Another story 58.夏休み。

2時間程で美樹ちゃん達のお話が終わると、遅い晩御飯の後美樹ちゃんと真ちゃんは飲みに行くと言って出かけてしまった。
マハルくんがねんねした後、ねーさんと久しぶりの夜のお茶会。
「きーちゃんが見えるものってどんなの?」とねーさん。
私が見えるもの。ってどんなのだろう?と悩む。
「前にさ、なんだっけーー、バーベキュー行った時に出来たお友達とかそんなの。話すの嫌?」とねーさん。
バーベキュー行った時に出来たお友達…。
チュウさんと羽根さんのことか!


「あの時はねー」
あの時に意識を持っていって自分からタイムスリップしてみる。




川に足を浸けてると、葉っぱが流れてきてそこに乗っていたチュウさんと羽根さん。
ネズミに似たチュウさんと、ふわふわと風に浮いているような羽根さん。
お出かけしたいんだけど、お友達はこうやって移動できないから門を作って欲しい。と言われた。
門の作り方を教わって、その通りに石を並べるとチュウさんと羽根さんに似た子達が何人かやって来て「ようやく渡れる。ありがとう」と言って門をくぐると消えるようにどこかに行ってしまった。
その後、石が飛んできたり手を火傷しちゃったから川で冷やしているとチュウさんが戻って来て「さっきは助かった。これで冷やすといい」といって乗って来た葉っぱとは別の葉っぱをくれた。
葉っぱを乗せるとチュウさんは葉っぱの上に手をおいて治るおまじないをしてくれた。
心配してくれたねーさん達が早く帰ろうと言ってくれてバーベキューの途中なのに切り上げさせちゃったな。


次の日、またねーさん達に同じ川に連れて行って貰った。
帰る時にチュウさんとちゃんと挨拶出来なかったのと、おまじないをしてくれてた時にチュウさんは何かを言いかけていたから、また会いに行きたかった。
川に手をつけると、姿は見えないけどチュウさんの声が聞こえた。
川に手を浸けながらチュウさんと話をした。
「涙は止まったようだね」
「ヒトは自分とは違うものを排除する。ひどいものだ。ヒトなんてほんの一瞬しか生きないのにその時間さえも他のものを許さない」
「おそらくあなたは私たちと同じ存在なんだろう。どうしてヒトのカタチをしているんだろうね。短い短いイノチを終えたらこちらに帰ってくるんだろうね」


「その短い時の間にどれだけ悲しい思いをしたの?カタチを間違えてしまったかわいそうな子。短い時間の間も耐えられない程つらく悲しい思いをして寂しいと感じているなら、私達がそのイノチを終えるまで一緒に居てあげよう。私達はカタチが違うからと言って排除しない。仲間達を助けてくれた優しい子、お礼にその短い時間、一緒に居て穏やかな時間をあげよう」


その言葉を聞いた瞬間、自分の短い一生が走馬灯のように巻き戻された。
チュウさんの言う通り、とてもとても短い10数年。
私は1人だった。
一番近いはずの家族の中でも、氣が付いたら私は居なくなっていた。
そばに居てくれていた最初のお友達のぼぼちゃん達も私を守って消えてしまっていた。
どの場面でも光は見えているのに、黒い壁があって明るい場所に手が届かない。
穏やかな時間はなく、いつも鋭い何かが飛んできて落ち着いていられなかった。


チュウさんの言う通り、私はカタチを間違えて生まれてしまったんだろうか。
だから、ヒトではないモノといる方が落ち着くんだろうか。


今、ねーさんや美樹ちゃんや、真ちゃんがそばに居てくれてるはずなのにみんなを思い出すこともなく1人で寂しい世界だったことが頭の中に広がってチュウさんの声のする方に向かっていた。




昔からヒトでは無い存在の方が優しかった。
その姿は見えなくても、その存在はいつも私を見てくれて、私の話を聞いてくれた。
時々怖い思いもしたけど、また違う存在が私を守ってくれていた。


その姿が見えていたとしても、自分と似た形をしていてもヒトの方が恐ろしかった。
得体の知れない何かを吐き出し、飲み込み、時に目に見えるもので傷つけてくる。


ねーさん達と知り合うまで、目に見える世界の方が恐ろしい悲しい世界だった。




ヒトが吐き出した感情の何か、
ぼぼちゃんたちのこと、
話しかけてくる何かのこと、
お菓子を食べながらねーさんは聞いてくれた。


「またそんな作り話をして」
「馬鹿じゃないの?」
そんな事は言わずに、聞いてくれた。
真ちゃんの光が割れた時みたいに、ひとつひとつ確認しながら私の話を理解しようとしてくれた。




「この2人どうしようか。デカイのが揃ってここで寝ないでよね」
夜中に帰ってきた真ちゃんと美樹ちゃんは帰ってからも飲んでそのままリビングで寝てしまった。


途中で起きてきたマハルくんも美樹ちゃんの隣で寝てる。
「ここでみんなで寝ちゃダメ?」
ねーさんに聞いてみた。
だって、大好きな人が揃ってるからそのままみんなで寝てみたかった。
「そうだねー、そうするかー。布団取りに行くの手伝ってー」とねーさん。
お腹の赤ちゃんがびっくりするといけないのに、ねーさんは一氣に2組運ぼうとするから驚いた。
急いで止めて、奪い取ったお布団をリビングに運ぶ。


「ほら、きーちゃんが布団敷いてくれたからそっち行って」
ねーさんが撃沈2人を上手に移動させてくれてお布団4組敷き終わった。
「これ、絶対移動したの覚えてないよ」と笑うねーさん。
「もう明るくなり出してるやん。私達も早く寝るよー」とねーさんに言われて電氣を消すと、窓の外は少し白くなり出していた。


お布団に横になってもなかなか寝付けなくて、ボーっと窓の外が少しづつ明るくなるのを見ていた。
『カタチを間違えてしまったかわいそうな子』
ふとチュウさんの言葉を思い出した。


私は人間に生まれたらいけなかったのかな。
でも、チュウさんに会ったのは3年前。
その頃はねーさん達と一緒に居られるようになった頃で、まだこんなに穏やかな日が来るなんて思わなかった。
けど、これはみんなが優しいから。
優しいみんなに甘えてる。
成長してないってことなのかな。
みんなが優しいから、カタチを間違えた私もここに居て良いと思ってくれてるのかもしれない。
もう、わけ分からないなぁ。
私の正しいカタチは何?
真ちゃんはずっとここに居て良いと言ってくれてるけど、本当に良いのだろうか。
何で私は何年も何年もずっと同じことを疑問に思ってるんだろう。
長い間、疑問が晴れないと言うことは、間違ってるからかもしれない。
同じことをぐるぐると悩み続けるのも飽きた。
苦しい。
私はどうしたら良いんだろう。
カラダの真ん中が何か冷たくてぎゅっとする。
息をする度に冷たい何かが広がる。


「寝られんの?」
悶々としながら寝返りを繰り返していると後ろから真ちゃんの声がした。
起こしちゃったかな。
「何も心配せんでええでー。大丈夫やから、ゆっくり寝な。どこも行かさん。大丈夫」
そう言ってハグして髪を撫でられると急に睡魔がやってきた。
おまじない、してくれてるのかな。
ハグしてもらって寝るの好き。
このまま、間違ったことを氣付かないフリをしてここに居たいな。
何も氣付かないフリをして、言ってもらった言葉を信じていようかな。
なんて都合の良いことを思っているうちに寝てしまった。




ねーさんのおうちにお泊まりは1週間。
1週間って早すぎる。
明日にはもう帰らなきゃいけない。
ねーさん達のお家にお泊り、1週間も居られるって嬉しかったのにもう帰らなきゃいけないなんて。


美樹ちゃんが寝室を改造すると言って夜通し美樹ちゃんと真ちゃんと一緒に作業したり、おばあちゃんが買ってくれたねーさんとお揃いの浴衣を着て花火をしたり(しかも2回も!)、マハルくんとプールで遊んだり。
一番楽しい夏休みなのに。


夕食の後、美樹ちゃんと真ちゃんは飲みに出かけてしまった。
最後の夜はみんなと一緒に居たかった。
けど、真ちゃんも息抜きしたいよね。


ねーさんとマハルくんとお留守番もなかなか楽しい。
「2人目もきーちゃん居る所で産みたいー」
ねーさんが言った。
いいよ!お手伝いするよ!
「出来たらいいけど流石に厳しいよねー」
だよねー(´・ω・`)
一瞬、ねーさんのお手伝い出来るかと期待したけどそんなに上手く思い通りに行くワケない。
大阪まで遠いから診察の日ごとにマハルくん連れて来るのも大変だし。
一瞬うちに泊まってもらえないかと思ったけど、私の寝室にしていた部屋はウォークインクローゼットと化してる。(ほぼ私の服やカバンや靴)


ガッカリと同時に頭に締め付けられるような痛みが走って寒氣がした。
熱が出るのかな。今日お買い物でたくさんの人が居るところに長いこと居すぎたかな。
ねーさんちで熱なんか出したくない。
けど、なんだかちょっと違う。
なんだろう。


ふとねーさんを見ると顔が真っ青になってる。
蘇るマハルくんがお腹にいるのが分かった時。
ねーさんのカケラがたくさん落ちて怖かった。
その後ねーさんは2週間も入院してしまった。
看護師さんは「妊婦さんって普段以上に繊細だからね」って言ってた。


「ねーさん大丈夫?」
思わず聞いてしまった。
「ちょっと疲れたかな?」
今日は、姪っ子ちゃんも一緒にお買い物行ってたくさん歩いたりしたもんね。
無理させちゃったかな。


「マハルくんはお風呂入れて連れてくから先に休んでー」
ねーさんのカケラはまだ落ちてないけど、ねーさんの光はいつもより暗い。
前は動くたびにカケラは落ちていた。
まだカケラが落ちていないなら早く横になってゆっくりしてればきっと大丈夫なはず。
なんで真ちゃんが居ないの。居たらどうしたら良いか聞けるのに。
せめて、動くのが最小限で済むように私ができるのは、ねーさんに先に横になってもらってマハルくんをお風呂に入れてねんねさせるくらいしかない。
真ちゃんなら何とか出来るかもしれないのに。


何とか説得してねーさんにお願いしてベッドに入ってもらった。
マハルくんとお風呂に入ると途中から眠たそう。
その仕草もとってもかわいい。
パジャマに着替えて髪を乾かしてる間にもう半分寝ていてコテっとするのもかわいい。
居るだけでかわいいマハルくんって本当に幸せのカタチだなぁ。私もこんな幸せのカタチになりたい。
マハルくんと赤ちゃんと。2人の幸せのカタチと近くに居たら私も幸せのカタチの真似くらいは出来るようになりそうなんだけどな。






マハルくんがねんねした後、ねーさんとリビングへ。
本当はねーさんもベッドでゆっくりしてて欲しかったけど、お茶を飲みたいからと一緒に来た。


「きーちゃん、あのね…」
ねーさんが珍しく言いづらそうに話を始めた。
「本当にね、私きーちゃんが近くに居てくれる所で産みたいねん」
うん、そう言ってくれるの本当嬉しい。
私もそうして欲しい。
「でね、さっき考えてたんだけどね」
どうしたの?
「アキちゃんち」
兄ちゃんち?
「アキちゃん、相変わらず滅多に帰ってないでしょ?」
そうだね。何ならねーさん達がここに来てから一度も帰ってきてないよ。
「だからね、予定日近くにアキちゃんち借りてねそっちで産みたいねん。でも、そうすると美樹は仕事あるし来れないやん。だからきーちゃんにとってもとってもお願いすることも増えると思うんだけどね、やっぱりきーちゃんが近くにいて欲しいねん。学校もあるし、きーちゃんもしんどいって分かってるんだけどね、大阪で産みたいねん」
びっくりした。
でも、本当にそれが出来るなら嬉しい。
お手伝いもいくらだってする。


「美樹ちゃんは良いって?ねーさんはしんどくない?」
私が嬉しくてもここが一番の心配だよね。
「まだね、本当美樹には言ってないねん。もし大阪で産むとなったら、本当にきーちゃんに頼っちゃうからね、先にきーちゃんに聞いてもらいたかってん」
私は全然いい。うれしい。


「もしね、美樹ちゃんがいいよって言って、兄ちゃんからお家借りれたらその間私も兄ちゃんち行く。ねーさん1人でマハルくんお世話して赤ちゃんお世話してって大変過ぎるもん。ちょっとはお手伝い出来るから」
今の家から兄ちゃんちまで、意外と離れてるから私も兄ちゃんちにいた方が都合いいと思う。
兄ちゃんも、ねーさんからのお願いならきっと良いよって言ってくれるはず。


「多分ね、赤ちゃん産まれるの3月でしょ?3月ってテスト休みでほとんど学校ないって言ってたからマハルくんとお留守番もできるよ」
3学期のテスト休みはとっても長いって聞いたし。


でも、問題は美樹ちゃんが良いって言うかだよね。
どうしたら美樹ちゃんが良いって言ってくれるか悩みながらふとねーさんを見るとまた顔色が悪い。
大変、ベッドに入ってもらわなきゃ。
手を繋いで寝室に向かうと、手も熱い。
風邪なのかな。
美樹ちゃんに電話して早く帰ってきてもらおうかな。
なんて考えていたら、美樹ちゃん達が帰ってきた。すごく良いタイミングでびっくり。


「美樹ちゃん帰ってきたから、私も向こう行くね。ゆっくり寝てね」
明日帰らなきゃいけないから、もっとねーさんと居たかったけど無理させたら大変だもんね。
「きーちゃん!ここに居て」
そう言うねーさんの光はいつもよりずいぶんと暗く、切れる前の電球みたいにチカチカしている。
おまじないしたいけど、それよりも休んで欲しいし、妊婦さんにおまじないする時は体調が良い時のがいいんだよね。どうしたらいいんだろ。


「キリエ」
真ちゃんが部屋のすみっこで手招きしてる。
「あんな、おまじない。あれ今出来る?」
「出来るよ。けど、早くねーさん休まなきゃいけないかなってどうしようって思っててん」
「少しだけやったら大丈夫やろうからやってきてみ。暗くなってるの分かったんやろ」
「うん。だから休んだ方が良いのかなって」
「休む前にしたら効果は絶大やと思うで」


ねーさんの所に行ってハグ。
ねーさんの光がいつもの光に戻るよう。
いつも真ちゃんが言ってくれるのと同じ言葉を言ってみる。
真ちゃんがこう言ってくれる時、元氣になるのが早い氣がするから。
少しすると少し光が戻ってきた。
後はゆっくり休んで回復だね。
ゆっくり休んでね。






「あれ?」
お布団の部屋に行く廊下。急に目眩がした。
「危ない!セーフ」
転けそうになった所を真ちゃんがキャッチしてくれた。
「ぐるぐるしてる。ちょっとだけ休憩。先戻っててー」
このまま歩いたらホンキで転けそう。
「おまじない言うたけどそこまでやらんでも。自分が倒れてたら世話ないで」
真ちゃんが抱えてくれてお部屋到着。
「お世話かけます」
「どういたしまして」
反省。大丈夫だと思ったんだけどな。
部屋まで連れてきてくれたのは嬉しいけど、何で一緒のお布団入るん。
せっかく二組用意してくれてるんだから広々と寝て下さい。
と言おうと思ったけど、真ちゃんが私を見てくれるから良いか。
ちょっとだけ、真ちゃんの光を分けてね。






ねーさんは夜中に熱が上がってきたと美樹ちゃんが言っていた。
お昼に美樹ちゃんがねーさんを連れて病院に行ってだけど、まだ辛そうだった。


「真ちゃん、帰るのマハルくんがねんねしてからじゃダメ?帰ったら割とすぐお仕事入ってるからしんどい?」
美樹ちゃんも昨夜ねーさんの看病であまり寝てないみたいでしんどそうだし。
マハルくんの面倒なら見られるから、マハルくんをねんねさせてから帰れば美樹ちゃんだって少しはゆっくり出来る氣がする。


「ええで。今のうちにご飯の支度しといたるか?」
それいいね。名案!
明日から美樹ちゃんお仕事って言ってたしねーさんが少しでも楽になるなら嬉しい。
マハルくんを連れてお買い物に行く。
「その間に美樹ちゃんも休んでてね」


公園に寄り道して時間稼ぎ。
公園で遊ぶ時ってマハルくんは真ちゃんの方ばっかり行くんだよね。ちょっとさみしい。
きーちゃんとも遊ぼうよー。
やっぱりブンブン振り回したり、全力ダッシュ出来たりジャンプしてキャッチとか、目線が一氣に高くなるのが楽しいのかな。
きーちゃん、4人の中で一番ちっこいもんね。
楽しそうだからいいかー。
公園って氣持ち良いよね。
私もリフレッシュ。
楽しそうな真ちゃんとマハルくんを見てるととっても穏やかでこのままこの世界に居たいなって思う。


「とっても勝手なこと言っていい?」
帰りの車の中。どうしても聞いて欲しくなった。
「いくらでもどうぞ」
「黒い雲はね、真ちゃんが消してくれるやん」
「せやで」
「今、マハルくんと遊んでる真ちゃん見ててね」
「2歳児と同レベルとか言うんちゃうやろなw」
「同じように楽しそうだな、とは思った」
「思ったんかいwww」
「でね、それがねとっても穏やかやってん。こんな穏やかな世界が見られるならねもっと見たいなって。この世界に居てたいなって。マハルくんって本当に幸せのカタチだよね。私も今からでもなれるかな?」
しばしの沈黙。
何を都合の良いこと言ってるんだコイツはって思われちゃったかな。
自分でも思ってウンザリするもん。
「もうなってるで」
思ってたことと真逆な言葉に一時停止。
聞き間違い?
「まだ全然なれてないって思ってた?」
どうだろう。少しは近づいてたら良いなって思うけど。
「キリエがマハルを見て幸せだなって思うようにワタシはキリエがそうやって穏やかだって思うの見たら幸せやなって思うで。それってキリエが幸せのカタチやからと違う?」
そうなのかな。
それなら、こんなに嬉しいことはない。
「ここでもっと幸せのカタチになれるように居てもいい?」
「まだそんな事言うん?いくらでも居ってってずっと言うてるで」と真ちゃんは笑った。




「そういえばね、一時保育申し込めた?」
お買い物行く前に電話してみないと。って美樹ちゃん言ってたから聞いてみた。
「あ…」
あ???
「ヤバい、忘れとった!」
なんと!!
大変!
前日の夜から申し込み出来るのかな。
美樹ちゃんがダッシュで電話をかけるけど、
「あかんだ…行ける所空いてへん…」
なんてこと。




何か良い方法…
あ、そうだ。とっても簡単。
真ちゃんは明後日仕事だから予定通り帰ってもらって、私だけもう一泊させてもらって明日美樹ちゃんが仕事から帰って来たら電車乗って帰ればいいじゃないの。
「いやいや、電車って言っても遠いで。もう1日休むから大丈夫やで。ありがとう」
美樹ちゃんに言ってみるとこう返ってきた。
でも、連休明けは忙しいってねーさんに聞いてたしやっぱりお仕事行った方がいいよね。
しかも帰ってきてからマハルくんのお世話もお家のこともしなきゃいけないの大変だよ。


「遠いけど私夏休み中バイトないよ。だからゆっくり帰っても大丈夫。ね、真ちゃん」
美樹ちゃんの説得には真ちゃんだろう。
助けて。
「キリエ1人で帰ってくるとかあかん。まだ体力も戻りきってないのに1人で帰ってる途中で倒れたらどうすんねん」
(´;ω;`)
真ちゃんまで…。
私の体調の事は真ちゃんが一番分かってくれてるけど。


「ちょっと待っとって」
真ちゃんがリビングから出て行く。
自力で美樹ちゃんに交渉だ。
「真弥も心配しとったやろ。1人で帰して途中で何かあったらあかんから。きーちゃんのその氣持ちだけで嬉しいでな」
交渉難航中。
「でもね、お仕事の無い私が残るのが一番良いと思うの」
「ありがとう。でもな、万が一途中で倒れたらどうする?真弥も居らんねんで。それのが心配やで」
どうしたら良いかな。と悩んでると真ちゃんが戻ってきた。
「キリエ、もう一泊してこう。で、明日美樹が帰って来るまでマハルみといたらオッケーやろ」
だからそう言ってるってば。
だけどダメって言ったの真ちゃんだよ。
「藤森さんに言ったら、明後日キツそうなら代わりに行ってくれるって言うてもろたし明日の夜一緒に帰ろう」
「おっちゃん大丈夫って?」
「キリエが1人で電車乗って帰って来るより全然いいって」
よかったーー。
でも、おっちゃんまで心配してくれるとか私普段から心配しかかけてないってことだよね。
本当、みんなに心配かけないようにしたい。
あ、氣持ちが急降下。
こうやっていきなり氣持ちが落ちるのもやだ。




翌朝になってもねーさんの熱は下がってなかった。
美樹ちゃんは「早めに帰って来るからな」と言って何度も謝ってたけど、謝らなくていいのに。
マハルくんとお庭で遊んだり、一緒にお手伝いしたり楽しい。
ねーさんがしんどいのは嫌だけど、もう1日長くいられて嬉しい。
美樹ちゃんが帰る前にご飯の用意とマハルくんとお風呂入ってバッチリ!
後はねーさんの様子を見て…と思ったら寝てしまった。
しかも、結構ガッツリ。


起きたら美樹ちゃんが帰ってきていて、ねーさんも起きられるようになってたけど…って事はもう帰らなきゃいけない。
夢現でねーさん達と話したような氣がするけど何を話したか覚えてないし。何で寝てしまったんだろ。最大のやらかしだ。


私が寝てる間に、ねーさんは帰ってきた美樹ちゃんに兄ちゃんちを借りてこっちで産みたいって言ってたんだって。
だから美樹ちゃんの光がいつもより不安定なのね。
やっぱり本当はやめて欲しいんだろうな。
私がお手伝いするって言っても、心配ばっかかける私が居るってだけで心配倍増だもんね。
もっとしっかりしてたら、美樹ちゃんも良いよって言ってくれたかな。
ごめんね。