Another story 60-1.お待ちかね。

年が明けるといよいよねーさんが里帰り(?)出産にうちに来る。
準備万端にしてお迎えしたかったけど、お正月は建て替えをしたせいなのか思ったより年始のご挨拶のお客さんがたくさん来たり、年末で辞める予定だったバイトが人が足りずに勤務になったりでなかなか準備ができなかった。
お迎え準備期間も楽しいのに。
しかも、ねーさん達が来る日に最後のバイトが入ってるなんて…。
「いらっしゃい」ってしたかったのに。
なので、ねーさん達が居る間、おばあちゃんちの方のおうちで過ごす予定だったけど、一旦もう一つの方の家でお迎えして翌朝おばあちゃんちに向かうことにした。




「荷物持ってくから先行って鍵開けてきて」
「オッケー♪」
お揃いのキーホルダーのお家の鍵。嬉しくて使いたいと思うけど、基本真ちゃんと一緒に行動するおかげでなかなか出番がない。
今日は私が鍵を開けられるし、ねーさん達が居てるしで最高の1日だ。
「リビングが1階になったんだよー」
びっくりさせたくて、ねーさん達におうちを建て替えたのを内緒にしていた。
「えー!すごい!どうしたの?」
ねーさんも美樹ちゃんもポカーンとしてる。
「すごいでしょー?」
私が建て替えたわけじゃないけど、盛大にドヤ顔。
「でね、マハルくん、こっちこっちー」
リビングとお隣の和室の障子を開けてみる。
お正月、お買い物に行った時に見つけたマハルくんが遊ぶための滑り台も披露。
上に乗せてみると、マハルくんは氣に入ったみたいでニコニコで何度も滑って遊んでる。
めっちゃかわいい。
ねーさんは「ホントすごい!良いなぁ。やっぱり戻ってきてここに住みたいー」と何度も言う。
いつでも戻ってきていいよ。


「じゃあ、きーちゃん達こっちと向こうと行き来してんの?」とねーさん。
「ホントはね、こっちのおうちだけで生活した方が色々いいんだけど学校があるからって向こうのお家も残しててくれてるねん」
ここから学校まで2時間弱。
こっちに完全に引っ越して学校へは真ちゃんが送ってくれると言ってくれてるし、おばあちゃんはこっちの学校に転校してもいいとも言ってくれてるけど、やっと友達も増えたし今の学校に行きたいと私のわがままで結局2つの家を行き来してる。
「きーちゃん、3学期どうすんの?通学大丈夫なの?」
「それは真ちゃんが送ってくれるから大丈夫!」
3学期の登校日自体少ないし、ねーさん達がいる間の登校は真ちゃんかおっちゃんが送ってくれることになってる。
もうちゃんと段取り済みだよ。バッチリ!
「もしかして私たちが来たから無理させたよね?」とねーさん。
違う違う!全然無理してないよ、私は。
この話をした時、真ちゃんにもおっちゃんにもすごく無理させちゃうからどうしようか迷ったけど、真ちゃんが「キリコが来てキリエが元氣なら送迎くらい問題無し!」と言ってくれたし、真ちゃんが行けない時送ってくれるおっちゃんも「毎日じゃないから大丈夫」と言ってくれた。
「だってねーさんがいる方が嬉しい」と答えるとねーさんは思いっきりハグしてくれる。
ねーさんの香り、やっぱり好き。
と思っていたらマハルくんも突進してきて3人でハグ。
あ、なんかすごく幸せ。


ねーさんの体調が心配なかったから、みんなでお買い物。美樹ちゃんが居るうちに赤ちゃんグッズを揃えておくとか。
赤ちゃんグッズの売り場は幸せ売り場。
そこに居てるだけで幸せを貰えるような氣がする。


「いーちゃん!これ!!」
マハルくんが乗るタイプのクルマを指差す。
「マハル、これがええんか?」と言う真ちゃんの言葉にドヤ顔で頷くマハルくん。イチイチ可愛くて悶絶しそう。
ねーさんと美樹ちゃんが赤ちゃんグッズを見ている間、私たちはマハルくんのベビーカーとおもちゃを見に来た。
荷物下ろした時にマハルくんのベビーカーはなかったと真ちゃん。
生まれてすぐお買い物行かないだろうけど、マハルくんとお買い物行く時にベビーカーが無いと大変だからうちに置いておく用のベビーカーを買っておくことにした。
ベビーカーを見に行った時もマハルが選んだ。
「2歳ちゃん」でもしっかりと好みがあるらしく、悩むことなく決定した。
マハルくんは車に乗るとポーズを取っていて、これまたかわいい。
「やだー、それは買わないー!」
マハルくんに悶絶していると後ろからねーさんの声がした。
「きーちゃん、ありがとねー!決めたよー!」
カートに沢山の赤ちゃんグッズが載っていて何だかワクワクな空氣がしてる。
「マハルや、それはあかん。どこで乗るつもりや」と美樹ちゃんまでマハルくんに言ってる。
「これね、うちにおもちゃないから買ってあげるねってマハルくんに言っちゃったん」と言うとため息を吐く美樹ちゃん。
「あかんかった?マハルくんと一緒に遊びたかってん。真ちゃんもね、いいよって」
美樹ちゃんとねーさんは顔を見合わせる。
勝手に決めたらダメだったかな?
マハルくん、嬉しそうだからプレゼントしたいんだけどな。
「教育方針的にこれは相応しくないならやめるけど、構わへんやったら買ってもええ?キリエがプレゼントしたいんやと」と真ちゃんが助け船を出してくれて美樹ちゃんとねーさんのオッケーが出た。
大人同士のが話が早いな。私も早くそこに入りたい。


真ちゃんがマハルくんのおもちゃと車とベビーカーをお会計すると、ねーさんと美樹ちゃんが揃って真ちゃんを拝んでいるのが面白い。
ねーさん達、いろんなものによく手を合わせてるよね。マハルくんが生まれた時も真ちゃん拝まれてたし、引越しの時も拝んでたね。
「夫婦で拝むなし www」と真ちゃんも笑ってる。
この空氣、懐かしくて嬉しい。




「起きてもねーさん達居るんだよね?」
寝る前、お布団に入って念の為に真ちゃんに確認。
「居てますよ。明日だけだなくて結構先まで居てるな」
「夢じゃないやんな?」
「夢じゃないですね」
このお家で、ねーさんに「おはよう」って言えるんだ。
「夢みたい!ホンマにホンマに夢じゃないやんな?」
学校から帰ってきたら「おかえり」ってまた言ってくれるんだ。
どうしよう、ワクワクし過ぎて寝られそうにない。
さっき、少しリビングで寝たってのもあるけど。
その時もねーさんが「ここで変に寝たら夜寝られなくなるからもうお布団行きな」って、一緒に暮らしてた時みたいに言ってくれて。
「うわーー、どうしよーー!嬉しいーーー!」
「わかったから、もう夜ですよ。寝る時間ですよ」
「ワクワク止まらないー!寝られないかも!」
「既に寝られんようなっとるやんかwww」
「寝たら勿体無くない?ねーさん居るねんで?ねーさん居る間、時間勿体ないから寝ない!」
「なんでそうなんのwwwキリコも美樹ももう寝とるからキリエも寝る!」
そんな事言われても寝られないものは寝られない。と思っていたけど、電氣が消えるとサクッと寝てしまった。
人間、そんなもん。


朝になってリビングへ行くと、美樹ちゃんもねーさんも起きていて「きーちゃん、おはよう」と言ってくれて、ねーさんは「よし、髪編んだげる」と私の髪を梳いてくれる。
「きーちゃんもう高校生やで」と呆れながら美樹ちゃんはねーさんに言うけど、何才でも嬉しいものは嬉しいんです。大丈夫。
「昨日遅くまで起きてたやろー。上の部屋まで声聞こえてたよー。早く寝ないと背が伸びないよ」
ねーさんの『早く寝ないと背が伸びないよ』も懐かしい。
「せやろ、キリコらが居って嬉しくて寝れんって全然寝ぇへんねん」
真ちゃん、それはちっちゃい子みたいだから内緒にしてて。






「じゃあ、キリコとマハル頼むなー」と言って3学期が始まる前日、美樹ちゃんは自分の家に帰ってしまった。
ねーさんはお家に居てるけど、美樹ちゃんの車を見送ると急に寂しくなってきた。
やっぱりみんなが揃ってないと寂しい。
ねーさんもマハルくんも居てるから、泣いちゃダメだと思うけど涙腺が決壊しそう。
「キリエ、ちょっと来て」
半分泣いてるのがバレないように一番最後に家に入ると真ちゃんに呼ばれる。
今、用事する氣分じゃないんだけどなー。
でも何かしてたら氣が紛れるかな。
「泣いて良し!」
寝室に入ると真ちゃんが言った。
泣きそうなんバレてた。
頑張って我慢してたのに、そんなこと言うから涙腺が決壊してしまったじゃないか。
「居らんと寂しいのキリコだけやと思ってたのに美樹もやったか」と笑うけど、寂しいものは寂しいんだ。


ひとしきりメソメソしてリビングに戻ると「もーいくつになっても可愛いなぁ」と言ってねーさんがハグして頭をグリグリしてくれた。
ねーさんにもバレてた。
「美樹に言ったら喜ぶわ。後で言っちゃおー♪」とねーさんは笑うけどそれは本当に言わないで。
必死に止めたけど、美樹ちゃんから家に着いたという電話がかかってきた時にねーさんにバラされてしまった。
代わってもらうと『なんや嬉しいから次そっち行ったら何か食べに行こうや。連れてったろ』と言ってくれた。
美樹ちゃん、早く来て。とっても楽しみ。




3学期が始まった。
朝、マハルくんを保育園に預けてから登校。
結構大変かな?と最初は構えたけど、1週間もすれば意外と保育園の支度も慣れてきたし、学校まで送ってもらえるしで電車で通学するよりも楽だった。
何より、忘れた頃にやってくるワープと混乱が随分と減って氣楽で居られた。
けど、多分、真ちゃんはとってもとっても無理をしてるんじゃないかと不安になる。
私が何か役に立つのかと言われたら、自信を持って何かを「できる!」と答えられないけど、少しは役に立てるように色々と出来ることを増やしたい。


「それやったらな、御守り作ってみるのがええんちゃうかしら」
真ちゃんのお手伝いをするとして、私が何か役に立てることは無いかをおばあちゃんに聞いてみた。
「きいちゃん、前にお念珠作ってくれたやろ。あれはホンマええもんよ。良く育つし、何よりきいちゃんの魂が入ってる」
私の魂…。
一瞬、「私の怨念込めちゃったのかと思った。」と言うとおばあちゃんは大笑い。
「言い方悪かったんかしら。きいちゃんの私のことを想ってくれた氣持ちがちゃんと入ってるから、お念珠の石にそれが届いて本来の力を出してくれるの」
それは石がすごいんじゃないの?
「適当に数をこなすだけで作られたのと、使う人のことを想いながら作られたのだと似た形でも力は違うもんよ。石もね、張り切るんじゃないかな?」
そういうものなんだ。
なんだかおもしろい。
「もう婆は貰ってるから大丈夫なんは知ってるけどな、試しに一つ作ってくれる?」
おばあちゃんはそう言って、メモを書いて渡してくれた。
「人の念から守るもの」
「そう。今行ってる人はね、人からの念を受けやすいの。だからいらない念を跳ね返すお念珠作ってくれる?」
要らない念を跳ね返すお念珠。
「どの石を使ったらいいの?」
「そうやね、一度石屋さん行って直接石に聞いて選んでみてごらん」
一番最初に作った時、おばあちゃんのは誰?真ちゃんのは誰?と聞くと石は『私、私』と答えてくれたようだった。
要らない念を跳ね返す。そのまま聞いてみたらいいのかな?


となれば、早速材料を見に行こう!と用意するものの…
「もう夜なるからあかん」
真ちゃんの言葉に出鼻を挫かれた。
「夜って…まだ夕方やん」とねーさんが助け船を出してくれるけど「帰ってくる時には夜なるやんか」
まあ、そうだけどー。
「真ちゃん、過保護すぎない?きーちゃんもう高校生やでー」
「高校生でもハタチ超えててもあかんもんはあかん。何かあったらどうすんねん」
あ、そうだよね。
最近、調子良すぎて調子乗ってた。
出先でワープしたり混乱したりしたら、ねーさんまで心配かけちゃうもんな。
これ以上迷惑もかけたくないから、ここは言うことを聞いておいた方がいい。
なんですぐ調子乗っちゃうんだろ。
あ、テンション落ちてきた。


「また謎思考始まってるんちゃうやろなー。明日帰りに寄ったるから」
テンションが落ちたのがバレたのか、そう言って真ちゃんがハグして充電してくれるけど…
「ちょっとー、別居中妊婦の前で何してくれてんの。ほんっと、最近の若い子って節操ないの?」
ねーさんの前ではよして…。
「きーちゃんは貰ったー」
ねーさんが真ちゃんを突き飛ばして代わりにハグしてくれて、それを見たマハルくんも突進して3人でハグ。
何か楽しい。




そんな日が続いて毎日が楽しくて本当に嬉しい。
おばあちゃんに言われた御守り作りも、お仕事の時に渡すとみんな喜んでくれて自分も役に立ってると思えて本当に嬉しい。


「キリエー、ちょっと充電させてもろて良いっすかね」
お仕事が終わって、車に乗ろうとした時後ろから真ちゃんが呼ぶ。
充電?
今日は調査の日だったからお疲れ?
肩に真ちゃんの頭が乗ってびっくりした。
めっちゃ熱い!
「熱出てへん?」
手を握って確かめるけど、普段は冷たいくらいの手がやっぱり熱い。
「おっちゃんに電話して来てもらおう!」
何で私は車の免許を持ってないんだ。
18歳になったらすぐ取りに行こう。
こんな時運転交代できる。
「ちょっと充電したらだいじょーぶ」と言うけど全然大丈夫じゃなさそう。
こんな時どうしたらいいの?救急車?
「休憩しながらやったら大丈夫やから。キリエは?しんどないか?」
そんな息絶え絶えで私の心配しなくていいよ。


しばらく充電した後、帰りのルートに先生の病院があるから寄る。
「過労やな。また無茶して働いてんちゃうの?」
点滴を用意しながら先生が言う。
そうだよ、働き過ぎなんだよ。って、その原因って私の学費とか生活費のせいだよね…。
最近は御守りを作るときちんと報酬をいただくようになったから生活費くらいは出したいんだけど、いつも真ちゃんに断られるんだよな。
どうしたらいいか、ねーさんに聞いてみようかな。
「お嬢は最近調子良さそうやんか」
真ちゃんが点滴をしてもらってる間、先生とティータイム。
先生に聞いてみようかな。
「そうなの、元氣だよ」
「それは何より。で、真弥はよう働いとるん?」
「働き過ぎだと思う。それってね、学校行かせてくれたり私を養ってくれるためやと思うねんな」
「ほう」
「だからね、最近私もお仕事として報酬貰えるようになって来たからちょっとでも生活費を渡して真ちゃんが休めるようにしたいねんけど受け取ってくれへんねん」
「そらそうやろな」
「何で?!」
「そこはしょうもない男のプライドです」
何?男のプライドって。
「まあ、生活費やなんやらってのもあるかもしれんけどな、何より働いてお嬢を養うってある種の自己満足ですわ」
もっと意味わかんない。
「真弥から聞いたわけちゃうけどな意外と働くことでいろんな欲求やったりを満たしてたりするでな」
「どう言うこと?」
「人間っていろんな欲求あるやろ。金銭的なことだけでなくてな」
「役に立ってるって思うと嬉しいとか?」
「よう知ってるな」
「だって、それ私…」
先生、大笑い。
なんで大人は色々すぐ笑うんだ。
いい加減、傷つくよ。
「どっちの仕事もそこそこ上手いこと行ってるからなかなかペース落とすの難しいんちゃうか」
「どうしたらいいの?」
「真弥に関してはお嬢がそのまま思うこと伝えたらええんちゃうか?」
まただ。先生もねーさんと同じこと言うんだ。
それ、解決策になってんのかな。
てか、私の生活の為だけでないって言ってたけど少しはその原因になってると思うのに私が『もっと仕事のペース控えて一緒にいて』って言っていいものなのか。
ただでさえ家の仕事の時もくっついて行って1人になって息抜きなんてできなくしてるのに。
一緒に居なくても良いからお仕事減らして。の方が良いかな。
モヤモヤして来たぞ。
私のせいな氣がしてきた。
「ポジティブ過ぎるのも問題あるけどお嬢みたいに何でもかんでもネガティブに振り切るのも大問題やで。ニュートラルにおらな冷静に判断でけんで」
モヤモヤしてきたのがバレた?




真ちゃんは家に帰るとまたすぐ残りの仕事を片付けると言う。
美樹ちゃんが来てる時で良かった。
美樹ちゃんにヘルプを出すと「熱が下がるまで寝とけ」の一言で真ちゃんはおとなしく寝室に。
「やっぱり美樹ちゃんだー」
「なんやそれ」
「美樹ちゃんが言うと真ちゃんも兄ちゃんまで言うこと聞くやん。おとーさんみたい」
「誰がカミナリオヤジやねん」と言って頭をグリグリしてくれる。
これも何か懐かしい。
自分達が居ると真ちゃんがゆっくり出来ないだろうからとねーさん達は出かけると言う。
「きーちゃんも一緒に行く?」
みんなとお出かけもしたいけど、熱出して寝てる真ちゃん置いていくのもなんかなぁ。
「真ちゃんと留守番してる」
「そっかー。お土産買ってくるから真ちゃんのこと頼んだよー」
「お任せください!」


ねーさん達がお出かけしてしまうとリビングが急に静かになってなんか寂しいなー。
なのでちょっと寝室を覗いてみる。
私が寝た後に寝て起きる前に起きちゃうから真ちゃんが寝てる姿見るのって何か新鮮。
真ちゃんも寝るんだね。
そらそうかー。
「さっき美樹と何話してたん?」
あ、起きた。熟睡することってあるのかな。だから熱が出るし、ねーさんに怒られるくらい細いんだよ。
「マハルくん元氣過ぎて真ちゃん寝られないとあかんからってお出かけしてくるって」
「その前」
その前?
「ああ、美樹ちゃんが言うとね、みんな言うこと聞くからおとーさんみたいって」
「……。」
何か返ってくると思ったのに返ってこない。
「ワタシは?」
真ちゃん?
どういうこと?
「美樹と話さんとって」
はい?どういうこと?
さっきから謎発言。
熱で訳わからなくなってる?
「美樹が居る間キリエはここから出たらあかん」
やっぱり熱上がってるのかも。色々と変。先生に電話して来てもらった方がいい?
「どこ行くん?」
「先生に電話してくる!」
「あかん、電話するんやったら電話解約する」
本格的にあかんやつかも。色々意味わからないこと言い出した。
「キリエはこの部屋から出たらあかん。許さん」
そのまま腕を組まれてホールドかけられた。動くどころか起き上がれないやん。携帯なんでリビングに置いて来ちゃったんだろ。携帯は携帯するから携帯電話って真ちゃんに言ってるのに。
美樹ちゃん帰って来ないかな。
「美樹帰って来ないかなとか思っとるやろ」
だから千里眼か何かお持ちなんですかね。
「ここ居って」と言うと真ちゃんは私をガッチリホールドかけたまま寝てしまったけど動いて起こすより良いよね。


エアコンの風の音だけ聞こえてる。
めっちゃ静か。
こういう昼下がりも何か良いな。
『ここ居って』って、ずっと同じこと言ってたからだよね。
もういい加減、嫌になるよね。
今、私はまたどこかに行きたいと思ってるのかな。
もし今シードラゴンが迎えに来たら私はまた行きたいと言うのかな。
黄泉の国へのバスが来たら?
ううん、行かない。
ここが真ちゃんと私の家。
シードラゴンの所や黄泉の国に帰らなくても私が居ても良い場所だ。
でも、私はすぐ揺らぐ。
だから真ちゃんは同じ事を何度も言わなきゃいけないんだ。
「ごめんね、どうしたら信用してもらえるのかな。」
やば、思わず声が出ちゃった。
起きるかな…あ、やっぱ起きちゃった。
「信用?」
そうだよね、何のことだ?だよね。
「何でもないよ」と答えるけど納得してない氣がする。
それに、今更「ここに居たい」って言うなんて何言ってるんだってなるよね。
やっぱり私は人を不快にさせる天才なんだ。
これだけやって貰ってるのに不快にさせるわ、自由を奪うわ。
最近楽しいこと嬉しいことばっかりだったから調子乗ってた。
「謎思考…」
真ちゃんが言った。
謎思考?
「また、謎思考してる顔しとる。今度はどんな謎思考してんの?」と少し笑った。
「何度も同じこと言って、いきなりここ居たいって言い出したりコロコロ言うことかえて…ごめんね。もう信用してもらえないかもしれないけど…」
「けど?」
「けど、この家で真ちゃんと居りたいねん。でも勝手なこと言ってるのも良くわかってて…」
「知ってる」
多分、さっきのが本音じゃないかな。
今は意識はっきりしてるから。
「知ってるから、大丈夫やで。だから、今は光ちょうだい。分けてくれたらすぐ戻る」
私の光ならいくらでもあげるから、だから、ここに居させて。
私の家族で居て頂戴ね。