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Another story 51-2.迎えと黄泉の国。
これあかんやつ。
久しぶりに黒い雲が私の中で出て来てるのが自分でも分かった。
お姫さまだって言ったのに。
私の世話してくれるって言ったのに。
告別式が始まってから、ほったらかし。
これでも一応、大人の世界はね、いろんなしがらみがあって後々のことを考えて動かなきゃいけないからね、わかるよ。
遊びに来たわけじゃないから、それも分かってる。
けどね、ご葬儀も法要も終わって帰ってきてからもほったらかしってどうよ。
しかもマハルくん寝かせて戻ったら美樹ちゃんの姪っ子ちゃんと遊びに行くみたいな話してるし。
つまらない。
宿題持ってきて良かった。
真ちゃんの事が好きな子が真ちゃんと話してるのなんか見たくない。
2人が視界に入ると黒い雲がどんどん大きくなるから、見ないように宿題に集中しよ。
先生、なんで難しい問題出してくれないんだ。
問題で悩みたい。簡単過ぎる。
外の声が聞こえないくらい難しい問題出して欲しい。
『当代さんに良いと思って。』
あ、おばあちゃんの家にタイムスリップ。
お客さんは3人。
おばあちゃんと真ちゃん2人と会いたいと言っていた。
お仕事の話かと思ったら、真ちゃんのお嫁さんにどうですか?って話。
このお客さんたち、もう何度同じ話しに来てるんだろう。
顔と名前は覚えるの苦手だけど、話の内容で分かった。
普段のお仕事の話なら私も居ても良いって言われてるけど、やっぱりここは他人は居ない方が良いよね。
お茶だけ出して離れに戻ろう。
『親バカですが本当に自慢の娘で。勤めにも行ってますから社会も知っています』
両親から自慢の娘って言ってもらえるってどんな氣持ちなんだろ。
やっぱり嬉しいのかな。
お勤めしてるってことは大人の人だよね。
ちゃんと自分の事は自分で出来て、真ちゃんの時間を奪わなくて面倒もかけなくて。
やっぱり、みんなにどんなに反対されたって「しゅーしょく」したら良かったのかな。
そしたら、予定通り20歳までに古いアパートで孤独死して最期まで迷惑かけるやつだって言われながら遺骨を処理されてこの人生はおしまい。
そっちのが周りに迷惑かける時間が短くて済んだのかな。
重たい私の面倒も見る事なく、好きなこと出来るもんね。
他人の私には関係ない話だと思って特に深く考えてなかったけど、あの時の「お嫁さんに」と言われてた人と真ちゃんが結婚しちゃったら、私はどうしよう。
学校もそれまでだろうな。
私が一人暮らししながら通える方法あるのかな。
学校は、ちょっと続けたい。
お嫁さんが来る前に、住む所探さなきゃ。
他人の私が居るのはおかしいし、私だって真ちゃんがお嫁さんと仲良く話してる所なんて見たくない。
帰ったら兄ちゃんの家に住む所見つけるまで居させて貰えないか、聞いてみようかな。
家に帰ったら、兄ちゃんに電話してみようかな。
兄ちゃんの所へ行きたいって今更言っちゃダメだよね。
私、寄生虫みたい。
優しい言葉をくれる人の所へ渡り歩いて迷惑かける。
あ、黒い雲が一段と増えてきてしまった。
消えなかったらどうしよう。
姪っ子ちゃん一家は帰って行ったけど、まだ黒い雲は相変わらず渦巻いてる。
続きやっとこ。宿題全部終わらせてやる。
きっと声を出してしまうと一緒に黒い雲が出てしまうから、雲が消えるまでしばらく声は出さないでおこう。
結局、真ちゃんと姪っ子ちゃんは遊びに行くことは無かったけど、美樹ちゃんがご飯に行こうと誘ってくれてお食事へ行ってもまだ黒い雲は消えそうもなかった。
「由佳のこと、ごめんね。せっかくお手伝いしてくれてるのに嫌な思いさせちゃったよね」
ご飯から帰ってきても相変わらず黒い雲は私の中で渦巻いていて、でもみんなと一緒に居たくてリビングの端っこに居ることにした。
マハルくんをねんねさせて、リビングに戻ってきたねーさんが言った。
ねーさんが謝らなきゃいけない事なんてなくて。
私が話さないから、とっても空氣を悪くしてるのは分かってるけど、きっと話をすると家中に黒い雲を吐き出してしまいそう。
どうしたら良いんだろう。
「ねーさんは何にも悪くなくて。こうやって拗ねてたら、ねーさんや美樹ちゃんが嫌な氣持ちになるのも分かってる。けど、何か言おうとすると声が止まるねん。寝ちゃおうかなって思ったけど、こっちに居たいし。すごく感じ悪いの分かってる。ごめんなさい」
吐き出してしまう黒い雲を最小限であるように、やっとこれだけ言う。
本当は寝てしまったら良いんだけど、せっかくねーさん達が居るのに、明日には帰らなきゃいけないからまだみんなと一緒に居たかった。
ねーさんは私の頭を頭をぐりぐりっとして「超ムカついた!って言って良いんだよー」と笑う。
「きーちゃんの声が止まるのはヤキモチだなー。『何やの、ちょっと女子高生に好かれたからって私を無視しないでよ!私のがかわいいんだから!この女子高生好きの変態!!』って遠慮なく言えば良いねん」
何それ?
私のがかわいいなんて口が裂けても言えない。
だって姪っ子ちゃん、かわいいもん。
「昨日今日と、とってもとっても頑張ってくれた可愛い妹の為だ。おねーちゃんに任せなさい」とねーさん。
どうするの?
黒い雲、消せるの?
「真ちゃん!ちょっと女子高生に好かれたからって、何で私のこと無視すんの?変態犯罪者!誰のおかげで警察のお世話にならなくて済んでると思ってんの!私が居るからでしょー!だったらもっと私を見ててよ!超ムカつくー!私のがあの子よりかわいいんだから!それに氣付くまで絶対口聞いてあげへん!馬鹿ー!この変態犯罪者!この鈍感メガネ!このままねーさんの所に家出してやるからねー!もう一緒に帰ってやんない!変態な性癖を抑えられずに警察のお世話になるがいいんだー!この女子高生好き!ばーかばーか!」
ねーさん、私の口真似して何を言い出すのかな。
びっくりするってば。
最後悪口にしかなってないし。
「何やねんそれw真弥、めっちゃ悪口言われてんでw変態犯罪者ってww変態な性癖ってなんやねんwww」と笑う美樹ちゃん。
美樹ちゃん、飲んだら笑いのハードルが低くなるんだった。窒息するんじゃないかってレベルで笑ってるよ。大丈夫?
「ってきーちゃんさっきから怒ってるよ。知らないよー」と続けるねーさん。
こら、何を言い出すん。私一言もそんなこと言ってない!濡れ衣だー!
「そんなん言ってないー!全然言ってへんー!」
ねーさんを止めなきゃ、まだまだ続けそう。
大変!
でも、このままねーさんの所に居るっての…有りかもしれないなー。
ねーさんの所に家出ってしてもいいのかな。
だってテスト休み中バイト休みにしてるし、終業式までに帰ればいいんだよね。
ねーさんに聞いてみようかな。
良いって言うかな。
「なぁ、怒ってん?」
終業式までねーさんの所に家出する。という天使の囁きを想像してワクワクしている間にテーブルの所で飲んでいた真ちゃんがいつの間にか私たちの方に来ていた。
「キリエのが可愛いのにって思ってたん?」
そんなの微塵も思ってません。
だから反射的に「そんなの思ってない」と返してしまった。
黒い雲を吐き出してしまったかも。
「キリエのがかわいいの当たり前やん。一番かわいいっていつも言うてるやん。なのにキリエはそんなん思ってへんの?なんで?」
いつもって言うか、お姫さまごっこを始めてからですね。そう言ってくれるの。
だから、何だか居心地悪いのでライトな感じでお願いしますって言ってるのに。
そして、ねーさん達が居るのに距離が近いです。
真ちゃんは酔うと一段と距離感無くなる。ホント一旦離れて下さい。
離れてくれないなら私から一旦離れよう。
台所へゴミを捨てに行く。
アイスの容器と一緒に黒い雲も捨てられたらいいのに。
黒い雲をぐしゃぐしゃにしてアイスの容器と一緒にポイって捨てるイメージを浮かべて…
「一緒に捨ててやるー!さらばだ、ゴミめ!!」
勢いよく容器をゴミ箱に捨てる。
「えー捨てやんでー」
びっくりした!!
容器と黒い雲が喋ったかと思った。
真ちゃんだった。
もう、脱力ー。
「そないにびっくりせんでええやんかー」と笑って起こしてくれるけど…
この酔っ払いーー!
まだ心臓がバクバクいってるよ。
「怒ってん?」
「怒ってない」
暫し沈黙。
「ワタシのこと捨てるん?」
何でそうなるん。
「今、一緒に捨ててやるって言ってたやんw」
「それは黒い雲。」
「なに?」
「黒い雲!さっきから止まらへんの」
「そんなん無いで」
「ある!止まらへんの!真ちゃんに向けちゃうから向こう行って!」
黒い雲を向けられたらどれだけしんどいか分かってるはずなのに、それでも止まらないし、真ちゃんの方に向けようとする。
前の黒い雲よりももっと、悍ましい醜い黒い雲。
上から水が落ちてきた。
雨?
家の中だから雨漏り?
雫が途切れずに落ちてくる。
違う。
シードラゴンだ。
どこから?
天井を見上げて水を探す。
シードラゴン、ここに居るよ。
今度はちゃんと帰ります。
「キリエ?」
真ちゃんの声がしたけど、大丈夫、もう此岸に惑わされないから。
私のこと見放してなかったんだ。
意識を水に向けて探す。
大きい水がある。
池!
行かなきゃ。
ねーさん達にお礼とお別れを言いたいけど、そしたらシードラゴンはまた行ってしまう。
裏口からのが近いから裏口から出よう。
「キリエ!どこ行くん!」
「シードラゴンが来た!見放されてなかった!帰らなきゃ、また行っちゃう」
「どこ帰るん!」
雫の落ちる間隔が長くなってきた。大変。早くしなきゃ。シードラゴンが遠くなる。
きっと今逃したらもう会えなくなる。
「あかん、行かんって言ったやろ」
もう、何で今真ちゃんと一緒に居るんだろう。
せっかくまた来てくれたのに。
最後に「まだ居たい」って嘘ついてごめんね。でも、やっぱり私の世界はあっちだったんだ。
私があっちに帰れば真ちゃんは時間を奪われないし黒い雲だって向けられない。
私もシードラゴンが来てこんなにも嬉しい。
裏口へ向かおうとしたけど、真ちゃんに阻まれる。
「離して、お願い。今、シードラゴン来てる。やっぱり迎えに来てくれた。今帰らなきゃ帰れなくなる」
「絶対離さん。帰らんでいい。キリエが居るのはシードラゴンの世界じゃない」
「やっぱりシードラゴンの世界なん。だから今迎えに来てくれた。シードラゴンが待ってる」
何で分かってくれないの。
私がシードラゴンと帰れば真ちゃんは時間を奪われなくて済むのに。
「奪われてへん。 言うこと全部信用するって言ってたのに何で信用してくれんの」
それは、お姫さまごっこの間だけの話。
私はもうお姫さまじゃない。
私は醜い黒い雲だから。
平氣で人を苦しめる黒いのだから。
「キリエの黒い雲なんかに食われへん。出てきてもそんな雲は消す。キリエの世界はここや、帰るな。帰らんでいい」
何で真ちゃんはこんなにも引き止めるんだろう。
何でここに居ていいって言うんだろう。
真ちゃんの時間を奪うのに。好きなことを奪うのに。
「シードラゴンに返さん。絶対行かんでいい。キリエの世界はここや」
なんで真ちゃんに言われると、私はここに居ていいんだって思い始めてしまうんだろう。
水が止まってしまった。
シードラゴンが行ってしまった。
せっかく来てくれたのに、また行けなかった。
今度こそ私を見限ったのかもしれない。
また、1人になった。
それとも、真ちゃんの言葉を信じても良いのかな。
私はここに居てもいい?
ここに居たいと思ってるから振り切ってでもシードラゴンの所に行かなかったのかな。
本当はこっちにも家族がいる?
シードラゴンの所にもう帰れないなら、ここに居ていい方法を探したらいい?
どうしたら、ここに居て良くなる?
「シードラゴン、行っちゃった。どうしたらここでも幸せのカタチになれる?ここでも家族見つけられる?」
「もう幸せのカタチやで。ワタシも、キリコも美樹も家族やんか。マハルも家族やって思ってるからキリエのこと大好きやん。家族じゃないって言ったらキリコがまた泣くで」と真ちゃんが笑った。
まだねーさんと一緒に居たかったけど、そんなことは御構いなしに朝が来て帰る時間になってしまった。
「やっぱり帰る?」
帰る支度をしながら真ちゃんに確認。
「帰りますよ。婆も待っとるで」
おばあちゃんにお数珠返さなきゃ。お仕事の時どうしてたんだろ。
すごく名残惜しい。
マハルくんも朝からずっと私と一緒に居てくれて、寂しいって思ってくれてるのかな。
車までねーさんと手を繋いで歩いてたら「おまえら付き合いたてのカップルかwww」と美樹ちゃんに笑われたけど。
ホントは美樹ちゃんとも手を繋いで歩きたかったんだけどなー。
車が出るまでは何とか我慢できたけど、しばらく走るとやっぱり寂しくなって大泣きしてしまう。
真ちゃんは「そんなに泣いてたら途中どこにも寄られへんやんか」と笑うけど、氣が済むまでメソメソさせてくれた。
「帰ったら速攻仕事入ってるでー」
そのままおばあちゃんの家の方へ帰る。
「あの人ら、めっちゃ氣ぃ重いわー」
おっちゃんからお仕事の予定を言われて真ちゃんが項垂れる。珍しい。
「キリエ、ちょっとちょっと」
お客さんが来る前に応接間のお掃除中、真ちゃんが来る。
真ちゃんとおばあちゃんがお家でお客さんを迎える時、応接間を整えるのが私のお手伝い。
「用意せんでいいのー?」
「だから今から準備すんねん」と言っていきなりハグされる。
何でこれが準備なんですか。
何かドキドキしてお部屋整えられなくなるからよして。
「キリエで充電ー」
私はコンセントかなんかですか。発電機ですか。
「言うこと信用すんねやろ?」
「お姫さま期間終了じゃないの?」
「何で?」
「だって、ねーさん所に行ったから」
「何でやねん。むしろカウント入らんから期間延長やで」
そんなもの?
「ホンマ、ホンマ」
「でも、いい加減離れてもらえませんかね。お部屋の準備が…」
「離れたらワタシの準備出来へん」
それ、本当意味不明だから。
「キリエが言うたやろ。光を分けると元氣出るって」
「真ちゃんの光、別に欠けてへんで」
「これから欠けるのが予想されますんで。あとエネルギーチャージ」
養命酒か何かですか?
私、滋養強壮作用は無いですよ。
「今度キリエもやってみ。ホンマ充電出来るで」
その日のお客さんは、前と同じの真ちゃんのお嫁さんの両親とお友達の3人だった。
お茶だけ出して離れに行く。
心がギザギザする。
ついさっきまで、安定してたのにすぐに揺らぐ。
真ちゃんが「一緒に居るから」と言ってくれた言葉を信じたいのに。
鞄から本を出す。
美樹ちゃんパパが書道をする時に見ていた本で、私が使うならと美樹ちゃんがくれた。
久しぶりにちゃんと字を書こうかな。
墨がなかなか摩れない。
心が落ち着かない。
「あ…」
墨、倒しちゃった。
摩った墨が半紙やテーブルに飛んでしまった。
何でこうなるんだろ。
美樹ちゃんに貰った本で、新しい文字を書こうと思ったのに。
心は余計に乱されて泣けてくる。
心が落ち着くまで墨を摩るっておばあちゃんに教えてもらったのに、半紙に飛んだ墨はもうしっかり濃いのに心が落ち着かない。
きっと、真ちゃんとおばあちゃん、お嫁さんが来る日の相談してるんだ。
私、まだ居てもいいのかな。
お嫁さんが来るってことは新しい家族ってことだよね。
真ちゃんはねーさんも美樹ちゃんもマハルくんも家族って言ったけど、そうしたらみんなの家族は変わる。
シードラゴンのお迎えに応えなかった。
もう、私の家族は居なくなる。
またバス停に居た。
最終バスは行ってしまった後なのに、何でバス停で座ってるんだろ。
もしかしたら本当に黄泉の国行きのバスが来るのかな。
だから、バス停に居るんだ。
黄泉の国に行ったら寂しくなくなる?
どこにも家族が居ないなら、どこでも一緒。
真ちゃんから「もう家族じゃない。新しい家族が来るから」って言われるのなんて聞きたくない。
バスが来るまで待ってよう。
氣が付いたらどこかにワープするんだから、きっと同じようにまた氣が付いたら黄泉の国に行ってる。
来世でもまた1人かもしれない。
来世はきっと私が居てもいい世界だって期待して、そうじゃなくてガッカリするくらいなら、黄泉の国の住人になって地の底で漂ってるだけでいい。
黄泉竈食ひだって躊躇わずにいただくんだ。
決めたはずなのに涙が出てくる。
何で私は泣いてるんだろう。
黄泉の国に行って毎日千人を取り殺そうと言った伊邪那美命はきっと寂しくて悲しかったんだ。
神さまと同じって言ったら怒られるかもしれないけど、きっと同じ。
朽ちた身体で1人で暗闇の世界に生きていかなきゃいけないから。
神さまだって寂しくなるんだ。悲しくなるんだ。しょうもない人間の私が寂しくなるのはきっと仕方ない。
この寂しくて悲しい氣持ちは黄泉の国へ行くための通過儀礼なのかもしれない。
いつもは泣いちゃダメだって止めるけど、通過儀礼なら思う存分泣こう。
寂しいものは寂しい、悲しいものは悲しいって。
どんなに醜くてもどうせ身体も醜く朽ちていくんだ。
醜くても良いから今まで思っちゃダメだと思ってた事だって止めない。
本当はとっても醜いのに取り繕って綺麗に見せようとするから、どこにも行けない罰を受けるんだ。
今、何時なんだろう。
ワープする前の時間を覚えてても、あんまり意味が無いのは分かったし。
いつまで待ったらバスは来るんだろう。
長いこと待ってるつもりなのになかなかバスは来ない。
止まらなかった涙も止まってしまった。
寒くなってきた。
早く、来ないかな。
頭も割れるように痛くなってきた。
そうだった。
黄泉の国へ行った伊邪那美命も苦しんで黄泉の国に行ったんだっけ。
なら、きっともう直ぐ黄泉の国へのバスが来るんだ。
幸せの後に悲しくて寂しい所に突き落とされるくらいなら、ずっと悲しくて寂しい所でいい。
自分の呼吸の音で目が覚めた。
暗い。
きっと黄泉の国に行けたんだ。
だって息をするたびにこんなに身体中が痛い。
痛くて身体も動かせない。
頭も押されてるように痛い。
そうかー、未来永劫このままなんだ。
黄泉竈食ひはしなくても良いのかな。
でも、今は何も食べたくないからいいや。
黄泉の国に行っても呼吸はするんだね。
自分の呼吸の音がうるさい。呼吸するたびに頭が割れそう。
「いたーい…」
声は出るんだ。
声が出たって1人の世界で何の役に立つんだろ。
急に明るくなった。
光が刺さって逆に何も見えない。
光も痛いんだ。頭が割れるように痛い。
「あー、真ちゃんだ」
幻も見えるんだねー。
幻なら私が勝手に見てるから、甘えても良いよね。
幻の方がいい。だってお嫁さんや姪っ子ちゃんたちと話さない。私だけ見ててくれる。
「こっちの真ちゃんは私だけの家族で居てね」
黄泉の国は優しい世界なんだね。嬉しい。
身体中が痛いし、苦しいけど、真ちゃんがぎゅーってハグしてくれるから心は穏やかだ。
さよなら、悲しいことがたくさんな世界。
私はようやく穏やかだ。
夢に見た穏やかな世界。
また、目が覚めた。
今度はまた暗い。
黄泉の国に慣れてきたのか呼吸が少し楽。
けど、やっぱり苦しい。
仕方ないんだろうな。
「キリエ」
真ちゃんの幻、居た。
良かった。嬉しい。
黄泉の国に来て1人じゃなくなるのって何だか皮肉だね。
「嬉しい。どこにも行かんでね。誰かと話すのも嫌、お嫁さんと家族になっちゃうのも嫌。ここでは私だけの真ちゃんだからね」
手を繋ぐ。真ちゃんの手は驚くほど冷たかったけど黄泉の国の幻だから冷たいんだね。と何だか冷静に思った。
冷たい肌が氣持ちいい。
とっても熱いから。もっと冷たいの頂戴。
目が覚めたら見覚えのある景色。おばあちゃんちの真ちゃんの部屋だー。
黄泉の国は景色まで自分でカスタマイズ出来るの?サービスいいなぁ。
隣には真ちゃん。
日常と変わらない。
あれ?たしかに黄泉の国に居たよね。
「熱、だいぶ下がったなー。何か飲む?」
ぼーっとしていたら、真ちゃんが目を覚ました。
「黄泉の国…」
「黄泉の国?」
「黄泉の国行きのバスを待ってて、氣か付いたら黄泉の国にワープしてん。けど帰ってきちゃったみたい」
天使が通る。
「おかえり。黄泉竈食ひはせんかったんやな」と真ちゃんが笑う。
「歩けるよー」
ちょっとお腹空いたと言うとリビングにしてるお部屋まで抱えてくれるけど。
熱出してたかもしれないけどそこまで弱ってないよ。
起き上がるとふらっとするけど。
この時のご飯を食べる時だけでなくて、黄泉の国から帰ったら過剰なお姫さま待遇が待っていて何だか落ち着かない。
それかこれも黄泉の国の幻なのかな。