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Another story 59.おそろい。
ねーさんが元氣になって良かった。
けど、やっぱり「またね」って言うのは寂しい。
何でこんなに離れて暮らしてるんだろう。
「1週間じゃ足りないー」
ねーさんのお家から帰る時に泣いてしまうのは習慣になってるかもしれない。
「ほら、もしかしたら正月からキリコら来るかもしれんでな」
分かってる。
分かってるけど寂しいものは寂しいんだ。
「それまでワタシ居ますから」
「真ちゃんじゃなくてねーさんがいいーー」
「毎回それ結構傷つくんですけどねwww」
サービスエリアで休憩中、落ち着くようにハグしてくれる。
真ちゃんって滋養強壮作用だけでなくて鎮静作用もあるんだろうか。
これも、甘え過ぎてるよね。
「真ちゃんってさ、鎮静作用と滋養強壮作用と両方あるってすごいね」
「なんやそれwww」
「毎回、鬱陶しいやん?面倒やん?ごめんな」
ねーさんは真ちゃんがどう思ってるかは真ちゃんに聞かなきゃって言ってくれたけど、怖くて聞けてない。
自分でも甘えてるし、鬱陶しいの分かってる。
「なんやの、この子は急に」と真ちゃんは笑うけど、何とかしなきゃいけないのはよく分かってる。
「もう嫌なってるかもしれへんけど、嫌になってしまう前に何とかしようと思ってる。けど、やっぱ上手く出来へんくて…今日も泣かないようにしようとしてたけど…」
私がもっとしっかりしてたら、美樹ちゃんだってねーさんがこっちに来ることをすぐに許してくれたかもしれない。
私がもっとしっかりしてたら、真ちゃんだって自由がなくなることも無かった。
「なんで?」
何で?ってなんで?
時々、真ちゃんの返しが分からない。
「キリエ、一回、こっち見て」
そう言うけど、真ちゃんだけでなく人の顔見るのってとっても抵抗あって怖い。
「大丈夫、こっち見て」
ゆっくり顔を上げてみる。
「オッケー。一回整理しよな」
真ちゃんの声は優しかった。
「何回も言うで。嫌には絶対にならん。無理に何とかしようとせんでもいい。何をそんなに不安なってんの」
学校で言われたこと、ねーさんに相談したこと、ねーさんが言ってくれたこと。
それでもやっぱり不安だと思うこと、申し訳ないと思うこと。全部話した。
「ホンマかなわん子やな、もう一回胃に穴あけたいん?」
大笑いされた。
「何でいっつも真ちゃんは私が悩んでるの笑うん!?」
何かイラッとする。
「しょーもないから」と笑いながら返される。
しょーもないって!!
本当に本当に悩んでるのに!
「キリエはな、敏感過ぎるねん。普通の人間からしたら「しょーもない」って思う事でも受け止め過ぎるねん」
どういうこと?
「でも、良く言ってくれたなー。良く出来ました」と言って思いっきり頭を撫でてくれるけど、なんだか釈然としない。
「悩まないとあかん事と、悩まんでええ事とあるねんな。だからこれからも言って。しょーもないって事やったら笑ったるから」
なんですか、それ?
「絶対、嫌って思わんし、重いとも思わん。すぐ熱出したりすぐ泣いたりしてええねんで」
そうなん?
「言うたやん、絶対シードラゴンを思い出させんって」
言ってくれたけど。
「キリエの家族はシードラゴンじゃない。怖いことも不安なことも聞くのはシードラゴンでもキリコでもない。もっと信用して」
信用してないわけじゃなくて。
なんで私は同じようなことを何度も何度も真ちゃんに言わせてしまうんだろう。
「何度でも言うって言うてるやんか。28歳まで嫌やって言うても言い続けるし付きまとい続けるからな」と言って笑った。
「28歳なったらどっか行ってしまうん?それかこんなん思わなくなったらどっか行ってしまうん?」
ふと思った。
天使が通る。
これ、聞いちゃいけないことだったのかな。
また、やっちゃったかも。
「どっか行った方がええ?」
「ヤダ!絶対ヤダ!そしたら私が28歳まで追いかける!」
「あ、それもええな」
それもええな。って何?
そんなん嫌なんですけど!
「28歳なっても、それまでに謎のマイナス思考が無くなっても家族なんは変わりませんよ。だからワタシをこの世界に置いて行かんで」
「置いて行く?」
「そうやん、いつも一人は嫌やって言ってシードラゴンや黄泉の国行こうとしてワタシを置いて行こうとする。キリエはいつもそうやってワタシを一人にさせようとするやんか」
そうなん?
私は真ちゃんを一人にさせようとしてたん?
「自覚なかったんかいな。ホンマかなわん子やわ」
だって、真ちゃんの周りにはたくさん人が集まってる。真ちゃんと居たい人も居る。
「でもキリエだけはそう言うてくれん」
そうなん?
「嫁さん貰うって勘違いしてた時も言うたやんか。そんなんキリエと引き換えになんていらんって」
言ってた。
ちゃんと覚えてる。
「周りの人間も一緒やで。キリエと引き換えになんていらん。言うたやんか、今の趣味がキリエやって」
それも覚えてる。
「こうやってすぐ泣くのも、謎思考で熱出してもいい。この世界にワタシを置いて行かんで」
すぐ泣いて熱出すのはなんとかしたいけど、強くなりたいけど、
もう少し待って。もうちょっとこうしてたい。
黄泉の国の真ちゃんより、昔会った魔法使いの真ちゃんより、今、こうやって見てくれる真ちゃんがいい。
この世界で私を家族だって言って、私を見てくれる真ちゃんがいい。
「ようやく分かってくれましたか。最後の約束やで。絶対、ここに居って」
うん、ここに居る。真ちゃんと居たい。
「さっきから、キリエの携帯鳴ってるの氣ぃついとった?」
少し落ち着いて来た頃、ふと真ちゃんが言った。
「全然。鳴ってた?」
「キリコやと思うけど、雰囲氣ブチ壊しやから無視ったったw」
なんですと!
「ねーさんやったらあかんやん!出て!かけて!」
「キリエがかけたらええやん」
「また泣いたって思われる!」
「泣いててんからええやん」
「やだ!」
真ちゃんは「その謎のこだわりはホンマ分からん」と言いながらも電話をかけ直してくれた。
けど、私が帰りたくないって泣いてたのバラさないで!
私たちが帰った後、ねーさん達は引き続き話をして赤ちゃんを産む時はこっちで産むことにしたと真ちゃんが教えてくれた。
夢だったらいいな。が一氣に叶った。
早く、ねーさんもマハルくんも赤ちゃんも来ないかな。
ねーさんのお家から帰って、また日常に戻った。
新学期が始まるまでは、真ちゃんの仕事の関係でおばあちゃんちで生活。
お家のお仕事だけでなく、会社のお仕事も忙しくて真ちゃんは早くに出かけて帰ってくるのは遅い。
その間、おばあちゃんの仕事のお手伝いでお念珠を作ったりお手紙を書いたり、週2回はバイトに行ったり、私もそれなりにバタバタとしていた。
お手伝いで、お仕事に同席するとおばあちゃんはお客さんに私のことを今までは「孫娘みたいなもの」と言っていたけど、帰ってからは「孫娘です」と紹介してくれるようになって嬉しい。
「雨戸、閉めて寝るんやで」
天氣は下り坂どころか、急降下して風もキツく吹いてる。
おばあちゃんにおやすみを言って離れに戻った。
真ちゃんはまだ帰ってない。
帰って来れるのかな。
時々、大きな音がしてちょっと怖い。
玄関へ走ったけど、私に氣が付くことなくドアは閉められた。
1人で怖くておとーさんおかーさんを呼ぶけど、誰も居ない。
私の声は誰にも届かない。
小さい頃にタイムスリップ。
大丈夫、今は小さい子じゃない。
けど、外で大きな音がする度にタイムスリップを繰り返す。
飴を食べる。
大丈夫、怖くない。
私は1人じゃない。
真ちゃんももうすぐ帰ってくるし、母屋にはおばあちゃんもおっちゃんも居る。
私は小さくない。
また大きな音がしたと思ったら、急に電氣が消えた。
フリーズ。
停電?
まっくら。
また、タイムスリップする。
部屋が暗くなりだしておかーさんを必死に呼ぶけど、おかーさんは帰ってこない。
真っ暗な世界に閉じ込められたようで、怖かった。
その怖い氣持ちが今の私とリンクし始める。
必死に「今は違う」と何度も繰り返すけど、小さい頃の風景が私と混ざりだす。
こわい。
おかーさん。
おとーさん。
早く帰ってきて。
外に何か居る。
おかーさんを探して外に出ようとする私を待ってる。
おかーさん、こわい。
壁から何か見てる。
おかーさん、1人は怖い。
すぐ横でカタチのない何かがずっと話してる。
違う、今は1人じゃない。
電氣だって、きっと、少ししたら点くから。
暗くても怖くて泣く小さい子じゃない。
おかーさん、おかーさん。
早く、帰ってきて。
お部屋が暗くて怖い。
おかーさん。
一緒に居て。
「キリエ」
真ちゃんの声がした。
声がするのに、タイムスリップから戻れない。
私は、どこに居るの。
「ただいま、帰ってきたで」
目を開けると、電氣が点いていて真ちゃんが目の前にいた。
「怖かったなー、大丈夫やで。もう帰ってきた」
今、私が待ってるのは、おかーさんじゃない。
ちゃんと帰ってきて、私を見てくれる真ちゃんだ。
「うわぁ…これは…どうするかな…」
暴風雨が去って、朝、外へ出ると絶句。
隣で真ちゃんも絶句してる。
離れの玄関は飛んできた瓦で割れてるし、離れの瓦も落ちてる上に、所々壁が剥がれてる。
「そんな激しかったっけ…保険きくかな。車が無事なん奇跡…」
おばあちゃんとおっちゃんも出てきて離れの惨状に絶句してる。
「まあ、使ってない部屋側やから良かったんやけどな…これは、建て替えのが早いのと違う?」とおばあちゃん。
建て替えるより修理の方が早いと思うよ。と思ったけど、4人で母屋で修理の手配の話をしている間にほぼ建て替えることになった。
お家の建て替えってそんな何分かで決めることなの?
会社もお家の仕事もお休みだったけど、真ちゃんは会社に電話をすると昼から社長さんが来て建て替えの話をする。
建て替えはちょうど新学期から始まって年末には出来るだろうという事だった。
キッチンもお風呂も全部新しい物にすると言って、仕事がお休みの日にショールームへ連れて行ってくれた。
「今から牛乳飲み続けたら真ちゃんに追いつくかな?」
「1割位は追いつくやろうけど、ちっこいまんまでええやんか。ちっこい方がかわいい」
かわいいって言ってくれるのすごく嬉しいけど、ショールームの人居るからここではちょっと御遠慮したい。
キッチンを決めるにあたって、高さ問題発生。
ほとんど食事は真ちゃんが作ってくれるから真ちゃんの背に合わせたらいいと思うんだけど、真ちゃんは私も最近料理するから私に合わせてくれると言うし。
「あ、ええこと考えた!」
何か思いついたらしい。
「ちょっと待ってや」と真ちゃんが手帳に何かを書き出してる間にお風呂も見る。
最近のお風呂ってなんだか明るいんだね。
建て替えが決まって、私も一緒にモデルハウスやショールームに連れてきてもらったけどワクワクする。
建て替え工事の間のバイトの無い週末は母屋でお泊り。
真ちゃんは、学校に影響しない所のお家のお仕事には必ず一緒に連れて行ってくれるようになった。
その時の私のお手伝いは、メインのお客さんのご家族とお話をすること。
そこで聞いた話を真ちゃんに報告。
お仕事なのかお喋りしに来てるのか分からないけど、ちゃんと役に立っているらしい。
タイムスリップやワープも時々してしまうけど、一時よりは随分と回数が減って夢に見た穏やかな世界を過ごすことが出来て浮かれていた。
季節はまた寒くなって、誕生日を迎えた。
今年は真ちゃんだけでなく、おばあちゃん、おっちゃん、そしておじいちゃんと真ちゃんのパパが来てお祝いしてくれた。
ねーさんのお誕生日に直接「おめでとう」が言えないのは寂しかったけど、前ほどメソメソすることもなくなった。
「いっせーのーで」
建て替えの完了した新しいおうち。
母屋からも直接行けるけど、最初だから玄関から入ることにした。
真ちゃんが玄関のドアの前で呼ぶから行ってみると「ここがキリエとワタシの新しい家やで」と言って鍵をくれた。
そして、「いっせーのーで」で一緒に鍵を開けた。
私たちの新しいおうち。
その言葉と、一緒に鍵を開けたこと、明るくてキラキラした空氣全てに有頂天になった。
「うわーすごいーー!」
ショールームで発覚した高さ問題。
結局、メインで使う真ちゃんに合わせたけど、高くなった分出来た下20センチに引き出す台が現れた。
「これでキリエが使う時もちょうど良い高さやろ」
「からくりだ!」
良いこと考えた!ってこの事だったんだ!
「早く仕事終わらせて帰ろうね♪」
ゆっくり出来上がった家を見たかったけど、お仕事が入ってる為サラッと一通り見てすぐ出発。
「お氣に召していただけましたか?」
「すごく素敵!私も住んでいいの?」
「キリエとワタシの家言うたやんかwww」
今日のお仕事は、少し前に行ったお宅だった。
その時もいつものようにご主人と奥さんは真ちゃんとお話して、私はご家族の息子さんと話をした。
と言っても、私は自他共に認める人見知りなので何を聞けばいいか真ちゃんやおばあちゃんから聞いていたもののとても苦労していた。
この息子さんも人見知りなようで重たい沈黙が続いて本当に大変だった。
その重たい沈黙を破ることが出来たのが絵だった。
息子さんが書いたという絵は、プロの漫画家さんなんじゃないかというくらい線の細い綺麗な絵で見惚れた。
プロでは無いけど絵を描くのが好きだと話をしてくれて、好きな漫画の話から始まり、兄ちゃんがお土産でくれたタロットカードを見せてタロットカードを描いてみてほしいと頼んでみた。
全部を描くの大変だからと、息子さんへのメッセージカードをひいてメッセージを伝えてカードも一緒に渡した。
そこから、息子さんも私と似た感じで外に出ると色んなものが刺さるようで学校へ行けなくなったこと。
それは誰にも理解してもらえないこと。を話してくれた。
同士よ!とでも言わんばかりに「外の刺激あるある」を言って盛り上がったり、「何で分かってもらえないのか分からない」とどう伝えたらいいか話したりしてその日のお仕事を終えた。
それがだいたい3週間前。
前に伺って話を聞こうとした時、奥さんが半ば説得して応接間に来てくれた息子さんは、私たちが到着するとご家族と一緒に迎えてくれた。
その空氣は前よりも丸く穏やかだった。
応接間に通されて、息子さんが「約束してたの、描いた」と絵を見せてくれた。
本当のタロットカードでは暗いイメージをされやすいカードだったけれど、息子さんの描いてくれた絵は明るかった。
「どう考えても明るいんだよなーって言ってたから…言ってくれた通りのイメージにした」
繊細なタッチと色使い、そして暗いイメージなカードのはずなのにその絵からは光が見えて圧倒された。
「これ、ホンマは渡そうと思ってたんやけど、出来上がったら手元に置いておきたくて…」と言ってくれた。
「もちろん、持っててください!」
すぐに返事した。
とても綺麗で素敵だけど息子さん自身が持っている方がいい氣がして、渡したタロットカードだけ受け取った。
今日のお仕事はこれを見せてくれるために連絡したと教えてもらった。
良いものを見せて貰って大満足で帰ろうとした時、ご主人がいつものようにお代をだしてくれた。
けど、封筒は2つ。
ひとつは真ちゃん。
もうひとつは私にだと聞いてパニックになった。
「まだ通しでは無いですが、少しの間学校へ行けるようになったんです」と奥さんが言った。
刺激を避けてマチマチだった息子さんの登校。
刺激あるあるで盛り上がってその刺激を共有して、分かってくれない人に対しての文句を言って…友達と話しているノリで話していただけだった。
メッセージカードも、この人が描いたらどうなるのかと思って見てみたいという私のお願いのつもりだった。
けど、その時伝えたメッセージで「大丈夫だ」と思ったと言ってくれた。
だから、学校へ行く時間が増えたのは私のおかげではなく、まさしく息子さん自身のおかげなわけで…。
ご主人は引かない。
私も貰うわけにもいかない。の謎の攻防戦。
味方投入!
真ちゃんにヘルプの視線を送ると「頂戴しなさい」
味方じゃなかった。
「ちょっと失礼します」と言って真ちゃんは私の方を向く。
「キリエが息子さんの力だと言うのはよく分かる。その通りやと思う。けど、キリエの言葉がキッカケだと仰った。それも間違いないことやねんな。キリエもきちんと仕事をしてん。だから頂戴しなさい」
そうなの?
これでホイホイ受け取って人生なんてチョロいぜ。とか思うようになったらどうするん?
と思ったけど、真ちゃんが言ってくれたこともわかるし、私の言葉が役に立ってその感謝のカタチであることも分かったから受け取ることにした。
お家の方のお手伝い。
おばあちゃんや真ちゃんについて回って、2人からバイト代としてお小遣いをもらっていたけど、お客さんから「私に」といただくのは初めてだった。
私も役に立てた。
封筒を受け取って、改めて嬉しくなって何度もお礼を言った。
「真ちゃん…」
「どないした?」
帰りの車中。
カバンの中から手帳を取り出そうとしたついでにお行儀悪いとは思ったけど、お客さんのお家からだいぶ離れたし良いやと好奇心に勝てず封筒を開けた。
そして、愕然とした。
「これ、封筒、間違ってはるかもしれない…」
「どういうこっちゃwww」
お正月にもらうお年玉の感覚だった。
けど、実際は週2回通ってるバイトの何ヶ月か分入っていた。
「間違ってへん。それはキリエの働きに対しての感謝のカタチや。それをキリエが貰いすぎたって言ってみ」
どういうこと?
「例えばな、この1割程度しか貰えないと思ってたってキリエが言うとするやんか」
うん。
まさしくそんな感じで思ってた。
「キリエはそのつもりなくても、息子さんやあの家にとってはキリエの言葉は今日受け取っただけの価値があるもんやってん。キリエはそれだけ価値を見出してもらったのを二足三文の取るに足りない言葉でした。適当に言ってましたーって言うん?」
そんな事を言うつもりは無いけど。
でも、カードを引いてカードが言ったまま伝えただけなんだよな。
「なら、もっと高めな」
「高める?」
「そう。この生業は見えるもんと違うから難しい所やねんけどな、だからこそ自分から出る言葉ってのは責任が付いて回るし適当な事も言えへんのは分かるな」
それは分かる。
「だから、もっとカードが伝えたいことをそのまま伝えられるように、キリエが伝えたいことをそのまま受け取ってもらえるようになったらええねん。今はほとんど感覚だけでやってるかもしれん。そうでなくてカードにある象徴も覚えたりしてこの象徴を意味するものを踏まえてカードから言葉を受け取るようにするねん」
何となく言ってることは分かるけど。
「こういった類を生業にする人はな、才能だけで生業にしたらあかんねん。それを高めて高めた物に対して報酬を受け取るねん」
あ、何か難しくなってきたぞ。
「とにかくキリエにはその氣無かったかもしれんけど、息子さんに新しいルート選択を提示して息子さんは自分で選んだ。それはあの家にとって、とても大きな意味があってん。だからそのまま受け取っておいてええねん」
「私、役に立てたってこと?」
「そういうこと。それを分かりやすいカタチにしたのが今日受け取った報酬やねん」
「そっか」
私も役に立てたんだ。
私の言葉が役に立てたんだ。
なんか、本当、嬉しい。
「ちょっと調子乗っていい?」
「何やそれwww」
そのまま家に帰る予定だったけど、百貨店に寄り道してもらうことにした。
そして、真ちゃんの好きなメゾンに行く。
本当は真ちゃんは別の所に行ってて欲しかったんだけど上手く言えなかったから「今日の記念が欲しい」と言った。
そして、キーホルダーを選ぶ。
ひとつは真ちゃんの。もうひとつは私の。
新しいお家の鍵を付けるため。
お店の人に言って、上手くひとつ買うフリをして2つ包んで貰った。
「喜んで貰えるといいですね」とお店の人がこっそり言ってくれて紙袋をひとつ渡してくれた。
それが、とても心地よくて私もこのお店が好きになりそう。
「マジで?ええの?うわー。ありがとう」
帰宅後、新しくなったお家初のお茶を入れて一息ついた時に紙袋を渡した。
お店の人が上手にしてくれたから、真ちゃんは私のキーホルダーだけ買ったと思ってたみたい。
作戦、成功。
渡す前に紙袋に入ってるうちのひとつは私のカバンにこっそり入れた。
「めっちゃええやん。ありがとう」
喜んでくれて嬉しい。
「でも、せっかくやのに自分の買ってへんやんか。しまった、用意したら良かった」
と言ってくれるけど「ちゃんと買ってるんだよ」と見せようとカバンを開けた。
あ、でもこっそりお揃いで買ってたとか氣持ち悪いとか思う?調子乗り過ぎだって。
浮かれてお揃いがいいって同じのにしたけど、真ちゃんのだけにしたら良かったかも。
「どうしたー?」
「氣持ち悪くてごめん!さっきお揃いの、買っちゃった…」
天使が通る。
やっぱり氣持ち悪いよね。
百貨店に着いた時に戻りたい。
戻ったら調子乗り過ぎるなって自分に説教したい。
「キーホルダー?」
「そう」
「これとお揃い?」
「ごめんなさい…お揃いの買いたいってしか思わへんかってん」
一瞬、また天使が通過したけど真ちゃんは思いっきりハグしてくれた。
「なんで謝んねんー。ええやん、早よ新しい鍵付けようや」
そう言ってくれるけど、離れてくれないと鍵付けられませんから。
お揃いのキーホルダーの付いた鍵はカウンター横に掛けた。
それが「私たちのお家」と言ってくれるようで、嬉しくて何度もこっそり見て、その度に笑ってしまってかなり氣持ち悪くなってたと思う。