-
- Jujuの書庫
- Story & Another story
- Story 67.一歩づつ。
Story 67.一歩づつ。
5分ほどして真ちゃんが戻ってきた。おばあちゃまに軽く説明すると快くきーちゃんのお習字に付き合うから話が終わったら迎えに来るように言ってくれたようだ。おばあちゃまが居てる時で良かった。
真ちゃんはひとつづつきーちゃんが今の状態になった理由、私がここに1人で来ている理由を最初から話し始めた。途中でアキちゃんが怒りで口を挟まないかと心配になったけど、表情は険しいものの黙って聞いていた。
真ちゃんが話終わったけどアキちゃんは険しい表情のまま黙っていて、沈黙が続く。こんな話を聞いて今までのアキちゃんだったら、真っ先にきーちゃんを連れて行くと言いかねなかった。けど、それをしないのは事の重大さを理解して今のきーちゃんには負担が大きすぎると分かったからだろう。「で、今きぃは?どこまで落ち着いてるん」どこまで。一時よりは穏やかには過ごしているかもしれない。けど、元のきーちゃんでは無いし、この間熱が下がってからちびっこきーちゃんから戻らない。この状態を落ち着いたと言ってしまってもいいのか。「学校は?」こんな状態だから休んでるよ。質問の意図が読めない。「学校は診断書だして休学してる。まだ日数的には復帰しても次の春に卒業できる。けど、負担が大きいようなら辞めても良いと思ってる。正直、学校はどうするかを考える段階までには行ってへん」休学の手続きは旦那がいる間にしていた。同じタイミングで向こうの家も引き払ったそう。「真弥は?お前、仕事どないしてん」「仕事は…」家の仕事は私が居るから短時間で終わるものをやっている。会社の方は元々退職を考えていたこともあって社長さんと話をして一旦退職することになった。と言った。「仕事辞めて生活できるんかいな」「まだしばらくは今まで通り生活出来る。1年くらいかな」「1年したらどないすんねん」「今のところは具体的には考えてないけど、家の仕事とヘルプで凌ぐ」社員として働くとどうしても自由は効かない。だから、仕事が忙しい時期にヘルプを要請するからその時に単発で働きに来たらいいと社長さんに言ってもらったらしい。アキちゃんは大きくため息をつくとまた黙ってしまった。
「正直、問答無用できぃを連れて行きたい。何でこないな事になったんやと言いたいけど言うた所できぃが良くなるわけ違うし。きぃをこんなんにしたん、誰か分かってるんやろ」家に押し入った犯人のこと?「分かってる。詳しくは聞く余裕無かったから聞いて無いけどその辺りは父さんに任せた」「オッケー。後で連絡取って聞くわ」と言って一旦部屋を出るアキちゃん。「退職してたの?」その隙に聞いてみた。たしかにずっときーちゃんに付きっきりで出勤してる様子は無かったけど。「家の仕事も増えたからな、元々その話はしとったんやわ。それにこのまま続けてても会社にも迷惑かけるだけやし。キリエに付いてるなら氣がかりは減らしたかったし」真ちゃんはこの話は絶対にきーちゃんにしないようにと念を押した。きーちゃんが自分のせいで迷惑をかけてしまったと氣に病まないようにだろう。しばらくしてアキちゃんが戻ってきた。
「まだ、きぃの様子も把握してへんくせに。言うかもしれんけど…」やっぱりきーちゃんを連れて行くつもり?「真弥、会社出てへんやったら時間の都合つくんやろ」「付くけど…」「来月、ちょっと旅行せんか?」「海外!?」真ちゃんよりも先に反応してしまった。「海外でもええけど、きぃには負担でかいやろ、何言ってんねん」とアキちゃんに呆れられてしまったけど、アキちゃんなら言い出しかねないんだもの。「まだ直前まで返事はええけどな、ちょっと頭に入れててや」本当にアキちゃんって色々と唐突すぎる。話を整理して聞いてみると、来月アキちゃんと今一緒に過ごしている団体の人たち数名がこっちに来て旅行する予定らしい。旅行と言っても観光というより、今で言うリトリートの意味合いに近いものらしい。なので環境やきーちゃんのリハビリには良いのではないかとのこと。とは言え、自由行動も出来るけれど基本集団行動になるからきーちゃんの負担を考えて真ちゃんも一緒にと言う。今までだったら真ちゃんも…なんて絶対に言わないだろうからちょっと驚き。
「場所や内容はええねんけどなぁ。その時までどれだけ回復してるか…」「ギリギリでええで。何とでもなるから」「また返事するわ」時計を見ると話を始めてから1時間以上経っていた。「そろそろきーちゃん迎えに行った方が良くない?」ちびっこきーちゃんになってから、こんなに長い時間真ちゃんと離れて過ごしたことがなかった。私の言葉に真ちゃんはきーちゃんを迎えに行った。アキちゃんはまた大きくため息をつくと、ソファーに倒れ込む。「マジかー。なあキリコー、ホンマこの怒りの落とし所はどこ?」私に聞かないでよ。私だって聞きたい。「これでまたきぃが真弥にべったりになるやん」だからどうした。「勝ち目なくなりそうやない?」と笑うけど、ここまで来てまだ逆転狙ってたって方がびっくりよ。怒りの大元はそこなの?ホント、この宇宙人が。
「おかえりー、今日は何書いたの?」きーちゃんが戻って来た。なるべく深刻な空氣は消したかったから話題を逸らす。「今日はね、新しいの教えてもらったよ」と笑顔で見せてくれる。これは…字?絵?不思議なカタチが並ぶ。「文字だよー。昔からある文字なんだって」真ちゃんと長い時間離れて不安定にならないか心配だったけど大丈夫そうで良かった。アキちゃんはそんなきーちゃんをしばらく優しい眼差しで見つめると「じゃあ、さっき言うたん考えとってや」と言って立ち上がった。「アキちゃんもう行くの?」「行って欲しくない?キリコ、久しぶりに男前見て惜しくなったか?別居で欲求不満か?www」「早く行きなさいよ、バカじゃない?」そんな話をしていると、きーちゃんは「もう帰るん?」と言った。やっぱり真ちゃんの陰に隠れてるけど。「また来るからなー。土産、ちゃんと受け取ってや」と言ってアキちゃんは頭を撫でようと手を伸ばそうとしてすぐに止めた。きーちゃんが怖がると思ったんだろう。きーちゃんはそれに氣付いたのか真ちゃんの顔を覗き込んだ。真ちゃんが穏やかな表情で頷いたのを見て、きーちゃんはアキちゃんの手の下に頭を持っていく。「お土産、楽しみにしてるね」あらかわいい。小さいきーちゃんもやっぱりかわいいわ。見た目はもう大人と変わらないのにちびっこきーちゃんだと本当に小さい子がいるように思えてくるのが未だに不思議。「またな。行ってくるわ」「いってらっしゃい」きーちゃんは前のようにアキちゃんにハグすると、アキちゃんは嬉しそうだった。アキちゃんが帰ってからのきーちゃんはやっぱり真ちゃんにずっとついて回る。アキちゃんが言ってたリトリート旅行のことをどうするつもりなのかと聞きたかったけど、多分まだきーちゃんの前では聞かない方が良い氣がしたから聞くのはやめておいた。
ちびっこきーちゃんから戻らないまま約束の1週間。不思議なことに、小さいきーちゃんの間はフラッシュバックは起きないようだった。真ちゃんは「このまま小さいままでも、もう一度成長すればええよ」と言うけど。ちびっこきーちゃんは今まで以上に私にも真ちゃんにも甘えるようになった。帰る日の前夜、昼間に買い込んだハーブや精油をハーブティや芳香浴の為に調合した。考えられる症状や氣分に合わせて使えるように。きーちゃんは楽しそうに隣に座って見ている。一緒に暮らした時にしていた夜のお茶会。今日のお茶会には私が一番のお氣に入りのブレンドのハーブティーを淹れた。そして、きーちゃんがまた元氣に笑えるようになる為のお約束もした。
「ホント氣をつけてね。また会える?」一旦、家に帰る日。朝からちびっこきーちゃんが離れない。「会えるよ。会いに来る」やっぱり泣くことはしなかったけど唇を噛んで泣くのを堪えながら見送ってくれて、車を出しても見えなくなるまでずっと見送ってくれていた。
行きは少しでも早く着かなきゃという氣持ちが勝っていてロングドライブも苦にならなかったけど、帰りは孤独。違う意味で早く帰りたかったけど、休憩しつつのんびり帰宅。
「かーちゃーーーん」久々の息子よ。帰宅すると真っ先に長男がダイブしてきた。「ごめんねー、ありがとね」「きーちゃんは?」「マハル頑張ってお留守番してくれたから元氣なったよ。また一緒に会いに行こうね」さすがにひと月留守にしていたら、ドライな長男も甘えてきて1人で寝てくれず私たちのベッドで寝てしまった。
が、帰ってきた感想、騒がしい。笑やっぱり大人だけの生活から幼児乳児のいる場所に戻ると騒がしい。けど、落ち着く。毎晩連絡してたから特筆すべき報告事項は無いんだけど、旦那は労ってくれた。家の様子を聞くと、電話で聞いていた通り意外と快適に過ごしていたようだ。逆に私が留守だから頑張るよとマハルは張り切ったようで、保育園の準備を自分でやったり何ならタマキの支度までやってくれたらしい。かーちゃんが留守でなくてもやってくれたら有り難いんですけど。
これから2人はどうするんだろう。そこだけが心配だった。
家に戻ってからは真ちゃんに連絡してきーちゃんの様子を聞いた。普段のきーちゃんに戻るようになってきたけど、時間にすると前に小さいきーちゃんになっていた位の時間。普段のきーちゃんと小さいきーちゃんとが入れ替わった感じだと言っていた。
普段のきーちゃんに戻ると、やっぱりフラッシュバックを起こしたり今の自分の状態がとても嫌だと言って謝りながら泣いているらしく、反対に小さいきーちゃんで居るとフラッシュバックを起こすどころかあの日の事を完全に覚えていないらしい。だから、どっちが良いのか分からないと言う。
確かにきーちゃんにとって辛すぎる記憶は消えていた方がいいかもしれない。小さいきーちゃんもきーちゃんだ。けど、その記憶は無くなったわけでない。あの日を忘れてフラッシュバックを起こさなくなったとしても、きーちゃんがタイムスリップと言っているように忘れた頃にトラウマとして蘇るかもしれない。
どっちが良いか分からないという真ちゃんの言うことはよく分かる。
休学していたきーちゃんは期末テストが始まるタイミングで復学したらしい。小さいきーちゃんで学校に通えるのか。だとか、もう1学期も終わるなら2学期になってからで良いんじゃないかと思ったけど、普段のきーちゃんが学校を休んでしまっている事も氣にしていること、テスト期間なら学校での滞在時間も短くなるし先生と交渉してテストが終わるまでの間真ちゃんは学校で待たせてもらって、リハビリとして試験的に復学したとのこと。『まあ、すぐ休みに入るから復学って言えるんか分からんけどな。あと1日でまた休みやし』と言う電話の向こうの真ちゃんの声は明るかった。と言っても、まだまだ外の世界はきーちゃんに刺激が強く学校以外には外出できていないとのこと。「テストって授業出てないのに受けても全然分からないんじゃないの?」素朴な疑問。テストの範囲を聞いて、プリントは先生が送ってくれたものを少しずつ2人で勉強したらしい。高校生になってから、きーちゃんの勉強に付き添っていたから全然苦じゃないと言う。普段のきーちゃんでも小さいきーちゃんになっていても、ちゃんと学校の勉強を理解していると教えてくれた。『キリエはやっぱり出来る子やで』はいはい。わかった、わかった。まあでも、少し日常に戻り始めたってことだろうから安心かな。
「今日アキラから電話かかってきてな」晩酌タイム。旦那が思い出したように話だす。アキちゃんから連絡あるなんて珍しい。そういえば、旅行の話どうなったのか聞くの忘れてた。「なんや、一緒に旅行せんか?って。詳しくはキリコが知っとるから聞けって。どういうこと?」「はいー?」詳しくは私が知ってるってことは例の旅行だよね?きーちゃん行けるんだろうか。とりあえず、この前アキちゃんが言っていたことを話す。「けど、まだきーちゃんが行けるかどうかは分からないんだよね」「アキラがかけてきたってことは行けるんちゃうの?」「どうなんだろ」こっちで悩んでいても仕方ないと旦那は真ちゃんに電話をする。
「真弥らも行くんやと。どないします?」きーちゃん、旅行に行けるくらいまで回復したのね。良かった。旦那がアキちゃんから聞いた日程は、ちょうど向こうにいる頃に働いていた店のオーナーから「遊びにおいで」と誘われていてお邪魔すると言っていた日の3日後。旦那は夏季休暇でお休みの期間だなんて出来過ぎた話だと感心。オーナー宅へは2泊させてもらう予定だからもう1泊はどこかで泊まれば一度帰らずに合流できるな。なんて旦那と話していたけれど、私達も旅行に参加することを真ちゃんに連絡すると真ちゃん達の家に泊まれば良いと言ってもらえた。ラッキー。
旦那の夏季休暇に入って、一家でオーナーのお宅へ向かう。引越ししてからオーナーご夫婦はたまに遊びに来てくれたりして、マハルはおじいちゃんおばあちゃんと言ってオーナー夫妻が大好きだし、ご夫妻も孫が出来たみたいだと可愛がってくれていた。私にも旦那にももう両親が居ないからありがたいと思うし、両親のように思う。マハルが「きーちゃんが痛いしてかーちゃんよしよししに行っていた」と報告してしまったので、オーナー夫妻は心配して「会えるようなら顔見せてきたら?」と息子たちをみてくれると言ってくれた。
一瞬、明後日にお邪魔するしなー。なんて思ったけど、真ちゃんに連絡すると「いつでも家居てるで」と言ってくれたので、旦那と2人で向かった。前よりは寝る事が出来ているみたいで真ちゃんの顔色は前に比べると随分良く、表情も穏やかだった。リビングに入ると、きーちゃんは隣の部屋で字を書いていた。すごい集中力で私たちが来たことに全く氣付いていない。リハビリではないけど、散歩以外にこうやって集中する時間を取ると落ち着いて眠れるらしく、今はおばあちゃまに頼まれたお仕事をしているそう。
10分ほどして、きーちゃんは筆を置いてそのまま後ろに倒れ込んだ。「あ!ねーさん!!明後日じゃなかったんー?」ようやく私たちに氣付いてリビングに来た。オーナーのお家に来たから会いにきたよ。と言うととても喜んでくれた。不思議なのは、普段のきーちゃんより幼い感じがするものの小さいきーちゃんではないようだった。
「これは、きーちゃん?小さいきーちゃん?」きーちゃんは5分程、私達と喋ってまた字を書き始めた。「中間?…に近い…かな?」最近は随分と落ち着いてきていると言う。小さいきーちゃんと同じようにフラッシュバックを起こすことは無い。ただ、1人になることを異常に怖がると言う。今までのきーちゃんよりも小さいきーちゃん寄りではあるけれど、私が滞在していた時の小さいきーちゃんよりも成長していると思うと言った。
「成長してるって分かるもんなん?」小さいきーちゃんの姿をきちんと見たことがない旦那は余りピンと来ていないようだった。小さいきーちゃんは、前に私が里帰り出産をしたいと言って悩んでいた時に現れたきーちゃんのこと。私が帰る時はその小さいきーちゃんだった。と言うと「そういや電話で言うとったな」余りに理解出来なさすぎて深く追求しなかったらしい。旦那らしいと言えば旦那らしいけれども。
「ねーさん達何話してたん?」お手伝いが一段落したらしいきーちゃんが言った。「元氣になって良かったねーって」ちょっと無理があるかな?きーちゃんは多分自分が小さいきーちゃんだと言う自覚はないだろうしな。「うん、真ちゃんがね…」せっかくきーちゃんが教えてくれようとするのに真ちゃんが全力で止めてしまった。何なのよ。「心配かけちゃってごめんね。もう元氣なったよ」と笑顔を見せてくれたから良しとする?いや、氣になるじゃない。ここは追及しよう。
「真ちゃんがね、もう大丈夫って。絶対守ってくれるって。1人にしないって。何があっても私だからって。今度ね、神さまに約束するんだよ」と嬉しそうにきーちゃんが話してくれた。ちょっと自分に酔ってるようなセリフだけども、別に隠さなくていいじゃない。それできーちゃんが安心したんだったら問題全くないじゃないの。安心したから中間きーちゃん?普段のきーちゃん+小さいきーちゃん=中間きーちゃんか!
きーちゃんは、集中ターンに入っていて字を書いた後も黙々と何かを作っている。話したかったんだけど、それが楽しそうでその姿を見ただけでいいか。と思ったり。
「神さまに約束って?」と旦那。あ、何か言ってたね。そこはノーマークだった。神社だったらそこなんだから、今度じゃなくていつでも良いんじゃないの?お日柄的な?
………。あ!もしかして!真ちゃんちの子になるヤツじゃないの?閃いた顔をしたのかもしれない、真ちゃんが必死に黙ってろと台所からジェスチャーしてるけど、何で黙ってろなのさ。旦那が怖いの?笑殴られとけ♡とか思ってたら、台所から真ちゃんの叫び声。何事かと思って旦那と走ると、ボウルにおびただしい数の割られた卵。
連行されてくる犯人きーちゃん。「これはどうするつもりですかな」取り調べ官は真ちゃん。「卵焼き?卵パーティ?」と言いながらうふふと笑う犯人きーちゃん。この笑い方、久しぶりに聞いたな。いや、これ卵1パックどころじゃないでしょ。二人で生活してしてるこの家にこの数の卵があるのが謎なんですけど。「新しい卵あるのにね、忘れて安いからって2つも買ってきちゃってん」とまたうふふと笑う。てことは、30個。「で、何で割ったんかな」「そうなん!あのね♪」ときーちゃんは2階へ上がってしまった。「キリコ、卵30個使う料理って何?」と頭を抱える真ちゃん。私に聞かないで。
しばらくしてきーちゃんがバスケットを持ってきた。バスケットにはカラフルにデコレーションされた卵が並んでいる。「好きなの選んで♪」と言われて1つ選ぶ。意外と重たい。「割ってみて♪」よく見たら底に穴が空いているので、そこからむくと…綺麗な色をした中身。「ロウソク?」蝋の中に何か入ってる。「えっとね、それはローズマリーさんかな?こっちはひまわりちゃんで…」中にハーブが入ってるのね。かわいい。
「何個か持って帰って♪」とバスケットの中を覗き込んで「ねーさんはバラさんかなー」と出してくれた。「しあわせのろうそくー♡」と言って一つ手に取って殻を剥く。真ちゃんはいつも「もし自分が寝てたら起こして」と言うけど、昨夜、真ちゃんが先に寝てしまって起こすのが申し訳ないし1人で暇だから作ってみたと笑うきーちゃん。「キリエ、お氣遣いは大変ありがたいのですが卵は全部割らんで www1人で暇やったんなら起こしていただいた方が良かったですよwww」大量の卵をどう消費するか見当もつかず怒りを通り越して笑いだす真ちゃん。
「真ちゃん点けてー」火を灯すととっても綺麗。「しあわせの氣持ちが詰まってるからね、灯すとしあわせが溢れるの」と言って笑うきーちゃん。その表情はとても穏やかだった。「これね、ねーさんがくれた精油もちょっと入れてるんだよ」ほのかにロータスの香りがしているなと思ったらこの卵からか。「精油使ってお風呂用の入浴剤も作ったよ」きーちゃんも興味あるかな?と思って何本か精油を置いて帰ったけど、使ってくれて嬉しい。「真ちゃんはね、ローズちゃんのお風呂は何か落ち着かんって言うねんー。私はローズちゃんのお風呂やったらねーさんと入ってるみたいだから1人で入ってるよ」突っ込んで考えたらきーちゃん汚れなき少女のイメージが崩れそうなので…追及するのはやめよう。笑
「お買い物行ったけどあかんかってん」卵を消費する為に、真ちゃんはケーキを焼いてくれて(女子力高めなのがムカつく)焼いている間私ときーちゃんが留守番して、旦那と真ちゃんは買い出しに行った。
テストを受けるために登校するとやっぱり負担だったようで倒れてしまったらしい。それでもまた休みに入ると体調が安定してきーちゃん自身も大丈夫な氣がしたから昨日買い物に出たけどそんなに混雑していたわけでないのに途中で氣分が悪くなってしまったと言う。
「何だろう、ちょっとずつ何かが私に混ざってくるみたいでね、フラフラしてきちゃった。大丈夫だと思ったんだけどなぁ」悔しそうにきーちゃんが言った。
これは、昨日真ちゃんに電話した時に聞いていた。小さいきーちゃんに戻った時間が増えたせいか、きーちゃんの感覚は一時期よりもずっと敏感になっているし、覚えた対処方法では追いつかなくなっているのかもしれない。と言っていた。だから、もう一段踏み込んだ対処方法を教えてくつもりだとも。
「そう言えばね、さっき神さまに約束しに行くって言ってたやん?あれって決まった日に行かなきゃダメなん?」真ちゃんが居ないのを良いことに聞いてみた。
調子が良かったからすぐ近くの神社へ散歩に出かけた時、ちょうど結婚式を挙げている人たちが居たそう。
「ちょうどね、拝殿から見えてね…」『待ってるよ』と言われた氣がしたんだって。すぐに真ちゃんにそれを伝えたら、真ちゃんも「そう聞こえた」って。しばらく神社で過ごしてきーちゃんは色々と見えないモノと話をしたそう。意識して見えないモノと話そうとしなくても、行く先々で話しかけられる感じだったと言う。
もう一度拝殿へ行ってさっき自分が呼ばれたように感じたことを伝えて「私も真ちゃんとその場所に立っても良いですか?」と尋ねると、風が吹いて光が射したそう。「言葉の力を信じなさい。って言われたよ」ときーちゃん。
きーちゃんは窓の外を眺めながら、少しずつ話してくれた。「何があったかって言うのはね、頑張って思い出そうとするんだけど、『もうすぐその時が出てくる』ってその時の映像が出そうになるとね、ブラックアウトって言うのかな?肝心なところが出てこなくて寝ちゃうみたい」
「あの辺りを必死に遡るやん。そしたら暗い部屋に居て、身体中が痛くて『もう真ちゃんの所に居たらいけない』って思って『真ちゃんにここまでして貰えない』って怖い所に飛んじゃう」暗い部屋は、ハイツなのか病院なのか。どのくらいの時間、きーちゃんは1人で泣いていたんだろうと思うとやりきれない。
「寝ても起きても暗い部屋で泣いてるところにタイムスリップしちゃってね、自分でもどっちが今いる所なのか分からなくてね。真ちゃんすら怖かってん。真ちゃんだって分かってるのに、本当は大丈夫って言ってくれる声も聞こえてるのに体と頭が勝手に怖がってね。私が勝手に怖いって言うねん。それでもずっと私に合わせてくれてたやん、なんでここまでしてくれるんだろう。ここまでしてもらっても何で私は真ちゃんが怖いんだろうって。それも嫌なのに、全然自分が言うこと聞いてくれなくて」
「時々少しの時間だけど、自分が言うこと聞いてくれる時があってね、その時にこんな自分がイヤだって。分かってるのにこのままずっとこんなのかもしれない。自分が別の自分に乗っ取られて消えちゃうかもしれない。行かせてもらってるのに学校だってたくさん休んじゃって。真ちゃんにしてもらってばっかりなのに、何一つ出来ることないまま消えちゃうかもしれない。でも真ちゃんの事怖いまま消えたくない。ここに居たいって言ったん」
「そしたらね『今は生きてただけで良いから』って言ってくれてね、『私は何も変わってないから』って。だからね、『無理に思い出そうとしなくていいから生きて』って」「私が生きてこの世界に居てることが私が出来る一番の事で、それから他に私がしたいって言うてくれるなら出来ること一緒に考えよって。」
「自分ではね、心配や不安や怖い思いしか出てこないんだけどね、それを言うとね、真ちゃんは全部消してくれる言葉をくれるねん。だからね、その言葉と『生きて』って言ってくれる真ちゃんを信じるって決めてん」
起きたらいきなりじゃなかったんだね。その『言葉の力を信じなさい』と言ったのはきっと、真ちゃんが言ってた2人を助けた神さまなんじゃないかなって氣がした。
「だからね、まだ私が居てもいいなら、私はここに居たい。悲しいことあってもここに居る。シードラゴンの所にも黄泉の国にも逃げない。だから真ちゃんのおうちの子にして下さいってお願いしたん」
「真ちゃん、なんて?」「よろこんで。って」何、その居酒屋の掛け合いみたいな返事。普段歯の浮くような台詞サラッと言うんだから、もうちょっと言い方なかったのかしら。
「お願いしたけどね、まだちょっと心配もある。本当にいいのかな?って。でもね、よろこんで。って言ってくれた言葉信じる。だからね、もっと強くなるからねって」
まだまだ子供だと思ってたかわいい妹が嫁に行くのね。おねーちゃん、今から泣きそう。
「おばーちゃん達にも言わなきゃねって言ってたけど、先ねーさんに言っちゃったー」と笑う。おばあちゃまより先に聞けてなんか嬉しい。
「あ、でもね、まだ内緒ね。おばーちゃんとおじーちゃんにやっぱりオッケーもらわないとあかんみたいやから」内緒にしとくってば。「オッケーって言われたら教えてね。ちゃんと美樹が真ちゃん殴らないよう止めてあげるから安心して!」と言うと、きーちゃんはうふふと笑う。
「ねーさん、ありがと。ねーさんがね、来てくれた時本当に嬉しかった。ずっとね、ねーさんの声聞きたくて、ねーさんに会いたくて。でもねーさんにももう会えないって思ってたからね、本当嬉しかった。最初に会った時もそうだし、ねーさんが居ないと私ここにこうやって居られなかった」「きーちゃんは私のかわいい妹なんだから、当たり前。きーちゃんはね、何もしなくても、何があったってきーちゃんなんだよ。そこに居るだけで私たちの大事なきーちゃんなんだからね」と言うと嬉しそうな声でまた、うふふと笑ってくれた。
ちょうど、オーブンでケーキが焼けたみたいでタイマーの音がする。「追加、追加」ときーちゃんはダッシュで台所へ。「二個出来上がりー♪これ、冷まして持って帰ってねー♪」と慣れた手つきで取り出す。たまにケーキやらお菓子を作っているらしい。(真ちゃんが)きーちゃんはお手伝い係だとか。「真ちゃんってさ、あんな感じなのにお菓子作りが趣味とかって意外だよね」と言うときーちゃんは大笑いする。
趣味だと言うだけあって、帰宅した真ちゃんは着々と割られた卵を消費に入っている。「あかん、レパートリー限界」お菓子だけでなく、夕食のおかずにも使って半分消費したところでギブアップ。
「せめてゆで卵なら…」と悔しがる真ちゃん。ホント、女子力高め。やっぱり謎。
「きーちゃんから聞いたけど、ちゃんとまだ美樹に黙っとくからね」とコソッと言うと、「絶対キリコには言うと思っててんな」と笑った。きーちゃんは内緒って言ってても、私は特別!と言ってすぐに言ってしまうと笑う。私、特別なんだ。と思ったら嬉しくなる。
買い物中、旦那にオーナーから電話があって夕食は外で済ませてきてね。と言われたらしい。「孫とお食事するおじいちゃんおばあちゃん氣分を味わいたいから邪魔するなやってさ」と旦那が言うけど、絶対氣をきかせてくれたんだ。わたし、恵まれすぎ。
オーナーからの電話の件を真ちゃんに伝えたら「卵消費手伝ってくれ!」と懇願されたらしい。笑
4人だけの食事って、久しぶり。何か、やっぱりいいよね。お土産にケーキやお菓子をたくさん貰って息子たちの待つオーナーのおうちへ。お泊りしていかないの、新鮮だわ。きーちゃんが随分と落ち着いていて安心した。落ち着くどころじゃ無い話だったけど。
旦那に言いたいー。驚く姿が見たいーー。早くおばあちゃま達に報告してくれないかしら。