Story 49.新たな生活へ。

きーちゃんの実力テストも無事終了。朝にはきーちゃんの熱も下がっていたけど、満員電車での登下校は心配だからと真ちゃんは朝送って行って下校時間に合わせて迎えに行ったけど…
「遅い!!」「何やねんな」と旦那に怪訝な顔をされたけど。遅い!今日は学校が昼までだって言ってたのに何で夕方過ぎても帰って来ないかな。「きーちゃんかて高校生やねんから寄りたい所くらいあるやろ。まだ陽も暮れてへんねんからええやないか」いや、そう言われたらそうなんだけど氣になるじゃない。「真弥が迎えに行ってるんやしそんな心配せんでも。かーさん過保護が過ぎまっせ」あの衝撃から1か月弱。真ちゃんは頑張って隠そうとしてるけど、明らかに2人の間の空氣が今まで以上に親密になってるの氣付いてないのかしら。男の人ってその辺り鈍いのかしら。「浮かれる時期やろうからたまにはゆっくりしたいんちゃうの。口煩く言うと大好きなねーちゃんでもウゼェって言われるで」と笑う旦那。「氣付いてたの!?」「何が」「今、浮かれる時期って…」「制服着たまま遊んでる子よう見るやんか」あ、そっち?「そっちってどっちやねん。」もうそのまま氣付かないままでいて。氣付いたら氣付いたでうるさそうだし。
夕食時間ギリギリに2人は帰宅。おばあちゃまにおつかいを頼まれたから、それを買っておばあちゃまのおうちに寄ってきたらしい。
って、また付けてるし!着替えたきーちゃんを見て動揺。夏の格好するのはいいけど、もう少し氣を付けなさい。真ちゃんも真ちゃんだ。「きーちゃん!今日冷えるからパーカー着てきなさい!」「え?冷えてないよ?」「いいから早く着てきなさい!」腑に落ちない様子で上着を取りに行くきーちゃん。旦那はまだご飯を作っていてこっちにくる氣配はなし。「だから、見える所に付けんなって言ったでしょ!このバカタレ」コソッと真ちゃんをしぼる。浮かれ過ぎだっての。「見えへん所にしたやんか」「見えたわ!ホントバカじゃない?」ある意味浮かれる時期なのは分かる。それなりに一緒に過ごしてる時間は長いけど付き合いたてだからね、2人きりになりたいだろうしイチャつきたいと思うのもよく分かる。一応私たちに配慮しようとしてくれるのもありがたいと思うよ。けどバレたら意味ないじゃないの。今までとそう変わらないきーちゃんのがよっぽど大人かもしれない。旦那が氣付いたら絶対うるさいわ。ホント疲れる。って何で私がこんなに氣を回さなきゃいけないんだ。色々遊んでたし、この辺りはもうちょっとちゃんも氣を使う人だと思ってたけど、バカじゃなかろうか。いっそ旦那にも見られて殴られると良いわ。
転居前日。明日使う物以外をまとめてしまうと、嫌でもこの生活が終わることを実感してしまう。何かしらネタに尽きないこの生活は私には大きくてそして大切で、未練しかなく何度時間が経つのを止めて欲しいと思っただろう。
寝る時間が惜しく感じて、マハルと旦那が寝た後ウッドデッキに出てみた。きーちゃんがよく空を見上げている椅子に座って、空を見上げた。
何で決めたんだろう。基本自分の決めたことは最善の選択だと思うけれど、いきなり自分の選択でこの生活を終わらせること。後悔しか浮かんでこなかった。
「おねーさん、一杯飲んでかないー?」ときーちゃんが顔を出した。「どこのオヤジよー」きーちゃんは、ビールを持ってきてくれた。「明日だねー」とお茶を飲みながらきーちゃんが呟く。「引っ越しても、ねーさんは私のおねえちゃんでいてくれる?」ときーちゃん。「きーちゃんは私のかわいい妹だからねー」顔を見合わせて、うふふ♪と笑う。
思い出話はしない。そのかわり、これからどんな夢があるかを話した。「将来はね、雑貨が好きだから雑貨屋さんになるの。寂しかったり悲しかったりする人が来て、ホッとして鼻歌歌って帰るようなお店」と言ってきーちゃんはとっても素敵な夢を話してくれた。この世界に居るのが辛くて、いつも泣いていたきーちゃんだからこそ描けるそんな優しい夢。私は、そこに一緒に居ることが出来るのかな。と思うとやっぱり寂しかった。
そして、その日は2人でアキちゃんの部屋に行って天蓋付きベッドの中で空が明るくなるまでたくさん話をした。

「では、行きますか」荷物を積み終わって、改めて家を見る。
荷物は何度かに分けて運んだから、うちの車と真ちゃんの車の2台でいける。今年は長い連休だから。ときーちゃんたちも一緒に来て手伝ってくれる。
この家で色々あった。私の物の捉え方も変わったと思う。マハルも生まれた。本当の家族というものが出来た。血の繋がりがなくたって、家族になれる。この家に「ただいま」ともう言うことは無いと思うと寂しかった。「行ってきます」最後の「行ってきます」を言って、車に乗った。

実家までの道のりは長い。途中、休憩場所を決めて休憩する。「マハルくん、こっちに乗る?おいでー」ときーちゃんたちが言ってくれて、時々マハルだけ真ちゃんの車に乗せてもらう。
「マハル、大人しく乗ってるかなー」と後ろから来る真ちゃんの車を見るけど、やっぱりわからない。「あっちのが広いし大丈夫やろ」
「ホンマ、すまんな」と旦那。私が最後の最後まで、後悔していたことがバレちゃったのかもしれない。「大丈夫、私が選ぶことはいつも最善だから」旦那に言うフリをして自分に言い聞かせた。
実家へ到着。これからここが私のおうち。小さい頃から知ってるけど、「ただいま」と言うのは初めて。なんだか変な感じ。
今から荷物を降ろして家電を買いに行くのには遅いよね。と言っていると、私の実家の兄夫婦が顔を出した。疲れてるだろうからと、夕食と明日の朝食を手配して持ってきてくれた。きーちゃんは冬に私の実家へ行った時に義姉と打ち解けたみたいで何か楽しそうに話をしていた。
多分、きーちゃんにはこの家にいいイメージは無いかもしれない。手伝ってくれる。と言うのが嬉しくて甘えてしまったけど、大丈夫かな?
「あのね、一個いい?」と荷物を片付けている時にきーちゃんが言った。「すごく不思議なんだけどね、何で冷蔵庫とか買うの忘れてたん?マハルくんのベッドの時もそうだけど、割と大事なお買い物忘れるよね」痛い!会心の一撃!これに旦那は大笑い。
確かに家電用意しなきゃと言ってたけど、実際に買いに行くのはこっちに来てからでいいや。と放置して忘れてた。というか、本当は早めに出て今日中に見に行こうと言ってたのに寝過ごして出発が遅れてしまった為、家電量販店が開いている時間に合わなかった。というのが正解かもしれない。
「何でか知ってるで」と真ちゃん。「それはな、忘れたことにしてたらコイツ買いよるわって思ってんねんで」と笑う。「そうなんだ!なるほど!だから明日一緒に行くんや!」真ちゃんの答えに納得するきーちゃん。違うから!マハルのベッドの時はお祝いとして買って貰ったカタチになったけど。変な誤解しないで!
真ちゃんは私たちに向かって座りなおすと「足しにして下さい。」と袱紗から出して熨斗袋を渡してくれる。ちゃんと「御新居御祝」と書かれている。マジか!!後光が差して見えるわ。拝んどこ。ホント拝んどこ。「だから、夫婦で手を合わせないで下さいますか?」

「今日はありがとね。ゆっくり休んでね」男子チームはまだ飲んでいてキリがなさそうだから私たちは先に寝ることにした。客間にお布団敷いて部屋を出ようとすると、きーちゃんは私の袖を掴んだ。「どしたん?」きーちゃんは何かを言いかけたけど、すぐに「なんでもない、ありがと。おやすみ。ねーさんもゆっくり寝てね」と笑顔を見せた。「何でもなくないよね?しんどい?」きーちゃんは首を振る。「1人で寝るの寂しい?真ちゃん、呼んでこようか?」また首を振る。「ごめん、本当大丈夫」と言って笑うけど、大丈夫じゃなさそう。長旅で疲れたのかな。「マハルも寝てるし、言ってごらん?こうやって2人でゆっくり話出来なくなるんだから」「ごめんね」
また、謝るんだから。「あのね、帰ってからどうするか聞いてる?」ん?どういうこと?「誰が?」「真ちゃん」あの家を出るからって部屋を探してなかったっけ?「なんで?どうしたん?」「何でもない。聞いてないならいい」ときーちゃんはお布団に入ろうとする。「全然良くないよ。どしたん?」「前、ねーさん達が引っ越したら違うところ探そうかなって言ってたから」うん、言ってたね。きーちゃんの入学式辺りから色々と物件を見たりしてなかったっけ。「探してるでしょ?昨日も物件の情報見てたやん」「見てたけど、どこにしたのかとか、いつ引っ越ししちゃうのかとか…ねーさん聞いてないかなって」ん?何か日本語おかしくない?いつ引っ越ししちゃうのか…って何でそんなに他人事なの?「逆にきーちゃんは聞いてないの?」「聞いてない」「何で?そこ大事でしょ。きーちゃんも暮らすんだから一緒に考えなきゃ」「え?」え?って何?違うの?なんでそんなにポカーンとしてるの。「私もなん?」今度は私が「え?」だよ。私もなん?って何?「きーちゃんも一緒に行かなかったら、きーちゃんはどうするつもりだったの」きーちゃんは黙り込んでしまった。
「ちょっと一回話整理しよっか」と言うときーちゃんはお布団から出て座り直した。「今の家から引っ越しするのってきーちゃんもだよね?」そうじゃないと話が混乱するけど。「そうなん?」そうなん?ってどういうこと?「真ちゃんも引っ越ししちゃうでしょ?そしたら私、まだあの家居ていいのかな?って。でもそれを兄ちゃんに聞いてあかんって言われたらどうしようって思ったら怖くてまだ聞けてへんくて」涙目になるきーちゃん。「待って、待って待って。何でそうなるの?」混乱してきた。真ちゃんだけが引っ越しするつもりだったの?どういうことよ。きーちゃんも一緒だと思ってた。だってきーちゃんパパに真ちゃんが「高校入ったら一緒暮らしたい」って言ってなかったっけ?
「それって、まだ生きてる話なん?」え?「違うの?」「それは便宜上の話だと思ってた。だって一人暮らしのねーさんのおうちに居る。ってことになってたから。それに…」また言いかけてやめてしまった。「それに?」「…それにその時はまだねーさん達、あの家で住んでいるままの時の話だから…」そうなんだけど。でも、高校入ってからの生活の面倒みるって言ってたし、実際入学に際しての手続きもきちんとしたし、この話が決まってからずっときーちゃんの分として生活費も出してくれてた。何より、もうちゃんと改まって(?)付き合うことになったのかと思ってたよ。
「何で聞かなかったの?」「だって、高校の学費出してもらった上に住む家まで用意してくれるよね?って図々し過ぎるやん。今でも充分図々しいんだけどさ…」
あかん。目眩してきた。何でそっちに思考が向いていくんだろ。ネガティブ思考にも程があるよ。違う。これもきーちゃんの中では「学費を出してもらう」ことと「一緒に生活する」ことが結びついてないんだ。多分、きーちゃんの中では「真ちゃんがきーちゃんの生活を面倒みる」ってのは「今住んでる家で」がイコールになってるんだ。だから「引っ越しをする」と新居で「真ちゃんと生活する」が繋がってないのかもしれない。
「もしかして、この事でもずっと悩んでた?」頷くきーちゃん。「いつから?」「…ねーさん達の引っ越し決まってから。でも、お手伝いがあったり試験受けなきゃいけなかったからこれ考えてる余裕無いし、考えないようにしてて。でも試験終わってお手伝いもあと当日だけになったら真ちゃんが引っ越ししたらどうしようって」分かった。それはストレスだわ。胃潰瘍のトドメの一撃これでしょ。しかも、あのわけ分からない来客があって。制服届いた日からまた時々吐血したって。これがあったからだ。それは結局、来客の話は大嘘だったけど来た時は真偽なんて分からない状態だったから、余計ストレスになって治りきってない胃潰瘍が再発して心因性の、失声症が現れたわけか。
きーちゃんはあの家で住んで高校へ行く。と思っていたんだろう。けど、私たちが出て、真ちゃんが出て仕舞えば当初あの家に住む予定だったメンバーは居なくなる。アキちゃんだっていつ帰ってくるか分からない。そりゃ生活に不安を覚えるよね。
「バイトはするつもりなん。でも、どう考えてもバイト代だけで1人で生活出来ないなって。せっかく高校行かせてもらえるって言ってくれたのにお昼も働かないと1人で住めそうになくて…でもそっちの方が真ちゃんは高校行かせなくて済むやん。そっちの方がいいのかなとか。でも高校にも行ってみたくなっちゃって。これも兄ちゃんがみんな居なくても住んでいいよって言ってくれた話で、あかんって言われたら…どうしたらいいのか分からんくなって…」きーちゃんの目から涙がいくつも落ちた。「ちょっと待って。いつそんなこと考えたの。バイト代で生活出来るかどうかとか」「高校の説明会あったやん?あの日、真ちゃんが来てくれるまで時間あったから本屋さんで雑誌読んでて…」主婦雑誌の家計特集を見て生活するのにこんなにもお金がかかるのかと思ったと。その頃から真ちゃんの物件探しが具体的になりだしたし、そうしたら一人暮らししなきゃって何故か思ってしまったらしい。バイト情報誌見て平均的な時給ってのも分かったから計算したら、学校終わってからバイトしても生活費に全く足りないと。
きーちゃん、色々間違ってる。家計特集に出てくる家庭って、4人家族とかの家計でしょ。一人で暮らしでそんなに生活費かからない。そもそも、何で真ちゃんが引っ越しするのに一緒にいかないことになってるの。私、2人で生活するんだろうなって何の疑いも持ってなかったのに、何で当のきーちゃんがそこで悩んでるのよ。しかも胃に穴開けるくらい。
「これはね、ちゃんと確認しなきゃ。今聞こう」きーちゃんにとったら、かなり怖いことなのかもしれないけど。多分、この心配はしなくていい心配だろうけど。だから、おねーちゃんが居る間にスッキリさせよう。きーちゃんを連れてリビングに戻った。
「寝たんと違ったん?」きーちゃんの心の修羅場とは対照的な男子チーム。平和ね。真ちゃんはきっときーちゃんと引っ越しするつもりだろうけど、ここまで妹を不安にさせた罰だ。ちょっと怖いお父さんに怒ってもらおうかしら。「真ちゃん、あなた、これからどうするつもりなんよ」「は?」まあ、想定内な反応。「あの家出るんでしょ、何できーちゃん連れてかないの?1人で生活なんてどう考えても無理でしょ、何考えてんの」「はーーー?」旦那と真ちゃん、声を上げて絶句。そうなるよね。「何いきなり?何でそんな話なっとんねん」「きーちゃん1人で生活出来んやろ」ほら、ご覧なさい。やっぱりきーちゃんも一緒にってつもりじゃない。「真ちゃんいつ引越ししちゃうの?って。1人でこれからのこと悩ませてさ。何考えてんの。何で引越し考えだした時話し合ってないの」「え?ごめん、話見えん。何?」あ、真ちゃん混乱した。「新しい部屋探してるんでしょ?」「探してんで」「きーちゃんどうすんの?」「何?なんでその疑問出てくるんですか」沈黙。「おまえ、1人で出るつもりやったんか!」旦那の顔色が変わる。「何でやねん!1人で出るとか意味分からんやろ」「今、キリコが言うとったやんか」「だから、何でそんなことなってんねんって」きーちゃん、ほら、きーちゃんの考え通りだとみんな混乱してるじゃないの。きーちゃんは私の後ろで様子を伺っている。「じゃあ、引越しはきーちゃんと一緒なんだよね」「あたりまえやろ。何意味わからんこと言い出すねんな」「ほら、一緒だって」きーちゃんを見る。「一緒に行っていいの?」ホッとしたのかきーちゃんはその場に座り込んでしまった。もう、ホント世話のやける妹だなぁ。「キリエ、キリエ。逆に聞きたい。一緒に行かんかったらどうするつもりやってん」真ちゃんがきーちゃんを手招きして目の前に座らせた。「兄ちゃんがあの家住んだらあかんって言ったらどうしようって。学校行きたいけど、働かないと生活出来へんし、バイトすらまだ決められてへんし…」
半分泣きながら、きーちゃんはさっき私に話してくれたことを話す。
「どうしたらそうなんねんなー」と笑う真ちゃん。「おまえが1人勝手に探し始めてきーちゃんに何も言わんからやんか」と旦那に言われてる。言っておやりなさい。「物件見とっても全然興味持たんから決めた方がええんかと…」詰めが甘い!きーちゃんはちゃんと「一緒に住む家探してるから一緒に考えない?」って言わなきゃ分からないんだから。「キリエ、ごめんな。でもな、何回も言うてるけどさそんなわけ分からんこと悩むから胃に穴開けるねんで。何で思った時言わへんねんな」そこは間違ってないわ。その通り。
「きーちゃん、そんなん言うてもおまえが黙って勝手に1人でやるねんから悩むんやろが。胃に穴あいたん全部おまえのせいや!って言うたり」と笑う旦那。ホントそれだよ。きーちゃんは長いこと頭を悩ませてたことが呆氣なく解決してしまって脱力してるけど。世話のやけるかわいい妹め。
長いこと居座っていた(悩まなくていい)悩み事が解決してすっきりしたきーちゃんはすぐにお布団へ向かった。「ホンマ大丈夫か不安なってきた…」きーちゃんに続いて部屋を出た真ちゃんを見て旦那が呟いた。「やめて、私も今あの子たち大丈夫か不安になってるから」

翌日、忘れないうちに(さすがに忘れないけど)開店と同時に家電量販店へ。
真ちゃんのお祝いのお陰で選択肢が増えて、アレコレとどれが良いか悩んでしまう。「これ、カッコいいなー」ときーちゃんも楽しそうに冷蔵庫を見てる。
「後でソファーも見に行こうや」と旦那。予算が増えたからって浮かれてるな。
「このソファー欲しいーー」「ここで買ってどうやって持って帰るん」「そっかー。新しいおうちに良いかと思ったんだけど」
引っ越し問題も片付いて、昨日あれから早速相談していたようで。「ちょっと学校まで遠いからなぁ」と真ちゃん。電車通学はこれまで時々していたけど、これからは毎日1人で通うことになるから乗り換えせずに通える所を考えていて今の家は、アキちゃんが氣ままに使うらしい。
「多分、新しい家に置いたら狭くなると思うで」もう決まってるの?昨日の今日だよ?「まだいくつか候補あげてるだけ」「えーー、そこまで絞ってるならなんで教えてくれないのよー」「間取りの用紙ならあるよ♪昨日もらったよ」ときーちゃん。これは後で見せてもらおう。
こうやってみんなで買い物も出来なくなるのね。と思うとやっぱりさみしい。私、意外と往生際が悪いようだ。

明日、きーちゃんたちは帰ってしまう。そうなったら、次はいつ会えるんだろう。私が感傷的になっていると言うのに、旦那は真ちゃんと飲みに行ってしまった。どういうことよ。
きーちゃんとマハルと晩御飯。「帰るまでに冷蔵庫届くかな♪」ときーちゃん。「間に合わなかったらまた見においで」「うん、行く♪」マハルも分かっているのか、今日はきーちゃんから離れない。これから毎日は無理だからね♪ときーちゃんがマハルをお風呂にいれてくれて、寝かしつけてくれる。マハルが生まれても氣楽にいられたのも、こうやってきーちゃんが手伝ってくれたのが大きい。それに甘えすぎてた自覚もあり、実は明日からやっていけるのかと言う不安もあったり。旦那ももちろん協力的だと言われるパパだけども、そこだけでもきーちゃんの存在は大きい。
「寝たよ♪」ときーちゃんが戻ってきて、2人でお茶を淹れておしゃべり。時々うふふ♪と笑うきーちゃんがやっぱりかわいい。
「いい、絶対何か不安になったり心配あったらすぐ真ちゃんに言うんだよ。真ちゃんに言えなかったら私に電話してくるんだよ」口酸っぱくなるほど、念をおす。「うん、ありがと。でも、昨日のびっくりしちゃった。あんなにずっと悩んでたのにねーさん、一瞬で解決しちゃった。すごいねー」キラキラな眼差しを向けてくれるけど…。「あれはきーちゃんが変な方向に考えるからだよ。全く。びっくりしちゃったやん」「ねーさん居なかったら、もっかい胃に穴が開くかと思った」と笑うきーちゃん。冗談に聞こえないから。怖いからやめて。「あれこれ考えないこと。絶対だよ。約束」とは言ったものの、不安しかない。
「まだ帰ってこないねー」「遅いよねー。もうほっといて寝よ」真ちゃん、明日ちゃんと帰れるのかしら。飲みすぎるなって言ったんだけどねー。「おやすみー」本当はもっと喋ってたいんだけど。

2人が帰ってきたのは「おやすみ」を言ってから1時間してからだった。「きーちゃん、もう寝たからね!明日帰るからほどほどにしろって言ったのに」2人にお小言。さすがに日付が変わって帰宅はないでしょ。真ちゃん、あなたフルで運転になるんだから早く寝なさい。
翌朝、2人の帰る支度が出来た。引き止めたい氣持ちが大きくて、何かを言えば引き止めそうであまり話せない。朝イチで、マハルときーちゃんとで散歩に行った。マハルが生まれた日、きーちゃんと散歩に行った時のように空が綺麗だった。その時はいつも通りだったきーちゃんも、少し口数が減っていた。
「じゃあ、帰るわ。」「氣ぃつけて。ありがとうな」旦那たちが話している姿を見る。最後では無いと思っているけど、さみしい。「美樹ちゃん、また絶対来てね」と言うと旦那にハグして何かを言っていた。旦那はきーちゃんの言葉に笑顔で頷いて頭を撫でた。「マハルくん、次は2人で公園行こうね」とマハルを抱っこして、そしてマハルを旦那にパス。「大好き。いっぱいありがと。おねーちゃん、またね」きーちゃんが、ハグしながらこう言うもんだから、耐えていた涙腺は崩壊。「泣かないでよー」うふふ♪と笑ってハンカチを渡してくれるきーちゃん。いつも泣いていたきーちゃんは、車に乗っても笑顔で手を振っていた。
見えなくなるまで見送ろうと思っていたけど、涙がなかなか止まらないものだから、すぐに見えなくなってしまった。泣き虫のきーちゃんだけど、一度も涙を見せることなく笑っていた。この事を決めた時、私たちが心配しないよう普段どおりにすると言ってくれたきーちゃん。最後まで宣言通りに居てくれた。