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Another story 48.嬉しい氣持ち。
「じゃあ、行ってくるでな」
「行ってらっしゃい」
真ちゃんはおうちを継ぐ為の最後のお仕事に行く。
今日から会までの1週間、電話も出来ない。
「きーちゃんも一緒に送って行けば良かったのに」
真ちゃんを駅まで送る美樹ちゃんの車を見えなくなるまで見送っていたらねーさんが言った。
ホントはね、ついて行きたかったけど。
マハルくんを抱っこするとマハルくんはニコニコしていい子いい子してくれる。
「だって、ねーさんとお買い物行きたいもん」
朝、お見送りには行かないと言ったら、ねーさんが「じゃあ買い物行こう!」と誘ってくれた。
ねーさんとゆっくりお買い物行くのも多分最後になりそうだし。
「よし、じゃあ出発だー!」とねーさんが言うとマハルくんも真似してバンザイ。
可愛すぎる。
車に乗ってモールへ。
「今日はねー、氣合い入れて行くよ!」
ねーさん、お買い物の時はいつも氣合い入りまくりじゃないの。
「まずねぇ、一番氣になってたからね…」
新しい服買ってもいいけど、もうすぐ引越しだよ?
美樹ちゃんに買いすぎないようにスイッチ入ったら止めてやって言われたけど、もう止めた方がいい?買う前からスイッチ入ってるよ。
てっきりねーさんの物を買うのかと思ったら、ねーさんの物ではなく私の物ばかり選ぶ。
「大丈夫!大人の世界には退職金という素敵システムがあるから!おねーちゃんが妹のもの揃えるの当たり前♪」
あ、久しぶりに聞いた。
初めてねーさんがこう言ってくれた時、嬉しかったなー。
けど、美樹ちゃんが「退職金あるからって買いすぎなや」って言ってなかったっけ?と心配になるレベルで次々と品物をカートへ入れていくねーさん。
あまりにも豪快に次々と入れるからベビーカーのマハルくんも「ポイっ」って真似してるのはかわいいんだけど、ホントに大丈夫なのかな。
「ほら、在庫無くなってもきーちゃんが自分で用意するとは思えないしー」
今日買って貰ったもの。
シャンプーやらトリートメントやら化粧水やら…日用品が圧倒的に多い。
いつもは新品が1つあるようにしているのに、今日は3つづつ。
まだ残っている在庫は置いていってくれるって言っているから大丈夫だと言ったけど、こう返されてしまった。
まあ、うん、ねーさんの言う通りな氣もするけど、シャンプーとかは無くなったらさすがに買うと思うの。
「いいのいいの。可愛い妹が更に可愛くなる為におねーちゃんは労力を惜しまないものよ」
なんだそれ。
「あ、そうそう!あれだ!」
あれって何?マハルくん退屈してきたよ?
マハルくんを抱っこに変えて電化製品売り場へ。
「じゃーん!こっちのが乾かしやすいと思うんだよね。髪、濡れたままにして風邪ひいたら大変」と言ってねーさんはくるくるドライヤーを選ぶ。
なんか違いがあるんだろうか。
私には違いがわからない。
「さすがに向こうは田舎言うても、買ってきたのほとんど売っとるで…」
家に帰ると美樹ちゃんがもう帰っていて、荷物を運ぶのを手伝ってくれる。けど、大量の日用品を見て溜息をついてる。
「違う!これはきーちゃんのだってば」
「何でシャンプー3本も買ってんねんな」
「きーちゃん、適当にその辺あるやつ使いそうだから!」
「なるほど」
なんで美樹ちゃん『なるほど』って納得してるのかな。あるやつで良いんじゃないの?
会が終わった次の週末がねーさん達の引越し。
真ちゃんが帰るまでの間、美樹ちゃんとねーさんに生活の色々を教えてもらうことにした。
ゴミ出しも登校の時にしてたけど、たいがい前の日にお願いされるから曜日を氣にしたことなかったり、光熱費の支払いの日までに口座に入金しておかなきゃいけないとか、お手伝いでお掃除は出来るようになっていたと思ってたけどそれ以外にも細々としたことも実はしなきゃいけなかったとか。
3年間で一人前になれたと思ったのは幻だったようだ。
「この辺は真弥に任しておけば勝手にやると思うで」と美樹ちゃんは笑うけど、何でもかんでもやってもらうのは申し訳なさ過ぎて、せめてねーさんが担当してたことは出来るようになりたいと思うんだ。
真ちゃんが帰るまでに週末は一回。
その2日はおばあちゃんのおうちに泊まりに行って準備のお手伝いと会の前にある儀式の練習。
その間の平日は学校へ行ってその後おばあちゃんちへ行って練習…と結構ハードでバテそうだけど、甘えてる場合じゃないと喝をいれる。
高校生活に淡い期待を抱いていたけど、人生そこまで甘くはない。
まるっきり孤独と言う事は無いけど、居辛いものは居辛い。だから、会の準備や練習をしている方がずっと氣が楽だった。
「きぃちゃん、今、途切れたな」
おばあちゃんの声。
「もう一回お願いします」
おばあちゃんに集中力が途切れたのはしっかりお見通しだったみたい。
「ちょっと休憩しよか」とおばあちゃんが言ってくれるけど、休憩して大丈夫かな。
儀式にかかると言われた時間を測ってやってみるけどどうしても途中で集中力が切れてしまう。
私のお手伝いは場を整えること。
儀式をするお部屋の空氣を平らにしなきゃいけない。
練習と言っても瞑想に近いかもしれない。
まず自分を平らにして、そこからお部屋全体に意識を広げる。
お部屋の波を一定にする。
簡単そうに思えたけど、実はめちゃくちゃ難しくてなかなか言われていた時間集中出来ない。
すぐに雑念が湧いてきてそれに揺らいでしまう。
そこにその時々に必要な道具を真ちゃんに渡さなきゃいけない。
1週間を切っているというのに道具を見た瞬間にお部屋の空氣への意識が切れてしまう。
近しい人達だけど、何人か列席すると聞いたからきっとおばあちゃんと弟子のおっちゃんと3人でする練習よりも緊張してしまうだろうから、ずっと集中力が必要だと思う。
「お家で出来る練習ってある?」
おっちゃんがお茶を淹れてくれて休憩時間。
「道具が絡まなかったら完璧やから、家ではゆっくりしといたらええよ」とおばあちゃんは言ってくれるけど、せめて儀式の間は集中力が途切れないようにしたい。
「道具は真弥が自分で用意したらええ話やからね」と笑う。
真ちゃんが自分で用意って、真ちゃんが帰ってくるの会の日の朝でしょ?
帰ってきて当日に「やっぱり道具は自分でやってね♪」なんて言って良いんだろうか。
「自分で出来へんと何が当代ですか。それも出来へん当代なんて認めへんから心配いらへんで」とまたおばあちゃんは笑った。
おばあちゃん、それあんまり冗談に聞こえなくて心臓に悪いよ。
おばあちゃんは家ではゆっくりしたら良いよと言ってくれたけど、ねーさん達に『おやすみなさい』した後に真ちゃんのお部屋に行って練習。
私のお部屋を作って貰った時、美樹ちゃんは「この部屋で落ち着く?」って言ってたけど、確かに自分のお部屋は集中するのに向いてない氣がする。
真ちゃんのお部屋と私のお部屋との違いはなんだろう。
白とピンクのコントラストが集中力を妨げるのだろうか。
本当は練習だから集中力を途切れさせたらいけないけど、ふと浮かんだ好奇心に負けてしまった。
まず真ちゃんのお部屋の空氣を感じる。
その後自分のお部屋に戻って自分のお部屋の空氣を感じる。
やっぱり私のお部屋のが賑やか。
そうか、大好きな子たちがいっぱいだからだ。
「あのね、あのね」って私に話しかけるからだね。
なるほどなるほど。
ってことはやっぱり集中の時間を伸ばすには真ちゃんのお部屋のがいいな。
ということで移動して、またお部屋の空氣を平らにする練習。
けどやっぱり出来ない。
『おまえは何をやっても鈍臭い』
昔言われたおとーさんの言葉が過った。
うん、知ってる。
何度練習しても続けられない。
心が折れてベッドへダイブ。
「今日ここで寝ちゃダメかなー」
真ちゃんが一緒に居てる感じがする。
『何かを受け取ろうとするからやで』
厩戸皇子ツアーの時、夢殿前で真ちゃんが言った言葉が落ちてくる。
いつもは感じる空氣が感じなかった時に言ってた言葉。
あ、分かったかもしれない。
「ありがとーー!」
真ちゃんが居ないからかわりにベッドに畳んで置いてたパーカーにお礼を言う。
あ、ちょっと拝借。
「やっぱ、ちょっとでっかいな」
いいや。後でちゃんと畳んで返しまーす。
借りて着てみると、真ちゃんが一緒に居てくれてるみたいで何だか落ち着く。
集中力を切らさないように緊張してそっちに意識を持っていってた。
だから、ただそこに居るだけにする。
タイマーの音がする。
「よし!」
ガッツポーズ。
やっぱりそうだった。
何かをしようとしなくても良かったんだ。
行けるかもしれない。
一氣に氣が抜けてそのまま寝てしまった。
「きーちゃん、3時やで。婆さんとこ行くんと違ったんか?」
美樹ちゃんの声で飛び起きた。
「何時?」
「3時」
「寝過ぎた!!美樹ちゃんありがと!」
ダッシュで着替えに行く。
「あ、きーちゃんおはよー」とリビングに居たねーさんを見つけてマハルくんとねーさんにハグ。
「寝坊したー!」
「うん、もうどっちかって言うと夕方に近いもんね」とねーさんが笑う。
大失態。
「また遅くまで起きてたんやろー。大丈夫?」
ねーさんが髪を梳かしてくれる。
「最近帰ってからしんどそうだし心配だわー。一緒に行こうか?」
「大丈夫よー、明日で終わるから」
マハルくんも居るし、引越し準備もあるのに一緒に来てなんて言えない。
頑張れ、わたし。
おばあちゃんちへは美樹ちゃんが送ってくれた。
ねーさんとマハルくんはお留守番だったから、美樹ちゃんがおばあちゃんに電話してデッドラインの時間を聞いたら今日はのんびりで大丈夫だと言ってくれたらしく、寄り道してケーキタイム。
ラストのケーキタイムはもう終わっちゃったからボーナスゲットした氣分で嬉しい。
「婆さん、今日はゆっくりでええって言ってたし、しんどいんやったら明日真弥迎えに行く前に送ったるから無理しなや」
緊張なのか今日はケーキひとつで良いよと言ったら美樹ちゃんがこう言ってくれた。
ねーさんも心配してくれたし、やっぱり心配かけちゃってるよな。
ねーさんは前に大きくなったらすぐに熱が上がるのも治まってくるよと言ってくれたけど、その氣配は無い。ねーさん達が引越しするまでの間に疲れたら倒れるってのを治しておきたかったんだけどな。
会当日。
私はお手伝いするだけだと言うのに緊張して寝られず、着付けしてもらう時間よりずっと早くに起きてしまった。
朝の陽射しが氣持ち良くて庭に出てみる。
鳥の声と光の声。
川の音かな?水の流れる音もする。
「今日、がんばります!」
太陽に向かって宣言する。
「ありがとう。でも無理はあかんで」
おばあちゃんの声がした。
いつの間に外に居たんだろう。
聞かれてしまった。恥ずかしい。
「まだゆっくり出来るけど、ご飯だけ食べてしまおうか」とおばあちゃんが母屋に連れて行ってくれる。
おばあちゃんが朝ごはんを用意してくれた。
お味噌汁と玉子焼きとご飯の香り。
「これもあるで」といろんなおかずを出してくれる。
私の話を笑いながら聞いて返事してくれる。
おかーさんの方のお婆ちゃんを思い出した。
お婆ちゃんもこうやって話を聞いてくれてた。
もう、3年会ってないのか。
これからも家に帰るつもりは無いからきっと会えないだろうな。
少し寂しくなった。
「やっぱりかわいい!」
おばあちゃんがお着物を着せてくれた。
おばあちゃんの妹さんが氣に入っていたという黒色の振袖。
妹さんが居なくなってしまってからも、処分が出来ずにメンテナンスしながら残していたとおばあちゃんが言っていた。
「きぃちゃんがええって言うてくれるなら、鏡子の着物着てくれたら嬉しいわ」
「いいの?おばあちゃんの大事じゃないん?」
「ずっと肥やしにするよりもこうやってかわいい言って着てくれた方が嬉しいわ」
「また借りていい?」
「古くさいから申し訳ないけどな」
十三参りで借りた着物も鏡子さんが着ていたもので、おばあちゃんはその時も『古くさい』と言ってた。
けどねーさんはレトロなデザインもそうだし、仕立ても物も良いから逆に贅沢です!と力説していたけど、ホントそう思う。
「また家来た時に広げよか。まだな、蔵にもあるねんよ」とおばあちゃんが笑う。
「会が終わってもまたお邪魔していい?」
真ちゃんが家を継いでも、おばあちゃんもまだお仕事から引退する訳ではないと言っていた。
泊まりでもお仕事に出かけるくらいおばあちゃんは忙しい。
それに居心地が良いからと会のお手伝いという大義名分の元に入り浸って居たけど、その会が終わってからはきっとそんなに氣軽に行っちゃいけないと思ってた。
「待ってるで。きぃちゃんが来てくれへんかったら真弥も顔出してくれんわ」
おばあちゃんちにお泊りさせてもらう時、おばあちゃんと真ちゃんとお弟子のおっちゃんと4人でお買い物へ行くのが日課のようになっていたけど、これは私がお邪魔するようになってからだと言う。
「それまでは帰ってきてもな、用事なかったらほとんど顔出さんし、車出そうか?なんて言われたこと無かったわ」
それも私が一緒に来るおかげだと、また「ありがとう」と言ってくれた。
水色やオレンジ色、ピンク色の着物もあると教えてくれて、次にお邪魔する時までに着られるように支度をしてくれると約束をした。
また次があると思ったら、嬉しくなった。
会の時間が近づいてくる。
庭に車が止まる音がして、おっちゃんが外に向かった。っていうことは、真ちゃんが帰ってきた!
なんだか緊張してきた。
おばあちゃんと帰ってきたおじいちゃん、真ちゃんのパパとリビングでお茶を飲んでいたけど、緊張でお茶を飲んでる氣分では無くなってきた。
「お香、焚いてきます!」
まだ少し早い氣もしたけど、動いていないと緊張する。
香炭に火をつけると、落ち着いてきた。
大丈夫。大丈夫。
だいぶ落ち着いて途中で集中が切れることなく会を終えることができたと思ったけど、自分が意識しないところでとてつもなく緊張していたようだ。
儀式と会が終わってみんな一息ついた夜。
リビング隣の私のお部屋でマハルくんと遊んでいたら急に目眩と耳鳴りが始まる。
ソファーに搬送されてしまった。
大丈夫だと思ったんだけどな。しかも、明日テストだと言うのに何も勉強してないし。
こういう時、バチッと最後までキマッたらかっこいいのに。
みんながまだリビングに居るのに1人でお布団は寂しいからソファーに居座ることにした。
美樹ちゃんがお薬とお水を持ってきてくれた。
ねーさんは掛け布団を持って来てくれた。
マハルくんはすぐ横まで来てたくさんお喋りしてくれて時々「いいこ、いいこ」と頭を撫でてくれる。
熱を出したり倒れることがとっても迷惑になるのも分かってるけど、嬉しい。
「今日は疲れたもんな、ご苦労さん。ありがとな」と真ちゃんが言ってくれる。
ちゃんと役に立てたかな。それなら嬉しい。
みんなと居ると、嬉しいが増える。
もっともっと、一緒に居られたらいいのに。