Story 82.あるべき姿。

翌朝、旦那に送ってもらい私のみ、きーちゃん達の家に戻るときーちゃんは少し楽になったようでリビングに居た。「兄ちゃん来るってー」ときーちゃん。お披露目の前乗りかと思ったら、少し寄ってすぐに帰るらしい。「外国の人ってお茶菓子何がいいかなー?」ときーちゃん。「いつも通りでええんちゃうん」と真ちゃん。話を聞いてみると、今日はアキちゃんだけでなく今一緒に仕事をしている人も来るとのこと。ってことは、きーちゃん信者の1人かな?と思って聞くけどリトリートには参加していなかった人らしい。いつも送迎の人は居てるけど、実際に誰かが一緒に来るのは初めてだ。たしかに今一緒に仕事をしている人って言ったらその国の人だろうし、悩むね。
昼過ぎにアキちゃん到着。「久しぶりやな。いい子にしとったか?」といつものように登場するから真ちゃんはすかさずきーちゃんをガード。「相変わらず当代さんはきぃに夢中ですなぁ」「何もないですけど、まあゆっくりしていきなさいな」と2人にらみ合い。あなた達も相変わらずですな。「初めましてー。急にごめんなさいねー」と明るい声がした。一緒に仕事してる人って言うからてっきり外国の方かと思ったら違った。私と同世代くらい?若くて真ちゃんくらいかな?
「じゃあ同い年だねー」なんて盛り上がる相手はアキちゃんが連れてきたリサちゃん。黙ってればモデルも出来そうな男前アキちゃんと並んでも絵になるお嬢さんで見惚れるわ。同じ団体に所属していて、アキちゃんの秘書的なことを長いことしているらしい。「旦那さんに会ってみたかったー」とリサちゃんは、旦那不在を聞いて残念がる。帰ってきたら「美女が会いたがってたよ」と言ってやろ。今日はきーちゃんが正式に当代さんになると聞いてお祝いに来たらしい。仕事の都合で今日すぐに帰らなきゃいけないから明日は欠席だとか。アキちゃんと真ちゃんは仲が悪いと思わせておきながら、仕事関係の話だとかで真ちゃんの書斎に行ってしまった。きーちゃんは私たちと女子トークでもするかと思っていたけど、きーちゃんも必要とかで書斎に連れていかれてしまった。初対面な人と2人残されて氣まずいかと思ったけど、同い年だしいろんな趣味が似ていて初めて会った氣がせずに話が盛り上がる。
「どうしても『きぃ』ちゃんに会ってみたくて付いて来ちゃった」とリサちゃん。きーちゃんとは顔見知りなのかと思ったらはじめましてなのだそう。中3でアキちゃんとみんなの居る所に滞在した時もリトリートの時もリサちゃん単独の仕事で不在だったとのこと。「アキってば人使い荒いから。きぃに会うためなら平氣で人に仕事振るんだよねー」それは、何だ、うちのアキちゃんが大変お世話になっております。申し訳ない。
女子トークついでに、色々と氣になっていた事を聞くことにした。なんだかんだでアキちゃんは上手いこと話をはぐらかすから、長年の疑問を解くには良いタイミング。
アキちゃんはきーちゃんが言っていたように数年前から拠点を海外に移して、そしてきーちゃんを自分の居る団体に迎えようとしていた。その頃からリサちゃんはアキちゃんの秘書的なことをしているとのこと。
詳しくは話せないけど、アキちゃん達がいる団体ではアキちゃんをはじめきーちゃんのような感覚や力を持った人が多くいて、希望する人たちが集まり一つのコミュニティを作って生活しているとのこと。リトリートの時、チラッとアキちゃんが『自然崇拝してる』と言っていたし、旦那もある程度の信仰の元集まった人たちって言ってたな。やっぱり多数の人には分からない感覚や力を持つとそっちの方へ行くのかしら。きーちゃんの力を目の当たりにして、きーちゃんへの態度を変えたのも納得だ。その特別な感覚や力を持っていればその団体に入れるのかと言えばそうではなく、メンバーの推薦の上、中心となるメンバーの承認がいるというなかなか大変なことらしい。
「何かの宗教団体?秘密結社?」オカルト好きな血が騒いでしまった。アキちゃんが言っていた『満月の宴』かなり怪しかった。パンピーが想像する秘密結社の儀式だと言われたら納得せざるを得ない雰囲氣だったし、そもそもパンピーには想像できない空氣だった。リサちゃんは私の言葉に大ウケ。「そんな大げさなものじゃないって。秘密結社に似てるかもしれないけど、そこまで厳しいものもないよ」だいたいは親から子へ代々受け継がれるようにその団体に所属しているけど、稀にきーちゃんのように全く縁もゆかりもない人物もやって来るという。もちろん、推薦だとか承認だとか必要だから縁もゆかりもないわけじゃないけど。
「やっぱりね、多数ではないモノを持っている人間が多いから、誰でもどうぞって出来ないのよね。追われ続けた恐怖って言うのかな?それが遺伝子に組み込まれるのかもね」と笑った。団体やコミュニティの中でも生活はしていくことは充分可能ではあるけど、それらは完全に社会から孤立したものではなく、メンバーのほとんどは普通に働いて普通に生きている人ばかりだし黒魔術を連想するような怪しそうな事もしない。ただ、普通の世界で過ごすことが困難である人たちが集まり自分達を否定されることのない場所が団体やコミュニティであるという。「元々は歴史研究的な?学問の研究機関が団体で団体の寮みたいなのがコミュニティ。そんなもん」とあっけらかんと言うリサちゃん。
アキちゃんもお母さんが元々コミュニティに属していて生まれた頃からその団体に所属しているんだけど、11歳の時にお母さんが失踪してしまい父親の居るこっちに引き取られたらしい。本人はそのまま今まで過ごしていたコミュニティで居たかったらしいけど、半ば強引に決められて離れざるを得なかったらしい。リサちゃんも同じで代々コミュニティに属していてアキちゃんとは幼馴染だとか。
きーちゃんはアキちゃんも「みんなの中に居なかった」と言って、孤独だった思いを共有していたようなことを言ってたことがあった。その頃のことかもしれない。11歳の頃って言ってたから、私達が出会った時のきーちゃんとそんなに変わらない時。やっぱりアキちゃんの話はきーちゃんの氣を引くためのでまかせじゃなかったのかもしれない。アキちゃんはその頃の自分と当時のきーちゃんが重ねて見ていたのかもしれない。
アキちゃんとリサちゃんは離れている間もやり取りを続けていて、ある時いきなり自分を団体とコミュニティに戻れるよう推薦貰えないかと聞かれたらしい。アキちゃんは元々団体にもコミュニティにも居たから戻るのは簡単だった。けど、急に戻りたいと言い出したことや、何とかして自分のポジションを上げようと焦っているのに氣付いて秘書として付くようにした。それがかなり際どく無茶をすることがあって何度も止めたし、そんな状態だから敵も作ってしまったから心配した。無茶な行程であってもこっちに戻ると一度は家に戻るというので秘書としてはとても困ったと。「けど『きぃが泣いてたらあかんやろ』って」1日1回は『きぃが…』『きぃは…』ときーちゃんの話をしていたし、きーちゃんから手紙が届くとどんなに忙しい時でも真っ先に開封して嬉しそうに読んでいたそう。
拠点を移して数年してアキちゃんは中心のメンバーとなった。元々アキちゃんはここに所属していたこともあるけど、普通、数年で中心メンバーになるなんて出来ない。それでも、色んな手を使って本当に中心メンバーになってしまった。そして、きーちゃんをコミュニティに迎えたいと言った。中心のメンバーになるまでの間もきーちゃんのことを推薦し続けていたし、中心のメンバーであるアキちゃんが直々に推薦したことできーちゃんを受け入れる許可が下りた。そして、中心のメンバーと一緒にきーちゃんを迎えに来たと。
「アキがあんなに言い続けるしだからきぃだって来たいって言ってるもんだと思ってたけど、断るからびっくりしたよ」きーちゃんの返事を聞いてアキちゃんに何故本人はその意思がないのにずっと推薦を続けていたのかと尋ねた。「どこの誰かと思われながらよりも、歓迎されながら来た方がええやんか」といつものように答えたと言う。
「きーちゃんが断ったことでアキちゃんがマズイことになったりしてない?」何だか色々無茶をしたみたいだし、氣になった。「んーー、大丈夫じゃない?だって本人はずっとあのノリよ?」リサちゃんは秘書だけど、中心のメンバーだけの会合には入れないから詳しくは分からないと言う。けど、アキちゃんの変化は誰よりも分かるから大丈夫だと言った。きっとリサちゃんはアキちゃんのことを想い続けているのかもしれないなとその表情を見て思った。「キリコ、鋭いって言われるでしょ?」と笑うリサちゃん。「意外とこういう話は好物なんで www」そんなわけだからアキちゃんが言い続けるきーちゃんに会ってみたかったと言った。「きぃに振られたからってこっちに来るとは限らないけどねー。でもやっぱりアキを振る女ってどんなのよ?って思うじゃない。あと、真弥も見てみたかった。アキと真逆だよね」うん、そう思う。なので、きーちゃんのことを一緒に暮らしだした頃から大事にして、ある程度成長するまできーちゃんのペースに合わせていたことを教えちゃった。「ばあばが真弥なら安心だって言ってたのが分かる氣がするー」ばあばとはリトリートで出会ったおばあちゃんのことだな。「若いけど本当に大きい人間だったって」おばあちゃんは帰国してから私たちの話をリサちゃんにしていたそう。「キリコの話を聞いる時はもっとおばちゃんなのかと思ったから意外と若くてびっくりしたよ」おばあちゃん、私のことどんな風に話してたのか。その場に居たかったわ。笑
「リサ、お喋りな子は嫌われるでー」とアキちゃんの声がした。「キリコも噂話ばっかしてたら老けるで」と笑う。「じゃあ、明日頑張れな。きぃなら出来るから」いってらっしゃいのハグをして額にキスをするいつもの光景。今日は真ちゃんは止めなかった。「またゆっくり会おうねー」とリサちゃん。2人は迎えの車に乗るとすぐに車を出してしまった。

更に増えた別世界の話に少しボー然としていた。自分の世界では、絶対に交わることのない世界。平均的な人生を歩むこと、別世界な人生を歩むこと。どちらが優れているか幸せなのかは分からないし、別世界がどれだけ大変かも想像すらつかないけど、やっぱり私たちがこうして一緒に居られるのは奇跡的なことかもしれない。やっぱりアキちゃんもきーちゃんの事を大切に思ってたし、貴重な自分の経験や想いを分かち合える人だったんだろう。

「まだ起きてたの?」夜中、喉が渇いて下に降りるとリビングに真ちゃんときーちゃんが居た。「なんか寝られないんだー」テーブルの上には昔私がブレンドしたハーブティをいれていたボトルが置かれている。「これね、ねーさんが何が入ってるか教えてくれたから足してるんだよ」ボトルの隣には分厚い本が置いてある。「これは?」「兄ちゃんが新しく貸してくれたノートだよ」アキちゃんがお母さんや一緒に暮らしていた人たちから受け継いだものが認められているらしい。ここに書いてある内容はきっときーちゃんに役に立つものがあるからと、アキちゃんは帰るたびにきーちゃんに1冊づつ貸していて、きーちゃんはそれを写して持っていると教えてくれた。「翻訳は真ちゃんだけどねー」と笑うきーちゃんはいつものきーちゃんだった。
リサちゃんはアキちゃんのお母さん失踪したって言ってた。一緒に暮らしている時、親元戻るって何度か言ってたけど、それは実は団体やコミュニティに帰っていたそう。そしてお母さんはまだ見つかってないって言ってたよね。そんな大事なものをきーちゃんに「役に立つから」と預ける。やっぱりアキちゃんもきーちゃんのことを氣まぐれだとかじゃなくて、大切に思ってたんだ。
「変なもん置いていったせいで寝られん」と乱雑に本のような分厚いノートのページをめくる真ちゃん。「あかーん、もっと大事にして!破れたらどうするの!これ本当大事なノートやねんで!」このノートの中にハーブのブレンドがあったから、私のあげたものと見比べているらしい。「明日寝坊しちゃダメだから寝なさい。真ちゃんも甘やかして付き合っちゃダメでしょ。2人して寝坊したらどうすんの!」「やっぱりキリコおかんやで」と真ちゃんの笑う声がした。おかんで結構。だから早く寝なさい。

翌朝、言ってた時間より起きてくるのが遅かったら叩き起こしてやろうかと思ったけれど、何とか予定通りに起床。けど、きーちゃんは寝不足が祟り本日の主役だとは思えないほどボケっとしてる。「もうすぐ着付けちゃうの。大丈夫なんか?」と旦那が心配するレベル。「ホラ、何か食べな。途中でまたお腹空いた言うで」と真ちゃんがテーブルに連れて行くけどまだ半分寝てる。子供か。何とかご飯を食べ終えて着替え。着付けの人が来るのかと思ったら、真ちゃんがするらしい。忘れてたけど、この人なんでもするんだった。「だって、どうすればキリエが一番映えるか知ってるの俺やろ?」ときーちゃんのヘアメイクに取り掛かる真ちゃん。言ってろ、嫁バカめ。「そういやさ、なんで真ちゃんってきーちゃんには『ワタシ』でその他大勢には「俺」で一人称変わるの?」数年来の謎をふと思い出した。何故かきーちゃんに対しては『ワタシ』という一人称を使ってるんだよね。「あーー、集中出来んから自分の用意して来い!」と部屋を追い出された。何照れてるのよ。一度氣になりだしたら氣になるじゃん。
「いやーん、かわいいーー!」支度が出来たきーちゃん。真ちゃんの時は振袖を着ていたけど今日は留袖。ぱっつん前髪は健在だけど、まとめた髪がまた可愛い。お化粧もいつものきーちゃんよりは抑えているけど、くるっと長い睫毛が印象的でドーリー感ばっちり。悔しいけど、真ちゃん、自分だけ言うだけあって良く分かってるわぁ。「ねーさん…何だか緊張してきたかも…まだライブのが楽…」どうやらライブと変わらないのでは無いかと思って氣楽にしていたらしいんだけど、着替えが完了してスイッチが入ったらしいきーちゃんは顔面蒼白。そうだ、意外と緊張しぃだった。初めてのライブでも顔面蒼白になってウロウロしてたな。
挨拶の会の前に、また母屋に集まる。前回、私たちは同席するかどうか聞かれたのに今回は当たり前のように案内されてしまった。「やっぱり来たな」聞き覚えのある先生の声がしてホッとした。「って、何で私たちは前なの」その他大勢席できーちゃんの晴れ姿を見るだけで良かったの。「知らんわ。何で聞くねんな」私たちは正面のおばあちゃま達の隣。「何でってきぃちゃんのお父さんお母さんやんか」とおばあちゃまが笑う。いやー、それは自称ででして、こう言った改まった場ではおそらく友人代表くらいのポジションになるのでは無いかと思います。…だとか戸惑っている間に旦那は改まっておじいちゃまおばあちゃまにご挨拶を始めてしまい急いで私も混ざる。
両親ポジションで良いと言われても私たち、どんな意味があって何をしてるか全く分からない庶民ですけど?ただのオカルトやホラー好きの一般人ですけど?旦那に至ってはそういった類は全く興味が無いようですよ?
なんて動揺が治らない間に襖が開き、真ちゃんが姿を現して部屋に入ると一氣に部屋の空氣が変わる。あら、1人なの?きーちゃんは?上座に座って一同へ挨拶する姿は普段のやわらかな真ちゃんからは想像も出来ない。サラッと聞いただけで、詳しくは分からない。けど、私の知っていること、アキちゃんや先生が口にしていた「当代さん」が特別な位置であろうことそれが分かった氣がした。きーちゃんが続いて入って来て、緊張の面持ちで真ちゃんの正面に座った。私まできーちゃんの緊張が伝わって来たかもしれない。氣を紛らわせる為、真ちゃんを見ると少し嬉しそうな顔をしていた。真ちゃんがいつもきーちゃんに向けているような優しい眼差しを向けていることに氣が付いたであろうきーちゃんは、少し微笑んでゆっくり深呼吸した。
私がこの2人に出会わなければ、この目で見ることが無かったであろう光景。部屋にきーちゃんの透る声と外から鳥と虫の声。そして優しい日差し。ほのかな白檀の香り。今はもう慣れたお家が映画を観ているような別世界に変わる。瞬きが出来ないほど見惚れた。
おばあちゃまが立ち上がりきーちゃんの前へ進む。そして、小さな箱を手渡した。きーちゃんが一礼すると、緊張した部屋の空氣が一氣に解けて拍手がおこる。きーちゃんは真ちゃん、おじいちゃまおばあちゃま、そして私たちに礼をして、向きを変えて後ろで見守っていた方々に礼をした。
真ちゃんが立ち上がり一礼。そしてきーちゃんを抱き上げて「おつかれさん」と言うときーちゃんもようやく笑顔を見せて「ちゃんと出来たよー」と真ちゃんに抱きつく。公衆の面前だってば。あなた達もう少し恥じらいってものを覚えた方がいいわよ。そんなフシダラな子に育てた覚えはありませんよ!つい数分前の非日常からいつものバカップルに戻る2人を、「お父さん」の旦那が眉間にシワを寄せた以外はみんな微笑ましく見ていた。
ご挨拶の会は、先程居た方々の他もう少し範囲を広げてお家のお仕事と関係のある方々が呼ばれているらしい。私たちは前回同様ギリギリまできーちゃん達と居ようと思ったけれど、先生と真ちゃんパパに呼ばれて最初から会場へ。ここでもまたまさかのおばあちゃま達の隣。だから、私たちは…と思ったけど、真ちゃんパパが「両親の席は絶対君らやってきぃちゃんが言うとったからな。特別席や」と笑ったのを聞いて大人しく用意された席に座った。「両親やて」と旦那は嬉しそうだった。「どう見てもお父さんじゃない」おじいちゃまおばあちゃまも席に着いて挨拶をする。2人ともとても嬉しそうだった。
前回、真ちゃんが代わる代わる挨拶にやってくるゲストの対応に追われていたけど今回はきーちゃんが追われてる。真ちゃんと並んで挨拶をする姿は、出会った頃よりもずっと大人になった。もしかしたら、アキちゃんの言うように完全に人間から離れた姿がきーちゃんが本当の姿かもしれないときーちゃんに付き添っていた時に感じた。けど、人として生きることを選んだきーちゃん。こうやって古くから続く決して表には出ないけれど重要なお役目を持ったお家に嫁ぎ、ギフトと言われる力を使う。これが今世のきーちゃんのお役目なんだろう。私とは違う世界の、それこそ近寄れないような存在なのかもしれないけど、そんなきーちゃんを在るべき場所へ連れて行くことが私のお役目のひとつだった。そんな氣がした。リトリートでおばあちゃんは「きーちゃんを育て上げた」と言ってくれたのは、きーちゃんが自分の選択で人として生きて、自分の在るべき姿で居られる場所へ帰ると選べたからだろう。今まではきーちゃんを育て導くポジションだったのかもしれないけど、これからはきっと人としてのきーちゃんと対等な友人、人生の先輩として一緒に時を重ねていけるんだろうと思った。きっと、今日できーちゃんは完全に人になったんだろう。だから、これからは同じ人として楽しいこと嬉しいことを共有して体験して行こう。過保護で妹が大好きで仕方ないおねえちゃんなのは変わらないからね。これからもきーちゃんは私のかわいい妹だからね。

「美樹ちゃん、ねーさん、ありがとうね。2人が居なかったら絶対出来なかったよ」会が終わって非日常から日常へ帰る。今日はオーナーのお宅に泊めてもらい翌朝そのまま帰途に着く予定。見送ってくれるきーちゃんが言った。真ちゃんも、おじいちゃまおばあちゃま、先生、真ちゃんパパみんなが見送ってくれるものだからものすごいVIPになった氣分だ。「次はうちの仕事に来てくれる時だね」「うん、楽しみ。ホント氣を付けてね」何日も一緒に居たのに別れ際はやっぱり寂しい。きーちゃんは見えなくなるまでずっと見送ってくれていた。
「いやー疲れたな」旦那が笑う。「なんだろ、庶民にはあの空氣慣れないね」「庶民の嫁に来ていただきまして…」「バカじゃん?私、一生庶民でいいわ」そういや、ふと疑問が浮かぶ。「美樹ってさ、いつから真ちゃんちがこんなお家だって知ってたの?」旦那はホラー番組なんかは完全にエンターテインメントだというスタンスで見ているし、オカルトだとか言った話も「こんなん考える人間の想像力ってすごいなー」なんて感心するレベルでこう言った話は信用していないようだ。だけど、真ちゃんがお家を継ぐだとか今回の会だとか普通に参加しているし、リトリートの時も来ていた人と和やかに話をしてた。「結構前から知ってんで」しかも時々真ちゃんの仕事に付いて行ってたらしい。と言ってもきーちゃんのようにお仕事のお手伝いではなく運転手だとか秘書的な感じだったらしいけど。「そんなの全然知らなかったー!」「言うてへんかったし」言ってよね。2人で出かけてたことあったけど、普通に遊び呆けてるのかと思ってたわ。付いて行ってたことで、お客さんになってもらったり紹介してもらったりと仕事にもかなりメリットがあったと言う。(旦那は車屋さん)「じゃあさ、結構早い間から真ちゃんがきーちゃんのこと好きなの知ってたとか?」私の言葉に旦那は意味深に笑みを浮かべる。この様子なら早いうちに聞いてたな。「そんな話はわざわざせんわ」と笑う。そうなの?そこは女子と男子の違い?あ、でもきーちゃんのお父さんだった時の夢を見たって話をした時に真ちゃんにこれでもかって釘を刺してるって言ってなかった?「ホンマ、キリコはそういうどーでもええ事をよう覚えてるよなー」忘れてと言われること程よく覚えてるってのが私の特技よ。「単に氣になる子がまだ子供だっただけの話やけど、いい大人やったらよく考えて行動せぇよってだけ言うただけやで」ああ、なんだか旦那らしいな。「その他にそんな話はしなかったん?」「きーちゃんがアキラと向こうに行った時くらいちゃう?」中3の頃か。やっぱり真ちゃんの心中は穏やかじゃなかったんだろうな。「じゃあさ、きーちゃんが大人になったのは複雑な心境だった?いつから氣が付いてた?」「キリコさん、ホントそう言う下世話な話好きよね www」「大好物だって言ってるでしょ!」実はあの時、真ちゃんから2人で旅行に行ってくると電話かかって来た時は、一瞬止める為に実家に居たけどダッシュで関西に帰ってやろうかと思った。と笑った。それ、過保護すぎるわ。2人で留守番頼んだんだから諦めなきゃ。きーちゃんに付いたキスマークは帰ってきてすぐに氣が付いていて心臓が止まるかと思ったらしい。お父さんドンマイ。けど、きーちゃんの様子を見てたらそれが上手く作用して落ち着いたようだったし、私達が夜遊びに出かけた時に殴っといたからそれで収めたらしい。あ、やっぱりそこは殴ったんだ。笑てか、そしたら私があの後引っ越すまで色々と心配しなくても良かったんじゃないの。あの時の焦りを返してほしいものだわ。「まあ、浮かれるのは分からんでもないけど、あの時はきーちゃんのがよっぽど大人やったよな w」あ、それ私も思ったよ。きーちゃんの性格的なものもあると思うけど、普段と変わらなかったもんね。オーナーの家に着くまで、出会った頃からのことを思い出していた。ほんの少しの違いで私たちはこんなに強く縁が結ばれることはなかっただろう。普通ではおかしいと言われるかもしれない私達の関係は苦労したことも悩んだこともあったけど、やっぱり私が選んだことは全てが最善であるというのは間違っていないと確信した。

数年前、初めてあの場を体験した。あの時、真ちゃんが別世界の人だと感じて漠然ときーちゃんもその世界が居るべき世界なんだろうと思った。その時は、かわいい妹であり娘が別世界に行ってしまうように感じて寂しく思った。今回の2週間弱で、その予感は当たったと痛感したけれど、前のような寂しさはなく、幸せと成長を願い続けた子があるべき所に行くことが出来たという安心感だけだった。