのがかわいい。どれだけアイス食べたいの。
帰宅して、完全に日常。一日だけの非日常。緊張感は半端なく、真ちゃんに至っては珍しくソファーでダラけてる。きーちゃんは「明日実力テストー。何にもしてないー」と帰りの車内で「どうしよう」と不安になっていたけど、マハルのリクエストに応えて手遊び歌を歌ってる。
今日、目にした非日常はおそらく真ちゃんの日常の一つだろう。そしてきーちゃんの日常にもなるんだろうなと漠然とマハルと遊ぶきーちゃんを見る。私たちには別世界だけど、こういう世界に居るのが自然なのではないかと思った。アキちゃんがきーちゃんはそこらに居ていい人間ではないと言って、それがまるできーちゃんを崇拝しているかのようで違和感を感じた。本来居るべき所でない場所に居てしまったから、多くは語らないけど辛いことが多すぎたのかもしれないと思うと、色々と納得できた。緊張感は見えるものの、きーちゃんは明らかに別世界では楽しそうで表情が違った。そうなると、私とは違う所に行ってしまうのかと思うと少し寂しく、そしてこれから離れて暮らすことに不安を感じてしまう。
次は私たちの転居が控えている。距離だけでなく全てが離れてしまうような氣がして、自分が決めたことだけど不安と後悔しかなかった。
「あのね…」マハルと遊んでくれてたきーちゃんが急に私たちに声をかけてきた。その声にソファーでダラけてた真ちゃんがダッシュで起き上がってきーちゃんの元に走る。「ごめんー、急に来たー」と言って倒れ込むきーちゃん。真ちゃん、ナイスキャッチ。よく氣が付いたね。
ソファーに搬送されるきーちゃん。「どうせ寂しい言うんやろ。ここで寝とき」と真ちゃんに言われて大人しくソファーで横になる。「明日ーー」「熱下がらないとテストは受けられんやろ、寝ときなさい。実力テストやねんからありのままの自分の実力を出したらええが」まあ、真ちゃんの言ってることは間違ってはないけどなんだろう釈然としない。雑だなぁ。けど、きーちゃんは明らかに発熱してるから休む方が先だね。「今日は疲れたもんな、ご苦労さん。ありがとな」と言ってきーちゃんの頭を撫でる真ちゃんの表情はなんだか幸せそう。一大イベントを終えてホッとしたのもあるのかな。旦那が先生から預かった薬をきーちゃんに渡す。ホントナイス連携だよね。
マハルも心配なようで、きーちゃんの所に移動して何か言ってるけど、早めに寝室に上がってきーちゃんをゆっくりさせる事にした。旦那も非日常な空間に居て疲れたと珍しく余り飲まずに就寝。
私1人暇じゃん。リビングに降りて一服するか。リビングのソファーで引き続き休んでるきーちゃん。明日までに熱が下がるといいんだけどね。
真ちゃんの側で寝ている表情は、高校生になったとは言えまだまだ幼さが残る。出会った時はもっともっと子供だった。それよりも前、ランドセルを背負っているような頃、きーちゃんはどんな風に過ごしていたんだろうか。相変わらず出会う前のことはほとんど話さないきーちゃん。けど、一緒に過ごしてる間だけでも私には想像もつかないような思いをしてきたのは分かる。10代で多感な年頃であるとはいえ、とても敏感で繊細で、驚くほどネガティブで全てに怯えているようにも感じる。今まで辛かったことが多かったかもしれないけど私達のいる所だけでも心穏やかに過ごして欲しいと、今でも思っている。
もうあと何日かしか、一緒に暮らせない。自分が決めたこと。分かっていても、悔しい。旦那は落ち着くまで私はこっちに残るという選択肢も残してくれたけど、今日のきーちゃんを見てそれは消した。旦那と離れて過ごすことが考えられないこと、そして、きーちゃんがアキちゃんが言っていたように本来居るべき場所できーちゃんのまま過ごすためにはそれがいいと感じた。海を越えて海外に行かなくても、その場所があることをこの目で確認した。
さすがに注意したせいかそこまでイチャイチャしていないけど、やっぱり2人の雰囲氣が違うよね。やっぱりきーちゃんが一段と真ちゃんに安心して甘えてる氣がする。真ちゃんは、時々睨みつけないとハメ外しそうな所あるけど。 まあ、付き合い始めた頃ってどうしても周りはうわぁって引くぐらい2人の世界を作りたいものだろうけど、その辺りは私たちがいるせいでそれが出来ないのは氣の毒だなーと思う。引っ越しまでにきーちゃんの安心した表情を見ることができて、ホッとしたのも事実だったりする。
「ところで真ちゃん。」分かってる、分かってるんだけどね。「本当、大丈夫?」大丈夫だとは思ってる。けど、正直真ちゃん1人にかかる負担は今以上に大きくなるのも事実。ようやく想いが成就したのかもしれない。今は浮かれてるかもしれない。前に先生が言ったようにきーちゃんを取り巻くものは根深い。きーちゃん自身、自分では常識だと思っていることも通用しないし、考えられないほど繊細だ。それも真ちゃんの負担になるんじゃ無いかと心配になっているひとつ。きーちゃんのことを大事に思っていても、負担は負担だと思う。それから関係が壊れることだってあり得る。結局、離れた所から私がどう手助け出来るのか考えたけどその答えは出ないままだった。
「何が?」「自分が決めたことだけど…」「キリコが決めたことは全部最善なんやろ。ちょっとは信用してや」と笑う。
少し救われた氣がした。