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Story 64.輪廻。
真ちゃんちに来て10日。きーちゃんは少しずつ回復しているみたいで、散歩しながら神社まで歩いたりするようになって、真ちゃんは短い時間で出来る仕事を受けるようになった。
真ちゃんが留守を任せてくれるのが嬉しい。真ちゃんが留守にしてる間、神社の境内を散歩して時々ベンチに座って話をする。きーちゃんはいろんなものを目で追って、身体全体でいろんなものを感じているようだ。今、きーちゃんが見ているもの。きーちゃんに話しかけるもの。きーちゃんは前に比べると口数はまだ少ないけれど、少しずつ話してくれる。今までもきーちゃんの感じるものについて少しは聞いたことがあったけど、想像していた以上に、外の世界はきーちゃんにとって良くも悪くも刺激が多かった。
きーちゃんは散歩で外出した日は比較的に長めに睡眠が取れるようになって、そして食事もまだまだ量としては少ないけれど、安定してとることができるようになった。
「キリコ、家大丈夫なん?」真ちゃんはよく我が家のことを氣にしてくれる「うち?大丈夫よー。羽根伸ばしてるみたいだわ」毎晩、寝る前に電話をして家の様子を聞いている。子供たちの事が氣になっていたけど、当の子供たちはマイペースで過ごしているらしい。「助かったわ。本氣で今回はあかん思った」「大袈裟だなー。」と私は笑ったけど、真ちゃんは旦那にヘルプを出した理由を話してくれた。
入院をした病院での3日間、きーちゃんの状態が悪すぎてそのまま精神科へ受診を勧められた。その時、先生が付き添ってくれていて車の中で精神科へ受診させた方がいいか相談すると「普通なら受診させるやろうな」と先生は言った。下手すれば入院。入院しなくても間違いなく薬は処方される。けど処方される薬の影響で、きーちゃんの持つ感覚は消えるだろう。程度によってはその力だけで無く人生まで左右させることになるかもしれないけれど真ちゃんの負担は減るだろうと言われた。
きーちゃんの持つ力を消してしまうことは、多分きーちゃんにとって生きやすくなると分かっていたけど、その判断を勝手にしてしまうことが出来なかったし、消したくなかった。だから、家に連れて帰ってきた。何とかするつもりだったし、出来ると思ってた。
何日もきーちゃんの状態は変わらないし話すどころか、触れることも声をかけることも拒絶された。目についた刃物で自分を傷つけようとしたり命を絶とうとする。止めるとまた拒絶される。きーちゃんにとってあの出来事がどれだけ耐え難く辛いことだったと理解しているけど、拒絶されたとしてもきーちゃんが命を絶つよりもずっと良い、自分のそばにいて欲しくて何度も止めた。刃物は早いうちに隠した。
5分も寝られない日が何日も続いて、まともに寝られない日が続くと正常な判断が出来なくなってくる。旦那に電話をかけた日の明け方。きーちゃんを連れて帰ってしばらく過ぎた頃の話。
いつものように錯乱しだしたきーちゃんを落ち着かせながら、病院にも連れて行かず楽になるであろう薬も飲ませずに何度もフラッシュバックを起こして怖がらせてしまっているのが正しいのかと疑問に思った。
きーちゃんがフラッシュバックを起こす度に、きーちゃんが向けられたあの日の憎悪と自分勝手な欲と殺意を真ちゃん自身がキャッチしてしまうようになっても、どうしてもきーちゃんの力を消してしまうことを選べないし、きーちゃんを手放せない。きーちゃんが力を無くしてもきーちゃんは変わらないと分かっているのにその選択肢をどうしても選べなかった。
あの日の真ちゃんの「ごめん」はこの意味もあったのかもしれない。と思った。
虚ろな表情をしながら座るきーちゃんに「一緒に来世に行こう。来世でまた色んな世界を見よう」と声をかけてみた。今まで近寄ることすら拒絶していたきーちゃんが前のように膝に座って「ありがとう。ごめんね。私も、もう行きたい」と言った。きーちゃんの声を聞いたのは久しぶりだった。
きーちゃんは何年も前から「来世に行きたい」と言っていたけど、2人が同じタイミングでなければ行けないと嘘をついて伸ばしていた。そして、その時になると自然と来世へ行く流れになるから待っておこうと言っていたらしい。きーちゃんは真ちゃんと2人で来世に行く。という約束を守っていたのか、最近は1人で行きたいと言わなくなっていた。
けど退院した日、きーちゃんは一人お風呂場で首を吊ろうとした。幸いそれは失敗したけど、きーちゃんは目を離すと1人で行動に出ようとするようになってしまった。
「来世に行こう」と声をかけた時、久しぶりに自分を見るきーちゃんは、帰ってきて初めて穏やかな表情をしていた。きーちゃんは一番のお氣に入りのワンピースを着ると「ここからいきたい。このお家は一番大好きで私のお家だから」と言った。来世に行くための相応しい場所がこの家だと言った。家族や自分の家を夢見て、ようやくきーちゃんは心から望む夢を手に出来たのかと思うと守れなかったことが後悔してもしきれず、そして自分の弱さに絶望した。それでもきーちゃんは「真ちゃんはいつも自分を守ってくれる魔法使いだよ。来世はもっと強くなるからね、また一緒にいてね」と言って笑った。
きーちゃんの首に手をかけた時、激しい雨音と大きな雷の音がして正氣に戻った。
自分は何をしようとしていたのかと思うと怖くなった。「まだ、ダメなんだね。何でだろうね」ときーちゃんは呟くとまた話さなくなってしまったけど、今までとは違って自分の元に来てくれるようになった。その日は、久しぶりに2人で寝室で寝る事が出来た。昼前に目が覚めて、横で眠るきーちゃんを見てまた同じことをしてしまうかもしれないと旦那に電話をかけた。すぐに来てもらえるような距離でもないし、私たちの都合もあるから無理だと分かっていたけど、きーちゃんの事も含めて頼れるのが旦那しか浮かばなかった。旦那は思ってたよりすぐに来てくれたし、子供たちも居るのに私も飛んできてくれてきーちゃんも落ち着いたし、自分が何より心強い。けど私達にとても負担をかけてしまったとまた謝ってくれた。「きーちゃんは私たちのかわいい娘だし、真ちゃんだって家族だと思ってるって言ってるじゃん。何を氣にしてんの」
不思議だったのは明け方の激しい雨音と雷が鳴っていたのに、おばあちゃまも弟子さんも氣付いていなくて雨が降った跡もなかったこと。本当に雨が降っていなかったのかと外に出た時、すぐ近くの神社の方から鳥が飛んできた。
「あそこの神さんさ、雷の神さんも居てはんねん」と真ちゃんが言った。「勝手な解釈かもしれんけど、止めてくれたんやと思う。けど、キリコらが居らんかったらまたやってしまったかもしれん。ホンマごめん」
そこまで追い詰められていたのは旦那からも聞いてなかったし一緒に居て氣付かなかったけど、眠れないと正常な判断が出来なくなることは身をもって知っていたし、その上自分を拒絶されるという辛さは想像できた。それでもきーちゃんを守っているんだ。
ある日、きーちゃんは熱を出した。熱のせいなのか、順調に回復してきたと思ってたきーちゃんの状態は明らかに後退していた。
眠れたと思っても数分ごとにフラッシュバックして目を覚ました。発作が落ち着くと熱で朦朧としながら「もう嫌だ、苦しい」「真ちゃん、ねーさんごめんね」と何度も言う。きーちゃんばかり何でこんな目に合うんだろう。何でここまで苦しまないといけないんだろう。真ちゃんはもう嫌だという言葉をどんな氣持ちで聞いているんだろう。
翌朝になってもきーちゃんの熱は下がらず、先生に来てもらった。点滴のおかげか、落ち着いて寝ている。「寝るなら今のうちやで」と先生が言う。一晩完全に徹夜していた真ちゃんに休んでもらって、私は先生と話をする。
「きーちゃんが元の生活に戻れるのってどれくらいかかるの?」そんなの人それぞれだと分かっているけど、聞いてしまう。「元に戻れたらええけどな」と先生が言った。
「戻れないこともあるの?」回復することばかりを考えていて、そうでない時のことなんて思ってもなかったからショックだった。「可能性はあるで。そればっかりは誰にも分からん。まだ戻らんと断言するのも早い。けど、『寝て起きて戻りました』は無いやろうな。家に帰るなら今と違いますか?」と先生が言う。少し家の事が心配になって来たのがバレてしまっていた。先生が言うように『寝て起きて治った』は無いと思う。だからといって、この状態で家に戻るのも不安しかなかった。
点滴が終わる頃だろうと先生が寝室へ行って、少しして戻ってきた。「2人とも良く寝てるから起きるまでそっとしたって」と言って、先生は帰り支度をする。「ホンマ、最後まで付き合おう思ったら家庭捨てなあかんようになるかもしれんで。あの子ら大事やと思う氣持ちは良く分かる。けど、線を引きなさいね」と言って先生は帰っていった。
線を引く。かぁ。意外と難しい。家庭を捨てなきゃいけないってのは大袈裟な氣はするけど。
寝室をのぞくと、きーちゃん達はよく眠っていた。リビングに戻っても何もする事がなかったから、旦那に電話をかけてみた。
旦那はいつもの通り電話に出た。いつもは夜中にかけるので少し早い時間の電話に驚いていた。今日あったことを話して、真ちゃんも一緒に寝てしまったからかけてみた。と言うと「暇つぶしっすか」と笑う。先生に言われた「線を引くこと」「きーちゃんが戻らない可能性もあること」も話した。先生が言ってたことはわからなくも無い。だからと言って帰って来いと言うつもりは無いと言う。
余計分からなくなってしまった。
いつもなら点滴をしてもらうと翌朝には熱が下がるけど、今朝は下がっていなかった。
「きーちゃんの熱が下がったら、一度家戻ろうかと思ってるんだけど」朝、起きてきた真ちゃんに言ってみた。寝る前にも考えてみて、やっぱり線引きに関しては分からないままだったけど、無性に旦那に会いたくなった。
真ちゃんは「本当に助かった。ありがとう」と何度も言ってくれた。
昼前、きーちゃんの熱は少し下がりだした。「ずっと夢見てたよ」と朦朧としながらきーちゃんが言う。「昔のねーさんに会ったよ。真ちゃんにも、美樹ちゃんにも。みんなね、一緒に居てくれてたよ。今ね、やっとみんなで一緒にいられて嬉しい。だから、もうちょっと頑張るね。ごめんね」そう言うと、また眠ってしまった。どんな夢を見たんだろう。
昔の私…若かったろうな。笑『やっと』ってなんだろう。そして、また謝るんだから。
夕方になって微熱程度まで下がった。そのかわり熱が下がると、またフラッシュバックが起きるらしく数分寝ては発作で起きるを繰り返した。
「キリエ、起きられそうなら一度向こうに行こう」と真ちゃんはリビングに連れて行ってしまう。「寝かせてた方がいいんじゃないの?」と言ったけど、「あれだけ寝てたからもう寝られへんかと思って。夢でフラッシュバックしてしまうなら起きてた方がええかと」とのことだった。真ちゃんの言った通り、きーちゃんはリビングで何をするわけでも無いけど真ちゃんの隣に座って落ち着いているみたいだった。時々私と目が合うと静かに微笑んだ。
「でね、すごく綺麗で、ねーさんに教わるのがとっても嬉しかったんだ」夕食の後、きーちゃんはさっき見ていたという夢の話をしていた。前みたいに、真ちゃんの膝の上に座って楽しそうに話している。雰囲氣はいつものきーちゃんではなく、前に見た小さいきーちゃんに近いようだ。それが小さいきーちゃんだったとしても、きーちゃんが自分が見たり感じたりしたものを話すのはいい傾向かなと、少し安心した。興味あったから私も横で聞いていた。
夢の中の私はきーちゃんのお師匠さんで、いろんな事を教えていたと言う。そのお師匠さんの元に居られるのは、幼いながらもとても誇らしく幸せだったと言う。「とっても大好きだったのに、私はどこか別の所に行かなきゃいけなくなっちゃって、その日ねーさんがね、大事にしてた簪をくれたの。私の宝物でね、大人になってもずっとつけてたよ」
前に見た夢が浮かんだ。あの小さな女の子は、やっぱりきーちゃんだったと確信した。
「美樹は居たん?」真ちゃんが聞く。私も聞きたい。「美樹ちゃんはね、別の私のお父さんだったよ」「やっぱり眉間にシワよせてるん?www」真ちゃん、四六時中眉間にシワよせてるわけじゃないってば。あなたが酔い過ぎてる時だけよ。「優しくてね、絵を描いてたよ」へぇ、絵心ない人だから意外。
ん?お父さん?まさか、ずっと前に旦那が見たって言う夢とリンク?そんな映画みたいな事あるのかしら。「キリコがお母さん?」「ううん。違った」違うんかい。そこは私が良かったなぁ。旦那もお母さんは私じゃなかったって言ってたな。そこもリンクしてるね。「どんなお父さんだったの?」これは、好奇心。 「お酒が大好きでねいつも飲んでてね、でも絵を描く時は人が変わるの。筆は魔法みたいで色んな絵を描くねん。お父さんの絵は最高だと思ってたよ」酒好きなのは一緒だな。
「また別の私のお父さんも美樹ちゃんだったよ」旦那、何度きーちゃんのお父さんやってるんだろう。過保護なのはそのせい?「その時はね、行商さんみたいだった。ずっと歩いてね一緒に色んな所に行ってね、山の上に着くとあそこに見えるのはこんな町って教えてくれるん」なんだか楽しそうね。どっちのお父さんが旦那の言ってたお父さんかしら。
「真ちゃんはいつ登場するの?」「全然違う私の時。みんな違う私なん。だからね、今みんな一緒なの嬉しい」そういう意味だったんだ。ようやく納得。「真ちゃんは何してる人だった?」「青い人」えーっと、宇宙人?笑「全身青い服を着てね、なんだろ?旅人さん?」
へぇー。青い服着た旅人ってエライ自己主張激しいわね。
「行った場所の話をしてくれてたよ。すごく物知り。私は決まった場所から出ちゃいけなかったからねいろんな場所の話を聞くのが好きやった」決まった場所から出ちゃいけないきーちゃんと、全身青い旅人真ちゃん。人物の接点がわからない。また違うきーちゃんの時も真ちゃんと出会っていて、多分一番私と一緒に居続けてくれる。と言った。
「ねーさんに簪を貰った時の私が、大人になった時も真ちゃんに会ったよ」あら、ニアミス的な?多分、この夢は前世だと思う。前世でも同じ時代で過ごしてたのね。その時の真ちゃんはどちらかと言うとお付きの人みたいなポジションで、その時のきーちゃんは色々と話をしたいと思っていたけど、真ちゃんの方が必要以外のことを話してくれなくて寂しかったと言った。
きーちゃんのこの話は夢だけの話じゃないと漠然と思った。色んな場所で縁の結ばれたみんなが、今こうやって出会ったのは多分これも縁で何か意味があると思った。
夢の話をしたのが小さいきーちゃんだからすぐに寝てしまうかと思っていたけど、一向に寝る氣配がない。楽しそうに絵を描いている。「これは、落ち着いてる?」「何とも…」真ちゃんも戸惑っている。いつもなら絶対に夢の話が終わった頃、寝る。小さいきーちゃんモードは1時間位でその後寝てしまうから。お仕事の時も小さいきーちゃんになるのはその位だという。
小さいきーちゃんになってから、4時間。やっぱり寝る氣配も普段のきーちゃんに戻る氣配もなく、ずっと真ちゃんにくっついて遊んでる。ただ、フラッシュバックも起きていない。
23時。旦那に電話をするかどうか悩んでいた。明日、帰ると言うつもりだった。いつものように、今日の報告だけでも良いはずだけどその報告もどうすべきか。きーちゃんが小さいまま戻らない。だけでもいい?
ひとまず日課だけは果たそう。と電話をかけてみた。いつも通りの口調で旦那がでる。『今日はどないよ』「熱は下がったんだけどもー」『良かったやん』「小さいまま戻らない」『なにそれ?』
旦那は「戻らないって言っても何時間かしか経ってないから焦らなくていいんじゃないか」と言う。確かにそうなんだけど。『これで1週間10日そのままならおかしいわな』『そのまま戻らんのが続くようなら先生に聞いてみるのも有りちゃうの?』まだ結論を出すのは早いかなー。『もしさ、1週間戻らんかったとしてさ、一度帰ってきませんか?』驚いた。私もそれを相談しようと思ってた。旦那は別にこっちにいるのがダメだというわけじゃないと言うけど、それは分かってる。あと1週間と決めてここに居ることにした。
「すいませーん、もう1週間、延長よろしいですかね」旦那との電話を切った後リビングに戻って真ちゃんに言ってみる。「うちは助かるけど、家はええん?」かえって氣を使わせたか?「あ、きーちゃん寝たのね」電話の間に寝てしまったらしい。やっぱり真ちゃんにくっついたままだけど、おそらく私が来てから一番ぐっすりと寝ているようだ。「さて、ここからだ」2人で構える。いつもより長かったちびっこきーちゃんタイム。そして、寝るとやって来るであろうフラッシュバックタイム。氣分は真ちゃんとはもう戦友よね。
しばらくリビングで寝かせていたけど起きる氣配がない。「キリコ、寝てええで」2時間経過するも全く起きる氣配がなく、真ちゃんがついててくれると言う。ゆっくり寝られてるのはいいことなんだけどね。寝室へきーちゃんを連れて行って、警戒しつつ就寝。
朝まで起きることなく目が覚めた。「きーちゃん、起きた?」「いや、朝までぐっすり。まだ起きてません」これは喜ぶべき?「起きてからが勝負じゃない?」起きて、普段のきーちゃんなら回復の兆し。ちびっこきーちゃんなら、どういうことだろう。
足音が聞こえてリビングのドアが開く瞬間、私たち2人に緊張が走る。「どーしたん?」ちびっこきーちゃんだ。最近、見分けがつくようになったかも。「ホラ、着替えてから来なきゃだめじゃーん」と言ってきーちゃんをハグすると「だって早くこっちに行きたかったんだもんー」と楽しそうな声。きーちゃんのこの声を久しぶりに聞けた氣がする。
昼過ぎにインターホンが鳴った。出てみるとアキちゃんが立っていた。「あ、キリコやんか。どないしてん。ついに美樹と離婚して逃げてきたか?」私の顔を見て言うけど、どう言うことよ。失敬な。ちゃんと旦那の了承の元でこっちに滞在してるわ。「いきなりどうしたの?」アキちゃんの登場は8割がた突然なんだけども。きーちゃんが伏せっていることを聞いてお見舞い?いや、真ちゃんがこの事をアキちゃんには言わないはずだしなぁ。「きぃに連絡取れんから会いに来たんやんか」まずい。まずい、まずい。多分、きっと、これはまずいことになるよね。今日は毎度何かある時にフォローを入れる旦那は居ないぞ。「いつも突然現れるな」後ろから真ちゃんの声がした。ホントまずい。氣がする。「きぃと連絡取れんからお前が監禁してんと違うかと思ってな」「それはご心配をおかけしましたな」既に不穏な空氣。旦那よ、今すぐテレポートしてここに来て!なんて思った所で叶うわけもない。「兄ちゃん、おかえり」きーちゃんは真ちゃんの後ろから少し顔を出してこう言うとすぐに真ちゃんの陰に引っ込んでしまった。「ただいま。きぃ元氣してたか?」いつものようにアキちゃんはきーちゃんに近づこうとするけど、きーちゃんは真ちゃんを挟んで反対側に逃げてしまった。「お茶でも飲んでゆっくりしていきなされや」ときーちゃんをガードしつつ家の中に案内する真ちゃん。「土産は今日の夜か明日くらいに着くんちゃうかな?」とリビングに通されたアキちゃんが言った。
「きぃ、どないしてん」アキちゃんが到着してからきーちゃんはずっと真ちゃんにくっついて離れない。いつもならアキちゃんが帰ってくるとアキちゃんの隣に座って嬉しそうにいろんな話をするから、さすがのアキちゃんもおかしいと氣付いたんだろう。「何か変なこと吹き込んだんちゃうやろな」と言って私と真ちゃんを見るアキちゃん。「別に居らん人間の話題を出すほど暇ちゃうから安心しろ」真ちゃん、それはあかん。これ以上変な空氣にしたらあかん!「何も言われてへんかー?」と笑いながらきーちゃんの髪に触れようとした瞬間、きーちゃんは構えて震える。「なあ、何があってん」きーちゃんの様子を見てアキちゃんは静かに言った。「何でキリコが1人で居るん?美樹と息子らは?」やっぱり氣が付いたか。どうやって切り抜ける?「すまん、今ここでは言えん。アキラ、今日いつまで居れる?だから今はこの話は置いておいてほしいねん」真ちゃんから真っ先に「すまん」と言う言葉が出るとは思わなかった。「今日?1、2時間くらいなら余裕あるけど」真ちゃんに隠れてしがみつくきーちゃんを見てアキちゃんが答えた。「キリエ、ちょっとなアキラとキリコと大人だけの話があるねん。今から婆んとこ行ってお習字できる?婆に言いに一緒に行くから」真ちゃんの言葉にきーちゃんは不安げな表情を見せた。「話終わったら迎えに行くから。離れには居るでな」きーちゃんが頷くのを確認して「すぐ戻るわ」と言って真ちゃんはきーちゃんを母屋に連れて行った。「キリコ、紅茶入れてや」2人を見送ったアキちゃんが急に言った。絶対2人になった瞬間に追及されると覚悟していたから驚いたけど言われた通りお茶をいれることにした。紅茶って言ってたけど鎮静作用が高いやつ淹れておこうかしら。「絶対追及される思ったやろ」ハーブティーを淹れてリビングへ行くとアキちゃんが笑った。見透かされてるのが悔しいけど図星だ。「きぃの様子、真弥の様子、そしてキリコが1人でここに居る。どう考えても普通じゃない。この隙に追及してもええけど、真弥はちゃんと言うつもりやろうし待つで」アキちゃん、少しは大人になったのね。