Story 74.優しさと強さ。

巷では年末年始はバタバタすると言うけど、私の性格的に大掃除らしいことも氣合い入れてしないしお正月飾りもホームセンターで買ったものをつける程度だから家で年末年始氣分は味わったことが無かったりする。
が、真ちゃんちは違うようでクリスマスが終わった瞬間から一氣に年末モードに入る。「今思ったんだけど、障子ね、布にしたらあかん?」ときーちゃん。こっちに来た日にテンションが上がって障子に穴をあけた前科持ちタマキ。3週間弱の間に更に4回も障子に穴をあけ前科五犯。きーちゃんが「ちっちゃいちゃんは仕方ないよねー」とその度にかわいく切った紙を貼って補修してくれて、和モダンなリビングの障子はすっかりファンシーに。タマキも破ってしまうたびにやらかした事を理解してシュンとしてるけど、しばらくすると忘れて再犯。きーちゃんはその度に「やっちゃったー」とシュンとするのがかわいそうになってきたと言ってくれるけど、2歳児だろうがやっちゃいけない事はいけない。何回もしでかすのを止められない私も悪いんだけども。
「これやったら良くない?」ときーちゃんが反物を持ってきてくれる。白地に刺繍が綺麗。高そうよ?「これ、何に使うか悩んでたん」きーちゃんが式で着た襦袢の残りの反物だとか。ダメでしょ、そんな高価なの。と思う私は庶民だろうか。「使い道が無くてデッドストックにしとくより全然良いよ。薄いから光も通すしピッタリじゃない?」ときーちゃん。真ちゃんが何度も「ホンマに使うで」と確認して障子のサイズに合わせて切る。きーちゃんは「チャーっと切っちゃっていいよ」と笑うけど、やっぱり確認するよね。さすがに糊では付かないと木工用ボンドで接着した上に何箇所かは釘で打ち付けてしまう真ちゃん。我が子のせいとは言え、びっくりする。本当、申し訳ない。
「ホラ、やっぱりいい感じ♪」ときーちゃんご満悦。重ね重ね申し訳ない。私も手伝うと言うけど「赤ちゃんびっくりしたらあかんから!」と余り戦力に入れてもらえず息子たちと遊ぶ。何だかつまらない。ソファーの位置を変えたかったとかで私たちの分までしっかりと戦力になってくれる旦那。「美樹ちゃん居てくれて良かったー♡ありがとー♡もう大好きーー♡」と言ってハグされた旦那は照れるし、真ちゃんはやっぱりヤキモチ妬いて複雑な顔してて面白い。
保育園以外では初お餅付きでマハルとタマキは大はしゃぎする。「私は見てるだけー」と笑うきーちゃん。同じく私も見てるだけ。
お餅つきが終わった後、きーちゃんはしめ縄を作り始めた。しめ縄ってホームセンターで買うものじゃないの?「ほら、場所によってサイズが違うし」去年まではおばあちゃまと一緒に作っていて1人で作るのは初めてだと言う。1人でいくつも作るなんて大変でないかと聞くと「おばあちゃんが私もちゃんとこのお家の人間ですって認めてくれて任せてくれたってことやん。嬉しいから頑張れる」と笑った。
流石に何度もこのお家の年末年始を過ごしてるだけあってお餅つきだけでなく、このお家の習慣が手慣れてる。黒無垢の「もうこの家の人間です」って意味、きーちゃんにピッタリだったなーと思ったり。
大掃除やお餅つき、お正月飾りの飾り付け。ホント年末って忙しいんだね。その合間に、お歳暮を持ってお客さんがいらして来客対応とで2人はホンキで忙しそう。きーちゃん、倒れないだろうかと心配になる。ええ、その通り大晦日に倒れた。「恒例になりそう」と真ちゃん。去年も倒れたらしい。真ちゃんはそれこそ「休んどき」と頻繁に声をかけたけど、きーちゃんは「休んでるよー」と言いながら動いていたから絶対オーバーワークだ。大晦日は毎年特別な予定を入れずにいつも通りに過ごすのが習慣らしいから、良いタイミングで倒れたと言うべきなのか。
「いーれーてー」夜、お歳暮でいただいたお菓子を食べていたら地獄の底から聞こえるような声を出しながらきーちゃんがリビングにやってきた。「寝てたらええのにー」と言いながらきーちゃん用アイスを用意する真ちゃん。きーちゃんに甘いな。貧血なら寝てたらいいのに。「だって、ベッドで孤独に年越しなんてイヤー」「日付変わるまでにそっち行くやんか」アイスを強奪されながらもきーちゃんの背もたれになって何か嬉しそうな真ちゃん。ホント、きーちゃんに甘いなぁ。きーちゃんが自分を背もたれにしてるのを良いことにきーちゃんの髪を編み込みにしたツインテールにしてみたり器用だなぁ。次に産まれるの娘だしヘアアレンジ教えてもらおうかしら。旦那はマハルの刀で時々真ちゃんを刺してるけど慣れたのか動じてない。
除夜の鐘が聞こえてきて、思う。ああ、平和。こうやって平和で満ち足りた氣分で年越し出来るとか幸せだわー。やっぱりこうしてると、きーちゃんや真ちゃんも私の家族だと思う。旦那もマハルもタマキも、生まれてくる娘も。みんな居て私の家族だと思う。家族揃って穏やかな年越し。何て幸せ。
日付が変わって4人で「あけましておめでとう」と言った時、ふと初詣行きたい!って思ったからみんなに言ってみた。マハルとタマキが寝てるけど、神社はすぐ近くだしダッシュで行けば大丈夫かと。時間的にいつも息子たちは寝てる時間だけど、心配だからときーちゃん達がおばあちゃまとおじいちゃまに離れの方に来てくれるように頼んでくれて、おばあちゃま達も「ゆっくり行っておいで」と快諾してくれた。
この時間に4人で初詣って初めてだ。嬉しい。きーちゃんの体調が心配だったけど「もう大丈夫だから行きたい」と言って支度をしてくれた。ケープの付いた白いコートを着てフワフワの帽子と手袋をつけて楽しそうなきーちゃん。
「お正月の全部が神さまな空氣大好き」空を見上げながらきーちゃんが言う。「真ちゃんと初詣行くのも好き」そう言って顔を見合わせて笑う2人がなんかかわいい。真ちゃんにエスコートされて軽い足取りで石段を登るきーちゃんを見てると、マハルにはきーちゃんがお姫さまに見えてるみたいなのが納得する。可愛らしいお人形さんみたいな格好をして居るのもあるけど、最近一段と普通の18歳の女の子とは違う雰囲氣をしている。嫁いだお家がお家だからかな。
初詣から帰って来てきーちゃんはそのままソファーで寝てしまった。連れ出しておいてなんですが、体調が良くないのに風邪ひくよー。男子チームは初呑みと言ってまた呑む。旦那は真ちゃん居ると普段の倍呑むから目を光らせないと。
「せやで。マハルやるなー分かってるやん」マハルはきーちゃんのことお姫さまだって思ってるんだよ。って真ちゃんに言ってみたらこう返ってきた。確かにお姫さま待遇してるけど、自分の嫁のこと恥ずかしげもなく『せやで』って、お姫さまだってよく言えるな。この人。「姫君言うんやったら大事なうちの娘に手を出さんで貰おうか」と旦那はマハルの刀で刺してるのは無視しておこう。「だから何もせんでええって言うてるのになぁ」と真ちゃん。おばあちゃまも言ってたけど、きーちゃんは普通の生活をしなくても良い人なんだって。そんな人居るのー?庶民な私はちょっと羨ましい。「適材適所です。然るべき場所で為すべきことを為すのが一番ってことですな」意味わからない。出来ない事を無理してやろうとするんじゃなくて、出来ることをやる。出来ることを出来る人がやる。出来ないことは出来る人に任せる。ってことらしい。これはきーちゃんだけに限らずらしいんだけど。これなら言ってる事はわかる。
出来ることをやる。これはきーちゃんも理解していて、だから家のお仕事をやっているらしいけどやっぱりバイトなりのお勤めはしなきゃ。と言うんだって。
「まあ、勤めに出るっての普通って思ってるからなぁだから勤めに出なきゃいけないみたいな」でも、やろうと思ったら専業主婦でも真ちゃんちは普通に出来そうだけど。と思ったけど、きーちゃん自身が嫌がるのか。「今の生活はきーちゃんの希望に一番近いってこと?」「まあねぇ。そうとも言いますが。次の仕事探さないととか言い出さなきゃええねんけどな」わざわざ自らを痛めつけるような事しなくても良いのに。と言う。『普通だったらこうしなきゃいけない』って思い込みがあって、それが出来ないといけないと思ってるんだろうな。『普通』であることに固執しすぎなんじゃないかと思うけど、きーちゃんの生い立ちを考えると普通を求めても仕方ないから。
「もしきーちゃんが皆が言うようにお姫さまになったらどうなんの?」「さあ」よりによって『さあ』って返事、どうよ。「キリエはキリエになるやろな」きーちゃんがきーちゃんになる。哲学的ね。

元日はお休みだったものの、お正月といえばセール。と言えばもちろんきーちゃんもバイトなわけで。早番で帰宅したきーちゃんは一息つく間も無く年始のご挨拶に来たお客さまの接客。おじいちゃまが、今日のお客さま達は近しい人たちだからと私たちも呼んでくれた。息子たちが絶妙な時間の昼寝をしてしまったし遠慮しようかと思ったけど、旦那が見ててくれると言うし、きーちゃんの手伝いが出来るかと思ってお呼ばれしたけどやらかしたかもしれない。ありがたいことに、おばあちゃま始めいらした奥さま方が「お腹の子に障ったら大変」だからと氣を遣ってくれて戦力にならなかった。きーちゃんは初めましての方には「私の姉です」と紹介してくれて浮かれた。
「お正月から家を空けてお勤めなんて…」おばあちゃま達と談笑しているとこんな声が聞こえた。声の主は少し年配のご婦人だった。「そんなことより当代さんとしてのお勤めがあるんやない?」ご婦人の言葉が向けられているのはきーちゃん。「若すぎるのも問題やったん違うかしら。だから分別のつくお嬢さんを当代さんにお勧めしたのになぁ」え?明らかに嫌味言ってる?何?この人。きーちゃんは笑顔で交わしてるけど、明らかに向けられる悪意に満ちたこの空氣は辛いはず。「若い言うならせめて早く跡取りさん産んでもらわないと先代さんだって安心出来へんのと違う?」何なの?子供を産むだとかは夫婦の問題であって他人がとやかく言うものじゃないし。失礼にも程がある。頭に来てきーちゃんの元に加勢しに行こうと立ち上がる前に真ちゃんがきーちゃんの所に行った。出遅れた。「跡取りさんって子供のことやんな?」真ちゃんに氣が付いたきーちゃんが言った。「真ちゃん、跡取りさん欲しい?私、そんなんいらんねんけど」きーちゃんの言葉に部屋が一瞬静かになる。みんな何げに聞いてたのね。まあ、大きなおうちだし跡取り問題ってついてまわるのかな。にしても、失礼な話。私はカチンと来たけど、きーちゃんは怒った様子もなく真ちゃんに抱き付いて見上げる。「だってな、跡取りさん生まれたら真ちゃん絶対跡取りさんの事を大事にするやろ?そんなん嫌。真ちゃんの大事は全部私がいい。私のことだけお世話して見て私だけ大事にして欲しいから跡取りさんなんか嫌やなぁ。そんなんいらん。それじゃあかんの?ずっと2人じゃあかんの?なんで?」きーちゃんの言葉が飲み込めず、私どころか真ちゃんもおばあちゃまもきーちゃんを見てる。
「おばあちゃん、私ちょっと疲れちゃったから一旦失礼して席外してもいい?真ちゃん一緒に来てー」そんな私たちを知ってか知らずかきーちゃんは引き続き真ちゃんに甘える。ちびっこモードでないきーちゃんが自分から他人の居るところで真ちゃんに甘えるなんてしないから私ぽかーん。「ええよ。お勤めから帰ってすぐ呼んでしもたからね。休んでおいで」とおばあちゃま。おばあちゃまの言葉を聞いて、きーちゃんは「ちょっとだけ失礼します。おばあちゃんありがとー」と言って真ちゃんと部屋を出てしまった。何が起こったのか理解できず、多分この部屋居てる人ほとんどがぽかーんとしてた。「おひーさんはまだおひーさん氣分が抜けないみたい」「当代さんも嫁さんがあんなんやったらお世話大変やな」「もう少し自覚が出てこないと跡取りさんなんて無理やろ」お酒が入ってるせいかみんな好き放題言ってる。何だろう、拭えない違和感。真ちゃんはともかく、きーちゃんからあんなに分かりやすく甘えに行くって(自分が氣を許してる人間がいる)ホーム以外ではない。でもちびっこきーちゃんじゃない。それに多分跡取りさんとかって重大そうだから、それについて迂闊に話す子でもないはず。
「やっぱり若いだけでどこの娘か分からんような子は常識ないなぁ」とさっきのご婦人の言葉にカチンと来る。文句を言ってやろうと思って立ち上がる前におばあちゃまとお隣にいたご婦人2人が立ち上がった。本日2度目の出遅れ。「あの子はね私がどうしても言うて急かして嫁いで貰ったの。うちの事は当代が決めますから」「先代さんの決めた事に異論あるなら離れたらよろしいのに」何だ、穏やかな口調なのにとっても怖いんですけど。部屋の空氣凍ってるよ?「キリコさん、ちょっときいちゃん見に行ってくれる?真弥だけでは心配やし」おばあちゃまに言われて私も席を外す。助かった。ドラマとかで見るような嬉しくもない場面に立ち会っていたたまれなかったのよね。イラッとしすぎて胎教にも悪いわ!ちょっとクールダウンして戻ろ。

離れに戻る途中、廊下からさっききーちゃんに嫌味を言っていたご婦人とその隣にいた2人が家を出るのが見えた。離れのリビングに戻ると着替えたきーちゃんはサンドイッチを食べていた。「あ、ねーさん。おつかれさま♪」さっきとは全く違ってケロっとしてる。「これね、今日忙しすぎてお昼食べられへんかって持って帰って来たん」と笑うから再び私はぽかーん。真ちゃんがくっつくものだから「ゆっくり食べさせて!」なんて言ってる。全く事態が飲み込めなくてボー然としていると、おばあちゃまと加勢したご婦人が現れた。「きぃちゃん、大丈夫か?悪かったね」「え?」今度はきーちゃんがぽかーん。「さっきの、さっきの」真ちゃんが言うとようやく分かったのかきーちゃんは「ああ!」と閃いた顔をした後、「おばあちゃん、おばちゃん、ごめんね、新年の集まりとっても空氣悪くしちゃった」と言った。「あれはきぃちゃんが謝ることないわ」「おひーさんは何も悪ないよ」と2人に言われると嬉しそうに笑った。「あの人は?」「もう帰ってもらったわ。まだ諦めきれんみたいやし、そろそろ考えないとあかんかもね」話が見えなーい。「ちょっとやり過ぎちゃったかなー」と言ってきーちゃんは残りのサンドイッチを一口で食べた。「やり過ぎた?」私、おばあちゃま、ご婦人が今度はぽかーん。「全然。ありがとなー」と今度は真ちゃんがきーちゃんにくっついてイチャイチャと。おばあちゃま達が居るんだからよしなさい。
「跡取りさんって言ったでしょ。他の人までその話をし出したら面倒だと思って。けどこれ使えるのあと2年くらいかなー」と笑うきーちゃん。何のこと?「そうやったんやね。ありがとう」とおばあちゃまは言ってるけど何のこと?「でも、あの後とっても空氣悪くならなかった?パッと思いつきでやっちゃったからそこまで考えられへんかった」「空氣悪くなんてならなかったから安心して。『あれだけ仲良かったら跡取りの心配いらんな』って収まったから」「それも問題だね。次のこと考えとかなきゃねー」と笑うきーちゃん。全く話しが見えてこないんだけど。「ねーさん、まだお腹空いてるからコンビニ連れてって♪運転無理?」「大丈夫だけど…」きーちゃんらしくない申し出にちょっと戸惑いながら一緒に出かける。
「ねーさん、しんどくない?ごめんね。ほんとはコンビニじゃなくていいからね。そこの駐車場までで大丈夫だから」車に乗った瞬間にきーちゃんが言った。「コンビニでも全然大丈夫よ?」きーちゃんは近くの駐車場までで良いと言ったけど最寄りのコンビニに向かう。「多分ね、話しが全く見えないから氣持ち悪いかなー?って」と言う。うん、一連の流れ全く見えない。「それ聞いてもらうのねーさんと2人が良かったから」「そうなの?」
コンビニで飲み物を買って車で話を聞く。さっききーちゃんに分かりやすく嫌味を言ってた人は、ずっと知り合いの娘さんを真ちゃんの奥さんにと勧めていた人。さっき私が見たその人と一緒に退席していたのはその娘さんのご両親。きーちゃんは「やっぱりね、私のことあんまり好きじゃないみたいー」と笑った。
跡取りさんの話。これはそのまま真ちゃんの跡を継ぐ子供の話題。きーちゃんまだ若いのにもう言われるの?大きなおうちだと避けて通れない話題なのかしら。「けどね、私、子供は生まないから」どう言うこと?「だってもし子供が生まれたとして、自分が私みたいにしてしまうのってとっても嫌。それに、ねーさんと会ってからはねーさんが全部やってくれたからぼんやりと想像はつくんだけど、子供が何才の時にお母さんはどんな事をしてあげたらいい。とかって全く分からないねん。」きーちゃんは、最近、機能不全家庭やネグレクト。そんな環境で育った子は繰り返してしまいやすいという記事を読んだらしい。「だからね、私もやっちゃいそうやん。自分はとっても悲しかったのに。それをしないためには生まないってのが一番でしょ?」と笑った。「それに…」真ちゃん側の原因でそもそも子供を望めないと言う。知らなかった。まあ、こう言った話は他人にペラペラと話すような事じゃないから知らなくて当たり前なんだけど。「跡取りさんって言われた後はね、いっつも真ちゃんがごめんって言うねん。私は悪くないのに跡取りさんはまだかって、早く産まなきゃお勤めをはたしてないって言われたって」「おばあちゃんもね、私が言われてるのを聞くとととっても悲しんでくれるねん」
少し前、仕事に伺った時、その家の人にやっぱり跡取りの話をされたけど、その時に「自分が原因で跡取りは作れません。だから何も悪くないキリエに跡取りの話をしないで下さい」と真ちゃんが言ったらしい。「その時の真ちゃんは悲しい音と怒ってる音がしてた。言った人に対しての音かな?って最初は思ったんだけど、よく聞いてみたら自分に怒っててん。さっき言った通りだから私が無理なんだけど真ちゃんは自分に怒るねん。それがとっても悲しくてね。真ちゃんとおばあちゃんはね、すぐに私に謝ってくれたんだけど「すぐダウンしちゃうし、そんなんだから私が無理だって思う。だからそもそも無理ならちょうどいいやん」って伝えたよ。だから怒らないでって。真ちゃんが自分に怒るのがとっても悲しいって。」何だかきーちゃんらしいなと、ぼんやり思った。
「だから次言われた時に真ちゃんがまたそう思わないように考えなきゃなーって思ってたんだけど、その前に言われたからとっさにああ言っちゃった」と笑った。だからおばちゃまはさっき「ありがとう」って言ってたんだ。きーちゃんの意図を汲み取ったんだね。「けど、よくあんなに他所の人居るところであれだけ真ちゃんにきーちゃんからくっついたね、珍しい。びっくりしちゃった」「だってあれくらいしてたら私がホンキで跡取りさん生まれるの嫌がってるって思ってもらえるかな?って。それにとっても頭悪い子みたいだから、そんな子に跡取りさんを早くなんて誰も言えないやん。もっとしっかりしてからじゃないと無理だって思ってもらえそうやし。そしたら、真ちゃんが同情されるから」とちょっと悪い顔をして笑うきーちゃん。確かにちょっと真ちゃんに同情の声が上がってた。おじいちゃまは「まだ若いし嫁いで来たところで寂しいやろうからアレコレと外野が言わないようにしてる。まだしばらくそっとしてあげて欲しい」とおばあちゃま達があの人に凄んでいる後ろでその場をおさめていた。やだ、やっぱり女優かも。
だから私を連れ出して教えてくれたんだ。私が何のことか分からずに氣になってることをスッキリさせるため。でも真ちゃんを追い詰めないため。
きーちゃんにふと「きーちゃんって良いママになりそうだね」と言ってしまったことを思い出した。あの時もきーちゃんが「ないな」と即答していたのはこんな理由があったからかもしれない。知らなかったとは言え、何て無神経なことを言ってしまったのかと後悔しかない。「きーちゃん、前にさ私も同じようなこと言っちゃた。ごめん」この謝罪は自己満足だと分かっているけど謝りたかった。「そうだっけ?」「うん。今回もこっちでお世話になりたいってお願いした時」きーちゃんは記憶を巻き戻しているようで少し考えた後「あー、そうだね」と言った。「すごく無神経だった。本当ごめんね」「だってねーさん知らなかったやん。知ってて言ったら無神経かもしれないけど、知らなかったんだから仕方ないやん」と笑う。「それにね、私、ちゃんとマハルくんの面倒のお手伝い出来てたってことでしょ?やったねって思っても嫌な氣にはなってないよ」「きーちゃん」「なに?」「もーこの子は何てかわいいのーー」思いっきりハグして頭をぐりぐり撫で回してやった。
「全部お芝居ってわけじゃないで。だって本当に子供が生まれちゃったら真ちゃんお世話するやん。それは嫌だもん。真ちゃんの大事全部私が良いってのは本当に思ってるもん」帰りに「よくあんなにセリフが即興で思い付いたね」と言うとこう返ってきた。「私ね、真ちゃん無しじゃ生きてけない位何にもできないし、本当に私だけ見てて欲しいから思ってること言っただけー」と笑うけども…あー、うん。そう。きーちゃんも真ちゃんに毒されてきた?そんなこと恥ずかしげもなく言わないで。
「あとね、真ちゃんが来てくれたやん。多分前と同じように言ってくれるつもりやったかと思うんだけど、あの人に真ちゃんが「言わないで下さい」って頭下げるのとっても嫌やってん。だからね、若い若いってうるさいから若いうちしか出来なさそうな方が良いなって思ったらああなった」だから使えるの2年って言ったのか。なるほど。きーちゃんってカチンと来ると女優スイッチが入るのね。
けど、強くなったね。言われっぱなしでなくて、ちゃんと真ちゃんを守ったじゃない。真ちゃんだけでなくておばあちゃまも。こうやって私や真ちゃんの事を考えてどうしたらいいか思って。おねーちゃんは嬉しいよ。