Story 64.サプライズ。

きーちゃん達が帰り、連休が終わって、氣分新たに日常が始まる。最初の2日位は、マハルが私から離れなくて参ったけど、旦那が連休だったおかげで何とか乗り切れた。
加奈子から早々と、当日マハルとタマキを預かってくれる託児所をおさえたと連絡があった。フットワークの軽さに感心する。そして、残り2曲も選曲が終わって決定。ラストの旦那が入る曲はマサキくんがベースを弾いて真ちゃんがボーカルに。ベースが難しくてマサキくんは必死らしい。私も久しぶりにシンセを出してきて、日中合間に練習。旦那に至ってはサイレントドラムを買ってきて練習してる。根は真面目だからなぁ。マハルが旦那の真似してるのがかわいい。
夏休みはきーちゃん達に会えるかと思っていたけどきーちゃんが帯状疱疹になってしまって会えなかった。手紙にはどこにも行けないから暇。と書いてあった。
10月、11月ときーちゃんに内緒で大阪へ行ってスタジオへ。会いたかったけど、計画遂行の為仕方ない。私たちが大阪に来る日、真ちゃんは仕事と言ってきーちゃんと実家に行ってくれてハイツの方に泊まらせてくれた。スタジオ入りはもちろん内緒だから、きーちゃんには単独の仕事で遅くなると言って出てきたそう。嘘ついて出てきてるから心が痛いと練習中ずっと言っていた。11月の練習で、まだ仮縫いだけど…と加奈子がきーちゃんの衣装を見せてくれた。白いワンピースで、加奈子もきーちゃんの話を聞いたのかと思ったけど、純粋に曲のイメージだけで決めたのと、12月と言えば冬で雪ってことで白いワンピースにしたらしい。まだ加奈子には言ってないんだ。加奈子に言ったらまた元文学少女の血が騒いで大変なことになりそうだけど。
「加奈子にはまだ言ってないの?」練習後、真ちゃんは一旦ハイツの方に荷物を取りに来たのでついでに聞いてみた。「なんか改まって言う機会なくてなー」そんなものなの?嬉しがって言えば良いじゃないの。「それやったら式なり入籍の日なりがちゃんと決まってからでもええかと思って。言うてしまえばまだ口約束みたいなもんで具体的にそこまで決まってへんしな」まあ、そう言われてみたら納得。けど、加奈子はすごく盛り上がるだろうな。「具体的にいつにしようとか話しないの?」「言うてもまだキリエは学生やで焦らせてもなぁ。卒業してすぐくらいやったら嬉しいけどな」と笑う。まあ、女の子取っ替え引っ替えしてた真ちゃんなのに年単位で待ってたわけだからあと2年やそこらは待てるか。どっちかって言うと社会的なことの話だし本人たちは変わらないだろうし。

きーちゃんの誕生日前日。真ちゃんはまた実家の方に行って私たちはハイツに泊まらせてくれた。マハル達は練習の時も同じ託児所でみてもらっていて、先生たちがとても優しくて大好きになったらしくマハルは特に機嫌よく託児所へ行った。
当日、普通はトリから順にリハを始めるけど、トリはきーちゃんのいるバンドだからサプライズが成立しないね。と店長がきーちゃんの入りの時間より早くにリハをさせてくれた。融通きかせてくれてありがたすぎる。私たちのパーティの後、パーティ会場としてもレンタルすることを思いついたからほんのお礼やし。と言われた。それに、店長がこういうのが好きらしくノリノリだった。
きーちゃんが入りの時間より早く来ないかが中々掛けだった。真ちゃんは仕事で直接会場入りすると言ってきーちゃんに1人で来るように伝えたらしくやっぱり「心が痛む」とずっと言っていた。
店長さん始めスタッフさんの全面協力のライブなので、私たち2人はスタッフルームで待機。時間通りにきーちゃんが到着したようで声が聞こえた。リハが始まって、きーちゃんの声が聞こえた。時々楽しそうに話してる。「見たいー」「あかんて。全部無駄になるで」と全力で止められる。
開場して、人が入り始めてこっそりカウンターから様子を見るときーちゃんが誰かと話しているのが見えた。加奈子の作った白いワンピースに、白い大きな羽根のついた帽子、リボンたっぷりの白いニーソックス、白い靴。見事に真っ白だけど、黒髪のお姫さまカットによく似合ってる。「きーちゃんかわいいーー♡いつもこんなかわいい格好してんの?加奈子たち、見れていいなー」ライブの衣装は加奈子のブランドのお披露目も兼ねてスタイリング込みで毎回加奈子がやっているとか。
今日の対バンは、店長さんが超氣をきかせてくれてきーちゃんの好きなバンドに声をかけてくれた。そのバンドの人たちもライブの常連であるきーちゃんの誕生日ライブなら是非と快諾。そのバンドと私たち、ハッピーバースデーでケーキ出して、トリきーちゃんたち。
超身内な1日だから、動員少なめなのかな?と思ったら、意外と入っていてびっくり。もう一つのバンドが結構なベテランで(たしかに何度か私も対バンしたことがある)そこだけでも動員あったし、きーちゃん達のバンドも毎回コンスタントに動員があるらしい。バンド繋がりで仲良くなってる子たちに店長さんが今日きーちゃんの誕生日でライブすると決定した時から声をかけてくれてたらしく、バンド繋がりの子も来てるそう。ケーキのサービスもあるし。笑
開演直前に加奈子がスタッフルームにやってくる。「全然氣付いてないで」と現況報告くれる。今日の最初のバンドは、きーちゃんが好きなバンドだから対バン出来るのがすごい嬉しいと喜んでいるらしい。お友達も来てくれてるからすごくご機嫌だよ。お友達来てる時はお友達とカウンター近くのテーブルにいると教えてくれた。私たちはきーちゃんの直前だけど、きーちゃんはいつも直前まで客席にいるからこのサプライズが成立すると加奈子。リハ中、きーちゃんに「2番目のバンドは?」と聞かれて焦ったけど、店長さんが「遅れるからリハ無しのぶつけ本番になる」的なことを上手いこと言って誤魔化してくれたと笑う加奈子。確かにそうだ。すっかり忘れてた。店長さん、グッジョブ!
最初のバンドがスタンバイ。きーちゃんは加奈子が言った通り、カウンター近くのテーブルで友達と居てる。時々楽しそうに話してる姿を見て、友達との表情を見ることができて新鮮。
演奏が始まると、きーちゃん達は真ん中に行ったので帽子を深く被って旦那と急いで楽屋へ行く。氣付いてないようだ。「今戻って来たらどうしよー」「大丈夫、滅多に戻って来ないし友達が来てるから何なら私たちのセッティングでようやくくるよ。なぜなら姫さまだからwww」と加奈子。「友達来てくれて良かったね」一緒に居る頃、数人の名前しか聞いていなかったけど、誕生日をお祝いしてくれる友達がこんなに出来たことが嬉しかった。待機中、店長さんがいつもよりきーちゃん達のバンドの動員が多いと教えてくれた。お店をあげてのサプライズライブだから、きーちゃんへのプレゼントを預かってるけどかなりあるよ。とも言っていてなんだか嬉しい。
まず、真ちゃん加奈子マサキくんがセッティングに出て完了したら私達が出る。まあ、旦那はすぐ一旦戻るけど。「3人が出てきた時点で姫、絶対焦るな」とマサキくんが笑う。
前のバンドが終わって、3人がステージへ。何だかドキドキしてきた!客席を覗くと、初めは友達と話していたきーちゃんだけど自分のバンドのメンバーが登場したことでびっくりしてキョロキョロしてる。「きーちゃん、挙動不審もかわいいーー」「キリコ、落ち着け。」「間違ってないよ。紫ちゃんは次よー♪」と加奈子がステージから言うと更に挙動不審になってなぜかぐるぐる回ってる。
3人からの合図で照明が落ちて、私たち登場。直前がドキドキするけど、ニヤける。加奈子達が登場用に演奏してくれるものだから驚いた。「ハッピーバースデー!きーちゃん!」と私たちが帽子を取ると、きーちゃんは声が出ない位驚いてポカーンとしてる。そして、「えーーーー!なんで?なんで?」とジタバタしてる。やっぱりうちの子かわいい。「だって、お誕生日やん」お友達に冷やかされたりお祝いされたり、楽しそうで良かった。
旦那が一度下がって、2曲演奏。あかん、やっぱ楽しい。地元で一緒にやってくれる人居ないかしら。それか定期的に遠征してこようかな。きーちゃんを見ると、次が出番なのに加奈子が言った通り最前に居てる。お友達と楽しそう。音も光も、きーちゃんを傷つけるものじゃ無くなったみたい。
3曲目。旦那が出てきてパートチェンジ。またきーちゃんが友達とジタバタしてる。女子高生ズ、かわいいな。曲が始まると、最近大好きと言ってただけあって女子高生ズで歌ってる。
間奏で真ちゃんがステージから降りてきーちゃんを迎えに行くからびっくりしちゃった。きーちゃんもびっくりしてるじゃない。女子高生ズもきゃーきゃー言ってるし。そら、こんな演出されたら女子高生はきゅんきゅんするか。腹立つけど、加奈子の作る衣装を着てる真ちゃん絵になるしな。加奈子を見ると盛大にドヤ顔してるから、絶対加奈子がけしかけた。加奈子、こういうの好きだよね。それに乗る真ちゃんもたいがいにしてよね。
曲が終わると、加奈子が箱を持ってきて開けるとかわいいティアラ。真ちゃんが取り出してきーちゃんにつける。この2人ムカつく!何美味しいとこ2人で持っていってんの。聞いてないー!私もその役がしたかったー!「今、絶対自分がやりたかったって思ってるやろ」と旦那に言われたけど、やりたかったに決まってるでしょー!って、ステージの上で堂々とちゅーすんな!なんてこと!客席は盛り上がってるけど、最近の子は恥じらいってのないの?長いわ!せめてサラッと一回だけにしなさい!と思って焦ってると旦那が真ちゃんの頭を一発ぶん殴る。客席ウケる。加奈子が「ドラムはむらさきちゃんのパパでしたー」なんて言うから「父親の前でやったらあかんやろー」なんて声が聞こえて更に客席ウケる。 
ハッピーバースデーをみんなで歌って店長さんがバースデーケーキを持って来ると、きーちゃん完全に泣いてるし。目の周り真っ黒になるよ。ロウソクを吹き消して…って何度も公衆の面前でちゅーすんな!抱き合うな!長い!何度してんの!旦那が真ちゃんに今度は蹴りを入れるからみんな更に大ウケ。
お友達からプレゼントを渡され、対バンのメンバーさんも出てきてきーちゃんにプレゼント渡すから大号泣。それだけ泣いたら絶対歌えないでしょ。笑もうホントかわいいなぁ。
「最近の若い子は恥じらいって無いわけ?」と言うと「大丈夫、もううちの恒例行事だから」と加奈子が言う。普段のライブでもやらかしてんの?加奈子によると、きーちゃんがMCをしていようが曲間であろうが真ちゃんが絡みに行って毎回やらかしていて「一回もしなかった時のアンケートに『喧嘩したんですか?大丈夫ですか?』って書かれたよ」と笑った。「むらさきちゃんが対バンの男の子と仲良く話してるやん、そしたら『ヒカルに怒られなかった?』って物販の時心配されてたしwww」と加奈子が笑うけど、2人ともどんなキャラになってんの。お母さんはそんな子に育てた覚えはありませんよ!
加奈子達はきーちゃん号泣なのをしっかり読んでいて、きーちゃんには5曲と言っていたけど、2曲に減らしたそう。マサキくんがプレゼントと思わせといてボックスティッシュを渡したのは笑った。
きーちゃんが落ち着くのを待ってる間に、店長さんがケーキを切って今日来ている人に配る。なんか、大きな箱あるなと思ったら全部ケーキ!まあ、一個のケーキじゃ足りないよね。
きーちゃんがようやく落ち着き、スタンバイ。さっきまで号泣してたとは思えない。とっても楽しそうに歌ってる。私がついてなきゃ心配だと思ってた小さな女の子は、いろんな人にお祝いされてる。ちゃんと、みんなきーちゃんのこと大好きなんだよ。

「キリコが言ったんでしょ。誕生日はプリンセスの日だって」さっきのティアラの件で加奈子に「ずるいー!」と言うと加奈子が言った。ずっと前に言った氣がする。きーちゃんはそれを覚えて居てくれて、誕生日はプリンセスの日だからって加奈子の誕生日にはお姫さま待遇をしてくれたらしい。それを思い出して、急遽ティアラを作ったんだって。加奈子から渡しても良かったけど、真ちゃんがつけてあげた方が「何かええやーん♡」って事で、楽屋で間奏の間にきーちゃんを迎えに行って、曲が終わったら加奈子がティアラを出す、それを受け取った真ちゃんがきーちゃんにつける。と指示したそう。策士め。
普段は、ライブが終わって精算してすぐにクローズするけど、店長さんが特別に打ち上げをさせてくれた。マハルとタマキを迎えに行かなきゃいけないから、打ち上げはそこで終了。
「今日、うち来てくれる?泊まれる?」誘ってくれるのね、嬉しい。一度ハイツまで送ってもらい我が家の車を取りに行って、息子たちを迎えに行く。そして、真ちゃんの実家へ向かう。
「マハルくんたち来るならおもちゃ用意したら良かった」着替えてもティアラはつけたままのプリンセスきーちゃん。リビングには大きなクリスマスツリーが飾っていて、やっぱり雑誌に出てきそうな空間になってる。どうしたらそんな小洒落たことになるのか。うちに来て、インテリアコーディネートしてくれないかしら。
マハルは大きなクリスマスツリーに「うおーーー」と圧倒されてる。うちの息子、かわいいわ。
真ちゃんが冷蔵庫からケーキを出してくる。「え?いつ買ったん?さっき持ってなかったで?」と混乱プリンセス。「婆からやって」「うそー!嬉しいーー!」と言ってまた泣き出す。    マハルが急いでマイハンカチをカバンから出してきた。我が息子ながらあんた、やるわね。
「世界一幸せ♡ねーさん、ありがと」おばあちゃまからのケーキを食べながらきーちゃんがこっそり言ってくれた。喜んでくれておねーちゃんは嬉しいよ。

私の誕生日に、きーちゃん達からライブの写真とプレゼントが届いた。プリンセスのきーちゃんは、とても良い顔をしていた。あんなにたくさんの人に祝われるきーちゃんを見て安心したし、私まで嬉しくなった。