Another story 59-2.お家に帰りたい。

新しいお家は心地よくて、学校には真ちゃんが送迎してくれると言ってくれるのをいい事に今まで以上に滞在する事が多くなった。
一時落ち着いたと思ったワープが短時間とはいえ増えてきたから、なるべく1人にならないように出来るおばあちゃんちにいる方が安心だと真ちゃんは言った。
けど、学校へ行ってる間の記憶が抜けていたり真ちゃんと待ち合わせする場所へ行かなきゃいけないのに全然関係の無い所へ行ってしまったりすることが増えてしまって正直どうしたらいいのか、そして自分の行動に責任が持てずに困惑していた。
そんな面倒なことになってしまって手間も迷惑もかけているというのに、真ちゃんは変わらず優しくて申し訳ない氣持ちもあった。
ねーさん達は里帰り出産のためにお正月明けにこっちに戻って来るから、それまでにこのワープを何とかしたかったのに何とかするどころか悪化している。
このワープのこと、学校のこと自分を取り巻くものが全て煩わしくなって自分で感情のコントロールが出来ずにいきなり泣けてきたり、癇癪を起こしてしまう。
真ちゃんはその度に落ち着くまでそばにいてくれるけど、迷惑をかけていることをしっかりと理解しているのに、感情のコントロールが出来ずに更に迷惑をかけていることや、そのせいでいい加減うんざりされて嫌われてしまうんじゃないかと不安になってしまって悪循環に陥ってしまっていた。


「キリエがここに居るんやったらそんなこと問題ないから氣にせんでええねん」
情緒不安定から落ち着いて真ちゃんに謝るといつもこう返事してくれる。
こう返事してほしくて謝っているようで自己嫌悪に陥る更に悪循環。
この悪循環に陥っていることにも氣付いてくれて、常に隣に居て安心させてくれる。
真ちゃんの「ここに居るだけでいい」という優しい言葉に甘えているという自覚はありつつも、自分がこの世界に存在してもいいと思えるようになって、夜、月に向かってシードラゴンに話しかけることも減ったのは事実。




テスト休みに入った日、真ちゃんの仕事もお休みでおばあちゃんちの方の家でゆっくりしていると真ちゃんの携帯が鳴った。
「お前、ホンマにいつも突然やな…」と半ば呆れながら真ちゃんが話をしている。
「キリエ、昼からちょっと出かけよう。アキラが帰って来てるんやと」
電話を切った真ちゃんが言った。
電話は兄ちゃんからで、帰ってきてるからホテルのラウンジで会わないかとのお誘いだったとのこと。


「ホテルのラウンジとかイチイチカッコつけてるよな」と約束のホテルに着いて苦笑いする真ちゃん。
ラウンジの席へ案内されると兄ちゃんと魔法使いのお城に居たマスターのおじさんとおばさんが迎えてくれた。
おばさんは「きぃ、大きくなったね」と言ってハグをしてくれた。


ケーキと紅茶が運ばれて来た。
「で、改まって呼び出してどないしてん」と真ちゃん。
「きぃ、これは本氣で考えて。うちらの所においで」
兄ちゃんの言葉にケーキを堪能していた手が止まってしまった。
「うちらの所に呼ぶ場合、色々と手続きがいるっていうたやろ」
これはずっと前から聞いてた。
誰かを招きたい時は、一緒に居る人たちが一定数賛成しているか、中心になる人が呼ばないといけない。だから一番早い中心に入るから待っていてと言ってた。
「準備が出来た。もう反対出来る人間も消えた。きぃ、おいで」
兄ちゃんの所へ。
魔法使いのお城。
みんな、私の言うことを信じて聞いてくれた。
知りたいと思ったことを教えてくれた。
私が居ることを当たり前のことだとして、そして一緒に居てくれた人たちは「ここにおいで」と言ってくれた。待っていると言ってくれた。
けど、私は真ちゃんと居たい。
けど、私が向こうに行けば真ちゃんは自由になれる。
どうしたらいい?
真ちゃんの顔を見たいけど「早く行けばいい」と言われてしまったらと思うと怖い。
ようやく解放されると安堵の表情を浮かべていたら。
手が震える。


沈黙。
みんな私の返答を待ってるのは分かっている。
兄ちゃんも忙しいから早く返事しないといけないのも分かっている。
真ちゃんも早く解放されたいかもしれない。
けど「行きたい」と言ってしまったら、もう真ちゃんと居られなくなる。
また私たちの家に帰っていつものようにご飯を食べておやすみってお布団に入りたい。
マスターであるおじさんとおばさんも一緒に来てくれたのに行かないと言っても良いんだろうか。
真ちゃんと居たいと言うのは、私のわがままでしかない。
昔、ねーさんと居たいと言ってこっちに居させて貰ったけど、それからも迷惑しかかけてないのも分かってる。
手を強く握り過ぎて痺れてくる。
それでもまだ答えは出ない。
真ちゃんの手が伸びて来て手を繋ぐ。
こうして一緒に居たいと言ってもいいのかな。
怖くて顔が見られない。
少しの希望があるなら、兄ちゃん達にとっても失礼で無礼なことをしてると分かっているけど…
呼吸が止まりそうだ。
「兄ちゃんありがとう」
こう言うと一瞬、真ちゃんの手が緩んだ。
だから、今度は私が手に力を込めた。
「けど、私やっぱり真ちゃんとここに居たい」
私の中で大きなカケだった。
もし、真ちゃんが解放されることを望んでいたら、悲しいけどありがとうを言って本当にこの世界から去ろう。
兄ちゃんがおいでと言ってくれたけど、優しい言葉に甘えてもきっと何も変わらない。
私は真ちゃんと一緒に居たい。と自分の思いを伝えよう。
「でも、やっぱり私、真ちゃんとここに居たいねん。ずっと呼んでくれたのにごめんなさい」


沈黙の間、真ちゃんの顔も兄ちゃんの顔も見ることが出来なかった。
「今すぐに返事せんでええねんで。しばらくこっちおるからゆっくり考えて」と兄ちゃんが言った。
断ってしまったのは間違いだったんだろうか。
遠い所から来てくれたのに、とっても失礼なことをしてる。


「きぃ、自分の選択は間違ってないと自信を持って。一緒に過ごせないのはとても残念だけど、いつでも顔を見せて。私たちは同じものを見ている仲間だから。幸せになると決めるんだよ」
兄ちゃん達と別れる時、おじさんが私にも分かるようにゆっくりとこう言ってくれた。
「そう、きぃの選択はとても尊いものだから、自信を持って。いつでも会える。だからきぃの選択は間違ってない。アキのことは任せなさい」とおばさんも言ってくれた。
「また、連絡するから考えててや」
兄ちゃんもいつも通りに笑ってそしてハグしてくれた。怒っても仕方ないくらいのことをしてしまったのに。
「行ってくるな」
「うん、いってらっしゃい」
ホテルの部屋に戻る兄ちゃん達を見送った。
せっかく自由になれると思ったのにと真ちゃんがガッカリしているんじゃないかと不安でまだ真ちゃんの顔を見ることが出来ずにいる。
兄ちゃん達の乗ったエレベーターが上がっていくのを見つめていると、真ちゃんは黙ったまま私の手をひいて駐車場に向かった。
怒ってるんじゃないか、ガッカリしてるんじゃないか。それが頭の中でいっぱいになった。
車に乗ってからも私も真ちゃんも何も言わずに居た。


しばらく外の景色を見ていたけど、急に目眩がして暴力的な睡魔がやってきた。
「ちょっと寝とき。疲れたやろ。着いたら起こすから」と真ちゃんは運転しながら言ってくれた。
信号待ちの間もこっちを見てくれない。
やっぱりガッカリしたんだろうか。
なんで行くとすぐに言わなかったのかと思ってるんだろうか。せっかく厄介者から解放されると思ったのに図々しくまだ居座るつもりなのかと呆れているのかもしれない。


「キリエ、着いたで」
真ちゃんの声がした。
ボーッと外を見ているうちに寝てしまってたようだ。どこまで図々しいのかと自分でも呆れてしまう。
外を見るといつもの展望台の駐車場だった。
「ちょっとだけ話しよう」
やっぱり向こう行けって言われるのかな。氣が重たい。
展望台について、真ちゃんはいつものようにタバコに火をつけた。
何て言えば良いか分からず、黙って煙を見ていた。
「キリエ、ホンマはどうしたい?誰がどうだからとかは置いておいてキリエは行きたいと思う?」
私は真ちゃんと居たい。
だからそう返事したけど、みんなの様子を見ているとそう言ってはいけなかったのかもしれないと思う。
「さっきは行かないって言うてくれたけど、ホンマは行きたいと思ってへん?ワタシに氣を遣って行かないって返事したんと違うか?」
真ちゃんに氣を遣っているわけじゃなくて、本当に真ちゃんと居たいと思ったからだけど、もしかしたら、何度も何度も嘘を言ってしまったから信じて貰えないのかもしれない。
オオカミ少年になったのかもしれない。
どう言えば良いか分からず、やっぱり何も答えられなかった。
「前にも言ったけど、ホンマはキリエにここで一緒に居てほしいと思ってる。けど、キリエがここに居ることが辛くて我慢しなきゃいけないことなら、アキラの所へ行った方が幸せなんと違うかとも思う」
ここに居てもいいってこと?それとも向こうに行けってこと?
「キリエ、ホンマはどう思ってる?」
早くここに居たいと思ってると言わなきゃいけないのに何で声が出ないんだろう。
もう信じて貰えないかもしれないけど、私はここに居たいんだって。
言っちゃいけないことだから?
「他のこと考えないで良いから、本当の氣持ちだけ教えて。もし、ホントは行きたいなら行けるようアキラに言うから」
本当の氣持ち、言ってもいいの?


『ちゃんときーちゃんの想いに空氣をあげてね』
ねーさんが言ってたのを思い出した。
『自分の選択は間違ってないと自信を持って』
マスターのおじさんも言ってた。


喉が張り付いたような氣がして、なかなか声が出ない。
怖くて真ちゃんの顔を見られない。
私は、本当は…
「キリエ、行ってしまうんか?」
声が出ないし、怖くて震える。
真ちゃんにしがみついて首を振った。
「2人のお家で一緒に居させて下さい」
ちゃんと声に出して言えたか分からない。
「ホンマに?氣を遣ってじゃない?」
「何回も何回も嘘言ってしまったから信じて貰えないの分かってるけど、あのお家に帰りたい」
自分でも都合の良いことを言ってると思う。けど、
「真ちゃんと一緒に帰りたい」
「うん、帰ろう」と言って真ちゃんはハグしてくれた。こうしてもらうの、とっても好き。




「前に言ったん、覚えてる?」
ハグしたまま真ちゃんが言った。
「自分らの家族のカタチ作りませんか?ってやつ」
「真ちゃんちの子になれるやつ?」
「ちょっと待ってwww真ちゃんちの子ってwww」
何でちゃんと真剣に聞いてるのに笑いを噛み殺してるん。
何だかモヤモヤするわぁ。
「うん。そう、うちの子なるやつwww」
何で笑いを堪えてるのかわかんない。
「ちょっとは検討してもらえてますか?」
検討?何で改めて聞くんだろ。
もしかして、やっぱりダメってこと?
ちゃんと考えてたら色々とややこしくなるし早めに無しって言うため?
でも今、ここに居てもいいって。
分からない。
どうしよう。
大丈夫、きっと大丈夫。
もし、やっぱりダメでも最小限のダメージで済むように今のタイミングで言ってくれてるんだ。


そうだ、私が勝手に決めちゃダメだ。
ねーさんが言ってたじゃないか。
何で急に改めて言ったのか聞こうと思うけど、また声が止まる。
何でいつも大切な時に怖氣づいて声が止まるんだろう。


「また謎思考発動してるんちゃうやろな」と言って笑う真ちゃん。
「やっぱりダメ、無し。ってのは謎思考?」
「え?ダメ?無し?」


天使が通る。
この一瞬って本当に怖い。
「何で?うちの子なるの嫌?」
「何で私に聞くん?」


「え?」
同時に「え?」と言って再び天使が通る。


「まだ早いって思うかもしれんとは思ってん。だから今すぐでなくて全然ええねん。だから逆に無しって今すぐ決めるんじゃなくて…」
今度は私が「え?」


「やっぱり無理。無し!って真ちゃんが言いたいから話し始めたんとちがうの?」
「え?」


さっきから天使が大渋滞。
どうなってるんだ。


「ちょっと整理しよう」
うん、そうしよう。これ以上天使を渋滞させたくない。
「誰が無理でやっぱり無し?」
「真ちゃん」
「なんで?」
「今言った」
「言うたんキリエやで」
「そうか。……そうだ。やっぱり撤回だからこの話し始めたんと違うの?」
「キリエが嫌なんでなくて?」
「なんで?」
「今、それこそやっぱり無しって。それはキリエが嫌ってことじゃないの?」
「なんで?」


また天使が通った。
天使、無駄に渋滞させてごめん。


「キリエは嫌じゃなくて?」
「なんで?」
「今、言ってたやん」
「それは真ちゃんが嫌になって撤回するって思って。だから急にこの話を引っ張ってきたのかと…」
「………。」
やっぱり天使、渋滞中。


「ってことは、キリエはうちの子なるのは嫌じゃないってこと?」
「なんで嫌なん?今更都合良すぎるって思うけど嫌じゃない。でも自分から早く真ちゃんちの子にしてって言い続けるのも厚かましいし…だから、真ちゃんが次いいよって言ってくれた時にお願いしたらいいと思ってたけど、いきなり話を引っ張りだすから『やっぱりその話は無し!』って思ったのかと…」


「じゃあ、嫌じゃないねんな?」
「真ちゃん嫌じゃないんやんな?」
お互い確認。
「キリエの謎思考、時々マジで心臓に悪いわ」
良かった。無しじゃなかった。
ねーさんの言った通り、ちょっとまわり道になったけどちゃんと聞いてみて良かった。


「家が出来た時『ワタシらの家やで』とか調子乗ったこと言ったのに『無理です』って言われたとかなったら年明けにキリコが来た時フライングで出産するレベルで爆笑される所やったやんか」
勝手にネガティブに走って大変申し訳ございません。
「それに今一緒に帰りたいって言うてくれたのに何で?ってめっちゃ焦ったんですけどwww」
本当に申し訳ございません。
私も混乱しました。


「でな、誤解が解けたところやし…話戻していい?」
あ、本題じゃなかったんだ。
なんだっけ?
「もし、そのつもりで居てくれてるなら爺も正月で帰ってくるやろうし、この話をしてるって爺婆に言うてもええかな?」
「おじいちゃんおばあちゃんがダメって言ったらあかんもんね…」
おじいちゃんおばあちゃんも家族になれるって言ってたし。
もし、真ちゃんちの子になってもらったら困るって言われたら…。


「あかん、謎思考ストップ!」
「まだ、何も考えてないよ」
「考え出す前に止めないとまた話がややこしくなる」
そうだ。謎思考でさっき無駄に天使を渋滞させたんだった。
「爺婆があかんって言うわけないと思ってる」
そうなん?何、その根拠のない自信。
「正月やからな、色々と都合がええねん」
意味わかんない。
「多分な、あの人ら来るねん」
「どの人ら?」
「キリエが勝手にワタシの嫁さんにしようとしてた人の両親とその一味」
しばらく名前聞かないから忘れてた。
そんな人居たね。
「婆の所で止めてくれとったんやけど、まだ続いててな」
そうか、おばあちゃんにはずっと言ってはったんや。
だったら、尚更おばあちゃんは大人で自分のことは自分で出来るお嫁さんを貰って欲しいって思うんじゃないのかな。
私が真ちゃんちの子になったら、それこそもっと話がややこしくなる。


「謎思考ストーップ!良い?謎思考オッケーって言うまで謎思考ストップ」
それ、意味分かんないよ。
「婆もずっと断ってるねん。押し切られんようあの人らの仕事は婆が行ってるねんな」
「ごめんね、まだ卒業までもう少しかかるもんね」
「だから謎思考はストップな。卒業してもキリエ以外の他人の嫁さんいらんってのは分かってくれる?」
うん。前に言ってたの覚えてるよ。
「それでな、キリエが少しはうちの子なるってのを考えてくれてるならこの話してることを爺婆にもちゃんと言って完全に断っておきたいんやわ」
「何で私が考えてたらおじいちゃんおばあちゃんは言って断れるん?私、そんな発言権も決定権も持ってないよ?」
真ちゃんは「ホンマ、かなわん子やな」と言って笑った。


シンクロというか、偶然というか。
家に戻ると出来すぎた話のように、いつもは大晦日ギリギリで帰ってくるおじいちゃんが帰って来ていてちょっと驚いた。
真ちゃんは「早い方がいい」と言っておじいちゃんとおばあちゃんに私を真ちゃんちの子、もとい、家族として迎えたいと思ってると話してくれた。
「もう、うちの子のつもりでおったわ。きぃちゃんがうちに来てくれるのは大歓迎やからね」とおばあちゃんは笑った。
おじいちゃんは「まだそんな所までしか話進めてへんかったんかいな。そんなんさっさとやらな」と言っておばあちゃんに「きぃちゃんはまだ高校生や」とつっこまれてた。
高校生やったらあかんのかな?と思ったけど、2人とも笑ってくれて嬉しかった。
おばあちゃんは大歓迎だと言ってくれた。
この世界にも私を歓迎してくれる所があったと嬉しくて少し泣きそうになった。


何だか今日は氣持ちがアップダウンし過ぎて疲れたからいつもよりも早めに2人でお布団に入った。
「アキラと話してたこと聞いていい?」
「兄ちゃんと?」
「今までのこと」
兄ちゃんが何故私を自分の居る所に呼ぼうとしたのか。どういう経緯で私が今までのことを兄ちゃんに話したのか。
詳しく話した事はなかったけど、真ちゃんに自分が生まれた家で消えてしまってそこから自分が透明人間になったこと。兄ちゃんもこっちに来た頃に同じようになっていたから、理由なくまたみんなの前から自分が消えてしまうかと思ってしまってずっとその怖さが付き纏っていること。
兄ちゃんは絶対に私を透明人間にさせない、だから帰って来たら兄ちゃんも私も消えてしまっていないと確認出来るように帰ってきたら「おかえりと言って」と言ったこと。
ねーさんや真ちゃん達と居る時は透明人間にならなかったけど、兄ちゃんが帰ってきて「おかえり」と言うとそれを確認できて嬉しかったこと。
魔法使いのお城ではそんな不安が浮かぶ事はなかったし、自分が存在しても良いのかと思うこともなかったこと。


真ちゃんは話が終わるまで黙って時々相槌を打ちながらすぐ隣で聞いてくれた。


「それでもキリエはこの家に帰るって言うてくれてんな。また不安になったら言って。キリエはもう絶対消えへん。何度だって言うから」
私の『魔法使いのお城』はここだと言ってくれた。
ここに居ても良いと何度も言ってくれた。
このお家が私たちの家だと言ってくれた。
名前を呼んでくれるたび、目が合うたび、私の光は強くなるような氣がする。
いつか自分の光が1人でも明るく輝けるようになったら、こんな不安はなくなるんだろうか。


真ちゃんはいつもここに居てもいいと言ってくれるのに、何でいつもすぐに心が揺らいでしまうんだろう。
「多分、これは想像やねんけどな」
「うん」
「キリエがこの世界に存在していいって心から思えるようになるまでの時間って、同じ時間どころか倍はかかると思うねん。だから、28って言ってたけどきっとキリエが0になってマイナスと同じだけのプラスに傾くのには更に14年の42なんちゃうかと思ってな」
42歳。28歳でも全く想像つかないのに40歳を超えた自分なんて幻のようだ。
「それまで何回不安になってもええからな。少しずつ不安が出てこないようになっていったらええから」
「42歳まで居てくれる?」
「42歳だろうか84歳だろうがずっと居るで。42歳まではリハビリやから、42歳からもっと楽しくなる」
真ちゃんは、一つ不安が浮かんだら二つ楽しいこと安心することを増やしていこうと言ってくれた。
そんな遠い未来を思ったことが無かったけど、少し楽しみになってきた。