Another story 53.アビリティ追加。

嬉しい(?)サプライズでねーさん達と会えて浮かれていた。
けど、ねーさん達を見送るとやっぱり寂しくて号泣。
「盆にはまた会えるやん。少しの我慢やで」と真ちゃんが言ってくれるけど寂しいものは寂しい。


「やっぱり婆んとこ行こか」
週明けからお盆休みまでの間、真ちゃんは仕事が忙しくなるから帰りは遅くなりそうだと言う。
その間、バイトもあるから家で待ってるつもりだったけどやっぱり心配してくれておばあちゃんの家に泊めてもらうことになった。
バイトは週2回とはいえおばあちゃんちから通うのは一苦労だなぁ。なんて心配していたら、真ちゃんがおっちゃん(お弟子さん)に頼んでくれていてバイト先まで送ってもらって帰りは真ちゃんが迎えに来てくれた。


私、やっぱ世話かけすぎてるよね。
おっちゃんまで手を煩わせてる。
おばあちゃんは、お小遣いが欲しいならあげるからわざわざバイト行かなくてもいいって言ってくれるけど、お小遣いもそうだけど自分の出来ることを増やしたいからバイトをしてるわけで。
けど、この生活をするならもっと考えないといけないかもしれない。
おばあちゃんは2つの家を行き来するのは大変だからこっちに越して来たらいいのにと言ってくれたけど、学校へ通うとなると少し遠い。
それもおっちゃん達に頼んでくれると言ってくれたけど、卒業までお願いするとなると申し訳無さすぎる。




前の発熱の後、一氣に落ちた体力は夏の暑さもあってなかなか回復せず、バイトから帰るとまた熱を出したり貧血になったりして寝込んでしまう。
おばあちゃんもやっぱり「そんなに無理して働く必要ないよ」と言って心配してくれて、それも心苦しい。
私はやっぱり迷惑かけるしか出来ないんだろうか。私の出来ることは何か全く想像がつかなかった。
「そんなん考えんでええねんて」
バイトから帰るとやっぱり熱が上がってきてしまった。
自分がどうしようもないくらい役立たずで、何が出来るのか真ちゃんに聞いてみた。
「何なら、こうやって熱出して寝てるだけでええねん」
何ですって?
「熱を出して虚ろになってるのもまた良し」と言って頭を撫でてくれるけど。
何それ。
意味わからない。
せめて熱を出して寝込まないようになりたい。
「そんな急いで何でもかんでも出来るようにならんでええねん」と言ってくれるけど、私はちょっと無理してでももう少しまともに生活出来るようになった方がいいと思う。
「キリエはな、居るだけでいいねん」
そう言ってくれるのって真ちゃんだけだから。多分、普通は通用しないと思う。


結局、一晩どころか昼過ぎまで寝込んでしまっておばあちゃんちにお世話になっているというのに今日も家事はおっちゃんとおばあちゃんで済ませてあってお手伝い出来なかった。
「きぃちゃんはそんなん氣にせんでええの。元氣なって良かったわ」
お手伝い出来なかったことを謝るとおばあちゃんは笑って言ってくれた。
「病み上がりで無理させん方がいいって言うたんやけどな」
おばあちゃん達と遅い昼食中、おばあちゃんが話し出した。
「今日、真弥が早めに帰るから帰ったら少し出かけようって言うとったよ。だから出かける用意だけしといてあげてな」
「どこやろ」
何も聞いてなかった。
「すぐ戻るって言ってたからきぃちゃんが出られるようにだけしとったらええよ。でもしんどいならやめときや」
みんな、本当に優しい。
私はここに居ても良いんだと勘違いしてしまいそうだ。


早めに帰るからと言っても、いつも22時の帰宅がは20時とか21時とかそんなものかな?とのんびりおばあちゃんのお仕事のお手伝いをしていたら夕方に帰ってきてびっくり。
急いで用意しなきゃ。
「今日はなー、これ着て」と真ちゃんが紙袋を渡してくれる。
開けると真っ白なワンピースが入ってる。
「かわいい!かわいい!着ていいの?」
最近、好きなメゾンのワンピース。
白のボンネットも入ってる。
「キリエが着なかったら誰が着るねんwww」
薄い布地が何枚も重なって歩くと裾が広がってかわいい。
お食事会をしたお店に連れて行ってもらった後にいつもの展望台へ。
出かける時、まだうっすらと明るかったけど展望台に着くともう夜になってた。


「ここね、天と地の真ん中みたいだから好きやねん」
いつも同じ所だと芸がないから違う所へ連れて行ってくれると言ってくれたけど、この展望台が良いとお願いした。
「天と地の真ん中かぁ。たしかに真ん中やな」
山の上だから、だいぶ涼しくて氣持ちいい。
ちょうど聞きたい事があったからこのタイミングで聞いちゃおう。
あ、でも何か用事あって来たのかな。
わざわざおばあちゃんに出かけるって言ってたし。
「明日の午後の予定やねんけどさ」
ああ、仕事のご予約入ってたね。
「いつも席外すけどおって欲しいんやんか」
この言い方やと、もしかすると…嫌な予感。
 ねーさん達のうちから帰ってきて何も話題にならなかったけど。
考えないようにして逃げてた。
「大丈夫よ、私バイト行くから」
あかん、声が震える。
「明日はバイト入れてへんやん」
「変わってもらうから。多分すぐ入れてくれる」
「何でわざわざ入れるん」
だって、聞きたくない。
私が席を外すお客さまって言ったら限られてる。
「それかお買い物行くから」
今日、お誕生日のプレゼント何がいいか聞きたかったけど、そんな空氣じゃなくなっちゃった。
お食事してる時に聞いておけばよかったな。
プレゼント渡せる最後のお誕生日かもしれないから、内緒で決めよう。
「買い物?それまでに一緒に行くわ。また倒れたらどないするん」
「いい!真ちゃんのお誕生日のプレゼントだから!」
あかん、これ内緒にするつもりやったのに買い物する事言ったらあかんやんか。
混乱してきた。
「それは付いていけへんな」と真ちゃんが笑う。
「けどな、プレゼント欲しいのあるねんけど、リクエスト聴いてもらえる?」
リクエスト?
あるなら聞きたい。
いつもプレゼント喜んでくれるけど、最後のプレゼントだから一番喜んでもらえるのがいい。


「ずっと居って。キリエが居ってくれたらそれが一番のプレゼントやから」
え?
プレゼントのリクエストそれ?
まさかのリクエストに少し拍子抜け。
ずっと居るって何?
「多分な、キリエなんか勘違いしとる」
少し笑いながら言った。
「嫁さんなんて他所から貰わへんで。明日も嫁さん貰う話じゃないし」
真ちゃんのつけたタバコの煙を呆然と見ていた。
お嫁さん、貰わないの?
だって、大人で世話なんかかからない人って。何度も両親が来て長いこと話をしてて。
「言うたやろ。キリエと引き換えになんかいらんって」
言ってたけど。
それからもずっと私は迷惑しかかけてない。
「誕生日プレゼントと引き換えにするのは卑怯やけどな、キリエが『どこも行かない。ここに居る』って言うてくれたらそれが一番いい」


多分、もうシードラゴンは迎えに来てくれないだろう。
黄泉の国へ行こうとしないってことだよね。
寂しくなっても、この世界にいるってことだよね。
私は本当にここに居ていいんだろうか。
「黄泉の国に行きたいって言った時、結局1人になるなら最初から1人が良いって…」
うん、言った。
今も変わらない。
喜んで幸せだと思ったら、絶対それはすぐに覆される。
それなら最初からぬか喜びなんてしない方がダメージは少ないもん。
「1人にはさせへん。ワタシの世界にはキリエが居らな成立せぇへん。1人やって思わんでええねん」
だけど、真ちゃんの自由は奪ってしまう。
真ちゃんの負担になって嫌われるくらいなら、1人で黄泉の国で漂ってる方がいい。


しばらく沈黙が続く。
真ちゃんは新しくまたタバコに火をつけた。
「この間キリエがシードラゴンを呼んだ時も、黄泉の国に行こうとした時も、キリエは1人やと思ってたんやろ」
シードラゴンを呼んだのかどうかは分からないけど、シードラゴンが来てくれた時も黄泉の国に行った時も1人だと思ってた。
1人になるのが嫌だ寂しい悲しいと思った。
けど、それはずっと心の中に居座っている。
「1人やって思わんでいいから、シードラゴンの所に帰らんでいいし黄泉の国にも行かんで。一緒におって」


展望台から帰って、やっぱり熱がぶり返してまた寝込んでしまった。
おばあちゃんは「病み上がりやのに無理させるからや」と真ちゃんを怒ってたけど、これは多分知恵熱。


真ちゃんは他所からお嫁さんを貰わないといった。
けど、明日またお客さまは来る。
じゃあ、なんの話をするんだろう。
なんで私も同席するんだろう。
てっきり「お嫁さんが来るから早く出て行く準備してね」って言われるのかと思った。
けど、違うみたいだし。
何だか色々ぐるぐるしてる。


「ごめんな、まだ外出はしんどかったな」
真ちゃんが心配そうに言ってくれるけど真ちゃんのせいじゃない。
「知恵熱…」
「知恵熱?」
明日来るお客さまは、真ちゃんのお嫁さんの親でお嫁さんが来るための打ち合わせだと思ってたこと。
明日の同席は、私が出て行く為の話だと思ってたこと。だけど違うみたいで訳が分からなくなっていたら熱がでたと話してみた。
「ホンマにどうしたらそんな思考回路になるんかな」と真ちゃんは笑う。
「胃に穴が開かなくてよかったなwww」
何で真ちゃんは私の心配をいつも笑うの。
「キリエを卒業まで学校通わさなあかんのに他所から嫁さんなんて貰ってる暇あるかいwww」
あ、そうか。学校卒業までなのか。
あと2年と2学期か。
「留年しないように頑張るから卒業まで我慢してね。ごめんね」
「また謝る。謝ることしてへんやろ」とまた笑う真ちゃん。
「そんな心配まだしてたんかいな。ホンマかなわん子やなぁwww」
何で笑うの。
「家族じゃないのに、学校通わせて貰ってる。家族じゃないのに生活させて貰ってる…遊びにも行かんでって言ってるし、すぐ熱出すし、迷惑しかかけてない」
真ちゃんは黙ってしまった。
自分がこうしてここに居たいと思うのに、自分で壊しちゃったかも。本氣で呆れられてしまったかもしれない。
熱が下がったら、今後のことちゃんと考えなきゃ。
でも、まだちょっと甘えてたいとまた逃げようとする自分が嫌だ。


「家族やったら、学校通わせて貰ってるとか生活させて貰ってるとか思わへん?」
とっても氣まずい沈黙破ったのは真ちゃんだった。
きっと家族なら思わないだろうと思う。
でも、自分が生まれたはずの家でも居場所は無かったから違うのかな。
「分かんない。この世界は結局どこも同じかもしれない」
家族ってなんだろ。
何ですぐに大人になれなくて、だれかの世話になりながらでないと生きてけないのかな。
長いことかけて、自分は無力だと甘えているのだと思い知らなきゃいけないんだろう。
違う。
進路を決める時、ねーさん達が反対したって高校に行かずに就職をすれば良かったんだ。
ねーさん達が心配して私には負担が大きいと言ってくれた言葉に甘えたのは私だ。
楽な方に逃げたのは、私だけだ。


「プレゼントのリクエスト追加してもええ?」
自己嫌悪に陥ってるとまた真ちゃんが言った。
「家族やと思ってたけど、やっぱそれをキリエが感じられへんやったらなホンマに家族になりませんか?」
「ホンマに家族って?」
スポンサーさまの謎の意向が出てきたよ。
スポンサーさまの意向に沿うのは大事かもしれないけど、謎過ぎるのは沿わなくていいか美樹ちゃんに聞いてみなきゃ。
「キリエはどのカタチが家族やと思う?」
どのカタチ…
「家族が分かんない…おとーさんとおかーさん?けどね、おとーさんおかーさんよりねーさんのが大事ってか家族みたいだなーって思う」
「そこはワタシじゃないんかいwww」
「あ、うん、真ちゃんも美樹ちゃんもやで」
「何そのオマケ感wwwキリコに負けたwww」
そう、ねーさんは特別なの。
なんでそんなに笑うの。
「家族って分からんのやったらさ、ワタシらの家族のカタチ作ったらええやん。外がうるさいならウチの人間になってさ」
「真ちゃんち?」
「そしたら婆や爺がオマケで付いてくるけどな」
おばあちゃん達とも家族になれるの?すごい。
「まだすぐに決めなくてええから、ちょっとだけ頭の中に置いててや」




真ちゃんちの人間になるのはとってもワクワクする。
けど、私が真ちゃんちの人間になるのは嬉しいの私だけじゃないのかな。
何て少しモヤモヤしつつ、真ちゃんのお盆休みに入ってねーさんのおうちへ行く日。
お土産もバッチリ。
しかも、夏祭り行く約束をしてる話をおばあちゃんにしたらねーさんとお揃いの浴衣を誂えて貰って楽しみ倍増。
ねーさん喜んでくれるかな。


「あ、キリエ」
ねーさんの家に着いてダッシュで車から降りると真ちゃんに呼び止められた。
早くねーさんに会いたいのになんですか?
「多分さー、由佳ちゃん来るやん?」
その名前出すー?何かテンションがちょっと下がった。
「そんなに分かりやすく反応せんでええやんか」と笑って頭撫でてハグするけど、早く用件を言ってもらえます?
私、早くねーさんに会いたいの。
「もしまた黒いヤツ出てきたらすぐ言って。出てきた瞬間言って。我慢せんで約束やで」
「お、おう…」
何だそれ。呼び止めて言うこと?
でも心配してくれてるんだよね。
「ありがとう」
ハグし返すと何か硬直してる。いつもどこでも自分からするんだから私からハグしてもそんなに嫌がらないで欲しいんだけどな。ちょっとショックだ。
「人んちの庭先で昼間っからイチャイチャすんなし」
美樹ちゃんだ。
「美樹ちゃん会いたかったよーー」
美樹ちゃんにハグしても硬直せず「よく来たなー疲れてへん?」と頭を撫でてくれた。


美樹ちゃんがリビングの窓を開けるとマハルくんが勢いよく飛び出してきて美樹ちゃんがキャッチ。
びっくりした。マハルくん元氣過ぎ。
「ダイレクトにリビングじゃなくてさー、普通玄関から案内しないー?」
ねーさんも居た。
ねーさんだ。
「いらっしゃーい、疲れてない?」
ねーさんは思いっきりハグしてくれる。
ねーさんのいつもの甘い香り。
「会いたかったよーー」と言うと「この間会ったとこやん」と笑ってまたハグしてくれる。


お茶を淹れてもらって一息してる時、ねーさんからびっくり報告。
マハルくんがお兄ちゃんになるんだって。
「すごいすごい!弟?妹?いつ生まれるの?」
マハルくんも一緒に手を叩いて笑って可愛い。
「生まれるのは2月か3月かな?まだどっちかわかんないよ」
「近くならお手伝い出来るのにな」
マハルくんと赤ちゃんと。
もっと幸せのカタチに近づけるかもしれないのに。残念。
生まれたらまた抱っこさせて貰えるかな。
早く会いたい。




真ちゃんの予想的中。
姪っ子ちゃんとお父さんお母さん。
ねーさんがこの間言ってた話を詰めに来たって。
それは良いんだけどね、やっぱり姪っ子ちゃん、来るなり真ちゃんにくっついて遊びに行こうってずっと誘ってる。
そんなにくっつかないで。と思うし、姪っ子ちゃんと話してるのを見ると真ちゃんが言った通り黒い雲が広がりだした。
何でこんなにすぐに黒い雲は一氣に広がるんだろ。
『黒いヤツ出てきた瞬間言って』と言う真ちゃんの言葉を思い出した。
でも、今「黒い雲が広がってる」って言ったらおかしいよね。
どうしよう。
「出かけないで」って言ったら多分行かないでくれるけど、いきなり言うの変だよね。どうしよう。
でも、もしかして真ちゃんも姪ちゃんと出かけたかったら…
「キリエ?」
あかん、黒い雲倍増してきた。
「真ちゃん、ご飯食べたら出かけるん?」
「どないした?しんどなってきた?」
「ちょっとしんどくなってきたから一緒に居って」
多分こう言ったら真ちゃんは行かないと言ってくれると分かって、しんどくないのにしんどいって嘘ついたからかホントに目眩がして来た。
嘘言ってごめんなさい。許してください。
やっぱり変な空氣にしちゃったよね。
こんなに空氣がトゲトゲしてる。
「大丈夫、行かんよ、大丈夫」
何度も大丈夫と言ってくれると少し落ち着いて来た。
「ちょっと休もう。大丈夫やから」
黒い雲向けてしまうのに何でそんなに優しいんだろう。


別室に移動して平らな空氣でようやく呼吸が出来る氣がした。
「さっき、黒い雲向けちゃったかもしれない。ごめんなさい」
謝った所で向けてしまったことには変わりないけど。
「大丈夫やで。でもな、一個分かった」
何を?
「むしろ来い!」
は?何が?
「キリエの言う黒いヤツ」
黒い雲向けても大丈夫ってこと?
「全く問題ないわ。むしろ取り込んでチャージしとる」
黒い雲を取り込んでチャージしたらまずくないですか?
「信用してへんやろ。大丈夫やで。充電してみ」
半信半疑。
けど、ちょっと目眩がマシになって来たかも。
「せやろ。だからキリエの黒い雲は出て来たらすぐに言って。取り込んだるわ。新しいアビリティ追加されたかも」と笑った。
でも、その表現、ゲーム、やり過ぎだよ。